An indomitable spirit in my heart 作:アイリスさん
そうしてフェイトとなのははシャマルに連れられ、病院の屋上へと上がる。其処ではシグナム達、それと少女を乗せた車椅子を押す忍が待っていた。なのはは辛さを押し殺せずに、忍に向かって叫ぶ。
「忍さんっ!どうしてこんな事!」
「‥‥‥ごめんね、なのはちゃん」
答えた忍の表情は優れない。はやてを助ける為とはいえ、なのはを騙し、裏切る形になってしまっている。辛くない訳がない。
その様子にフェイトは居ても立ってもいられなくなって、思わず「忍さん、私は」と声をあげる。‥‥‥だが、フェイトにだけ、その続きを遮るように忍の念話が聞こえてくる。
《駄目よ、フェイトちゃん。それ以上は言っては駄目。貴女は此方側とは一切関わりが無い事にしておかないと》
《でも、忍さん!》
忍の言いたい事は理解は出来る。此処でフェイトが守護騎士達と繋がっているともなれば、極刑とまではいかずとも実刑は免れない。いや、もしかすると極刑も有り得るのかも知れない。なのはを死の運命から救う為にも、ここは我慢すべき、というのは頭では分かっている。分かってはいるが‥‥‥。
《いい?フェイトちゃん。貴女には大切な使命がある。こんなところで終わる訳にはいかないのよ。だから、今は何も言っちゃ駄目》
《‥‥‥はい》
忍の視線から目を逸らし、俯いて答えたフェイトは震える指でスカートの裾を握り、瞳を閉じる。
(‥‥‥ごめんなさい、忍さん)
その二人の念話が終わったのを見計らったように、今度はシグナムが静かに話し始める。その表情は決意に満ちている。
「テスタロッサ、高町なのは。頼みたい事がある。主はやてを、頼む」
ただ一人意味が全く分かっていないのは、なのはだけ。「‥‥‥え?」と突然の事に反応出来ない。忍の押している車椅子に少女が座りスヤスヤと寝息をたてている事にやっと気付いて、なのはは恐る恐る口を開く。
「はやて‥‥‥ちゃんって、その子の事?」
「そうだ。我等の主が目覚める迄の間、お前達で何とか抑えてもらいたい」
シグナムは説明を始めた。闇の書‥‥‥夜天の書の事、はやてが侵食を受けていて此のままでは助からない事、それと、蒐集が間に合わなかった事も。
「‥‥‥じゃ、じゃあ、忍さんははやてちゃんを助ける為に?」
真実を知り驚くなのはに、「そうよ。全部、この子を助ける為」と、忍がその表情を崩しなのはに笑い掛けた後、シグナムに悲しそうな視線を向ける。
「こうするしか、主はやてを救う道は無い。それに、主はやてが夜天の書の真の主になれば、我等も復活できる。心配など必要ない」
微かに口元を緩ませて、シグナムは話す。足りないページの分は、自分達の魔力で補うつもりのようだ。
「シグナム‥‥‥本当に、いいのね?」
「疎いぞ、月村。元より、主はやてが居ない世界になど未練は無い」
シグナムは忍から離れ、ヴィータ、ザフィーラの元へ。今度はシャマルに視線を向ける。
「シャマル、後を頼む」
「ええ」
返事を返したシャマルは硬い表情を変えぬまま、手に持った夜天の書を開く。フェイトが「待って、待ってください!」と悲痛な声をあげるが、シャマルが構う様子は無い。
代わりにシグナムが「テスタロッサ、高町なのは。世話を掛ける」と頭を下げた。
「闇の書の管制人格‥‥‥彼女を止めて、主はやてを目覚めさせてくれ。頼んだ」
「シグナム!」と叫んだフェイトの目の前で、三人のリンカーコアが夜天の書に蒐集される。同時にシグナム達の姿も消えて、代わりに夜天の書が輝き始めた。
◆◇◆◇◆
その頃の、月村邸。
「お願いします!行かせてください、すずかさん!」
「お姉ちゃんと約束したから!『ヴィヴィオちゃんは絶対巻き込まない』って!」
今にも飛び出して行きそうなヴィヴィオにしがみ付いて、行かせんとしているすずかの姿。ヴィヴィオは必死に振り解こうとしてはいるのだが、すずかの力は想像以上で、抜け出せない。
