ザビ家成り代わり   作:くずみ@ぼっち字書き。

91 / 96
【成り代わり】another ORIGIN 反逆の"ガルマ" 46【転生】

 

 

 

 全ての砲門がこっちを狙ってる。

 いまや視認できるほどに、大型艦が近づいて来てた。

「『……“UNKNOWN”』」

 ケイが抜いてきた連邦軍のデータにあった謎の海賊。

 ちょっと待て。連邦以外襲わないんじゃ無かったのかよ。

 冷え切った“意識”に反して身体が震えてる。

 だって艦はコレだけじゃ無いんだ。射程圏内に複数、逃げ場を塞ぐように展開してる。

 敵と味方双方のMSを巻き込みつつ、先の海賊艦を爆散させたのは、“UNKNOWN”の連装メガ粒子砲だった。

 奴らが総力を上げて叩けば、ガルシア艦だって木っ端微塵だろ。

〈ニケがやられた!〉

 ひどく焦ったコウガからの通信が。

〈コックピットは確保したよ!!〉

 モブリットの怒鳴るみたいな声。

 コックピットは――って、それ大破したってことじゃないか!

「『無事なの!?』」

〈わからねぇ……返事がねぇんだ〉

 なんでだよ、ニケ、おまえは誰より回避に特化してただろ。

 ひやっとする。カナモノを喉の奥まで突っ込んだみたいな。

 ジワリと湧き上がる無力感に無理やり蓋を。いま、思考停止するわけにはいかないんだ。

「『ニケの回収を急いで。他に被害は?』」

〈リュファス隊が崩れた〉

 忌々し気なのはガイアだ。

 リュファス・ベクラール中尉の隊か。謹慎してた筈だけど、緊急事態で出されたんだね。

「『回収は?』」

〈やってる!!〉

 デリックか。やけくそ気味の声が震えてる。

「『ブリッジ、医療班は…』」

〈いま…〉

〈とっとと連れてこい!〉

 大音声は医官だ。スタンバイ済か、有り難い。

「『ギュスターヴ、回収手伝うよ、行こう』」

〈おう!〉

 動こうとしたのに。

〈君達は動くな。我々が行こう〉

 イエローオーカーの機体が前に出た。

「『ですが…』」

〈艦から離れるんじゃない。少なくとも直ぐに撃ってくるつもりは無さそうだからな〉

 “UNKNOWN”は沈黙してた。

 ずっと観察を続けてるみたい。ほんとに何者だよ。

 腹立つな。

 多勢に無勢だから、いまは様子を見るしかできないけど――皆を回収するまでは、ね。

 ツァニン中尉達と交差するように、ボロボロになった機体を、仲間たちが抱えて戻ってくる。

 残ってる数少ない海賊たちも、いまはもう大人しかった。母艦が消された以上、捕縛されるしか生きる道は無いから。

 ハッチを護りながら、中に吸い込まれていく部隊を見送る。

 コウガとモブリットも居た。荷物みたいに抱えられたコックピットの中には、いまだに応答のないニケが。

 肋が絞められるみたいな錯覚。

 もっと早く対処できたはずなのに――クソくらえ、一等兵なんてなんの力もない――繰り言だ――今できることはなんだ。

 思考が回る――脳裏でピースが目まぐるしく。

 ――奴らも通信してるはずだ。

「『ギュスターヴ、通信をケープルに切り替えます。ミノフスキー通信でのやり取りでなにかあったら教えて』」

 通信用ケープルを引っ張り出しで、ワニに投げる。

〈何をする気だ〉

「『……できることを』」

 宙域を満たしてるミノフスキー粒子、その中に溶けた“意識”で探るんだ。

 レーダーや通常の通信が遮断される以上、奴らもミノフスキー通信に似た何かを使ってる可能性が高い。

 あっちの通信を拾えれば、目的が分かるかも知れないだろ。

 伝播する信号の中から、味方のものを敢えて除外。

 それ以外で指向性をもって放たれてる信号はどれだ?

