An indomitable spirit in my heart 作:アイリスさん
「‥‥‥ママ‥‥‥なんですよね?あの人は!私のママなんですよね!」
掴み掛かったヴィヴィオに、シャマルは俯くのみ。代わりに忍が、ヴィヴィオの問いに答える。ヴィヴィオと視線を合わせず、表情も変えぬまま。
「‥‥‥だとしたら、ヴィヴィオちゃんはどうしたいの?」
ヴィヴィオは迷わない。睨み付けるような視線を忍に送りながら「帰ります!一緒に、未来に!」と、涙を堪えて叫ぶ。
(やっぱりママなんだ‥‥‥帰るんだ‥‥‥ママと帰って、今度こそ一緒に‥‥‥ずっと一緒に‥‥‥)
ポタ、ポタと、頬を伝って落ちる涙。幾らヴィヴィオと言えどまだ10歳の少女。これ以上耐えていられる程強くはない。
今にも声をあげて泣き出しそうになっている所を、急に目の前のシャマルに抱き締められる。
「え‥‥‥シャマル‥‥‥先‥‥‥生?」
「ヴィヴィオちゃん‥‥‥怖い?」
言われて漸く気付いた。ヴィヴィオはガタガタと震えていた。恐怖‥‥‥そう、もしも、『フェイトに拒絶されたら』という恐怖に。
「わた‥‥‥し‥‥‥は」
気付いてしまったら、どうしようもなく怖くなった。今の今まで、フェイトはあくまでもヴィヴィオとは他人として振る舞っている。闇の書の拘束から助けてくれた先程でさえ。受け入れてもらえないかも知れない、いや、それ以前にヴィヴィオの母親と認めてすらくれないかも知れない。
(やだ‥‥‥やだよ、ママ‥‥‥やっと‥‥‥やっと会えたのに)
ボロボロと大粒の涙が溢れ始める。もし、もしもフェイトに否定されたら‥‥‥。
シャマルに優しく抱き締められて、遂に我慢も限界を迎えてその胸の中で泣きじゃくる。もう、二度とあんな思いはしたくない。目の前でなのはを失い、分からないままフェイトも失い。そんな辛すぎる思いは、二度と。
「大丈夫。大丈夫よ、ヴィヴィオちゃん」
慰めてくれるシャマルの言葉も、心には響かない。根拠なんてない事くらい、ヴィヴィオを宥める為だって事くらい分かる。なのはやフェイトと平穏に暮らす未来に辿り着く事が如何に難しいかはシャマルにだって分かっている筈。故に余計に切なくなる。涙は、止まらない。
(ママぁ‥‥‥ママぁ‥‥‥)
そんな思いを抱え大泣きしているヴィヴィオを少し離れて見ている、忍とアミタ。忍は辛そうな視線を二人に送っていた瞳をアミタの方へと睨みつけるように向ける。アミタもそれで忍の言いたい事が分かったらしく、静かな口調で話す。
「残念ながらフェイトさんは連れては行けません。彼女はもうこの時間の人間です。それも、世界の未来を左右する鍵の存在。そんなフェイトさんがこの時間から消えてしまったら、どんな影響があるかわかりません。最悪、未来が消える可能性だってあるんです」
「そう‥‥‥でも、それなら‥‥‥」
忍が言い掛けた言葉を、「すみません」とアミタは遮る。続く言葉は想像できた。『アミタの力でフェイトやなのはを救えないのか』という問いだろう。
「前回こそ介入してしまいましたが、本来私達のような存在が別次元に介入するのはタブーなんです。それも、未来を大きく変えるような行為なら尚更です。本当に‥‥‥ごめんなさい」
隣で、「ハァ‥‥‥」と大きく溜め息をついた忍。その両手はプルプルと震えていて、怒りを必死に抑えているように見える。
「仕方ない、わよね。分かってるわ。貴女にだって立場があるんだもの」
アミタだって、出来る事なら助けたい。世界線が違うと言えど、なのはとフェイト。アミタにとって恩人であり友人である存在の二人。
「本当に‥‥‥すみません」
謝りつつ、忍に深々と頭を下げる。アミタには、謝る理由が三つあった。1つは、先程言った通りに直接フェイトやなのはを救えない事。もう1つは、これまた同様、フェイトをヴィヴィオと一緒に未来に連れて行けない事。そして、最後の1つは‥‥‥忍やシャマル、フェイトの持つ、未来に関する記憶を封鎖しなくてはならない事。
◆◇◆◇◆
目の前の光が収まり、現れたのは騎士甲冑に身を包んだはやて。髪の色は白銀に輝き、リインフォースとユニゾンしている事が伺える。
「手伝うてくれて、ありがとう。私、八神はやてって言います。えっと‥‥‥」
こんな場面でも律儀に自己紹介してくれたはやて。傷だらけながら、なのはは「高町なのはです!」と、ニコリと笑顔を見せる。
「私は、フェイト。フェイト・テスタロッサだよ」
笑顔を作るも、フェイトは何処かぎこちなく挨拶を交わす。フェイトの胸にあるものは、罪悪感。全て上手くいくと信じて疑わないであろう目の前のはやてに対する、リインフォースを助けられない事への。
