ザビ家成り代わり   作:くずみ@ぼっち字書き。

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【成り代わり】another ORIGIN 謀略の"ギレン" 2【転生】

 

 

 

 “ガルマ”は無事、ダイクン家の居候になった。

 いや、無事と云って良いものか――どうも、キャスバルとは微妙な関係らしく、仲が良いとは云い難い様子だ。

 まぁ、ある程度は予想されたことではある。“ガルマ”は、所謂“頭の良い”タイプではない――悪知恵だけはよく働くが――し、一方のキャスバルは、マクギリス・ファリドほどではないだろうが、やはり有能なタイプを好むようだったので。とは云え、1stやZなどを見た限りでは、癖のあるタイプも嫌いではない――ドレンなどがそれに当たるだろう――ようだったから、完全に反発し合う、と云うこともないだろうとは踏んでいた。

 幸いなのは、ランバ・ラルのみならず、どうやら“ギレン・ザビ”にも懐いてくれたようで、訪ねてゆけば、にこやかに応対してもらえることだ。

 残念ながら、アルテイシア・ソム・ダイクンには、この顔を怖がられたらしく、いつも母親の陰に隠れるような風だったので、キャスバルのその態度はとてもありがたく感じられた。

 こちらはとりあえず、今後起こる可能性のある“一年戦争”に向けて、布石を打つ。

 つまり、他のサイドや月都市と連絡を取り、戦争のためでもない同盟を結べないかと打診したのだ。

 無論、内容も聞かずに一蹴されることもあったけれど、好感触を得ることもあり、中々順調な滑り出しだろうと思われた。

「コロニー共栄圏と云うものを作ろうと思うのだ」

 そう云うと、サスロは眉を寄せ、キシリアは小首を傾げた。

「どう云うことです」

「コロニーが同盟を結び、力を合わせて連邦政府に対抗していく、と云うことだ」

 キシリアの問いに、そう答える。

「ムンゾのみで連邦政府と交渉しようとしても、中々難しいところがあるだろう。コロニーひとつで何ができると、連邦に侮られるのがオチだ。だが、例えば半分のコロニーが、団結して交渉にあたったなら――あのタヌキどもとて、無碍にはできん。そうではないか」

 今現在、地球は農産物や工業製品など、様々なものをコロニーや月都市の供給に頼っている。

 コロニーも月都市も、もちろん人工的な居住空間で、地球のように何がなくても何とか生きていける、と云う場所ではない。それ故に、そもそもコロニーに住むことになった宇宙移民たちについては、当初から棄民であると云われてきた。

 だが、UCも70年を越えた今となっては、事態は変わってきている。

 地球が環境汚染によって居住可能地域を狭めたのに対し、クリーンな空間を維持することが可能なコロニーでは、大量の農産物が生産され、それが地球に住まう人びとの腹を満たしている。つまり、コロニーが生産物を地球に卸さないとなれば、地球の人びとは容易く飢えることになるのだ。

 その事実を踏まえることなく、過剰な要求を突きつけてくる連邦政府に、苛立ちを募らせるコロニーは少なくないだろう。

 1stのような戦争は、後に過大な締めつけを生むだけだとわかっていたから、ここはコロニー同士が手を結び、鉄オル世界において圏外圏が連合したように、コロニー同盟を結んで権利拡大に寄与できないかと思ったのだ。

「ギレン兄、それは、ムンゾが盟主になろうと画策している、と取られはしないか」

 サスロが、もっともな意見を云った。

「我らが盟主である必要はない。まぁ、それに近い位置にいることは必要だとは思うが」

 盟主としてお飾りになるよりも、同盟の実務を動かす地位を占めた方が重要だ。つまり、No.2か3くらいの立ち位置である。

「連邦政府に対して、我らのように独立しようと云うコロニーばかりでないのは仕方ない。だが、われわれが独立を志すのを、同盟内の圧力で妨げられるのも宜しくはない。そのあたりを考えると、盟主よりも二番手三番手の方がやり易いだろうからな」

「我らで独自路線を取ると云うのは」

「効率が悪過ぎる。こう云うものには、数の論理が働くからな。それを枉げるためには、ある程度の立場は必要だ」

 それこそ、融和派が盟主でムンゾが二番手であれば、懐が深い同盟だと思われて、他のコロニーや月都市なども参加しやすくなるだろう。表の地位などよりも、ここは実利を取るべきだ。

 ――戦いは数だよ兄貴!

 とは、1stにおいてドズル・ザビが云った言葉だが、武力でなくとも、やはり数の論理と云うものがある。地球連邦に物申すためには、それを可能にし得る“数”を確保しなくては。

