「『塗り直しを要求する!!!!!!!!!!!!!』」
魂が叫ぶ。
だってピンク。まごうことなきピンク。
なにもかもがピンク。
めちゃくちゃkawaiiピンク。
ピンクに塗装されたザクⅡってなんなの!???????
格納庫でシートを剥ぎ取られた機体を見て、第一声がそれだった。
頭頂高17.5mのピンクのMSぞ。
ド迫力のピンク。
鮮やかな桃色をベースに胴回りには濃いマゼンダピンクを配して――って、全部ピンクじゃないか!
装備も含めて総ピンク。
凶悪極まりないメイスすらプリティピンク。
ここへ連れてきたガイア達は、終始ニヤニヤしてたけど、おれの叫びを聞いた途端に爆笑しだした。
笑い過ぎで、ぐるぐるとでんぐり返しみたいなことになってるんだけど。比喩じゃなくて。無重力だから。
「うわー……撃ち落としてー」
「ははは。コレが敵だったら最初に狙うね」
コウガとニケの目はマジだった。
「………ええと。大丈夫! アタシたち敵じゃないから!!」
って、モブリット、それはフォローじゃない。
「これはひどい」
ワニは笑っていいのか呆れていいのかわからない顔をしてるし――嗤えよチクショウ!
「整備班! ありったけの塗料持ってきて!! ピンク以外!!!」
「できません!」
振り向いた先で、真っ青な顔の整備班が答えた。
「なんで!??」
「ギレン総帥閣下のご命令です!!」
「incroyablement horrible!!!(なんてヒデーことを!!!)」
なんてことすんのさ“ギレン”!! 人間のすることじゃないだろ!!!
床に崩れ落ち――ずに、宙に浮かび上がって一回転。
まだ笑ってるオルテガの大きな手が止めなかったら、さらにぐるぐる回ってただろうね。
おのれ“ギレン”!! この仕打ちは忘れないからね!!!
ぎりぎり歯を軋らせながら、虚空を睨む。
――恨み晴らさでおくものか。
「ブハ、フ、ハハ、ハ………いやいや。この機体でも生き残れるように、俺達が鍛えてやるから安心しろ」
って、ガイア。安心できる要素がどこに。
ジト目で睨めば、“黒の三連星”の親玉は、笑いを収めて真顔になった。
「だが、カラー以外は最高の性能だ――装備も含め、むしろ過ぎるほどにな。さらに足回りのリミッターも外されている」
つまり、3倍速すら出せるってことか。“彗星様”と同じように。
もう一度、自分の乗機を見る――ピンク――ツノなし。
ん。指揮機じゃないからね。
装備は“どこかの世界”でおれが愛用してたメイスによく似たもの――ピンク――に、この時代では最新のビームライフルにビームサーベル――ピンクの。
――……。
「ピンクじゃなければ!!!!」
そこに戻らざるを得なかったおれに、またガイア達が吹き出した。同期たちもな。
笑い袋みたいになった面々をハイライトの消えた目で眺めるおれを、整備班達がぷるぷるしながら見守っていた。
宇宙空間に滑り出す。
あてがわれたザクⅡは、不思議なほど身に馴染んだ――ピンクだけど。
これまでの訓練機と違って、動作にわずかのタイムラグもないのが素晴らしい――ピンクだけど。
実践訓練とのことで、これから“黒の三連星”にしごかれちゃうわけだ。
先を行く黒い機体は悠々と。
その後ろを5機で隊を組んで追いかけている。
おれ以外の皆はモスグリーンの機体だ――そのうちピンクに塗ってやる。
〈巻き添えにしようとすんな!!〉
〈パーソナルカラーは欲しいけど、ピンクはちょっと〉
お。口から漏れてたみたい。コウガとニケから抗議が。
〈アタシは……似合わないけど、ピンクでも良いよ〉
いや、おれも似合ってないからね、モブリット。
〈さあ。この辺りでいいな〉
先を行く黒い機体が推進を緩めるから、おれたちもストップした。
座標を見れば、んん、艦からはけっこう離れてる。
大丈夫なのかな、これ。
〈良いか、先に言っておく。自分の座標は必ず把握していろ。いかなる時もだ。彼我の距離を測れ。間合いを、射程を常に頭におけ。一対一のことじゃないぞ。己をとりまく全てにそれが必要だと知れ〉
重たい声だった――口調自体はざっくりと軽くも聞こえるけど、籠められたものが重たいんだ。
戦場で彼我の間合いを、射程を読み誤ったら、ただ討たれて消えるだけ。
それをいまから叩き込もっていうのか――と。
ゾクリと総毛立つ感覚がきて、思うより先に叫んだ。
「『総員退避!!』」
その瞬間に、黒い星が疾走った。
ニケが、コウガが、モブリットが、そしてギュスターヴも、ギリキリでオルテガの戦斧を躱し――きれずに機体がわずかに削られた。でも、それだけですんだ。
――急襲かよ!!
