ザビ家成り代わり   作:くずみ@ぼっち字書き。

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【成り代わり】another ORIGIN 反逆の"ガルマ" 36【転生】

 

 

 

 ホールに流れるのは、懐かしのナンバーから新曲まで。てんでバラバラなのは、皆の好きなものを全部流してるからだろう。

 ダンスの許可は、思ったよりすんなりと下りた。

 候補生はもとより、教官達や他の非番の兵士までが参加してるのは、それだけ娯楽に餓えてたのかも知れない。曲もだけど、顔ぶれも割とカオス。

 まぁ、“昔とった杵柄”に今生で叩き込まれた御曹司スキルもプラスすりゃ、誰とでも、大体なんでも踊れるから良いんだけど――社交限定でね。

 初心者だって言うモブリットとは、体を寄せ合って揺れるくらいのダンスから。

 気恥しそうにしてる様は、年上とは思えないくらい可愛らしい。照れて固くなるのを、普段と変わらないお喋りで解しつつ、徐々にステップを速めていった。

 別に上流階級のパーティーじゃないんだ。気負う必要はどこにもない。

 跳ね回る馬みたいな足捌き。その長身と長い手足を存分に活かして、ホール中をところ狭しと踊りまわる。

 ヒマワリに似た笑顔が弾けて眩しい。コウガがぽかんと見惚れてて、ちょっと笑えるんだけど。

 それから踊りたいって言ってくれたヘレン・ネイワンドとは、ジャイブを――って、これ競技レベルじゃないのさ。びっくり。

 めちゃくちゃ早いし、軽快なキック。

「すごいね!」

「ガルマも!!」

 ヘレンも瞳をパチパチさせてる。イエローアンバーの虹彩に、光が星みたいに散ってて綺麗だった。

「こんなに踊らせてくれる相手って居ないよ! また踊ってくれる?」

「もちろん! 僕も愉しい!」

 裏表なく純粋に愉しい。最速のステップにもピッタリはまるなんてそうそう無いし、彼女の方も手加減なしにターンをキメてくる。

 タイミングが全て合えば、ひとつの生き物みたいだ。

 引き締まった身体を翻して踊るヘレンに、野郎どもの視線は釘付けだった。

 だよね。大変に魅力的。

 ホントは1曲って思ってたのに、愉しいのとヘレンのお強請りと、周囲のリクエストで3曲も踊った。

 ゼフィ・ダサオル伍長とエレーナ・イワノワ伍長とも踊らせて貰った。

 優美に柔らかな所作でステップを踏むゼフィに対して、エレーナは女性版T-1000(ターミネーター)みたいに美しくビシバシしたフォームを見せてくれた――ふぉ。格好いいな。

 会場には圧倒的に女性が少なくて、男性陣があぶれてる。壁の筋肉博覧会。

 ついでに、適当にリズムに合わせて身体を動かすダンスはともかく、女性をホールドして踊ることができるのはごく少数らしかった。

 自分もいつかは!……っていう野郎どものために、ちょっとだけレクチャーを。

 組んで女性サイドのステップを踏んでやるわけだが。

「こんなにくっつくのか!?」

「くっつかなきゃホールドできないでしょ?」

 うわ。意中の女性でも想像したのか、顔真っ赤じゃないのさ。

「無理無理無理無理!!」

「大丈夫。君は出来る子だ」

「近い近い近い近い!!!」

 ほんっと、おれでコレなら本命はどうなるの。失神でもすんの?

 微温く微笑みながらホールを一周。

「はい、次のひとー」

「お願いします!!」

 ……なんか列が出来てるし。みんな切実に未来の彼女と踊りたいんだな。

 致し方あるまい。交流も兼ねてのことだし、これもまた良い機会。

 ここにいるのはみんなモビルスーツのパイロット候補生で、いずれ配属先で顔を合わせる可能性が高い面々だ。関わりを持っとくことは、この先で有利に働く。

 うなれ猫皮。所作は何処までも典雅に、微笑みは優美に、眼差しには情の影を。

 可愛いを全力で作る。

 こちとら地球で無駄に将校共を陥としてきてねぇわ。

 ニコニコ擦り寄れば、野郎どもが真っ赤になるのがちょっと面白い。悪女ムーブでもかましてみようかな?

