ザビ家成り代わり   作:くずみ@ぼっち字書き。

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【成り代わり】another ORIGIN 謀略の"ギレン" 4【転生】

 

 

 

「二年でムンゾ大学を卒業しろ」

 テキサスコロニーから帰ってきたキャスバルにそう云うと、隣りの“ガルマ”が目を見開いた。

「……………ふぉ?」

 ――素が出てるぞ、おい。

 ガルマ・ザビに相応しからぬ奇声を上げる“ガルマ”を見る。

 キャスバルはと云えば、幼馴染の奇矯な様にも動じることなく、少し首を傾げていた。

「それは何故?」

「“ガルマ”と共に士官学校に通うつもりなら、それが条件だ」

 と云うのに、今度は“ガルマ”が首を傾げる。何故、士官学校に入るのに大学を出る必要があるのか、まったくわかっていないと云う顔だ。

 だが、もちろんキャスバルには見当がついたようだ。

「……父さんと同じ道を歩めと?」

 ――宜しい。

 流石の理解力だ。

「ムンゾは帝国でも公国でもない。世襲とは限らんだろうがな、民の声と言うものがある。お前はジオン・ズム・ダイクンの子だ。スペースノイドを束ね、その誇りを誰かが守らねばならん」

 士官学校出が政治家になれないとは云わないが、軍関係は、どうしても低く見られがちな状況がある。それは、元々のアレでもそうだが、軍関係者は割合軍事に傾いた意見を述べがちで、それ以外のもの、特に文化や市民生活を蔑ろにしがちである、と云うイメージ故だろうと思う。

 歴史を見ても、軍は己の拡充をひたすらに求めたり、仮想敵への不信を煽ったりと、あまり良いイメージがない――まぁ、子どもでもそうだが、新しい銃やナイフを与えられれば使いたくなるものだし、軍がそれをやるとなれば、戦争になる。過去、そうして起こった戦争は数多く、それこそが文民統制の理由にもなったわけなのだが――締めつけられれば反発するのが世の常で。

 ――下の兵卒にとっては、戦争なしの軍隊の方が良いのではないかと思うのだがな。

 しかし、その兵卒の中にも、また与えられた武器を使ってみたがるものがあるから、面倒なのだが。

 ともかく、軍を動かすためには士官学校を出ておくのは有効だが、それだけでは他の政治家たちを黙らせるには弱いと云うことだ。

 キャスバル・レム・ダイクンは、ジオン・ズム・ダイクンの息子であり、そうである以上、政治の世界からは逃れられない。

 そうであるならば、政治家としての武器も磨いておかなければ、周囲に翻弄されるだけにもなりかねない。

 まぁ、賢いキャスバルのことだから、翻弄されるだけと云うことはあるまいが――使える武器は、多いに越したことはないのだ。

「ねえ、“ギレン兄様”。それ、キャスバルに首相になれって言ってます?」

 “ガルマ”が目を瞬かせ、そう問いかけてくる。

 確かに、それを想定してはいるのだが、

「それを決めるのは国民だ。ムンゾは共和国だぞ」

 確かに、直接選挙制ではないムンゾの首相を、選ぶのは国民ではない。

 だが、議会がそれを選出する以上、直接選ばれた議員たちに、何らかの働きかけはある――それが“世論”と云うものだ。

 まぁ、国民から支持されていたジオン・ズム・ダイクンの子が立つならば、議員になれないはずはない。その上で経験を積んでいけば、いずれはこの国の首相の座に就くだろうことも確かではあったのだが。そう、民衆は、わかり易い物語を好むものだから。

 いずれにせよ、キャスバルは、政治の世界からは逃れられないのだ。こちらとしても、かれのパイロットとしての才能を惜しむ気持ちがあるからこそ、士官学校入りに反対はしないけれど、どうあっても逃れられないからには、それを想定に入れて動く方が、後々困ることも減るだろう。

 ――Zから『逆シャア』の流れを考えれば、政治の世界に足場を作っておくのは、無駄なことではない。

 この先、宇宙世紀の世界がどこまで原作のラインとずれていくかは定かではないが、最悪があれだと思えば、準備は怠りなくするべきだ。

 “ガルマ”は、きょろきょろとこちらとキャスバルの顔を見較べていたが、ふっと息をつくと、にやりと笑って、

「ムンゾ大学か。頑張ってね、キャスバル」

 と云った。完全に他人ごとである。

 キャスバルは、かるく眉を上げた。

「なにを他人事みたいに。君も一緒に決まってるだろう」

「めんどくさ!」

 間髪入れずに“ガルマ”が云う。

 ――おい!!