しかも実際に破損させる勢いでくるとか。
ぶわりと“意識”を広げて、センサーに重ねる。
5対3だけど、ぜんぜん有利に感じられない。
彼らはバラバラに動いてるようで、その実、全てにおいて統制が取れてるんだ。
ほら、ガイアを気にしてるモブリットの背後から、マッシュが。
それを阻止しようと前に出たコウガの真横からは、オルテガが。
「『ニケ、オルテガ機を!』」
撃って。そしたらコウガがモブリットをフォローできる。
でも、それってブラフだよね?
「『ギュスターヴ、防御姿勢で僕の前に!』」
〈また勝手に指揮を!〉
「『お願いです!』」
〈クソっ!〉
盾をかざしてワニが前に出た――刹那に、ガイアのサーベルと激突した。
おれを狙ってきやがったね。
ズドンっと、ギュスターヴの受けたその衝撃が、通信を通じて聞こえた。身震いしそう。
ジェットストリームアタック、じゃない。まだそのフォーメーションはとられてない。
ルーキー相手に出すような技じゃないってことか。舐められてる。
つまり、いまならまだ勝機が見える。
「『コウガ、モブリット、オルテガ少尉を抑えて! ギュスターヴはそのままガイア中尉を! ニケ、マッシュ少尉を引き離すよ!!』」
〈おう!〉
〈任せて!〉
〈いい加減にしろよガルマ!!〉
「『お願いです!』」
〈クソがッ!!〉
クソクソ言わないで欲しい。
〈うわぁ、けっこう速いよ〉
軽い口調だけど、ニケの声には少しの焦りが潜んでる。
だよね、でもさ。
「『リミッター外した先輩たちを思い出して』」
あのダークコロニーでの訓練で、イアン先輩とアルフレディーノ先輩は、自分たちも足回りのリミッターを解除なさいやがりまして、“神速の悪魔たち”が爆誕してたわけだよ。
最後の方なんて地獄もいいトコだったじゃないか。特にイアン先輩の猛追。
いま思い出しても心が折れそうになる。
〈忘れたい記憶を思い出させないでくれないかな!〉
ニケの叫びに続いて。
〈やーめーろー!!〉
〈呼んじゃだめだよ来ちゃう!!〉
なんて悲鳴が。
いや流石に来ないよ、ダークコロニーからは。
「『ツライ記憶は未来への糧にしてなんぼでしょ』」
マッシュは確かに速い――でも、イアン先輩たち程じゃないよ。
「『ってことで、全員リミッター解除! 最速!!』」
先輩達から逃げ回るために、おれたちは全員、機体の最高速度で動けるようになってるんだ。
恐怖は逃げ足を鍛える。ふふ…ふ。ちょっと泣きそう。
〈なんだ、やる気か?〉
含み笑うガイアの声。
「『ご期待に添えるよう頑張ります!!』」
さぁ勝負。
メイスを構える。
オルテガのバトルアクスより巨大なそれは、MSの頭頂高さえも超す代物だ。
〈御大層な武器だが、使いこなせるのか?〉
マッシュは嘲るみたいに言うけど、これ反則技だし。おれ、“前”があるから。
すいと構えて、予測軌道上に振り降ろす――流石に避けるよね。でも、それも予測済。
〈っせい!〉
先に回り込んでたニケの飛び蹴りが炸裂した。
おおぅ、格好いい!
