ザビ家成り代わり   作:くずみ@ぼっち字書き。

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【成り代わり】another ORIGIN 謀略の"ギレン" 1【転生】

 

 

 

 気がついたら“ギレン・ザビ”だった。

 いや、正確に云えば、やけに立派なデスクについて、書類を手に持っていたわけだが。

 ――書類? 鉄オル世界で紙の書類???

 紙の書籍が高級品で、“書類”はすべてPDF的なものばかりのはずの鉄オル世界で?

 確か、つい今さっきまで、ヴィーンゴールヴの執務室で、タブレット片手にマクギリス・ファリドの仕事を手伝っていたはず――そう、オルガ・イツカ・クジャンとして――だが、これは一体。

 目を擦って、手許の書類にまなざしを落とす――えぇと、何々、“MS計画の進捗に関する報告書”――

「――MS計画だと?」

 ちょっと待て、これはいつの時間軸だ。

 と、

「それは、ドズル大佐からのものですわ。ギレン閣下にご報告まで、と」

 胸の大きな、金髪碧眼の美女――尉官の軍服を着ている、多分、秘書官のようなものだろう――が、そう声をかけてきた。制服は、もちろんジオン軍のものだ。

 ――ビンゴ。

 何が何だかわからないが、鉄オル世界に飛ばされた時と同様、いきなり宇宙世紀に飛ばされたわけだ――しかもこれは、恐らく『the ORIGIN』の時間軸。

 ――しかし、よりにもよってギレン・ザビ。

 いやまぁ、オルガ・イツカに成り代わった時に、宇宙世紀なら誰かなんてことは想像したこともあるけれど。

 正直に云うと、ギレン・ザビは好きではない――嫌いと云うほどでもないが――し、策略謀略は大好きだが、アジテーターの才能が自分にあるとは思われない。

 根本的には、演説するにもロベスピエール型なので、ギレン――仏革命的には恐らくダントンか、あるいはエベール――のような煽り立てる弁舌は持ち合わせがないのだ。

 これは困った。

 まぁ、下手にシャア・アズナブルなんかでなくて良かった――MS操縦に関しては、欠片も自信はない――が、これはこれでナンである。

 とにかく、今の正確な日付を確認せねばなるまい。MS計画云々と云うからには、少なくともまだアイランドイフィッシュは落とされてはいないのだろうし、連邦軍とも揉めてはいないのだろうが、どの時点かによって、取るべき道筋が違ってくるのだから。

 書類を睨んでいると、ノックとともに扉が開き、見たような顔が入室してきた。

「ギレン兄」

「……サスロ」

 入ってきたのは、ザビ家の次男、サスロ・ザビだった。

 ザビ家の兄弟で、実は一番デギン・ソド・ザビに似ているのは、このサスロなのではないかと思う。体格と云い、目つきと云い、これが歳を重ねるとデギンとそっくりになるのは目に見えている。

 ギレンやキシリアも、顔はデギンに似ているが、体型はもう亡い母親に似ているのだろう、割に細めの筋骨型と云うものだ。

 してみると、一番母親似なのはガルマ、性格だけやや似たのがドズルと云うことになるのか――ガルマとドズルに似た女、とは、一体どんな人間だったのだろう。

 つらつら考えていると、

「ギレン! キシリアはどうにかならんのか!」

 デスクを激しく叩かれた。ドズルではないので大丈夫だと思いたいが、後で凹みがないか確認しなくては。

「……どうした」

「どうしたもこうしたも! キシリアの奴、ダイクンの屋敷に、部下を連れて乗りこんだのだ!」

「……ほぅ」

「ジンバ・ラルから、厭味がきたぞ。ラル家が今、ダイクンの遺児たちにべったり張りついていると、わかったくせにあんなことを……!」

 ダイクンの遺児、ジンバ・ラル。なるほど、では今は、ジオン・ズム・ダイクンは死に、その子たちが地球に逃亡する、そのわずかな隙間と云うことか。サスロが生きているなら、ジオン・ズム・ダイクンが突然死してからその葬儀までの、数日のうちいずれかの日なのだろう。確かサスロは、葬儀のその日の車列の中で、爆発物を――多分キシリアに――仕掛けられて、爆死したからだ。

 なるほど、ジオン・ズム・ダイクンの葬儀の前ならば、まだ打てる手はあるはずだ。

「……ふむ。ジンバ・ラルの息子は、確かドズルの麾下だったな?」

 あやふやな“記憶”だが、間違ってはいないようだった。

 サスロは、当惑ったような顔で、

「あ? あぁ……」

 と頷いた。

「よし、ではドズルを呼べ。ラル家に妙な動きをされてはかなわん。まずはランバ・ラルを抑える」

「それでどうするんだ」

「ジンバ・ラルが、ダイクンの遺児をどこかにやらんようにしなくてはな。そして、ザビ家がかれらの後見になる」

「……なるほど、囲いこむのか」

「ジンバ・ラルは、妄念から、余計なことを吹きこむのは目に見えている。ともかくあれから引き離し、ラル家の当主はランバ・ラルに継がせて、ジンバ・ラルは隠居させる」

「それで、ラル家は納得するか?」

「ランバ・ラルに、ダイクンの家族の警護を任せれば良かろう。――あちらは、確か正妻との間に揉めごとがあったはずだ」

 シャア・アズナブルとセイラ・マス――キャスバル・レム・ダイクンとアルテイシア・ソム・ダイクンの母、アストライア・トア・ダイクンは、ジオン・ズム・ダイクンの正式な妻ではなかったはずだ。正妻はローゼルシア、ダイクンと云う家名も、元はこの正妻のもので、ジオンは正妻とその家のバックアップによって活動し、共和国首相の座に昇りつめたはずだ。

