ザビ家成り代わり   作:くずみ@ぼっち字書き。

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【成り代わり】another ORIGIN 反逆の"ガルマ" 43【転生】

 

 

 

「俺の許可無くガルマ・ザビを出撃させるとはどう言うことだ!!」

 艦長室の机が、ダンッと激しく叩かれる。

 ご立腹なのはガルシア・ロメオだ。

 “黒い三連星”と同期たち全員を呼び出しての叱責だけどさ。

 ――なんだかなぁ。

 理由が「俺の許可無く出撃」云々なら、まだ納得もしよう。でも、“ガルマ・ザビ”個人を云々するのはちょっと違うだろ。

 おれ以外なら勝手に出撃しても良いって訳じゃ流石に無かろうが、比重がおれに傾きすぎてる。

 真面目な表情を作り、直立不動でいるものの、視線が冷たくなっていくのは隠せそうもないね。

 興奮してるガルシアは気づく様子もないけど、ミストレスのひとり――短い銀髪と猫みたいな琥珀の瞳が印象深いほう――は苦笑してる。

「サビ家のご子息に何かあったらどうする!? 貴様らの首が飛ぶだけじゃ済まんのだぞ!!」

 ダンダンダンと、また机が。

 額の青筋がミミズみたいになってる。血圧だいじょうぶか。少し落ち着くといいよ、なんて一兵卒が口にできるもんじゃないから黙ってるけどね。

 少将直々のお叱りに恐縮してるのは、多分、この場ではギュスターヴくらいか。

 ――いや、ワニも微妙かな。最近、図太いから。

 そんなことを思ってたら、チョイチョイと背中が突かれた。

 振り向けないけど、隣のガイア中尉からのサインだ。

 んん。おれに何とかしろってことか。

「“ガルマ・ザビ”一等兵です。僭越ながら、発言をお許しいただけますか」

 再び怒鳴ろうと口を開けたタイミングで挟む。

 ガルシアは何度か口をパクパクさせてから、咳払いをして頷いた。

「――………良かろう」

「ご寛容に感謝いたします」

 ぴしりと敬礼。

 さて。どう丸め込もうかな。

 目の前の、少将の地位にいる男をじっと見る。

「――おそれながら。なにやら誤解が生じているようです」

「誤解だと?」

 欠片も信じた様子はないけど、別に構わない――真実がどうこう言う話じゃないし。

「はい。わたしは出撃したわけではなく、訓練中に、偶然、海賊の襲撃を受けたのです。センサーが捉えたときは、すでに敵は戦闘態勢にありました」

 おおむねウソじゃない。

 だって海賊たちが襲ってきたのは本当だし。

「ではなぜ、俺への報告が遅れた?」

「帰還時に報告を上げております。戦闘中の通信を控えたのは、万が一にも連邦軍に傍受されぬよう配慮したためです。この宙域で、高出力の通信はすべきではないと判断いたしました」