「ほどほどにしておけよ、ガルマ」

 お次はと腕を伸ばしたら、イアン先輩だった。何故だ。

「イアン先輩も踊るんですか? 先輩、踊れるじゃないですか」

 これ、踊れない連中へのレクチャーの筈なんだけど。

「話しのネタになるだろう」

「……なるほど?」

 ともあれ、ホールを巡るわけだが。

「先輩、リード上手いですね!」

 すごく踊りやすい。しっかりリードしてくれるから、タイミングが合わせやすいんだ。

 先輩モテるだろうなぁ……これだからイケメンは…。

 ケッとヤサグレそうになって、辛うじて持ち直す。

「だけど、どうしてガルマは女性パートを踊れるんだ?」

「子供達の練習に付き合ってたので。それでです」

 アムロとかゾルタンとかフロルとか――特にゾルタン。

 最初はちょっと強引すぎて、女の子のタイミングが合わなかったから、慣れるまで練習に付き合った。

 今じゃ申し分のないリードを披露してくれるんだよね。

「へぇ、そうか。それにしても、これじゃドレスを着てご令嬢に紛れられたら、下手すりゃ見分けられないな?」

「なんたる……さすがにゴツいから浮きますってば」

 いつぞやほど痩せてないし、これでも結構筋肉ついてるんだぞ。筋肉ダルマの中だから目立たないだけで。

 いまのおれが本気で装ったところで、本物の令嬢の中に紛れたら、良いとこドラァグクイーンだろ。

「そうかな」

「そうですとも」

 和やかに会話して、戻ってきてみれば、今度はアルフレディーノ先輩がニヤニヤと待ち構えていた。

「次は俺な!」

「……なんか層が変わってきてる気が」

「そうだな」

 さっきまでは兵卒とか下士官ばっかりだったのに、今度はみんな尉官じゃないのさ。

 まぁいいけど。

 くるくると巡る視界の端っこで、コウガとモブリットが、何やら喧嘩しながら踊ってる。

 ニケはゼフィをリードして、ワニはヘレンに翻弄されてる様子だった。

 良かった。みんな楽しんでる。

 軽やかに華やかに。泡沫の夢のように。

 いつか、ポートレートみたいに脳裏に思い出せると良いね。

 最後に、引きずり出されてきたみたいな、渋い顔のケリアン・ラウ少佐と踊って、その晩の即席舞踏会はお開きになった。

 ラウ少佐のダンスは、少し固かったけどまぁまぁだった。

 

 

