ザビ家成り代わり   作:くずみ@ぼっち字書き。

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【成り代わり】another ORIGIN 反逆の"ガルマ" 31【転生】

 

 

 

「ジョン・コーウェン中将閣下の最期の言葉を教えて差し上げましょう」

 部屋に入るなり、その男は言った。

「あの“悪魔”を殺せ――貴方のことですよ。ガルマ・ザビ」

 温度を感じさせない声だった。

 ――いきなりだな、おい。

 同席してる他の面々も、おれをここまで連れてきた監視員も驚いている。

 なにこの先制攻撃。

 どう返すのが正解か――“ショックを受けて黙る”ってのが普通の反応だろうけど。

「……モーブス中尉、いまはガーディアンバンチ駐屯地襲撃についての聴取ですぞ。関係のない話は…」

 同席してた調査官のひとりが、低い声で注意した。

 視線を向ければ、あれ、本当に不快そう。これが演技なら賞を総舐めだわ。嘘の匂いはしないね。

 これ、単純な飴ムチ対応って訳じゃ無いのか。

 改めて目の前の男を注視する。

 金髪。銀縁眼鏡の奥の目は糸みたいに細い。見た目もヒョロイ、けど、それなりに鍛えてそう。

 ――貴様か。

 貴様がおれを監禁して禄な食事も寄越さず、シャワーを水にしやがった絶許サディストか。

 モーブス中尉とか呼ばれてたね。

 乾いて少し切れた唇をそっと舐める。さて、どうしてくれようかな。

 視線が絡んだ瞬間に、見えない火花が散った気がする。同時に聴こえないゴングも。

「……ひとつ…よろしいでしょうか?」

 久々にまともに出した声はひどく掠れていて、席に着いていた面々がぎょっとした顔をした。

 拘束により窶れたというよりは、むしろ弱ってると言った方がしっくりくるだろう。

 最後のスープだけはしっかり食ったけど、それまでのほぼ絶食が堪えてる。

 汚れたまま人前に出たくないから、我慢して冷たい水もかぶった。

「なぜ、僕に……こんな仕打ちを?」

 コンディションは良い具合に最悪。演技じゃとても出せないヘロヘロ感が、これでもかってくらいに出てるだろ。

 会見の時ほどじゃないけど、アレを思い出した人間は多いはず。元気になった姿も見せてたから、逆戻りの衝撃もあるよね。

 おれの顔色の悪さにつられてか、数人が顔を青褪めさせた。

 腐ってもザビ家の御曹司。そのガルマ・ザビが、2週間足らずの謹慎で、なんでこんなにボロボロにされてんのって話だ。

「さて何のお話でしょう? 私は適切に管理せよと指示している。何かの間違いが?」

 顔色ひとつ変えずにすっとぼけてる、そのことこそが、首謀者って言ってるようなもんだ。

 一応ダメ押しに、おれをここまで連れてきた監視役を振り返ったら、ものすごい勢いで首を振った。その目にはモーブスを責める色が浮かんでる。

 室内の視線が、つられたように糸目の男に向けられ――その視線は二通りに分かれていた。

 一群は批難を乗せた眼差しで、もう一群はどうするのかと伺う様子。

 なるほど。ここ、二勢力いるみたいね。

 サディストは、軽く肩をすくめた。

「何にせよ、私は総帥閣下より直々に申し付かっている。あなたがどんなに哀れな姿を見せても、決して篭絡されるなと」

 唇が形だけの笑みを作る。

 声は滑らかな低音――ムンゾ訛りは皆無だ。

 “ギレン”に遣わされてきたと、そう言いたいんだろうけど。

「姑息な真似はお控えなさい」

 吐息みたいに、けれどこの部屋の全員に聞こえるように声を張る。

 頭を上げ、眼差しは真っ直ぐに。

 少しだけ見開かれたモーブスの瞳の色だけは、綺麗な薄緑をしていた。

「“ギレン兄様”が、こんな嫌がらせを指示なさるはずがない。兄は高潔なひとです。たとえ虜囚が相手であっても、無碍に扱う事はありません」

 きっぱりはっきり断言してやろう――おれ相手ならともかく――虜囚や捕虜に対しては絶対、丁重に扱うよう命じるね。

「“ギレン・ザビ”の名を貶めるような言動は謹んで頂きたい」

 要約するなら、「貴様、ザビ家に喧嘩売っとんのかゴラァ」ってことな。

 位階は、士官候補生のおれの方が下だけど、ザビ家の人間として譲れない点は主張させて頂こう。

「僕に対するこの扱いが、他の人間にも為されていたら、それこそ大きな問題です。本件については、別に精査を」

 ちらりと視線をサディストとは異なる勢力へと投げる。これ圧力だから。

 しっかり頷いたのを確認したところで、薄く微笑んで会釈。

「……この場は、我々が決起した件についての審問と伺っております」

 さあ、話を戻してやるから始めろよ。

 糸目と視線をカチ合わせれば、聴こえない舌打ちを聞いた気になる。

 口喧嘩は得意な方じゃ無いけど、ギリギリ詭弁に落ちない思考誘導なら十八番なんだよ。

 少し弱らせたくらいで、優位に立てると思ったか、お間抜けめ。

 

 

 ――……。

「それでは、最初から伺いましょう」

 まじか。

 これで5回目なんだが。

 あれから何時間経った?