「ダイクン家とことを構えるのは得策ではないが、嫉妬に狂った女は、何をやるかわからんからな。あの三人は早々に押さえておきたい。それから、ランバ・ラルも」

「あのジンバ・ラルが、納得するものか!」

「だから、息子を押さえるのだ。息子をそれなりに優遇して、ぐうの音も出ないようにしてやるのだ。わかったら、ドズルを呼べ」

 云うと、サスロは唇を噛んだ。

「わかった――だが、キシリアにはきちんと釘を刺してくれよ」

「わかっている」

 いずれ、地球連邦政府とは対立することになるのだ。その時に、ザビ家の内紛が元で敗北する、などと云うのは困るし、それを“赤い彗星”に助長されても困る。様々な芽は、早め早めに摘んでおくに限る。

 椅子に沈みこみ、ついでに先ほどの“MS計画”の書類を見る。

 概要は、例のMWを戦闘用に、と云うことだが、まだそこに、T.Y.ミノフスキー博士の名はない。

 ――こちらも、早めに勧誘してこないとな……

 ついでに、できればテム・レイと、その息子アムロ・レイも。

 RX-78ガンダムのデザインは連邦軍向きだが、やはりあの技術は欲しい。テム・レイは、ヤシマ財閥下の企業からアナハイム・エレクトロニクスに移籍したようだから、ある程度――つまり、ルウム戦役前のUC0078あたり――にでも、直接声をかけてみるとするか。

 つらつら考えていると、控えめにドアがノックされ、ドズルがのそりと入ってきた。

「兄貴、呼ばれたと聞いたんだが」

「あぁ、ドズル。お前の麾下に、ランバ・ラルがいたはずだな? 確か、少佐で」

「ランバ・ラルは、俺の下ってわけじゃない。まぁ、命令することはできるが……奴が、何か?」

 こちらを伺うまなざし。ドズルは、本当に気の良い男なのだとわかる。

「ランバ・ラルに、お前の命令で、アストライア・トア・ダイクンとその子らの警護を命じろ。ジンバ・ラルが怪しいのでな、早めに手を打ちたい」

「ジンバ・ラルを排除するのか」

「ランバ・ラルにな。あの年寄り、妄言をダイクンの遺児たちに吹きこみかねん。ザビ家がジオンを暗殺したなどとな」

「……もう云ってると思うが」

「わかっている。それをこの辺で止めさせるのと、ダイクン家の手からあの家族を守るのと、二つの理由を告げれば、ランバ・ラルとて納得するだろう。しなければ、私が直接云っても良い」

「兄貴とあいつは合わないと思うぞ」

「合う合わないの話ではない。ともかくやれ」

「……わかった」

 ドズルは、おとなしく出ていった。

 さて、ともかく最初の手は打った。後は、キシリアだが。

「……キシリアは」

 問いかけると、秘書官はどこかへ連絡し、

「キシリア様は、ガルマ様のお部屋へ行かれたそうです」

「ガルマ?」

「はい、朝食の席にお越しにならないとかで、様子を見に行かれたのでしょう」

「なるほど」

「デギン様が、やきもきしておられたとか」

「うむ」

 そうか、ガルマ・ザビがいた。

 と思って、厭な予感に苛まれる。

 このシチュエーションで歳下の男、と云うことは――そして、サスロとドズルがオリジナルのままだった、と考えると――まさかと思いたいが、ガルマ・ザビは“三日月”なのではないか――つまり“ガルマ・ザビ”と云うものなのではないか。

「……ガルマの部屋に行ってくる」

 これは、確認しないわけにはいかなかった。

 勝手のわからない屋敷の中を、うろうろと歩く。足取りがゆっくりなので、まさか迷っているとも思われるまい。

 と、向こうの方から、何やら聞き憶えがなくもない声が響いてきた。あれは、キシリア・ザビのものに間違いない。

 と、云うことは、ここが目的の部屋なのだ。

 ひょいと中を覗きこむと、

「ギレン?」

 間違いなくキシリア・ザビが、驚いたように目を見開いた。

 そして、その奥の寝台に横たわり、目を丸くしてこちらを見るのはガルマ・ザビ、いや、これは間違いなく“ガルマ・ザビ”だ。その間の抜けた顔、造作の割にふやけた表情、間違えるはずがない。

