ザビ家成り代わり   作:くずみ@ぼっち字書き。

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【成り代わり】another ORIGIN 謀略の"ギレン" 43【転生】

 

 

 

 サイド6、リーアで、到着したのは首都バンチの宙港だった。

 一応視察を兼ねているので、当然と云えば当然なのだが、

「――湖なんか、ありそうにねぇなぁ……」

 何と云うか、極めて現代的な――未来的、と云っても良い――街並みで、とても白鳥のいる湖や、ぬかるんだ未舗装の道などありそうにない。

 と、こちらの呟きを聞きつけた宙港の職員が、笑いながら話しかけてきた。

「湖なら、8バンチにありますよ。あちらは、各サイドや地球のエライさんたちの別宅なんかも多いですからね」

 と云ってきた。

「そうなのか。きれいな湖があるから見てきたらいいって、知り合いに云われたんだが――8バンチかぁ……」

 正直、バンチ間の移動はやや億劫だ。無論、地方の人間が東京に出て、ついでに鎌倉に行くような、あるいは大阪に行って神戸に立ち寄るような、そんな感覚なのはわかっているが。

 しかし、宇宙船と云うのは、列車でも船でもなく、航空機に近い感覚のものなのだ。となれば、あまりひょいひょい乗ろうとも思えない――自分用の船があるから、と云うこともあるのだろうが。

「行くんでしょう?」

 当然のようにタチは云うが、

「面倒くせぇ……」

 飛行機で二時間、車で一時間、のような場所を、日帰りで“聖地巡礼”するような感じを受けてしまう。

「アンタ、本当に……」

 呆れたような声を出されても、面倒なものは面倒なのだ。

 と、先刻の職員が、苦笑しながら云ってきた。

「8バンチは、割合便数も多いですから、そこまで不便じゃありませんよ。湖も、エレカーならすぐです。どうせリーアへ来られたのなら、行かれても損はないと思いますよ」

 ついでに、方々の有名人の別荘なんかもご覧になると良いですよ、と云われる。

「すみません、この人、根本的に出不精で」

 タチが恐縮したように云うと、明るい笑いが返ってきた。

「わかりますよ、休みの日に出かけるのって、面倒くさいですよね! でもまぁ、せっかくなら行かれたら良いですよ。とてもきれいなところなので」

 そう云って、職員は去っていった。

「……で?」

「で、ってのは?」

「8バンチに行くんでしょう、って云ってるんですよ!」

「――あー、まぁなぁ……」

 それは“聖地巡礼”だ、行きたくないわけはない。

 が、

「とりあえず、今日は勘弁……」

 何しろ、ザーンの宙港でカミーユ・ビダンに絡まれたし、その後は長いフライトだったし、いささか疲れた。今日はとっとと休みたい。

「わかりました。じゃあ明後日ですね」

 タチはもう決めたようだった。

 そのまま、宙港のカウンターに行き、どうも明後日の8バンチ行の便を押さえたようだ。

「明後日の九時の便を取りました。とりあえず、明日は首都バンチの観光ですね」

 携帯端末の画面を指して云う。そこには、確かに明後日九時の8バンチ行のチケットが表示されていた。

「熱心だな……」

「アンタが行きたいって云ったんでしょうが!」

 それは確かにそのとおりではあるのだが。

「お前の方が積極的になるとは、思ってもみなかったんでな」

「積極的になりたいわけじゃないんですけどね! アンタに任せてると、何も進まない気がしたもんで!」

 そのくせ、怪しいところには首を突っこみたがるんだから、などとぼやいている。

 ここをあまり突くと藪蛇になる。沈黙は金とばかり、黙っておくことにする。

 ザーンに着いた時とは違って、リーアまでは結構な時間がかかった。ムンゾからザーンは、月と地球の距離とあまり変わらないくらいだが、ザーンとリーアはその倍近くあるのだ。それに、月や地球の重力の干渉もある、ムンゾ-ザーン間よりも航路が紆余曲折することになるので、かなり時間を食うことになるのである。

 リーア着は、地球標準時――グリニッジ標準時と同じ――で朝の七時過ぎだったのだが、船内で眠り損ねたので、少しばかり休息が欲しかったのだ。

「それにしても、アンタのことだから、平気で船内で寝るのかと思ってましたよ。まさか起きたままとは思いませんでした」

「どうも、ざわざわしてんのが気になってな……」

 そう、通勤電車の中でも平気で寝るタイプだったのに、何故だか今回は眠りそびれてしまったのだ。

 船の中には、子どもから老人、かたぎのものから胡乱な輩まで、雑多な人びとで溢れかえっていたので、海外旅行先の列車で眠れぬように、緊張して眠れなかったのかも知れない。