  調査委員がそろそろ白目を剥きそうだけど、問題ないの?

 そして、いい加減に座らせろよ、せめて。

 サディストとの戦いはまだ続いている。

 なんか これ、知らんところで怨みでも買ってたのかな――なんかそんな気がする。

  ふう、とため息が。

 こいつ、猫皮剥がそうとしてやがんのか――不快さを煽って、体力も削って、本性を顕せと――そう簡単に剥げねぇよ。

「首謀者はあなたですか?」

「そうです」

「しかし、その他大勢が、同様に言い出したのは自分であると主張しています」

「それでも、首謀者は僕です。言い出したのが誰であるかは重要じゃない。誰もが口にしていた。想像できませんか? ここにはルウム出身者が多い。家族や友が連邦の治安部隊による弾圧を受けて、果たして冷静でいられるでしょうか?」

 やり取りは単調だった。

 訊かれたことに対して、おれは何度でも同じ回答を返してた。

 だけど、ここからは感情をより多く加味してやるよ。疲労で抑えられなくなることを期待してんならな。

「級友がそのことで苦しむのを目にして、歯痒く思わないとでも? 不安があった。不満もあった。皆が我慢していた。そして――あの日、ルウムへの増派の発表があったんです」

 暴発の引き金になったのは、あくまでもルウムへの増派がなされたことだ。

 それは、とりもなおさず一つの事件に起因する。

「たった14歳の子供を撃ち殺しておいて、“反社会的勢力への措置”であったと、そう言い張られて納得しろと? 誠実さを見せるなら兎も角、さらにルウム側の嘆願も無視して増派? ……ルウムの市民はどうなります?」

 デモ隊への制圧は、より苛烈なものになるだろう――誰もがそう考えたはずだ。

「……あの場には僕の姉と、その婚約者も居ました。一個大隊を前にしても、彼らはルウム市民の盾となったでしょう」

 息を吸って、吐く。

 内にある熱を逃がすように――心火はいつだって燻っていて消えたことが無いんだ。

 腹の底で、煉獄に繋がれ続けてる“獣”が唸る。

「君は、ただ姉のために、あの暴挙に出たと?」

 その嘲るような声に、視線を合わせる。

「……ザビ家が何を護っているのか、お分かりではないのか? 侮るのもいい加減にして頂きたい」

 温度の抜け落ちた声が口からこぼれ落ちた。

「父はムンゾを我が子と引き換えても護るでしょう。兄達と姉は、ムンゾのみならずコロニー社会を、その身に代えても」

 それを否定できる人間は、ここには居ないだろう。現に、デギン・ソド・ザビは“最愛の息子”を、国民のために人質に差し出してんだ。

 おれに向けられる複数の視線に、憐れみが混じった。

「ならば僕が護るべきは何です?」

 答え合わせは勝手にしてろ。

 おれの護るもんなんて、おれが護りたいもんだけだ。

 そして、沈黙。

「……良いでしょう。では、次です。本件については暴発とされていますが、それにしては手際が良すぎる。用意周到と言っても良い。この点は?」

「僕たちは火急の事態にも対処出来るよう日々訓練を受けています。手際が良いと言うならその賜物。称賛と受け止めます」

 褒めてないのは端から承知。

 その上で、貶すこともできないのを、おれ達はみんな知ってるんだ。

 混ぜっ返せば、薄緑の眼差しに険が増した。

「……次。潜入の経緯を最初から」

 はいよ。なんつーか、よく飽きないね?

 繰り返す話に新鮮味なんか無かろうに、5回目のそれを聴く調査官達の眼は鋭かった。

 加えて、さっきから扉の向う側で複数の人間の気配がしてる。盗み聞きとは行儀が悪い。

 ――まぁ良いけどさ。

 部屋の中の面々は気付いていない様子。ここまで止められずに来られて、尚且つ部屋を窺ってても咎められない相手なんて、格上に決まってる。

 とうとう来たのか。連邦の後始末係。誰になったか知らないけど。

 この後、別陣営からの審問続行になったら、なんて思うと流石にゾッとしねぇわ。

「――……。なるほど、非常システムは停止から15分で機能を回復させるつもりだったと」

「はい」

「たったそれだけの時間で、武装解除とルウム増派の阻止をするつもりだった?」

「はい」

 現に、やってのけたじゃないか。

「部隊長に要求をのませた後、君たちはどうしたのか?」

「全速で退却しました」

「何故?」

「システムが回復すれば明かりが戻る。それまでに撤退するためです」

 相手に正常な視界が戻る前にとんずらする手筈だったのは、本当のことだ。

 よもや、システムの回復から数分で中央管理棟が倒壊するほど砲弾を撃ち込むなんてさ。

「……君にはひとつの嫌疑が掛けられている」

 5度目にして、その言葉は初めて聞いた。

 小首を傾げて見せれば、モーブスは薄く嗤った。

「この事件に紛れて、部隊長をはじめとした連邦士官を抹殺したと」

 ふっ、と、肺から息が落ちた。

 表情が呆れたものになるのを隠すために、俯く。

 何言っちゃってんだろ、この男は。

 ――だって、そんな必要ないだろ?

 ここで殺さなくたって、コレだけの失態だぞ?

