An indomitable spirit in my heart 作:アイリスさん
「ごきげんよう、ヴィヴィオ」
「おはよーヴィヴィオ」
「ごきげんよう、二人とも」
何時ものようにコロナ、リオに挨拶を交わしたヴィヴィオがいつもより少しだけ明るい事に気付く二人。
「何か良いことあったの?」
コロナの問いに、ヴィヴィオの表情が和らぐ。「うん、実はね?」と話し始めたのだが、リオの言葉に遮られる。
「あれ?ヴィヴィオの首に掛かってるのって‥‥‥」
「うん。レイジングハートだよ」
笑みを溢しながら話すヴィヴィオに、二人は少し安堵していた。初めてコロナと出会った一年生の時から、ヴィヴィオは元々少し無理しているような節はあった。恐らくはヴィヴィオは、『なのは』の事で心に傷を負っているのを気付かれまいとしていたのだろう。
だが。フェイトが行方不明となってからというもの、ヴィヴィオは明らかに笑顔の回数が減り、悲しげな表情をしている事が多くなった。例え笑ったとしても、心からの笑顔は見られなくなっていた。
だが、二人の目の前のヴィヴィオは、久し振りに嬉しそうな笑みを浮かべている。
『リオちゃんとコロナちゃんだよね?いつもヴィヴィオと仲良くしてくれてありがとう』
そんな二人の目の前で、突然話し始めたレイジングハート。デバイスにしてはやけに人間味のある話し方だし、まるで誰かから声帯を移植してきたかのような声だな、と思っていた二人だが、次のヴィヴィオが発した言葉に驚き、耳を疑った。
「もうっ、なのはママ!ちゃんと紹介したいんだから先に話し始めないでよ!」
『ゴメンゴメン』
ゴメン、という言葉に合わせて、数回桜色に点滅するレイジングハート。少しの間ポカン、としていたリオとコロナは、我に返って同時に口を開いた。
「「なのはママって!?」」
『うん。高町なのはって言います。驚かせちゃってごめんね、二人とも』
またもや先走る『なのは』に、「ちゃんと紹介したかったのに~」とヴィヴィオは少し不貞腐れる。だが、やはりその表情は嬉しそうだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「なあ、フェイト。この地図ってさ、この世界のだよね?」
「うん。この地域の‥‥‥海鳴市のものだよ」
朝。アルフは隅に置かれた地図に目をやる。その地図には18箇所にシリアルナンバーが記してある。
「これってまさか、ジュエルシードのある場所かい?」
「うん。その『予定』の場所。だから、現時点で本当にあるかは分からないよ」
フェイトと『なのは』が知っているのは、あくまでも発動した時にジュエルシードがあった場所。発動日までは、鳥に運ばれるとか、荷物に紛れて移動しているとか、川に流されているとかで移動している可能性もあるため、当日まで待つ事にしている。その為に前回PT事件での発動時の日付も入れてある。
「ふーん‥‥‥って、何でそんな事分かるんだい?それにこれさ、18個しか印がないよ?ジュエルシードはあと19個じゃないのかい?」
「ユーノが一番最初に1つ封印してるんだ。だから、あと18個だよ。それに‥‥‥大体の場所は、母さんが教えてくれたんだよ」
ユーノがなのはと出会う前に1つ封印しているのは、『なのは』から聞いている。それに、今のアルフに未来の事を言っても混乱させるだけだし、信じてもらえないだろう。母であるプレシアは大魔導師だし、このくらい分かる、と言っておけば、それなりに説得力もある。
今はまだ、この時代のなのはに悟られる訳にはいかない。なのはが死ぬ、という未来を確実に変えられる確証が得られるまで、未来から戻ってきた事を誰にも悟られる訳には。
「そっか。あの鬼婆にしては随分と優しいじゃないか。まあ、フェイトの負担が減るんならそれでいいけどさ」
然程気にしていないアルフの様子に、フェイトはホッと一息つく。
(ごめんね、アルフ。まだアルフにも言えないんだ。なのはを、助けるまで。‥‥‥‥‥‥例え私が、身代わりになったとしても)
◆◇◆◇◆
フェイトは昼食を買いに、外へと出ていた。前回のようにジュエルシードが予定とずれて発動する可能性もあるため、一応アルフは昼過ぎ迄探索に出ている。
(取り敢えず、予定では夕方には神社に‥‥‥)
前回の時は、今日の夕方に神社でジュエルシードが発動している。なのはが下校したあとに彼女の安全を確保しつつ、封印を施せばよい。フェイトにとって、犬に寄生した程度のジュエルシードは敵ではない。
(予定通り行けば良いけど)
昨日のようなイレギュラーが無い事を祈りつつ、コンビニでお弁当を購入。
(早く帰って、アルフとお昼をとって、万全の状態でジュエルシードを‥‥‥)
足早に自室へと向かうフェイト。フェイトの願いとは裏腹に、脅威は刻一刻と迫っていた。
◆◇◆◇◆
