戦場でやることがないってどういうことなの。
新兵に指揮権がないことは当然として、普通は前線に出されるもんじゃないの?
ブリッジのオペレーターの予備席にちょこんと座って。
パネルに触るのもアウトだけど、モニターは見放題だから、刻一刻と変化する戦況を見続けて、分析する。
連邦の生の戦闘データだ、とんでもなく貴重。
艦船の装備、モビルスーツ、その他兵器もろもろ。
さすがに火力強いよね。
だけど、それに立ち向かえる"UNKNOWN"は称賛に値する。
練れてんなァ。
“UNKNOWN”が重点的にコロニーのハッチを攻撃したから、中にいる連邦軍兵士が足止め食らって出てこれないんだ。
ついでにルナ2から駆けつけた艦隊については、サイド7を背に集中砲火を封じてる。
下手すりゃ挟み撃ちになるってのに、良くぞこんな芸当をしてのけたもんだ。
ジウェニア・タージル、ダロス・ティシェルガン。どっちも有能な指揮官だね。敵なのがほんとに勿体ない。
加えてやけに命中率のいいのは、ラーンとか呼ばれてたアイツの艦か。
攻めるにしても守るにしてもバランスが取れてる。
畜生、どこかのアースノイドめ。ムンゾからこんな人材を奪い取りやがって、絶対に赦さないからな。
連邦軍もMSを複数機出してきてるけど、弾幕を掻い潜れず討ち取られてる。掃射のタイミングと予測軌道を測れてないのか。
消耗戦は好きじゃない。
ワッケインの指揮が悪いわけじゃないのに、なんか連携悪いな連邦。
と、センサーが味方機を拾った。MSが6機。
――え、旧ザク?
積んでたのか。誰が乗ってるの…、
〈聴こえてるかガルマ!〉
――ロバート大佐!?
自ら行っちゃったのか。いつものゼリービーンズカラーじゃないんだけど。規定カラーのモスグリーン。
ザクⅡのデータを連邦に渡す気は無いってことだね。
「『聴こえてます』」
〈よーし。お前、掃射のタイミング測れ〉
「『突っ込む気ですか!?』」
〈突っ込まんでどう殺るんだ?〉
「『……民間人の避難を手伝うんじゃ?』」
〈突破口作らんことには出られんだろうが〉
ってそんなにあっさりと――うん…まぁ、そうなんだけどね。
〈あのやたらと撃ちまくってんの墜とすぞ!〉
〈……ってことだ〉
「『ガイア中尉!?? マッシュ少尉とオルテガ少尉もですか!?』」
〈まぁな〉
〈おう、居るぞ!〉
〈あとは、俺とツァニンだな〉
グレニス中尉とツァニン中尉も出てるのか。
「『……強火ですね』」
うちのオールスターズじゃないのさ。全員エース級。
おれの一言に、皆が笑った。
〈丸焦げにしてやるぜ!〉
そりゃ頼もしいことで。
お呼びがかかったんだから、おれも頑張るかね。
“意識”を拡大して戦場をカバー。ミノフスキー粒子散布は隠し玉だから、今は使えない――んん、負担大。だがやらねばならん。
「『……艦の中だと“ノイズ”が多いです。“外”に出ても?』」
〈駄目だ!〉
〈“stay”!!〉
ガイア中尉とロバート大佐の二重奏が。ちぇ。
クッソ。仕方ないな。燃えろおれの小宇宙、かどうか知らないけど、なんかそんなの!