「“ガルマ”」

「ん」

 元“三日月”ですと頷く顔。

 それに、ふと息がこぼれる。

 キシリアが、

「熱があるようなの」

 と云う。なるほど、稀代の策士も、弟には甘いのか――その“弟”の中身を知ったら、キシリアは一体どうするのだろう。

「そうか。私が診ていよう。お前は父上に知らせてくれ。食堂でやきもきしている」

「そうね。ほら、ガルマ、手を放しなさい」

 キシリアは云って、“ガルマ”の手をそっと外させ、なだめるようにその髪を梳いた。

「大人しくしているのよ。――頼むわね、ギレン」

「ああ」

 頷くと、キシリアは背筋を伸ばして退出しかけ、戸口でこちらを振り返った。

「後で様子を見に来るから、ちゃんと寝てなさい」

 云うや、今度こそ食堂へと歩み去る。 

 その後ろ姿を眺め、ふへっと笑う“ガルマ”をじろりと見た。

「……もう誑かしたのか」

 と云うと、唇が尖る。

「人聞きの悪い。優しい姉さまに甘えてただけじゃないか」

 それに、鼻先で笑うしかない。何が“優しい姉さま”だ。

「で、今度は“ギレン”と“ガルマ”か」

「そうみたいだね――コロニー落とさないんでしょ?」

「当たり前だ」

 そんな経済的でなく、人道的でもない作戦に意味はない。

 それよりも、周到に立ち回って、少しでも“ジオン公国”――になるかどうかはまだわからないが――の有利に働くよう、様々なことどもを回さねばならぬ。

 そう、

「お前だってシャアに謀られる気は…」

「無いよ!」

 ――宜しい。

 “ギレン・ザビ”になってしまったからには、仕方がない。アジテーター向きではないのは五万も承知、であるからには、いつものように、謀略と政略で動かして、何とか生き残りを図りたい。

 それから、できれば“赤い彗星”と“白い流星”を、ふたりともこの手の内に。

「どうすんの? “ギレン”」

 “ガルマ”が、いつものように、きょとんとした顔で見上げてきた――“三日月”から“ガルマ”に変わっても、全然まったく印象が変わらない。

「“ギレンお兄さま”と呼べ。そうだな、今のうちに色々と手を打たねばならんな。ダイクンの妻子は纏めて保護する――ランバ・ラルから落とすか」

 まぁ、とりあえず最初の手は打ってある。それが、巧くはまればいいのだが。

「そう。じゃあ、おれはザビ家をどーにかするよ。親父と姉貴と、あとはドズル兄貴かな。サスロ兄さんは……どうかなー」

「お前とは根本から相性悪そうだからな」

 サスロ・ザビは、割合真面目と云うか――“三日月”=“ガルマ”のようなお巫山戯に耐性がなさそうと云うか。要は、煽り耐性が低そうなのだ。“ガルマ”は、とてもガルマ・ザビをそのとおりに演じられるとは思われない――“三日月”にしてからが、ああだ――から、何か合法的な手段で、サスロと“ガルマ”の間を引き離しておかなくては。

 と、廊下からバタバタと慌ただしい足音が聞こえてきた。

 大体想像はつく。これは、アレだ、

「ガァルマァッ‼」

 ――やはり。

「ドズル兄さま」

 食堂で、デギンやキシリアから聞いたと思しきドズルが、弟を案じてやって来たのだ。が。

「熱を出したと聞いたぞ!」

「ドズル、落ち着け。あまり騒ぐと“ガルマ”の身体に障る」

 正直、喧しい。病人がいると聞いてきたのなら、もう少しおとなしく振る舞えないのか。

 云ってやると、ドズルはしゅんとなって肩をすぼめた。

「おお。すまんギレン兄上。……大丈夫なのか? ガルマ」

 声を落とし、“ガルマ”に顔を近づけるようにして、云う。

 “ガルマ”は、ドズルのいかつい、だがまだ傷のない顔に、ぺたりと掌を押し当てた。

「へーき。心配かけてごめんなさい。ドズル兄さま」

 にこりと笑う、本当にこう云うタイプが好きなのだなと思う。

 まぁ、悪い男ではないとは思うのだが、少々謀には向かないタイプだ。まだしもサスロの方がマシだろう――まぁ、一番はもちろんキシリアだ。向こうがこちらと結ぶ気があればの話だが。

「ガルマ、お前は俺と違って体力がないんだから、無理をしてはいかんぞ」

「はい。でも、ぼくもすぐにドズル兄さまみたいに強くなるから!」

「おお、そうか、そうか」

 でれでれとする様は、まさしく『the ORIGIN』のあの好漢そのものだ。

 しかし、相手の体格を考えもせず、大きな掌で頭を撫でくりまわすのはどうなのか。

「ドズル、“ガルマ”の首がもげるぞ!」

 “三日月”、もとい“ガルマ”の頭が、ちょっとあり得ない風に回っている。危ない。

 と、大きな人影が、戸口に立った。

「……ガルマ」

「お父さま! 姉さまも!」

 そこには、デギン・ソド・ザビと、キシリアの姿があった。なるほど、末っ子を溺愛する父親に、引きずられるようにして来たものか。

 演技かどうか、“ガルマ”が喜色を浮かべて起き上がろうとする。

 それを制止したのは、ドズルの大きな掌だった。

「こら、ガルマ!」

「大人しく寝ていなさい!」

 デギンもキシリアも、心配そうな声音である。なるほど、この末っ子には、鉄の女も蕩かされるか。

「おお。起き上がれるのだな。ガルマ、辛くはないか?」

 デギン・ソド・ザビは、知ってはいたが、末子には大甘だった。

 “ガルマ”の額に手を当てて、熱を計る仕種である。

「うむ。少し熱いな。寝ていなさい。大丈夫だ、いまサスロが医者を手配している」

 うむ、甘い。

 確かにガルマ・ザビは体力がなかったはずだが、虚弱と云う記述もなかったはずだ。

 となれば、今“ガルマ”が発熱しているのは、知恵熱とかその類であるのだろうに――まぁしかし、ムンゾ共和国だかジオン共和国だかの要人の息子となれば、万が一を考えるのは当然のことか。