「別に聖祥小に行くのは構わないけど、レイジングハートってそんなキャラだったっけ?」
その日の下校時刻。現在、ユーノは聖祥小に向かっている。首元に揺れるレイジングハートの急な変化に驚きつつ。
『気まぐれ、かな?なのはの事が気に入っただけだよ』
『なのは』はそう言って誤魔化す。今までのレイジングハートとは明らかに違う。ユーノが不思議に思うのは当然。誤魔化すのも楽ではない。
『ねえ、ユーノ君。なのはの事、どう思ってる?』
急な質問に、ユーノは動揺した。
(どうって言われたら、なのはは可愛い子だし、素直だし)などと『なのは』の質問の意図とは違う事を考え、『ねえ?』と催促されてシドロモドロしている。
『魔法の才能、あると思うんだ』
「そうだね。才能もあるし、これからの管理世界には必要な子だと思うよ。でも‥‥‥無理に巻き込むのは、良くないさ」
動揺しながらも、冷静に答えるユーノ。
『そっかぁ、ユーノ君は、なのはと一緒に居るのは嫌なんだ?成長して、大人になって、気の許せる幼馴染みになったりとか、嫌なんだね?』
「そっ、それは‥‥‥」
『なのは』の悪戯な質問に口ごもるユーノ。そうして雑談をしながら移動していたユーノと『なのは』が校門に到着すると、丁度なのはが出てきた。
「あれ?ユーノ君、迎えに来てくれたの?」
「うん。一応、何があるか分からないからね」
『そうだよ。なのはは魔力がある分、他の人より巻き込まれやすいから』
ユーノと『なのは』の心配にも、なのはは大して気にしていないようだ。‥‥‥否、ある種の確信というか、信じて止まないというか、そういう思考がなのはに安心感をもたらしていた。
「大丈夫だよ!いざとなったらフェイトちゃんが助けに来てくれるもん!」
確かに、過去2回はフェイトが駆け付けてくれた。しかし、次もそうとは限らない。一応前回のPT事件の時のジュエルシードの出現日時は擦り合わせてあるが、その通りになるとは限らない。現に、学校の屋上のジュエルシードは起動日がずれている。
なのはがジュエルシードに遭遇した時に、もし他のジュエルシードが起動し、フェイトがそちらへ封印に向かっている最中だったら、彼女無しで何とかしなくてはいけない。そうなった時に、現在の、この世界との魔力適合がまだのユーノだけでは心許ない。
「フェイトだって、いつも来てくれるとは限らないし、用心に越した事は‥‥‥って、聞いてない‥‥‥」
苦笑いのユーノの言葉は耳に入っていないらしく、なのはは「フェイトちゃん‥‥‥エヘヘ、フェイトちゃん‥‥‥」と何やらブツブツ呟いている。
『なのは?』
「ふえっ!?なっ、なあに?」
『なのは』に呼ばれて漸く自分の世界から戻ってきたなのは。そんな過去の自分の恥ずかしい姿を苦笑いで眺めつつ、『なのは』は注意を促す。
『なのは。フェイトちゃんだって、いつも来てくれるって訳じゃないんだよ?どうしても忙しい時だってあるし、他の場所でジュエルシードが起動してたら来られない訳だし、ね?』
「来てくれるよ!だって、フェイトちゃんは、‥‥‥私の‥‥‥ゴニョゴニョ‥‥‥」
最後の方は小さな声だったので良くは聞き取れなかったが、何やら「王子様」と聞こえた気がする事に飽きれながら、一行は帰り道を歩く。
(『‥‥‥あれ?』)
ジュエルシードの反応が無い事に、『なのは』は疑問を抱いた。前回の時は、神社のジュエルシードがもう少し前の時間に発動している。だが、もう高町家までもう少しの所。
「なのは、ユーノ」
「フェイトちゃん!」
帰り道の途中に、フェイトが立っていた。彼女もジュエルシードの発動を待っていたが、その兆しが無いので『なのは』に確認に来たのだった。
《『なのは』‥‥‥おかしいよ》
フェイトは『なのは』だけに念話を飛ばす。
『フェイトちゃん』
《うん、『なのは』。前回神社で発動した時間をかなり過ぎたけど、その兆候が無い。それどころか、神社周辺にジュエルシードも見当たらないよ》
『前回と発動のタイミングが違う‥‥‥やっぱり、私達のせいかな?』
《分からない。けど》
念話で話す二人。前回と微妙にずれてきている事態に一抹の不安を覚える。
と、難しい顔をしていたフェイトに、なのはが頬を赤らめながら声を掛けた。
「フェイトちゃん、あ、あのね?今度みんなでプールに行くんだけど、フェイトちゃんも一緒に、どうかな?その‥‥‥みんなに紹介したいし‥‥‥」
「いいよ。分かった」
「ホント!?やったぁ!フェイトちゃん、楽しみにしてるね!」
顔を真っ紅に染めて喜ぶなのはに笑顔を向けつつ、フェイトは密かに『なのは』と念話を交わした。
《『なのは』、プールって、例の‥‥‥》
『うん。ジュエルシードが発動した所だね。‥‥‥‥‥‥まさか、ね』
なのはちゃん絶賛暴走中。
神社での発動回避。 プールのあの事件のフラグが立ちました。R-15で収まるか不安‥‥‥