 そしてワニ狩り再開である。

「餌を変えたんだね」

「変えたとも」

 おれが餌じゃちっとも食いつかないからね。

 例のコーヒースタンドでワニを待ち構えてる隣で、ニケがニヤニヤしてる。

 おれがどんな手を講じたのか読んでるんだ――ほんとに察しが良いことで。

 反対に何もわかってないようなコウガは、ものすごい顰めっ面で劇物…コーヒーを飲み込んでるし、モブリットはその顔を見て笑ってる。

 つまりいつもの面子である。

 消灯前の短い自由時間。先日のなんちゃって舞踏会が切っ掛けで話すようになった、何人かの候補生の姿もある。

 軽い挨拶と、なんてことの無い雑談。

 全員を懐柔するなんて土台無理な話だけど、主立った面々とそれなりの交流を持てれば、集団の中で動くのは容易だ。

 和やかに過ごしながら、“獲物”を待つ。

 まずは警戒させないこと。

 やがてコーナーの向こうから、軽やかな女性の笑い声が聞こえてきた。

 野郎どもの視線が一斉にそっちを向く。

 現れたのは、人気急上昇中のヘレン・ネイワンドと、彼女に腕を組まれてデレデレしてるクロコダ…ギュスターヴだった。

 ワニはヘレンに気を取られてて、集団に紛れてるおれにはまだ気が付かない。

 コーヒースタンドの前まで来て始めて。

「ガルマ、彼を連れてきたよ!」

 と、ヘレンが。

 その瞬間のギュスターヴの表情は、蜘蛛の糸を切られたカンダタも斯くやって感じ。絶望と怨みと怒りがない混ぜになったクロコダイルの顔は。

「うわぁ。おっかなーい」

 今にも噛み付いてきそうなんだが。

 踵を返そうとするのを、腕に絡んだヘレンが留める。

 意図を悟ってか、さり気なさを装って、候補生たちがギュスターヴを包囲。

 コウガとモブリットは、あからさまに退路を断ってくれちゃってる――君等はそうだよね。

「なんの真似だ」

「ご相談があります」

「こんなトラップを仕掛けてまでか? 仮にも上官に対してこれは…」

「“ギレン兄様”についてですよ」

 言葉尻に被せるようにして伝えれば、ワニの眼がかっぴらかれた――だから、顔怖えって。

「お時間、いただけませんか」

 返答はYES一択で、他の選択肢はやらんけどな。

 こっちも眼をかっぴらいて威嚇。

 見つめ合うこと数秒。

 ワニは、そのまま萎むんじゃないかってくらい、大きな溜息をついた。

「……場所を移すぞ」

「ギュスターヴ、早く戻ってきてね。コーヒー一緒に飲もう!」

 ヘレンが明るく笑って手を振ってる。

 ギュスターヴがグルンと音を立てそうな勢いで振り向いた。

「コーヒーは本当か?」

「うん、本当だよ。待ってるねー」

 あれ。なんかフラグ立ってた?

 周りの候補生達が祟りそうな視線をワニに投げてるし。

 当のギュスターヴは、わざとらしい咳払いをひとつ落としてから、おれの襟首を引っ掴んだ。ぐぇ。

「さぁ行くぞ、ガルマ・ザビ」

 なんて、少し離れた場所まで連れてかれるけど、やめてよ。猫の仔じゃないんだ。

 パシリと手を払って自由になる。

「おい!」

「隊服が伸びます」

 ギロリと睨む。

「……おぅ」

「単刀直入に伺います。僕の“監視役”ですよね。“ギレン兄様”から派遣された」

 “鳩”じゃなかろうけど、監視には間違いないはず。

「……答えると思うのか」

「その回答がすでに答えですよ」

 肩を竦める。ん。これ絶対に“鳩”じゃないね。“ギレン”、どっからこの人引っ張ってきたの。

「僕はあなたを通じて、“ギレン兄様”とやり取りがしたいんです」

「……なぜだ?」

「“報・連・相”を約束してるからです。あの子達のために、おとなしくしているとも――ちゃんと約束を守ってるって、知らせておこうと思って」

 にこりと微笑む。

「ガルマ・ザビ。俺を捕まえるのは、おとなしくしてるとは言えないのでは?」

「おとなしいですよ? お声がけしただけです」

「…………お前のおとなしいの基準って何だ」

 なんでそんなに顔を顰めるのさ。 

 別に候補生たちを使って、拘束したとか、拉致したとか、そんな物騒なことにはなってないでしょ。

「なるほど、閣下が手を焼くはずだ」

 大仰に肩を落として頭を振る大男を眺める。

 この短期間に、よくも候補生たちを誑かしただなんて、人聞きの悪いことを。

 同じ釜の飯を食った間柄って、帰属意識を強めただけだろ。

「ギュスターヴ曹長も、仲良くしてくださると嬉しいな」

「断る! 馴れ合うつもりはない」

「……そうですか。残念です」

 本当に残念。今後、就寝前のコーヒースタンドでの“みんなでお喋り”は定例化して行こうと思ってるのに。

 もちろん、ヘレン・ネイワンドも交えて。そこにあなたもいたらよかったのに、ねぇ、ギュスターヴ・モゥブ曹長殿?

「僕の監視がうまくいったら、“ギレン兄様”の評価もきっと上がりますよね?」

 それなら、対象を離れたところから監視するよりも、懐に入った方がよく見えると思うけどな。一般論として。

 まぁ考えは人それぞれだから、どう振る舞っても構いやしない。繋ぎにならないなら、別の手段を考えるだけだし。

 おれは見張られんの嫌いだから、ちょっと隠れちゃうかも知れないけど、頑張って監視すると良いよ。“ギレン”は無能は嫌いだからね。

 そんなコトを伝えて。

「お時間取らせて申し訳ありませんでした」

 ひらひらと手を振って、ふわりと咲った。

「~~ッ。悪魔かお前は!」

「ええぇ。心外です」

 天使のように邪気なく微笑んだつもりだが。

「この件は報告するぞ、ガルマ・ザビ」

 ギリギリと歯ぎしりの音がしそうな語調だった。

「はい。いい子にしてるって伝えてください」

「誰が伝えるか!」

 言い捨てて、足音も荒くワニは去っていく――コーヒースタンドの方へ。

 顰めっ面のギュスターヴが、ヘレン何かを言われて、眉間のシワを薄くしてる。

 これで“ギレン”へのつなぎは、とりあえず確保できたかな。

 明日からの定例メンバーには、きっとワニも加わってるだろ。

 さ。そろそろ消灯だから部屋に戻ろっかな。

 かふっと、あくびが口から漏れた。

 

        ✜ ✜ ✜

 

