目が醒めたら、“ガルマ・ザビ”だった。
あ…ありのまま今、起こった事を話すぜ!
昨日ベッドに入るときまでは、“おれ”は“三日月・オーガス”だった。
目覚めたら知らない部屋で、鏡に映っていたのは、まだ少年といった年頃の“ガルマ・ザビ”だった。
な…何を言っているのかわからねーと思うが、おれもry――って、一通りポルナレフ状態になってみたけど。
――ん。寝なおそう。
もう一度ベッドに潜り込む。
最近疲れてんだよ。結構いいお歳になってたからさ。だからこんな夢見るんだ。
枕を抱きしめて目を閉じる。
眠りは速やかに――訪れなかった。
「いつまで寝ているの! だらしが無い。さっさと起きなさい!」
勇ましく部屋にふみこんで来たのは、うお、キシリアお姉さま? 随分とお若くていらっしゃる。
短くした赤い髪。すらりと伸びた背は、女性にしては高い。
まだ二十歳そこそこなんだろう。きつい顔立ち。女らしさ、艶めかしさを――あえて隠そうとしてるのかな、勿体ない。
ぽやんと見上げていたら、とうとう布団を引っ剥がされた。
「いい加減にしなさいガルマ! ……ガルマ? お前、具合でも悪いの?」
覗き込んでくる眼差しが、急に心配げに揺れはじめた。あれ、この頃はまだ優しいのか。
記憶にあるキシリア・ザビの印象とは異なり、その瞳には他者を謀る色は見つけられなかった。
伸ばされた手が額に当てられて、熱を探る、その真剣な表情。
くすぐったいような心地で、至近で笑いかければ、キシリア・ザビの暗い鳶色の眼が見開かれた。
「姉さまの手、冷たくて気持ちいい」
「熱があるのよ、ガルマ。いいわ、このまま寝てなさい。いま人を呼ぶから」
放される手を掴んで。
「姉さまが良い」
「甘ったれないで」
ピシャリと反る言葉とは裏腹に、その手が振り払われるようなことはなかった。
案外、甘えられるのに弱いらしい。
ベッドに腰を下ろして、横になるように促してくるから、枕にまた頭を下ろす。
目を閉じるけど、でも、もう眠気は戻ってこなかった。
どうやら夢じゃなさそうだし――え、“三日月”の人生は生き切っちゃったってこと?
ドタバタと山あり谷あり。ジジイになってもなんだか忙しくて、最近ようやく楽隠居のレールを引けたかなーってほくそ笑んでた矢先なんだけど!
やりきった感はあるけど、未練が無いと言ったら嘘になる。
唐突に世界から切り離された寂しさに、幼いこの身が震えた。
だけど、いつだって終わりはこんなものだった気がする。
後進にすべてを託す手筈を整えてて良かったと、そう思い切るべきか。
――…………。
っていうか、この場合のボスってどこにいんのさ?
絶対に居るよね。居ないはずが無いんだ。
まさか、彗星様か?
それやばくね? 今度こそボスがMS乗るの? 乗れるの? ねえ。
でも、彗星様がボスじゃない場合、“ガルマ”の死亡フラグが立っちゃうよね?
ここでも生きるのに難易度高い感じ。ふおお。求むイージーな勝ち組人生!
と、カツコツと硬い足音が近づいてきてる事に気がついた。
廊下だ。なんだろう、ねぼすけガルマを起こしに来るって、今度はお父様だったり?
デギン・ソド・ザビ――ガルマには甘い父親だったもんね。
だけど、予想に反して、扉を開けて入ってきたのは。
「ギレン?」
キシリア姉さまが意外そうな顔をするのも、さもありなん。
あんまり兄弟に関心が無さそうなギレン・ザビが、なんだか難しい表情で立っていた。
――ってボスゥ!?