 ソラに満ちてるのは、谺みたいな“ノイズ”。

 ゾワゾワする。嫌な感じだ。耳をかせば引き摺られそうになる温度の無い“声”――を、シャットアウト。

 “耳”を澄ませながら、古いラジオのチャンネルを合わせるみたいに、機体の受信器の周波数を少しずつ変えて――……。

(……マチガイ ナイナ、ムンゾノ フネダ)

 ――拾った!

「『ギュスターヴ、ブリッジにこれ繋いで。ケイ達に解析を』」

〈了!〉

 その間も奴らは呑気に通信をしてた。

 傍受されてるなんて思いもしてないんだろう。それくらい特殊な周波だからさ。

(コンナ トコロ ニ イタノカ)

(チョロチョロ ト ネズミ ミタイ ダナ)

(アンナニ アワテ フタメイテ カワイソウニ。イキタ ココチ シテナインジャナイカナ)

(ラーン ガ エンリョナク ブッパナシタ カラダロウ!)

(ネラッタノハ ワルモノ ノ フネダケダ。マキコマレタ ヤツハ ウンガワルカッタノサ!)

 ザワリと胸の底が沸き立った。

 スクラップされたニケ達のMSが脳裏に過る。

 ――誰だか知らないけど、お前らの“声”は覚えたよ。

 通信の指向性から割り出した艦を、視界センサーで最大限に拡大。

 どこのそれとも知れないシルエット。所属を示すようなマークは無いし、乗ってる個人の嗜好とかも一切廃してるから、一見して他と見分けがつかない。

 なるほど、“UNKNOWN”。

 連邦が規模さえ掴めてないのも納得。

 海洋と違って、ソナーで個体判別するなんてことが困難だし。

 だけど、なんで?

 これ程の大所帯なら、背後にいるやつの権力、財力だってデカいはず。

 そんなモノがコロニー社会の中に存在すれば、“蜘蛛の糸”に触れないはずがないのに。

 自惚れでなく、いまや“糸”の先は、中央のおれが把握しきれてないところまで伸びてるんだ。たまに、ぎょっとするようなトコからも情報が来るようになってるからさ。

 例えば、“ギレン兄様”が休暇にかこつけてリーアの首相官邸を見学しに行った挙げ句、首相の令嬢にハニトラして、最終日には首相本人たるランク・キプロードンを引っ張り出してムンゾへの助勢を取り付けたとかね――凄いわ“ギレン”ー――なんで首相官邸からリークされてんのかね。

 そんな“糸”に引っ掛からないってことは――……裏側に地球があるってことか。

 これまで集めてきたパズルのピースがくるくると。

 通信から拾えるイントネーションは、みんなコロニー出身者のそれだ。特徴的なムンゾ、ムーアやハッテ、それからルウム、ザーンのものも。

 まさにスペースノイドの寄せ集め。

 もしほんとに黒幕がアースノイドなら、なんでそんな輩に連邦所属の船舶ばっかり襲撃させたりするんだろ。

 目的はなんだ?

 ――スペースノイドに連邦の艦を襲わせることで、アースノイドとの対立を煽る?

 開戦したい勢力の工作ってことか?

(ホラ、ヤツラ、オナカマ ノ カイシュウ ハ オワッタヨウダゼ。カイゾクドモ ハ、 モウ ヨウズミダ。 オレガ カタヅケテ ヤルゼ!)

(ヤメロッテ!)

 子供が玩具を振りかざすみたいに、メガ粒子砲の砲門が動いた。

「『ギュスターヴ、捕虜は捨てさせて! 掃射がくるよ‼』」

〈〈端っから拾ってねえよ〉〉

 この声はリヒテンか。ギュスターヴの回線から繋いでるみたい。

 次の瞬間にまたしても放たれる閃光によって、わずかに残ってた海賊共が消えていく。

 今度は巻き込まれたムンゾ兵士は居なかった。

 ――ふざけやがって。

 生殺与奪の権利でも手にしてるつもりか。そんなもの、おれが譲るとでも思ってんの?

 こっちでも周波数を変えて。

「『へぇ。まともに撃つこともできるんですね? てっきりノーコンかと思ってました』」

 バカにした調子を隠さずに吐き捨てる。

(!?? テメエ ダレダ!?)

