ザビ家成り代わり   作:くずみ@ぼっち字書き。

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【成り代わり】another ORIGIN 反逆の"ガルマ" 37【転生】

 

 

 

「おめでとう。君達は大変に優秀だ。とっととダークコロニーを出ていくがいい」

 って、ケリアン・ラウ少佐、もうちょっと言葉を選ぼうか?

 あの衝撃の同士討ちの“事故”からたった1週間。おれたちは全行程を最速で修了した――と、いうことにされたらしい。

 ここへ来てから7週間目のことだった。

 追い出されるのは、おれとニケとコウガとモブリット、それからギュスターヴの5名である。

 他の面々は留め置き。

 これ、絶対に作為があるよね!

 だって、もっと優秀なはずのヘイデンが残されてるし。

 だけど反論は許されない。軍は厳然たる縦社会だからね。

 直立不動で居並ぶおれたちを代表して、一番階級の高いギュスターヴが。

「光栄です! 了解致しました!!」

 と、答えてる。

 ラウ少佐の執務室での一幕であった。

 ここに入るのは2度目だわ。

 めちゃくちゃ凝視してんのに、部屋の主は頑なに視線を合わせようとはしない。

「以上だ」

 晴れやかに告げたあとは、また犬でも追うかの仕草である。

 ヲイ。兄貴に言付けんぞ。

 クワッと眼をかっぴらいてさらに見つめてたら、ギュスターヴに襟首を引っ掴まれて持ち上げられた。

 ぐぇ。やめろその運び方。

 ズルズルと連れ出されて、ぷくりと膨れる。

 なんてことだ。でもまぁ、3週残ってるってコトは、その分の余裕があるってコト――そう考えれば悪くない。

 すぐさまガルシアのところに配属される訳じゃ無さそうだし、お家に帰れたらみんなに会えるじゃないか!

 突然、打って変わって上機嫌になったおれを、ワニが気味悪そうに放り出した。ヲイ。扱いが雑なんだよ。

 取り敢えず。

「兄様に連絡して下さい。できるだけ早く迎えを寄越してって」

 早くお家に帰りたいんだ。

「……俺はお前の連絡係じゃないぞ」

 ワニがギロリと睨み下ろしてくる。

「知ってます。でも、どうせ報告するんでしょ? ついでに頼んでくださいよ」

「断る!」

 スッパリと。なんだよケチンボめ。

「……仕方ないなぁ。じゃあ、ラウ少佐に頼みます。早く追い出したがってるから聞いてくれるでしょ」

 言えば迎えを呼んでくれるか、送ってくれるかもしれないね。

 執務室につま先を戻したら、また襟首を掴まれた。ぐぇ。だからやめてよそれ。

「やめろ! 少佐はここの責任者だぞ。気楽に頼む気が知れん!」

 ギュスターヴが目を剥いて喚く。なんで止めるのさ。

「そもそも、ラウ少佐の決定でこうなってるんじゃないですか。最後まで面倒見て貰わないと」

 ねぇ、と他の面々に視線を向ければ、皆それぞれに頷いた。

「俺たちも送って貰えっかな?」

「それだと楽で良いんだけどね」

「アタシ、ルウムだけど大丈夫かな」

 なんて言い始めるのに、ギュスターヴひとりが頭を抱えた。

「お前ら……ッ!!」

「ってことで、連絡よろしくお願いしますね」

「…………やりきれん」

 そんなに肩を落とさなくても。

 

 

 ともあれ、迎えはすぐに来た。

 仲良くなった仲間と先輩達、それからあの日ホールで踊った面々に見送られ、5人纏めてズムシティの宙港へと送り返された訳だ。

 モブリットはここから更にルウムへ帰るから乗り換えの筈だけど、その前にズムシティ観光をするんだとかで――ルウムの方が風光明媚なトコ多いぞ?――ぞろぞろと纏まって廊下を進む。

「…………………極秘での監視の筈だったんだ……俺は無能だ……」

 その内のひとりの足取りは重たいし、ドヨンと淀んだ空気を出してるのが鬱陶しかった。

 帰還して直接報告することに怖気づいたらしい。

「優秀なMSパイロットとしてデビュー出来たんだから胸張って帰れば良いのに」

「それは副次的なアレだ!」

 アレってなんだよ。

 なんて、モダモダしてるワニを置き去り気味にスタスタと先に進めば、慌てて後ろを付いてきた。

 兵卒風情がVIPゲートを通して貰えるのは実家の七光。宙港から出たら、居たわ。

「ランバ・ラル大佐!」

 目立たない為かもしれないけど、私服だとガラが悪そうに見える。眼つきが鋭くてその筋のヒトみたい。何故か額に青筋が浮いてるし?