――……“視えた”。
無数の熱源体。“UNKNOWN”の艦と、連邦軍のそれ、そしてロバート大佐達の一群が。
モニターとセンサーに“視界”を重ねて――“ノイズ”は強制的にシャットアウト――さぁ、行くかね。
満ち欠けする潮みたいに揺らぐ熱量に集中する。
「『……掃射が来ます。3秒。次、連射で……連邦軍のMS下げられませんか? あれじゃ蝿みたいに払われます』」
〈呼びかけてみる!〉
暫しの間のあとで、
〈ダメだ。聞かねえな!〉
そんなアッサリと。
そしてまた掃射が来て、ガンキャノンの一群れが消えた。いつか敵になるかも知れない連邦のそれでも、嫌な気持ちになる。なんで無駄死すんの。
暫定として、1から13th.までナンバーを振った敵艦は、それぞれに良い腕の砲撃手が乗ってるようだった。
大盤振る舞いで撃ちまくっているのは5艦、他4艦はかなり絞って当ててきてる。
残りは旗艦の守りってところか。
「『……8と11の弾幕が少し薄いです』」
〈そっちは後回しだ。先に4か7を潰す〉
ふぉう。一番ドンバン撃ってくるやつじゃないか。強気だわ。流石だけど。
「『了解しました。7…は、2秒後に弾幕きます……次、掃射まで8秒!』」
〈充分だ!〉
予測軌道の外から6機が突っ込んでいくのを、息を呑んで見守る。
うわ。土手っ腹にバズーカーの一斉攻撃とか。すご。
何この連携。無敵か、無敵なのかムンゾ軍。
爆発に艦が押されて――メガ粒子砲が一瞬、光芒を放つ…けど、叶わずに爆散した。
「『敵艦撃破!!』」
ブリッジに歓声が。
ガルシアが躍り上がってる。
マジか。連邦軍があれだけ攻めあぐねてたってのに、一艦と言えど、たった8秒足らずだぞ?
そりゃMSは高速機動だけどさ――って、いま出撃してる全機体がリミット解除してんの!? これ標準じゃないはずだろ!
どういうことなの。“赤い彗星”モドキが6機もって、チートがワラワラ居るってことだろ。
ヤバい。おれのアドバンテージなんてもう無いに等しい。
そして、ごめんよキャスバル。お前の特異性も脅かされてるかも。
とはいえ、敵もさるもの。“UNKNOWN”の方でもすかさず隊列を変えて、
「『8と9が後退、6と…4が前に出ます!』」
大盤振る舞いと精密掃射って嫌なコンビだな…
――ッ!?
「『予測軌道上です! 退避!!』」
ロバート大佐が掃射軌道に、
〈応!〉
際どい――けど、避けた。
横隔膜がキュッと上がって、手の平がジンジンしてる。背中に冷たい汗が。
部隊の“生命”を預かってるんだ。凄い緊張――プレッシャーで肺が縮んでる。
――拙いな。
思考は回るのに、震えが止まらない。
おかしい。この程度、“前”は何でもなかったのに。
乖離しそう。“意志”のコントロールに“身体”が付いてきてないんだ。
――助けてキャスバル。
腹の底で“獣”が唸ってる。喰い破って噴出しそうで怖い。怯むおれを“おれ”が嘲笑って、支配権を明け渡せと虎視眈々。
――……やなこった。
自分で出撃したほうがマシ――なのかな、もうよくわからない。
舌が縺れそう。
「そうだ! どんどん墜とせ!! その意気だガルマ・ザビ!!」
叫んでるのはガルシアか。
腕が伸びてきて肩を組まれる。
「『ッ、邪魔をするな!』」
「なッ!? 貴様!!」
うるせぇ黙れ。
“ノイズ”になるだろ。邪魔しないで。
けっこうギリギリなんだ。ヒューヒュー喉が鳴ってるのは、うまく息を吐けてないから。
「いい気になるなよ!」
「閣下、お止めください、彼は極度の緊張状態です!」
振り払ったらまた吠えてる。でも、カーティス大佐が引き受けてくれたみたい。
「『6、掃射! 3も来ます! 4秒!! 大佐下がって!!』」
〈応!〉
これも回避。でもさ、次の掃射がまた。
さっきの撃破で、“UNKNOWN”がザク達を執拗にターゲットにしやがってるんだ。
特にロバート大佐。ツノついてるから指揮機体と判断されたんだろう。
「『連続掃射!!』」
あぁもう、反撃の隙が“視えない”。
〈……落ち着け小僧〉
この声はマッシュ少尉か。
〈お前がビビってどうすんだ〉
こっちはオルテガ少尉。
〈ガルマ・ザビ、まさか俺達が何なのか忘れてるのか?〉
ガイア中尉の声には、揶揄うみたいな余裕さえがあった。
――……そうだよ。
「『忘れるもんですか!』」
詰めていた息が肺から落ちる。
あそこにいるのは、おれの上官。ずっと追いかけてた背中。いつかの世界線でだって、ガンダムにしか止められなかった男達だ。
「『“黒い三連星”……最強のチームです!!』」
“UNKNOWN”なんかに墜とせるもんか。
〈バカヤロウ! 最強は俺だ!!〉
って、ロバート大佐が大人気なく怒鳴る。
思わず吹いたのはおれだけじゃ無かった。ブリッジにも笑いが。
なんなの、コウガを思い出す。コウガが進化したらこうなるのかな? Bボタン押したほうが良いの?