「出かける前にひと眠りしたいが、この時間じゃ、チェックインどころじゃねぇしな……」

 まぁ、荷物さえクロークに預けてしまえば、多少は動けるようになる、ような気がしないでもない。

 大きく欠伸をひとつして、当座の宿へと足を向ける。ホテル自体はBだかCだか、さほどのランクではないそうだが、そこのジュニアスィート、となると話は違ってくる。

「奮発したな!」

 外観もそう酷くはない、ここのスィートでも、そこそこに値は張ったはずだ。

「平たく云いますと、部屋は分けられない、ベッドルームは分けたい、と云う苦肉の策です」

「シングル二部屋と、どっちが安い」

「正直に云いますと、こっちが少々高いですね。一・五倍くらいですか。あ、アンタは経費じゃありませんよ」

 と云うことは、タチは経費で落ちると云うことのようだ。それもそうか、タチの方は仕事であるからして。

「……まぁ、別に構わないが」

 実家住まいのうちに貯まった分で、余裕で賄えるはずなので。

「これだから金持ちは!」

 などと云われるが、まぁそこは、様々な要因が絡み合ってのものなので――もちろん、実家が裕福であるのは大きいが。

「流石に、“昔”はこんな豪遊してねぇぞ」

「えぇえぇ、“貧乏旅行”だったんでしょう!」

 まったく信じていない様子である。

「本当なんだがな……」

 呟きながらクロークに荷物を預け、遅めの朝食を取りに、繁華街へと向かう。

 が、流石に八時くらいでは開いている店もほとんどない。歩き回って、小さなカフェでモーニングにありついた。

 近隣の住人や勤め人ばかりが客の、そう広くもない店内の片隅に、男二人で坐りこむ。

「眠い……」

 また欠伸をしていると、食事を運んできたウェイトレス――と云っても、中年だ――が、くすくす笑いをこぼした。

「大欠伸ね。随分早かったの?」

 気安い口調だが、厭な感じはしなかった。

「まぁな――ついさっきこっちに着いたんだ」

「あら、外の人? ちょっと訛りが違うわね」

「いろいろふらふらしてるんでな、元の訛りはかなり抜けちまった」

「元ってどこなの?」

「ムンゾさ」

 ま、最近は火星と地球を行ったり来たりだ、と云うと、もの珍しそうな顔をされた。

「へぇ、全然わかんないわね。リーアへは観光?」

「あぁ。他を全然知らねぇんで、休暇ついでに回ってみようかってな」

「そう。リーアはいいところよ。ゆっくりしてって頂戴」

 ウェイトレスは云って、二人分のプレートを置いて去っていった。

 とりあえず、コーヒーを飲む。安い豆なのはともかく、マシンが古いのだろうか、あまり旨くはない。が、プレートの方はなかなかの味で、なるほど、コーヒーが不味くとも、これならば来る価値はあるなと思う。

「結構大胆ですね」

 トーストに齧りつきながら、タチが云う。

「何がだ」

「今のですよ。出身とか」

「別に、普通に入ったんだ、出身地で捕まったりするわけでもねぇだろ」

「そりゃそうですがね」

 まぁ、タチのような立場の人間だと、確かにスパイとして摘発される可能性があるから、あまりぺらぺらとは喋らないか。

「第一、まだ何がどうってこともねぇ、変に構えるより、自然体でいこうぜ」

「アンタってひとは……」

 溜息をつかれるが、知ったことか。

 食事を終え、店を出る。

 物価はムンゾよりやや高い、か。

 まぁ、ムンゾは農業プラントも多い、そう云う意味では、いろいろと安定した社会なのだろうと思う。

 だからこそ、連邦を離れてもやっていけると云う自負があり、それが独立心に繋がっているのかも知れない。連邦に依存する部分が大きければ、どれほど不満が大きくとも、連邦から外れることは即困窮を意味することになるだろうから。

 1stでは、リーアは表向き中立を標榜しながら、裏ではムンゾ、ではなくジオン公国と密約を結び、戦争協力をすることになっていたなどと云う話も読んだ。

 しかし、有体に云えば“コウモリ”であったそうだから、現在コロニー同盟に加わっていても、今後どうなるかは知れたものではない。

 そう云う意味では、はっきり連邦寄りとわかっているザーンの方が、まだましであるのかも知れなかった。

 歩きながら、街の中を観察する。遅めの朝食を取るうちに街は動き出したようで、固い蕾が一斉に開いたかのように、華やかな空気が通りを満たしている。ザーンではあまり見かけなかったようなハイブランドの路面店、あるいは小洒落た雑貨屋やカフェ、フラワースタンドまでが、垢抜けた風を感じさせる。

 連邦や各サイドの有力者が、こぞってリーアの学校に子どもを入れていると云う話らしいが、この空気はそれもあってのものなのか。

 なるほど、そうであれば、原作の一年戦争時、中立を宣言したのもわからぬではない。この豊かさを保証したのが、他ならぬリーアの“中立性”だったのなら――それを打ち捨てれば、窮地に陥ることになっただろうから。