 我らがラルおじさん。だけど、大佐なんて一等兵から見たら雲の上の階級なんだよ。今までみたいに甘えは許してくれんだろ。

「ただいま帰還いたしました!」

 ピシッっと敬礼したのに。

「まぁたやらかしやがってこの悪ガキが!!」

「ギャー! ギブギブ!!」

 いきなり伸びてきた腕に巻き取られて締め上げられた。なんて通常運転。

「真面目に訓練してましたよ!!」

 それこそ死にものぐるいでMSの操縦をこの身体に叩き込んだんだ。反射も磨きまくったし。気絶しても戦えちゃうんじゃないかってくらい。

 それなのにこの仕打ちはなんだ!?

「ラウから連日苦情の嵐だ! お前の真面目の方向はいつだって明後日なんだよ!!」

「つまり常に未来を見据えてるってことでしょ!!」

「良いように解釈するな!!」

「ポジティブシンキング大事!」

「少しは省みろ!!!」

 ぐぉおおおおっ、絞まってる絞まってる!!

 一緒に来た面々は、目を真ん丸に見ひらいてこの光景を見つめてた。

「……あー、なるほどな。ガルマの絞め技のルーツはここかよ」

「ははは。コウガはよく締め上げられてたもんな」

「アンタが馬鹿やるからだよ」

 なんて、みんな呑気だね――助けろよ。

「あ、あの、大佐殿……」

 ギュスターヴが引け気味に、それでも声を上げた。

「なんだ、いま忙しい!」

「いえ、あの……ガルマが絞め落とされるかと……」

「コイツはこれくらいでは落ちん!」

「ぐぎぎぎぎぎッ」

 落ちないけど苦しいんだよ!