ひと目でわかったよ。ギレンじゃなくて“ギレン”。
中身ボスだよね‼
対する“ギレン”の方も、目をかっぴらいた“おれ”が誰だか気がついた様子だった。
「“ガルマ”」
「ん」
頷いて見せれば、ふっと息が落ちた。
「熱があるようなの」
キシリア姉さまの言葉に、“ギレン”が眉を上げた。
「そうか。私が診ていよう。お前は父上に知らせてくれ。食堂でやきもきしている」
「そうね。ほら、ガルマ、手を放しなさい」
口調はキツイけど、添えられた手はやんわりと。
そっと放せば、白い指先が髪を優しく梳いていった。
「大人しくしているのよ。――頼むわね、ギレン」
「ああ」
キシリア姉さまが慌ただしく部屋を出ていく。戸口で一瞬、気遣わしげに振り向いて、
「後で様子を見に来るから、ちゃんと寝てなさい」
本当にお優しい。
ニコリと笑って頷けば、ぎこちない微笑みを残して、今度こそ姉さまの姿は戸口の向こうに消えていった。
同時に、“ギレン”がギロリと睨んできた――ん。三白眼って迫力あるね。
「……もう誑かしたのか」
「人聞きの悪い。優しい姉さまに甘えてただけじゃないか」
唇を尖らせれば、フンと鼻を鳴らされる。
ヒドイなぁ。
「で、今度は“ギレン”と“ガルマ”か」
「そうみたいだね――コロニー落とさないんでしょ?」
「当たり前だ。お前だってシャアに謀られる気は…」
「無いよ!」
食い気味に答える――『坊やだからさ』なんて言わせるつもりは無いんだ。
ギレンのあの演説は惜しいけど、命大事!
さて、肝心のシャア・アズナブル――今時分は、まだキャスバル・レム・ダイクンなのかな――は、早々に確保する必要があるよね。
「どうすんの? “ギレン”」
「“ギレンお兄さま”と呼べ。そうだな、今のうちに色々と手を打たねばならんな。ダイクンの妻子は纏めて保護する――ランバ・ラルから落とすか」
三白眼がギラリと光る――うわ。悪そうな顔。
ボス――“ギレン”の頭の中では、あれこれ謀略が展開されてるんだろう。なんかもう、ラスボス感が早くも漂い出してるし。
「そう。じゃあ、おれはザビ家をどーにかするよ。親父と姉貴と、あとはドズル兄貴かな。サスロ兄さんは……どうかなー」
取り敢えず、ザビ家の崩壊は何とかして阻止しようと思うんだけど。
あのガチギレ系次兄とは、上手くやってける未来が見えない。
「お前とは根本から相性悪そうだからな」
だよね。
なんて話してたら、廊下でバタバタと慌ただしい足音が――“ギレン”のそれと違って、これ走ってるよね。
二人で扉に目をやれば、バァン、と、大きな音。
「ガァルマァッ‼」
そしてそれ以上の大音量が。
「ドズル兄さま」
ん。足音から予想はついてたけど、怖い顔は変わらず、でもまだ傷の無い、少し若いドズル兄貴が、ベッドのすぐ横まで駆け込んできた。
「熱を出したと聞いたぞ!」
「ドズル、落ち着け。あまり騒ぐと“ガルマ”の体に障る」
って、嘘だ。おれの体を案じたんじゃなくて、『うるせえ』って思っただけだよね、その顔は。
だけど、ドズル兄貴は素直に受け止めたらしかった。
「おお。すまんギレン兄上。……大丈夫なのか? ガルマ」
潜められた声。ションボリと眉を下げた怖い顔が、ぬぬっと近づいてくる。
その頬に、ペタッと手のひらをくっつけて。
「へーき。心配かけてごめんなさい。ドズル兄さま」
ニコリと笑いかければ、大きな体がふるふると震えた。
「ガルマ、お前は俺と違って体力がないんだから、無理をしてはいかんぞ」
「はい。でも、ぼくもすぐにドズル兄さまみたいに強くなるから!」
「おお、そうか、そうか」
強面がデレデレと崩れて、大きな手が頭に乗った。多分、優しく撫でてるつもりなんだろうけど、首がグルングルン回る。ふおぅ⁉
「ドズル、“ガルマ”の首がもげるぞ!」
“ギレン”が慌てて止めに入ったから、おれの首は守られたけど。
「……ガルマ」
お? さらに誰か来た。
重たい声に顔を向ければ。
「お父さま! 姉さまも!」
おおう、家族勢揃い――じゃないね、サスロ兄さまの姿がないもの。