 それを可能にしたのは、現首相、ランク・キプロードンの政治手腕と云うことのようだが、さて、政治力ではどちらが上だろうか。

「――首相公邸の見学とか、できるのか」

 タチに問うと、

「今回はお一人で。私は、入ったことがありますから」

 などと云う。

 少々腰が引けたようにも見えるが、これは、

「もしかして……」

 “鳩”としての最初の仕事の時、タチはリーアを担当したのか。

「ご推察のとおりですよ。あれから随分経ちましたし、人相も結構変わりましたからね、バレないとは思うんですが――向こうにもプロはいますからね、万が一を考えると、お供しますとは云えません。どうぞお一人で行ってきて下さい」

「他はいないのか」

「これで使えなくなるのも困るんですよ」

「……なるほど」

 それならば仕方ない。

 一人で行くしかないか、と思っていると、

「――おじさんたち、首相公邸の見学に行くの?」

 はっきりしたアルトで、そう云うものがあった。

 振り向くと、黒髪の少女だ。

 と云っても、学校の制服らしい上下のかたちからそう思っただけで、それがなければ声変わり前の少年かとも思ったかも知れない。意志の強そうなまなざしは深い青、黒髪の手入れは行き届いているが、セミロングくらいで結われもしておらず、その態度と相まって、中性的な雰囲気を醸し出している。

「そのつもりだが、何でわかった?」

 思わず訊くと、少女は軽く肩をすくめた。

「その看板の前に立ってたから」

 云われて見れば、確かに公邸見学の案内の看板がかけられていた。無料、十時〜十七時、祝日は休み。最少催行人数は二名。

「……ホントだ」

 思わず云うと、少女は初めてくすっと笑った。

「変なの。こんなに大きく書いてあるのに気がつかないなんて」

「歳を取ると、余計に見たいものしか見えなくなるんだよ」

「じゃあ、何が見たかったの」

「……公邸そのもの」

 白亜の館に気を取られ、こんな大きな看板に気がつかなかったのは、少々恥かしいものがあるが。

「それだけ夢中だったの? もしかして、観光客とか?」

「あぁ」

「……そうだ!」

 タチが、ぽんと手を打った。

「お嬢さん、この人と一緒に、公邸の見学に行ってもらえませんかね。私は、ちょっと用事があるんですけど、この人を野放しにもできなくて」

「野放しって何だよ!」

 思わず抗議の声を上げるが、タチには無視されただけだった。

「多分、公邸見学が終わるくらいには戻れると思うんですけど――」

「いや、学校とかあるんじゃねぇのかよ」

 制服を着ていて、多分十代半ば、と云うことは、ほぼ確実に学生だろう。そして恐らくは、そこそこに裕福な家の子どもだろうとも思う。制服を誂えさせるにも、それなりに金銭は必要だからだ。

 が、少女は首を振った。

「いいの。元々サボるつもりだったし」

「学校から、親に知らせがいくんじゃないのか」

「いかない。親は家にいないから」

 きっぱりとしたもの云いだった。

 断ち切るようなその口調に、家庭の複雑さが透かし見えて、追及できずに口をつぐむ。

「――まぁ、いいんなら案内してくれ。警察がきたら、俺は誘拐犯じゃないって云ってくれよ」

 そう云ってみれば、少女はふふっと笑みをこぼした。

「大丈夫。――私、アストリッド・クヌートソン。あなたは?」

「俺は“オルガ・イツカ”だ」

「そう。宜しくね、オルガ」

「あぁ、宜しく、アストリッド」

 差し出された手を握る。その掌はしっかりとはしていたが、それでも少女のものらしく、骨の細い華奢な作りをしていた。

 

 

 

「それじゃ、頼みましたからね!」

 そう云って、タチはその場を去っていった。

 用があると云っていたが、本当にこの地の“鳩”と連絡を取りでもするのかも知れない。

 実際問題、最初に“鳩”を動かしてから七、八年、公邸には、タチを迎えた側の人間も残っているだろう。勘が良ければ、ふてぶてしく変貌したタチを、それと認めることも出来るかもしれない。危ない橋は渡らぬに限るだろう。

「じゃ、いきましょ」

 アストリッドは云って、先に立って歩き出した。

「――ホントに、学校はいいのか」

 再度訊ねるが、返ってきた答えは同じだった。

「いいの。普段はちゃんとしてるし――でも、全然無関心みたいだから、外れてみたらどうなるかなって」

 それは、こちらがだしにされていると云うことか。

「巻きこまねぇでくれよ……」

 偽IDで、誘拐容疑で逮捕など、本当に御免である。

 アストリッドは、またふふっと笑った。

「平気よ。――ホントはね、学校には休むって連絡はしたの。ほら、何だかどうしても行きたくない日って、あるでしょう」

「……まぁな」

 “ギレン・ザビ”ではやったことはないが、元々の方では一度だけ、どうしても出勤したくなくて、駅まで行ってから、休むと連絡したことがあった。まぁ、多分精神的に疲れていたのだろう。後にも先にも、そう云うかたちで休んだのはその時だけで、後は真面目にやっているが――そう云う時は、確かに休んだ方が復活できる気はした。まぁ、それが続くとなれば、話は違ってくるのだろうが。