(ナゼコノ カイセン ニ!??)

 いきなり回線に割り込めば、動揺した声が。

〈おい、ガ…〉

「『ワニ、黙って』」

 この場で名前を知られるとか、冗談じゃないんだ。

 ギュスターヴは直ぐに意図を悟ったようで、向こうからの通信を最小に絞った。他から声が入ってこないように。

「『正体不明の相手に、なんで僕が名乗らなきゃいけないんです? “UNKNOWN”さん。連邦軍でそう呼ばれてるんでしょ?』」

 クスクス笑う。

(チョウシニ ノルナヨ、コゾウ。オマエタチナンザ ウチオトシテ ヤッテ カマワネェンダゼ)

「『そんなことしたら、あなた達の“計画”が台無しになるんじゃないんですか?』」

(テメエ!)

「『僕、あなたとはお喋りしたくないな。警告も何もなく、戦闘域の外からいきなり撃つようなヒトと、まともな会話は出来そうにないし?』」

(アイツラ ハ クソ ダ!)

「『そのクソ共を僕の大事な仲間たちにけしかけたのは、どこのクソです?』」

(テメエラ ハ グンジン ダロウガ!!)

「『だから何です? 割り切って許せとでも? ああ、あなたはそうなんでしょうね。クソでも仲間でも、いくらでも使い捨てにすれば良い』」

(キメタ。テメエハ コロス)

「『考えナシは嫌いです』」

 視界センサーの中で、一隻が動き出してる。

 味方に緊張が走るけど、問題ないよ、こんなのがトップのはずないからさ。

(ラーン、ヤメロ)

 ほらね。

(ダロス!!)

 ふぅん。いまのところの親玉はこいつかな。

(クチヲ トジテイロ。オコラセタ ノハ オマエガ サキダ)

(……クソ……イツカ コロシテ ヤル カラナ!!)

(ラーン!)

 しばしの沈黙のあと、動き出した艦が元の位置まで下がった。

(サテ、オレハ、ダロス・ティシェルガン。ズイブント ワカイ コエ ダガ、キミハ ダレダ? ヨモヤ、ソノ フネノ シレイ デハ アルマイ)

 名乗ってきたか。本名か偽名かは知らないけど。

「『まさか。名もなき一兵卒ですよ。回線が繋がっただけのね』」

(……キミ ヲ ツウジテ コウショウ セヨ ト?)

「『“hostis humani generis(人類の敵)”と交渉なんてしません。そうでしょ?』」

 どこの軍隊だって、“海賊”と表立って取引なんてしやしない。掃討するだけだ。

 この通信だって記録に残るし、肯定的な言葉は返すわけにはいかないからね。

 なによりも。

「『僕、海賊って大嫌いなんです』」

 むしろ憎んでるんだ。

 ひどく冷たい声が出た――でも仕方が無いだろ。

 いつとも知れない“昔”のことだ。海賊どもは、おれじゃない“おれ”の“敵”だった。

 奴らに良い思い出なんて、正直なところ一つも無いから――思い出すと腹わた沸そうだから蓋をするけど。

(ゴカイ シナイデ クレ! ワレワレ ハ…)

「『良い海賊とでも言うつもりですか? そんなものは存在しない。現に、いま僕の仲間達を殺したじゃないか』」

 確実に被害が出てた。爆散したMSの中にはザクも居た。

「『この状況でお前たちに拒否権は無いって、そう言ってみたらどうです? 海賊なら海賊らしく。それで大人しく言うことを聞くと思うのなら』」

 吐き捨てる。

(……シンジテ モラエナイ カモ シレナイガ、ワレワレ ハ キミタチ ノ タスケ ニ ナルツモリダ)

 何を言い出すやら。

 思わず鼻で笑っちゃったじゃないか。

「『後ろから撃ってくる輩が、どんな助けになるって言うんです?』」

 バカバカしい。

 それにしても聞き取りにくい。周波数なんとか合わないかな。アレコレ試してたら。

(……ホラ、ラーンが、ァンナことャるカらややこしくなったじゃないか!)

