An indomitable spirit in my heart   作:アイリスさん

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想いを

「忍さん、大丈夫?」

 

「どうにか大丈夫です‥‥‥化け物ね」

 

心配そうに声を掛けたシャマルに、冷や汗を流しながら答えた忍。3体居た自身の分身は闇の書の管制人格に呆気なくやられて、現在は忍本人のみ。

 

「ほんっと嫌になっちゃう」

 

忍の表情は微かに笑ってはいるが、決して楽しい訳でも余裕な訳でもない。自分との戦力差が有りすぎてもう笑うしかない、といった所。

忍は焔の魔力の杖を握り直し、管制人格を睨む。背中の黒翼を羽ばたかせて突っ込んで行く。

 

管制人格は高速で飛行しながら、忍の焔を二度、三度と正確に弾く。魔法陣が展開されて、多数の雷が忍に降り注ぐ。

 

「フェイトちゃんの魔法ね‥‥‥」

 

瞬間、忍の姿が消えてその上空に現れる。忍の前方に大きな魔法陣が展開されて、数えるのも呆れる‥‥‥空を埋め尽くす程の数の、魔力で構成されたナイフが現れる。

 

「これで‥‥‥足止めくらいにはなるかしら」

 

そのナイフ全てが同時に管制人格へと高速で発射される。管制人格はそのナイフの隙間を縦横無尽に縫うように飛行しなから、忍へと向かってくる。

 

『ア゛ア゛ア゛ア゛っ!』

 

ガキンッと音をたてて、忍の杖の焔と管制人格の左腕の籠手がぶつかる。禍禍しい闇に染まった籠手に押され、杖を持った手を弾かれる。

 

(しまった‥‥‥!)

 

管制人格の追撃が忍に入る直前、「『バスター!』」という叫び声と共に桜色の砲撃が忍の目の前を走る。間一髪難を逃れた忍の元に、治療を終えたなのはが飛行してくる。

 

「大丈夫ですか、忍さん!」

 

「ありがとう、なのはちゃん」

 

大きく飛ばされはしたものの、シールドで防いだらしく管制人格は無傷。忍となのはは互いを見つめ頷き、二手に別れ其々魔法陣を展開し始めた。

 

◇◆◇◆◇

 

「ごめん‥‥‥なさい‥‥‥」

 

「喋っちゃ駄目よ、フェイトちゃん。今は回復に専念して」

 

弱々しく肩で息をしているフェイトは、今はシャマルに抱かれ治癒魔法を受けている最中。離れた上空で忍となのはが奮戦しているのが見えるだけに、歯痒い。

 

悔しさと自身の不甲斐なさに涙が滲むフェイトに、シャマルが敢えて厳しい言葉を掛ける。

 

「フェイトちゃんがそんなでどうするの!なのはちゃんを守るんでしょう!」

 

フェイトは「‥‥‥はい」と返事はしたものの、その声は弱々しく、俯き、涙は止まらない。フェイトのそんな様子に唇を噛んだシャマルが、その後は一言も発せずに治癒を続けている。

 

 

 

それは一瞬の出来事だった。開戦直後の、忍が三体の分身を造り出し、シャマルが魔法陣を展開した当にその時。管制人格の姿が一瞬で消えてなのはとフェイトの後ろに現れて、なのはは蹴り飛ばされて追い討ちにプラズマランサーの雨。フェイトは一瞬でバインドされて動く事すら出来ずに、巨大な魔力の槍の直撃を受けた。バリアジャケットがインパルスフォームだったからまだ良かったものの、もし装甲の薄い真・ソニックフォームだったら助からなかったかも知れない。

 

「少し‥‥‥楽になってきました」

 

身体の痛みも多少だが和らいできた。フェイトは痛みに耐えながらも上体を起こす。

 

「まだ駄目よ」

 

「いいえ、シャマル先生‥‥‥行かせてください。二人の力にならなきゃ」

 

せめて。せめて、二人の手助けくらいにはと立ち上がってはみたものの、バランスを崩してシャマルの方へと倒れ込む。

 

「だから言ったでしょう?フェイトちゃん、お願いだから今は大人しくしてて」

 

再び寝かされたフェイト。なのは達の方を無事を祈りながら見つめていると、ふとある魔力が近付いてくるのを感じる。

 

「この感じ‥‥‥まさかヴィヴィオ?」

 

フェイトの感じた通り、現れたのはヴィヴィオだった。既に大人モードで準備万端のようだ。

 

(ヴィヴィオ‥‥‥どうして‥‥‥どうして来たの?駄目だよ‥‥‥来ちゃ駄目)

 

起き上がって危険に向かうであろうヴィヴィオを止めに行きたい所だが、まだ身体はいうことを聞いてくれない。フェイトが上体を起こす前に此方に気が付いたヴィヴィオの表情から血の気が引いた事は、遠くからでも分かった。

 

口の動きしか見えなかったが、ヴィヴィオは確かに「ママ」と口にしている。暫し驚愕して固まっていたヴィヴィオの表情が、みるみる怒りの色に染まっていく。

 

(駄目だよヴィヴィオ!ヴィヴィオ!)