「だから、今日は自主休講よ。どうしようかって思ってたから、時間が潰れて良かったわ」

「俺も、一人で入れって云われて、どうするかって思ってたから、助かったぜ。ありがとうな」

 連れがこの少女なら、いろいろ疑われることもないだろうし――まぁ別の、つまり誘拐だの何だので疑われる可能性はあるのだが。

「感謝してるなら、お茶でも奢ってほしいわね」

「そりゃ構わねぇが、あいつ、“ビスケット”が戻ってからでいいか。またふらふらしてるって怒らせちまう」

 後でねちねち云われると面倒なんだよ、と云うと、小さく吹き出された。

「あの人、ビスケットって名前なの?」

「そうさ、“ビスケット・グリフォン”ってんだ」

「美味しそうな名前ね!」

「煮ても焼いても食えねぇ奴だけどな」

「あは!」

 笑いながら、公邸の門をくぐった。時刻はちょうど十時、見学が開始される時間である。

 アストリッドは、入口すぐのインフォメーションデスクに近づいていった。

「見学したいんですけど」

「はい、二名様からですが、お連れ様などいらっしゃいますか?」

「えぇ。オルガ!」

 呼ばれていくと、受付嬢は、一瞬怯んだ顔になった。まぁ、こちらが普通の反応だろう。アストリッドのように、まっすぐに声をかけてくる人間は、ごくごく稀である。

「頼んでいいか」

「え、えぇ。……ガイドを呼びます、少々お待ち下さい」

 と云うや、内線でどこぞへ連絡しはじめた。ガイドを呼ぶだけにしては会話が長い。さて、どんな“注意”をしているのか。

 ややあって、壮年の男がやってきた。あまり慣れた風ではない。恐らく通常のガイドではなく、その上長か何か、つまりトラブル要員と云うことだろう。見るからに痩せて非力そうなので、暴力沙汰以外のトラブルを懸念されているようだ。

 男は、アストリッドを見ると、微かに眉を寄せた。

 が、少女が小さく頭を下げると、何を思ったものか嘆息して、こちらに向き直った。

「ようこそ、リーア首相公邸へ。私は、ガイドを務めます、イングヴァル・ローンと申します。宜しくお願い致します」

 旧家の執事のような、少々堅苦しい挨拶だった。

「宜しく」

「あぁ、宜しく」

「では、早速ご案内しましょう。まずはこの正面玄関から」

 そしてローンは、滔々と説明をはじめた。

 玄関には、地球産の大理石を使っていること――どうやらこちらはカッラーラ産ではない――、正面の大階段も同様であること、デザインは、地球の古い建築物をモデルに、当時最高の建築家――名前は聞き取れなかった――が手掛けたこと、建築家が老齢で途中で亡くなり、弟子が後を継いだこと。

 そうして、アポイントを取った人びとが順番を待つ控えの間、中でも身分の高い、と云うか他コロニーの使者や連邦からの特使などが通される部屋、勲章の授与などの公的儀式に使われる部屋、晩餐会の開かれる広間、舞踏会が催される大広間――小さな宮殿のような。

「――もちろん、首相の執務室などもございますが、そちらはご案内できませんので」

 ローンが云う。

「そりゃそうだ。――それにしても、なかなかすげぇな。ザーンやムンゾの公邸とも引けを取らねぇんじゃねえのか」

「ザーンとムンゾでも、こう云うツアーに参加したの?」

 アストリッドが、こちらを覗きこんでくる。本当にもの怖じしない少女である。

「あぁ、面白いだろ。ザーンの公邸なんか、有名な彫刻家が使ったのと同じ大理石を使ってるって云ってたぜ」

「有名な彫刻家って、知ってるかしら」

「大概の教科書に載ってるんじゃねぇかな。ミケランジェロだよ、ルネサンスの」

「えっ、知らない」

「マジかよ、お嬢様学校とかじゃねぇのか」

「知らない。って云うか、“お嬢様学校”って何」

「金持ちのガキどもが通う学校」

「……そんなんじゃないし」

「制服作れるだけで、充分金持ちだよ」

 そんなやり取りに、ローンは口も挟まず、淡々と案内してくれる。

 ここが最後です、と云って男が示したのは、大広間の奥に広がる、緑鮮やかな庭園だった。

「ここが公邸の庭園です。歴代首相やそのご家族がこよなく愛した庭園で、英国の風景式庭園を模しているそうですが、歴代の庭師の手によって、リーア様式とでも云いたくなるようなスタイルに発展しています」

 その先にあったのは、幾重にも重なる樹木の影となだらかな丘陵、その間から覗く品の良い四阿、そして近景を彩る様々な薔薇の花だった。よく見ると、“丘陵”は目の錯覚を利用したもので、近寄ってみれば、スキーのモーグルのコースにも似た荒々しいばかりの瘤があるのだろうと思う。