 何かの皮が剥がれている。本音が駄々漏れだ。

 まぁ、正直に云えば、“ガルマ”を大学に入れる必要はない。ザビ家の人間は基本的に軍人であり、“父”デギン・ソド・ザビ以外は、皆士官学校卒であるはずだ。いや、“ギレン・ザビ”は、もしかしたらムンゾ大学を出ているのかも知れない――キャスバルが生まれた時に、学内で銃を手に、警察の動きを監視するシーンが、漫画の番外編にあったから。まぁそれを云えば、同じ時に学内にいたサスロもまた、大学卒と云うことになるのだが。

 おそらくだが、“父”は、ハイスクール時代にでも、ジオン・ズム・ダイクンと接点があり、その思想に触れて、学究の道を志したのではないかと思う。

 まぁつまり、“ガルマ”も本来なら、士官学校卒で構わないわけなのだが。

 こちらをまっすぐに見つめるキャスバルの青い瞳は、“ガルマ”がともに大学へ進むことを、欠片も、髪一筋ほども疑ってはいなかった。

 ――まぁ、諦めろ、“ガルマ”。

「――転入試験に向けて励め。家庭教師も呼んである」

 キャスバルがこうと決めたら、何がどうあろうと、その決断を覆すことはできるまい。

 “ガルマ”は、何やら云いたげに口をぱくぱくさせたけれど、頭を垂れたキャスバルに腕を掴まれ、扉の向こうに引きずり出されてしまった。

 ――……生きろ。

 まぁ、学校の成績をもぎ取ると云う点では、こちらよりもずっと長けていた“ガルマ”のことだ。キャスバルの大学進学につき合えないわけではないだろう――まぁ、ひどく大変なのは確かだろうが。

 しかし、こうしてキャスバルを大学に送りこめることになると、問題なのがシャア・アズナブル(本人)だ。

 ――やはり、同じようにムンゾ大学に入ってもらわなくてはな。

 それも、キャスバルと同じ――多分、法学部にでも。

 まぁ、あちらは二年で卒業しなくてはならないわけでもない。キャスバルの士官学校卒業に合わせて、ハイスクールは飛び級してもらう必要はあるが、そこそこゆっくりやってもらって構わないだろう。

 キャスバルの士官学校卒業――そして、例の“暁の蜂起”――まで、あと五年。

 その五年の間に、何としても、コロニー同盟を確固たるものにしておかなくては。

 

 

 

 キャスバルは、アムロ・レイと遭遇し、どうやら友好的な関係となったようだ。

 “ガルマ”がその仲間に引きずりこまれているのはよくわからないが、元々子どもの面倒見だけは良い“ガルマ”のことだから、キャスバルに便利に使われた部分はあるのかも知れない。

 まぁともかく、あの二人が仲良くなってくれたなら、様々な意味で、連邦の戦力は大幅に削られることになるわけだから、文句はない。

 それからほどなくして、キャスバルと“ガルマ”はムンゾ大学に入り――何と、学部まで同じ法学部だった、キャスバルが無理矢理引きずっていったようだ――、シャア(本人)は、家庭教師の豪腕で、ハイスクールの三年に編入させた。これで、翌年には大学だから、三年制の士官学校卒業と、シャア(本人)の大学卒業がぴったり同じになると云うことだ。

「なかなか可愛い子なのよ」

 とキシリアは云った。手許に置いて監督している内に、絆されたと云うことなのか。

「……お前は、キャスバルのことはあまり好いていなかったように思ったが」

 と云えば、含み笑いが返された。

「キャスバルは、賢過ぎてつまらないの。その点あの子は、一生懸命で可愛いわ。食べちゃいたいくらい」

「……おいおい」

 なかなか不穏な発言ではないか。

「まさか、本当に食うつもりではあるまいな」

 隠喩としてだが。

「さぁ、どうかしら」

 くすくすと笑う。

 まさかと思うが、“ガルマ”の中身がアレなので、元の弟に似たタイプのシャア(本人)に目が移ったのだろうか。

「……ほどほどにしておいてやれ」

 ザビ家の女傑を相手にするには、あの少年では少々荷が勝ち過ぎているだろうから。

 キシリアは、軽く肩をすくめただけだった。

「……ところでギレン、フラナガン博士が、あなたに会いたいと云っているのだけれど、時間を取ることはできるかしら」

「ふむ」

 フラナガン博士と云えば、ニタ研――ニュータイプ研究所の前身であるフラナガン機関を立ち上げた人物である。例の“サイコミュ”は、この機関の発明品であり、また陰で行っていた人体実験から、Zのフォウ・ムラサメやロザミア・バダム、ZZのプル・シリーズ、『逆シャア』のギュネイ・ガスなどの強化人間を生み出した、その元凶とも云える人物だ。