「……はーなーしーてー」

 しゅうしゅうと細く息を吐きながら、低い声で威嚇。そろそろ引っ掻いて噛みつくぞ。

 ランバはさらにグイグイ絞め上げてから、終いにでりゃッと投げ飛ばしてきた。

 慣れてるから受け身取るけどね。

「けほ。あー、喉潰れちゃうかと思いました」

「ガードしてた癖によく言う」

「その辺はラルおじさんが教えてくれましたからね!」

「なぜ俺はこんなヤツを鍛えてしまったんだ?」

 必要だったからでしょ。

 よれた襟と裾を直して、改めて帰還の挨拶を告げれば、ようやっと浮かんだ微笑みと共に「おかえり」と返された。

「すげぇな。投げ技のルーツもここかよ」

「アンタ、記念に一回投げられとけば?」

「なんでだよ。お前が投げられとけよ、ニケ」

「俺に振らないでよ」

 その間もコウガたちはマイペースだった。

 ワニが疲れた顔で注意をしている。

 ランバはぐるりとひとつ腕を回してから、連中に向き直った。

 とっさに敬礼したギュスターヴに、皆が倣う。

「ギュスターヴ・モゥブ曹長であります!」

「モブリット・ローズ上等兵です!」

「ニケ・ダンジェロ一等兵であります!」

「コウガ・ゴトー二等兵であります!」

 ビシッと姿勢も角度も完璧に。

「一緒に訓練してきた仲間たちです」

 紹介したら、ランバは大きく頷いて、敬礼を返した。

「ガルマが世話になったな」

「すげー大変でした!」

 コウガの一言に、モブリットから鉄拳が。

「大変だったのは主に俺だ!」

 ワニからはそんな主張が。

 ニケは腹抱えて笑い出すし。一瞬でグダグダだなお前ら。

 ワニが我に返って青褪めるけどもう遅い。

 ランバは深くため息をついて、拳を握って、何故かおれを振り向いた。

「感染源はお前だな」

「ひとをウイルスみたいに言わないでください」

「タチがいつも言っているぞ。お前には感染力があると。俺も否定出来んと思っている」

 ひどいわー。

「だいたい、彼らは会った当初からこんな感じでしたよ」

「……類が友を呼んだか」

 ため息をついたラルおじさんに、ワニがすごい勢いで首を横に振った。もげそうね。

 ともあれ、おれはこのままラルおじさんに連れられて実家に戻るから、皆とはここでお別れか。

「7週間だけだったけど、おかげですごく楽しかった。ありがとう。モビルスーツパイロットとしてまた会おう。その時はよろしくね!」

 どこに配属されても、こいつらならきっと活躍する。いずれその勇名を聞く日も遠くないだろう。

「おう。配属先が同じにでもならねえ限り、そうそう顔を合わせるなんてことはねぇだろうがな!」

「コウガ、それフラグだ」

「名残惜しいわ。元気でね、ガルマ」

 握手とハグ。モブリットは、つむじにキスをくれた。

 去っていく背中を見送ってから、ランバに向きなおる。少し後ろには、共に戻るワニが静かに控えてた。

 ランバは大佐としてではなく、ラルおじさんとして来てるみたいだから、おれも一等兵としてではなく、“ガルマ”として振る舞うことにする。

「ねえ、ランバ。僕はおとなしくしてるつもりだったけど、何を間違えたんだろ? どうしてラウ少佐はこんなに早く訓練を切り上げたの?」

 振り返ってみるけど、そんなに思い当たる節はないんだ。

 せいぜいが同士討ちだけど、"訓練中の事故"みたいなものだったし、むしろ留め置かれて注意されるのが普通だ。

 おれへの評価は、"パイロットの適正あり"を前提としていて弾かれることがない分、技量には厳しくチェックが入るはずだった。

 与えられた10週間は、その技量を磨くためのものだったはず。

 こんなにも早く切り上げられることは想定していなかった。

 ランバ・ラルなら、その理由を知ってるはず。

 視線の先で、ラルおじさんは盛大にため息をついた。

「自覚なしか」

 ぷくりと膨れる。でも事実だからこくりと頷く。

「ラウが言っていた。お前が地球に降りていたとき、連邦軍で起こっていたことが解ったと。やって来てたった数週間で、配下が次々に籠絡されていけば、そりゃ戦慄もするだろうさ」

