An indomitable spirit in my heart 作:アイリスさん
(あ‥‥‥この次元は確か‥‥‥)
フェイトが見つめていたモニターの先には、ヴィータとシグナム。『一周目』でフェイトがリンカーコアを奪われた場所だ。エイミィが今度こそ慎重に追跡の準備をしている。
(忍さんは‥‥‥どうしよう)
もう、フェイトにも忍が守護騎士達を逃がしている事は分かっている。その忍は、今日は用があって(デートだが。)不在。
「今度こそ逃がさないよ!」と息巻くエイミィ。今回ばかりはどうしようもない。
(不味い‥‥‥このままだと)
非常に不味い。このままシグナムとヴィータが退却しなければ、局側が追い付いてしまう。それに、あの現場に向かうのは‥‥‥なのはとヴィヴィオ。
「二人とも、準備はオーケー?」
「「はいっ!」」
既になのははバリアジャケット。ヴィヴィオも大人モードになっている。リーゼ姉妹が彼方の次元に居るであろう事は、『一周目』を考えれば予測出来る。
(止めなきゃ‥‥‥行っちゃ駄目だよ、ヴィヴィオ!)
フェイトはそう思った瞬間、全くの無意識にヴィヴィオの傍まで走り、その手を掴む。気付いて驚くヴィヴィオに、涙を浮かべ訴える。
「駄目‥‥‥行っちゃ駄目!」
「‥‥‥え?」
フェイトの突然の行動に、周りも驚く。その行動の意味を理解できるものは、今この場には居ない。
「フェイトちゃん?早くしないとまた逃げられちゃうかも知れないんだよ?」
エイミィも困惑してどうにか説得しようと試みるが、その程度ではフェイトに通じる訳もない。娘を守る母親の心情がこの場で分かりそうなのはリンディくらいだろうが、当然ながらリンディに話せる訳はない。
「なら、代わりに私が行くから!ヴィヴィオは‥‥‥ヴィヴィオは行かせないで!お願い‥‥‥」
遂には我慢しきれずに、涙がフェイトの頬を伝う。
「‥‥‥行かせてやれ」
瞳を閉じて黙っていたクロノが発した一言。「ちょっと、クロノ君!?」と驚くエイミィを他所に、クロノは続ける。
「その代わり、絶対に無理はするな。此方が危険と判断したら、直ぐに撤退させる。良いな、フェイト?」
泣いたまま顔をあげたフェイト。感極まって、更にポロポロと涙を溢しながら、思わずそれを口にした。
「うん、ありがとう‥‥‥『お兄ちゃん』」
フェイト本人は無意識に口にしたので理解していないし、クロノもエイミィもなのはも驚いてはいる。だが、尤も驚愕しているのは、勿論‥‥‥。
(‥‥‥え?『お兄ちゃん』って‥‥‥ママ‥‥‥)
クロノの方を向いているフェイトを見つめ、呆然としているヴィヴィオ。フェイトがクロノを『お兄ちゃん』と呼ぶ理由など、1つしか思い当たらない。
(やっぱり‥‥‥私の知ってるフェイトママなんじゃ‥‥‥)
ヴィヴィオがそうして驚き見つめている隣。笑顔だが青筋を浮かべているエイミィと非常に険しい表情を見せるなのはが、クロノに詰め寄っている。
「クロノ君?フェイトちゃんになんて事言わせてるのかな~?」
「クロノ君!私のフェイトちゃんに変な事教えないで!」
掴み掛かっているなのはと、その直ぐ後ろで睨んでいるエイミィ。クロノは必死に「まっ、待て!誤解、誤解だ!」と言い訳している。
「この期に及んで言い訳?駄目だよクロノ君。いくらフェイトちゃんが可愛くても妹プレイさせるなんて。ね、なのはちゃん?」
「そうですね、エイミィさん!いくらクロノ君でも許さない!」
「二人とも、僕がそんな事するように見えるのか!?」