 卒業前の士官候補生達にしてやられたんだ。どのみち先なんか無いし。

「なぜ、そんな疑いを? 誓って、それはありません」

 一片の曇りもなく否定する。思わずお目々が澄み切っちゃったじゃないか。

「ガルマ・ザビ、君が地球に降りてから、君を巡って少なくとも三人の将官と二人の佐官が失われた」

「……はい」

「尉官以下を含めれば、目を疑うほどの数だ」

「……痛ましいことです」

 そうだね、知ってる。

 思ってたより多くてビックリしたし。

「ですが、僕が地球に降りたのは、ジーン・コリニー中将閣下がそれを望まれたからです。ムンゾへの武力行使の停止と引き換えに」

 それは、覆しようのない事実だろ。

 おれが望んだんじゃない。ムンゾから送り込んだ訳でもない。

 降りた先で、火サス並に人間関係が絡まっただけだ。

 その結果の“暴発”があれ。

 何を指示した訳でもない。第三者から見たとき、“ガルマ・ザビ”は、ただ微笑んでそこに居ただけだ。

「諸将を誘惑した結果でしょう?」

 モーブスの薄緑の眼が、嘲笑うように細められた。

 わかり易い挑発だ。

「……三度目です。ザビ家を貶める発言は」

 いいだろう。乗ってやるよ。

 睨む瞳に力を込める。ザビ家の眼力だ。なかなかのもんだろ。

「悪意をもってしか物事を見ることができないのか。それともゴシップ誌の記事を事実と受け止めているのか――いずれにせよ、そろそろ発言には注意を払っていただきたい」

「人間、図星を指されると饒舌になるそうですよ」

 嫌味ったらしい笑い。

「どこまで愚弄するおつもりですか。これはどなたの意志です? 誰の指示で、どんな目的で、僕を貶めるのでしょう。ジョン・コーウェン中将閣下の亡霊でしょうか? あなたが最初に発言した」

 あの不適切な発言を、ここにいる皆が思い出したはず。

「モーブス中尉。あなたはアースノイドですね?」

 口に出せば、部屋の中に動揺が走った。

「ガルマ・ザビ、その発言は…」

「違いますか? そのイントネーションには聞き覚えがあります」

 遮って突き付ける。

 もしかして、グリーン・ワイアットと同郷なんじゃないかな。訛りのない、美しい“王妃の英語”。バークシャー辺りの。

「敵討ちのおつもりでしょうか?」

 ここまで一連の、非常識なまでの“ガルマ・ザビ”への扱いのあれこれは、そういう意図があったのかと。穿った見方をすれば、そうとも取れるよね。

 室内の空気が一気に険しくなった。

 おれに対してじゃなくて、モーブスに。皆の目が問いかけている――お前は“連邦のネズミ”かと。

 もしかしたら“ギレン”は知ってるのかも――いや知ってるなこれ――でも、他の面子は知らなかっただろう。

 ――さあどうする。

 この場は、おれに有利に整った。ひとつ息をついて、深く頭を下げる。

「失礼しました。言葉が過ぎました。謝罪します――誤解のないように申し上げるなら、僕は別に貴方がアースノイドでも構わないんです。そもそも、このコロニーにどれ程の元アースノイドが暮らしてるか」

 肩をすくめて微笑む。

「友人にもアースノイドが居ますから、それをどうこう思うことも無いんです。ただ、あまりにも酷いことばかり口にされるので、つい」

 売り言葉に買い言葉であったと、そう始末をつけ、もう一度、ペコリ。

 あとはそっちで頑張ってね。

 さて。ドアの向う側のお客さんも、そろそろ動く頃合いかな。

「失礼する」

 案の定、ノックもなく扉が開かれ、数人の男達がつかつかと入ってきた。

 誰かの、咎め立てしようとした声は、途中で消えた。男たちが、連邦の将校の制服を身にまとっていたからだ。

 ――……なんか。

 思ってたよりも偉そうなんだけど?

 うち一人の、この色と形の軍服って、将官クラスのはずだよね。

 徽章は准将だ。

 なんでコロニーくんだりの駐屯地の始末に准将が? 普通は佐官クラスだろ。

 それにしても、何処かで見たような顔だった。

「いつまで待たせるつもりかね。彼はこちらで聴取する」

 ポカンと見てたら、唐突に腕を取られて引き寄せられた。

 あ〜れ〜。いきなり何すんのさ乱暴な。

 ぽすんと、ほとんど抵抗もせずにその胸に倒れ込めば、自分でしたくせに慌てた様子で支えてくる。

「おい、君!」

「はい。……失礼しました」

 どっこいしょ、と、身を起こして、謝罪。

 視線を合わすと、男は怪訝そうに眉を寄せて、白い手袋を外した手でおれに触れてきた。

 冷たくて気持ちがいい。

 ジッとしてると、その顔はみるみる険しさを増していった。

 ああ。そうだね、なんか熱っぽいと思ってたんだ。やっぱり発熱してたか。

 自覚したら、めちゃくちゃ辛くなったじゃないか。

 やって来た将官が何かを怒鳴ってる、と、思いつつ、膝から力を抜いた。

 ゴメンよ、ちゃんと支えててね。

 ――ちょっと寝るわー。

 ぶっ続けで審問なんか冗談じゃないから、プツンと意識の糸を切る。

 起きたらまた頑張ろう。そんなこんなで――おやすみなさい……。

 

        ✜ ✜ ✜

 

 点滴が好きな人間がこの世に居るだろうか。

 少なくとも、おれには心当たりが無いし、個人的には大嫌いだ。

 痛いとか痛くないとかじゃない。

 だいたいずっと針が入ってるって、何その拷問。

 めちゃくちゃ眉を下げて、包帯で隠されてるそこから伸びている管を睨む。

 あれか。意識を落としてる間に刺されてたのか。何たる誤算。

 そっと寝せといてくれるだけで良かったのに……。

 おのれ赦さんぞサディスト。全部貴様のせいだからな!