 己の配下が、他人の命令で好き勝手動かされることを虞れない指揮官なんて居やしないと、声には苦笑が混じっていた。

「ランバは、僕が部下と仲良くなったって平気じゃないか」

「長い付き合いだ。それにお前は、俺を踏み越えて命令したりはしない」

 そこで言葉を切って、ランバは首を振った。

「だが、お前が配慮するのはごく少数だ。ラウは、自分がそれには当たらないと判断したんだろうな」

 そうかな。尊敬できると、評価に値すると判断すれば、おれは相手を無下に扱うことはしないのに。

 ラウ少佐は、さすがにドズル兄貴が大事な拠点を任せるだけの人物だと認識してた。

「下手すりゃ自分も篭絡されると危惧したんだろう」

 それは気づいてた。あの男は、できるだけおれと接点を持たないようにしてたし、視線を合わせようとしなかった。

 少佐と下っ端じゃそれは当たり前のことでもあり、上司の弟を預かってる点から言えば、少し違和感もあった。

「あの人は無理です。ドズル兄様に心酔している。僕が入り込む余地がないくらいに……そこも含めて、結構好きだったんだけどな。残念です」

 それは偽らざる本音で、ダークコロニーでの規律の良さ、人員の管理状態、諸々全てを維持するその能力には、感嘆を覚えるほどだった。

 評価点を数えていたら、ランバが、そのうち奴にも伝えてやろうと低く笑った。

 車の運転はギュスターヴが申し出たけど、ランバは断わってハンドルを握った。

 相変わらずおれが座るのは助手席で、後部座席に押し込まれたワニは、めちゃくちゃ恐縮してちっちゃくなってた。

「兵卒に混じって何か学べたか?」

「……学んだと言うか、僕はつくづく家族以外に従うのに慣れていないと」

 その辺りは自覚したよ。

 腐ってもザビ家の御曹司。そりゃ何もかも思い通りになるわけじゃないけど、ある程度の無理はきく。周囲もそう扱うしね。

 それに慣れてたから、"一等兵"っていうラベルを貼られると軋轢も増えてくる。

「それで?」

「今更意識を変えるのは難しいから、バランスを崩さないように気を配るしかないかな」

「できるのか?」

「……難しいけど、やるしかないでしょ。急に階級が上がるわけでなし。上官が有能であることを祈ります」

「俺はその上官になる奴に同情するよ」

「ひどいな」

「本当のことだ。お前の要求レベルはそもそもが高すぎるんだ。その域に達してる奴がどれだけいると思っている」

 苦々しい声だった。

「少なくとも、これまで僕の周りに無能はいませんでしたよ……どこまでも恵まれてたってことなんでしょうね」

 溜息が落ちた。

 ザビ家の愛されし末っ子の周りは、厳選された人間しかいなかった。

 士官学校でも優秀な人材ばかりが傍にいたし、地上に降りていた時ですら、コリニーやワイアット、それからハイマンによって選ばれた人間ばかりに囲まれていた。

 とりもなおさず、それはキャスバルにも当てはまることだ。

 ダイクン家の嫡男として、あるいはおれ以上に箱入りで育てられたわけだから。

「キャスバルも苦労してる?」

 聞いたら、これまでで一番大きなため息が落ちた。

「キャスバル以外が苦労している」

「どういうことなの」

 そんなバカな。キャスバルはキャスバルだぞ。真正チート。

 あれだけ優秀なヤツをおれは見たことがないし、なんでもできるし、カリスマも凄まじい。

 階級も中尉だし、すでに部下を抱える身で、周りが苦労って……。

「まさか、新兵の指揮とか取らせちゃってるわけじゃなかろうね?」

 右も左も分からないような奴らが、あの高度に洗練された指揮についていける筈がないんだ。素地がないと。

「そんな恐ろしいことはしとらんわ!」

 使い物になる前に、貴重な新兵を潰されてはかなわんとランバが。

 否定はできない。士官学校時代も、同期生の心を容赦なく叩き折ってたし。おれよりずっと厳しいし、無能が嫌いだし。

「でも、だったらなんで?」

「部署を異動したいそうだ。俺やドズルに特攻を掛けてくるぞ。お前をひとりで放っておけんと」

 ――なんと!?

「――……あー、心配かけちゃったか……」

 苦笑い。

 多分キャスバルの中では、おれは、まだひ弱で頼りないままの幼馴染なんだろう。

 離れるときも、寂しい淋しい言ってたし――いまもそう思ってるけどさ。

 自分より能力に劣る幼馴染が、最前線で戦うだろうモビルスーツパイロットになったんだ。そりゃ心配するなって方が無理。

 こそばゆいくらい嬉しくて、ありがたく思う反面、それは駄目だと理性が告げる。

 おれはザビ家だけど、他に代えのきく四男坊だ。

 対して、キャスバルは庶出とはいえダイクン家の跡継ぎで、スペースノイドの拠り所だったジオンの息子。

 おれひとりに拘うのは、あまりいいことじゃない。

「………待っててって言うよ。どんなことをしても必ず隣に戻るから、待ってって」

 そのための道筋はまだちゃんと見えてないけど、絶対に見つけるし。なんなら、ガルシア・ロメオを利用してやる。

 ランバは横目におれを見て、それから何とも言えない顔で。

「……お前達は、本当に面倒臭く育ったな」

 なんて、仮にもお目付役がその言い草はどうなの。

「ひどいわー」

「酷いのはお前達だ」

 そろそろ俺達の苦労も本気で顧みろと、ランバの溜め息が車中を満たした。

 

        ✜ ✜ ✜

 