 

必死に声を張り上げようとしたフェイトよりも早く、シャマルが念話で《駄目よ、ヴィヴィオちゃん!》と止めようとするが、肝心のヴィヴィオには届いていない。

 

◆◇◆◇◆

 

ヴィヴィオはフェイトが倒れシャマルに治療されている姿を見て、完全に頭に血が上ってしまっている。冷静さを失い、右手にありったけの魔力を込めて、怒りの感情に任せて管制人格に突っ込んで行く

 

「よくも‥‥‥よくもママを!うぁぁぁぁっ!!」

 

‥‥‥だが、拳が届く事は無かった。管制人格が魔法陣を展開すると、ヴィヴィオの身体は光に包まれる。

 

「なっ‥‥‥えっ?えっ?」

 

驚いているヴィヴィオの姿が、『吸収』という声と光と共にその場から消える。

 

◆◇◆◇◆

 

「ヴィヴィ‥‥‥オ‥‥‥ヴィヴィオ!」

 

ヴィヴィオが目の前で闇の書に囚われたのを見て、フェイトは叫ぶ。痛む身体に鞭を打つように立ち上がって、管制人格を睨み付ける。

 

「返して‥‥‥ヴィヴィオを返して‥‥‥」

 

我を忘れ、怒りに震え飛び出そうとしたフェイトだが、シャマルのクラールヴィントに拘束されて身動きを封じられる。

 

「シャマル先生、離してください‥‥‥お願い、離して!ヴィヴィオが‥‥‥ヴィヴィオが!」

 

「気持ちは分かるわ。けど、今フェイトちゃんが行っても足手まといになるだけよ!ヴィヴィオちゃんは助け出せるから!今は治療に専念して!」

 

シャマルの言い分は正論。ヴィヴィオは昔のフェイトと同じく、闇の書に囚われただけ。幾らでも助ける方法はある。それに、今のフェイトの状態ではろくに戦えない。力になる所か逆に忍やなのはを危険に晒す事になりかねない。分かってはいるのだ、分かっては。

 

「でも!‥‥‥娘なんです!私の大切な‥‥‥!だから‥‥‥行かせて‥‥‥お願いします‥‥‥」

 

我慢出来ずにポロポロと泣き出したフェイト。シャマルが抱き寄せ、頭を撫でながら静かに囁く。

 

「分かってるわ。でも、あと少し。あと少しだけ我慢して、ね、フェイトちゃん?」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ヴィヴィオが気が付くと、ベッドの上だった。見慣れない部屋の中。

 

(あれ?確か、私‥‥‥)

 

つい先程迄、闇の書の管制人格と睨み合っていた筈。寝惚けていたなんて事は無い。

 

(ここ‥‥‥何処?)

 

ベッドから降りて、部屋から出る。階段を降りて一階のリビングへと入ると、キッチンから鼻歌が聞こえてくる。

 

(え‥‥‥この声って)

 

驚いてキッチンへと走ると、見簿えのある亜麻色の髪をサイドポニーで纏めた後姿。ヴィヴィオの瞳に涙が溢れて、思わずその背中に抱き着いた。

 

「なのはママ!!」

 

振り向きニコリ、と笑顔を見せたのは、着ている服こそ私服だが機動六課当時の姿と寸分変わらぬなのは。

 

『もう、どうしたのヴィヴィオ?ほら、顔洗ったらフェイトちゃん起こしてきて?』

 

「フェイト‥‥‥ママ?」

 

なのはの言葉に思考がついていかない。ポカン、と呆けているヴィヴィオになのはは少し困った表情をしながら続ける。

 

『そうだよ。フェイトちゃんったら、幾ら暫く休みだからって初日からだらけ過ぎなんだから。ヴィヴィオ、お願いね?』

 

「‥‥‥‥‥‥うん!」

 

満面の笑みに変わり、なのはが示した部屋へと走る。そーっと扉を開けると、ベッドに眠っている、ロングの金髪の人物が目に入る。ヴィヴィオの瞳に再び涙が滲む。

 

(ママだ‥‥‥フェイトママだ‥‥‥)

 

嬉しさが込み上げてきて、涙が止まらない。その場で動けず立ち尽くしていたヴィヴィオに、眠っていた人物が気付き起きた。

 

『ふぁぁ‥‥‥おはよう、ヴィヴィオ』

 

「ママ‥‥‥ママぁ!」

 

間違いない。ベッドに眠っていたのは、ヴィヴィオの大好きなフェイト。未来でヴィヴィオと生活していた時と変わらない、大人の姿のフェイト。

 

『どうしたの?なのはの朝ごはん食べに行こう?』

 

「うん‥‥‥うん!」

 

涙はまだ止まらない。フェイトに手を引かれて椅子に座って、なのはと3人で「いただきます!」と声を揃えて朝食を食べる。

 

(フェイトママも居て、なのはママも居て‥‥‥やっと一緒に暮らせる‥‥‥平凡だけど、私が欲しかった幸せ‥‥‥)

 

 

 

 




闇の書に囚われたヴィヴィオと、娘を思うフェイト。
未だ交わらない二人の、戦いの先に有るものとは如何に。


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