肩から力が抜ける。
呼吸が落ち着けば、把握できる“世界”が広がった。
改めて“視界”に集中。
「『……連邦軍旗艦が前に出ます』」
ワッケインが動き出したか。
そりゃね、ムンゾにだけ手柄を立てさせるわけには行かないだろうから。
「『連邦からも掃射が来ます。予測軌道が敵艦と交差するので、一旦ラインまで下がってください』」
〈奴らに何ができる〉
「『大佐たちに触発されたみたい。ガチバトル仕掛けるつもりかも』」
〈そりゃ見ものだ〉
〈お手並み拝見といくか〉
なんて呑気なこと大佐達は言っちゃってるんだが、サイド7側からするとやべぇわ。
“UNKNOWN”がコロニーから離れないから、下手撃ちゃ守るはずだったサイド7に流れ弾がいく。
力押しでいくなら被害は免れないだろうに、ほんと、どうする気なのさ。
「『なんか……嫌な感じがするので、大佐達は、念の為すぐに帰艦出来るところまで下がっててもらえますか?』」
〈アァン、獲物を譲れってか?〉
うわ怖。不機嫌な声。
もともと連邦軍の獲物だっては――って突っ込みは通じなさそうだから。
「『あちらの位置取りが微妙なんです』」
懸念を真っ直ぐに伝えよう。
〈……なるほど〉
おぉ。さすがガイア中尉、気がついたみたい。
〈向こうの“うっかり”で射程に入るかも知れないってことか〉
そ。連邦軍の掃射の角度から行くと、ちっと勘繰りたくなるんだ。
「『ワッケイン准将のことは信じてますが』」
〈他は信じてねえってことだな〉
せっかくオブラートに包んだのに、バリバリ剥がさないでよ大佐殿。でもまぁ、そういうこと。
〈一応下がってやるが、出番これきりなんてつまんねぇこと言うなよ〉
バトルマニアか。
「『了解。見せ場はまたつくりますよ』」
餌を強請る猫みたいな我儘さだよね、大佐。
「…………本艦、10時方向に」
ガルシアが指示を出した。
ちゃんと位置取りを読むところは無能じゃないだよな。
動いてみたけど、連邦軍はどうでるの……んん。ほら、やっぱり狙うかよ。
旗艦はともかく、他の艦の砲門がジリジリとズレてるし。
MS部隊は当然、ブリッジの皆もそれに気付いた。
連邦軍の、少なくとも2艦はワッケインの指揮とは別に動いてる様子。
囲まれてるから逃げられないと踏んだんだろう。
この機に乗じて撃ち取るつもり満々。ふぅん。そういうことするんだ。ヤバいね連邦軍。
赴任して間もないから、ワッケインが掌握仕切ってないのか、別系統の一派が送り込まれてんのか。
「ガルマ・ザビ、貴様の一存でルナ2へ臨み、サイド7くんだりまで出て来たが、この有様だ! どう責任を取るつもりだ!!」
ガルシアが喚く。
ってさぁ。責任取るのは上の役目だろ。
それはさておき。
「『サイド7の軍事工場を叩き、“UNKNOWN”に連邦軍をぶつけ、コロニーの民間人の避難を手伝う。これがいっぺんに出来ますが?』」