「とりあえず、書簡を送る。サスロ、手配を頼む」

「通信では駄目なのか」

 サスロが眉を寄せるが、

「通信では、連邦に傍受されて、結果邪魔が入ることにもなりかねんからな。人間がやり取りした方が間違いがない」

「だが、ムンゾの人間が他処をうろちょろしては、連邦のネズミの目に止まる可能性が高いだろう」

「そこは、逆に下のものを使えば良い。例えば、そうだな――ランバ・ラル麾下の、タチ・オハラとか」

 『the ORIGIN』では存在感を示していたが、今のタイミングでは、まだ諜報員としての第一歩すら踏み出しているかどうかだ。

 だが、だからこそ、誰にも目をつけられたりしてはいないはずだ。つまり、連邦の目もすり抜けやすい。

「きちんとしたIDを持たしてやれば、伝書鳩の役目を果たせるものは多かろう。そしてそれならば、個人的な旅行を装うこともできるだろう」

 そのための人物照会はきちんとしなくてはなるまいが、下手に共和国政府高官などが出向くより、連邦政府のあれこれに抵触するリスクは下がるはずだ。

 もちろん、目指すのは戦争ではなく交渉だが、連邦に都合が悪いと判断されれば、何としてでも同盟をぶち壊そうとするだろうことは、明々白々だったからだ。

 鉄オル世界でもそうだったが、とにかくガンダムの世界観では、地球連邦の暴虐は甚だしいものがある。いや、暴虐と思わなければ感じないのかも知れない、が、アースノイドばかりが優等で、スペースノイドは劣等であると云わんばかりであるのは、そもそもの宇宙移民政策が棄民であったと、認めるも同然のふるまいではないか。

「最悪、戦争になる可能性はあるが、財政的なことを思えば、なるべく回避したい。万が一なったとしても、相手を連邦のみに絞れるのであれば、痛み分けに持ちこむこともできるだろう。そのためにも、周囲とは同盟関係か、悪くとも連邦に加勢はしない、と云う状態に持っていきたいのだ」

 開戦してしまえば、あとは、それこそ数の論理に支配されるだけだ。つまり、はじめからムンゾに勝利はない。その事態を回避したい、それだけの話なのだ。

「……随分と弱腰だな、ギレン」

 キシリアが云った。

「ジオン・ズム・ダイクンの思想を、すべてのスペースノイドに広め、団結する、そう云っていたのではなかったか?」

 ――おっと、突っこまれたか。

 まぁ、“ギレン”と双璧の知将であるキシリアなら、こちらの“変貌”にも気がつくだろう。

 だがまぁ、こちらも大概“いい歳”だ――鉄オルの前から考えると、アラサーの“ギレン”の倍以上。二十歳そこそこのキシリアになど、覆させるものか。

「もちろん、ジオンの思想は広めねばならぬ。だがキシリアよ、知っているだろう、人は、理念と同じかそれ以上に、利益によって動くのだ。どちらも用意しておけば、その分取りこぼしは減る。その上でコロニー共栄圏を作り上げれば、利益で寄ってきたものどもも、最終的にこちらへ取りこむことができる」

 そのためには、とにかくコロニー同盟を結び、地球連邦を交渉の場に引きずり出すことだ。勝ちをおさめられずとも、多少の譲歩を引き出せれば、他のコロニーや月都市も、同盟に加わってくるだろう。

 コロニーがコロニー公社に牛耳られているので、完全に連邦と手を切ることはできないが、農産品や工業製品をコロニーに頼っている以上、あちらとても状況はおなじこと。

 ならば、交渉の余地はある。

「まずは、我らコロニーのものたちが、連邦と対等に話せる土台を作らねばならぬのだ。その中で、ジオンの思想も浸透させていく。これこそ、一石二鳥と云うものではないかな」

「……それならば、良い」

 キシリアは薄く微笑んだ。多分、こちらの意図を確かめたいだけだったのだろう。

「忘れてはおらんよ。ジオンの掲げた“ニュータイプ”理論のこともな」

 そうつけ足してやると、キシリアははっとした顔になった。

「“宇宙に出た人類は、進化し、洞察力や空間認識能力が拡大し、互いに誤解無く意思疎通することが可能になる”だったか。私は残念ながらオールドタイプのようだが、無論、ジオンの理想を実現するに吝かではない。――お前は最近、ニュータイプ研究者と繋ぎを取っているそうだな?」

「え、えぇ……」

 やや退けたような顔になる。原作では、“ギレン・ザビ”はニュータイプ研究に否定的だったようなので、そのような言動を“過去”にしていたのだろう。

 だが、これが1st枠なのか『the ORIGIN』枠なのかわからないので、ララァ・スンを抱きこむためにも、例のフラナガン機関とやらは発足させてもらわねばならない。そこから拓ける道も、またあるのだろうし。

「丁度良い、お前は、その研究者を使って、新たに研究所を立ち上げろ。ジオンの云った“ニュータイプ”が、どんなものかを確かめるために」

「ギレン!」

 サスロが怒鳴った。

「そんなあやふやなものに、金が出せるか! そもそも、理論上でしかないものが、本当に存在すると思うのか!」

 その言葉は、実務家であるサスロらしいものだったが、もちろん答えは決まっている。

「いるとも、ニュータイプはいる。今後、宇宙の星の数、とまではいかんだろうが、とにかく現れる」

 アムロ・レイ、ララァ・スン、カミーユ・ビダン、ジュドー・アーシタ、クェス・パラヤ、多分ミライ・ヤシマやアルテイシア・ソム・ダイクン、そしてもちろん、キャスバル・レム・ダイクンも。

「ジオンの予言した“人の変革”は、すぐそこに迫っている。われわれはそれに向けて道を整え、すべてのスペースノイドの変革を目指す」

 例え、狭義の“ニュータイプ”にはなれずとも、広い視野を持ち、己の属するところのみならず太陽系全体を思って生きる人間を作り上げる。それがジオン・ズム・ダイクンの――否、むしろトミノの、本当の理想ではなかったか。