 ワニを軍本部に置いてきたあと、ラルおじさんの車は、何事もなくザビ邸に到着した。

「おかえりなさい、ガルマ。いらっしゃい、ランバ」

「ただいま帰りました、僕のお姫様」

 いつものように、アルテイシアが執事や女中頭達を従えて出迎えてくれるのに、帰宅の挨拶を。

 それから。

「おかえりなさい、ガルマさん。ようこそいらっしゃいました、ランバ・ラル大佐」

「ゼナ……君も居たんだね」

 驚いた。聞けば、兄貴との婚約が整ったから、花嫁修業なんだとか。早くザビ家の家風に慣れるようにとパパンから勧められたって。

 コレはアレだ――“ギレン”余波。

 “ギレン”がいつまで経っても再婚しないからって、他の弟妹達の伴侶を抱え込みに来てる。

 逃がすものかって、パパンの執念すら感じるね。

 これまで士官候補生の隊服しか見てなかったけど、ドレス姿のゼナも美しかった。

 アルテイシアの隣にいても遜色ないくらい――それって凄いことだ。

「我が家には、僕とドズル兄様の女神が降臨したわけだね。眩しいくらいだ」

 アルテイシアの額と瞼にひとつずつ、ゼナの手の甲にひとつ口づけを。

 軽やかな笑い声がエントランスホールに響く。

 一歩譲れば、ランバ・ラルも洗練された仕草で淑女達の手に口づけを贈っていた。

 お茶の用意がされていた居間は静かだった。

 子供たちは学校に行っていたり、家庭教師についていたりでまだ帰っておらず、パパンは急な帰還にスケジュール調整が間に合わなかったみたい。

 席についたのは、アルテイシアとゼナ、それからおれとランバだ。

「3週間、ずっと一緒にいられる?」

 甘い声だった。少し上目遣いに水宝玉の瞳に覗き込まれて、ドキリとする。

 見る度に美しさを増していく少女は、最近、ふとしたところで女性を意識させることも多くなった。

 隣から伸ばされた指先をそっと絡めとって、

「傍にいたいな。……多分、“ギレン兄様”次第だと思うけど、できるだけ家に居るよ」

 整えられた爪の先を優しくなぞる。染めてないのに、桜貝よりもっと綺麗だ。

「……桜貝って?」

「あれ、声に出てた? ……桜貝は、桜って花の花びらに似た小さな貝のことだよ。透き通る薄紅色で、薄くて繊細な。今度贈るよ」

 君の爪には遠く及ばない代物だけど。

 微笑んで、爪の先にキスを。

 と、ランバが大きく咳払いをした――空気読んでよ。なんで邪魔するかな。

 視線を向ければ、ラルおじさんは仏頂面、ミアは耳まで真っ赤に染まってた。

「そういうことは二人きりのときにやれ」

「その時間が滅多にとれないんですよ」

 ぶすくれて答える。

 基本的にムンゾに居て、帰宅すれば嫁に会えるランバとは違うと文句をつけたら、バツの悪い顔をされた。

 ミアは赤く染まった頬のまま、くすくす笑い出した。

「ガルマさんは、女の人に甘いって思ってたけど、そんな事なかったのね。アルテイシアに向けてる顔は全然違うもの」

「本当に?」

「本当。びっくりした」

 アルテイシアとミアが顔を突き合わせてそんなことを。

 可愛い女の子たちが、仲良さそうに微笑みあってるのって、眼福。なんと美しい光景であることよ。

「その割には、パイロット仲間の女性にキスを貰ってたがな」

 ランバが余計な事をニヤニヤと。

「……ガルマ?」

 瞳を揺らす婚約者殿に、安心するように微笑んで。

「つむじにね。もし彼女が君を見たら、やっぱりキスをしようとするよ。僕が阻止するけど」

 可愛いもの好きのモブリットがアルテイシアを見たら、きっと歓声を上げて抱きついてキスをしようとするに違いないんだ。

「ねぇ、ランバ。彼女――モブリット・ローズ上等兵が、僕にそういう感情を向けてたように見えたの?」

 だとしたら、とんだ節穴だと鼻を鳴らす。

「まぁ……見えなかったな」

 肩をすくめたラルおじさんに、女性陣の鋭い視線が突き刺さってた。

「ラルおじさんたら!」

「いまのは酷いですよ、ラル大佐」

「いや、すまん」

 責め立てられてタジタジになるランバ・ラルなんてそうそう拝めるもんじゃないから、今度はおれがニヤニヤと。

 ともあれ、昼になって子どもたちが戻ってきて、屋敷は一気に賑やかになった。

 いつものように飛びついて来ないアムロたちに、少しの寂しさを感じた――のも、束の間。

 油断を誘っておいてのジェットストリーム膝カックンが発動したわけだ。

 びっくりした!