 訓練も後半になると、実戦形式の度合が増した。

 相手も同じ訓練生じゃなくて、教官達になる。これがなかなか強敵だった。

 教官は全員テストパイロットばかりだから、流石に練度が違うんだよね。

 単体での戦いなら割と凌げるんだけど、集団戦になると、弱いところから付き崩されてグズグズにされる。

 作戦指揮は権限のあるギュスターヴ・モゥブ曹長か、ヘイデン・マクグリン軍曹が取ってる。どっちもチーム戦って言うより個人戦績優先って感じ。まぁ、個性的な面々ばっかりだから、気持ちは分からなくもないんだが。

「ギュスターヴ曹長、僕に作戦を立てさせてくれませんか? お試しで」

 表面上は、にこやかに穏やかに交渉。

 生意気言うようでスマンが、こう負けが込んでると心静かに居られんのよ。

 先輩達やメジャナ中尉はともかく、元狼藉……ラトロンズ・ベレス中尉の嫌味っ面に一撃入れねば気が済まん。毎度煽りやがってあの狼藉野郎。

「――……“暁の蜂起”一度の指揮で、調子に乗ってるんじゃないのか?」

 ギロリと鋭い眼光が。

「ですから、“お試し”で」

 確かに実戦の作戦指揮は、士官学校でとった“暁の蜂起”だけだ。それも、総指揮はキャスバルだし。

 それ“以前”はおれじゃない“おれ”の実績でしかないからこそ、この身で試してみたいのさ。

「越権行為だぞ」

「現時点では嘆願であり提案です」

「本音を言え」

「悔しいから、あいつらボッコボコにしてやりたいです」

 ひゅんと微笑みが失せて落ちた。

 身の内から湧き上がってくる仄暗い感情が、呼気に混じりそう。フシュウゥ。

 ワニは、ごつい手のひらで目元を覆って天井を仰いだ。

「……デラーズ隊長、コイツ、どう扱えば良いんですか?」

 なに虚空にヘルプ出してんの。デラーズはニュータイプじゃないから届かないよ? って、この距離じゃそもそも無理だし。

「一緒にボコりましょう! 特にベレス中尉!」

「特定の個人を目の敵にするな」

「あのひと、ヘレンを誘ってましたよ。夜明けまで一緒に過ごそうって」

 ベタな誘い方である。

「……ほぅ?」

 ワニが怖い顔になった――もともと怖いのにね。

「何か作戦があるのか?」

「あります」

 見つめ合うこと数秒。

「聞こう」

 ギュスターヴが凶悪な顔のまま笑った。

 

 

