ザビ家成り代わり   作:くずみ@ぼっち字書き。

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【成り代わり】another ORIGIN 謀略の"ギレン" 3【転生】

 

 

 

 キャスバルと“ガルマ”は、午後遅くにはそれぞれの家に戻された。

 無傷は無傷だったようだが、“ガルマ”は帰ってすぐに発熱し、床についてしまった。

 確かに元々身体が強いわけでもなかった――そのかわり、回復力だけは異常にあった――が、それにしても、これほど簡単に熱を出すようなものでもなかった気がする。ガルマ・ザビにしても、作中確かに体力がないような発言は――ドズルから――あったが、寝こむタイプでもなかったはずだ。

 そもそも“三日月”の時は、至極調子良さそうに振る舞っていたのだから、もしかしたらガルマ・ザビと元“三日月”の相性が悪いのかも知れない。まぁ、三日月・オーガスは元々性格から何からよく似ていた――本物のほうが、もちろん子どもだが――ので齟齬が少なかったが、ガルマ・ザビはそうでもないから、やはりそのあたりの問題なのかも知れない。こちらはオルガ・イツカはもちろんのこと、ギレン・ザビともそう相性は悪くなく――“ガルマ”には、“ギレン”の方が“オルガ”より合っていると云われた――、問題もなく暮らしているくらいだ。

 とにかく、誘拐事件は即日解決され、首謀者に黒幕を吐かせた――その手段は、ご想像にお任せする――後、ザビ家は全力で、その事実を喧伝した。

 年端も行かぬ少年二人を誘拐し、洗脳して祖国に敵対させようとした――サスロが全力で煽ったその“事実”によって、共和国の人民は燃え上がった。炎上した、と云う方が正しいくらいのものだった。

 人びとは、“連邦”――名指しはしなかったが、それ以外にあり得ないと云わんばかりの煽り方だった――の非道なやり口に憤り、こんなことを命じる連邦政府の支配など許し難い、と口角泡を飛ばして云い合った。独立を求めたデモすら行われ、共和国軍は治安維持のため、連邦軍の手先となって、人びとを規制しなくてはならなくなった。その共和国軍の兵士たちの、苦しげな表情を切り取ったスナップがSNSで流布され、さらに連邦に対する怒りを煽り立てた。

「――やり過ぎだぞ、サスロ」

 もちろん、一連の報道は、サスロが裏から手を回したものだ。

「もしも暴動にでも発展したらどうする。われわれはまだ、独立を云うには力が足りないのだ。もしも暴発することがあれば、連邦軍の本格的な介入を招くことになる。今はまだ、民衆の不満は燻ぶらせておくべきだ」

「だが、ガス抜きも兼ねて、ある程度はシュプレヒコールを挙げさせておかなくては、妙なところで暴発することになるぞ。その方が拙いってことは、よくわかっているんだろう?」

「……否定はしない」

 サスロの、報道を操る手腕は卓越したものがある、が、それにしても、少々やり過ぎではないかと思わずにはいられない。

 独立を宣言すれば、早いタイミングで地球連邦との戦争に突入することになるはずだ。

 そのタイミングは、できればこちらの都合で選びたいし、そうでなければただ潰されるだけになる。

 せめて、開発中のMSが、量産に対応できるくらいまでは引っ張らなくては――ただ負けて終わりでは、連邦政府とコロニーや月都市の力関係は、拮抗するどころの話ではなくなってしまう。

 原作の一年戦争までは、あと七年。例の“暁の蜂起”までならあと五年ほどだ。

 少なくとも“暁の蜂起”まで引っ張れば、MSはほぼ基礎理論が完成し、実用化まですぐにこぎつけることができる。

「わかってるさ、ギレン兄。MS計画の進捗の問題だろう?」

 サスロが、かるく肩をすくめた。

「心配するな、例の博士が、“ランドセル”の小型化に成功したそうだ。今、その新型のテストをやっている。新しいMSは、MS-04、ブグと云う名だそうだぞ」

 ブグ。それは例の、『the ORIGIN』でランバ・ラルと後の“黒い三連星”が試乗したMSではないか。

「……遂にきたか……!」

「あぁ。今、テスト機乗の最中だ。中々良い動きだと、ドズルからは聞いているぞ」

「そうか」

 一度ダークコロニーで対面した、T.Y.ミノフスキー博士の顔を思い出す。少々偏屈な風貌の、いかにも科学者らしい初老の男だった。そう、『the ORIGIN』で見たとおりの。