 これ、ガルシアが使った言い訳だから。

 連邦軍とあわや交戦になった事態を隠蔽すべく、通信を規制しやがったときにね。

 おれの言い分を否定すれば、そのまま自分へのブーメランになるんだ。

 渋い顔になったガルシアに、ニコリと微笑みかける。一等兵としての顔じゃなくて、社交用の御曹司スマイルで。

「閣下、わたしのMSについて、整備班からの報告を受けておいででしょう? ほぼ傷もなく戻りました。皆が護ってくれたからです」

 これもウソじゃない。

 主にギュスターヴが盾になってくれてた。

 ついでに言えは、同期たちのMSの損傷は、だいたいガイア達のせいだからね。

 あとは艦の爆散のときのもので、戦闘中についた傷は無いに等しい。

「皆の活躍を閣下にもお見せしたかったです!」

 ニコニコと、これ本音。

 だけど、ガルシアは鼻を鳴らした。

「その程度は当然だろう」

 苦々しげにガイア達を睨むけどさ。

 配属ほやほや新米パイロットを指揮して、大金星を上げたんだぞ――新米の基準がちょっとアレなことは置いといて。

「そうでしょうか? ガイア中尉率いる“黒い三連星”の勇猛さ、その技量の素晴らしさ! とても言葉に尽くせません!!」

 お目々キラキラMAX。ちょっとまた興奮してきた。

 目の前であれを見た感動ときたら、思考波だって叫ぶよ。

「『素晴らしい! そして素晴らしい!!』」

 どっかの空飛ぶヒーローのジェスチャーを。

 そしたら、反対側からもドスドスと突かれる。痛ぇよ。

 む。これはギュスターヴか。

 ――つまり「俺達も褒めろ」と。

 良かろう。褒めてやろうとも。

「同期たちも、とても初戦とは思えない動きでした。コウガとニケ、そしてモブリットは、新人パイロットでありながら軽巡洋艦一隻を撃破しています!」

 これってスゴイことだろ。

「さらにギュスターヴは、襲い来る12機もの改造モビルワーカーを、1機としてわたしに近づけませんでした!」

 物凄い盾だよね、ワニ。そろそろ“アイギス”って改名したほうが良いかも。

 ぎゅっと拳を握って力説。

「同じパイロットとして足元にも及ばす、恥ずかしいばかりですが、わたしは、この頼もしい部隊について、ぜひ父に話したくおもっております」

 おれを大事にしてるパパンなら、きっと感謝してくれるんじゃないかな。

 で、その素晴らしい仲間たちを、いつまで叱責するつもりなのさ。カルシア・ロメオ少将閣下は。

 じっと視線を向ける先。

「――……なるほど。勿論、“俺の率いる部隊”が素晴らしいと、そうお伝えするつもりだろうな?」

「そうですね」

 ――まぁ、一言くらいは名前がでるかも?

 ガルシアは何かを計算するような表情で髭を撫でた。

「……良いだろう」

 ニヤリと口の端が持ち上がる。皮算用でもしやがったのか。

「うむ。まぁ、良くやったと言えないことも無いだろうしな」

 よし。遠回しでも褒めたね。言質は取った。

 内心でニンマリ笑いながらも、すました顔のまま一礼を。

「ところでガルマ・ザビ一等兵、今後の配属先についてだが…」

「ありがとうございます! 閣下は、わたしが“黒い三連星”に長年憧れていたことをご存知でいらっしゃったんですね!! 部隊に加えていただいて光栄に思います!」

 みなまで言わせずに被せる。

 ほんとは、リヒテン・ノビルが辞退したとやらで叶った配属らしいけど――そんなことは知らぬていで、めちゃくちゃ上機嫌で礼を言えば、ガルシアは目を白黒させた。

 いまさら配属変えとか抜かしてみろ、奥歯ガタガタいわせてやるからな。

「……え、おう? いや…」

 狼狽えてるガルシアの前に、ガイアが一歩踏み出した。

「ミゲル・ガイア中尉であります。閣下のご英断を仰ぎたいことが」

 物凄く殊勝な表情を作ってるけど――作ってるだけなんだろうな。少しだけ声に皮肉が混ざってるし。

「……なんだ? 言ってみろ」

 ガルシアが目を眇めて中尉を見た。

「ひよっこども――ギュスターヴは違いますがね――こいつらについてです」

「ガルマ・ザビ一等兵も含めてか」

「ここに居る全員ですな」

 ガイアは顎を撫でながら答えた。

「訓練時の状況から、纏めておくほうが結果が大きいと判断しました。ガルマ・ザビの身の安全も考慮するなら、まあ、なおさらにですな。全員、私の部隊に頂きたく」

「それを決定するのは俺だ」

「だからこそ相談を――艦内には良からぬちょっかいをかける輩もおるようですし」

 ガイアはチラリとおれを振り向いて、それからニヤリと笑った。

「閣下、失礼ですが、ちとお耳を」

 なんて、なんのナイショばなしをしてるのさ。机の向こうまで寄って行って、なにやら耳打ちとか。

 んん。ガルシア・ロメオの顔色が、なんとなく悪くなってくような?

