An indomitable spirit in my heart 作:アイリスさん
「どういう事だよ、シャマル!」
シャマルに掴み掛かるヴィータを、「落ち着け」と諭すシグナム。
「だけどよ、シグナム!」
「ヴィータ、いいから一先ず落ち着け。‥‥‥シャマル、話してもらえるか?」
「それは‥‥‥」と躊躇うシャマル。丁度病室の扉が開き、忍が中から出て来る。忍はシグナム、ヴィータ、ザフィーラの3人を順に見たあと、口を開く。
「その件に関しては、私が説明します」
忍は慎重に話していく。フェイトと未来の事は出来る限り伏せて、はやての容態の事や夜天の書の防衛プログラムの暴走の事、その書き換えの方法等々。
「‥‥‥それを信じろ、と?」
腕を組んで壁に寄り掛かり聞いていたシグナムが、睨むようにして忍に視線を向ける。迷いなく「ええ」と頷いた忍に、ヴィータが掴み掛かる。
「ふざけんな!管理局の言うことなんか信じられるか!そうやって騙して、はやてを殺すつもりなんだろ!」
怒りに任せて捲し立てるヴィータを、今度はシャマルが抑える。「離せよ!なんでだよ、シャマル!」と喚くヴィータを後ろから羽交い締めにしながら、シャマルは静かに話す。
「忍さんの言ってる事は本当よ。このまま魔力を集め切っても、はやてちゃんが夜天の書に取り込まれずに覚醒しなきゃ駄目なの」
「ふざけんなよ!何で黙ってたんだよ、シャマル!」
尚も怒りの治まらないヴィータとは違い、暫し考え込んでいたシグナムが組んでいた腕を下ろす。多少合点がいったらしい。
「成る程。それなら今までの蒐集し切った後の記憶が無いのも頷けない事も無い。シャマル、月村、信じていいんだな?」
シャマルと忍がコクリ、と同時に頷く。
「ならば月村、再三逃走の手引きをして貰った礼を言わねばならないようだ」
忍も表情を漸く崩して「シグナム‥‥‥お気に為さらず」と笑みを洩らす。はやての病室に視線を向け、忍は今後について話し出す。
「それじゃあ、今後は‥‥‥私も行動を共にします。もう余り時間も残っていないでしょう?」
「忍さん、それで本当にいいの?」
心配そうなシャマルに「大丈夫です」と不敵な笑みで答え、忍は続ける。
「私は局員でもないですし。海鳴一帯は元々私の『縄張り』。縄張りの中でどうしようと私の勝手です」
「済まない。主はやての為‥‥‥その力借りるぞ、月村」
此方もやっと笑顔を見せたシグナム。右手を差し出し求めてきた握手に、忍は確りと握って応えた。その直後、今度は鋭い眼差しに変えて廊下の窓から外を睨む。
「‥‥‥と、その前に。先ずは片付けなきゃいけない事が有るわね。はやてちゃんの為にも、誰も欠けさせる訳にはいかないもの」
シャマルが一人その意味を理解し「ええ」と頷く。今一納得出来ていないヴィータが「何をだよ?」と聞いていたそれに、忍とシャマルが声をハモらせる。
「「‥‥‥猫、よ」」
◆◇◆◇◆
管理局本局。ユーノの手伝いからやっと解放されたアリアとロッテが、報告がてらグレアムの元へと歩く。
「やれやれ。あの子の付き添いも楽じゃないね」
「ロッテ、そう言わない。これも全て‥‥‥クライド君の‥‥‥」
拳を握り締め、唇を噛むアリア。立ち止まり、ロッテに声を掛けようとした処で、後ろから呼び止められる。
「こんにちは、お二人とも」
「お前‥‥‥教会のガキ‥‥‥!」
気付いて振り向いたアリアだが、瞬間、その手に局の手錠が掛けられた。「なっ‥‥‥!?」と驚き掴み掛かろうとしたロッテを、アリアが制止する。
「駄目だ、ロッテ」
「だって、アリア!」