 しかしそうなると、

「……アナハイムの方は、どうなっているのか」

 例の“伝書鳩”に命じて、テム・レイに接触させていたのだが。

「その件だが、ギレン、伝言を預かっている。“山は動いた”とさ」

 山。

 それは、テム・レイの名字――漢字で“嶺”と書くらしい――から取った、コードネームのようなものである。

 山=“嶺”が動いた、つまり、テム・レイはムンゾに来ると云ったのか。

「――よし」

 これで、RX-78ガンダムは、連邦軍には存在しなくなる。MSは、ムンゾのひとり勝ちだ。RCX-76ガンキャノンなど、MS-05ザクの前には、ものの数にも入らない。

 その上、テム・レイがくるなら、息子であるアムロ・レイも、必然的にムンゾにやってくる。

 ムンゾは、天才的科学者をもう一名と、ニュータイプのパイロットを一名、ともに手に入れることになるのだ。

 ――ガンダムが、ジオン軍にくるか……!

 他のザクやドムなどのMSと、デザインは異なってくるが、そこはそれだ。ジオニック社でガンダムを量産し、グリーンに塗装する。アムロ・レイが乗る機体だけは白で、肩にユニコーンのパーソナルマークを入れさせよう。

「……圧倒的じゃないか、我が軍は……!」

 これは断じてフラグではない。

 アムロ・レイとシャア・アズナブルが同じ組織で肩を並べて戦う、Zでも半分しか実現しなかったことを、この先この目で見ることができるのだ。

「――大丈夫か、ギレン」

 サスロには微妙の目で見られてしまったが、別におかしくなったわけではない。

「アナハイムから、天才的科学者を引き抜けたのが嬉しくてな」

 少しはしゃいだ、と云うと、微妙な顔のまま頷かれた。

「ギレン兄でも、はしゃぐことなどあるんだな」

「私とて人間だよ、サスロ」

「いや、理念が服を着て歩いているような気がしていた」

「理念、理念な! 確かに理念は重要だ」

 それこそ、例の“徳なき恐怖は忌まわしく、恐怖なき徳は無力”だ。恐怖政治はよく批難されはするのだが、軍事国家、或いは警察国家などと云うものは、大なり小なり恐怖政治をその裡に存している。法治国家と云うものもまた然り、法を破ったものに刑罰を科すのもまた“恐怖”の一面である。それを支えるのは“徳”――つまり、正しい法の施行と運用を保証するものがあってこそだ。単なる徳治主義では、弁えぬものは弁えぬ。

「理念を実現させるには力が必要であるし、力を制御するためには人の情も必要だ。理念ばかりでは人は生きられない――人びとに、新しい世界の到来を実感させるには、共感し、また共感させる何かが必要なのだ。ジオン・ズム・ダイクンは、それを果たさぬままに逝ってしまったが、我らはジオンの遺志を継ぐものとして、人びとを啓蒙してゆかねばならぬ」

「そう、そのお前が、“はしゃいだ”などというものだから――驚くだろう」

「人間味のある指導者に、人はついてゆくのだよ」

 あまりに近づき難い、隙のない人間よりも、穴だらけ、欠点だらけの人間の方に、ひとは魅力を感じやすい。

 “ギレン・ザビ”は、隙のない、近寄り難い男だった。1stや『the ORIGIN』の中において、“ギレン・ザビ”に好意を抱いていた人間は、少なくとも描写された部分においては存在しなかったような気がする。知能が高く、冷酷で隙のない男――それが作中の“ギレン・ザビ”だった。

 “ギレン”は、父親に“ヒトラーの尻尾”などと云われるような男だったが、まぁ、こちらはそう云うタイプではない。冷徹と云われたことは多かったが、残念ながら隙の多いタイプで突っこみどころも多く、割合に他人に好かれていたような気はしないでもない。IQ240などと云う卓越した知能はないが、悪賢さは頭抜けていると云われたこともある――あまりありがたいことではないが。