 ――とりあえず、“ニュータイプ”は、単なる超能力者でも、オカルトの霊能者的なものでもないはずだからな。

 もしも超能力者とか霊能者とか云う類だったのなら、シャアは地球を凍りつかせるなどと云うことは考えなかっただろうし、アムロもそれに対抗したりはしなかっただろう――バナージ・リンクスが流されるままであったように。

 とりあえずラプラスの箱とやらはここにはないはずだ――『the ORIGIN』枠ならなおのこと――し、これから改変していけば、そもそも“シャア・アズナブル”と云う名のジオン軍エースパイロットは存在しなくなり、結果、“赤い彗星の再来”もいなくなる。そもそも、それを名乗ることになった人物――年齢を考えると、既にこの世界のどこかに生まれているはずだ――も、顔や経歴を捨てることなく、本当の自分の生を生きることができるのではないか。

 ――いい考えだ。

 『UC』の推しが皆強化人間で、主人公サイドは好かなかったので、あのラインを潰せるのは気持ち良い。

 そのためには、後々奔放な“活躍”をすることになるニュータイプ研究所――通称では“ニタ研”と云うらしい――の方向性を、今からきっちりと定義づけていかなくては。

 思わずにやにやと揉み手をすると、サスロとキシリアには気持ち悪そうな顔をされた。まぁ“ギレン・ザビ”の顔だ、仕方ない。

「……オールドタイプのわれわれが、ニュータイプの露払いをするのだ。さながら、旧世紀の宗教における、キリストを導くバプテスマのヨハネのようではないか」

 ナザレのイエスに洗礼を授けた預言者ヨハネ。

 ヨハネはヘロデ王に殺されたが、宇宙世紀のヨハネたちは、そんなことにはらないだろう。

 それに、荒野で神の言葉を叫んだ預言者は、既に運命に殺されているのだ。

 自分たちがなるべきは、むしろ聖ペトロ――預言者のなした預言を実現するべく動くもの、だ。

「本気か、ギレン」

 サスロが問う。

「本気だとも」

 “人の革新”はともかくとして、この世界を変革したいと云う気持ちは。

「私は、ジオン・ズム・ダイクンの遺志を継ぎ、スペースノイドのあらたな王国を作る。そのためには、スペースノイドの連合が必要であるし、旗標になるものも必要だ。まずは時機を見て、ムンゾが地球連邦から完全な独立を果たす」

 今ではなく、もう少し先、何らかの事件の後に、民衆の気運が盛り上がった時に。

「――戦争になるぞ」

 サスロはごくりと唾を呑んだが、キシリアは薄く笑っただけだった。なるほど、この兄妹は、妹の方がよほど好戦的で、かつ肚も据わっているようだ。

「ジオンの理想を掲げれば、いずれどうあっても戦争にはなる。そのために、今から備えようと云うのだよ」

「……ドズルのMS計画を承認されたのは、そのためですか」

 キシリアが訊いてくるのに、頷きを返す。

「そうだ。そして、お前が興味を持っているニュータイプ理想も、いずれそこに噛んでくることになる。私は、戦端を開くその前に、なるべく万全を期しておきたいだけだ。新しいムンゾ――ジオン共和国のために」

「ジオン共和国」

「それが、お前の考える独立後の国名か」

「そうだ」

 “ジオン公国”として、デギン・ソド・ザビを“公王”の座に就ければ、人びとはムンゾをザビ家の独裁国家だと見倣すだろう。

 無論、“共和国”に独裁がないとは云わない――共和国を名乗る国の権力者で、“独裁者”と名指しで批難されたものの何と多いことか――が、イメージの問題として、“公国”よりは“共和国”の方が民主的であるように思われる。

 イメージは大切だ。例え権力者たちが望んだとしても、民衆は、イメージの悪い国家に与することを、心情的によしとしないだろうから。

「我らはジオン・ズム・ダイクンの名を掲げ、その理想を追求する国家をこの地に作る。それをもってスペースノイドの融和を計り、地球連邦との対等な関係を模索する。――お前たち、異論はあるか?」

 そう云って“弟妹”を見れば、二人は揃って首を横に振った。

「よし」

 原作のスケジュールで行けば、一年戦争まではあと十一年、例の“暁の蜂起”まではあと八年。

 それまでに、やるべきことは山積している。

「今後とも、頼むぞお前たち」

 重ねて云うと、二人からは、力強い頷きが返された。

 

 

 

 ジュニアハイスクールをスキップして、キャスバルと“ガルマ”はハイスクールに進んだ。

 正確に云えば、“進んだ”のは学力的な意味においてであって、通ったと云うわけではない。ダイクンの遺児とザビ家の末子を両方迎え入れられる学校は、ないとは云わないが、問題も多かった。それくらいなら、高卒認定のような資格を取らせて家庭教師に教えさせた方が、警備面や何かで都合が良かったのだ。

 キャスバルはともかくとして、“ガルマ”は正直不安しかなかったのだが、何とかクリアしてくれたようで何よりだった。

 まぁそれまでに、家庭教師を五人も叩き出したり何だりと、いろいろやらかしてくれたので、無事に次のステップへ進めそうだとわかって、心底から胸を撫で下ろした。

 まぁ、元のアレコレでも、学力的には問題がなくとも、素行に多大な問題があった“ガルマ”のことだ、家庭教師を叩き出したのも、想定内ではあった――あったがしかし、まさか五人もとは思わなかった。