ついでに連邦軍の戦闘データも持ち帰れるとか、大手柄じゃないか。なんの不満があるのさ。
首を傾げて見上げる先に、少将たる男の怒りに染まった顔があった。
「木っ端微塵されたら意味などない!」
「『まさか。そんなことにはなりません。この艦の操船は、マルティン・プロホノウ操機長ですよ』」
ほんとにこっちもオールスターズ。
「『きっと上手く行きます』」
ニコリと微笑む。
ガルシアはまだワナワナブルブルしてる。
話に出たプロホノウ操機長が、複雑な顔をしてこっちに来た。
「君はまた俺を扱き使うつもりか?」
だけど、声には少しだけ面白がる響きがあった。
「このあと、思い切り振り回していただきます」
「やれやれ。何をさせられるんだか」
〈こっちはいつまで待ってりゃ良いんだ! ……さっきの“stay”の腹いせじゃねぇだろうな?〉
あれはだな、なんて、なぜ言い訳をはじめるの。
「『別にそんなんじゃありませんが……ロバート大佐、6を押すってできます?』」
それほど暴れたいなら、出番を作ろうか。
〈墜とすんじゃなくてか?〉
「『4の進路を邪魔したいんです』」
〈そんなことしてどうする?〉
〈――……この性悪が〉
含み笑う声。気付いたんなら、ガイア中尉だって性悪ってことじゃないの。
「『上手くいけば、やつらをコロニーの前から退かせられます――突破口が開けますよ』」
道が開けば、中からも出てこれるでしょ?
それに、ここでモタモタしてるとエルランが来ちゃいそうだし。
おれの説明の足りないところは、ガイア中尉がバッチリ補足して大佐に伝えてる。
〈面白そうだな!〉
――面白がる要素がどこに?
危険満載なんだけど。スリルでドーパミン過剰分泌されてんのか。
「『閣下、6が4に寄ったら、一気に14時方向に艦を修整してください』」
「馬鹿な! そんなことをすれば、奴らの射程圏内に入るぞ!」
「『だからです。移動先で7秒間待機、後、一気に10時方向に移動、さらにこちらもバンバン撃ちましょう!』」
「巫山戯るな!」
「なんてこった」
ガルシアは吠えたけど、プロホノウ操機長は走って持ち場に戻ってく。
〈また碌でもない作戦を立てたな〉
めちゃめちゃ声が笑ってますが、ツァニン中尉。
〈上手くいくか?〉
マッシュ少尉は呆れ声だ。
「『成功させてください』」
そこは、MS部隊の腕の見せどころ。
もう、やりかたは任せる。だって、どう考えたって、大佐たちの方が経験豊富だし技量も勝ってるからさ。
とことん他力本願。
戦闘は大佐たち、操船は操機長。
おれはただ“センサー/ナビゲーター”をやってれば良いんだ。
掃射のタイミングと予測軌道さえ知らせれば、あとはMS部隊が何とかしてくれる。
いまも弾幕を掻い潜って6に肉薄――ふお? 連邦のガンキャノンがそれに続いてる。
作戦に参加ってどうなってるの?