 つまり、本当の“ギレン・ザビ”よりは、多少なりとも人好きはするだろうと云うことだ。

「結局、政治も何も、人間社会は好悪で動くのだ。ならば、なるべく敵を増やさぬ方が、巧く立ち回れると云うことだ」

「仮想敵は必要ではないのか」

「必要だが、あまり敵意を煽れば、こちらのコントロールを離れることになってしまう。そのあたりの手綱加減はきちんとしなくては、こちらが振り回されることになっては元も子もないぞ」

「……それで、先刻の話に戻るのか」

「まぁ、そう云うことだ」

 あまり民衆を煽り立てるようなことはするな、と云う。

「……わかった。やり過ぎないよう、努力はしよう」

 サスロの“努力する”ならば、“ガルマ”のそれよりはきちんと履行されるだろう。

 満足して頷くと、“弟”からは、やり切れないとでも云いたげな溜息が返された。

 

 

 

 ムンゾ内があまりにも騒がしいので、キャスバルと“ガルマ”は一時外に退避させた。

 行先は、サイド5、ルウムはテキサスコロニーである。1stではあの砂嵐の中の邂逅の、『the ORIGIN』では少年期のキャスバル――エドワウ・マスとセイラ・マスの生活の、それぞれ舞台となった場所である。

 そして、ここが『the ORIGIN』の時間軸であるからには、そこにはとある人物がいるはずだ。それを当てこんでの、二人の“休暇”だったのだ。

 テキサスコロニーにやって、やや暫くの後、“ガルマ”からキシリアに宛てて、手紙が届いた。クラシカルな封書である。

「友だちができたと云うのよ」

 それを持ってやってきたキシリアは、やや困惑した風だった。

「“馬によく乗る友達を、乗馬が趣味の姉さまとギレン兄様、そして家族みんなに是非とも会わせたい”なんて書いてあるの。あの子ったら、自分の立場をちゃんとわかっているのかしら」

 などと云って頬を抑えるキシリアは、まるっきりただの“弟可愛さに負けた姉”の顔だった。

「あれも、そのあたりは弁えているはずだ」

 と云うか、テキサスコロニーでできた“友だち”と云うところで、相手はわかっている。あのテキサスコロニーの管理者、ロジェ・アズナブルの息子、シャア・アズナブル(本人)だ。“馬によく乗る”と云うフレーズからも、それは確かめられる。シャア(本人)の初登場は、テキサスコロニーで、セイラが初めてポニーに乗ったシーンだったのだし。

 ――まぁ、あれほどそっくりなら、向こうから接触してくるだろうからな……

 そして、できれば“ガルマ”がシャア(本人)を掴まえてくれればとは思っていた。

 影武者に使うにしても何にしても、シャア・アズナブル(本人)は、ムンゾ、と云うよりもザビ家で押さえておきたかったのだ。入れ代わりが可能なほどにそっくりならば、シャア(本人)を殺して“キャスバル・レム・ダイクンを殺害した”などと云う輩も、出てこないとは限らないからだ。あるいは、自陣営にシャア(本人)を引きこんで、“ダイクンの子はこちらについた”などと喧伝する輩が出てくる可能性も。

「――気になるなら、見に行けば良いではないか」

 そう云うと、キシリアは、驚いたように片眉を上げた。

「私が?」

「ザビ家が末弟に甘いのは、かなり有名な話だからな。体調が気になるでも何でも理由をつけて、実際その目で確かめてきたらどうだ」

「――何かご存知なの、ギレン」

 探るようなまなざし。

 それに、ひょいと肩をすくめてやる。

「大体の想像はついている。何、あれもザビ家の男だ、迂闊な真似はするまいよ」

 むしろ、本当のガルマ・ザビよりもよほど。

 キシリアは、眉を跳ね上げた。

「わかったようなことをお云いね、ギレン」

「わかっているとも」

 何しろ、つき合いは非常に長い――それこそ“前前前世”のその前からだ。

「まぁ、あれにはあれなりに、考えがあってのことだ。徒に咎めてやるな。気になるなら、実際にその目で見てくれば良いのだ」

「その間に、あなたは何をするおつもり?」

「天才的科学者をお迎えするのだ」

 テム・レイとその子息が、月のフォン・ブラウン市を発ったと、例の“伝書鳩”から連絡があったのだ。

 結局ギレン・ザビ直属となった諜報員たちは、暗号名のまま“伝書鳩”と呼ばれることになった。ランバ・ラル配下から引き抜いたタチ・オハラは、立派に中核となって働いてくれている。何しろランバ・ラルももう中佐だ、あちらはあちらで問題なくやっている。タチも、クラウレ・ハモンにこそ未練はありそうだったが、仕事自体に不満はないようで、今もルウムへ“お使い”中だ。