 当人曰く、“半分はキャスバルのせい”だそうだが、元のアレコレを知っている身としては、当然素直に聞くことなどできるわけがない。“三日月”時代、ラスタル・エリオンに入れられた士官学校の学舎を占拠した話は憶えている。他の“昔”のあれやこれやも然りだ。

 確かに半分ほどはキャスバルのせいだとしても、それに乗ったのは“ガルマ”なのだから同罪である。

 第一、元のover40からはじめて、“三日月”ではいい歳まで生きていた。両方の時間を合わせると百歳はかるく越えたのだから、若さ故の過ちとやらは“ガルマ”に関しては当てはまらない。

 と云うか、over100ならそれらしく自重するべきだ。いくら身体が若いとは云え、あまりにもそれに引っ張られ過ぎではないか。ティーンエイジャーと一緒になってふざけ回るにしても、もう少々理性と云うものを働かせて然るべきではないかと思うのだが。

 アストライア・トア・ダイクンの保護下におかれ、帰ってくればデギン・ソド・ザビとドズルとに甘やかされ、聊か箍が外れたようになっているのではあるまいか。

 願わくば、キャスバルが“ガルマ”に悪い影響を受けないでもらいたいものだが。

 六人目の家庭教師は、かなり癖のある人間を選んだので、叩き出されずに済んだようだった。あれで叩き出そうものなら、有無を云わさず全寮制の学校にでも叩きこむところだった。やや胡散臭い経歴の主だったが、結果オーライと云うところか。

 だが、その世話になるのもそろそろ終わりだ。

 キャスバルはもうじき十四になる。おそらくそれまでに、ハイスクール卒業レベルの学業は修めてしまうことだろう。ハイスクールでもスキップしたことになるくらいの、驚異的なスピードである。

 問題は、その先のことだ。

 “ガルマ”はザビ家の慣例として、士官学校に入ることになるだろうが、さて、キャスバルはどうするかだ。

 もちろん、キャスバル・レム・ダイクンに軍人の資質があることはわかっている。“赤い彗星”と呼ばれたかれのパイロットとしての能力や、指揮官としての資質も含め、士官になれば異例の出世をするだろうこともわかっている。

 だが――ジオン・ズム・ダイクンの子を、軍人にする? それは、随分な才能の浪費ではないか。

 “ギレン・ザビ”のようなアジテーターの才能はないが、Zのダカール演説や、『逆シャア』でのそれを思い返してみても、キャスバル・レム・ダイクンには政治家の才能がある。“シャア・アズナブル”を名乗ってすら人びとを魅了したその能力を、せっかく本名で生きているこの時間軸で、埋もれさせて良いものか。

 それに、人びとのイメージと云うものもある――ジオン・ズム・ダイクンの子であれば、必ず政界を目指し、いずれは首相の座に、と人びとは考えているだろう。ましてや聡明であることは既に良く知られているキャスバルだ、その麗しい見目とも相俟って、共和国の象徴にと思う輩も少なくはない。

 そう云う人びとにとっては、キャスバルを軍人にするなどとんでもない話だろうし、士官学校に入ったとしても、“ダイクンの子”として色眼鏡で見られ、不愉快な思いをすることになるのではないか。

 それに、未だにダイクンの遺児を排除しようと云う動きもある。ジオン・ズム・ダイクンの理想に異を唱える輩と、おそらくはその後ろに地球連邦の存在もあるのだろう。

 ムンゾは、各サイドの中でも、最も独立心に満ちたコロニーである。議会でも、連邦からの独立を訴える議員は少なからずいる。だがもちろん、真逆の考えの議員もいて、連邦政府が、そう云った連中を利用して、調略を試みているのはわかっているのだ。まぁ、こちらも長年培った政治力がある、そう易々とやられはしないのだが。

 と、

「ギレン」

 ノックとともに現れたのは、キシリアだった。

 濃紺のワンピースドレスは、襟の詰まったヴィクトリアンスタイルだ。少々オールドミスのような服装だと思うが、原作ではほぼ軍服一辺倒だったことを思えば、隔世の感がある。まぁ、確かに原作からは遠く離れつつあるのだが。

「ガルマが帰っているわ。そろそろ晩餐の衣装に着替えたらどう?」

「あぁ、そうだな」

 招待状のある正餐と云うわけでもないが、“ガルマ”の躾もかねての晩餐である。家族だけとは云え、気を抜いた服装で出るわけにもいくまい。

「……そう云えば、“ガルマ”から誕生日のプレゼントに、クリスタルのイヤリングを贈られていただろう。今日は、あれはつけないのか」

 基本的に女にはマメな“ガルマ”であるが、それは“姉”であるキシリアに対しても変わらない。この前の誕生日には、何やら聞き憶えがなくもないブランドの、クリスタルのイヤリングを贈っていた。丸みを帯びたやわらかいデザインのそれは、クリスタルの透明な輝きの鋭さもあり、確かにキシリアによく似合っていた。