「『……危険はありませんか?』」
後ろから撃たれるとか。
〈今んとこ無ぇな。付いてくりゃ艦狩れると判断したんだろうよ〉
すぐ狩られちゃうのも困るんだが。
「向こうの提督が指示を出したようだ。彼は、共闘の立場を取るようだな」
カーティス大佐が。
なるほど――駆け引きが微妙になってきた。
ワッケインの意志が明確になったこの時点で、敢えてこの艦を狙えば明らかな命令違反。
――いいね。
奴らにあるチャンスは一度だ――自身の地位や立場を賭けて事に及ぶなら別だけど。
“視界”ではガイア中尉率いる“黒い三連星”が、艦首へと攻撃を加えてた。
むずがる子供のように、6が4に向けて位置をずらして――良い位置きた!
これで一時的に4と6の攻撃は封じた。一斉掃射したら互いを巻き込む間合いだからね。
すぐに修整に入ろうとするのを、ツァニン中尉とグレニス中尉が牽制。ロバート大佐は――なんか連邦MS仕切ってないか?
「14時方向だ!!」
指示を出すより先にプロホノウ操機長が操船、想定の位置取りで待機に入れば、そこからカウントダウンが始まった。
心音が煩い。耳元で轟々なってるみたい。そりゃそうだろ、撃たれるのを待ってるんだから。
一秒が長く感じられる――拡大された“意識”の中で、急激にレベルを上げてくエネルギーが二艦。
――ほんとに撃つ積もりだわ。
主戦派は未だに少なくない。ここで“ガルマ・ザビ”を殺して、ムンゾに火をつけたいんだろうが。
「『MS部隊退避!!』」
〈もうしてるぜ!!〉
――さすが。
「10時方向に全速!!」
操機長の指示で大きく艦が揺れた。シートにしがみつきながら、巨大な熱源に震える。
艦のすぐ横を荒れ狂うエネルギーが抜けていく。
プロホノウ操機長の卓越した手腕が、安全な位置まで運んでくれてなかったら、あれをまともに浴びるところだったんだ。
ほんとギリギリ。
竦んだ身体が涙腺から涙を絞って、頬が濡れた。
「……それほど怖がっているのに、こんな無謀な作戦を立ち上げたのか」
カーティス大佐が、ポツリと呟くみたいに。
「『やるべきだと思えばやります』」
だからって無茶したい質だとは思わないで欲しい。ただの臆病者なんだ。守りたいから、生き残りたいから無理してるだけ。
連邦の集中砲火を浴びて、“UNKNOWN”の艦が一隻沈んだ――4は回避しやがったか。
あの状況から逃げるって、相当な技量だ。多分、ラーンってヤツの艦。ここで墜としておきたかったんだが。
連邦側で上がっているのは、果たして歓声なのか罵倒なのかね。
ともあれ、サイド7 は辛うじて巻き込まずにすんだみたい。ほら、ハッチの前が開いた。
さぁ出ておいでよ。
缶詰にされてた連邦の面々が、この隙をついて雪崩出てくるのを援護。
ガルシア艦が暴風雪みたいな牽制射撃を敷いて、“UNKNOWN”の再編成を邪魔しまくってる。ロバート大佐たちも大暴れしてるし。
「『彼らに寄ってください』」
民間人を乗せてるって信号を出してる艦群にね。
そしたらもう撃たれないから――少なくとも連邦からはね――ついでに護って貰えるし。
“視界”に出てきた艦船たちを映しながら……え、
――ホワイトベース!?
いつか画面の中で見た形の艦がいた。
「『ふぅわぁあああ!?? 木馬だ!!!』」
そんな感じの形、でかい、迫力!
ワクテカしてるはずだったのに。
――……こわい。
唐突に湧き上がる恐怖に心臓を掴まれた。
あれに墜とされたんだ――いつかの世界線の“オリジナル”は、親友であるはずの男に諮られて。
ここではそんなことあるはずがないのに、悪寒に襲われてカチカチと奥歯が音を立てた。
やべ、息が苦しい。
「どうしたね!?」
「『……問題…ありません』」
そのはず。だって、あれはガルマ・ザビであって、“ガルマ・ザビ”の身に起こることじゃないから。
それでも震える身体を叱咤して、強制的に呼吸を整えてたら、 隅っこの方にひっそりと身を潜めてたらしい――いま気がついた――ギュスターヴが走って来た。
「『アイタァっ!??』」
なんでしっぺすんの!?