「あぁ、あのテム・レイとか云う」

「そうだ。ミノフスキー博士の弟子で、かれもまた優秀な科学者だ。テム・レイ氏の加入で、MS計画はまた一歩前進する。それによって、コロニーの歴史もまた前進するのだ」

「ドズルはともかくとして、何故あなたがそこまであのガラクタに執着するのかわからないわ、ギレン」

「お前の執着するニュータイプ研究とも関係してくるのだよ、キシリア」

「ニュータイプとMSに何の関連が?」

「ニュータイプこそ、新しい戦いの鍵になる。それ以上は、例のフラナガン博士に訊くが良い」

 と、“伝書鳩”からのメッセージがきた。テム・レイのムンゾ到着の知らせだろう。

「ギレン!」

「客人がお着きのようだ。――“ガルマ”については、お前に任せる」

 そう云って手を振ると、キシリアは、苛立たしげな表情でこちらを睨み、足早に部屋を出ていった。

 それを見送ってから、メッセージに目を落とす。やはり宙港にやった“伝書鳩”からで、テム・レイ父子の到着を確認したとある。ザビ家の使いが接触し、こちらへ向かっているとのことだ。

 ――よし。

 ここはムンゾ議会の議員宿舎だが、今日は特に出席しなければならない会もない。

 秘書を呼び出し、“父”の邸に戻ると告げると、そのまま宿舎を後にする。

 首相公邸――そう、まだデギン・ソド・ザビは首相の座に就いている――ではなく、元からの私邸に到着すると、ほどなくして客人の来訪が告げられた。

 応接室に赴くと、扉を開けた途端、客人がソファから跳ね上がるように立ち上がった。

「テム・レイ殿か」

「は、はい! あの、ギレン・ザビ閣下でいらっしゃる?」

「“閣下”は大仰だ、普通に呼んでくれれば良い。貴殿は、われわれの客人なのだから」

「は、はい……」

 落ち着かない様子で、きょろきょろとしている。いかなガンダムを開発した――いや、今は“している途中”か――天才的科学者と雖も、首相公邸のような大仰な建物には馴染みがないのだろう。

「貴殿とご子息の住居は、勝手ながらこちらで用意させて戴いた。とは云え、貴殿はおそらくダークコロニーに詰めることになるはずだ。そこに、MSの開発所があるのでな」

「ミノフスキー博士も、そちらに?」

 具体的な話になると、流石に技術者、途端に真剣なまなざしになる。

「そうだ。今は、量産に堪え得るMSを開発中だ」

「私は、そのサポートを?」

 少しばかりがっかりしたような表情。

 それに首を振ってやる。

「いや。貴殿には貴殿のプランがあるはずだ。貴殿には、そちらの開発にあたって戴きたいのだ」

「ミノフスキー博士とは別に、と?」

「そうだ」

 もちろん、メインはミノフスキー博士のMSのラインになるだろう。それはジオンのMSであるからには外せない。

 しかし、ガンダムは――ガンダリウム合金と云う素材も含め、連邦に渡すわけにはいかない。

 1stや『the ORIGIN』の中では、“ガンダム”は試作機でただ一機でしかなかったが、『Z』やその後の枝サーガ――という云い方で正しいのだろうか――では、既に量産体制に入っていた。

 ガンダムが量産機にならなければ、連邦のMSはガンキャノンやガンタンク、ボールなどに留まるはずだ。そのようなもの、ザクやドムの敵ではない。その後の技術流出さえ防いだなら、暫くはムンゾが軍事技術の尖端をゆくことになる。

 軍事力の差は、すなわち発言力の差に繋がる。いずれ、破損機などから連邦軍やアナハイムがより強力なMSを開発するとしても、その前にコロニー同盟を取りまとめ、少しでもこちらに有利になるように、巧くことを運ぶべきだ。