 キシリアは、少し頬を染めた。

「家族だけの晩餐に、そんな……」

「家族だけとは云え、正式な晩餐だ、それくらいの方が良いだろう」

 私もブラックスーツにするつもりだからな、と云うと、意外そうに眉を上げられた。

「珍しい。軍服かと思っていたわ」

「あの軍服は、家族の食事には仰々し過ぎる。それこそ、招待状の来るような晩餐会ならともかくとして」

 それに、

「お前がドレスで私が軍服では、いかにもつり合わんだろう」

「そうね――そして、ブラックスーツと同席するのに、アクセサリーなしではくだけ過ぎているわね」

 キシリアは、くすりと笑った。軍服姿の時とは異なる、存外やわらかい微笑みだった。

「そうね、あのイヤリングをつけることにするわ。それなら、お互いに恰好がつくでしょう」

「そうだな」

 笑みを返して、服を変える。ディナージャケットにタイを結ぶ、少しだけやわらかいスタイルだ。

 食堂へ向かうと、既にサスロとドズルが顔を揃えていた。

「おう、ギレン」

「……ガルマは」

 と問うと、

「今、キシリアが呼びにいっている」

 サスロが肩をすくめた。

「相変わらず、キシリアはガルマに甘い」

「甘くなるのは仕方ないだろう、ガルマは体力がないんだし」

 ドズルは云うが、まぁこの“弟”も、ガルマを甘やかすことではキシリアに劣らないのだ。もちろん、一番はデギンに違いないのだが。

「――ところでドズル、“例の計画”の進捗はどうなっている」

 云うと、サスロが眉を顰めた。

「ギレン、今話すことか?」

「父もガルマたちもおらんのだ、まだ構うまい」

「……あれは、そのぉ、“ランドセル”の小型化で、まだちょっと……」

 ドズルが、大きな図体に似合わぬ様子で、もじもじと云った。

 計画の開始から、かれこれ三年が経過している。と云うことは、原作における一年戦争までは、あと七年ほどだ。

 ――七年で、試作機を量産体制にもっていけるか。

 “赤い彗星”が乗っていたのはMS-06S、『the ORIGIN』では、その前のMS-04やMS-05Sにも搭乗していた。例の、ミノフスキー博士追捕の場面でのことだ。

 ランバ・ラルが“黒い三連星”と機乗していたのも、おなじMS-04、機体名はブグだった。

「――今は、試作何号機だったか」

「い、今は三号機だよ、兄貴。YMS-03、ヴァッフだ」

 “YMS”。この“Y”は、T.Y.ミノフスキーのミドルネームを取ったのだろうか。

 “YMS”からYが取れ、“MS”になった時にモビルスーツは完成する。そこから、ムンゾ共和国はジオン公国への道を歩みはじめ、遂には一年戦争へと突入するのだ。

 もちろん、無駄な戦闘は避けるべきだが、備えを万全にしておくのは無益ではない。

「――半年だ、ドズル」

「へ」

「半年、それで実用化にこぎつける見通しが立たないようなら、“計画”は破棄する。金食い虫を、いつまでも養っておくわけにはいかん」

「ひえ」

「今すぐ中止でもいいのではないか?」

 サスロが云った。

「軍の一部では、“計画”に巨額の予算を注ぎこむことに、不満の声もある。それくらいならば戦艦の建造や補修に充ててほしいと云う声も聞く。今は抑えているが、そういつまでもと云うわけにはいかんぞ」

「わかっている。だが、気になる噂もあるのだ。連邦軍が、アナハイム・エレクトロニクスに委託して、人型汎用兵器を作らせているらしい」

 原作でそうであったし、事実、子飼いの諜報員からもその旨の報告を受けた。例の“伝書鳩”が、ついでに拾ってきた話だが、そのものはきちんと裏取りもした――アナハイム末端の技術者から、酒場で聞いたのだそうだ。

 連邦軍が開発させたのは、RCX-76ガンキャノン、1stでカイ・シデンが搭乗した機体は、多分その後継機にあたるのだろう。

「既に、量産体制に入っているらしい。まぁ、どの程度のものなのかは、継続調査中だが――備えておくに如くはない」

 戦艦に取りつかれて、ブリッジを破壊されるようなことにでもなれば、目もあてられんからな、と云う。

「……かつての白兵戦が、かたちを変えて再現されると云うことか」

 サスロが唸った。

「じゃあ、それこそ“計画”が大事になってくるじゃないか!」

 ドズルが興奮気味に云うが、

「だが、実用化できんでは意味がないだろう。これ以上金をドブに突っこまんうちに、目途をつけるのだな」

「わ、わかってるさ」

「進捗状況を確かめるために、私もダークコロニーに出向く。そうだな、半月後だ。その頃には、目途がついていることを願うぞ」

「奮起させる」

「よし」

 原作どおりであれば、ミノフスキー博士が、“ギレン・ザビ”の視察の折に、“ランドセル”の小型化に目途をつけるはずだ。

 こちらでもそうあってほしいと願っていると、キシリアと“ガルマ”が食堂に入ってきた。キシリアは、例のイヤリングをつけている。

 ――相変わらずの誑しだな……

 “昔”のあれこれや、“三日月”の修羅場を思い返しつつ考えて、唇を歪める。

 まぁ、“姉”を誑したところで、そう大きな害はあるまい――“ガルマ”の相手は、皆の意向でアルテイシアと決まったのだし。

 ――せいぜい尻に敷かれると良いさ。

 思っていると、ドズルが席を立った。

「ガルマ!」

 云いながら、弟の小柄な身体を抱きしめる。

「おかえりなさい、ドズル兄様」

「ただいま帰った。お前も良く戻ったな、この甘えっ子め」

 と云うが、少し腕の力を緩めてやった方が良いのではないか。“ガルマ”は、やや苦しげにうぐうぐ云っている。

「“ギレン兄様”も、サスロ兄様もおかえりなさい」

 ドズルの羽交い締めの中で身をよじり、“ガルマ”がそう云ってくるのへ、

「ああ」

 と簡単に返すと、不満そうな顔になった。

 サスロはもう少しやさしく、

「お前もな」

 と云う。

 サスロにはにこりと笑い、ちらりとこちらを見る、“もっと構え”的なまなざし。

 だが、これだけ構われているのだから、別に良いだろう。

 くすりと笑うと、“ガルマ”のまだ不満げなまなざしが、はっきりとこちらを向いた。

 だが、その唇が開く前に、デギンが食堂に入って来、そのまま、やり取りもなくディナーがはじまった。

 