マッシュ機の腰のあたりにヒット。
バランスを崩してるところにメイスをもって突っ込む。
「『狩ります!!』」
〈させるかァ! ウォリャァアア!!〉
ふぉ!? オルテガか。横から飛び込んでくる機体に攻撃をキャンセル。退避せざるを得ない。
〈わりぃ! 抜かれた!!〉
〈ごめんね!〉
「『いいから次!!』」
〈おう!〉
〈やるよ!〉
ほぼ特攻状態で、モブリットが突っ込む。
あのオルテガ相手に、すごい度胸。おれたちの中で紅一点ではあるけど、もしかしたら胆力は随一かもね。
ランスの先がオルテガの左肩あたりを捉えて、そのまま穿こうとする。
訓練の範疇を軽く超えてる――もうこれ実戦だろ――けど、なるほどベテラン、機体を反らして衝撃を逃しつつ、カウンターが。
からくもコウガのトマホークが軌道を逸してなきゃ、頭部センサーが真っ二つにされてたかも。
そして、先達たちは、少しの隙も目逃してくれない。
あぁもう。一瞬でも意識を逸らしたら視界から消えられる。センサー頼みとしても、動きがトリッキーで捉えるのも大変だ。
“意識の網”がなけりゃ見失ってるんじゃないかな。
「『ギュスターヴ、左手に!』」
〈分かってる!!〉
単騎でガイアを抑えてるギュスターヴも、やっぱり苦戦してる。
「『凄い!! 強い!!!』」
こっちの方がスピードと数で勝るのに、決定打を与えられない――むしろ、一瞬でも止まれば狙い撃ちにされるし。
ふははー。滾るわ。凄まじい気迫と動き。
資料では知ってたけど、体験するのとはまた違うもの。
〈この状況で笑うか〉
呆れたような、それでいて少しだけ感心するような響きが。
〈こいつイカれてんで!〉
おい、コウガ。
「『君らもでしょ!』」
おれだけじゃないし。
〈俺までひと括りにするな!!〉
ギュスターヴがまた吠えてる。
〈別に良いだろ、同期だし。硬いこと言うなよ〉
そうそう。ナカーマってやつ。
でも、ワニには異論があるみたいだった。
〈コウガ二等兵、口利きに気をつけろ!〉
〈……良いじゃないっすか? 同期っすし? お硬いこと言わないで?〉
「『わぁ、コウガ頑張ったね』」
〈うん。コウガにしては敬語だね〉
〈そうだね、コウガだし〉
〈なんだバカにすんなテメェら泣かすぞ!〉
今度はコウガが吠えるけど。
〈貴様ら全員そういうところだ!!〉
やっぱりワニが吠え返した。
ホントに賑やかなことで。
その間もチャンチャンバラバラやり合ってるんだよ。
コウガのトマホークが、オルテガを捉えて――でもまだ浅い――オルテガのカウンターをランスで防いだのはモブリットだ。
んんん。激戦。
パワーファイターに見えて、その実、力任せに動いてるってだけじゃないんだ、オルテガ。避けたらすぐに反撃がくるし。
二人がかりでも際どいわ。
ギュスターヴはガイア相手に苦戦してるし、おれとニケもマッシュを追い回すのに必死だしね。
〈……舐めてんのか?〉
不機嫌そうな声色だけどさ。
「『いいえ。マッシュ少尉。これが通常です』」
数瞬の沈黙が流れたあと。
〈――……ラウ少佐が嘆くわけだな。納得した〉
ため息混じりにそんな言葉が。
嘆いてないよ。称賛されたもの。“君たちは優秀だ”って。その後すぐに追い出されたわけだが。
さて、褒めてもらった優秀さをもって見るに、現状はあんまり芳しくない。
ギリキリで抑えてるだけで、そのうち押し返されるのは目に見えてる。それは相手も悟ってるようで、動きには余裕も出てきてるし。
んんん。じゃあ、第二弾といこうか。
「『散開!』」
叫びに応じて、全員がいっせいに距離をとった。
〈逃げるのか?〉
「『どうでしょう』」
3機の黒いMSを中心に、5体でぐるりと囲む。不規則な距離。これでいい。
包囲してるって思うかもだけど、ちょこっと違うのさ。
スピードを活かすなら、組み合う必要はないんだ。
〈……何を企んでいる?〉
「『戦場でそれを明かせと?』」
訓練とは言えど、いまは“敵”だろ。
睨み合うこと数秒。
〈なんでもいい! 潰せば同じだ!!!〉
痺れを切らしたか、オルテガが躍り出てきた。
〈おい! 逸るな!!〉
〈仕方がない! マッシュ、ジェットストリームアタックだ!〉
「『キターー!!!!!!』」
生ジェットストリームアタック!!