「お願いします!私も‥‥‥私も力になりたいの!忍さんやフェイトマ‥‥‥フェイトさん達だけになんて出来ない!」
‥‥‥と、すずかが突然手を離す。今だ、とばかりに走り出そうとしたヴィヴィオだが、その場から動く事が出来ない。気付けばヴィヴィオはファリンの結界に捕らえられていた。
「それでも、です。ヴィヴィオ樣を屋敷から出さないのが忍お嬢様の意志です」
「ノエルさん‥‥‥」
ファリンの隣にはノエルも居る。ヴィヴィオは二人を見つめた後、最後の最後で力になれない自分に涙を流し、その場に座り込む。
「どうして‥‥‥私だって、私だって力になりたいのに‥‥‥」
ポロポロと涙を溢すヴィヴィオ。ノエルは表情を変えていないが、ファリンの方は居たたまれなくなって辛そうな表情でファリンを見る。
「あの‥‥‥お姉様」
ファリンは視線だけをノエルに向け、その表情を確認した後ヴィヴィオの方を向く。下を向いてフルフルと震えているヴィヴィオに近付いて、「フゥ」っと息を吐く。
「‥‥‥仕方ありませんね。お嬢様の命に背く事になりますが‥‥‥行ってください」
ノエルの言葉と同時に、ヴィヴィオを捕らえていた結界が消える。泣き顔をあげたヴィヴィオにニコリ、と笑みを見せるノエル。
「あ‥‥‥ありがとうございます」
「これだけは約束してください。必ず無事に戻る事。忍お嬢様とすずかお嬢様、それにフェイト樣に決して悲しい思いをさせない事。良いですね、ヴィヴィオ樣?」
「はい」と答え決意の表情で立ち上がったヴィヴィオ。走り出そうとする直前で、ノエルの言葉の不自然さに気付いて止まる。
「あの‥‥‥ノエルさん‥‥‥今のって」
ノエルは答えない。(どうしてフェイトママだけ?まさか‥‥‥)と動揺しているヴィヴィオを「決戦に間に合わなくなります。さあ、早く行ってください」と促すのみ。
「でも‥‥‥お願いしますノエルさん、本当の事、教えてください」
「会えば、きっと分かります。ですから‥‥‥幸運を祈ります、ヴィヴィオ樣」
ヴィヴィオは大きく深呼吸をして、瞳を閉じる。そうして心を一度落ち着かせて、再び瞳を開く。
「分かりました。絶対無事に戻るって約束します。ノエルさん、そうしたら今度こそ本当の事、教えてくださいね」
◆◇◆◇◆
場所は、再び病院の屋上。
「あれが‥‥‥闇の書の管制人格?」
すずかと同じ位の、痺れるような大きさの魔力。目の前のロングの銀髪の女性‥‥‥夜天の書の管制人格に冷や汗を流す忍。
「ええ。あれがリイ‥‥‥いえ、その名前で呼ぶのは避けましょうか」
シャマルも冷や汗が止まらない。こうして敵として対峙するのは初めてだが、改めてその強さを肌で感じる。管制人格は此方を見つめたまま、静かに空に上がる。
『私から離れろ、湖の騎士よ。早く‥‥‥グァァァ!』
腕に纏わり付いている黒い何かが管制人格を覆い、その意識を奪っていく。やがて苦しそうに藻掻いていた管制人格の瞳が闇に染まり、ジロリ、と睨んでくる。
「やっぱり‥‥‥やるしかなさそうね」
忍の手には、弓のように撓っている、まるで悪魔の尻尾のような真っ黒な形の槍、いや、杖と言うべきか。忍が魔力を込めると、杖全体が焔の魔力に包まれ、その先端に長く大きく焔が伸びる。さしずめロングソード‥‥‥焔の剣と言った所か。忍は更に、カードを一枚翻す。
「つまり‥‥‥はやてちゃんが起きる迄粘れって事でしょ?上等じゃない!‥‥‥『禁忌』!」
忍とシャマルが戦闘体制に入ったのを横目で見ながら、フェイトはなのはを手を確りと握る。
「なのは‥‥‥あの子を助けよう‥‥‥絶対に」
「うん‥‥‥勿論だよ、フェイトちゃん」
二人はバリアジャケットに身を包み、足元に魔法陣を展開。デバイスの先端に魔力を集中させていく。フェイトは管制人格を睨み、両手に力を込める。
(待ってて、はやて。今助けるから)
結局蒐集は間に合わず。シャマル、なのは、レー●ァテインとフォーオブア●インドを携えた忍と供に、フェイトはリインフォースと開戦。