 ふぉおう、腕を上げまくってるじゃないか!

 思わず盾にしたラルおじさんが転がって、アムロは小躍りするし、ゾルタンは雄叫びを上げるし、フロルはなぜかおれとハイタッチをした。

 その後、ゾンビみたいに復活したランバ・ラルから、おれだけ渾身の背負い投げをくらった――受け身をとってもちょっと痛かった。

 目を丸くしてるミアに、アルテイシア達は肩をすくめて、「こんなものよ」と微笑っていた。

 毎度の如く、子供らにお強請りされたから、厨房長が気を利かせて用意してくれてた材料を遠慮なく使わせて貰い、おやつ作りに精を出す。

「『そこはサックリとまぜる』」

「『こう?』」

「『そう』」

 ララァは、相変わらず“ギレン”の胃袋を掴もうと奮闘中だ。なんにせよ手伝ってくれるのは有り難い。

 次のお泊り会に持っていけるように、日持ちのするドライフルーツのパウンドケーキを――“ギレン”の分はオレンジピールと洋酒をたっぷりでな。

 他にもミルシュカ達が楽しんで作れるように、クッキーとかゼリーとかも色々と。

「『アムロ、ハロにメレンゲ泡立てさせるのやめて。中身飛んでっちゃってるだろ』」

 その魔改造した出力でかき混ぜられた白身は、確かにキレイに角が立つけど、量が半分になっちゃうんだ。

「『う〜ん、まだ調整が必要か〜』」

 とかなんとか。途中でハロの改造を始めちゃうあたりは親父さん譲りだな。

「『ゾルタン、そんなに味見してるとクリームがなくなるよ。フロルも!』」

 ボールを抱え込んでる二人を注意。ほんと、油断も隙も無いんだから。

「お姉ちゃんすごい!」

 ミルシュカの歓声に振り返れば、スライスしたはずが下まで切れてなくて、アコーディオンみたいになったキュウリを前に冷や汗をかいているミアが居た。

 ひょいと取り上げて、切れ込みを足してから捻る。ついでに薄くスライスしたブチトマトを散らしたら。

「お花みたい!」

 そ。皿の上で飾りになるでしょ。

 それからミアに向き直って。

「『ナイフは30度に構えろ! 幅1mm! 斬れ!!』」

「了!」

 改めて指示すれば、今度こそシュパパパパッと。

「『オーブンの温度はどうか!』」

「180℃。予熱充分!」

「『よし、生地を投入せよ!』」

「了!」

 顔付きまで変わったミアに、アルテイシアがぱちくりしてる。

「ここは戦場か?」

 見てるだけのランバが笑うけどさ、ある意味では戦場だ。

「ガルマ、できた!」

 ミルシュカが、カットされたフルーツで溢れそうな器を差し出してくる。

 ちなみに切ったのはパプティだ。文句を言いながらも手際が良いんだよね。

「『うむ。素晴らしいぞ! ミルシュカ隊員、パプテマス隊員。ゼラチンを投入しよう』」

 溶かしたゼラチンを流し込む。

 その間に、ちょっと離れたテーブルではコックに手伝われてマリオンが何やら作業していた。

 覗きこもうとするたびに手元を隠して、「『あっち向いてて!』」って怒った顔するのすら可愛いんだろう。ランバパパは相好を崩してるし。

 そんな風におやつ作りの全ての工程を監督し、仕上がりを待つ間に片付けを。

 厨房長はそのままでと言うけど、こういうのって片付けまでがセットなんだ。

 子供らも、そういうものだって身につくでしょ。

 パウンドケーキは冷ましてからにするとして、クッキーは焼きたてをいただく。

 飾り気のない大皿にザラリと盛れば、歓声があがった。

「『熱いから気をつけてね』」

「『「『「『アチッ!!』」』」』」

 って言ってるそばから君ら、お約束だな。

 それでもなお頬張るやんちゃ坊主どもに笑いがこみ上げる。ハムスターか。

 レディ達は、お澄まし顔で、それでもパクパクと。

 ――……パウンドケーキ入るのかな?