 

 

 翌日、キャスバルが訪問してきたと聞いたのは、十時を回った頃だった。

 居間に通したのかと思えば、コンサバトリーだと云う。イギリスのカントリーハウスによくある、温室の中に設えられたティールームと云えばいいのだろうか。とにかく、ガラス張りの居間のようなものだ。

 今日は在宅に変更にした――例の諜報員たちからの報告を取りまとめて、今後の方策を固めたかったのだ――ので、キャスバルの顔を見ておくか、とコンサバトリーに足を向ける。

 辿りつくと、キャスバルは“ガルマ”とティータイムの最中だった。

 “ガルマ”は、こちらに気づくと、へろりとした笑顔になった。

「“ギレン兄様”。時間があるようなら、一緒にお茶をしていきませんか?」

 顔を見るだけにしておくつもりだったが、誘われればと頷きを返す。

「良かろう。――キャスバル、よく来たな」

 キャスバル・レム・ダイクン――のちの“赤い彗星”は、礼儀正しく頭を下げた。

「ご無沙汰しております。」

 大変結構。

 ジンバ・ラルを隠居させてから、ラル家とザビ家も良好な関係であるし、アストライアの保護も請け負っているので、キャスバルたちとの関係は悪くない。

 少し懐いてくれているのかと思える時もあり、少々ときめく――1st推しならば、“赤い彗星”はマストだろう。“ギレン・ザビ”になってしまったので難しいかと思ったが、多少心を開いてくれるなら、こんなに嬉しいことはない。まぁ、頭の良い少年であるから、そう装っているだけと云う可能性も否定はできないのだが。

 何しろ“ギレン・ザビ”は悪人面である。現に今も、コンサバトリーに入った途端に、メイドの表情が凍りついたほどだ。原作におけるザビ家の立場を思えば仕方ないが、もう少しソフトな顔だったらと思わずにはいられない。中の人――銀河万丈ほどの紳士だったなら、もっと違った反応もあったのだろうに。

 まぁ、それでは悪役らしくはないか――しかし、『ヤマト』のガルマン・ガミラスの例もある。それに、実は『the ORIGIN』の“ギレン”は、偶にかわいい時がある。まぁ顔だけだが――多少なりとも可愛さがあるのなら、何とかなりようもあるのではないか。

 席につくと、茶器が置かれ、香りの良い紅茶が供された。

 そこから、少年ふたり――片方は“がわ”だけだが――の近況が報告される。

 原作とは違って、キャスバルはそれなりに、少年時代を謳歌しているようだ。思いつめたような表情はなく、自信に満ちた、恵まれた子ども時代を過ごしているのだとわかるような、余裕のある表情。

 まぁ、原作よりもアストライアと過ごした時間が長い分、変に肩肘を貼ったりしないので、子どもらしい伸びやかさが見られるのだろう。アルテイシアとも、それなりに兄妹喧嘩などしているようで、アストライアからそれを聞いたときには、思わず笑ってしまった。可愛らしいことで、何よりである。

 ――さて、このまま順当に成人したら、どんな大人になるものかな。

 原作の少しニヒルな感じも捨てがたいが、やんちゃなキャスバルもそれはそれで好感が持てそうだ。

 と、キャスバルが、おもむろに口を開いた。

「……ところでギレン、“ガルマ”の進路はどうなってるの?」

 ――ふむ?

 キャスバルが、“ガルマ”の進路を気にするとは――原作のような関係ではないし、そもそも“ガルマ”は中身がアレだから、“ズッ友”的な仲の良さはあり得ないが、さりとて学業でのライバルと云うほど切磋琢磨する間柄でもないはずだ。

「それを聞いてどうする?」

 キャスバルと“ガルマ”は悪ガキ仲間のようなものだとは、ランバ・ラルから聞いていたが――まさか、悪仲間と同じ進路を歩むために訊いている、と云うわけでもないと思うのだが。

「僕もこの先を考えなきゃ行けないだろう? 参考にしようと思って」

 そう云えば、この二人の進路については、何の話もしていなかったか。

「ね、“ギレン兄様”。僕たちは外でも学びたいな。このままじゃあまりにも世界が狭いもの」

 などと、“ガルマ”はそれらしいことを云っているが、まぁ“三日月”時代に、士官学校を占拠した過去を持つ人間だ、話は三分の一以下に聞いておくに限る。

 まぁ、どのみち“ガルマ”に関しては、先は確定だ。

「“ガルマ”、お前は士官学校へ行け」

 “三日月”の過去はあるにせよ、と云うかあるからこそ、生半可なところではまたぞろやらかすに決まっている。

 その点士官学校ならば、やらかしても始末のつけようがある。今の校長は、それこそドズルだ。まぁ、見る目が甘くなる可能性があるのは否めないが。

「――ガルマを軍人に?」

 キャスバルが、わずかに眉を寄せるが、

「そうだ。ザビ家ではそれが慣例だからな」

 普通の学校に入れて野放し、と云うわけにはいかない。元のアレでも、教室の窓から脱走したり、教師の机の引き出しに、開けるとクラッカーが鳴る仕掛けをしたりと問題行動が多かったのだから。