 しかしながら、

「……なるほど、こりゃすげぇ」

 ムンゾのザビ邸の庭はこの半分もないことを思うと、確かにこれはなかなかのものだ。原作でアストライア・トア・ダイクンが入れられた塔のある湖には負けるかも知れないが、流石に一国の首相の館である。

 その上、薔薇園の手前は広々として芝生のエリアであり、ここで大規模なガーデンパーティーを催すことも可能なのだろう。ムンゾの首相公邸は、建物こそ立派――RPGの魔王城のようではあるが――だが、残念ながら庭園は大したものではない。広いスペースは、観兵式などのためにあると云うべきものでしかないのだ。

 ――まぁ、軍事国家にもなるはずさ。

 あたり前だが、そう云うルートしか敷かれていなかったのだから、そうならざるを得まい。

 無論、このリーアの公邸にしても、地球で見た宮殿や城、賓客用の館などよりも小規模ではあるのだが、それにしても、各コロニーでこれほど毛色が違うと云うのは面白い。

「――これで、公邸のご案内は終了です」

 スタート地点の正面玄関に立ち戻ると、ローンはそう云って一礼してきた。

「ありがとう。面白かったぜ」

「私も。ちゃんと説明聞いたのは初めてだったけど、いろいろあるのね」

「――初めてきたんじゃないんだな」

 何度も来たことがあるような云い方にそう云うと、少女はぺろりと舌を出し、

「不真面目な生徒なのよ」

 と小さく笑った。

 ローンは何やら云いたげな表情ではあったのだが、結局沈黙することにしたらしい。ひとつ吐息して、お気をつけてお帰り下さい、と云ってきた。

「さあ、じゃあ、約束どおりお茶よ!」

「俺は店なんか知らねぇぞ」

「大丈夫! 美味しいとこを知ってるから!」

 そう云うなり、アストリッドはこちらの腕を取り、絡め取るように引っ張っていく。

「だから、俺を誘拐犯にするなって!」

「大丈夫だってば!」

 そんなことを云い合いながら、公邸の外へ出ると、少し向こうにタチの姿があるのが見えた。

「おう、用事は終わったのか」

「お蔭様で。ところで、何でそんなことになってるんです」

 どうにももやついた表情のタチは、それを押し殺すようにして訊ねてきた。さては、何か起こったか。

 とは云え、“鳩”からの連絡であれば、今ここで、リーアの少女を前にして云えるようなことではもちろんない。後で聞き出すことになるなと思いながら、肩をすくめてやる。

「お嬢様はお茶をお望みでな。お供させて戴くわけさ」

「宜しくね、ビスケットさん」

 アストリッドは、こちらに腕を絡めたままで、にこりと笑った。

 途端に、タチが顔を顰めた。

「……アンタ、何若い子誑してんですか」

「何云ってんだ、“財布”だよ“財布”」

 学生は、家が裕福だろうと本人は大概貧乏だから、恩を着せてたかろうと云う肚に決まっている。つまりは、“財布”とか“ATM”の類である。

 多分中高生だろうこの少女が、そう云う意味でこちらに興味があるとは思われない――ララァ・スンのような特殊例は、そうそう世の中にいるとも思われない。

 そう云うと、深い溜息が返ってきた。

「アンタも、意外と誑しますからね……」

「冤罪だ!」

 “ガルマ”でもあるまいし。

「“誑す”って何?」

 少女が無邪気に訊いてくるのに、

「“オルガ”はね、今、お嬢さんくらいの歳の娘に、猛アタックされてるんですよ」

 タチがしたり顔で答える。

 うんざりした気分になる。

「勘弁してくれ、三分の一の歳だぞ、娘だっておかしかない」

「……結婚してるの?」

「……逃げられた」

「そう」

 くすっと笑って頷かれるが、いろいろ意味がわからない。どうしてこう、いろいろ晒されなくてはならないのか!

「――おい、“ビスケット”……」

 一言文句を云おうとタチに向き直るが、果たせずにアストリッドに強く引っ張られる。

「行きましょ、あっちよ!」

「お、おい!」

 全体重をかけて引かれるようだ。

「おい、止めろよ“ビスケット”!!」

 後ろを振り返りながらそう叫ぶが、やれやれと云うように首を振られただけだった。

「諦めなさいよ、多分アンタ、こう云う定めなんですよ」

「何がだ!」

「まぁまぁ。――さ、お嬢様、どちらまで?」

 まったく意に介した様子もなく云うタチに、少女は元気よく返答した。

「バステト・ストリートの、カフェ・バステトへ!」

 

 

 

 バステト・ストリートと云うのは、その通りの正式名称ではないようだった。

 標識に記された名称は“ハリントン・ストリート”だったが、それが何故“バステト・ストリート”になったかと云えば、恐らく通りの中ほどに立つ、古びたブロンズの像故だろう。