 疑問が漏れたのか。

「『別腹だ!』」

 と、ゾルタンから。ナルホドね。

 ワイワイと賑やかに過ごして、気がついたら夕刻だった。

 そっと近づいてきた執事から、もうすぐキャスバルがやってくると知らされた。

 待ちきれずにエントランスに移動しようとしたおれの腕を、ランバがグイと引っ張った。

「『……なんです?』」

「よく言って聞かせろよ」

 ――なにをさ?

 キョトンと首を傾げたら、舌打ちされた。ヲイ。

「“我儘を言うな。指揮系統を飛び越えるな。上長は敬え。上官には従え。いい加減に幼馴染離れをしろ”」

「『…………それ全部、僕にですよね?』」

 いま言って聞かされてるんだが。

「キャスバルにだ」

 ――んんん?

「『…………わかりました』」

 取り敢えず、該当しそうなとこは言っとくよ。指揮系統飛び越えんなとか――コレ、結構ストレスなんだけどな。

「わかってないだろう、お前」

「『わかってますってば。要するにヤンチャせずにおとなしくしてろってコトでしょ』」

「……………大枠で言えば、そうだな」

「『善処します』」

「お前の善処するは当てにならん!」

「『えぇ〜』」

 失礼しちゃうわー。“善きように処する”って言ってるじゃないか――おれにとって。

 ちょいちょいと腕を外して、今度こそエントランスへ急ぐ。

 パタパタ小走りに進むおれを、なぜかラルおじさんも追いかけてきた。

 辿り着く少し前に、何より馴染む“波”が――。

『おかえり、キャスバル!』

『……ただいま、ガルマ』

 顔を見るより先に“声”を投げ合う。

 重厚な扉が開かれて、現れたキャスバルはムンゾ軍中尉の軍服姿で、そりゃもう格好良かった。

「『キャスバル! ホンモノだ!!』」

「『……偽物でも出たのかい?』」

「『出るわけないだろ! 誰がお前に成り変れるのさ!?』」

「『シャアが居るだろう』」

「『アイツじゃムリ!!』」

 飛びついて懐いてたら、背後からランバに頭を掴まれた。なにすんのさ。邪魔するならキレ散らかすぞ。

 ガルグル唸ってたら。

「おい犬っころ、いま俺が言い渡した事をもう忘れたのか」

 ギロリと睨まれる。犬っころってヒドイな。

 ――えぇと、なんだっけ。

「『……大枠で、おとなしくしとけって。あと、おれがキャスバル離れできてないってことでしょ』」

 わかってますってば。でもさ。

「『会えたときくらい良いじゃないか!』」

 普段はめちゃくちゃ我慢してるんだ。

「会えたときならな」

 ……? 会えないときにどうやって懐くの? エアにデレデレすんの?

 ――怖いんだけど。

「明後日の方向に想像力を働かすんじゃない。いいか、…、」

「『分かっているから、そうクドクド言わないでくれ、ランバ』」

 言葉の途中で、キャスバルか苦笑しながら肩をすくめた。

 それから青い眼がこっちを向いて。

「『ガルマ、喉が渇いた。急いで来たからね、何か用意してくれるかい?』」

「『分かった。すぐに』」

 アイスコーヒーでも用意しようか。

「おい、ガルマ!」

 踵を返すおれにランバが声を投げてくるけど、ごめん、後でね。

 背後でキャスバルとランバが何やら言い合いをはじめたけど、そこエントランスだから。

「『居間に通して』」

 追いついてきた執事に告げれば、柔和な表情のまま「かしこまりました」と、綺麗に腰を折った。

 

 

 

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