 ふお。バッチリ合ったわ。

 そして君はだれだ。女の人の声。ちょっと蓮っ葉な感じ。

(うるせえ!)

(止めないか、見っともない)

(だけど、ジウェニア!)

(おだまり)

 ピシャリとした声に打たれて、ラーンとやらの声が止んだ。

(……それにしても、ふてぶてしい小僧だね、アンタ。これだけの砲門に囲まれて、怯むでもなく憎まれ口ときた)

 こっちは別の女だ――随分と声が嗄れてる。

(ただ粋がってるってわけでもなさそうだし。ダロスの調子から、すぐには攻撃されないって踏んだのかい? 小僧が嫌いだって言う“海賊”なら、いまにも塵にされちまっただろうに)

 引っ掻くような響きが不快だ。先の二人が黙ったってことは、こっちの女の方が立場が上。

 ついでにダロスとやらに比べて、説得より恫喝の気配が強いな。

 それでもさ。

「『撃たないでしょ。さっきのは、そっちの“誰かさん”の暴走みたいですし? それすら、攻撃はこの艦を避けてました』」

 光条を追えば分かる。あの軌跡は、万一にもガルシア艦を巻き込むことのない角度で発射されていたもの。

 言い返したら沈黙が返った。

「『“UNKNOWN”が出現したのは、エルラン中将率いる海賊狩りの出撃の後。もっと言えば、ムンゾ艦が連邦軍に補足された後でした。オカシイですよね? なぜ、わざわざそんな危険な時期にこの宙域に出てくるのか、どうして連邦の船舶しか襲っていなかったのか。一度は減ったはずの海賊達がまた増えてるのも……何か理由があってのことなんでしょ?』」

 このことは、ケイ達と探ったことだ。調べれば調べるほど奇妙な連中だった。

 ちゃんとリヒテンにも報告してるから、情報は“ギレン”にも届いてるはず。

「『もしかして、この艦を探してたりしました?』」

 目撃ポイントを絞ってくと、けっこうニアミスしてるんだよね。

 追っかけられてた可能性大って感じ。

(随分とこっちのことを調べてくれたもんだねぇ。下手すりゃ連邦の連中より詳しいんじゃないかい?)

 揶揄する口調――だけど、少し詰まったように聞こえるのは、それなりに緊張してるのかな。

「『そりゃ気になりますもの。アースノイドが、なぜ、連邦を襲う貴方達の後ろ盾になってるのかなって』」

 カマをかけてみたら、息を飲む音がかすかに――……って、まじか。

 ほんとにバックにアースノイドが居るのか。予想はしてたけど――うわ、めんどくさ!!

「『……まるで、地球連邦軍がムンゾを討伐するための口実を作ろうとしてるみたいですね?』」

 一連の襲撃事件にムンゾが関連してるって、そんなことにされたら、レビルは喜々として討伐軍の編成を練るに違いないよ。

 いまのとこ、ただの憶測で、妄想みたいな推量に過ぎないけどさ。

(ふざせんな! そうじゃねぇ!! 俺達はコロニー共栄圏を護るために!!)

 誰かさんが吼えた。

「『護るために、なんです? サイド7の軍事工場でも襲撃するつもりですか?』」

(てめえらが日和ってるからだろうが!!)

 ――まじかAgain。

 否定が来ないんだが。やる気あるのか。

「『……馬鹿なの?』」

 口からぽろりと。

 そりゃ工場潰せたら良いねって、おれだって思うさ。

 だからって真っ向から叩きに行くか。現時点では戦時でもなんでもないんだぞ。

 踊らされるにも程があるだろ。

(んだとテメェ!?)

「『いまサイド7を襲うことが、コロニー同盟の為ってほんとに思ってるの? 連邦にムンゾ侵攻の口実を与えるだけだろ。そんなに直ぐに戦争がしたいの? ムンゾが敗れたら、コロニー市民はまた連邦の家畜に戻るだけだよ。お前たちは故国を売る気なの?』」 

 無自覚売国奴どもめ。

 どこのアースノイドに、幾らで魂を売り渡したのさ。

「『騙されてるなら、すぐに目を覚ましてよ!』」

(違う!! 俺達は!! あの人は!!)

