An indomitable spirit in my heart 作:アイリスさん
「『チェーンバインド!』」
アルフの魔力の鎖が、なのはの全身に絡み付く。なのははそれに藻掻き、抵抗はするものの、何かに力を抑えられているらしく、逃れる事は出来ない。
ユーノはレイジングハートをなのはの方に向かって構え、魔法陣を展開して詠唱を始める。
「『妙なる響き、光となれ!赦されざる者を、封印の輪に! ジュエルシード、シリアルⅩⅩ、封印!』」
ユーノのライトグリーンの魔力がなのはを包み、その身体からジュエルシードを引き剥がす。
ジュエルシードは光を失い、菱形の石へと変わる。
「フェイト、大丈夫かい?」
アルフが傷だらけのフェイトに駆け寄る。
「うん‥‥‥何とか」
何とかそう返事を返したフェイトを抱え、ユーノの方に歩くアルフ。
「なぁ、アンタ回復魔法とか使えるかい?」
「うん、使えるけど」
「じゃあ、フェイトを頼むよ。アタシじゃ使えないからさ」
ユーノの傍にフェイトを寝かせる。バリアジャケットが大破していて、今のフェイトはかなり危険な格好になっていて、ユーノは顔を赤くして思わず視線を反らす。
「‥‥‥治療の前にこの子の格好を何とかして欲しいんだけど」
「なんだい、アンタ使い魔だろう?いくらフェイトが可愛いからって色気付いちゃって‥‥‥」
二人の言葉にハッとして、フェイトは自分の姿を確認する。大人だった頃と比べると起伏は少ないが、それでも扇情的な格好になってしまっているのは間違いない。慌てて丸くなって身体を隠す。
「‥‥‥ユーノは人間なんだよ、アルフ。だから、その、恥ずかしいって言うか」
アルフの表情は険しいものに変わり、「オイ、アンタ。フェイトの治療が終わったら噛み殺すからな」とユーノを睨む。
「不可抗力だ!さっきまで僕の言うことは信じなかった癖に」
恐怖しながらも、フェイトに治療を施すユーノ。その様子を見ていたのか、レイジングハートが微かに点滅する。
(あれ?今‥‥‥)
点滅したレイジングハートに気付いたフェイト。彼女にはそれが何故か、なのはが苦笑いしたように感じられた。
そうして漸く動けるようになったフェイトは、未だ意識を失ったままのなのはに駆け寄り、抱き上げる。
「なのは!確りして、なのは!」
「‥‥‥う‥‥‥ん‥‥‥‥‥‥あれ?フェイトちゃん、私‥‥‥」
「もう、大丈夫だから。安心して」
やっと目を覚ましたなのはを抱き締め、涙を流す。ジュエルシードに乗っ取られていた事を説明されて「ありがとう、フェイトちゃん。助けてくれて」と満面の笑みを浮かべるなのはを、フェイトはより一層強く抱き締めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
風呂から上がり、聖王教会にある自室へと歩くヴィヴィオ。
「ヴィヴィオ、明日から4年生やね」
「はい。八神司令、ありがとうございます」
廊下でたまたま会ったはやてと少し立ち話をする。
「ヴィヴィオ、デバイスはどうするんや?DASS、出るんやろ?」
「はい。其れなんですけど、なのはママの、使わせてもらおうと思ってるんです」
「ああ、レイジングハートやね」
二人は遠くを見るような表情に変わる。過去の、なのはやフェイトとの日々を思いだしながら、話を続ける。
「何や、使って無かったんか?」
「はい。まだ、仕舞ったままです」
フェイトが居なくなって、半年。バルディッシュとレイジングハートは、ヴィヴィオの机の奥に仕舞われたまま。当時、見る度に涙が止まらず、辛い思い出を避けるように奥へと仕舞った。
「でも。もう大丈夫です。私なんかまだまだですけど、フェイトママやなのはママに、少しでも近付きたいから」
「うん、そうか。ヴィヴィオ、強くなったな」
笑みを浮かべて、ヴィヴィオの頭を撫でて、「がんばってな?」とその場を後にするはやて。
自室へと戻り、ヴィヴィオはベッドに倒れ込む。
(レイジングハート‥‥‥か)
机の方へと視線をやりつつ、ベッドから身体を起こす。久し振りにその引き出しに手をかけて、奥の小さな宝石箱を取り出した。
(ママ、私、頑張るよ)
フェイトとなのはに思いを馳せつつ、その箱を開けると、ヒビが入ったままのバルディッシュと、キラリと光るレイジングハートの姿。