オルテガを追い抜いたガイアが、まず一閃――興奮と緊張で、時間が引き伸ばされたみたいに見えた。
サーベルの切っ先を掻い潜る。
ガイアは陽動だ。
すぐにマッシュの2段目がくる、けどさ。
〈貰ったぜ!!〉
こっちだってスタンバイしてんのさ。
コウガが背後からオルテガを、ニケがマッシュを狙い撃ってる。
モブリットは退避したガイアを牽制。
そして、おれの前にはギュスターヴが。
〈俺は盾じゃないぞ!!〉
「『お願いです!!』」
〈いつもそれで済むと思うな!!〉
撃たれつつも止まらないマッシュの特攻は、怒鳴りつつもギュスターヴが受け止めてくれる。
さあ、残るはオルテガだ。振り下ろされる戦斧に、メイスを思い切り打ち付けた。
すごい衝撃、でも、耐えられる。
いい機体だね――ピンクだけど!
〈ぬッ!? 俺を止めただと!??〉
「『止める、だけじゃありません!』」
押し返して、弾く。
すかさずニケが打ち込む。狙撃に特化してるように見えて、近接戦闘だってこなせるんだ。
避けようとしても、もうギュスターヴが回り込んでる。
ガイアの前にはモブリットが。
マッシュはコウガが牽制してるし。
これでジェットストリームアタックは封じた。
〈小童どもが!〉
オルテガが咆えた。
舌打ちしたのは、ガイアかマッシュか。
「『ええ。僕らは“群れ”で狩るんです』」
おれひとりを連れ出しての訓練ならまだしも、同期5人揃ってだもの、そりゃこうなるよ。
おれたちのはジェットストリームアタックみたいなフォーメーションじゃない。
だけど、繰り返し打ち寄せる波みたいに、代わる代わるに攻撃を仕掛けるんだ。不規則に、だけどこの上ない連携をもって。
ダークコロニーで培った技だ――先輩たち、教官に対抗するために。
それは“黒の三連星”にだって劣るもんじゃないよ。
でもさ、これはこれで膠着。
ガイアたちは必殺技が不発で、こっちもカウンターで仕留め損なった。
さぁて。どうすっかなー。
これは“殺し合い”じゃないから、お互いに決定打がだせないんだ。
と、不意に“意識”の網が震えた。
ちょっと待って――
「『なにか来る』」
まだセンサーは捉えてないけど。
警告に応じたのは、やっぱり5人だった。おれを囲むように位置を変えて展開する。
んん、なにが来るのかな。
少なくとも自軍じゃないのは確か。この宙域には、ムンゾの艦はおれたちだけだし。
〈なんだ? なんの真似だ?〉
〈センサーには何も……ん?〉
〈3時方向に反応が出たぞ!〉
だね。やっとセンサーが拾った。
ガイア達もフォーメーションを解いて、闖入者を警戒し始めた。
小型の艦が2隻。それから、もっと小さいなにか。
〈連邦の海賊狩りかな?〉
〈それにしちゃ規模が小さいね〉
〈海賊だろ。狩るか?〉
〈阿呆、ここは帰還して報告、だろうが!〉
〈どうすんだ、ガルマ? 狩るよな?〉
〈帰還だ! そうだろう、ガルマ!!〉
選択肢としてはどっちもアリだけど。でもさ。
「『その判断は僕じゃないよ。ですよね、ガイア中尉』」
上官を差し置いて、おれが差配できないでしょ。
それなのに。
〈何だと!? ガルマがおとなしく指示を仰ぐだと!!?〉
なんでそんなに驚愕してんの、ワニ。
〈あ? 腹でも痛ぇのか?〉
〈え、ガルマ、具合悪いの? 大丈夫??〉
って、お前ら。
〈やめなよ皆、ガルマの普段の行状が知れるだろう?〉
ニケ、何気にお前が一番ひどい。
すこしの間のあと、通信が含み笑う声を拾った。