 古代エジプトの半猫の女神バステトを象ったその像は、通りの守護者のように佇んでいる。

 バステト像があるためかどうか、そのあたりは猫の姿も多く見られ、二重の意味で俗称がつけられる事になったようだった。

 カフェ・バステトと云う店は、その通りのちょうど女神像の前に建っていた。煉瓦造、あるいはそのようなサイディングボードを張ったクラシカルな建物で、蔦を這わせていることも相まって、一見の客にはやや入り辛さを感じさせる。表に出されたメニューを見ても、なるほど、学生を相手にはしていないようだ。なかなか良い値段設定である。

「一度連れてきてもらったことがあって」

 アストリッドは、アフタヌーンティーセット――例の三段重ねのあれ――を遠慮なく注文し、にこにこ笑ってそう云った。

「スコーンとケーキがすごく美味しくて! でもほら、ちょっとお高いし……ね?」

「まぁ、俺が“財布”だってことはよくわかった」

 しかも、つき合わされて、結局は三人ともアフタヌーンティーセットである。元々の金銭感覚では、一万円くらいが飛んだ感じだ。

「まぁ、旅先の飲食は高くなりがちだがな……」

 過去の貧乏旅行でも、旅費の三分の一くらいは食費だった。旅行先では気が大きくなる部分はある、が。

 ややあって運ばれてきたのは、例の三段重ね、のかなり大きな皿と、それぞれの紅茶の入ったポットとカップ&ソーサーだった。いずれも英国王室御用達の、美しい、しかし厚みがあって丈夫な器が使われている。

「――ワイルドストロベリーか」

 アストリッドの器を見て呟くと、少女はわずかに目を見開いた。

「知ってるの?」

「あー……まぁな」

 かのブランドではもっとも有名なシリーズなのではないかと思う。苺の柄のシリーズだ。ここの器は、“ロイヤル”のつく他ブランドとは違って、金の色もけばけばしくはなく、それもあって気に入っているのだ。例の、ゾルタンに割られたカップも、このメーカーのものである。

「丈夫だからだろうな、地球で入った店で、それを使ってたところがあってな」

 元々の方でも、ワイルドストロベリーやらランボーンあたりは使っていた。割合厚手なので、デイリーユースに向いているのだ。かなり長く使えるものなのである――そう、子どもに割られるようなことさえなかったなら。

「そうなのね」

 少女は感心したように云った。

「こっちだと、輸送費のせいでしょうね、高いったらないの。だから、こう云うお店も、値段が高いんだと思うわ」

「ま、せめて月なんかで作ってりゃな」

 重力と戦って輸送しなくても良いので、もう少し価格も下がりそうだが。

「でも、そうすると特別感がなくなるじゃない」

「それはな」

「悩ましいところね……」

 少女は溜息をつきながら、一番下の皿からサンドイッチをつまんだ。

 それに頷きつつ、紅茶を注ぐ。キームンはなかったので、定番のアールグレイフレンチブルーだ。

 ベルガモットの香りを楽しんでいると、

「――きれいな指ね」

 アストリッドが、こちらをじっと見つめて云った。

「きれい?」

 思わず問う。

 きれいなわけはない、四十過ぎの男の手だ。骨と筋ばかりが目立つ、男のものとしか云いようのない手。皮膚も乾いているし、しみだって出ているだろう。別段、手入れをしているわけでもないから、推して知るべしである。

 だが、少女は首を振った。

「きれいよ」

 と、こちらの指先に触れながら、云う。

「肉体労働とか、してないでしょう。指先が細くって、貴族的な手。――火星と地球って云ってたけど、火星でどんな仕事をしてるの? 建設現場に出てるわけじゃないんでしょう?」

「警備員だよ」

 肩をすくめてやる。

「警備員に求められるのは、見回りとその報告だろ。身体は動かすが、資材を運んだり作業をしたりするわけじゃねぇ。そりゃ、作業員の手とは違ってくるさ」

「そう云うんじゃないの。わかってるくせに」

 アストリッドは、もどかしげに云った。

「あなた、本当はもっと違う仕事をしてるんじゃないの? ビスケットさんの態度も、同僚っぽくないし――もっと、人の上に立つような仕事をしてるんじゃない? 違う?」

「……アンタが意味もなく偉そうなのがいけないんですよ、“オルガ”」

 タチは、渋面で云った。

「“昔”から云われる」

 元々の方で“ガルマ”と歩いていた時に、その同僚にみられていたらしいのだが――後で、“一緒にいた偉そうな人は誰”などと訊かれたのだそうだ。そこまで偉そうにしている意識はないのだが、どうも身についたものになっているらしい。

 それに、手のかたちと云うのは、確かに職業で異なってくる部分はあるが――それよりも元々の骨格などの要素が大きいのだし、格闘技をしていて関節が潰れただとか、よほどの要素がない限りは、それで職業を云々することはできないはずだ。