 それはそれとして、抜いてくれ、頼むから抜いてくれ。

「……針、抜いて……」

 涙目でぷるぷるしてたら、なんだか吹き出すような音が――って、人が居たよ。

 誰だ。連邦将官の軍服ってことは、さっきの人か。

 何でいるのさ。見舞いなんて筈は無いし――そんな暇があるとは思えん――って、ここで事情聴取なんて無慈悲なことを始めるつもりか。

「ガルマ・ザビ、点滴が嫌いか?」

「好きな人がいるとは思えません!」

 きっぱりと。

「……そうだな。私も嫌いだ」

 とか言いながら、口の端がひくひくしてんのは、笑いでも堪えてるのか。

「医官を……針を……」

「残念だが、まだ刺したばかりだ」

 言われて管から繋がる先を見れば――見なきゃ良かった――薬液はひたひたに満たされていた。

 絶句してうなだれるおれの横に、将校は椅子を引き寄せて腰を下ろした。

 医務室らしき部屋には、まだ他にも誰かがいるようで、カーテンがユラリと不自然に揺れた。この男の護衛か、会話を記録する係かな。

「可愛そうだが、私もこれで忙しい身の上だ」

 そうだね。主におれ達がやらかした件について。

「少し話を聞かせてもらおう」

「はい」

 素直に頷いて視線を合わせる――けど、ごめん。時折、視線が針の方にブレる。抜いてくれ!

「……いや。うん。あの審問官とあれだけ渡りあっていた人間が、こんなに細い針を怖がるとは」

 ククク、とか笑うけど、そうじゃない。

「お言葉ですが、閣下。怖いのではなく、嫌いなのです」

 怖くなんかない。嫌いなだけだ。

「……そうか」

 頷くのなら、そろそろ笑うのをやめてもらおうか。

「悪いとは思ったが、話しは部屋の外で聞いていた」

 だろうね。ずっと気配がしてた。

「君達はここの兵営に対して攻撃し、尚且つ撃破した。その経緯や作戦、被害状況などは徐々に明らかになってきている――決して称賛できることではないが」

 将官はそこで言葉を切って、溜め息と共に首を振った。

「率直な感想を言わせてもらえば、何故、君達が我々連坊軍の士官候補生では無かったのかと」

 めちゃくちゃ渋い顔でこっちを見るから、思わず眉を下げてペコリ。

 称賛できないと言いつつも、これって絶賛じゃないか。凄いぞ高評価。

 逆から見れば、被害の大きさに怒髪天突いてる感じ。ふぉう、連邦軍の半分…以上はムンゾ潰せって叫んでるんじゃないかな。

 比較的和やかに会話してるところあれだけど、誰なんだ貴方。記憶にあるような気がしてるけど、地球で会ったことは無いはずだ。

「閣下に直接お目にかかるのは初めてですね」

 窺う視線に気づいただろう。将官は、少し帽子の鍔を持ち上げて顔をよく見せてくれた。

「ああ。連邦駐屯軍の部隊長を仮に務めることになった、ワッケインだ」

「こんな形でお会いすることになり、申し訳ありません」

 真っ直ぐに謝罪。

 理由あってのことっていうのは、おれ達の都合。ワッケイン達にとってはいい迷惑なのは変わらない事実だ――ワッケイン?

 え。ワッケインってあのワッケインか。“寒い時代”の。

「それは基地爆破についての謝罪か?」

「いいえ。それにより、御手を煩わせることにです」

 そこは譲れない。

「他に遣りようは?」

「増派を思いとどまって頂けるよう、抗議書や嘆願書を」

 一応出しといた。ムンゾとルウム両方に。当然のように無視されたが。

「……出していたのか」

「はい」

 いきなり襲撃した訳じゃないんだよね、これが。度重なる抗議、嘆願に耳を貸さなかったのはアチラだ。

 なんのサインもなく不意討ちされたなんて、そんな言い分は通らないよ。

 その証拠もちゃんと調査官の手に渡ってる。

「――……閣下。生意気だと思われましょうが、僕たちは家畜じゃない。屠殺所に引かれていく仲間をただ見送るしかできない生き物ではありません。家族や友を護るためには牙を向くこともある。けれど、それは必ずしも体制に闇雲に歯向かおうとしてる訳ではないんです」