 正直に云えば、ニュータイプに対する夢はあるが、強化人間の悲惨は――UCやNTに至るまで――様々に見ているので、ある程度の釘は刺しておきたい。

「――わかった、調整しよう」

 云うと、キシリアは若干ほっとしたような表情になった。

「助かるわ。サスロが、なかなか予算をくれないの。あなたがうんと云えば、サスロも財布の紐を緩めざるを得ないでしょう」

 なるほど、そちらが本題と云うことか。

「うむ……それに関しては、機関の実情を知るために視察した上で、と云うことで構わないか」

 いくらキシリアの肝煎りとは云え、怪しげな研究に巨額を注ぎこむわけにはいかない――例え、その研究成果を予め知っていたとしても、だ。

「そう……そうね、その方が良いでしょう。研究員たちの励みにもなるでしょうし」

「では、そうさせてもらおう」

 と云ってから、視察日決定までは迅速だった。そのあたり、キシリアはサスロに負けない電光石火である。

 フラナガン・ロス博士は、もちろん劇場版の方だった――『the ORIGIN』ベースとなれば安彦絵だから当然か。

 設定によれば、髪がやや薄いユダヤ系の男、と云うことだが、アシュケナジム(白系ユダヤ人)と云うよりはセファルディム(アジア系ユダヤ人)と云うイメージだ――実際には、どちらも欧州系らしいから、見た目の特徴があるわけではないそうだが。

 とにかくフラナガン博士本人は、アジア系と云われた方が納得できる、やや浅黒い肌のがっしりした中年男性だった。

「ギレン閣下」

 男は丁寧な口調で云ったが、その目には探るような鋭い光があった。

「フラナガン・ロスと申します。この度は、当研究所にお越し戴き……」

「御託は良い、こちらで研究している“ニュータイプ”について、説明してもらおうか」

 遮るように云うと、フラナガン博士は鼻白んだ様子だったが、ひとつ頷いて口を開いた。

「ジオン・ズム・ダイクンは、人類が宇宙へ出たことにより、認知が拡大し、洞察力が上がると主張しました。実際、私の知る中にも、地球にいた時よりも認識できる範囲が広がったと云うものがあり、そこからこの研究をはじめたのです」

「認知が拡大して、どうなる?」

「視聴覚の範囲を超えて、他者の存在を感知したり、その感情までも感じ取るのです。まだ五例ほどですが、いずれのものも、五感の範囲外の他者の存在を感知可能でした。それは、ミノフスキー粒子中でも変わりませんでした」

「ほほぅ」

 なるほど、原作中の“ニュータイプ”であるに違いない。

「だが、それがジオン・ズム・ダイクンの唱えた“ニュータイプ”と同じであると云えるのか? それは、単なる異能者と云うことにはなるまいか」

「他者の感情を知覚できるのです、異能者と云えばそうでしょうが、言葉を変えれば洞察力が高いと云うことです」

「……ふむ、まぁそれはそれで良かろう。しかし、貴殿は、それを研究してどうしようと?」

「ニュータイプと目される人びとは、脳からある種の波長――仮にサイコウェーブと名づけますが、それを出しています。どうやらそれによって、かれらは空間を、他者を把握し、また同じようにサイコウェーブを出すもの同士で“会話”することも可能なようなのです。私は、そのサイコウェーブを利用して、遠隔地との通信や、ミノフスキー粒子中での通信に応用できないかと考えているのです」

 ――なるほど、それがサイコミュに発展するわけだな。

 だが、

「――しかし、ジオン・ズム・ダイクンの云った“人類の革新”とそれは、かなり意味合いが違うように思えるが」

 “お互いに判りあい、理解しあう、新しい人類の姿”と、フラナガン博士が提示した、そして原作中でも示されたニュータイプの姿とは、かなりのずれがあると感じる。

 だが、フラナガン博士は断じた。

「同じです。認知能力が拡大するからこそ理解し合えるのですし、ミノフスキー粒子と云う妨害があっても意志の疎通が可能になる」

「……なるほど?」

 しかし、以前“ガルマ”がニュータイプについて、考察めいた――と云っても、理論的な話ではないので、“考察”と称して良いのかはわからない――ことを口にしたことがある。

 ――地平線がずーっと広がってるとこにいると、“自分”が自分のガワの外に、こう、溶け出してくみたいなカンジになるんだ。

 かつて、元のアレで北欧にオーロラを見に行った時に経験した、そんな体験に、ニュータイプの感覚は似ているのではないかと云っていた。

 こちらは、果てしない水平線――ハワイに行った時のことだ――の広がりを見ても、欠片もそんな感覚を覚えなかったので、おそらくは、元々の精神と云うか、“魂”の構造的に、そうなり易い人間と、なり難い人間とがあるのだろう。

 “ガルマ”は、元々何かを感じ取る力が強く、勘もよく働くタイプの人間なので、普通よりはニュータイプに近いのかも知れない。所謂直感型の人間である。対してこちらは、典型的な理論型だ。多少の勘は働くが、第六感がどうのと云った体験とはほとんど無縁な身は、云うところのオールドタイプでしかないだろうが。

 しかしまぁ、なるほどフラナガン博士のもの云いに、“ギレン・ザビ”が今ひとつ賛同しなかったわけはわかった。

 つまり、フラナガン博士の考える“ニュータイプ”は、超能力者だのサイキックだのと云うレベルの話であって、ジオン・ズム・ダイクンの云った“人類の革新”の要素と云うものが、そこからはまったく感じ取れなかったからだ。