〈……俺の負担が大きい気がするんだが?〉

 ニケが唸ってるけどさ。

「仕方ないでしょ。君が最速なんだから」

 文句言うでないわ。

「一緒に見返してやろうよ」

 お前のことを“逃げ足特化”なんて揶揄しやがる野郎どもをさ。

〈そう言えば、ガルマは俺のことを“逃げ虫”って馬鹿にしないな〉

「なんなら敬意を込めて呼ぶよ? それは君の“価値”だ。こと戦場において、ニケはとんでもなく頼もしいよ」

〈……コウガやモブリットじゃなくて?〉

 皮肉気な声だった。

「あっちはあっちの頼もしさ。ファンクションが違うんだ」

 活かせてないのは、言わないけど作戦ミスだよ。

〈へぇ?〉

「いいからほらスタンバイ」

〈はいはい〉

 なんだよ投げやりな返事だな。

「ギュスターヴ曹長、マクグリン軍曹もお願いしますね!」

〈ああ。やってやろうじゃないか〉

〈うん。やってみよう〉

 こっちはやる気充分だ。

 戦闘域を拡げ、宇宙空間での模擬戦闘である。

 ミノフスキー粒子に満たされた宙域では通常の通信が乱されるから、ミノフスキー通信とやらを使ってる――ほんと、“なんでもあり”だなミノフスキー粒子。

 訓練生側のザクⅠは2班9機。指揮官はギュスターヴ・モゥブ曹長。

〈hun、何を企んでいるか知らんが、ようやく本気を見せてくれるのか。せいぜい楽しませてくれよ?〉

 ――っとに、悪役ムーヴがサマになるよな、ベレス中尉。

 でも絶対に下っ端臭がするんだ。四天王で最弱とかその辺。しかも、さらにその上に真の四天王とやらか居ちゃう感じの――いやフツーに強いんだけどね。準エース級だし。

「下っ端(っぽいヒール)は黙って沈めー!」

 MS用マシンガンを乱射しながら突っ込む。

〈なっ!? 下っ端は貴様だろうガルマ一等兵!!〉

〈仮にも上官に向かってなんて口の利き方だ!〉

 お。メジャナ中尉から叱責が。

「すいません仮想敵に対する罵倒です!」

〈なら良し!〉

 ――良いんだ。

 んな訳あるかァ、と、ベレス中尉はまだ喚いてるけどさ。

 先輩達は大笑いしながら追い掛けて来た。

〈今度はなにを仕掛けて来るんだ?〉

〈やらかす気だな、堕天使長!〉

 補足された。ビープ音がけたたましく――おっかないなぁ。

 ――振り切るけど、ね!

 急旋回を繰り返す。

 教官側も2班9機。指揮官はビリー・メジャナ中尉――って言っても、教官達はそれぞれ指揮なんか無くても動ける。

 だから、いまの突入に対しても、一斉に散開した後、追撃とそれ以外で特にやり取りもなく分担されてるし。

 まぁ、あの初撃ですぐに追尾に入れたのが、多分、最初からおれをマークしてた先輩達だけって理由っぽいけど――付き合いの長さの分、警戒されてるんだよね。

 ド真ん中を突っ切って裏側に回りこんだことで、教官達は背後のおれに対して2機もザクⅠを割いた。

 ちなみに、この隙にニケはいち早く集団から退避してる。いつもより早いけど、大体いつも逃げるから後回しにされて、今このときもノーマークに近かった。

 スタートは順調だ。

「モブリット! コウガ!!」

〈まかせて!〉

〈分かってるっての!〉

「ヘレン!」

〈大丈夫ー!〉

 エレーナとゼフィは呼ぶ前に行動してるし。よし。

〈お前が指揮を取るな!〉

 あ。そうだ。指揮はギュスターヴだったわ。

「はーい。よろしくお願いします」

 後は任せつつひたすら先輩達を躱す。

 その間も際どい軌道でMS用マシンガンのカラー弾丸がきてて、気が気じゃない。

 先輩達は全てにおいてバランスがいいけど、何よりの脅威はその精密射撃と連携だ。

 センスも勘の良さも桁違い。いつもの模擬戦闘なら、半数近くがアルフレディーノ先輩の支援を受けたイアン先輩の射撃で墜とされてるからね

 ふぉ、掠めた!? 掠めた!!

 ――助けてキャスバル!

〈随分振り回してくれる〉

〈“逃げ虫”並だな〉

「褒め言葉です!」

〈……バランサーだけじゃなく、自動制御系をほぼ外してるのか?〉

 聡いね、イアン先輩。

「そうですよ」

 ぶん回すのに邪魔になるからね。

 オート制御とリミッターを全部解除して貰った。整備士は渋ってたけど、強請りまくったら何とかなった。

 操縦は面倒くさくとも、機体の性能を最大限に引き出せる――多分、“いつかの彗星様”がやってたのもこれだろ。

「これくらいのハンデもらってもいいでしょ!」

〈お前にハンデは要らないだろう〉

 苦い声。でも、そんなわけない。エース級の先輩二人を相手取るんだぞ。これでも足りないくらいだ。

 いまも逃げるばっかりで反撃する余裕が無いし。

 さて。これまで教官達は、弱点の多いヘレンやゼフィを狙うか、反対に単体でも強いギュスターヴやヘイデンを複数機で潰しにきてた。

 数を減らされた訓練生は、じりじり追い詰められて、最後におれかニケが残れば御の字だった。

 つまりチーム戦ではボロ負けってこと。

 ――負けるのは弱点をそのままにしてるからさ。

 案の定、今回もヘレンが狙われた。

 だけどもう、コウガとモブリットが先回りしてブロックしてる。

 今度はその二人に狙いが移るけど、そこはエレーナとゼフィがフォローするし、ヘレンも追撃に入ってる。

 単体で弱けりゃ群れで狩れば良いのさ。

 ギュスターヴとヘイデンは、一対一でも教官と互角にやりあえるし。

 いつもと違う展開に気づいた先輩達が、慌てて戻ろうとするのを牽制。させると思うの?

 墜とすつもりで撃ちまくるけど、全部回避される――けど、予想軌道!