ベッドから飛び出そうとすれば、
「こら、ガルマ!」
ドズルの手に阻まれた。
「急に動いてはいかん!」
「大人しく寝ていなさい!」
姉さまも慌てて駆け寄ってきて、二人から叱責――だけど、すごく心配そうな声。
「おお。起き上がれるのだな。ガルマ、辛くはないか?」
恰幅が良くて強面で、サングラスのスキンヘッド。並び立てれば子供が怖がりそうな要素ばかりだけど、お父様のこの声の甘さよ。
なるほどね、ガルマ・ザビ、お坊っちゃんに育つはずだよ。御令嬢なみの『蝶よ花よ』だ。
ベッドに腰掛けた父親に、飛びつくように抱きついてみれば、その身が笑いに震えて、ギュッと抱きしめ返された。
「うむ。少し熱いな。寝ていなさい。大丈夫だ、いまサスロが医者を手配している」
大袈裟な。
どーせ、“おれ”が成り代わったことによるショックとか、その辺りで発熱してるんだろうから、大人しくしてたら治るよ、きっと。
不満が顔に出ていたものか。
「ちゃんと診てもらうのだぞ?」
念押しされて、渋々頷いた。
ちらりと“ギレン”に視線を向ければ、呆れたような表情――『誑しめ』と、その唇が動いた。
そりゃそうさ、おれたちの生き残りが掛かってるんだ。味方は多い方が良いだろ。
それに、ガルマの身体が、家族からの愛情を覚えてるんだ。だから、敢えてそう振る舞ってるわけじゃ無い。
ぬるま湯みたいな、真綿で包まれてるみたいな、優しい世界。
これが、あんな風に互いを陥れ、殺し合うような間柄になるなんて――否。そんな事には、もう、させない。
ここで生きていかなきゃならないなら、おれに愛情を注いでくれるこの人達を、“おれ”なりに守るとするよ。
ボスもいるからね。
ゆっくりと寝台に戻されて、横たえられれば、少しの熱っぽさと怠さが。
身体の幼さに意識が引っ張られてる。戻ってきた眠気に逆らわずに目を閉じれば、皆の手で、代わる代わるに頭を、頬を撫でられた。
眠りは、速やかに訪れた。
✜ ✜ ✜
“ギレン”が言うには、ここは“the ORIGIN”に類する時間軸なんだそうな。
時期は、キャスバルとアルテイシアが、地球に脱出する直前といった頃合いだろうと。
それと判断した“ギレン”の動きは、それはもう早かった。
ジオン・ズム・ダイクンが斃れたあと、デギン・ソド・ザビが、政敵であるジンバ・ラルを抑えてムンゾ自治共和国のトップに立つと、“ギレン”は、すぐさまラル家の嫡男ランバと共謀して、ダイクンの妻子(正確には愛人のその子等だけど)を保護した。
テアボロ・マス、出る幕なしである。
“ギレン”の調略は留まるところを知らなかった。
もとのギレンとは違って、デギンパパからの信頼も厚いし、その気性ゆえに反発し合う――むしろ憎み合う弟妹の間を取り持って、見る間にザビ家の権力を拡大していく様は、見事としか言いようがなかった。
家族の情に訴えて内部の崩壊を防ぐのが“ガルマ”なら、理性に働きかけて協力体制を築くのが“ギレン”なんだろう。その上で敵を叩く――確実に。
ザビ家の結束は固く、いまやムンゾは裏で『ザビ帝国』なんて囁かれる程だ。
だけど、ザビ家がダイクンの子供達とその母親を手厚く保護し、決して蔑ろにしていないことも広く知られていたから、表立って非難する者は少なかった。
このあたりは、世論を操るに長けたサビ家の次男――サスロ兄さんの手腕もあるかもね。
ともかく、この時点で、元の物語における“赤い彗星”の歩む道は、大きく改変されていた。
少なくとも、ザビ家が父親の仇と憎まれることは、もう無い。
そのうえ、さらに、ここへきて“ガルマ”の先行きも歪曲されることになるとは。
「お前をダイクンの一家に預けることにした」
唐突に言われ、眼を瞬かせる。
呼び出された部屋には“ギレン”の他に、キシリア姉さまとサスロ兄さんがいた。
――はい?
ダイクンって彗星様のファミリーだよね? なんで、おれがそんなとこに預けられるのさ?
元の物語にそんなエピソードの存在はございませんでしたががが?