 “ギレン・ザビ”は、いろいろと云われてはいるが、ジオン・ズム・ダイクンの信奉者ではあったのだろうと思う。もちろん、ヒトラー的な優生思想を持つ独裁者ではあっただろうが、それだけではなく、ニュータイプについても、漠然とではあろうがイメージするところはあっただろうと思う。つまり、ニーチェ的な“Ubermensch”、“超人”のようなものであると。野蛮人の原始的な健康さと、宗教的聖人の清らかさを併せ持つ、そのような人類を夢想していたのだろうと思うのだ。

 だから、フラナガン博士の云うニュータイプ――つまりは、単なる異能者としてのそれ――には、正直あまり魅力を感じなかったのではないか。

 フラナガン博士のニュータイプは、異能者と云うだけの単なる人間であり、アースノイドを超える理想的人類としてのニュータイプ、ではあり得なかったからだ。理論家であり、スペースノイドの優越を語る“ギレン・ザビ”にとっては、アースノイドに優れたスペースノイドとしてのニュータイプ以外には、関心を引かれることもなかっただろう。

 現実はともかくとして、理想を語るなら、ニュータイプは完全な人間でなければならぬ。戦争に有用である以上の存在、そんなものでなければ、スペースノイドに夢を見せることはできぬ。

「――貴殿の云うようはわかった」

「……では!」

「しかしな、フラナガン博士、そのような“ニュータイプ”では、ジオニストとしては喜ぶことはできん。ジオン・ズム・ダイクンは、“宇宙に出た人びとは、進化して、拡大された認識力を得、互いに理解し合う穏和な人間になる”と云ったのだ。しかし、貴殿の云うのは、単に異能を得た人間以外の何ものでもないではないか」

「そ、それは……」

 博士は、狼狽えた様子を見せた。

 まぁ、こちらも全否定をするつもりはない。ただ、あまりに得々と語られるのは好かぬ、それを示しておかなくてはならないと思ったのだ。

「……まぁ良い」

 ややおいて、そう云ってやる。

「サスロにはよく云っておこう。異能者と云うばかりでなく、我らが同じように理解し合う新しい人類となれるよう、よく研究してほしい」

 研究費を削られると考えていたのか、フラナガン博士は、それを聞くとぱっと表情を明るくした。

「で、では……!」

「仔細はキシリアに訊け」

 そう云って踵を返す。

 その間際に、深々と頭を垂れる男の姿が目に入った。

 

 

 

 フラナガン機関を視察したからには、そろそろMS計画の方にも目配りせねばなるまい。

 久し振りにダークコロニーを訪れると、ミノフスキー博士とテム・レイが、笑顔で迎えてくれた。

「閣下! ご覧あれ、われわれの成果を!」

「これでムンゾは、地球連邦に遅れを取ることはありませんぞ!」

 その表情の明るさに、なるほど、MS開発は上手くいっているようだと胸を撫で下ろす。

 何しろ、“暁の蜂起”まで五年を切った――ジオン・ズム・ダイクンの死去からこれまでの六年の間に、ムンゾと地球連邦の間には、様々な小競り合いがあったのだ。

 否、ムンゾだけではない。建設途中のサイド7以外のすべてのコロニーで、コロニー政府サイドと連邦との、小さな軋轢がぽつぽつと噴出しつつある。それはおそらく、原作中ではあまり表面化していなかった、本当に小さな軋轢ばかりだったが――コロニー同盟的なものがようやく機能しはじめた今になってのことだったから、あるいは原作では、そもそもそんな軋轢など存在しなかったところもあったのかも知れない。

 ミノフスキー博士のMSは、MS-04ブグに進化しており、課題だった“ランドセル”の小型化にも成功していた。後は実戦投入して稼動状態を確認し、修正を加えて量産化すれば、原作で“旧ザク”として知られるMS-05まではすぐだろう。

 モニターの中でぶつかり合う、ブグ二機を見つめる。

 今あれに搭乗しているのは“黒い三連星”のうちの二人、マッシュとオルテガだ。オルテガの方が操縦が大味で、マッシュに当てられまくっているが、その代わりスピードはオルテガの方が速く、当てると防御が間に合わないようだ。

「……中々強いな」

 呟くと、ガイアが心持ち胸を張った。

「恐れ入ります」

 云いながら、媚びるような笑顔なのは、褒賞を望んでいるからだろうか。

 まぁ、そちらはドズルの管轄であるし、そもそもMSの実用化、量産化が成ってからのことでもあるので、笑みを浮かべつつ、ふいと目を逸らす。

「いかがでしょう閣下。試作機としては万全なものと自負しておりますが」

 ミノフスキー博士も、胸を反らし気味に云った。

 原作では、このブグの後継機であるMS-05、所謂旧ザクに、地球連邦への亡命を計った博士は追いすがられ、戦闘中の事故で死亡したのだが――この時間軸では、ムンゾのやり方が穏当であるために、そのような事態には発展しそうにもなかった。