「ニケ!」

〈やってやるさ!〉

 上方向から真っ直ぐに突っ込んでくるニケとおれで、先輩達を挟み撃ちにする。

〈――ッ!?〉

〈アルフ!?〉

 ニケのMS用マシンガンがアルフレディーノ先輩のザクⅠの右肩を、おれのそれが左腰をそれぞれ撃ち抜いた。

〈「クリティカル!」〉

 おれとニケの歓声が重なった。

 やった。訓練を始めてから、初めて教官からクリティカルを奪った。

 しかもアルフレディーノ先輩――エースをひとり墜としたってこと。すごい快挙!

〈……やってくれたな〉

 だけど、イアン先輩に火をつけたみたい。地を這うみたいな唸り声がおっかない。

〈先にガルマ達を潰すぞ!〉

〈了解した〉

〈ちょこまか目障りだしな!〉

 こっちも唸り声。トラ達の尻尾を踏んじゃった感じ。教官達のターゲットがおれとニケに移る、けど。

〈させるかよ!〉

 コウガが妨害。

〈ヘレン、止めるよ!〉

〈頑張る!〉

 モブリットとヘレンも。さらにゼフィとエレーナが。

 MS用マシンガンの弾道が交差し、トマホークが、ランスが踊る。

 連携の取れた動きを突き崩すそうとしても、その外側からさらに狙われて、教官達は二の足を踏むしかない。

 大体、弱いって言ったって、練度に劣るだけだ。経験値の不足だって、これまでの模擬戦闘で大分上がってる。

〈いつもいつもやられると思うなよ!!〉

〈アタシらだってやれるんだ!〉

 コウガとモブリットの叫びには矜持が滲んでた。

 足を止められた教官たちの、驚愕と戸惑いと、苛立ちを感じる。

〈生意気言うじゃねぇか〉

〈それだけ成長したということです〉

〈……卵から雛が孵ったか〉

〈俺は雛って歳じゃないですけどね〉

 ベレス中尉とメロ中尉も、それぞれギュスターヴとヘイデンが抑えてくれてるし。

 イアン先輩に応えることができたのは、結果、メジャナ中尉だけだった。

 メジャナ中尉がニケを追いかけるけど、残念、そのスピードじゃ追いつけない。

 一瞬距離を取る素振りで急旋回。

 ニケとすれ違いざまに、MS用マシンガンのトリガーを引く。

 狙いはメジャナ中尉。真っ正面からの攻撃だもの、外すはずないでしょ。

〈クソがッ!!〉

〈なッ!? ビリー!〉

 連続でクリティカル! さらにニケが追い討ちをかけて撃ち抜いた。これ実戦だったら爆散してるだろ。

 指揮機撃破。これ凄い大金星!

 教官側は2機を失い、これで9対7。数において有利になった。

 でも油断はできない。教官たちの動きが変わった。一切の手加減を破棄して、本気で潰しにかかってきてる。

 だけど個人戦。モビルスーツ戦は、そもそもが個体の戦闘力重視だから、群れで戦う戦法は定石じゃない。

 付け入る隙はそこだけだ。

 実力で劣るなら、絶対に個々での戦闘に持ち込ませない。

 常に複数で。互いにフォローしながら、何が何でも決定打を避ける。

 今度はおれとニケで、イアン先輩を追い回す。

 ――ここは全力で振り回させてもらうよ!

 今回の作戦の肝は、開始から早い段階で教官の数を削ること――アルフレディーノ先輩を潰せたのは僥倖だった――それからイアン・グレーデン先輩に撃たせないことだ。

 少しでも射撃の体勢を見せたら、おれかニケが妨害する。

〈最初の無謀な突撃は、この流れを作るためか〉

「おっしゃる通りですよ!」

 先輩達はおれを警戒してたから、ああすれば引き付けられるって思ってた。ニケを飛ばしといたのも、最初から挟み撃つつもりだった。

 加えて特に警戒するべきベレス中尉とメロ中尉を、ギュスターヴとヘイデンで封じることもね。

 これでコウガ達が相手にするべきは4機――5機がかりなら何とかなる――なんてことは、無かった。

〈読みは悪くない…相手が俺じゃなかったらな!〉

 有り得ないはずの閃光が。

 ほんの一瞬の隙を突いて、ニケを抜いた先輩が、ゼフィを狙撃した。

〈嘘だろ!?〉

「先輩強すぎ!」

 クリティカル。たった一撃で、ゼフィが戦闘不能。離脱を余儀なくされた。

〈ごめんなさい! ……戦闘域から離れます〉

 ゼフィの泣きそうな声が。

〈抑えとけって言っただろう!〉

 ギュスターヴからは怒鳴り声が。

 言い訳になるけど、それだけ先輩のセンスがいいんだ。

「もう撃たせません!」

 だけどこっちにだって意地があるからね。

「ニケ!」

〈クッソ、舐めんな!〉

 追い回すと言うよりは墜としに行く。

 予測軌道すべてを塞ぐようにMS用マシンガンを連射。同様にニケも。

 だけどそれすら掻い潜って、今度はコウガに迫る先輩の真上から。

「どすこーい!」

 メイスを振り抜く――ヒット。でも、クリティカルじゃない。

〈なんだよその掛け声!?〉

 余裕かよコウガ。そんなんどうだっていいでしょ!

