An indomitable spirit in my heart 作:アイリスさん
(きっとはやてが倒れたんだ‥‥‥)
モニターを食い入るように見つめて、唇を噛む。フェイトだって出来る事なら守護騎士達を手伝い、はやての事を助けたい。だが、保護観察処分を受けているフェイトが今それをしたら、今度はきっと実刑。そうなれば間違いなく二度と外には出られない。
ロストロギア『ジュエルシード』の強奪、起動、母親であるプレシアの犯罪幇助、管理外世界への違法渡航と挙げればキリが無い犯罪を、『プレシアからの幼少期からの度重なる虐待、強制』という理由で許されているフェイトには保護観察期間中に犯罪行為には出られない。それが解っているからこそ、忍はフェイトに何も言わずに行動したのだろう。間違ってもフェイトが『闇の書側』に加担する事の無いように。
(忍さん‥‥‥ごめんなさい。私は‥‥‥)
フェイトだって、分かってはいる。はやての事は心配だが、少なくとも此処でゲームオーバーには出来ない。そう、あの未来で、なのはを死の運命から救う迄は。
そんな落ち込んだ様子のフェイトを見兼ねてか、肩にポンッ、とクロノの手が置かれる。
「ショックだろうけど、手段が無い訳じゃない。何とかして見せるさ」
「‥‥‥うん。ありがとう、クロノ」
辛そうな視線はそのままに、無理矢理笑顔を作るフェイト。二人を見ているエイミィが弱冠膨れっ面をしているようにも見えるが、今のフェイトには気にしている余裕は無い。
「あ゛ーっ、逃げちゃったよ。また多重転移してるし。クロノ君が早く対処しないからだよ!」
そう言って明らかに嫉妬の色が見えているエイミィを宥めに「やれやれ」とフェイトの元を離れるクロノを見ながら、フェイトはまだ傷が癒えない重い身体を起こして、弱々しくベッドへと歩いていく。
(行っても会えないだろうけど‥‥‥明日月村家に行ってみよう)
そんな事を考え部屋を出たフェイトの後ろ姿を黙って見送ったリンディが、痴話喧嘩をしているクロノとエイミィに鋭い視線を向けた。
◆◇◆◇◆
翌朝。フェイトは一人月村家へと向かっていた。流石に直接八神家には行けない。忍には会えないだろうが、ノエル辺りに話くらいは聞けるかも知れない、と思っての事だ。
家の門まで来ると、扉が開かれた。どうやらフェイトが来る事を予想していて待っていたようだ。
深呼吸をして、ゆっくりと門を潜る。出迎えてくれたノエルと共に、屋敷の方へと歩く。
「あの、ノエルさん」
「すずか御嬢様がお待ちかねです。詳しい御話はそれからで」
月村家の中庭を無言で歩く二人。屋敷へと入り、すずかの部屋へと通された。
中で待っていたすずかの表情からは、不安の色が窺える。
「‥‥‥フェイトちゃん、あのね‥‥‥お姉ちゃんが」
「すずか、その事なんだけど」
フェイトに答えるように、すずかは続ける。すずかの話だと、やはり忍ははやてに会っていたらしい。しかも、はやては心臓辺りの痛みを訴えて入院したらしい。
「ねえ、フェイトちゃん‥‥‥知ってたの?」
不安そうな表情はそのままに、すずかが核心を突いてくる。フェイトは話すべきか迷ったが、静かに頷く。
「ごめんね、すずか。忍さんを責めないで。‥‥‥巻き込んだのは、私なんだ」
「どういう‥‥‥事?」
すずかは顔をあげ、真っ直ぐな瞳でフェイトを見つめてくる。フェイトは思わず目を逸らせるが、話せる範囲で語る。
「はやては‥‥‥友達なんだ。私にとって大切な、友達。はやてを助ける為に、忍さんは‥‥‥」
「お姉ちゃんがね?『アリサちゃんとなのはちゃんには言っちゃ駄目』って。どうしてアリサちゃんやなのはちゃんには言っちゃいけないの?」
「それは‥‥‥それはね‥‥‥」
フェイトは言い訳を探し目を游がせる。想定していなかった訳ではない。だが、こうして実際にすずかを前にするとやはり戸惑う。すずかもフェイトにとって大切な親友である。その親友に嘘をつかねばならない事に、心苦しさは拭えない。
「あのね、すずか。はやての件は、とても危険なんだ。アリサやなのはを危険な事に巻き込めない。勿論、すずかも。だから‥‥‥解決するまで待って。必ず、忍さんは無事に戻って来るって約束するから」
「‥‥‥うん。わかった。フェイトちゃん、私、お姉ちゃんを信じるから」
真剣な瞳で頷いたすずかを、フェイトは優しく抱き締める。「大丈夫だから。心配ないから」と、フェイトは決意に満ちた表情で囁く。
(勿論なのはも救ってみせる。でも、その前に‥‥‥はやてを助けるんだ。必ず)
◆◇◆◇◆
(八神司令を知ってる‥‥‥?どうして‥‥‥)
その部屋の外。ヴィヴィオは扉に張り付き、密かに話を盗み聞きしていた。
フラフラと立ち上がり、そっと扉を離れる。そのまま貸してもらっている部屋へと戻り、ベッドへとダイブする。
(私達の世界と歴史の違う並行世界だから?それとも‥‥‥やっぱり私のママだから?)