 ボソボソコソコソ、ちっとも聞こえない。

 チラチラこっちを見るから、おれについての話なのは間違いなかろうが。

「……無論、そのような誤解はしっかり解かせて貰いますから――おい、ガルマ・サビ」

「はい」

 呼ばれて素直にこたえる。

「お前が艦に乗り込んでから受けた仕打ちを、いま閣下にお伝えした。大変、心を痛めておられるぞ」

 って、ガルシアから見えないと思って、その悪辣な笑顔はどうなのさ、ガイア。

 それにその仕打ちって、そもそもが、ガルシア・ロメオの指示だろ。

「どこからか、それを閣下が命じたなどという“事実無根の噂”が流れていることに対してもな。お前もそれを耳にしてるだろう?」

 ――なるほど。

 そんな噂は知らんけど、要するにマッチポンプの事実を無かったことにするわけか。

 これでガルシアに貸し一つ。

「……はい。もちろん、閣下が加担してるとは思っておりませんが」

 隣からまたギュスターヴがドスドスと。

 ――今度はなにさ?

 また褒めて欲しいのか。よしきた。

「本日も食堂で騒ぎがありましたが、彼らが庇ってくれたおかげで無事に過ごせました」

 やんわりと微笑みながら振り返る。

 ワニだけは何故か目をひん剥いてるけど、あとの三人はニヤリと笑った。

 ガルシア・ロメオは、幾度か咳払いを繰り返したあと。

「俺の艦でそのようなことが起こっているとは、いま報告を受けて初めて知ったぞ。今後は努めて気に留めるとしよう」

 しれっと言ってのけるこの面の皮の厚さよ。

「では、彼らは纏めて私の下に?」

「――……うむ。良かろう」

 しばしの沈黙のあと、ガルシアが頷く。

 渋い顔してんのは予定とは違ったからだろう。

 なんにせよ、交渉の結果は上々だね。

 一斉に敬礼して、艦長室を辞した。

 

        ✜ ✜ ✜

 

 そして、思わぬ再会である。

「………………ノーマン・モーブス中尉、あなたでしたか」

 “暁の蜂起”のときのサディスト眼鏡。

 ガルシアのやらかしの後、“ギレン”が派遣したっていう監査が、よもやコイツだったとは。

 モーブスは、銀縁眼鏡の奥の糸目を、ちょっとわからないくらいにショボショボさせた。チラリと見えた瞳は、やっぱり冷たげな淡緑だった。

 呼ぼれて訪れた部屋で、以前とは違って、ちゃんと椅子に座るように勧められる。

 小さな机を挟んだ向こう側。

「……………………………ええ。余程に、ご縁が、あるようで」

 ふう、と溜め息なんかついたりして。

 ちょっと、ねえ。

 そこでイヤそうな顔するのは、おれの方なんじゃないの?

 ガルシア・ロメオを躱したと思ったら、今度は監査が相手ってなんなの。

 おれ達は訓練に出ただけだ。そこでたまたま海賊と戦闘になっただけだろ。

 報告は済ました。この上、なにを聞くことがあるのさ?