(ラーン、黙れ!!)

 ダロスの声。

 誰だよ“あの人”。

 なんにせよ黒幕が居ることはハッキリした。放置はできない。ここまで“ギレン”が積み上げてきた事共を崩されるわけにはいかないんだ。

〈……おい、全員戻ったぞ〉

 ふと、ケーブル通信からギュスターヴの潜めた声が。

 負傷者含めての回収が済んだってことだね

「『フェル達は?』」

 敢えて出撃してない名前を出す。リノ・フェルナンデスの呼んだこともない愛称だけど、汲んでくれ。できるだけ奴らに情報を渡したくないんだよ。

〈〈済んでるぞ。お前らも戻れ〉〉

 これはリヒテンの声。解析もおおかた終わったってことか。

 イエローオーカーの指揮機が寄ってきて、おれのザクⅡの腕を掴んだ。

〈君たちが最後だ〉

 ツァニン中尉に促されて、ハッチへと。

(テメエか、そこのピンク!! そいつ置いてけよ、じゃねえと撃つぜ!)

(やめないか、ラーン!)

 そうそう、こっちは放っといて内輪で揉めててよ。

 そそくさと中へ。

 さてと。ここからどうやって躱そうかかね――でもその判断は、一等兵でしかないおれに委ねられることは無い。

 格納庫に戻ることで通信は途絶えた。

 波長は送ってるから、あとはブリッジでどうにかするだろう、と、思ってたら、そのブリッジに急行させられた。

「『どうなってるんですか?』」

 そろそろ負担になってきたから“意識”を閉じたいんだが。

 MSと違って艦の中は“ノイズ”が多すぎて、“外”がよく読めないし。でも、まだ閉じるのは怖い。ジレンマ。

「ガルシア少将閣下が交渉に当たっている。ロバート・ギリアム大佐も同席しているが……」

 ツァニン中尉が教えてくれた。

 ロバート大佐は、“ギレン”シンパだ。過去にデラーズと親衛隊長の座を争ってたって聞いたことがある。

 MSのテストパイロットとして早い段階で参加してて、もの凄い適正を叩き出したとか――そのせいで実働に回されたっていう皮肉――泣く子がさらに泣き叫びそうな強面なのに、好物のジェリービーンズを切らすと動きが停止するとか、色々と噂のある人物だった。

 この艦の実質ナンバー2。

 寧ろ、戦闘そのものを指揮してるのは、ガルシアじゃなくて、ロバートの方なんだよ。

「『回収された皆は?』」

「わからん。まだ知らされてないからな」

「『……そうですか』」

 大破してたMSが脳裏をよぎる。ニケはどうなってるんだろ。生きてるって信じたい。

 辿り着いた先。前面のモニターには拡大された“UNKNOWN”の艦が映し出されてた。そして司令官らしき男の姿も。

 こいつが、ダロス・ティシェルガンか。

 黒茶けた短髪に蒼い目。宇宙焼けした浅黒い肌。五十がらみかな。かなり厳つい感じ――所作は軍人のそれだね。

 訛はムンゾだから、もしかするとうちの退役軍人なのか。ますますやべぇな。

「……では、貴殿達は、我々に助力を申し出るというのだな?」

 対峙してるガルシアがそんなことを――如何にも計算してますって声色が演技なら良いんだけど。

 丁度カメラの視覚に陣取って、こっそり伺う。

 一瞬、ロバート大佐の視線がチラリと飛んできた。口元が凶悪に笑ってて怖えよ。

 ぶるっと震えて一歩下がったら壁に当たった――あ、ワニ、側にいてくれてるんだ。ちょっと安心。

(先程は部下が逸って、貴官の部下にまで被害が及んだようだが、本意ではなかった。謝罪する。その分は、こちらの戦力で補填しよう)