 辛くも先輩の攻撃を阻止。

「一騎打ちといきましょうよ、先輩!」

 とりあえず煽ってみる。冷静な先輩だから、スルーされることも考えられるけど。

 ここで応じてくれたら、次のフェーズに移行しよう。

〈勝てると思っているのか?〉

「勝つつもりでなきゃ、最初から勝負にならないでしょう?」

 数瞬の沈黙の後、喉を鳴らすように先輩が笑った。

〈……今更だが、在学中の教官の苦労が身に沁みてきたな〉

 なんですと。

〈お前らしいがな!〉

 うわ狙撃怖い!

 物凄いタイミング。ゴメン、素で避けるの無理。裏技使わせてもらうよ!

 "意識"を拡大。戦域全体をカヴァー――その瞬間、ピリリとレセプターが震えた。

 ――え、誰!?

 誰かニュータイプいる!?

 だけどその一瞬だけで、レセプターは沈黙した。

 すごく気になるけど、今はそれどころじゃない。

 ビリビリ震える危機察知アンテナを頼りに、猛攻をギリッギリで躱す、避ける、逃げる!

 ――ギャー先輩怖い怖い怖い怖い!!

〈うるせぇガルマ踏ん張れ!〉

 コウガの文句だか激励だかが。

 あれ声に出てたか――うわ、怖い怖い怖い! 怖いっては先輩!!

 躱しても躱しても、MS用マシンガンのペイント弾がチリチリと装甲に色を引く――これが本当の戦いなら、おれの駆るザクⅠは何条もの疵を負っていただろう。

 コックピットには警告音が鳴りっぱなしで、耳が慣れてきてやばい。

 クリティカルだけはなんとか避けてるけどさ。

 この隙にニケは、コウガ達のサポートに回ってる。

 頼むなんとか“敵”の数減らして戻ってきて!

 早く早く早く!

 イアン先輩、誇張なくエースだから。これまでどれだけ手加減されてたのか。本気の先輩は味方なら億万パワーだけど、敵にしたら地獄。いまが地獄。

 もう喉からは悲鳴とコワイしか出てこない。

「ワニ! いつまで同じ相手と踊ってんのさ!!」

 ついでに罵倒がこぼれた。

 ギュスターヴがベレスの単体撃破に拘り過ぎて、全体の流れに滞りが生じてる。

 ギュスターヴでベレスを封じるつもりが、ベレスにギュスターヴを抑えられてる――作戦が読まれてるんだ。

 これ、流れを変えないと。

「ニケ、先にベレス中尉を!」

〈了…〉

〈邪魔をするな! 指揮権は俺にある!!〉

 ワニの怒鳴り声が。

 ふざけんな、お前が作戦の邪魔してんだよ!

 だけど指揮権はヤツが上だ。ニケが引き下がる。

〈ハッ、仲間割れかァ? 素直に助けて貰ったらどうだ、ギュスターヴ?〉

 耳障りな笑い声。

 ワニは黙ってるけど、全力で殴りにいってるのが答えだ。

 馬鹿ワニ! 全体の流れを見ろよ!!

 コウガとモブリットはともかく、ヘレンが限界に近い。

 エレーナが助けに行こうとして止められてるし。

 イアン先輩から逃げると見せかけて――いやホントに逃げてんだけど!――教官の一人に急接近。

 マシンガンの銃口が向くのを確認してから一気に方向を転換。もちろん先輩は引っ掛かってくれないけどさ!