 小首を傾げて見やる先、長い指が眼鏡のフレームを押し上げた。

「単刀直入に伺います。やらかしましたね」

「……なにをです?」

 どういう質問なの、それ。

「良からぬことをやらかしたんですね」

「いいえ――やらかしてる前提で訊くのどうかと思いますけど」

 疑問符すらついてないだろ、そのイントネーション。

 見据える先で、モーブスは鼻を鳴らした。

「何故、いつでもどこでも騒ぎを起こすんですか、ガルマ・ザビ。騒動がないと息ができない生き物なんでしょうか?」

「どんな生き物ですかそれ」

「………マグロとか?」

「それは泳がないと呼吸ができない生き物です」

「マグロに謝ります」

 いやおれに謝れよ。

 しばしの沈黙。

「大方の流れはもう聞いてますから、その辺は結構です――で、本当に海賊だったんですか?」

「そうですね。識別コードは出してなかったので、民間船ではありえませんし」

「そもそも民間船は改造モビルワーカーで戦闘を仕掛けてきたりはしません」

 ピシャリと。まあそりゃそうだ。

「連邦軍かってことなら、否、です」

「確信したと」

「はい。彼らは“連邦軍だと名乗らなかった”ので」

 ニコリと微笑めば、モーブスの口元が歪んだ。

「……それでは正規軍であった可能性を全て否定することが出来ません」

「あの程度の練度の正規軍がいるとは思われませんが?」

 言動から見ても、連邦軍である可能性は極めて低いと説明してみたのに、モーブスの表情は晴れなかった。

「貴方の言う練度のレベルは他人と違うことを、そろそろ自覚したほうが良い」

 肩が落ちるほど息を吐いて。

「だいたい、配属されたたての新米パイロットが、どうして軽巡洋艦を墜とせるんですか? ヒヨコのはずが、すでに大鷲じゃないですか」

「同期をお褒めいただき光栄です」

「まとめて罵りたい気分です」

 地の底から響いてきてんじゃと錯覚しそうなほど低い声だった。

「そもそも、“暁の蜂起”からして尋常じゃ無かったんです。卒業前の士官候補生の初陣で、連邦軍の駐屯地を吹っ飛ばすってなんですか。どんな黒魔術です? 悪魔と契約でもしました? ああ、貴方が悪魔でしたか」

「なんて言いたい放題!」

「まだまだ足りません」

「……性格変わってませんか?」

 こんな奴だったっけ。もっと冷徹で、こんな珍妙な受け答えをするとは思えないんだけど。

 何を企んでんの。

 伺う視線を投げれば、皮肉げな笑みに口の端が歪んだ。

「別に変わってませんよ。真っ直ぐに聞けって言ったのは貴方でしょう」

 って、これで真っ直ぐに聞いてたつもりなのか。

「……ずいぶん曲がった真っ直ぐですね」

 どれだけ性根歪んでんのさ。

「貴方に合わせようとすると、誰でもこうなります」

 モーブスの答えは素っ気なかった。

 そんなバカな。

 肩をすくめて、ちょっとばかり苦笑い。

「なんにしても、僕、やらかしてなんかいませんよ。訓練中の海賊襲撃は事実で、戦闘は上官の指示です」

 あのとき起こってたことは、それが全てだ。

「確かに、それが事実なんでしょう。示し合わせたわけでもなく、“事態がそう動いた”だけ」

 ノーマン・モーブスの声は冷たかった。

 細めてた眼が開かれて、淡緑の双眸がメガネの下から睨めつけてくる。

「その結果、貴方は仲間の練度を測れたわけだ。そして上官の実力をも知らしめた。哀れな“海賊達”を使ってね」

「偶発の事件ですよ?」

 ニコリと微笑む。

「ええ。好機を逃さなかったということでしょう。引き離されていた貴方の同期たちも、纏めてガイア中尉の下につくと聞いています。この先は艦内での“嫌がらせ行為”も止むでしょうね。いつもながら、なにもかも貴方の思い通りだ。違いますか?」

「僕、悪運が強いんです」

 そうだろ。何もかもが偶然の連鎖じゃないか。

 海賊との遭遇も、おれたちの連携をガイア達が評価してくれたことも。

 ガルシアに貸し付けることになった、マッチポンプでさえも。

 一つ一つが絡みあって、この結果だ。

「“モイラ”でも“フォルトゥーナ”でもないんです。運命は操れない。そうでしょ?」

「本当に?」

 疑わしそうな声と眼差しだけどさ。

「ええ。僕に運命が操れたなら、地球になんて連れて行かれずに済んだ。兵卒まで落とされることも、今このときだって、家族やあの子達、幼馴染みと引き離されることとも……」

 さびしい思いなどしないで済んだはずだろ。

「運命は操れずとも人は操れる――違いますか?」

 引っ張るなぁ。大真面目のモーブスに、素で笑いがこぼれた。

 おれをパペッティアとでも思ってんの?