咄嗟に返事ができずに、口をパクパク開閉する。
視線の先で、キシリア姉さまが気遣わしげに眉を下げたけど、その唇は厳しくギュッと結ばれたままだった。
「お前の甘ったれた性分を矯正するためだ」
サスロ兄さんがフンと鼻を鳴らす。
元のガルマにしろ、おれにしろ、この兄との相性はどうにも宜しくなかった。
むしろおれになった分、余計にキレられるような気がしなくもない。
目障りな弟を遠ざけることが嬉しいんだろう。小さな目の奥には愉悦――だけど同時に、微かに案じる色が。
清々しつつ心配するって、ホントに器用だよね。まあ、散々文句言いながらチョコレートくれる人だしな、サスロ兄さんってば。そーゆーとこはキライじゃないよ。
「お前もサビ家の男なら、それに相応しくあらねばならぬ。だが、この家に居てはそれは身に付かぬだろう」
残念なことにな、と首を振る“ギレン”だけど。ちょっと待って、絶対に真意は別のところにあるよね?
だって、ザビ家の腹黒さなら、おれ標準装備してるもの。
「お父様とドズル兄様は……」
「父上にはご了承いただく。無論、ドズルにもな」
“ギレン”がシレッと言うけど。
――事後承諾かよ。
だよね。デギンパパ、絶対に反対するもんね。むしろ大激怒しそうなんだけど、大丈夫か?
とりあえず、眼を見開いてウルウルぷるぷるしてみる。参考はどっかのチワワね。
「うッ」と、キシリア姉さまとサスロ兄さんが呻いて目を逸らした。
ん。効果は抜群だ。
その様子に、“ギレン”がギロリと睨み下ろして来る。
「荷物はもうあちらに揃えてある。不足分があれば新たに揃えよう――すぐに向かうぞ」
否応なく手を取って引き摺られる――うおお、と、たたらを踏めば。
「ギレン兄!」
「ガルマ‼」
思わず、といった体で二人から声があがった。
「甘やかしてはならん!」
☆一徹みたいな厳しい声で“ギレン”が言い放ち、キシリア姉さまとサスロ兄さんがピタリと動きを止める。
凄いな“ギレン”。すっかり掌握してるじゃないか。
戸口から心配そうにおれたちを見送るその姿は、さながらW明子姉さんって感じか。
そして、おれは家を離れて教育を受けることになった。
頑張って“ガルマ”やってるつもりだけど、やっぱり色々とボロが出そうになってるからだって“ギレン”が。
父上も、キシリア姉さまも、サスロ兄さんやドズル兄貴も、毎日バタバタと忙しそうだったから何とか誤魔化せてたけど、ずっとは難しいと判断したみたい。
それなら、いっそ離れてしまえば良いのだって、その考え雑じゃないか?
家を出たことで性格が歪んだことにしようって何だよ。
まあね。性格の違いを誤魔化すのも確かに目的の一つだけど、実のところ、キャスバルも一緒に同じ教育を受けるみたいだから、幼馴染みの枠をキープする狙いの方が大きいんだろう。
搦手の好きな“ギレン”の考えそうなことだった。
そんなこんなで、キャスバルとの顔合わせである。
ジオン・ズム・ダイクンのセレモニーのときにチラリと視線は合ってたけど、それだけだしね。
アチラさんも大変な時期だし、恐らく印象にも残ってないだろうさ。
“ギレン”に手を引かれ、キャスバルとその家族が匿われているフラットへ。
客間に通されたものの、そのまま“ギレン”はどっかに行っちゃったから、物凄く手持ち無沙汰。つか、普通、子供ひとり――頭脳はオトナ!――置いてくかね。
猫脚のソファに腰かけて、ぶらぶらと足を揺らす。
グリーンの濃淡とクリーム色が基調の内装は、柔らかく落ち着いた印象だった。
良い部屋じゃないか。“ギレン”の趣味とは違うけど。アストライアの好みかな。バロック様式を模してるの。
待つこと暫し。
不意に、キィン、と、かき氷をかっ込んだときみたいな痛みが来た。
瞬間、誰かの思考が、視界が交錯する。
頭の芯のあたりに小さなレセプターが発現したみたいな。
繋がってる――自分以外の誰かと。
――なんだこれ???