 こちらの思いを察したのだろう、“ガルマ”がちらりと横を見た。

「キャスバルは? 僕、ひとりになるのは少し不安かも……」

 鼻を鳴らしそうになるのを、ぐっと抑える。

 ――何が不安だ、猫かぶりめ。

 それは、叱責を受けるのが自分ひとりでは、みっちりやられて逃げられないからではないのか。キャスバルと一緒に悪さをすれば、被害は二倍で叱責は半分、と考えたのか。 

「……士官学校か」

 さて、キャスバルはどうするのか。

 もしも政治の道に入ると云うのであれば、ムンゾ大学に入れるよう、全力でサポート――もちろん、学力的な意味で――するが、そうでないならデギンも含めての会議が必要になるだろう。

 さて、どう出る。

 紅茶を飲みながら、じっとその青い瞳を見る。

 と、何故かいきなり、キャスバルの喉が鳴った。

 紅茶を飲みこみ損ねたのか。また“ガルマ”が悪戯でもしたものか、青い瞳が“ガルマ”を睨み。

 息をひとつついて、

「ギレン、僕も一緒に行けるだろうか?」

 キャスバルが云った。

 ――キャスバルが士官学校に?

 まさかと思うが、“ガルマ”が何やら吹きこんだのではあるまいか。

 さて、どうする。

 “ガルマ”たちにはもちろん云っていないが、最近、共和国議会の中では、ダイクンの遺児をザビ家が囲いこんでいるとして、煩く云う輩があるのだ。それ自体は、まぁジオンの葬儀の前後からのことなのだが、最近では、それらのものが法的措置に出るの何のと喧しい。

 こちらはダイクン本家も丸めこんでいるのだし、母親であるアストライア・トア・ダイクンからも、後見人を委任されているような状態であるのに、だ。

 どうも、何やらきな臭い気配があるので、今進路云々を即答するわけにはいかないのだ。

「――考えておこう」

 と云うと、“ガルマ”が首を傾げた。原作のこともあるので、当然一緒に士官学校、と思ったのかも知れないが、今は状況が異なっている。あの時注視されたのはガルマ・ザビだったが、今この時間軸においてはキャスバル・レム・ダイクンこそがそうなのだ。

 が、まぁ、今このごたごたを告げる時でもあるまい。

 それよりも、問い質しておきたいことがある。 

「ときに“ガルマ”。ランバ・ラルから報告を受けているのだが……」

 先日、来客で訪れた共和国議員の足許に、爆竹のようなものを投げたと云う話をきいたのだが、どういうことか。確かにあの議員は、“ジオンの信奉者”などと云いながら、私服を肥やすことしかしない不届き者ではあったのだが。

 じっくり問い詰めてやろうと口を開きかけた時。

「ご歓談中に失礼いたします。キャスバル・レム・ダイクン様にお迎えが参っております」

 執事がやって来て、そう告げた。

 “ガルマ”が、焦ったように、

「え、もう?」

「はい。如何なさいますか?」

「ああ。いま行くと伝えてほしい」

 キャスバルはそう云って、こちらにかるく一礼してきた。

 と、“ガルマ”が立ち上がり、

「“ギレン兄様”、僕、キャスバルを送ってきますね」

 一礼。

 ――今、あからさまに“助かった”みたいな顔だったぞ。

 と云うことは、心当たりは死ぬほどあるようだ。

「おい、“ガルマ”」

 呼び止めるが、“ガルマ”は後でねーと、口パクで答えて、ぱたぱたとキャスバルの後を追った。

 

 

 

「兄貴!!」

 ドズルが書斎に飛びこんできたのは、昼過ぎのことだった。

「どうした、ドズル」

 諜報員たちからの報告書を読んだり、今後の軍の再編に向けた計画書の手直しをしたりしていたところだったので、やや煩わしい気持ちでそう返すと、ドズルは激しくデスクを叩いた。マホガニーのデスクに、罅が入るのではないかと思うほどの勢いだった。

「ガルマが攫われた! それにキャスバルも!」

「“ガルマ”とキャスバル? ダイクン本家の手のものか?」

 確かあの時、執事は“ダイクン家からの迎え”と云ったはずだ。その直後にと云うことは、“そう云うこと”ではないのか。

 ――まさかあの婆さん、まだ諦めていなかったのか……

 と思ったのだが。

 ドズルは首を横に振った。

「違うようだ。だが、攫った連中は、キャスバルの迎えを装っていたのは確かだ。ガルマは、自分からついていったみたいだが」

 その“自分からついていった”は、誘拐と見破ってなのかどうか。

「……GPSは」

「確認中だ」

「そうか」

 GPSが生きているのであれば、場所の把握は問題ない。

「早急に、GPSの位置に追手を出せ」

「やってる!」

 ――ならば良い。

 しかし、キャスバルがターゲットか――ダイクン本家でないなら、ダイクンの遺児を、ザビ家が抱えこむ状況が気に食わない反対派か。しかし、反対派でそこまでの資金力や、荒事もこなせる相手への伝手を持つものがあっただろうか。