「素晴らしい」

 称讃の言葉を口にすると、博士の口許が、満足げな笑みに緩んだ。

「人型汎用兵器の有用性は、これで立証されました。コロニーが地球連邦政府と張り合っていくなら、MSはそれを支える力になるでしょう」

「うむ。……テム・レイ博士はいかがかな。進捗の方は」

「順調です」

 テム・レイも、負けじと胸を張る。

「ミノフスキー博士のものとはシステムが違いますので、やや難航はしておりますが――駆動系のテストでは、良好な成績を出しております。完成の暁には、必ずや閣下のお役に立ちますでしょう」

「うむ。期待している。――試作機は、いつ頃できそうか」

 最初のMS――RX-78ガンダムは。

「は、基本は、今年度中には」

「ふむ、良かろう。両名とも、宜しく励め」

 云うと、ミノフスキー博士もテム・レイも、姿勢を正して頭を垂れた。

「ギレン」

 首都バンチへ戻ろうと踵を返しかけると、ドズルに声をかけられた。

「何だ」

 引かれるままに歩いていくと、ドズルの、ダークコロニーにおける執務室に連れこまれた。人払いをされたので、この“弟”と二人きりになる。

「――兄貴、どう云うつもりだ。ムンゾのMSは、ミノフスキー博士に任せるのではなかったのか」

 低い声でそう問われる。

 なるほど、ムンゾのすべてのMSを作るのだと考えていたミノフスキー博士が、話が違うとドズルにねじこんできたか。

 しかし、ここでテム・レイを手放すことなどできなかった。

「ドズル、テム・レイ博士のMSがもし連邦軍に採用されることがあれば、ムンゾは非常に困難な事態に追いこまれる可能性があるのだ。それを回避する意味でも、博士をアナハイムに戻すことはできん。コロニー同盟に支障をきたす可能性のあるものは極力排除せねば、ムンゾの未来は冥いぞ」

「しかし!」

「ドズルよ、恐らくだが、いずれ“ガルマ”は、両博士の作ったMSのどちらかに乗ることになるだろう」

 想定される未来を、ほんの少し明かしてやれば、ドズルは激しく動揺した。

「あのガルマが!? 馬鹿な!!」

「既に興味は示している。そして、ことによるとキャスバルもな」

 元々、“三日月・オーガス”としてガンダムフレームを乗り回していた“ガルマ”だ、武器などは異なるとは云え、馴染んだ機体に乗りたいと思わないとは考えられない。

 キャスバルはキャスバルで、『逆シャア』でネオ・ジオン総帥でありながらサザビーで出撃した――もちろんそれは、ネオ・ジオンに人材が乏しかったことも理由ではあるだろうが――ことを思えば、パイロットになりたがらないとは云い切れなかった。

「俺は許さんぞ、ギレン!」

 ドズルは吠えるが、それで思い止まるような二人でないのは明白だった。

「私としても、極力阻止はしたい。だが、何だかんだ、“ガルマ”もキャスバルも、思いどおりにことを進めるだろう。だから、私としては、あの二人が乗る可能性のあるMSを、安全性の高いものに仕上げてもらいたいのだ」

「兄貴……」

 いかつい“弟”の顔が、へにゃりと歪む。

「お前とてわかるだろう、ドズル。“ガルマ”はああ見えて、やりたいようにやるのだと。――流石はザビ家の男、と云うべきかは悩むがな」

 そう、ドズルも、そしてサスロやキシリアも、何だかんだで“ガルマ”には甘いのだ。わかり易くきゅるんと“可愛く”されて、うっかりおねだりに応えてしまったことも二度三度ではきくまい。そして、同じことを、MSの機乗においてもしてしまわないとは、云えないはずなのだ、恐らくは。

「どうだ、お前は? “ガルマ”に潤んだ目で見上げられて、“僕だってザビ家の男なんです兄さん!”などと云われて、頷かずにいられる自信はあるか?」

 そう云ってやると、ドズルは真剣に首を捻り、うぅぅんと唸り声をこぼした。

 そして、

「……残念だが、ない、な……」

 と、溜息をついてわずかに項垂れた。

「だろう。だから私は、兄として最大限に、“ガルマ”たちの安全を期してやりたいのだ」

「……わかったよ、兄貴」

 遂に、ドズルは云って頷いた。

「あの二人には、その話を俺からして、なお一層励んでもらうことにしよう。他ならぬガルマが乗る可能性があるんだ、安全性には、万全を期しておく」

「頼んだぞ」

 まぁ、“ガルマ”可愛いドズルであれば、こう云っておけば、二人の科学者にうまく伝えてくれるだろう。

 強い語調で云ってやれば、ドズルは胸を叩き、力強い頷きを返してきた。

 