『久し振りだね、ヴィヴィオ』
何処からか聞こえた声にヴィヴィオは驚き、辺りをキョロキョロと見回すが、誰も居ない。
『こっちだよ、ヴィヴィオ』
まさかと思い、ヴィヴィオはレイジングハートを見つめる。
「レイジングハート‥‥‥?」
『そう。ここだよ。大きくなったね、ヴィヴィオ』
やはりレイジングハートの声だった。しかしそれは、ヴィヴィオの知っている電子音声ではなく、懐かしい、暖かい声。
「どうして‥‥‥どうして、なのはママの声なの?」
ヴィヴィオの質問に『フフッ』と笑いながら答えるレイジングハートは仄かに桜色に光る。
『私が、高町なのは本人だから、って言ったら、ヴィヴィオは信じてくれる?』
まるで機械がスイッチを切られたように固まり、停止するヴィヴィオ。『うーん、やっぱり信じて貰えないかぁ』と悩むレイジングハートの姿が視界に入り、フリーズから解ける。
「本当に、本当になのはママなの!?」
『うん。自分ではよく分からないけど。ゆりかごの爆発で意識が飛んで、気付いたらレイジングハートの中に居て。って言っても、今の私は意識だけみたい。レイジングハートになった‥‥‥って言ったらいいのかな?』
驚き、再び固まるヴィヴィオ。其れを見て、『やっぱり、信じられないよね?』と苦笑いをしているであろうレイジングハート。
「信じる‥‥‥信じるから!会いたかった‥‥‥なのはママ‥‥‥!」
その場でポロポロと泣き始めたヴィヴィオを抱き締められないのが悔しいレイジングハート、もといなのはは、ホログラムで自身の、高町なのはの姿を写し出して、話す。
『ごめんね、ヴィヴィオ。一緒に居てあげられなくて』
「ううん、大丈夫だよ、なのはママ。もうずっと一緒だもん」
ホログラムに抱き付こうとして、ヴィヴィオの手は空を切る。更に止めどなく涙が溢れる。
「ねぇ、なのはママ。ママは‥‥‥フェイトママは、何処に居るの?」
『ごめんね、私にも、分からない。でも、フェイトちゃんだもん。きっと、何処かで元気にしてるよ』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(フェイトちゃん、やっぱり私の王子様だ)
なのははベッドの上でゴロゴロと左右に揺れながら、頬を染めてにやける。もう、2回も助けてくれた。幼いながら、なのはは確信を持っていた。
(フェイトちゃんが、私の運命の人なんだ。もっと一緒に居たい、もっと触れていたい‥‥‥)
「う~」と声を出して、先程より一層悶える。
なのはの机の上で、籠の中で眠るユーノの首に掛かるレイジングハートは、そんななのはの様子を、苦笑いで見つめていた。
(『昔の私って、あんなだったっけ‥‥‥』)
◇◆◇◆◇
「なあ、フェイト。最近、おかしくないか?大丈夫かい?」
「え?別に大丈夫だよ?」
とあるマンションの一室。フェイトの様子が、最近少し違う事に不安を覚えているアルフ。アルフの目には、フェイトが急に変わったように見えていた。なんと言うか、最近のフェイトはいい意味で落ち着いている。判断にも、以前迄のような迷いが、オドオドした様子がない。それに、あの『なのは』という少女に妙に拘っている。
だからと言って、目の前のフェイトは偽物でもない。精神リンクもしているし、何よりアルフにフェイトが本物かどうかが分からない訳がない。
「何て言うかさ、フェイトは急に変わったよね?いや、いい意味でだよ?」
「そう‥‥‥かな?」
そんなアルフに返事を返しながらも、フェイトは昼間の事を何度も考えていた。あのままだったら、本来ならなのはにやられていた。なのはがあからさまに何かからの干渉を受けて、あの時どうにか事なきを得たのだ。
(それに‥‥‥あの声。確かに、なのはの声だった)
今の時点では結論は出せない。堂々巡りしていた思考を仕方無く切り換え、フェイトは前回体験したJS事件の時の、自身が関わっていない残り6つのジュエルシードの行方を気にしながら、地図を広げて自身の記憶にある12個の発見場所に印を付けていく。
流石ジュエルシード。正しく願いを叶えてはくれません。
フェイトちゃんの行動は、少しずつ未来に影響を与えていきます。