 だから、職業云々の話ではないと思うのだが、少女は首を横に振った。

「偉そうってだけじゃない。あなたの右手、ペンだこがある。それって、書類によくサインをする人のものだわ。それって、警備員ではないことでしょ」

「警備員ってのは、報告書だらけだぜ」

 そこまでいかなくとも、日報的なものを書くのは、日常茶飯事のはずだ。“異常なし”だの“23:30 巡回済”だの、そう云うことが。

 確かに宇宙世紀も百年になんなんとするこの時点では、手書きのサインなどは、それこそ契約書くらいにしかしないのかも知れないが、手軽に書いたり消したりできるデジタルメモの類は、まだまだ現役なのではないかと思う。システムをわざわざ立ち上げなくて良いアナログな手段は、意外に生き残るものなのだ。

「誰がどこを担当するの何のってのは、ホワイトボード管理だしな。もちろん、最終的にはデータとして保存されるが、それまでは、アナログが一番面倒がねぇんだよ」

 急にシステムが落ちたって、アナログなら関係ねぇしな、と云うと、少女は不満げに頬を膨らませた。

「絶対ごまかしてる」

 と云うが――まぁごまかしているのは確かだけれど、それをここで肯定できるわけもない。

「考え過ぎだ。先細りの手だけが、上流階級の手ってわけでもねぇだろ」

 そんなことを云い出したら、“父”やサスロやドズル、それからマツナガ議員などは、成り上がりものだと云うことになってしまう。四人とも、こちらに較べて幅広の掌で、指もかなり太いのだ。

「絶対ごまかしてる!」

 アストリッドはまだ食い下がってきたが、笑ってそれを否定する。

「勘違いだよ。大学にゃ通ったが――それでどうなったわけでもねぇしな」

「……大学に行って、警備員なの?」

 と云う少女に悪気はなさそうだったが、まぁかちんとくる輩もあるだろう。

「そう云うことを云うもんじゃねぇよ。いろいろと事情ってもんもあるんだからよ」

 まぁ、こちらは“身分を偽っている”と云う“事情”なのだが。

「……ふぅん」

「ま、いろいろ転変ありますよねぇ。家が没落したって人も知ってますし」

 タチが、追撃をかける。

「え、そうなの!?」

「いや、俺のことじゃねぇぞ」

 多分、サハリン家だの何だののことを云っているはずだ――多分。

「家が没落したら、本人がよっぽど優秀でもないと、結構いろいろあるだろうさ。だから、あんまり他人の出自をとやかく云うもんじゃねぇよ」

「……やっぱり良い家のひとなんじゃない」

「いや、俺の話を聞いてたか?」

 どうしてそこで、そう云う飛躍が起こるのか。

「そう云う気遣いができるのは、そう云う家のひとだからでしょ」

「いやいや」

 “そう云う家”でなくとも、脛に傷持つ身かも知れないではないか。

「今時の若いのの感覚がわかんねぇわ」

「やだ、おじさんみたい」

「おっさんなんだよ!」

 四十過ぎた男は、普通におっさんだと思うのだが。

 と、タチにしぃっと注意された。

「お静かに。確かに平日の昼前で、人はまだ入っていませんが、ちょっとうるさいんじゃないですか」

「おっと」

 確かに、他に客の姿は見えないが、ギャルソンのまなざしがこちらを注視しているのがわかる。

「やだ、ホント」

 慌てて口を噤み、紅茶を一口。

 確かに、あまり悪目立ちして、それこそ誘拐犯扱いされたり、あるいは不審人物扱いされたりするのは困る。リーアの当局にマークされたいわけではないのだし。

「……まぁ、名家の不肖の息子扱いでも構わねぇから、おとなしくしといてくれ。変に目ェつけられたくねぇんだよ」

「誘拐犯とかね?」

「そうそう」

 こくこく頷くと、少女は仕方ないと云わんばかりに溜息をついた。

 そして、

「いいわ。その代わり、リーアのガイドをさせて頂戴」

 ありがたくもないさらなる爆弾を落としてきたのだ。

「真面目に、俺の云ったこと聞いてたか?」

「もちろん」

「お前の親御さんに、娘を誑かす悪い大人扱いされたくねぇんだよ。ガイドはいいから、学校行けよ」

「誑かされてはないけど、お父さんはちょっと困ればいいんだわ」

 と云って、アストリッドは必要以上に力強くサンドイッチを噛みちぎった。怒りが垣間見える強さだった。

「お母様が亡くなってから、忙しいのはわかっているけど放りっぱなし。――別に、逐一構えとは云わないけど……我慢の限界ってあると思うの」

「あー……」

 “昔”、娘のひとりに云われたことを思い出す。

 ――お父様は、私より組織のことが大事なのよね!