 

 

 裏計画ばかりにかまけているわけにはいかないこともある。

 ダークコロニーから戻った翌日は、ムンゾ議会の若手議員による“勉強会”とやらに出席することになっていた。ムンゾ議会の一角、議員たちが勉強会などで自由に使うことのできる、会議室のようなものがある。かれらが集まったのは、そのうちのひとつの部屋だった。

 正直、元々のアレのことを考えても、若手議員などと云うものは、威勢のいいことを云い立てる輩が多いのだ。

 もちろん、理想を高く掲げてそれに向かって邁進する一途さは、愛おしく感じる場合もある。

 あるがしかし、その“理想”が穏当なものであるか、また訴える手段が正しいものであるかと云うあたりにおいて、“若手議員”なる連中は、しばしば越えるべきでない一線を越えてしまう。それこそ“若さ故の過ち”、あるいは“馬鹿さ故の”か。

 実際、目の前で演説めいた台詞を打つ男は、地球連邦とことを構えることを主張していた。

「連邦の奴らは、われわれの力を甘く見過ぎている! いざ一戦交えるとなった時に、ムンゾの底力を思い知り、絶望に打ちひしがれれば良いのだ!」

 とは云うが、

「……連邦の戦力は、われわれの三十倍だぞ。その差を、貴殿はどう埋めると云うのだ?」

 そう云ってやれば、男は悔しそうに唇を噛んだ。

「そ、それ故にギレン殿、我らは貴殿の頭脳をお借りしたいと云うのです!」

 この議員グループの頭と思しき男が、慌てて云う。

「貴殿のその頭脳は、ムンゾ議会でも突出している――貴殿であれば、良い案もお持ちでしょう」

 そのおだてに乗ってやるほど、こちらも若くも功名に逸っていもしない。こちとら、元々のアレコレから数えれば、余裕で百を超える年月を生きてきたのだ。若くもなければ坊やでもない。

「私は、無駄な国庫からの出費は抑えたい方でな。戦争などと云う金食い虫には、極力手を出したくはないのだよ」

「ですが!」

 はじめに熱弁を振るった男が、追いすがるように云う。

「貴殿とて、戦争に対する備えを、まったくしていないと云うことはありますまい! ……聞きましたぞ、ザビ家は、T.Y.ミノフスキー博士を迎え入れ、秘密裏に新兵器の開発をしていると」

「……無論、戦争の備えは怠ってはいない」

 どこから話が洩れたのかと思ったが、まぁ人の口に戸は立てられない。例えば、“黒い三連星”の三人が、休暇で戻った街の酒場ででも管を巻き、“俺は今、機密の新兵器に関わっているんだぞ”とでもこぼしたなら、その詳細はともかくとして、“連邦軍に対抗するための新兵器”の存在は、外部に洩れることになっただろう。

 ともかく、詳細が洩れていないだけでも良しとするしかない。

「だが諸君、戦争は最後の手段だ。それくらいならば、私は中世紀の米ソ冷戦のごとく、睨み合いのために軍拡することを望む」

「実力行使に出ることはないと?」

「云いたくはないが、諸君らはいずれも戦場にでることのないお立場だ。翻って、私には軍籍があり、戦争となれば出てゆかねばならぬ立場でもある。また、目の前で部下たちが生命を落とす様を見届けねばならん立場でも。そうであれば、極力犠牲を少なく、と思うのだよ」

「……臆されたか!」

 一人が、嘲るような声音で云った。

 それをきつく睨みつける。

「その台詞は、戦場に立ってみてから云ってもらおうか!」

 怒鳴ってやれば、流石に怯んだ様子が見えた。

「安全なところで安穏としているものが、戦場に出るものをそのように云うとは言語道断! 貴殿らは、国民の生命を何と心得るか!」

「……国民を指導する立場にあるものが、軽々と戦場に立てるわけがありましょうや」

 リーダーの男が、胸を張って云った。

 それに、思わず鼻を鳴らしてしまう。

「だが、前線に立つ兵に思いを致さずして、まともに国民を導くことができるのか? 国民が熱狂しているうちは良い。熱が冷めることがあれば、貴殿らは、あっと云う間に戦犯だ。まして、戦いに敗れれば、より罪は重くなろう。それを引き受ける覚悟が、貴殿らにあるのか?」

 それに返る言葉はなかった。

「……話にならんな」

 国民を代表するはずの議員がこれでは、まったくもって話にもならぬ。

 いずれも、ムンゾの最高学府を出た身であるのだろうに、実の伴わぬこと甚だしい。

 元々のアレコレでもそうだったが、学歴と賢さとはイコールではないのだなと思う。同じように、高IQが為政者としての有能さとイコールでないと云うのも、つくづく思い知ったことだ。某大国の大統領然り、“ギレン・ザビ”然り。高IQの人間には、強い認知の歪みがある場合が多いのだと、何かで読んだ気がするが、その真偽はさておき、やはり年を経ると頭脳も劣化し、柔軟にものを考えられなくなるのだろう。