 それには、テム・レイの技術力は欠くことができないのだ。

「われわれは、月面都市やコロニーで同盟を作り、地球連邦と対等な関係を結びたいと考えている。そのためには、連邦軍に即座に鎮圧されることのない武力が必要であり、そのために貴殿の技術力が必要なのだ」

「わ、私の……!」

 テム・レイは、今までにそのような必要とされ方をしてこなかったのだろう。声を詰まらせ、目を潤ませると、こちらの手を取って、ぶんぶんと振り回した。

「是非! 是非とも私の力をお役立て下さい!!」

「宜しく頼む。ミノフスキー博士と切磋琢磨して戴きたい」

「はい!!」

 感極まったテム・レイの横で、その息子はきょとんと目を見開いていた。

 『逆シャア』ではブラウンの瞳だった――1stでは黒――が、このアムロ・レイはあおい瞳だ。と云っても、キャスバルのような青ではなく、ブルーグリーンに近い碧の瞳。

 口を少しばかり開けて、今にも“ほあぁぁ”とでも云いそうな顔である。

「……ご子息か」

 テム・レイに問うと、男ははっと我に返り、慌ててこくこくと頷いた。

「は、はい。アムロと云いまして、今年……七歳? 六歳だったか?」

 いかにも科学者らしい、身の回りのことに無頓着な返答に、思わず笑いがこぼれる。

「七歳だよ、お父さん」

 碧眼を瞬かせ、当の本人がそう云った。

 七歳。なるほど、やはり『the ORIGIN』だ――キャスバルとは七歳の差である。

「ほう、七歳かね」

「うん」

「私はギレン・ザビだ。君は」

「アムロ・レイ」

「良い名だな」

 ニュータイプの歴史を変える、素晴らしい名だ。

「私には弟がいる――十四歳で、君よりはかなり年上だが、仲良くしてくれれば嬉しいよ」

 もちろん、その隣りにいるはずのキャスバル・レム・ダイクンとも。

「嬉しいの?」

「あぁ」

 子どもは、少し考えると、やがてこくりと頷いた。

「わかった、仲良くする……します」

「頼んだよ。――今は、少しムンゾを空けているが、君を知れば、あれも喜ぶ」

「うん……はい」

「いい子だ」

 頭を撫でる。割合子どもには泣かれがち――泣かなかったのは、ダイクン兄妹くらいのものだ――だったが、アムロは強く頷いた。

「父上が出張している間は、ここにいると良い。もう少ししたら、弟も戻ってくる。あれを構ってやってくれ」

「わかりました」

 こくりとまた頷くのを確かめて、テム・レイを引き合わせるために、公邸にドズルを呼び出させた。

 

 

 

 キシリアは、結局ルウムへ――テキサスコロニーへと“ガルマ”を訪ねていった。

 三日ほどして帰ってきたキシリアは、シャア・アズナブル(本人)を伴っていた。早業である。

「……ふむ」

 ぶるぶるしながら目の前に立つシャア(本人)を見やると、ひぃなどと云って震え上がる。

 まぁ、ギレン・ザビは、ルウムなどでは蛇蝎の如き扱いであるのはわかっていたが、ジオニズムに傾倒していると云う割には、中々失礼な反応ではないか。

 しかし、こうして見ると、確かにキャスバルによく似ている。瓜二つと云って良い。ただ、その瞳が鳶色であることと、キャスバルの挑戦的なまなざしの強さがないだけで、他は体格に至るまで、本当にそっくりだ。

「“これ”が、“ガルマ”曰くの“友だち”と云うわけだな」

 キシリアに向かって云うと、“妹”は、薄笑いを浮かべて頷いた。

「そうよ。と云うか、あなたはご存知だったのではなくて?」

「……予測はしていた」

 答えると、軽く鼻を鳴らされた。

「流石はギレン殿。それで、この子を押さえるために、私をテキサスコロニーにお遣りになったと云うわけね」

「私が行くよりは、お前の方がまだ人あたりが良い。適任だろう」

「“まだ”をお取りになるべきね」

「失敬」

「……あ、あのぅ……」

 シャア(本人)が、上目遣いに問いかけてくる。

「ぼ、僕、一体何がどうして、ここに来ることになったんですか……」

 おどおどと問う。

 まぁ、それを咎めだてする気はない。いきなり故郷から連れ出されたかと思えば、ムンゾの首都、しかもザビ家の邸に連れてこられたのだ。キャスバルや“ガルマ”と接点があったとは云え、想定の遙か彼方の話だろう。