 地球に根ざしてないと言うだけで、どうしてこんなに差別されねばならない。

 例えば、スペースノイドには連邦議会の議席はない。コロニーに関する法律がそこで定められるというのに、住んでいる人間達は蚊帳の外だ。

 例えば些細な罪状で、裁判もそこそこに投獄されたり。

 地球で商売をして成功したら、急によくわからない理由で追い払われた挙句に資産を没収されたり。

 哀しいかな、それは日常茶飯事だ。

 不平等を言い立てても、黙殺される。アースノイドではない。それだけの理由で。

 更には命すら軽く扱われる。

 憤るなというほうがおかしいんだ。

「だから彼らは手を噛まれたと、そう言いたいのかね」

「噛まれるような真似をしていなかったとでも?」

 落ちた沈黙が答えだった。

「ワッケイン准将閣下。……閣下の眼に映る僕たちはなんです? 人のかたちをしているだけの“なにか”ですか?」

 真っ直ぐに視線を合わせる。

 鋭かった眼光が怯むように揺れるのを逃さずに。

「いま、閣下の眼に映る“ガルマ・ザビ”は、何です?」

 貴方は人間を相手にしているのか、それとも棄民の末――廃棄物のようにソラに捨てられた“なにか”を相手にしているのか。

 返答次第では、容赦しない。

 短くない沈黙のあと。

「人間だよ。我々となんら変わることのない、ただ宇宙に生まれただけの――少し生意気な少年だな」

 その回答に、思い切り開け透けに笑った。だって、嘘の気配は無かったから。

 良かった。送り込まれてきたのがワッケインで。

 “交渉が可能な相手”だ。

 アースノイド至上主義者は論外だけど、そうでなくとも、殊更にコロニーを下に見る輩は少なくないんだ。

 ワッケインが小さな目を見開いた。

「……子供のような顔で笑うのだな、君は――そう言えば、まだ二十歳にも届いていなかったか」

「そろそろ19になります」

 ツンと鼻を聳やかして主張。子ども扱いはいただけないね。

「……そうか」

 頷いて、准将は白手袋に包まれた手を頭に置いた。

 ふぉ。撫でるのか。ビックリした。

「だが、君は、“英雄”にはなれない」

 何故か残念そうな表情と声だった。

 思わずキョトンと。

「あれだけの所業をしてのけた僕を、父も兄も庇えないでしょうから。当然でしょうね」

 いかに世間が湧いてたって状況が赦すもんか。連邦軍に攻め込まれるわ。

 当たり前の回答に、ワッケインが驚いた顔をするから戸惑う。

「それも覚悟のうえか」

「泥を被ってでも成すべきことだと判断しました」 

 ルウムへの増派は――あれは、即時での開戦に繋がりかねない事態だったから。

「閣下が僕を処断されるのでしょう? ――叶うことなら、もう地上には降りたくありませんが……どうか御随意に」

 深く頭を下げる。

 そこは大人しく従ってやるよ。

 レビルあたりは、首に縄を掛けてでも連れて来いって言ってるはずだ。

 地球に連れて行かれたら良くて禁固。悪くすれば処刑――からの開戦だろう。

 だけど、このあたりの流れは、多分、“ギレン”が防ぐんじゃないかな。

 むしろゴップが嫌がりそうだし。

 恭順の意を示したおれに満足したのか、ワッケインは見舞いの言葉を残して去っていった。

 それなりに時間が過ぎていたらしく、点滴の薬液はわずかになっていた。

 ――終わるぞ!

 抜いてくれ。針を抜いてくれ!

 祈っていればいつもの医官がやって来て、ひどく酷薄な微笑みを浮かべた。

「まだ弱っていますね、ガルマ・ザビ」

 ちょっと待って! その手に持っている薬液は何だ!?

「もう一本くらい打っておきましょう」

「もう十分です!」

「遠慮は要りませんよ、さあ」

 なんでそんなに笑顔なのさ。

 ――ここにもサディストがいたよ!

 逃げようにも針から繋がったチューブを、医官はしっかり押さえていた。

「おいたをするからこういう目にあうんです。懲りたらおとなしくしていなさい」

 唇は笑みを作ってたけど、双眸は全く笑っていなかった。

 底なし沼みたいに深くて暗い眼差しの奥には、重たい怒りがぐらぐら燃えていた。

「身体は、大事に、しなさい」

 わざと食事を残してた事に、多分、医官は気づいてるんだろう。

 途轍も無く手際よく繋がれるチューブ。

 非情にも点滴スタンドにはたっぷりと薬液が入った袋がぶら下がっていた。

 当然そこから伸びる管は、おれの腕に。

 ――抜いてくれ!!

 その叫びが聞き届けられたのは、もうしばらく先のことだった。

 

 

「こっちがプリンでこれはゼリー。ババロアにムースにパンナコッタ。こっちの栄養ドリンクはライトニング達からね」

「……って、クムラン。君、なにサクッと侵入しちゃってんのさ?」

 熱が下がっても、おれの拘留場所は医務室だった。

 ドズル兄貴が心配しての措置かと思いきや、ワッケインの指示だった。

 ちなみに兄貴は面会禁止――と、いうより全面的に禁止されてる筈なんだよ、面会。

 消灯前に姿を現した同輩は、ベッド脇のデスクに見舞いをバンバン並べてくれてるけどさ。

「それ持ってこっそりお帰りよ。審問官や調査官ならまだしも、連邦士官に見つかったらタダじゃ済まないんだから」

 せっかくおれが全部の責任を被ってんのに、わざわざ罰則を喰らうような真似はお止しと咎めたら、クムランは何でもない顔で笑った。

「大丈夫。ガルマさんに届けてよって連邦仮本部にお願いに行ったら、直接届けてこいって言われたから」

「……どういうことさ」

 そんなに緩いわけないだろ連邦軍。

 思考波で探れば廊下の先に誰かいる――なんなの、クムランに盗聴器でも仕掛けてるとか?