「落ち着いたか?」
「『なんでそう思うの!?』」
しっぺ信仰でもしてんのか? 教祖誰だよしっぺ返してやるから連れてこい!
ギャンギャン吠えてジンジンする手の甲を抑えてれば、ワニとカーティス大佐が頷き合ってる。
何を分かり合ってるのさ。二者限定ニュータイプ交信でもしてんのか。
すぐそばにワニが立つから、これ以上噛まれないようにと姿勢を正す。
ありがたいことに息も整ったし、震えも止まってた。
改めて、モニターに映ったホワイトベースを指でなぞる。
「『……誰が乗ってるんだろ?』」
いつかの世界線ではアムロが、ブライトさんとミライさん、それから――……。
「通信をこっちにもまわせ――相互はいらん」
カーティス大佐が指示を出して、今まで沈黙してたシートにも連邦とのやり取りが。
でも、一方的に相手の声を聞くだけか。
〈…掩護感謝する! だが、なぜムンゾ艦が?〉
向こうの士官の声だ。
〈海賊襲撃の情報を得たのだ。それをうちの我儘小僧が、ワッケイン准将に知らせてやれと大騒ぎしてな〉
やれやれと呆れ声なのはガルシアか。
〈我儘小僧?〉
〈ザビ家の末っ子だ。ガルマ・ザビ、俺の部下だな。ギレン総帥閣下に直々にお預けいただいたのだ〉
そこ強調する必要あるの?
〈ガルマさんがそこに居るの!?〉
――え?
あれ、この声、ひょっとして。
「『レディ・ヤシマ?』」
「知り合いかね?」
「『ミライ孃、ヤシマ財団のご令嬢です』」
カーティス大佐の質問に答える。
「なるほど。サイド7の開発には、当初、ヤシマ財団も関わっていたはずだから、居てもおかしくはないか」
「『……お話できますか?』」
「良いだろう」
カーティス大佐の計らいで、通信が相互になった。ちょっとドキドキするね。
「『……ミライ孃? あなたがその艦に?』」
〈ガルマさん、本当にあなたなの?〉
「『ええ、僕です。驚きました』」
〈こっちもよ〉
コロコロと笑う声。この状況で笑うとか、度胸があるなぁ。思わず口角が上がるじゃないのさ。
そして、なんかこの会話の向こうでも通信が続いてる、ガルシア達の――ってことは、こっちらサブか。
まぁいいや。
「『お元気そうでなによりです』」
〈さっきまでは生きた心地がしなかったわ〉
「『もう大丈夫ですよ。海賊どもは連邦軍が抑えていますから。直に援軍もきますしね』」
大遅刻だけどね、エルラン。
だけど、おれたちとしては、遅れてくれる方が有り難い。
ホワイトベースの護衛を装って、取りあえずは2バンチまで移動しつつ、そこからトンズラするつもりだから。
「『どうしてその艦に?』」
〈父と…視察に〉
その間はなんだ。何かあったのか。
「『お父上は?』」
〈大丈夫、みんな一緒にいるわ〉
――良かったぁああ。
「『ご無事でなによりでした。レディ達になにかあれば、僕と、“ギレン兄様”も悲しむことになりますから』」
ふふふ、と、柔らかな笑みが通信を介して届く。
〈ありがとう、ガルマさん〉
「『どういたしまして。さぁ、そろそろ戦闘域を抜けます――お父上にも良しなにお伝え下さい』」
追いすがる海賊共は、ワッケイン准将率いる連邦軍がブロックしてくれてるし。
ホワイトベースは、このままルナ2へと向かうんだろうか――一部は開発中も甚だしい2バンチへ進路を取ってるけど大丈夫か。おれの心配するとこじゃないけど。
「『ミライ孃、春風みたいなお声をまた聞くことができて、約得でした』」
最後に戯けて伝えれば、「まぁ!」なんて声と一緒に、朗らかな男性の笑い声と、めちゃめちゃ咳払いする声が同時に。んん? そばに二人居るの? お父上と誰さ?