〈――……俺に従うのか〉
ガイアだった。
〈いや、御してみせろというところか〉
〈厄介な小僧だな〉
〈そうか? ガイアの言うことを聞くってんだろ?〉
ならいいじゃないか、と、オルテガだけは単純に受け止めた様子。
〈良いだろう。実戦でどこまでやれるか見せてもらおう〉
ってことは、狩るのか。
ホントに相手が海賊かどうか、確かめる必要はありそうだけど。
「『識別コードは出してませんね』」
これで民間船の可能性は消えた。
ん。なら良いかな。
〈ガルマ・ザビ、行け。敵なら狩ってこい〉
冷たい声がそう命じた。
「『了!』」
補足した船影に向けて推進を最大に。遅れることなく同期たちがついてくる。
ガイア達は――来てるけど、けっこう離れてるな。見守りはしてもフォローするつもりは無いみたい。
〈どうだ? 海賊か?〉
〈連邦のお忍び船じゃなけりゃそうだろうね〉
〈どうやって見分けるのよ?〉
コウガ達はまだ迷う様子。でもさ。
「『海賊だよ』」
〈なんで言い切れる?〉
「『連邦なら寄ってこない』」
報告が先。もしくは寄る前に警告してくるかだろう。
通信も何もなく突っ込んでくるなんて、ならず者って宣言してるも同じ。
「『それに、実は連邦だったとしても、“名乗らなかったら”こっちにわかるわけ無いでしょ?』」
〈なるほどね。“どっちにしろ敵”ってことか〉
ニケの笑い声。
「『そういうこと』」
むしろ連邦ならなおさら逃がすべきじゃないね。おれたちの情報を持ち帰らせるわけにはいかないし。
それに、ほら、あちらさんも既に戦闘体制に入ってる。
「『小型艦2隻、改造モビルワーカー複数……12機だね。ちょっと多いな』」
〈でも、動きは遅いよ〉
モブリットの言うとおりではあるんだが。
「『油断は禁物』」
〈わーってる。“臆病なほど慎重に”だろ〉
耳タコなんてコウガが唸る。
〈どれからやるの?〉
モブリットの口調は、お菓子を選ぶときのそれと同じだし。
ニケもギュスターヴも、欠片も緊張してないみたいだね。
ほんとにさぁ。ギュスターヴはともかく、君たちはこれが初陣じゃないの?
ちょっと苦笑い。
「『艦からだよ』」
〈了。蜂みたいにブンブン出てこられると面倒だからね〉
そう。艦にまだモビルワーカーが残ってるかも知れないからさ。
次の瞬間、滑るようにニケが突出する。続くのは、コウガとモブリット。
複雑に軌道を変えながらすごい速さで近づいて行く。
――ふぉう。やる気だ。
ニケたちが艦を墜とすつもりなら、掩護しつつ蜂を駆除するとしようか。
おれから離れずに飛んでいるワニに。
「『ギュスターヴ』」
〈わかってる、クソが!〉
だからクソクソ言うなと。
急旋回に、ワニは遅れずについてきた。
二手に分かれたおれたちに、わずかに動揺を見せただけで、海賊どもはすぐに邀撃の構えに移った。
さすがに戦い慣れてる感じ。
練度はまあまあ。戦力はどうかな?
どこから調達したのか、軽巡洋艦が2隻。
火器は――これ、連邦からぶんどったなんて言わないよね? メガ粒子砲こそ無いものの、連続機銃やら何やら。
モビルワーカーが持ってるのも、連邦軍のライフルっぽいし。
流出してるのも問題だけど、ぶんどられた物ならさらに問題。
「『ニケ、弾幕くる』」
〈想定済だよ〉
そうね。お前たちのスピードを追いきれてないね。
そっちは任せるよ。
(よう、かわい子ちゃん、そのピンクをひん剥いてやるぜ!)