 しかし、若いなら若いで、自分の情熱に気を取られてまわりが見えなくなりがちだ。

 賢くあると云うのは難しいことだな、と思いながら、失礼すると云い放って退席した。もう当分、このような“勉強会”は御免被る。

 と思ったら、執務室で“ガルマ”に急襲をかけられた。大学できちんと勉強しているのか。

「“ギレン”、MSはどーなってんの? おれはいつ乗れる? あとシャア(本人)は今どんな感じさ?」

 デスクに腰かけて、足をぶらぶらさせながらの台詞である。

「“ギレンお兄様”と呼べ。開発中だ――士官学校を卒業してから云え。シャア・アズナブル(本人)はキシリアが監督している。中々の仕上がりらしいな」

 云ってやると、“ガルマ”はひょいと片眉を上げた。その唇は、ちょっとばかり尖っている。

「……不満そうだな」

 そう云うと、眉を寄せ、唇を曲げていたが、ちらりとこちらを上目遣いで見た。

「じゃあ、“フラナガン機関”は? もう姉さまが立ち上げてるんだろ? どれくらい対象がいるの?」

 ――いきなり何を云い出すかと思えば。

 正直に云えば、フラナガン機関はキシリアの統括であって、細かいことはそちらに任せている。フラナガン博士と接触するのも、キシリアが博士の要求に言を左右にするために、“ギレン・ザビ”が上にいる状態が必要だからで、それ以上でもそれ以下でもない。

 第一、

「ニュータイプでないお前が、そんなことを知ってどうする?」

 そう云ってやると、“ガルマ”は小首を傾げた。

「逆に何でそれが必要じゃないって思うのさ? おれはキャスバルとアムロの“幼馴染”だよ。“ギレン兄様”がそう仕向けたんだろ」

 呆れたような声音でいいながら、悪辣な笑いがその顔に浮かぶ。

「ね、ボス。“おれ”のこと忘れてるんじゃない? いい加減開放してよ。鎖で繋がれてるの飽々なんだ」

「……また良からぬ事を思いついた顔だな」

 ――冗談は止せ。

 もちろん、“ガルマ”が束縛を嫌うのは知っている。ラスタル・エリオンの時にも、束縛されそうになって、散々アレコレやらかしていた。“昔”のことにしても、貸し出しを要求されて、大体半月で差し戻しにあったくらいには、普通の組織には合わない性格であることも。

 ゴムで繋いでおくなら拘束を破ることはないが、鎖ならばすぐに打ち壊して脱走する。“ガルマ”と云うのは、基本的にそう云う人間だった。

 だが、この宇宙世紀の中では、そう云うわけにはいかない。

 そもそも“ガルマ”はまだ学生であり、鉄オル世界でのように自由にやる、と云うわけにはいかないのだ。

 この時間軸は、政治的にあまりにも複雑に組み上がっていて、どこかを殺ればそれでなんとかなると云うこともない。

 そんな中に、トラブルメイカーとしか云いようのない“ガルマ”を、野放図に解き放つことはできなかった。

 だが、“ガルマ”はこう云った。

「いずれ来る戦いに向けて、“おれ”なりに備えておきたいって言ってるだけじゃないか」

「……過去の所業を振り返ってみろ」

 鉄オル世界で“三日月”が何をしたか。

 もちろん、ためになることもしてくれたが、あれやこれやを考えると、碌でもないことの方が多い気がしてならないのだが。

「そんな昔のことをおれが覚えてると思うの?」

 しゃあしゃあと“ガルマ”は云い放つ。

 ――反省しろ!

 と叫びたくなるが、“三日月”と云うか“ガルマ”は、しれっとして手を出してきた。

「ってコトで、ドズル兄貴のMS資料と、姉さまのニタ研資料の閲覧権ちょうだい」

 ――そうきたか。

 正直に云えば、許可したくない。碌なことにならないのは、目に見えているからだ。

 長嘆息。

「…………………あの二人が良いって言ったらな」

 と云った途端、“ガルマ”がにんまりと笑った。

 ――まさか。

 既にあの二人の許可を取ったのか、いや、向こうも判断に困って、こちら次第だと云っていたのか。

 ――性悪め!