「それこそ買い被り。ひとなんか、みんな自分が動きたいように動いてるだけですよ」

 最終判断を下すのは、つまるところ己の脳だ――心ともいうね。

「中尉が僕に“あの仕打ち”を行ったのも。そうですよね?」

 モーブスは火を噴きそうな眼差しでおれを見た。

「叶うことなら、過去の自分を殴ってでも止めてやりたいですよ。利用されるだけだから絶対にやめろと」

「利用じゃないですよ。対抗しただけです」

 いつだって、やられたらやり返す。

 どっかの銀行マンみたいに100倍返しなんて言ってないだけマシだろ。

「――……その対抗とやらは、いまだに続いてるんですか?」

 モーブスは目をしょぼしょぼさせた。

「いいえ、まさか」

 根には持ってるけど、報復は済んでるし。

「だったら、なぜ私は貴方の配下にマークされてるんでしょうか?」

 なんて溜息つくけどさ。

「………覚えがないんですけど?」

 いやホントにね。どういうことなの。

「リノ・フェルナンデス准尉は、廊下で行き合うたびに、にこやかに微笑んでくれますが、視線に殺意を感じます」

「……意識しすぎでは?」

「ケイ・ニシムラ准尉からは、スープに具が入っているのは素晴らしい、と、食堂で毎回」

「……………まぁ、具がないと寂しいですし、ね?」

「ルー・ファン准尉に至っては、死因は餓死かもしれませんね、と、ことあるごとに囁かれています」

「……………………一応、主語はないですよね?」

 って、なにやっちゃってんのさ、リノ達よ。

 ちょいと肩を竦めて。

「モーブス中尉がその程度を気に病むとは思えませんが、地味に厭なのは分かりますので、やめるように言っておきます」

「そうしてください。聴取は以上で結構です」

 モーブスが、手元のファイルをパタリと閉じた。

「はい。“ガルマ・ザビ”一等兵、退出致します」

 すっくと立ち上がって敬礼。

 ここはスタコラと逃げ出すのが吉。

 恨みがましい視線を振り切るように飛び出した廊下には。

「ガルマ! 大丈夫か!?」

「開いてるコンテナ見つけといたけど、放り込む“荷物”はそこかな?」

「大丈夫、痕跡なら消しとくからさー」

 なんだか復讐心に燃えている同朋たちがいた。

 リノ・フェルナンデス、ルー・ファン、そしてケイ・ニシムラ。

 うわぁ、目が本気なんだが。

 背後で鍵がガチャリと閉まる――籠城は悪手だぞ、ノーマン・モーブス。

 

 

「みんな久しぶり!」

 とりあえず、モーブスの件は置いといて、ガバリと抱きついた。

 一緒の艦に乗せてもらったってのに、ぜんぜん会えなかったのは、絶対、ガルシア・ロメオのせいだよね!

「良かった。思ったより元気そうだな」

 リノがそんなことを言うけどさ。

「もちろん元気さ。だって、君たちがセーブしてくれてたろ?」

 嫌がらせは数々あれど、深刻なものは無かった。

 エスカレートしたところで、せいぜいがデリック程度だからね。

「やっぱり気づいていたね」

 ルーがクスクスと笑った。

「そりゃね。ヤバそうなあたりがみんな消えてくんだもの。ね、アレどこにやったの? まさか“外”に捨てたりしてないよね?」

「してないよ。適切に“処理”ただけさ」

「そーそー。“処分”したわけじゃないからヘーキだろ」

 なにをしたのさ――なんて、だいたい想像つくけど。

 ん。悪魔ぶりに磨きがかかってて、なによりだ。

「一掃すると上にバレるから、一部のカスが残っちまった。悪いな」

 リノは申し訳無さそうに言うけどさ。

「充分すぎるくらい。ありがと。おかげで平和に過ごせてた」

 やべぇ輩に対して、目潰しとか、タマ潰しとか、そういう反撃をしなくて済んだのは、ありがたい限り。

「それで、そこの“荷物”はどうする?」

 ルーがまったく笑ってない眼差しで扉を睨んだ。

「……どうもしないよ」

「マジかよ!?」

 どんだけヤル気なのさ、リノ。

「もうやり返してるし。これ以上は必要ないよ。大丈夫」

「ガルマは優しいから。でも、俺らの気が済まないんだけどー」

 フンと鼻を鳴らすケイに苦笑い。

 とりあえず、仲間の手を引いて部屋の前を離れようかね。このままだと、いつまでもモーブスが出てこられないし。

 歩きながら。

「いっとき放り込まれてた“NT研究所”で、監視役のルーナ・アベイルって女性に、随分と世話になったんだ。非人道的な実験が行われないように、いつも目を光らせてくれてて、僕が家に帰る手伝いもしてくれた――ノーマン・モーブスは、彼女の“かわいい後輩”なんだってさ」