「ちゃんと診てもらうのだぞ?」

 “父親”の言葉に、“ガルマ”は不承不承に頷いた。

 ――誑しめ。

 “昔”から、“ガルマ”は他人の憐れを誘うのが巧かった。こちらは大体強面で、どちらかと云わなくても他人の警戒心を呼び起こしていたので、簡単な対外交渉――まぁ、道を訊くとかその程度のことだ――は“ガルマ”にさせることが多かった。そう云う時などでも、“ガルマ”は相手に車を出させたりするのを、巧く誘導していたように思う。

 あの、他人を動かす力と云うのは、一体どう云うものなのだろう――旧い知己に云わせれば、“それが悪知恵”と云うことになるのだろうが。

 まぁ、あまりぬくぬく生きてきたわけでもないようだったから、大人の庇護を得るために必要な擬態だったのだろう。当人は、そうかわいいものでもないのだし。

 と見る間に、ドズルとキシリアの手によって、“ガルマ”は寝かしつけられてしまった。

 とりあえず、詳しい話はまた今度だ。

 食堂に赴くと、サスロは既にテーブルについていた。

 そのちょうど向かい、デギンの左手前の席につくと、隣りにキシリア、その向かいにドズルがつく。

 朝食は、イングリッシュブレックファストと云うべきものだった。ポーチドエッグ、トースト、ジャムとマーマレード、フレッシュジュースにコーヒー、スコーン、今日はラム肉のパイもある。

「――今日は」

 ひと通り食べたのを見計らい、デギンが口を開いた。

「まずはアストライア・トア・ダイクンを訪ねて、明日の葬儀の手筈を説明せねばならん」

「それに関しては、私とサスロで宜しいですか」

 手を挙げて問うと、“父”は重々しく頷いた。

「うむ、それが良いだろう」

「それから、ダイクン家から、あのお三方を守りたいのですが、その準備をキシリアに任せたいのです」

 云いながら“妹”を見やると、キシリアは、微妙な面持ちながらも頷いてきた。

 デギンは、小首を傾げた。

「あの三人を、と云うが、ジンバ・ラルが抵抗するのではないか」

「そのために、ランバ・ラルに警護を任せます」

「それでラル家は納得するか」

「させなくてはなりません」

 ギレンらしい口調を作る。自分の声をちゃんと聞けないのが残念だ――銀河万丈の声は結構好きなのに。

「連邦政府に対抗するには、ムンゾ共和国内で揉めるなど愚の骨頂。速やかにラル家を懐柔し、ザビ家が主導権を握りつつも、あくまでもダイクンの遺志を継ぐのだと、広く国民に知らしめねばなりません」

 サスロが、微妙に眉をひそめる。サスロとしては、ラル家を完全に蹴落としてしまいたいのだろうが、そうは問屋が卸さない。

 あまりザビ家が権謀術数で他を蹴落とし、一家独裁に持ちこもうとあからさまに動くなら、後々反ザビ家勢力が勃興せぬとも限らない。地球連邦と云う最大の敵がある以上、共和国内では、あまり敵を作らないのが常道ではないか。

「父上、そのあたりは私にお任せ下さい。必ず、良いように計らいます」

 自信ありげに云ってみれば、デギンはやや考えた後、ゆっくりと頷いた。

「宜しい、お前に任せよう。……皆もそれで良いな」

 確認する口調。

 サスロとキシリアはやや不満げだったが、父の言葉に逆らうほどではなかったようだ。ドズルは、反対どころではない。

 デギンは皆の顔を見回して、もう一度頷いた。

「では、宜しく計らえ。ジオンの葬儀で、見苦しいことにならぬようにな」

 

 

 

 食堂を出てすぐに、サスロとキシリアに呼び止められた。

「ギレン、あれはどう云うことだ」

 苛立たしげに云ったのはキシリアだ。

「どう、とは」

「惚けるな、何故私に、ダイクンの遺児たちの住居を手配しろと?」

「……サスロは仕事が早いが、アストライア・トア・ダイクンが落ち着ける環境かどうかは二の次の、警備に重きをおいた物件を手配するだろうと思ってな。その点お前なら、もう少し目端をきかせるだろうと思ったのだが――違ったか」

「……ならば良い」

 キシリアの不満は、女だからと云う理由を持ち出されると思ってのことだったのだろう。流石に、それを口にするほど愚かではない。

 単に人選の問題だと云えば、キシリアは一応納得したようだった。

 さて、問題はサスロの方だ。

「サスロ、お前は納得したのではなかったのか?」

 問うと、

「ギレン兄、俺はザビ家独裁を目指すために、ダイクンの家族を保護するのだと思っていた――他と融和などと、そんなぬるい話は聞いていないぞ!」

「サスロ、ザビ家独裁などと云うものはな、下手にやれば敵を作るばかりなのだ」

 噛んで含めるように云うと、短気な“弟”は、顳顬に青筋を立てた。

「いずれ我らは、地球連邦政府と対峙せねばならんことになるだろう。その時に、他処に噛みつかれるようなことがあっては、内紛の元だ。それで、連邦につけこまれることになっては、戦うに戦えん」