〈馬鹿野郎! どっちを撃ってんだ!?〉

〈嵌められたんだ!〉

 ベレスに被弾。ざまみろ。

〈余計な事をするな!!〉

 ギュスターヴが怒鳴るのに。

「戦況を見てよ!!」

 怒鳴り返す。

「ギュスターヴ曹長、指揮を!」

 お前の部隊が苦戦してるんだぞ。鼓舞して、指揮を取れ。態勢を建て直させろ。

 それなのに。

〈煩い!〉

 聞く耳持たない。状況を見ようともしない。

 そうかよ。それなら、もう良いよ。

「――わかりました」 

 すごく冷たい声が出た。

〈おい、ガルマ!〉

 何故か、先輩から焦ったような声が。

「ニケ、ヘイデン軍曹のサポートを」

〈了解!〉

 ヘイデンと挟み撃てば、手練のメロ中尉だって分が悪いだろ。

 なんとかして“敵”の力を削らないと。

「ヘイデン軍曹、全体の指揮をお願いします」

 ワニ野郎は当てにならないから除外。

 指揮系統をヘイデンに絞る。

〈……分かった。コウガ、そのまま振り回せ!〉

 一瞬の躊躇いのあとに、ヘイデンのよく通る声が。

 応じてコウガが大きく動く。

 圧された教官が、詰めていた距離を解いた。

〈モブリット、下がってヘレンと連携しろ。ニケ、少し代われるか?〉

 答える前にヘイデンが動いたから。

〈早く戻ってきてくださいよ!〉

 叫んだニケが、メロ中尉の前に出た。

 めちゃくちゃHit and Away。撃つなり逃げるけど、中尉が離れようとすれば素早く妨害。

 一瞬聞こえた舌打ちはメロ中尉のものだろう。

 指揮の有る無しで、士気の高さも変わる――的を得た場合に限るけど。

 ヘイデンの指示は、圧されてたコウガ達の意識を上向けたようだった。

 なんとか均衡を取り戻した感じ。

 だけど、直接指示できないのがもどかしい。

 ここへ来てつくづく思い知った――おれは、従うのに慣れてないんだ。ザビ家として常に上からだったから。

 これ、もしかしたらキャスバルも相当ストレス溜め込んでるんじゃないかな。

「うわぁあああああッ、もうッ!!!」

 ブチ切れて叫ぶ。

 先輩怖さで、おれの繊細な神経は限界だ。でも、これは決して八つ当たりなんかじゃない。正当な怒りだから。

 マシンガンは少し前に弾が切れたから、メイスを強く強く握りしめる。

 さぁ、いくぞ。推進は最大だ。

 特攻は、古来、追い詰められた者の最後の手段として使われる。防御を無視して突っ込めば、相手にも大ダメージは必須。

 ――覚悟しろ。

「ギュスターヴ・モゥブ!!」

〈お…おいッガルマ!?〉

 先輩の声がひっくり返ってる。

〈バカそれ味方だ!!!〉

〈ご乱心!??〉

 コウガ達が叫んでるけど知らん。

「ニケ、撃てーーーッ!!!」

 ズドーンとギュスターヴ機に突っ込んだ勢いでそのまま、ベレス機も巻き込む。3機で団子状態。さぁ諸共に撃つが良いよ!

〈だから味方だろうが!!!〉

 コウガの絶叫を物ともせず、そこで引き金を引くのが君だよね、ニケ。

 混乱してるメロ中尉の隙をついて、ニケのマシンガンが火を吹く――タイミングで、ギュスターヴ機だけ引っ掴んで大回避した。

〈なッ!?? ……どういうことだッ!??〉

 残されたベレス機が、ペイント弾で染め上げられてる。

〈「クリティカル!!!」〉

 ニケとおれの快哉の声。

 よっしゃあ! ラトロンズ・ベレス討取ったり!!

 どうだ、ここまでの3機撃破は全部おれたちの手柄だ。もうニケを侮れる奴なんか居ないだろ?

 これで教官側は残り6機。

 おれたちは7機だからイーブン以上だ。

「さぁ! ギュスターヴ曹長、今こそ指揮を!!」

 視野を狭めてたベレスは始末したんたから、いい加減に目を覚ましてよ。

 ほらほらほら。ねぇ。……ねぇ?

 なのに、ギュスターヴ機からの応答は無かった。

「返事がない?」

 ――ただのしかばねのようだ?

〈…………ガルマ、ギュスターヴ機は“大破判定”だ〉

 深いため息の後、イアン先輩がそんなことを。

 ――ふぉ?

 言われてよく見れば、あれ、本当に結構壊れてる。

 え、ちょっと待って。ワニ、コックピットで気絶してるんじゃ?

「……医官! 誰か医官呼んで!!」

〈だからお前がやったんだよ!!〉

 コウガの喚く声が、戦闘が停止した宙域に響き渡った。

 

 

 

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