 まるで手がかかる弟の話をするみたいに――彼女のほうが年下なのにね――目を細めて微笑んでいた女性の顔を思い出す。

 とてつもなく優秀で、優しいひとだ。

 レディ・アベイルには借りがある。彼女がフラナガンと戦ってくれたおかげで、穏便に帰宅できてたんだから。

「恩人の哀しい顔は見たくないでしょ。だから、お願い」

 言えば、リノがガシガシと頭を掻いて溜め息を落とした。

「……まぁ、ガルマの恩人なら、泣かせるわけにはいかないか」

「――仕方がないね」

「はーぁ……運が良いヤツー」

 ルーとケイが、顔を見合わせて肩をすくめてる。

 ん。これでこの先は平穏に過ごせるだろう。

 ノーマン・モーブスは、彼女に這いつくばって感謝するが良いよ。

 それはそれとして。

「僕は、むしろガルシアの方が腹立たしいよ。君たちと分断してくれやがったの、アレでしょ?」

 孤立を狙った一環だろう――自分に懐くように。

 ふんす、と鼻を鳴らしたら、3人の目がギラリと光った。

「だな。ここに来てガチガチに規制されてたぜ」

「決められたエリアから出してもらえなかったんだ」

 そうだろうとも。

 でも、その状態でおれへの“いじめ”をセーブしてのけるって、どれだけ艦の内部に食い込んだのかね。

 チラリとケイに視線を投げたら、「テヘペロ」ってジェスチャー。

 ん。これはやらかしてる。期待できるね。

「その規制は解除されたの?」

「ああ。ついさっき、大慌てでな」

 リノがニヤリと笑った。

「ガルマ、海賊と遣り合ったんだろー」

「同期とチームを組んで大金星って噂になってるよ。軽巡洋艦一隻に改造モビルワーカー8機、うち4機はガルマが墜としたんだろう?」

「ギュスターヴ・モゥブ曹長が護ってくれてたから――ねぇ、あいつら海賊だったよね? モドキじゃなくて」

「海賊でオケ。他でも襲撃してるデータがあったぜー」

「良かった」

 ほら見ろノーマン・モーブス。おれを疑う前に調べるが良いさ。

「この先、君たちと会うのを邪魔されることは?」

「もう無ぇだろ。“ガルシア・ロメオ少将が、自分に泣きつかせるように、わざとガルマ・ザビを孤立させてる”って噂は、かなり広まってるからなぁ」

「そーそー。必死に火消ししてたみたいだけどなー」

「へえ、その噂、ほんとにあったんだ」

 ガイア中尉が言ってたのは、ガセってわけじゃ無かったのか。

 と、言うか、噂の出どころは間違いなく君らだろ。

 おれがなにもしなくても、既に足元に火が回ってたってことだね、ガルシア・ロメオ。

 ――……大人しくしとくって約束したからね。

 あの子達のために。

 だから派手なことはできずに、あれやこれやら2週間も我慢してたんだ。

 そろそろプツンといきそうだったから、ちっちゃい火の粉くらいは払ってやろうと思ってたけど、その必要もなくなったみたい。

「ほんとに頼りになるよね、僕の“スパイダーマン”達は」

 “ギレン”のが“伝書鳩”なら、おれのは“蜘蛛”だ。

 至るところに、それと気づかれずに――当人たちでさえ“糸”の自覚がないまま――張り巡らされている巨大な“蜘蛛の巣”。数え切れない子蜘蛛の群れ。

 それらを統括して管理してるのが、リノ達ってわけ。

 その他にも、士官候補生時代の繋がり、ムンゾ大学のネットワーク、そして社交の場での人脈あれこれ。

 もしかしたら、この先でNT研究所の同朋が増えれば、そっちの方面でもさらに広がるかも。

 ――いつの世も“情報”は“力”だ。

 それを手にする者こそが、全てにおいてイニシアティブを取れる。

 誇らしげに口の端を上げる三人に視線を向けながら、おれも笑った。

 さて、これで“武器”も手元に戻ったわけだし、そろそろ始めるかね、サイド7攻略をさ。

 