 歯噛みするが、もう遅い。

 “ガルマ”は、そ知らぬ風で、のほほんと云った。

「出来れば“社会勉強”として“見学”にも行きたいんだけど」

「却下だ!」

 そこまでいくと、そもそも“父”の恨みが怖い。ダイクン家にやったり、早々に大学に入学させたりと、今までやってきたことどもにも、結構な長期間ねちねちと云われているのだから。

 ダークコロニーなどに行かせれば、“ガルマ”は絶対にMSに乗るだろう。それでデギンや、ドズルに恨まれるのは、本当に御免被りたい。

 第一、まだ一般人であるところの“ガルマ”を、機密だらけのダークコロニーに入れたりすれば、それが漏洩した時に、議会などから何を云われるかわからない。ムンゾは、ザビ家の王国ではないのだ。である以上、最低限の規律は守らねばならぬ。

「ケチー。今のうちに色々繋ぎ付けときたいんだよー。たーのーむーよー。“おれ”お役に立つよー?」

 ケチとか云う問題ではないと云うのに、この“弟”は。

「却下だって言ってんだろう! 大体、お前は平時には役に立たん‼」

「ひど!」

 酷くはない、全然まったく酷くはない。酷いのは、どちらかと云わなくても“ガルマ”の方だ。

「好き勝手したいー」

 ――お前はいつでも好き勝手してるだろうが!!

 こんなことを云う段階で、大概好き勝手しているのだと思うのだが。

「却下ったら却下だ‼」

 どんと拳でデスクを叩く。

「……何だかんだで、お前は好き勝手してるだろうが。ザビ家は俺以外は皆がお前に骨を抜かれている」

 今回の件にしてもそうだ。キシリアもドズルも、一刀両断にして“可愛い弟”のおねだりを無碍にしたくはなかったから、こちらの判断に委ねてきたのに違いない。それをきちんと把握しなかったのは、こちらのミスだ。

 だが、だからこそこれ以上は許可できなかった。

 睨み合っていると、セシリア・アイリーンが戻ってきた。

 結い上げた茶色の髪と灰青の瞳、美貌の秘書官である。胸が大きく、なるほど“ギレン・ザビ”が“乳好み”などと揶揄される――元々のアレでの、様々なパロディー作品においての話だ――のも仕方ないことだと思う。

 が、実際セシリア秘書官は酷く有能で、それもあっての重用だったのだろうとも思う。正直、この秘書官なしでは、どれだけ仕事が滞ったのだろうかと思わずにはいられなかった。

 そう云えば、『ZZ』のグレミー・トトは、確か“ギレン・ザビ”の隠し子だと云う話だったようだが、その母親は誰だったのだろう。一年戦争の終わりに“ギレン”が死んだことを考えれば、そろそろその母親に会っていてもおかしくないが――まさかこのセシリア秘書官がそうなのだろうか?

 そうだとしたら、この時間軸では、グレミー・トトの誕生はないと云うわけだ。まぁ、本当にかれが“ギレン・ザビ”の息子であるならば、と云うことだが。

「あら、ガルマ様がいらっしゃってたんですね」

 セシリアは微笑んだ。

「セシリアさん!」

 明るく云って、それから恥じらったような顔を作り、

「お邪魔してすいません。すぐに御暇しますね」

 その言葉を遠慮と取ったのだろう、秘書官はこちらを伺うように、

「――閣下、宜しければ、お話しの場を設けますが?」

 と云うが、冗談ではない。

「不要だ。下がれ、ガルマ」

「……はい。“ギレン兄様”」

 従順に振るまってみせる“ガルマ”に、秘書官はわずかに気遣わしげな顔になった。

「ガルマ様、成績優秀って伺ってますよ。あまり無理されずに、これからも頑張って下さいね」

「あ、ありがとうございます」

 頬を染めて返す“ガルマ”は、多分秘書官の胸に注目している。

 ――“乳好み”とはお前のことだ!

 “三日月”よりも昔から、“お胸様”だの“尻神様”などと云っていた。本物のガルマ・ザビファンからしたら、噴飯ものであるに違いない。それで、通っていた店を嫁に襲撃されたりしていたのだから、女に関しては、本当にしょうもない。

 まぁ、今回は既に――本人の知らないところでではあるが――、アルテイシア・ソム・ダイクンとの婚約が決まっていたから、早々に尻に敷かれるが良いのだ。嫁に手綱を取ってもらわなくては、あの女好きは目に余るものがある。

 “ガルマ”はこちらをじっと見つめてくるが、それをしっしっと手を振って追い払う。

 不満たらたらの顔で出ていったのを確認して、椅子に沈みこむ。

 とりあえず、機密文書に関しては、ドズルとキシリアが、本当に拙い部分を削除して渡してくれるだろう。“ガルマ”にすべてを晒したら、どんなことになるかは目に見えている――否、あの二人はまだ“ガルマ”に騙されているようだから、そんなことは考えもつかないのだろうが、責任者として、最低限の理性は働くはずだ。そう信じたい、願わくば。

 “ガルマ”を撃退したと胸を撫で下ろしたのも束の間。

 夕食のメニューの一皿が山葵ソースを使用したものだったことに気づいた時には、“ガルマ”の意趣返しであるとわかった――先日のプチトマトと云い、おのれ!

 ――食い物の恨みは恐ろしいのだと、いずれその身に思い知らせてやる……

 決意しながら、前頭葉を襲う刺激を、奥歯を噛み締めてやり過ごした。

 

 

 

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