「ザビ家がすべてを統括すれば良い!」

「それができるはずのないことだと、わかっているだろうに」

 ザビ家はわずかに六人しかいない。デギンに兄弟はいないか、いても姉妹のみだったのだろうし、それとても疎遠であるのだろう、1stの後、“ザビ家”と云えばミネバ・ラオ・ザビただ一人だった。

 そうであれば、迂闊な真似をすれば、いずれ味方と思うものたちの中からも、他を担ごうと云うものは出てくるだろう――そう、『UC』のモナハン・バハロが、いとも容易くフル・フロンタルを捨て去ったように。

 ――まぁ、『UC』はどうでもいいんだが……

 主人公サイドをまったく好きではなかったので。

 どのみち、あのラインに辿りつくようには動かさないつもりだ。ザビ家独裁は、鎌倉幕府における北条執権政治のように、滞りなく移行するくらいのつもりでいかなくては――いや、北条氏は三浦や和田などと揉めたことを思えば、あれを見本にするのもどうかと思うが。

 どちらかと云えば、平安朝の藤原北家独裁、あれの方が見本とするには良いだろう。とにかく謀略、そして謀略だ。

「われわれはこの家族しかないのだ。それで独裁など、獅子身中の虫を生み出すことにもなりかねん。それくらいならば、ある程度は他家にも譲りつつ、大事なところを我らが押さえる方が、効率は良かろう。大事を前に、些事で躓くような真似は、私は御免だ」

「だが!」

「良いではないか。残念ながら、ザビ家の見目は麗しくはない。ガルマは、まぁ整っている方ではあるがな。それに較べて、ダイクンの遺児たちの、あの麗しさ! あれをプロパガンダに使わずにおれるものかね」

 早世した父の遺志を継ぐ麗しい子らと、それを見守る慈母。物語をつくり、また描くものどもは、こぞってかれらをモデルにしようと望むだろう。

 それで良いのだ。

「大衆には、わかりやすい“物語”が必要なのだよ、サスロ」

 だからこそ、宇宙世紀の物語において、“赤い彗星”の物語が、幾度も語られてきたのだから。

「……恐ろしいな、ギレン兄……」

 少しばかり引きつった顔で、サスロが笑う。

「そうか? 私は一般論を述べたまでだがな」

 まぁ、本当の本心は、こんなものではないのだし。

「何、つまりは、宇宙を盤にした壮大なチェスだと云うことだ。指し手を見誤らなければ、われわれの勝利もない話ではない」

 あるとは云うことはできないが。

 つまり、“戦いは数だよ兄貴!”と云う、原作のドズルの科白がすべてなのだ。地球連邦は、地球と月、そしてすべてのコロニーをも含んでいる。もしも本当に、連邦から権利を奪い取りたいのであれば、ムンゾだけでは足りない、月や、ルウムなどのすべてのコロニーと同盟を結び、より強い力でもって、連邦政府を協議のテーブルに引きずり出さねばならぬ。そう、鉄オル世界において、クーデリア・藍那・バーンスタインが圏外圏の権利を代表して、ギャラルホルンと条約を取り結んだように。

 だが、宇宙世紀は、鉄オル世界よりもはるかに複雑に組み上がっている。ムンゾのように独立の気運の高まるコロニーもあれば、経済を地球との取引に依存しているが故に、どうしても隷属する立場にならざるを得ないところもあるだろう。サイド7などは、まだ建設途中であり、そもそも民間人もほとんど住んでいないようなコロニーだ。そんなところに、同じテーブルにつけと云ったところで意味はない。

 見極めが必要だ。手を携えることの可能なところかどうか、また、同盟を結んでのちに裏切るようなことがないところかの。

「地球連邦政府は、タヌキ揃いと聞いているからな。どうするにも、慎重にことを運ばねばなるまいよ」

 そのためにも、ニュータイプ理論を唱えてスペースノイドの希望となったジオン・ズム・ダイクンの遺児は、どうしても手放すことのできない駒なのだ。

「ともあれ、アストライア・トア・ダイクンに挨拶に行く。まずはそこからだな」

 そう云えば、サスロはやっと、おとなしく頷いてきた。

 

      ✷ ✷ ✷ ✷ ✷

 

 ジオン・ズム・ダイクンの遺された家族の許を訪れると、案の定そこにはジンバ・ラルがおり、それを宥めようと四苦八苦するランバ・ラルの姿もあった。

「ザビ家のものが! ジオンをよくも殺したな!!」

 などとジンバ・ラルは叫ぶが、これは『the ORIGIN』がベースならば、ジオン・ズム・ダイクンは心臓発作か何か、とにかく病死であるのは確かなことなので、あまりこちらには響いてこなかった。