 あるいは、

「――反対派の連中で、最近、他処ものと会ったり、連絡を取ったりしたものはあるか」

 問うと、

「そ、そう云うのはサスロ兄貴が……」

 なるほど、それもそうだ。

「では、サスロにそちらの方を探らせろ。それから念のため、宙港の封鎖だ。猫の子一匹見逃すな」

「わかった!」

 頷くと、ドズルはどたどたと書斎を出ていった。

 ドズルとサスロが動くなら、キャスバルと“ガルマ”は無事に戻ってくるだろう。それに、腐っても元“三日月”だ、その前も含め、腕力も多少は使えるはずだ。そう云う意味では、心配はしていない。

 問題は、

 ――さて、この本当の首謀者は誰か、と云うことだな。

 もちろん、ザビ家を良く思わない、共和国内部の反対派が動いていることは確実だろう。

 問題なのは、その表面的な“首謀者”ではなく、その後ろで糸を引くものが誰であるのか、と云うことだ。

 ザビ家の使用人たちに、いかにもダイクンからの迎えであると錯覚させたからには、それらしい車両と訓練されたSPが必要だ。そんなものを調達できるほどの金と伝手が、反対派の連中にあっただろうか?

 可能性としてはダイクン本家だったが、あちらには手を打って、最近は煩く云われることもなくなってきた。ローゼルシア・ダイクンと云う女は、云ってみれば寂しい老女なのである。まめに訪ねて話を聞き、尊重するような態度を取れば、そう大事に発展することはない。相変わらずアストライアのことを認める気はないが、妾腹の子どもたちには大いに期待もしているようではあるのだし、今さら誘拐する理由はない。

 他には、例のコロニー同盟で、自分が主導権を握るのだと息巻いている輩――否、それはむしろ、このムンゾ共和国内にこそいる。他サイドや月都市は、互いに様子見をしているような状態だ。まぁ、同盟で主導権を握れば、即地球連邦に睨まれるとわかっているから、同盟には参加しても良いが、矢面に立ちたくはないと考えているのだろう。

 となると、

 ――やはり、地球連邦か……

 例のコロニー同盟が、連邦の癇に障るような活動になってきたと云うことか。

 まぁ、それ自体は、そもそもが連邦に圧力をかけるための同盟なので、脅威を感じてくれなくては困るところだったのだが――まさかこんな、直接的な手段に出てこようとは。

 ――各サイドのトップではなく、搦手を狙ってきたか。

 搦手狙いはこちらも得意だが、こう云う犯罪行為は許し難い。しかも、弱いところを狙っての誘拐だ。地球連邦のモデルは、旧日本軍と聞いたが、やっていることは大陸や半島の某国と変わらない――いや、旧日本軍もそうだったか。戦前の特高など、碌な話を聞いたためしがなかった。それに、原作では、ジオン公国と云うか、ザビ家も大概ではあったので、全体に国家と云うのはそう云うものなのかも知れなかった。

 ――そう云うやり方は、最後には破綻するようにできているのだがな……

 犯罪的なやり方での圧力は、手っ取り早い代わりに、やられた側の反感を強めるだけだ。同盟の切り崩しには、高度に政治的な駆け引きが必要だが、それができるほどの人材が連邦側にいないのか、あるいは強者の驕りで、力で捻じ伏せればこちらが黙ると思っているのか。

 もう、そう云うレベルの話ではなくなっていると云うのに――愚かなことだ。

 例えば今、この誘拐劇で、キャスバルと“ガルマ”が死亡したとしたら、ザビ家は、地球連邦の暴挙が若い二人を殺したのだと、大々的に喧伝することができる。例え誘拐が成功したとしても、影武者――恐らくこの時間軸には、“シャア・アズナブル”もいるはずだ――を立てて、それらしく振る舞わせ、“誘拐の事実”などないとすることもできる。

 キャスバル・レム・ダイクンが逃亡しても、ジオン公国は誕生した。少なくとも、独立の気運はムンゾにおいては高まっているのだ。他のサイドや月都市にしても、同盟に名を連ねているところは同様だろう。

 そんなところに、この誘拐事件が公になれば、いくら連邦側が否定したところで、反連邦の空気が膨れ上がるだけだ。

 そうしているうちに、GPSの位置情報が出た。場末の廃ビルの中らしい。取り壊しの決まったビルなど、確かに犯罪の温床だ。

「わかった。救出は任せる。首謀者も生きて捕えろ。この先の、良い交渉材料になる」

〈わかってる!!〉

 云いながら、ドズルは通信を切り、部下を率いて出ていったようだった。

 さて、ドズルが出ていったからには、キャスバルと“ガルマ”は問題ないだろう。多少怪我をしているかも知れないが、あの二人のことだ、大怪我するようなヘマはするまい。

 真に問題なのは、これを、連邦との交渉にどう使うかだが――

「……まずは、ムンゾ内の、連邦追随者の炙り出しからだな」

 それが判明すれば、その先はとことん喧伝のために利用させてもらうのだが。

 ほどなくして伝えられた、キャスバルと“ガルマ”解放の報に、唇を緩めながらサスロを呼び出した。

 

 

 

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