 ――ってさぁ。

 兵士を武器弾薬と同じに扱わないで欲しいね。

 そりゃ、軍人である以上、その命は祖国に捧げられてるし、覚悟もしてる。だからって消耗品扱いは頂けない。

 第一、“海賊”からの補填なんて、正気なら受け入れられる筈ないだろ――ましてや“紐”付き。

 銃口がどっちに向くか分からないのに。

「それは有り難い申し出だな。だが、即時には受け入れかねる」

 答えたのはロバート大佐だった。

「本当に悪いと思っているなら、まずは包囲を解け。いつまでも砲門を突きつけてくる相手を信じろと言うのか?」

(この機を逃すわけにはいかん)

「それでは無理強いだろうが」

(……だが、この宙域にたった一艦で航行するなど、そちらの提督は余程の権限をお持ちだろう。それほどまでに総統閣下の信が置かれているならば、この場での回答も可能ではないのか?)

 なんてこと言うの。

 そして鼻の穴をひろげてんじゃねぇぞ、ガルシア・ロメオ!

 チョイチョイと、気障に髭を撫でつけてから、奴は口を開いた。

「うむ。まぁ、そうしたいのは山々だが……実は今この艦は大層な積荷を抱えていてな――いや、ギレン総統閣下に直々に頼まれたものなんだ。内々のことゆえ公にはできんが」

 ――……その積荷って、おれのことを言ってるよね?

 ジト目で見やる。

「とにかく、その積荷を抱えたままでは勝手に動けん。貴殿らの目的はサイド7の軍事工場だと言うなら尚更にな」

 やれやれと首を振るさまは、なかなか嫌味だった。

(……なら、その積み荷とやらををよこしな)

 割り込んだのは、さっきも聞いた嗄れ声だ。

 モニターもう一人が映し出される。ダロスよりも更に年嵩の女性――褪せた灰青の瞳が高圧的に向けられていた。

 傷を負ったハイイロオオカミの雌みたい。髪の色も灰褐色。険しい表情には、憎しみが凝ったみたいな澱りがあった。

「これはしたり。やはり貴様らは海賊か」

 気にするでもなく、ガルシアは嗤った。

(だったらどうした。アンタらに選べるのは、アタシらの助勢を受けてサイド7をぶっ潰すか、大事な積荷とやらを寄越すことさ)

 ――ってさぁ、ちょっと舐めすぎだよね。

 案の定、ガルシアも顔を顰めた。

「どちらも御免被る」

 くだらないと吐き捨てる声。

 モニターの向こうで二人の顔が歪んだ。

 ガルシアは鼻を鳴らして、それから艦長のシートにふんぞり返った。

「立場が分かっておらんのは貴殿らの方ではないかな? なるほど、数では勝っちゃいるだろうが。しかし我々は、この宙域を単独航海できるだけの戦力を有している……不意打ちで鬼の首を取ったつもりでいるところを悪いがね」