おれも驚いたけど、相手も滅茶苦茶に動揺してる。
そりゃそうだ、いきなり他人と頭が繋がれば、誰だって冷静じゃ居られないだろう。
ましてや、おれの4日目のカレー(そうとう危険)みたいな脳味噌相手じゃね。
「『誰だ⁉』」
酷く冷たくて、だけど熱くて、潔癖なくらい澄んだ意識と、鋭い声に誰何される。
『君こそ誰さ?』
声には出さず、思考波だけで返して振り向けば、戸口に金髪の天使が居た。
ぱっちりと見開かれた、鮮烈な青い目と視線が合う。
――ふぉう⁉ 彗星様じゃないのさ‼
まだ子供だけど。
「……子供の彗星様ってなんだ?」
「勝手に思考読むなよ。無作法だぞ」
唇を尖らせて抗議すれば。
「勝手に流れ込んでくるから仕方ないだろう。それにとても……グチャグチャでよく分からない」
顔を顰めて言い返された。
「そう。君の思考は整頓されてていいね、腹黒いけど」
「君のほうが無作法じゃないか!」
クールなように見えて実は熱いよね、彗星様。
「おれ――じゃなかった。ぼく、“ガルマ・ザビ”。よろしくね!」
にっこり、と、無邪気に微笑んでみたら。
「お前なんかとよろしくしない」
ツン、と逸らされる顎。
「へえ。キャスバルさまは挨拶もできないのか」
「挑発しても無駄だ」
「挑発? 単なる事実だろ。おれは名乗った。お前は名乗らなかった」
ふふん、と、鼻を鳴らしてやれば、凍るような青の眼差しがギリギリと睨んできた。
それに視線を合わせて、真っ白な子猫が毛を逆立てて威嚇してくる可愛らしいイメージを、直接頭に送信してやる。眼の色はブルーだ。
揶揄の意図に気付いたらしき彗星様は、ニコッと笑った次の瞬間、拳を握った。
「お前なんかやっつけてやる!」
「やれるもんなら? Viens ici. Un mignon petit chaton(来いよ、可愛い仔猫ちゃん)!」
殴られれば、殴り返す。
蹴られれば蹴り返すし、ついでに噛み付く。
子供の体が呪わしい――彗星様の発育の方が早いようで、リーチが不利!
だけどフェイントとかで凌ぎに凌げば、なんとか互角。
あっという間に、お互いにボロボロになった。
「参ったって言え!」
「やなこった!」
彗星様は負けず嫌いらしく、どうあっても降参させたいみたいだけど、生憎、おれも負けず嫌いなんだよ。
大人気ないなんて百も承知。よろしい、ならば戦争だ!
ドタンバタンと大きな物音を立てていれば。
「“ガルマ”ァ‼?」
扉から“ギレン”が飛び込んできたと同時に、スパァアアンッ、と、すんごい良い音が後頭部で鳴った。
――イッターーーーッ!!!?
「殴ったね⁉ お父様にもぶたれたこと(今生では)無いのに!!!」
「いまキャスバルに殴られてただろう!」
「そこはノーカンで」
「ド阿呆‼」
突然始まったザビ家の兄弟の争いを、キャスバルがキョトンとした顔で見ている。
それに気付いて、“ギレン”が今更のように咳払いをした。
「――キャスバル⁉」
次に響いた高い声は、アストライアか。戸口から、またひとり、美しいご婦人が現れた。
「……お母様」
途端に、キャスバルがバツの悪い顔になった。
思考波が乱れてる。
怒られることを案じるより、困らせることを厭っている。なんだ、良い子かよ。
「弟が申し訳ない」
先手必勝とばかりに“ギレン”が謝罪する。後頭部を抑えられて、無理やり頭を下げさせられた。
ええええ、おれがひとり悪者ってこと? 喧嘩両成敗って言葉を知らぬはずもあるまいに。
「喧嘩なんてして! ふたりとも、大きな怪我などしてないかしら?」
お優しいお母様は、おれのことも心配してくれるらしい。
仕方のない子たち、なんて風情の苦笑。それにしても美人だな、と、眺めていれば。
「お母様をジロジロ見るな!」
「キャスバル!」
「美人に目が行くのは男として当然だろ!」
「“ガルマ”ァ!」
こんな感じで、ファーストコンタクトは、お互いに印象の良いものじゃなかった。