 残念ながらそう云うものだ。かつてマハラジャ・カーンに告げたとおり、妻よりも子どもよりも組織、今ならばムンゾの方が大切である。

 それは、自分の子どもに愛着がない――預かった子どもは、結構可愛いと思える――こともあるが、それ以上に組織と、そこに所属するものたちの方が大事だからでもある。組織に属する人間を引き受けると云うことは、その家族の生活をも引き受けると云うことである。数十、数百、数千の生命を預かるような状態で、自分の子だけにかまける暇などあるものか。

 だから、アストリッドの父親のことも、わからぬではないような気持ちになるのだ。

「――お前の親御さんは、きっと結構な地位にあるんだろうな。そうしたら、家族より優先しなきゃならねぇものは、どうしても出てきちまう」

 家族より大切なものがある人間と云うのは、残念ながら存在する。それ故に、源頼朝は、義経の求める“兄弟としての扱い”を受け入れはしなかったのだ。そこに横たわった認識の齟齬は、結局兄弟を完全に分かつことになったのだが。

 ――そう云う意味では、この時間軸で問題なのは、“ガルマ”よりもむしろ“父上”と云うことだな。

 中途半端な家族愛など持ち出さず、政治家に徹していれば良いものを――“ガルマ”相手だけならともかくとして、半端にこちらに構ってくるのは、本当に止めてもらいたい。

 まぁ、アストリッドの父親は、そう云うタイプではないのだろうけれど、気紛れに構ってくるようなら、“父”と変わりはないのだろうから、微妙に同情したくはなる。

「――まぁでも、気にしてほしいんなら主張しないとな! デカくなってから後悔することになるぜ」

 あるいは、後悔することすらできずに死んでいった、原作のザビ家の兄妹のように。

 アストリッドはきょとんとして、やがてこちらをじっと見つめてきた。

「後悔したことがあるみたいな云い方ね」

「したって云うか、してる。現在進行形で」

「現在進行形?」

「してるんですか、後悔」

 何故かタチが食いついてきた。

「するさ。もっと若い時分にぶつかっときゃ、今変に絡まれなくて済んだのかな、とか」

「――あー……」

「変に絡まれるって、どんな?」

 天を仰ぐようなタチとは対照的に、アストリッドは、興味津々に訊いてくる。

「三分の一の歳の娘とでも構わん、結婚しろ、とさ」

「私と同じくらいって云う娘と?」

「まぁそうだな。確か十四だったはずだからな」

「えー……」

 これには、流石にアストリッドも引いたようだ。

「十四って、セカンダリースクールも終えてないじゃない! そんな娘と結婚!?」

 どんな時代錯誤よ、と云われるが、まぁこれが普通の感覚だろう。

「な? そう云う父親なんだよ。面倒くせぇから、お前も、ぶつかるなら早めにしといた方がいいぜ」

 肩をすくめてやると、真剣な面持ちで頷かれた。

 気がつけば、店内は混みだしている。時刻を見れば正午過ぎ、ランチを食べる客も入りはじめたか。

 少し急かされるように、スコーンを食べる。クロテッドクリームとベリーのジャム、ざっくりした食感が美味い。ケーキ――柑橘のタルトも、クリームが強過ぎず、上の柑橘とのバランスが良くて美味い。まぁ、少女ならば“財布”を調達して来たくなる気持ちはわからぬでもない――個人的には、こう云うことはもう二度と御免だが。

 最後に残しておいたサーモンとディルのサンドイッチで紅茶を飲み干すと、アストリッドが満足げな溜息をついたところだった。

「満足したか」

「えぇ。とっても美味しかった!」

「そりゃ良かったな」

 普通の旅行客にはやるべきでないと思うが。

 時間は、既に十三時を回っていた。結構な時間をここで過ごしたことになる。

「じゃあな。明日は真面目に学校に行けよ」

 手を振って別れようとすると、

「あら、案内するって云ったじゃない」

 と返された。

 舌打ちして、振り返る。

「云ったろ、俺は、誘拐犯扱いされたかねぇんだよ」

 だが、少女は食い下がってきた。

「ちゃんと休むって云ってから行くわよ」

「結構だ!」

「――お嬢さん」

 タチが口を出してきた。

「私たちとしては、穏当に休暇を過ごしたいんです。ただでさえ、微妙な扱いをされてきてるのに、面倒ごとは御免こうむりたいんですよ」

 確かに、ザーンでもリーアに入る時も、微妙な扱いではあった。IDはきちんときていたし、入出国記録もおかしくはないはずだった――こう云う時、デジタルは割合簡単に記録の偽造ができてしまう――のだが、それでも胡散臭そうに見られたものだ。

 まぁ、ムンゾ出身の警備員がどうしてザーンやリーアに観光に、と云うのはあるのだろうが――何分の一かは、こちらの見た目の胡散臭さにあるのかも知れなかった。

 鉄オル世界で、インテリヤクザのコスプレをした時、ギャラルホルンに引かれた雰囲気は伊達ではない。その上、オルガ・イツカよりもギレン・ザビの方が、元々の体躯は宜しいのである。それは、胡散臭さも桁違いになるか。

 まぁとにかく、そんなこんなで警戒されているのに、その上お嬢様誘拐の嫌疑までかけられたいものか。

 などと云うことをやんわりと云ってみるが、少女は聞く耳を持たなかった。

「大丈夫だってば! また明日、同じところでね!」

 そう云い張ると、こちらの反駁など聞きもせず、少女は足早に去っていった。

 

 

 

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