◆◇◆◇◆
なのはとフェイトはそうして出撃。
残されたエイミィ、クロノ、ヴィヴィオだが、その‥‥‥雰囲気が重い。
「おい、エイミィ」
「何かな、クロノ君。今忙しいんだから話し掛けないでくれるかな?」
答えたエイミィの態度には、明らかに怒りが含まれている。蔑むような視線でチラリとクロノを見たエイミィが、直ぐに視線をモニターに戻す。
「エイミィ?」
「‥‥‥気が散るんだけど。後にしてもらえない?」
クロノは仕方無くその場を一時離れ、飲み掛けのペットボトルに口を付ける。フェイトが『お兄ちゃん』と呼んだ理由に全く心当たりが無いだけに、どうしたものか悩む。
「クロノてい‥‥‥執務官」
「ヴィヴィオか。フェイトはどうしてあんな言い方をしたんだろうな。心当たり、無いか?」
手持ちぶたさでクロノの様子を見に来たヴィヴィオに聞いてはみるものの、真実は教えて貰えない。
「えっと‥‥‥分かりません」
「まあ、そうだろうな。参ったな‥‥‥」
と、二人が会話に詰まるタイミングで、二人の目の前にモニターが開く。指示を仰ごうとしたモニター越しのエイミィの表情に、更に怒りが増す。
《へぇ~、フェイトちゃんの次はヴィヴィオちゃんなんだ?そんなに歳下の子が良いのかな?》
「おっ、おい、エイミィ‥‥‥」
《良いんだよ、別に~。そこで暫くデレデレしてればいいんじゃないかな?》
「参ったな‥‥‥」と呟き、腕を組んで悩むクロノ。帰って来たなのはにも下手をすれば全力バスターを見舞われる可能性もあるだけに、何とかエイミィの機嫌だけは直したいところ。
「エイミィの機嫌か‥‥‥何か良い手は無いか?」
「えっと‥‥‥プレゼントとかどうですか?」
ベタと言えばベタ。「それで本当に機嫌が直るのか!?」と半信半疑のクロノ。ヴィヴィオの未来でエイミィと結婚している事など知る由もないクロノには、それが効果的なのかわからない。
「多分、大丈夫だと‥‥‥」とヴィヴィオが口にしたところで、再びエイミィから通信してくる。
《クロノ君、直ぐに来て!フェイトちゃんが!》
二人が慌てて戻ってみると、モニター越しの、シグナムと対峙していたフェイトが明らかに押されていた。既に肩で息をしていて、バリアジャケットも所々破損している。
「フェイト、戻れ!ヴィヴィオに出撃させる!」
フェイトはモニターの方には視線を向けず、歯を食い縛り答えた。
《ハァ、ハァ、ハァ‥‥‥嫌だ》
◆◇◆◇◆
「仲間の言う通りだ。その身体では無駄だ。大人しく退け、テスタロッサ」
「ハァ、ハァ‥‥‥嫌です‥‥‥退けません」
シグナムと対峙するフェイトは痛む身体に鞭を打ち、バルディッシュを構え直す。
「絶対に、退くわけにはいかないんです」
「その身体で対抗するのは無理だ。退け。その心意気は買うが、これ以上は私の騎士道に反する」
既にレヴァンティンを収めているシグナム。フェイトは震える足で何とか踏ん張りつつ、表情を歪め睨む。
「ですがっ!」
「仕方あるまい。これも主の為。許せ、テスタロッサ」
シグナムは瞳を閉じ、レヴァンティンを構える。バシュン、バシュン、とカートリッジを2度炸裂させて、刀身に魔力が溢れる。
「くっ‥‥‥」
「『飛竜‥‥‥一閃!』」
魔力を纏った連結刃がフェイトに向かい伸びて、爆発が起きた。
ヴィヴィオに出撃させまいと身体を張るフェイトちゃんの回。まだすずかから受けた怪我は癒えておらず、シグナム相手に苦戦中。
なのかが戻ってきたら、クロノは無事で済むんでしょうか‥‥‥。