まあいいや。
「『では、いずれまた。どうかお気をつけて』」
〈ガルマさんも!〉
名残は尽きないが、こっちの通信は切って。
「『ロバート大佐、そろそろ帰艦を』」
〈もうか!〉
「『もうです。そろそろエルランが来ますよ』」
〈嫌だつまらん!〉
そんなにゴネないでよ。
〈せめて4を墜としてからだ!〉
「『だめです』」
〈駄目じゃない!〉
「『だめです』」
散々暴れ回ったじゃないのさ。だいたい、なにゆえに一兵卒が大佐を諭さねばならぬのか。
救いを求めてカーティス大佐に視線を投げたら、ため息をついて肩をすくめられた――って、それだけか!
なんとかしてよ。“ギレン”、こんなバトルジャンキーどうやって飼い慣らしてたの?
これよくデラーズと親衛隊長の座を争えたな――……争ってただけだな。
――しょうもないなぁ。
「『……大佐ー、18時方向、1stに一斉砲撃いれてくださーい。旗艦ですよー』」
〈任せろ!〉
「『直後に帰還を……戻らないと置いてきます。加えて予備のジェリービーンズも皆で食べ尽くします』」
〈なんだと!? 悪魔め!!〉
「『大佐の仰った“悪辣なザビ家”ですので』」
〈ガイア、どう躾けたんだ! コイツ噛み付いてくるぞ!〉
〈元からだ。18時方向だな〉
「『はい、その通りです!』」
〈俺のときと声色違うじゃねえか! もうジェリービーンズやらねぇからな!!〉
「『自分で作るから良いです』」
〈……あれって作れるのか?〉
うん。作れるんだよ。
〈そろそろ止めてください大佐殿、操縦桿が笑いでブレます〉
〈不謹慎だぞ、ツァニン〉
っていうグレニス中尉の声もブレてますが。
だが、声はブレても狙いはブレないオトコたちである。
最初に動いたのは“黒い三連星”だった――さすが!――すぐに追い抜く勢いでロバート大佐が、そしてグレニス中尉とツァニン中尉も。
ついでに連邦軍のMSも行ったな。
接近に気づいた“UNKNOWN”どもがフォーメーションを変えてくる。
怒れるスズメバチみたいな容赦のない攻撃ではあるものの、んんん堅い。やっぱり墜とすまではいかないか。
でも、ダメージは入れたからこれで良しとすべきか。
「『MS部隊は速やかに帰艦してください』」
〈もう一発だ!!〉
「『カウントダウンを始めます』」
〈おいガルマ!〉
〈帰艦する〉
〈Beerを用意しておけよ〉
お、ガイア中尉とマッシュ少尉が。
〈Beerは人数分だ。キンキンに冷えてるやつだぞ!〉
オルテガ少尉も。
んんん。勤務中であるはずなんだがな。
「『了解しました』」
すぐに注文を出しておく。
それから、一応こっちにも連絡しとこうかな。
「『ワッケイン准将、どうかご武運を』」
そっと回線にながす。
〈……行くのかね〉
静かな声だった。少しの諦念を含んだ、けれども力強い声。
引き止める言葉は続かなかった。
自分の配下が、ガルシア艦を狙ったことには、当然気づいているだろう。これど、そのことについて謝罪はできない。彼の立場上、"無かった事"にするしかないんだ。
「『准将のことは信じています』」
さっき剥がされたオブラートを被せ直して伝える。つまり、そういうこと。
他の配下は信じられない。エルランなど言うに及ばず。
〈君も……気をつけて行け〉
そんな言葉をもらえるなら、ガーディアンバンチでの、あの短い交流も無駄じゃなかったね。
続々とMSが戻ってくる。ん、大佐もちゃんと帰ってきたね。
さぁて、尻に帆を掛けて逃げるとするか。
プロホノウ操機長の号令一下、これまた凄まじいルートで戦域を抜けていく艦に身震いが。
スゲェな。下手うちゃ集中砲火に巻き込まれかねないってのに、絶妙なタイミングですり抜けるから、連邦軍も“UNKNOWN”も手出しできない感じ。
加えておれの“センサー”さえ必要としてないって。
真っ直ぐに前を向く操機長の顔には、不敵な笑みが浮かんでた――カッコいい。
そして、このあと戻ってきたMS部隊に冷えたBeerを運んで行ったわけだが。
「この生意気な小僧めが!」
「『アイタタタァー!?』」
すっかりヘソを曲げたロバート大佐の締め上げを喰らった。
他のメンバーはBeerに夢中で助けてくれないし。
「テメエ、ジェリービーンズ作らねぇと赦さねぇからな!」
「『ぎゃーーー!!』」
それ、手作りジェリービーンズ食べてみたいだけだよね⁉ そうだよね!!?