 別に良いけど。

 尻尾を出すのを待ってるならお生憎さま。

 聞かれて困る会話なんかしやしない。おれも、クムランも。立場は理解ってるからね。

「どうもこうもないよ。ガルマさんが絶食を強いられたって聞いて、みんなカンカンだからね! しかも倒れたって!!」

 憤懣やるかたない口調だった。

 ん。ゴメンよ。半分くらい自分のせい。

「心配かけたね。もう大丈夫。あの医官、点滴二本も打ってくれちゃったからね!」

 ふん、と鼻を鳴らしたら、クムランが吹き出した。

「なにさ?」

「ううん。相変わらず点滴嫌いなんだなぁって。僕も嫌いだから気持ちは分かるんだけどね。でも、顔色も良いし、安心した」

「……心配かけてごめん」

 ちょっとショボン。思ってたより頭に血が上ってたみたいだ。あのサド野郎とのバトルばかりに気を割いて、心配かけることまで考えてなかったし。

「良いよ。ガルマさんが無茶することは、みんな知ってるし」

「“シャア”ほどじゃないよ。ね、彼はおとなしくしてる?」

 キャスバルを“シャア”と呼んだことで、クムランは一瞬緊張して、すぐに何食わぬ顔をして笑った。

 誰かがこの会話を聞いていることを確信した顔だった。

「ご機嫌斜めだよ。シンが宥めてる。ガルマさんの見舞いに来るって言ってたけど、許可が下りなかったんだ」

「……そう」

 どうりで意識がトゲトゲしてると思った。

「シンはすっかり“シャア”の世話係だね」

 おれより頼りがいあるもんなぁ。

 不在の半年間で、ポジションを確立してたか。

「拗ねなくてもいいのに」

「拗ねてないよ!」

 別にそこまで狭量じゃないし。悔しいとか、ちょっとしか思ってないし。

 否定しているのに、クムランはくふくふ笑うばかりだった。

「ほら食べてよ。せっかく作ってくれたんだから」

「厨房にお願いしたの?」

「お願いしに突撃したら、持ってけって持たされた。もう作ってくれてたんだよ」

 プリンもゼリーもムースも、胃に負担をかけないものばっかりだった。

 ババロアとパンナコッタは、同じような理由で、でも、もうちょっと重ためのものを食べたがったらって事なんだろう。

 うわぁ。優しさが心に沁みいって、どっかに残ってた良心にチクチク滲みた。

「ありがとうって伝えて。一緒に食べよう。その方が美味しいし、こんなに持たせてくれたってことは、厨房の人もそう思ってのことだよ」

「実は期待してたんだ!」

 パッと明るく笑って、クムランが頷いた。

 これだって食い意地が張ってる訳じゃなくて、おれを寂しがらせないための心遣いだ。

 “ガルマ・ザビ”は、とことん周囲の人間に恵まれてる。

 この温情に報いるには、どれだけ釈迦力になればいいんだろう。

 ただ他人を利用するために分厚い猫皮を被ってきたけど、与えられる情にほくそ笑み続けるのは、存外骨が折れるんだよ。

 いつのまにか情に縛られている。悪くないと思う自分が少し怖い。

 抱えきれないものは、そのうち、どうしたって零れ落ちるのに――何もかもを護れるほどに、この身は万力じゃないからさ。

「クムラン、君は強くなった。でも、もっと強くなって欲しいって思うのは我儘かな……?」

「何言ってるの。そりゃ強くなるよ、ガルマさん。これからだってもっともっと。僕も兵士だし。そのためにここにいるんだよ?」

「……うん」

「大丈夫だよ。みんなそう思ってる。今回だって、三回生は、みんな生還第一で臨んだんだ。もちろん二回生有志もね」

 そこで言葉を切ったクムランは、思い出し笑いなのか、くふふふと声を上げて笑った。

「ロメオがね、ガルマさんが悲しむから、絶対死んでも死ぬんじゃないぞって檄飛ばしてた。変な言い回しだよね」

 ――“生き残れる兵隊”が欲しい。

 以前、ロメオに零した言葉だった。

 打算とか、そんなもので濡れた陳腐な言葉だったはずなのに、こんな風に返ってきた。

 鼻と目の奥が熱い。

 クスンと鼻が鳴った。

 なにかが込み上げそうになるから、慌ててプリンを掴んだ。

 早く飲み込んじゃわないと。零したら格好悪い。

「食べよう!」

「そうだね、じゃあ、僕はこれ」

 ババロアを手にとって微笑むクムランの眼差しは穏やかだった。

「甘いね」

「……うん。なんか、優しい味」

 ふんわり。甘いんだけど、甘すぎない。滋養って感じ。

 舌の上でぷるぷるする食感も含め愉しんでたら、とうとう戸口に気配が近づいてきた。

 誰なの。さっきからずっと居たよね。

 いまはもう隠す気のない硬い靴音が、夜の廊下に響いてる。

 スプーンを口に運ぶ手を止めて、ふたりで緊張した顔を戸口へ向ける。

 ドアは開け放してある。

「消灯時間は既に過ぎているぞ」

 現れたのは、まさかのワッケインだった。

 ちょっと待って。暇じゃないだろ。准将が何してんの。

 様子見とかは部下に任せておきなよ。アンタはムンゾとの交渉とか色々あるんだからさ。

 ポカンとしたのは呆れたからだけど、あちらは、突然他人が現れたからだと判断したらしい。

 ひとまず姿勢を正して迎えいれたけど、何しに来たのさ?