 だよね。この艦、見かけによらず装甲が硬い。メガ粒子砲も、一発当たったら即時で爆散なんてことにはならんらしいし。

 そりゃ集中砲火を浴びりゃヤバいけど、小回り効くし出力もデカいし。

 なにより、多少削られたところで、まだMS部隊は健在だ。

 ガクブルするほどの戦力差じゃねぇよ――と、奮い立たせてみる。小さく震えてんのは仕方ないだろ、おれ、怖がりなんだ。

 背後のドアが開いて、複数人が入ってきた気配に振り向けば、リヒテンとリノ達の姿もあった。

 彼らだけがそっとカメラの死角にやってくるのを迎える――ん。“鳩”は顔出し控えるもんね。

「『解析結果は?』」

「なんでクソガキに教えなきゃいけねぇんだ。まだ殴られ足りねぇか?」

 リヒテンの顰めっ面を眺めあげる。いいや、もう足りてるわ。

 でも解析したのケイだろ。なら教えてくれても良いじゃないか、ケチめ――なんて思考は沈めといて。

「『わきまえす申しわけありません』」

 ぴしりと敬礼。だけどさ。

「『被害の状況だけでもお聞かせくださいませんか?』」

「……MSが4機だ。リュファス隊で3機、ガイア隊が1機」

 ――4機は痛いな。どれも最新鋭のザクⅡだった。

「『パイロットは?』」

「リュファスとニケは生きてたようだ」

「……そうですか」

 無事って言わないあたり、大怪我でもしてるのか。それに、あとの二人は助からなかったってことだろ。

 ギュスターヴも沈鬱な顔をしてる。

 ジワリと、なにか黒いものが胸の底に広がっていく錯覚が。

「ひでぇ面だな。鎖に繋いでおきたいくらいだ」

「『…………そんな趣味だからあんなにビンタを?』」

 やだな。やっぱりサディストじゃないか。

 ブクっと後ろで噴いたのは…ツァニン中尉か。リヒテンが横目で睨んでる。

「違う。人喰いみてぇな面だって言ってんだよ」

 呆れかえった口調。失礼な。

「『ところで、奴らはムンゾの退役軍人なんですか?』」

 疑問を口にした途端に顔を掴まれた。アイタタタ!

「『にゃにひゅんにょ!?』」

 頬がつぶれてちゃんと喋れないだろ!

「懲りねぇガキを〆てんだ」

 背後でリノたちがブルブルしてる。

 ペシっと手が放れていったから。

「『……状況から推察しただけですよ。操艦は経験がなくてできるもんじゃないし、あの二人のイントネーションはムンゾだもの』」

「半分正解で半分外れだ。あのダロスって野郎は、元連邦軍だ。退役時は大尉だった」

「『へぇ。じゃあ、あっちの女の人が』」

「ああ。ジウェニア・タージル。うちの元少佐だな」

 ふむん。けっこう偉い人だったんたね――って、なんか聞き覚えがあるような?

 脳裏をよぎるパズルのピース。

 それにしても、ムンゾ連邦混合って、やめてよ混ぜんな危険。

 “UNKNOWN”、使えるかもなんて思ってた過去のおれにテレパシー飛ばしたい。ぴぴぴ。めんどくさいからやめとけー。

 だって、いまのところ、どうやったって混ざんないでしょ。変な化学変化起こしてそう。

 さて、ここらで振り返って整理してみる。

 ムンゾはムンゾだから、樹立当初から連邦政府に反抗的だった。

 そもそもが月の裏側。地球からは見えないところに送り出された――棄てられた――第一世代の中には、連邦の政権争いに破れたり、腐敗に嫌気が差して飛び出した連中も多かったって聞いてる。