「それは貴殿の望みであって、事実ではないぞ、ジンバ・ラル」

「何を!」

「そもそも、死者を悼む心があるのなら、遺族の心を波立たせるようなことを、今云うべきではない。そうではないかな」

「父上……」

 ランバ・ラルが、弱りきった顔で父を見た。

 が、もちろん、ジンバ・ラルがそれで態度を変えるはずもない。

 そちらには構わぬことにして、ソファに坐るアストライア・トア・ダイクンの前に進み出て、片膝をつき頭を垂れる。

「この度はお悔やみ申し上げます。――ところで、貴女は保護を必要としてはおられませんか――ローゼルシア様とダイクン家から身を守るために」

 幼いセイラ・マス――アルテイシアを抱きかかえる女性は、はっとしたようにこちらを見た。喪服に身を包み、憂いを帯びた顔をしていても、その美しさは曇ることはない。なるほど、妻のあったジオン・ズム・ダイクンが、こちらを傍に置き、ほとんど正妻も同様に扱っていたのも無理からぬことだろうと思う。

「……ご存知なのですか、ギレン殿」

「小耳に挟んだ程度ですが」

「そうですか……」

「ザビ家は常に、ジオン・ズム・ダイクンの力になってきたと自負しております。そのジオンの遺族であるあなた方を、困難な状況に置くわけには参りません。どうぞ、われわれを頼って戴きたい」

 ふと見ると、アストライアのすぐ横に、よく似た面差しの少年が坐っていて、その鮮やかに青い瞳で、こちらを強く睨みつけていた。

 ――シャアか。

 いや、正確に云えば、“シャア・アズナブル”の名は元々別人のもので、この少年はまだキャスバル・レム・ダイクンなのだ。

 ギレン・ザビは、ザビ家の常として強面だが、それにも怯まず睨みつけてくるあたり、本当に肚が据わった子どもだと思う。

「――ジンバ・ラルは、あなた方が父上を殺したと云うよ」

 こちらを見据えたまま、キャスバルは云った。

「間違いなく病死だ」

 まっすぐ見つめ返し、そう答える。

「考えてもみたまえ、わざわざ疑惑を残すような殺し方を、ザビ家がすると思うかね。もしするならば、われわれに疑いが向かぬように、例えばジンバ・ラルと口論したのを見計らって、かれが殺したかのように見せかけるだろう。殺した上に、自らに疑いの向くような状況を作るなど、愚の骨頂だ」

「詭弁だ!」

 とジンバ・ラルは云うが、本当に殺害するなら、それくらいのことはする。そう、原作でキシリアが、ラル家の仕業に見せかけてサスロを殺害したように。やるならば徹底的に、がザビ家のモットーなのだろうと思う。

「私は、貴殿ほど単純ではないのだよ、ジンバ・ラル殿」

 冷ややかに返せば、キャスバルのまなざしから責めるようないろが薄れたのがわかった。本当に理解が早い。

「私とて、ジオン・ズム・ダイクンの思想には深く共感するところがあった。ご存知のはずだな、わが父が学長を務める大学にダイクンを匿った折、私はここにいる弟サスロとともに、銃を取って見張りの役を買って出たのだ。キャスバル殿が隠れ家で生まれた時、私は学内に入りこんだ警察官たちを見張っていたのだからな」

「――本当に?」

 少年のまなざしが母親に向けられる。白い首が縦に振られるのを見てようやっと、かれはこちらの話を聞こうと云う態度になった。

「……わかった、あなたの話を聞く」

「それはありがたい」

 勧められるままに椅子に腰を下ろすと、視線がちょうどキャスバルと同じ高さになった。

「われわれは、あなた方に、新しく安全な住居を用意することができる。いかなローゼルシア殿と雖も、ザビ家とラル家の目をかいくぐって、あなた方を攫うことは難しいでしょう。もちろん、あの方が御自ら来られたなら、対面を拒否することは難しいかも知れないが、少なくとも拉致されるようなことにはさせません。今、妹のキシリアが、あなた方が住むに相応しい住居を手配しています。国葬が終わったらすぐにでも、そちらに移動して戴きたい」

「――それは、ラルも一緒に?」

 少年の強いまなざしが、こちらを射抜く。

「ランバ・ラルは、今までどおりお側に。かれが、あなた方の警護を担当します」

「ジンバ・ラルは?」

「世迷い言を吹きこんで、ザビ家とラル家の間に不和の種を撒く輩を、そのままにはしておけませんからな、御老体には隠居して戴く」

「な、何をッ!!」

 ジンバ・ラルは喚くが、これはもう決定事項なのだ。

 ジンバ・ラルとの刺々しいやり取りに、アルテイシアが怯えたように身をよじり、母親の肩口に顔を埋めた。

「幸いにして、ラル家には立派なご子息があるではないか。かれに家督を譲られて、ゆるりと余生を全うされよ」

「き、貴様ァッ!!」

「親父!」

 ランバ・ラルが、慌てた様子で袖を引き、父親をこの場から連れ出した。

 それを見やって、小さく息をつく。ランバ・ラルが何とか納得してくれたので良かったが、そうでなければ、どれほどの騒ぎになったものか――原作を知っているだけに、素直に胸を撫で下ろす。

 サスロはと云えば、ラル親子の出ていった扉を睨んで、小さく舌打ちをしている。あまりあからさまな敵意は、聡い親子を怯ませるだけなので、本当に止めてほしいのだが。

「――ともかく、ご安心戴きたい。……そう、私には、ちょうどキャスバル殿と同じ歳の弟がいるのだ。ガルマ・ザビと云う。キャスバル殿ほど優秀ではないが、仲良くしてやって戴けるとありがたいですな」