 昼にも会ったばかりだろうに。

 慌てて部屋を辞そうとしたクムランを一瞥。

「それを食べ終わる時間くらいは、待ってやらないでもないな」

「……恐縮です?」

 わけが分からなさ過ぎて疑問符がついた返答を気にするでも無く、ワッケインは寝台の横までやって来た。

「よろしければ、准将閣下もお召し上がりになりますか?」

 にこりと笑って差し出す。

「ムースとパンナコッタです」

「――……見た目で判断できないのだが、何か違うのかね?」

 真面目な顔で何を聞くかと思えば。

「食感がだいぶ違います。ムースはふわふわ、パンナコッタはツルッと滑らかです」

 少し迷ってから、ワッケインはパンナコッタに手を伸ばした。

 疲れた顔をしていたけど、スプーンを口に含んだ途端、表情が僅かに緩んだ。お気に召したのかな。

 ムンゾの士官候補生と、連邦の准将が並んで冷菓を食べてるって不思議な絵面だよね。

 しばしの沈黙。だけどあんまり居心地は悪くない。最初少しだけそわそわしたクムランも、すぐに落ち着いた様子だし。

 変に気安い空気が流れてる。

 手のひらに乗る大きさの、ささやかな甘味だ。すぐに消費されてしまうのがちょっと寂しい。

 マッケインは一つ息を吐いた。

「こうして見るに、普通の少年のように見えるんだがな、君たちは」

 何故か少し責めるような口調だった。

「調べれば調べるほど、今回の件については、ムンゾ国軍が関与した証左が出て来ない」

 その言葉に、クムランと目を見交わして、パチクリ。

「関与してませんから」

 回答すれば、クムランもコクリと。

「止められないように頑張りました!」

「ドズル兄様を足止めして、システムに介入して、ドックベイを閉鎖して、ね」

「ミアが死ぬほど緊張したって」

「でも、彼女しか兄様止められる人間いないでしょ?」

「ガルマさん以外にはね」

 ワッケインがこめかみを揉んでいる。

「でも、本当にビックリしたし怖かった。まさか、司令本部が吹き飛ぶとは思ってなかったから」

「僕も! “シャア”も焦ってたよ。ガルマさんを迎えに行けってすごい剣幕だった」

「来てくれて助かった。予定してたポイントまでは到底行きつけなかったと思う」

 思い出してぶるぶるしてるおれ達を見るワッケインの眼差しは、何故だが虚無っぽい。

「――……本当に…本当に学生だけであれを?」

「「はい!」」

「――…………ノーマン・モーブス中尉だったか。彼も、全てを詳らかにするべくあの措置をとったそうだが」

 やめて、ワッケイン。その話題はダメだ。

 クムランの顔が大魔神みたいなことになってるから。

「他のどの調書でも、君達のみで成し遂げたものだと」

 真っ直ぐに向き合って頷いた。

 だってそれが事実なんだ。

 冷菓を食べ終えたワッケインは、重い足取りで帰っていった。

 去り際、ギリギリ不自然にならないようにクムランの肩のあたりを叩いてと言うか、触っていったのは、襟に仕込んだ盗聴器でも回収したのかな。

「じゃあ、僕も戻るね。明日もまた来るよ」

「許可が下りたらね」

 一応念押ししてるんだが、分かってるのかいないのか。「おやすみなさい!」なんて明るい表情のままクムランも去っていった。

 ひとりになった医務室はガランとして寂しかった。

 キャスバルは相変わらずトゲトゲしてて、思考波での会話も素っ気なかった。

 それから数日間、この医務室に拘留された訳だが――医官の監視が一番厳しかった――クムランはともかく、何故だがワッケインも毎日来た。

 三人並んで差し入れを食すって、どういうことなの。

 プリンやムースから始まった見舞いは、そのうちにサンドイッチやパンケーキと言った軽食に進化してた。ローストビーフサンドとか、軽食通り越してる気もする。

 ティーセットも持ってきてくれたから、手ずからお茶を淹れて振る舞えば、ひどく寛いだ空気が流れた。

 さり気なく医官もやって来て、自分の取り分を確保して去っていくのもオカシイ。

 ここ、拘留地だよな?