ふいに敵方の通信を拾った。この下品なのはモビルワーカーのパイロットか。
「『ギュスターヴ』」
〈分かってる!〉
名前呼んだだけなのにね。
ワニが前に出て、下卑た声をかけてきた敵機を薙ぎ払う、打ち払う、蹴り払う。
うん。強いんだよね、ギュスターヴ。
その間に、モブリットの後ろに回り込もうとしたモビルワーカーに照準を。
「『撃破』」
撃ち抜く。ん、ビームライフル流石。
ワニと合わせて、これで2機か。残り10機。
さて、モビルワーカーどものヘイトはこれで稼げたかな。
〈ありがと! ガルマ!!〉
なんて通信全開でモブリットが。
(ガルマ? ガルマ・ザビか!!)
(ザビ家の末っ子かよ!?)
(なんでこんなところに!)
ってさぁ。海賊どもが色めき立ってる。
そりゃね、おれ、要人の息子で弟だし。つまり実家が金持ち――と、なれば。
(あのピンクのやつだ!)
(捕まえろ!!)
(身代金がガッポリとれるぜ!!)
――ですよねー。
ぽんぽんと入ってくる通信にウンザリ。わらわら寄ってきやがるし。
そりゃヘイト稼いでこっちに引き付けとくつもりではあったけどさ。
「『ギュス…』」
〈分かってるってんだろうが!!!〉
ふぉ。名前を呼ぶ前にワニが動く。
突っ込んできた2体を、苦もなく吹っ飛ばすの格好いいね――残り8機。
(野郎ッ! 先に盾役を潰せ!!)
(ガルマ・ザビは殺すなよ!)
「『ご心配なく。あなたがた程度に僕は殺せませんから』」
(坊ちゃんが粋がってるぜ!)
(だったらそいつの背中から出てこいよ!!)
〈ガルマ、煽るな! 挑発にも乗るんじゃないぞ!!〉
おおぅ。ギュスターヴが大奮闘。
牽制とフェイントと攻撃が目まぐるしくて、数に勝るアチラさんが攻めあぐねてる。
お。また1機墜とした。残り7機。
一方、モビルワーカーの護りのなくなった艦の方は、ガツガツ撃たれてるわー。
(早くガルマ・ザビを捕まえて人質にしろ!! コイツらやばいそ!!)
これは艦からの通信かな。弾幕の内側に入り込まれて焦ってるんだろう。
コウガなんて直接トマホークで殴りつけてるもんね。そろそろ船体崩壊するかな。
もう一隻も、モブリットがランスでガスガス突いてるし。いや、飛び道具あるだろお前ら。
〈コウガ、どいてよ。そこに居ると撃てないだろう〉
ん。ニケ、それが正しいと……、
〈もうちょいで墜ちるから待てよ!〉
〈…………はい。待ったから撃つよ〉
〈っ!?? バカヤロー!!!〉
――……まぁ、ニケだしな。
それにコウガなら避けられるでしょ。
このごにおよんで、ようやく事態の拙さに気づいた連中が、艦を守らんと戻ってくけど、敵に背中を向けて良いことなんて無いからね。
「『ギュ…』」
〈分かってる!!!〉
む。名前も呼ばせてくれんとは。
飛び出していくワニを追いかける。いい加減におれも攻撃しないと、スコアがモビルワーカー1機ってのも寂しいし。
「『狙撃します。ギュスターヴ、当たらないでね』」
〈むしろ当てるな!!〉
打てば響く返しが癖になりそう。
ワニの影から飛び出せば、射程内に3機いた。
どれから撃とうかな。
(ボンボンに何ができる!!)