「――弟」

「そうです。われわれとは歳が離れておりますのでな、どうも甘やかし気味でいけない。キャスバル殿には、同年として、あれに振る舞いを教えて戴きたい」

 そう云うと、少し頬を紅くして、少年はこくりと頷いた。青い瞳が光を湛え、美しく輝いた。

 ――よし。

「……それでは、明日の葬儀の進行についてですが――サスロ」

 促すと、サスロはおもむろに、国葬の流れについて、アストライアに説明をはじめた。

 母親の腕に抱かれたアルテイシアは、退屈そうにもぞもぞしているが、キャスバルはきちんと耳を傾け、内容を理解しようとしているようだ。実際、かなりの部分を理解してもいるのだろう、その瞳に、当惑うようないろは一切見られなかった。

 ――賢い子だ。

 想像以上に聡明な子どもだ。さて、今後それが、吉と出るか凶と出るか。

 興味深いことだと思いながら見つめていると、こちらの視線に気づいたキャスバルがちらりとこちらを見、ほんのりと頬を染めた。

 ――比較的好印象、と云うことかな?

 まぁ、原作のザビ家に較べれば、随分丁寧に扱っているから、間違っても“父の仇”などと復讐の機会を窺われたりはしないだろう。それだけでも、この先を考えれば、充分な成果だ。

 とりあえず、先を考えるのは葬儀の後だ。

 アストライアから特に不満も聞かれず、またランバ・ラルが――ひとりで――戻ってきたのを確かめて、サスロとともにその場を辞した。

 

 

 

 ジオン・ズム・ダイクンの葬儀は、現職の首相に相応しく、しめやかに、かつ荘厳に執り行われた。

 デギン・ソド・ザビは、亡きジオンの盟友として、また共和国首相代行として、葬儀の一切を取り仕切り、その存在感を見せつけるかたちになった。ザビ家を頂点に押し上げたいサスロにとっては、満足のいくことだっただろう。

 キシリアは、自分の立ち位置にそれなりに納得したのかどうか、とにかく葬列での車の爆破、などと云う事態もなく、すべてが無事に終わった時には、こちらがほっと胸を撫で下ろしたほどだった。

 だが、ぐずぐずしていると、ローゼルシア・ダイクンの襲撃がありそうだ。

 それに対応するために、葬儀が終わって早々に、キシリアの手配した物件を確認しに、二人でその邸宅に向かった。

 キシリアが選んだのは、市街地にある広いフラットで、近隣には、政権内の重鎮――もちろんザビ家以外のだ――が数多く入居している一角だった。

 当然、上下はこちらで押さえてあり、警護の人員などがそこに詰めることになる。

 間取りもゆったりとして、調度も中々に品が良く、首相公邸には及ばぬまでも、母親と子ども二人が暮らすには、充分過ぎるほどの作りだと思う。

「既に、使用人も手配してあります。と云っても、公邸に入る前からジオンに仕えていた、腹心と云うべきものたちを引き抜いただけですが」

 ご家族の流儀は弁えているでしょうから、変わらずお過ごし戴けると思います、と云うキシリアは、気持ち誇らしげな顔だった。己の仕事に自信があるのだろう。

 だが、誇るのもむべなるかなと、思わずにはいられなかった。

「流石だな、キシリア」

「ギレン殿にお褒め戴けるとは」

「満足だと伝えるのに、他にどうすると?」

「お珍しい。兄上は、他人の仕事に決して満足なさらぬかと思っておりました」

「称讃すべきは称讃する。当然ではないか」

 “ギレン・ザビ”がどうだったかは知らないが。

「――お前には云っておこう。私は、ガルマをこちらへ入れるつもりだ」

「は?」

 キシリアが、何を云われたのかわからない、と云う様子でこちらを見る。

「ダイクンの家族に、ガルマを預けようと思うのだ」

 繰り返して云うと、キシリアは顔を歪めた。

「それは……ダイクンの家族に近づくものを、あの子に牽制させると云うことですか」

「十を過ぎたくらいの子どもに、それは無理だろう」

 いや、元“三日月”である“ガルマ”の中身は、大概いい歳――いろいろ考えれば、超高齢者――なのだ、やろうと思えばできないことはないだろうが、今の問題はそこではない。

「それよりも、父上がガルマに甘すぎることが気になっていてな。あれでは、後々碌なものにならんだろう。幸い、キャスバル・レム・ダイクンとあれは同い年だ、少し揉まれてくればいいと思ってな」