 連邦から見たらまさに廃棄所。でも、牙を整え、爪を磨くには最適な基地。

 破棄したはずの人間たちが、いつの間にか力を蓄え、人口を増やし、文化を花開かせ、地上より物資に恵まれ始めたら、棄てた側からしたら面白くないよね。

 だから、ムンゾは何度となく連邦に叩かれてきた。

 豊かになればなるほど搾取され、締め付けられ、支配を強化されるんだ。

 反発するなって方が無理な話だ。

 デギンパパが首相につく前は、小競り合いなんて日常茶飯事だったって。

 そんなこんなで一昔前のこと。ただでさえ底辺を這ってた連邦への市民感情が、さらに底板を叩き割った事変があった。

 例によって小規模な武力衝突。

 常なら連邦軍の勝利で終わるはずが、その時はムンゾの圧勝。

 だけど、それすらが連邦の策略だった。

 相対した連邦軍兵士の殆どが、実はスペースノイド、分けてもムンゾ出身者が多かったってこと。

 連邦側が編成を後出し公表して、ムンゾは同じスペースノイドでも無惨に殺すってネガキャン張りやがった。

 でも、こっちからすれば、連邦は騙して同朋を殺させたってことだ。

 誰がそんな奴らの支配を受けたいもんか。

 以降、ムンゾの“連邦アレルギー”はさらに激化したってわけ。

 ――そういや、その時のムンゾ側の指揮官って……。

「『……タージル少佐』」

 そりゃ聞き覚えがあるはずだわ。

 あの事変のあと、ジウェニア・タージルは軍を辞してムンゾを去った筈だ。

 声の変化を聞き取ってか、リヒテンが唇を歪めて笑った。

「流石に良くお勉強してるみてぇだな」

「『……“嘆きの亡霊”みたい』」

 あればドラクエのモンスターだけどさ、怨みつらみ未練が高じてヤバいものになってるんなら。

「言い得て妙だな」

 頷いてくれたのはツァニン中尉だった。

 哀れとは思うけど同情はできないし、するべきじゃない。

 彼らは、存在そのものがムンゾを脅かしかねないから。

「『この情報、ガルシア閣下には?』」

「知らせてある」

 ふむん。

 見やればガルシアは手元に置いた資料を眺めながら、何かを考えてる様子だった。

「――……ジウェニア・タージル、貴殿らの心中は察するに余りある。だが、我々にも事情がある」

 深いため息を落として、ガルシアが首を振る。

 モニターの中で壮年の女の顔が憎々しげに顰められた。

 素性が割れることなど想定内だったのか、名前を呼ばれても狼狽える素振りはない。

「なぁ。ムンゾに戻らんか? その艦を降りて。仲間も受け入れよう。今なら秘密裏に事を運べるぞ」

 労るような声。その権限がガルシア・ロメオにあるのかは知らないけど、無けりゃ“ギレン”におれから“お願い”するって手段はあるね。

 ジウェニアが飲むとは到底思えないけど、提案自体は悪くない――寧ろ、唯一の穏便な解決策だ。

(……アタシらが頷くとでも思ってんのかい?)

 馬鹿にしたような語調だった。

 でもさ、受け容れるべきなんだよ。ほんとにムンゾを思うのなら。今の仲間の命が大事なら。

「――おい、退路は割り出せたか?」

 って、いきなりだな。

 囁き声に振り返れば、リヒテンの難しい顔が。

 つか、そんな指令受けてないけど――まぁ、割り出してないとは言わないが。

 “ノイズ”に邪魔されながらも、ずっと“外”を探ってたからね。

「『直進。ダロスとタージルの艦の間を突っ切ります』」

「……そうくるか」

「『通れますもん。突っ込めば道は開けます。ついでに他の艦は撃ってこられません。仲間、ましてや頭を巻き込みますから』」

 ニコリと。

 それが一番確実で、かつ安全な逃走方法ね。

 この距離で突っ込まれたら、咄嗟に避けるくらいのことしかできないだろうし。

 同士討ちを防ぐためにメガ粒子砲は封じ込められるし。

 ほら。ちょっと勇気を出すだけで逃げられるよ?

 小首をかしげたら嫌な顔をされた。なんでさ。

「『貴方もそう考えたんじゃ?』」

「………」

 沈黙が回答だろう。なら良いじゃないか。

 リヒテンとツァニンが視線を合わせて、それからツァニンがスッとロバートに近づいて行った。そして耳打ち。

 うわ。顔顰めてる。怖いよ顔、顔。

(残念だが、その提案は飲めない)

 ダロスが答えた――その一瞬、こっちを見たロバートが頷いて、

「残念だ。――全速で発進!! 直進せよ!!」

 鞭を打つみたいな声で命じた。

 迷いも躊躇いもなく、クルー達がその命令に応じる。

「はぁあっ!??」

 って叫んだガルシア唯ひとりを除いて。

 急発進して飛び出す艦に、モニターの中の顔が引き攣って歪んだ。

(回避しろ!!)

 そうそう。どいてどいて。

 凄い操船技術。ニアミスの警戒音が鳴り響く中、ガルシア艦が二隻の不明艦の間を抜けて行く。

 よっしゃ、前方は塞ぐものなし。

(テメェら逃げんな!! 止まれ!!)

 誰かさんが叫ぶけど、聞くわけ無いでしょ。この艦、逃げ足自慢なんだ。

 奴らが隊列を戻すよりもずっと速くに、びゅーんと宙域から離脱する。

 だけど、危機的状況は、まだ全然去ってないんだ。

 おそらく――いや、絶対、奴らはこの後でサイド7を襲うだろう。

「『……なんとかしなくちゃ』」

 このままだと、下手打ちゃ開戦までまっしぐらだ。

 でも、まだ早い。期は満ちてない。

 なのに頭の中のパズルのピースはとっ散らかっていて、なんだか泣きたいような気分だった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。