        ✜ ✜ ✜

 

 ムンゾから見たとき、サイド7は地球の裏側だ。

 つまり、もっともムンゾから遠いコロニーってこと。

 一応、居住は始まってるけど、まだまだ建設途中で、稼働してるのは片手で足りる。

 近くにあるのは、これまた創りかけの“ルナⅡ”くらい。

 そんな辺鄙な宙域に軍事工場なんかを造りやがったのは、前述のとおり、ムンゾから遠く離れてるから。

 ――偵察しにくいことこの上ないね。

 見つかったら最後、言い逃れができないし。

 前回、ガルシアが補足されたとき、逃げ切れたのは僥倖だった。捕まってたら目も当てらんない。

 そしていま現在、先の一件で連邦軍の警戒レベルは上がったまま緩んでない。

 なるほどねぇ。こりゃ海賊仕込みたくなる気持ちはわかるわ。嫌いだけど――海賊。

「ねえ、もっと練度が高い海賊っていないの?」

「いくつか居るけど……この当たりかな」

 ふぉ。レッド・フォースも入ってるわ――除外除外。

「んんん。案外少ないね」

 微妙なとこまで入れても7つ。

「海賊狩りからこっち、だいぶ減ってるからね」

 ルーが肩をすくめた。

「エルランだっけ?」

 海賊狩りの司令。つか、将官なのに出てきてるって更迭でもされたのか。普通は佐官の任務だよな。

「ああ。火力に物を言わせて片付けてるようだな」

 リノが頷くのに、ケイがキョロリと眼を回した。

「でも、まだまだ被害は出てるぜー。頑張ってんのは、主にコイツら」

「………へえ? ちょっと変わってるね」

 モニターに映し出された、その海賊どものデータは、思っていたのとかなり違ってた。

 判明してるすべての被害が、官民含めて地球連邦所属の船に限定されてる。

 凄いな軍艦まで襲ってるよコレ。

 なんだろ、連邦に恨みでもあるのか――まぁ、昨今、恨みのないスペースノイドを探す方が難しいか。

「UNKNOWN。艦の外観を捉えてるのに、名前すら分かってないのか……って、これ連邦軍のデータじゃないのさ!?」

「そう。抜くの苦労したー」

「なんて天才!」

 でもバレたら大事過ぎるわ。

 ルーが盛大に溜息をつき、リノは知らなかったのか、ムンクみたいな顔してるし。

「これ全部ピースにして頭ン中にしまっちゃって。このあとすぐに全部焼き切るからさー」

 そうだね、どうあっても復元不可能にしてくれたまえよ、なんて思いつつ、ピース化して記録。万華鏡みたいなデータ群が更新される。

「――……いいよ。消して」

「りょーかーい」

 コレでもかってくらいに破壊されてくデータ。

 なるほど焼切ってる。

 すげえな。これは無理だわ復元。

「ケイお前やり過ぎだろこれは」

「どっち? 収集? 破棄?」

「収集だ! なんで連邦のに侵入ってんだよ!?」

 リノがプンスコしてる。

「これバレてみろ、閣下に絞め殺されるのはガルマだぜ!」

「デスヨネー」

 あ。棒読みになっちゃった。

「無問題。んなヘマ打たんし。信じろ!」

「ん。信じてるさ」

「……まぁ、そのへん疑ってるわけじゃねぇけど、万一があるからな」

「でも、ケイのコレは、すでに性癖みたいなものだからね。そうそう治るもんじゃないよ」

「ルーがヒデーこと言うんですけど!」

 ガシリと張り付いてきたケイをヨシヨシする。

 ――でも、UNKNOWN、か。

 これ、使えるかもね。

 ニンマリと笑う。

 おれの顔を見て、3人もニタリと笑った。

 イイ感じのシンクロ。きっと、みんな同じことを考えているんだろうね。

 

 

 

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