 原作のガルマ・ザビとはまったく違う、可愛げのない“ガルマ”の性格を、家から引き離すことによって誤魔化したい、と云うのが、最大の理由ではあるのだが。

 キシリアは、眉を寄せた。

「ガルマにはまだ早いでしょう」

「甘やかされて腑抜けになってからでは遅いのだ」

 と云うか、“ガルマ”の性格がバレてからでは遅い。早く家から遠ざけて、“性格が歪んだ”わけを、説明がつけられるようにしなくては。

「……ガルマを、疎んでおられるわけではありますまいな?」

「私がか? 愚問だ」

 まぁ、元のガルマ・ザビならば、苛立ちの対象になった可能性はあるが、“ガルマ”の方はそうではない。

「我が弟には、ザビ家の一員として恥かしくないようにしてもらわねば困るのだ。つまり、いつまでも父上の手に守られていてはならぬと云うことだ」

「それでダイクンの家族とともにすごさせるのだと?」

「同年のキャスバルとともにすごせば、今のように甘やかされてばかりではあるまい。世間に出る前に、適度に揉まれることになる――男兄弟のようなものだ」

「キャスバルと切磋琢磨させるのだとおっしゃる?」

「そうだ」

 その名目でならば、子煩悩――但し、末子に対してだけ――のデギン・ソド・ザビをも云い包めることもできるだろう。

 とにかく、こちらとしては、“ガルマ”がぼろを出す前に、外に出してしまいたい。もちろんDNAなどはガルマ・ザビ本人に違いないから、偽者説が飛び出すことはなかろうが――やれ洗脳だの何だのと、不穏な言葉が飛び出しかねないからだ。

「それに、われわれとしても、ガルマをダイクンの家族とともに置いておけば、こちらに頻繁に顔を出す口実にもなる。一石二鳥と云うものではないかな」

「――流石はギレン殿、深いお考えですな」

 厭味か、と思ったが、キシリアの顔を見ると、そう云うわけでもなさそうだった。

「ともかく、ジンバ・ラルの妄言に、共和国が騙されるようなことがあってはならぬ。ザビ家すべてまとまって、うまく対処してゆかねばな」

「まったくです」

 同意が得られたことに、気を良くする。これならば、デギンが反対しても、“ガルマ”を外に出すことは可能だろう。サスロはもちろん、反対などしないのだろうし。

 ――それにしても……

 一年戦争まであと十一年。

 その間に、共和国の軍備などを、どれほど整えていくことができるのか。

 真面目に考えると、頭が痛くなりそうだ。

 とりあえず、そのあたりはサスロやキシリアを巻きこんで、どうにかするようにしよう。三人寄れば文殊の知恵、だ。

 さて、デギンとドズルを三人で丸めこみ、“ガルマ”はダイクンの遺児たちとともに過ごすことを了承させたわけであるが。

「“ガルマ”ァ‼?」

 かれらの暮らすフラットを訪れ、アストライア・トア・ダイクンと話をしている最中に、客間で騒ぎが起きた。もちろん、“ガルマ”とキャスバル・レム・ダイクンである。

 何がどうしてどうなったかは知らないが、挨拶もそこそこに殴り合いの喧嘩に発展したらしい。どう云うことだ。

 思わず“ガルマ”に駆け寄り…その後頭部を引っ叩く。

 ――まだ引き合わせてもいないのに、どうして殴り合ってるんだ!!

 目一杯の怒りをこめて。

 スパァンといい音をさせた頭を抱え、“ガルマ”がこちらを恨めしげに見る。

「殴ったね⁉ お父様にも殴られたこと無いのに!!!」

 ――それは、ガルマじゃなくてアムロ・レイの科白だ!!

 第一、

「いまキャスバルに殴られてただろう!」

 指摘すると、“ガルマ”は指を立てて、

「そこはノーカンで」

「ド阿呆‼」

 云いながら、“ガルマ”の頭を押さえつける――鉄オル世界のクランク二尉のように。

 ふと気がつくと、キャスバルがやや呆然と、こちらのやり取りを見つめていた。

 ――おっと、拙い。

 “ギレン・ザビ”は、こんなキャラではないはずなのに。

 誤魔化すように、咳払いをする。

 さて、何と話しかけようかと思っていると、

「――キャスバル⁉」

 アストライア・トア・ダイクンが現れた。

 途端に、キャスバルがバツの悪そうな顔になる。

「……お母様」

 まぁ、微妙な立場の母親を思って、これまではおとなしくしていたのだろう。それが、“ガルマ”のせいでべろべろと剥がれてしまったと云うわけか。

「弟が申し訳ない」

 ここは、謝罪しておくに如くはない。“ガルマ”の頭を押さえつけ、無理やり頭を下げさせる。本人は不満そうだが、知ったことか。訪問先でいきなり喧嘩をはじめるのが、全面的に悪い。

 アストライアは、少し困った顔で微笑んだ。 

「喧嘩なんてして! ふたりとも、大きな怪我などしてないかしら?」

 心配そうに云うアストライアを、“ガルマ”が不躾に眺め回す。今絶対に、“美人だ”とか“スタイル良いな”とか“胸大きい”とか思っているのだろう。間違いない。

 ――お前はそう云う奴だ。

 同じことを“ガルマ”のまなざしから感じ取ったのだろう、キャスバルが吼えた。

「お母様をジロジロ見るな!」

「キャスバル!」

 アストライアは息子を窘めるが、“ガルマ”はどこ吹く風だった。

「美人に目が行くのは男として当然だろ!」

「“ガルマ”ァ!」

 ――その科白は、今このタイミングで云うものじゃない!

 大人二人でコメツキバッタのように頭を下げ合い、何とかその場は収めたが――先行きが思いやられるようなファーストコンタクトだった。

 これで、本当にこの先うまくやっていけるのだろうか――不安だ。

 

 

 

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