うつ伏せに横になり、ヴィヴィオは顔を埋める。自然に涙が溢れてきて、肩を震わせる。
(ママ‥‥‥なの?それとも、違うの?会いたい‥‥‥会いたいよ‥‥‥ママぁ)
顔を埋めているせいで、声は抑えられてはいる。が、これまで圧し殺してきた寂しさと辛さ、会いたい気持ちが止めどなく溢れてきて、涙は止まらない。
(ママ、何処にいるの?会いたいよ‥‥‥お願い、出てきてよ、ママ‥‥‥)
◆◇◆◇◆
それから。守護騎士達とクロノ達のイタチゴッコが暫く続き、日付は過ぎていった。
「ねえ、フェイトちゃん」
「うん?」
共に下校路を歩く、なのはとフェイト。終業式を終えて、明日からは学校は休み。なのははフェイトにべったりとくっついている。フェイトの怪我も、完全とはいかないが回復している。
「今日は夜予定ある?無かったら‥‥‥ウチに来てくれないかな?」
「‥‥‥うん、良いよ。わかった」とフェイトが答えると、それまで不安そうだったなのはの表情は嬉しそうに変わる。
「絶対、絶対だよ?約束だよ、フェイトちゃん!」
24日。その日が来てしまった。前回の闇の書事件とは違い、なのはははやてとの接触はまだ無い。
(クリスマスイヴ‥‥‥前回と同じなら、今日だ‥‥‥)
闇の書が起動するその日。果してクリスマスパーティーを迎えられるのかは分からない。けれど、止めなくてはならない。
(行かなきゃ。行ってはやてを助けなきゃ)
リーゼ姉妹とグレアム提督が拘束された事はクロノ達から聞いた。罪状は、フェイトに対する拉致監禁。聖王教会が身柄を預かっているらしく、その後の話は降りてきていない。ヴェロッサが巧くやってくれているのだろう。
それ故、前回と同じように動くかは分からない。けれど。
(はやて‥‥‥忍さん。助けに行くから)
とはいえ、如何にしてなのはをはやての病院へと連れ出すか。これ迄一度もはやてと会っていないだけに、どうしたものか決めかねているままだ。
「なのは、あのね?」
「なあに、フェイトちゃん」
決めかねたままでフェイトが話し始めたその時。突然念話が聞こえてくる。
《フェイトちゃん、そこから動かないでね》
《シャマル先生?》
次の瞬間、フェイトの身体にクラールヴィントが絡み付く。フェイトは(そっか)とその意図を察しそれ程驚いていないが、突然の敵襲になのはは驚愕を隠せないようだ。
「フェイトちゃん!今助けるから!」
レイジングハートを握りセットアップしようとしている、目の前のなのは。シャマルがクラールヴィントの先端をフェイトの首筋に突き付けると同時に《ごめんね、フェイトちゃん》と念話をくれる。
《分かってます。大丈夫ですよ、シャマル先生》
《ありがとう。それじゃ、はやてちゃんの所に行きましょう》
念話で話しているのと同時に、なのはには「この子がどうなってもいいの?抵抗せずに此方の言うことを聞きなさい」と凄んでみせるシャマル。なのはも仕方無くレイジングハートから手を放し、シャマルの後を付いていく。
遂にクリスマスイヴに。次回はフェイトがはやてと対面。闇の書事件は終盤へ。