「……両親の承諾は得ているのだろうな?」

 キシリアに問うと、当然、と返された。

「私がその程度を抜かると思うの」

「いや」

 “ガルマ”ならば、事後承諾でやりかねないが、キシリアはそれはないだろう。

「――シャア・アズナブル、私はギレン・ザビだ。君に来てもらったのは、他でもない、あのままでは君の身に危険があると判断されたからだ」

 そう云うと、流石に馬鹿ではない、シャア(本人)は、恐る恐る、

「……それって、その、僕とキャスバルがそっくりだからですか」

 と訊いてきた。

 ――宜しい。

 それがわかる程度の知能ではあるわけだ。

「そうだ。知ってのとおり、キャスバルは、ジオン・ズム・ダイクンの息子であり、ムンゾの民にとっては、ジオニズムの象徴にもなりつつある。それが目障りな輩も当然あってな、先日などは、我が弟“ガルマ”とともに誘拐されかかったくらいなのだ」

「そ……それで、キャスバルたちはテキサスコロニーに来たんですか」

「そうだ」

 頷いてやる。

「キャスバルを利用しようと云う輩は、ムンゾの内外に山といる。その連中のうちには、キャスバルを傀儡にと考えるものもある。――愚かなことだ、キャスバルはそう云う人間ではない、いずれムンゾを、すべてのスペースノイドを象徴することになると云うのに」

「わ、わかります」

 シャア(本人)は、強く頷いた。

「キャスバルは、まさしくジオン・ズム・ダイクンの子で、スペースノイドを導くものになる――ちょっと会っただけの僕にも、あいつがただものじゃないことはわかります」

 そう云ってから、キャスバルを“あいつ”呼ばわりしたことに気づいて、慌てて謝罪する。

「うむ。――だが、キャスバルを傀儡にと考えるものたちにとっては、あの強い意志は邪魔でしかないだろう。そう云う輩が、キャスバルを殺め、その代わりに君をその身代わりにしようと企む可能性があるのだ。或いは君を殺めてその死体を晒し、キャスバル・レム・ダイクンを殺めたと云い張る可能性も」

「そ、そんな……」

「だからこそ、われわれは君を保護しようと考えたのだ。幸い、この邸には部屋も余っている。ここを我が家と思い、ここから学校へも通うと良い」

「えっ、それは……」

「有体に云おうか。われわれは、君をキャスバルの影武者にしようとしているのだ。その代償として、学費その他一切を持とうと云う、それだけのことだ」

「影武者……」

 シャア(本人)は、ごくりと唾を呑みこんだ。

「それって……その、かなり危ないこと、ですよね……?」

「否定はしない」

 士官学校へ行きたがっているキャスバルを“シャア・アズナブル”として入学させ、シャア(本人)は“キャスバル・レム・ダイクン”として、政治家の基礎を学ばせる。キャスバルが既にできることでも、この少年にはできないことはかなりあるだろう。それを補ってやりながら、影武者としても育てていく。

 ――結局、“赤い彗星”を誕生させることになるわけだな……

 天才パイロット“シャア・アズナブル”と、ムンゾの若き政治家“キャスバル・レム・ダイクン”と。二つの顔を持つことに。

 あのパイロットとしての技量を惜しむ気持ちは確かにあったが、こうなるとは――多少は思っていたが。

 ともあれ、それが成功するか否かは、この少年にかかっている。

「どうする? まぁ、拒否したからと云って、君をルウムに帰すわけにはいかないから、そうなればムンゾで飼い殺し、と云うことになるが」

 そう云ってやると、シャア(本人)は、暫く考えこみ、やがてこくりと頷いた。

「やります。どうせムンゾにいるなら、あいつがびっくりするくらい、あいつそのものになってやる」

 見つめてくる鳶色の瞳は、先刻までの怯みや動揺もなく、それこそキャスバルに瓜二つのものに見えた。

「宜しい」

 頷くと、

「この子は、私が面倒を見ることにするわ」

 とキシリアが云った。

 珍しい、シャア(本人)のことを気に入ったのか。

「任せる」

 と云うと、にこりと笑い、キシリアは少年の手を取って、案内するわと微笑んだ。

 

 

 

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