そうこうしている間に、ロッテにも手錠が嵌められる。「お前‥‥‥!」と今にも噛みつかんばかりの勢いのロッテにも、ヴェロッサは表情を変えない。
「そうだね‥‥‥罪状は公務執行妨害、それから拉致監禁かな?勿論、グレアム提督もだよ」
「ふざけるな!父様は関係ない!」
「そうだよ!これは私とロッテが勝手に計画して実行したんだ!」
納得しないのも尤もなのだろうが、ヴェロッサがそれを意に介する様子は無い。何時も通りの思考を読めない笑顔を見せているまま。
「それじゃ、ちょっと付き合ってもらうよ?‥‥‥聖王教会まで、ね」
◆◇◆◇◆
《‥‥‥って訳ですので、此方は問題ありませんよ。後は上手く行く事を願ってます》
「ありがとう」
ヴェロッサとの通信を終えて、忍は一息つく。そのやり取りの内容に更に驚くヴィータと、変わらず静かに聞いていたシグナム。
「まさか、聖王教会まで巻き込んでいるとはな。月村、お前達の真の狙いは何だ?」
流石に此処までくると怪しい。事情を知って協力するのが忍だけなら兎も角、管理局側の監視をあっさり見破った挙げ句、聖王教会まで忍の側となれば、シグナムも何かしら重大な事が裏に有るような気がしてなら無いのだろう。
「真の狙い‥‥‥ね。強いて言うなら、そうね‥‥‥救いたい人が居るから、かしらね?」
「そうか‥‥‥ならば、深くは聞くまい」
察したのか、シグナムはそれ以上は踏み込んでこない。代わりにヴィータが睨みながら口を開く。
「アタシらと行動するって事は、あの執務官共と敵対するって事だぞ?どうすんだ?」
「そうね‥‥‥暫くは貴女達の所に居候かしらね?」
忍はクスクス、と笑みを溢す。話し終えて病室へと戻り、ベッドで眠るはやてに付き添っていたすずかの隣に座る。
「お姉ちゃん‥‥‥?」
「すずか、いい?此処ではやてちゃん達と会ってるのは、絶対誰にも話しちゃ駄目よ?それから、私は暫く留守にするから。ノエルの言うこと、ちゃんと聞いて大人しくしてるのよ?」
切なそうな表情で何かを言い掛けるすずかだが、途中で止めて、「‥‥‥うん」と寂しそうに頷く。忍は出来る限り優しい笑顔を作ってすずかの頭を撫でる。
「良い子ね。それから、もし私の事で何かあったら、フェイトちゃんを頼りなさい。他のお友達には言っちゃ駄目よ?」
「なのはちゃんやアリサちゃんにも?」
不思議そうに見上げるすずか。
「そうよ。ごめんね」
「ううん、分かった。お姉ちゃん‥‥‥気を付けてね?」
完全には納得してはいないだろうが、笑顔で頷くすずか。忍は静かに立ち上がり、すずかと手を繋ぐ。
「そろそろ帰りましょうか?」
「うん、お姉ちゃん」
◆◇◆◇◆
その日の深夜。ハラオウン家兼本部に、アラートが鳴り響く。
「クロノ君、フェイトちゃん、守護騎士を見つけたよ!それから‥‥‥」
モニターを見ているエイミィの元へと駆け寄る、クロノとフェイト。三人は4分割で映っているモニターの一角を見て、驚きを隠せない。
「忍さんが‥‥‥クロノ君!?」
「内通者は忍さんか‥‥‥けど、どうして態々バレるような真似をしたんだ?」
慌てふためいているエイミィと、忍の行動の真意が掴めず悩むクロノ。確かにあのまま隠れて内通していた方が行動しやすかったのは間違い無い。何の意味が有るのか考えているクロノの隣、フェイトにはその意味が理解出来ていた。
(そうか、きっとはやてが倒れたんだ‥‥‥もう時間が無いから、忍さんが‥‥‥)
忍が守護騎士達と行動を開始。同時にフェイト拉致監禁の罪でロッテ、アリアが拘束されて行動不能に。闇の書事件の今後は如何に?