なんて、すったもんだを経て。
なにゆえにおれは、ぐるりとガルシア艦の幹部並びに実動隊らに囲まれておるのか。
――視線が痛い。
そして、肝心のガルシアはどこだ――え、バーに居るの? 良いご身分だな、とか現実逃避。
でも、いくら逃げても逃してくれないのが現実ってやつ。世知辛さを嘆きつつ、ガイア中尉の側に寄る。ピタッ。
「おい、ガイア、お前なんでこんなにコイツに懐かれてるんだ?」
「さてなぁ。思えば最初からこんな風だったな」
ガイア中尉が顎を撫でながら首を傾げた。
「なんでだ?」
見下ろしてくる二人にツンと顎を上げる。
憧れだ文句あっか。
「……ドズル兄様のくれた資料にあったんです。だから会いに行って、そしたらやっぱり凄く格好良くて」
「その資料に俺のことは書いてなかったのか」
――……ごめん。覚えてない。
「その話はまたいずれにな」
と、カーティス大佐が大きく咳払いした。
「既に少将もご承知おきだが、本艦はこれよりムンゾに帰還する」
そりゃねえ。“UNKNOWN”なんて危険な連中がウロウロしてる宙域をふらふらしてるなんて、人喰鮫がウヨウヨいる海にシュノーケルだけで潜るみたいなもんでしょ。
「そこで、帰還後の君の預かりについてだ。まずギレン総帥閣下にはかる必要があるが、私かロバート大佐のところに…」
「俺のところに来るよな!」
なにを当然みたいな顔してんの、ロバート大佐。
「ええぇ」
「俺ならお前を十全に使ってやれるぞ」
自分が十全に暴れられるってことだよね、それ。
「……“ギレン総帥閣下”のお心次第ですね。カーティス大佐にしても、ロバート大佐にしても」
そもそも、おれに対するラブコールなら以前からもあったんだよ。それこそ士官学校卒業当初から。それを全部蹴ってガルシアの下に突っ込んだの“ギレン”だし。
ここでどう答えたって、向こうが了承しなけりゃそれまでだろ。
「できればガイア中尉の部隊が良いなぁ」
せっかく配属されたんだ。いま暫くはここで鍛錬できんもんかね。
ポツリとこぼしたら、ぐりぐりと頭を……これ撫でてんのかな?
だったら嬉しいな、ふへへ。
「必殺おねだり光線とかあるだろうが、お前には」
ロバート大佐がなおも言い募ってる、だがしかし。
「『じゃあ聞きますけど、“ギレン総帥閣下”に通用するとでも?』」
思ってんの? ほんとに??
ジト目で見やる先、全員揃って首を振った。横に。
「無ぇな!」
そうだろう。
だから、取り敢えずは帰還しよう。
我らの故郷たるコロニーにさ。