「あの‥‥‥フェイトちゃん、やったよね?どうかしたんか?何や辛そうやけど、大丈夫?‥‥‥って、えっ?えっ?わっ、私、何かアカン事言うたんやろか!?」
9歳に戻ってから、随分と涙腺が緩んだものだ。フェイトは辛さに我慢出来ずに泣き出してしまっていた。必死に泣き止もうとしても、後から後から涙が溢れてきて止まらない。
(そっか。私ってこんなに弱かったんだな‥‥‥弱くて、泣き虫で、何も出来なくって。なのはやはやてに何時も助けてもらって。だから、今度は私が助けなきゃいけないのに)
涙は止まらない。なのはに頭をポンポン、と撫でられ慰められた事で拍車が掛かって、声をあげて泣き始めてしまった。
なのはの胸に顔を埋め啜り泣くフェイト。そのフェイトを慰めつつも、ニヘラと邪な笑みを垂れ流しているなのは。二人を見て(ああ、成る程な)と、その関係をはやてが何となく察している所へ、アミタと忍とシャマル、それにヴィヴィオが合流。
「はやてちゃん!」
「シャマル、心配かけてごめんな。それから‥‥‥メッ、や」
リインフォースに大体の話を聞いたのだろう。シャマルを見るなりプクッ、と膨れてみせたはやての言いたい事は、痛い程分かる。シャマルが「黙っててごめんなさい」と深々と謝っている隣で、アミタがフェイトの手を引く。なのはは記憶が甦ったらしく、「‥‥‥え?アミタさん?え?え?」と驚きを隠せていない。
「お久し振りです、なのはさん。説明は後で。少し、フェイトさんをお借りします」
「え?あ、はい」
まだ泣き止めないフェイトはその手を引かれ、少し離れ待つヴィヴィオの元へ。「では、後はお二人で」と言ってアミタが離れ、フェイトとヴィヴィオ二人になる。
まだ肩を震わせているフェイトがヴィヴィオに視線を向けると、そこには決意の籠った、しかし悲痛な表情のヴィヴィオ。その頬には、泣き腫らした涙の跡。
「ママ‥‥‥ママ、だよね?やっと見付けた‥‥‥!」
ヴィヴィオの言葉に、フェイトは声が出ない。そんな予感はしていた。が、フェイトにはそれを受け入れる自信がない。
(一度ヴィヴィオを捨てた自分には、きっとそんな資格ない)
俯き目を逸らすフェイト。今の態度でヴィヴィオには充分に伝わってしまっているだろう。だが‥‥‥認める訳にはいかない。なのはの命を救い、ヴィヴィオに幸せな人生を歩ませるその時まで、まだ。
尚もはぐらかそうとするフェイトの様子に、ヴィヴィオはその瞳に涙を一杯に溜めて、声を絞り出す。
「見付かる訳ないよね。こんな所に居るんだもん。あれから‥‥‥1年も探し回ったんだよ?寂しかったんだよ?‥‥‥一緒に、帰ろう?」
フェイトちゃん、遂にヴィヴィオにバレるの回。
次回、いよいよクライマックスです。果たして、ヴィヴィオの、忍の、シャマルの、そしてフェイトの想いは実を結ぶのか、と思わせ振りに続く。
あ、オマケで忍が2枚のスペルカードを借りた時の様子でも書いておきます。
◆◇◆◇◆
~紅●館にて~
メイド長「お久し振りです、忍様」
忍「ええ。貴女も元気だった?」
メイド長「御蔭様で。お話はお伺いしております。お嬢様は生憎外出しておられますが、妹様ならお部屋にいらっしゃいます。それから‥‥‥」チラッ
ファリン「あ、ええと、ファリンと申します。忍御嬢様のメイドをさせて頂いてます」
忍「ああ、この子はね、ノエルの妹なのよ」
メイド長「そういう意味では‥‥‥まあ、良いです。此方へ」ギロリ
ファリン「ヒッ」ビクッ
忍「大丈夫よファリン。彼女は悪い人では無いわ」
コンコン
メイド長「失礼します、妹様。お客様をお連れしました」
吸血鬼の妹「うん、入って入って~」
忍「久し振りね。元気だった?」
吸血鬼の妹「うん!忍も久し振りだねー」
忍「ええ。それで‥‥‥お願いした件なんだけど」
吸血鬼の妹「どうしよっかな~。明日は●●●(普通の魔法使い)が遊んでくれるって言ってたんだよね~。ただで貸すのもなぁ」
メイド長「‥‥‥妹様、初耳なのですが‥‥‥あのコソ泥‥‥‥!」イラッ
忍「う~ん、どうしようかしら」
ファリン「あの‥‥‥この方が妹様なのですか?」
吸血鬼の妹「うん、そうだよ‥‥‥って、へえ」ニヤリ
ファリン「ヒッ」ビクッ
メイド長「‥‥‥妹様!お客様ですよ!」
吸血鬼の妹「貴女‥‥‥あの博●の巫女と同じ力を感じるよ‥‥‥気が変わった。お姉さんが遊んでくれたら、貸しても良いよ?」ギロリ
忍「分かった。でも、私も一緒にでも良いわよね?」
吸血鬼の妹「うん、良いよ。二人とも遊んであげる。だから二人とも‥‥‥壊 れ な い で ね」ゴゴゴゴゴ
ファリン「あの、忍御嬢様‥‥‥ひょっとして私が連れて来られたのって」
忍「ごめんね、ファリン。私一人じゃ相手にならないだろうから‥‥‥防御は頼んだわね?」
ファリン「イヤァァァァア」