罵声を浴びせてきたのはアレか。よし撃つ。
照準を絞る。逃げ回ってるつもりだろうけど、ぜんぜん遅いから。
引き金を引けば、光条が真っ直ぐにコックピットを貫いた。
ついでに残る2機も墜とす。
ほぼ同時に、艦が一隻吹き飛んだ。
3機のMSの猛攻に耐えきれず、ついに爆散したわけだ――大金星。非公式とは言えど、軽巡洋艦を撃墜だもの。
〈ヨッシャアアア!!!〉
コウガが喝采を叫んでる。
〈ほら次!〉
〈こっちが逃げちゃうよ!〉
残った一隻は、この場からの逃走を選択したみたい。船首が大きく旋回を始めた。
仲間を置き去るつもりなのか。
「『逃さないよ』」
凄く冷たい声がこぼれた。
「『僕、海賊、嫌いなんです』」
ほんと、どいつもこいつも、海賊なんて碌でもない。生憎、義賊なんてものには会ったことがないからさ。
“前”の記憶でも、胸クソばっかりが積もってるんだ。
船首が完全に回る前に、装甲の薄い部分を狙って連続掃射。
出力を最大にして、メイスをもって突っ込む。
〈ガルマ!??〉
悲鳴みたいな声を上げて、ワニが付いてくる。
それから、コウガが、ニケが、モブリットが。
当然ながら、推進力は艦のほうが段違いに大きい。だから、発進される前に墜とさないと。
弾幕を掻い潜って艦橋に接近。
さあ、潰れてよ。
振りかぶったメイスを叩きつける――ガツンとかドガンとか、物凄い衝撃が来て、真空なのに火花が見えた。
仲間たちも次々に艦に取り付いて、それぞれの武器を打ち付ける。
激しく震える艦は、まるで苦悶にのたうつ生き物みたいだった。
亀裂――大きく削がれたけど、まだだ。まだ停止しない。
なら、もう一打。
再度メイスを振り上げた瞬間、“意識”とセンサーが危機を叫んだ。
「『退避!』」
咄嗟に離脱したのは反射に近い。
艦が出力を上げてる。
巨大な質量の移動のエネルギーは凄まじい。巻き込まれたらこっちがバラバラにされるし。
逃がすつもりはないから、撃ちまくるしかないか。
同期たちが全員離れると同時、すれ違うように滑り込んで来たのは――。
「『ガイア中尉!?』」
“黒い三連星”のジェットストリームアタック。
艦が発進する、まさにその瞬間に仕掛けるって正気か!?
先鋒のガイアに注視するあまり、艦は二段目のマッシュの攻撃をまともに受け、さらにオルテガが。
巨大な戦斧は、なにか伝説の武器みたいに見えた。
竜の咆哮みたいな雄叫びとともに、それが打ち込まれ――分厚い装甲がバターみたいに押し切られてく。
「『……凄い』」
その一撃で、艦橋が完全に破壊された。
刹那に迸る閃光、艦体が爆発する。
衝撃に最大限構えたけど、いつの間にか前に出てたワニが盾になってくれていた。
ガツンゴツンと優しくない衝突が収まると、デブリすら弾けとんだ空間には、もうなにもない。
しばしの静寂のあと。
〈マジか! マジかよ!!!〉
〈スッゴーイ!! ええぇ! スッゴーイ!!!〉
〈ウソだろ………?〉
興奮のあまりか、コウガとモブリットがブンブン飛びまわりはじめた。気持ちはわかるが落ちつけ。
そしてニケは茫然自失中かな。
〈ガルマ、無事か〉
「『ありがとう。ギュスターヴは?』」
〈これしきなんともない〉
それも凄い。
「『でも……残党、逃げちゃったみたいなんだけど?』」
まだモビルワーカーが4機残ってた筈なんだが、どこに行ったの。
〈ああ、それなら俺たちで始末しといたぞ〉
〈放っておいてもくたばるだろうが、念の為な〉
と、オルテガとマッシュが。
うぬ。軽巡洋艦一隻とモビルワーカー4体については、スコアにならんかったか。
残念だけど、それでもあの技量に触れられたんだ。そっちの収穫のほうが大きい。
〈まぁ、だが良くやった。予想以上だ〉
ガイアからそんなお褒めの言葉を頂戴しちゃうし。
ふぉお。嬉しいな。
ふへへ、と、笑いが吐息に交じるのに、ワニが気味悪がるけど、仕方ないだろ。
〈おら、お前ら艦に戻るぞ!〉
オルテガの号令に、了解を。
ねえ、“ギレン”。ムンゾ軍にはこんなに強者が居るんだよ。
――待っててね。
おれも、仲間たちも、どんどんバンバン鍛え抜いて、最強の軍団になるからね!