 取り立てて責められることもなく、主にワッケインの愚痴を聞いたりして時間を過ごす。

 疲れた顔をしてるから、せめてもと穏やかな空間を作り出して、慰撫する。

 どうにもキャスバルがクセ者で、聴取の時にも端々で口撃され、新しい審問官がタジタジらしい。

 ほんとに何しちゃってんのさキャスバル。自分から心象悪くしてどうすんの。

 加えて“ギレン”の相手も骨が折れるとか。

 あの手この手で交渉しても、それを上回る先手を打たれるとかで、副官がとうとう知恵熱を出したってさ。

 ワッケインは顰め面でやって来て、帰るときには眉間のシワを伸ばしていた。

 ちょっと待って。なに、ストレス解消って言うか、ここでリラックスしてんのかアンタ。

 ――んん。まぁ良いかな。

 ワッケインを取り込んでおけば、ムンゾへの措置は僅かでも甘くなる筈。おれに対しての処分もね。

 そんな日々も10日で終わった。

 

        ✜ ✜ ✜

 

「『男前だ!!』」

 久々にナマで見た幼馴染は、腹が立つほど格好良かった。

 なんだよお前、どっかのランサー(シャイニングフェイス)と張り合って余裕で勝つる輝きぶりじゃねぇか。

 霞むわ、その輝きでおれが霞むわ。

 ギリギリしてれば、青い瞳が物凄く呆れた視線を寄越した。

「『帰るなり何を馬鹿なことを言ってるんだ君は』」

「『バカって言う方がバカ!』」

「『言おうが言うまいが、事実は変わらない』」

「『なんだとぅ!?』」

 ガルグル唸りながら抱きつく。

「『ただいま、キャスバル』」

「『おかえり、ガルマ』」

 寮室に戻され、久々の再会である。ほぼ一月ぶりか。

 行動はまだ制限されてるから外を出歩くことはできないけど、寮内であれば監視付きで許可がおりた。

 キャスバルと連れ立って談話室へ赴いたら、沢山の包帯野郎達から歓呼で迎えられた。

 いつかの時間軸では凱旋パレードなんかをやってたけど、こっちでは皆んな拘留だからそんなことは無い。

 市街では、士官候補生達を開放せよとか何とかデモがあったとか――取り調べ中なだけだから、じきに開放されるよ。

 寮内は概ね穏やかだった。

 帰って来ない仲間を偲ぶしめやかな空気も流れてる。

 戦車隊と対峙した左翼の一角。ニ回生が崩れて被害が出て、フォローに走った三回生も数人が犠牲になった。

 写真を見て、姿を記憶に焼き付ける。

 こいつらも背負ってかなくちゃいけない。そう決めたから。

 そして、卒業を目前にして、処分が決定した。

 ドズル兄貴の校長辞職は早々に決まっていて、それに加えて、“ガルマ・ザビ”の無役での除隊と、その後の兵卒での入隊。

 その他の面々については厳重注意かつ、各配属先での監督だって。

 発表された時には激震が走った。

 ザビ家の愛し子が本件のすべての責任を負い、実家の庇護を剥ぎ取られて底辺で入隊すると。

 ワッケインも驚いてた。

 キャスバルはアルマイトのカップを床に叩きつけて凹ませてたけど、まぁ、妥当だわ。むしろ甘過ぎるくらいな。

 下手すりゃ地球で処刑されかねなかったんだから、それを思えば軽い軽い。首が繋がっただけ目っけもん――いや処刑される気ないけど。

 ワッケインを挟んだ綱引きは、ゴップの勝ちか。

 レビルが悔しがってる姿を幻視する。

 話してみて分かったことは、割と事なかれ主義なんだよ、ワッケイン。現状から、殊更に事態を荒立てない方向に進むつもりみたい。

 寮に戻ってからも、差し入れを継続するように手配しといて良かったかも。賄賂に入らない程度だけど、心情的には効果抜群だし。

 一緒に何かを食べるって、実はかなり効果的なんだよね。

 

 

「――……でも、叶うなら卒業式に出たかったなぁ」

 卒業自体はさせてくれるらしい。だが、式典に出席など以ての外。

 全ての花道は閉ざされたって感じ。

 この辺りは連邦への配慮だ。“ガルマ・ザビ”には決して花は持たせないって。

 キャスバルは辛うじて式典に出席が許された。

 首席卒業おめでとう。

 そして、おれだけズムシティに強制送還――連行と言った方が相応しい扱いだった。

 左右の腕を掴まれて、前後も塞がれて視界が悪い。

「……なんで特殊装備なの」

 テロリストにでも対抗するつもりか。

 アサルトスーツにタクティカルベストにボディアーマー。ゴーグルにヘルメット。グローブにブーツ。

 バラクラバまで被ってるから、肌の露出がほぼゼロである。

 さらに武器一式担ぐ姿は威圧感が物凄い。

「閣下のご指示です」

 と、重々しい声で告げるのはデラーズだ。こっちは顔出ししてるけどさ。

「何と戦う想定なんです?」

「護衛も兼ねてのことです」

 なんて言ってる。まぁ、半分くらいはそうかもね。それこそ一部の連邦兵士からは報復されかねないし。

 デラーズ以外は誰ひとり口を開かない。視線も微妙に合ってない。

 なんとなく、バジリスクとかコカトリスみたいな扱いされてるような気がするのは、被害妄想かな。

 そしてどこへ連れてくつもりなの?

 絶対に実家じゃないよね? だって方向が違うし。

 なんなの? 何処へ向かってるの?

 逃げ出したい気持ちを抱えながら、おれはドナドナされていく。

 ねぇ、“ギレン”、ほんとに何でこんな仕打ちをすんのさ?

 ――帰ったら、一度、本気で話し合おうか?

 心細い気持ちに胸を圧されて、口から重たい溜め息が落ちた。

 

 

 

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