ザビ家成り代わり   作:くずみ@ぼっち字書き。

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【成り代わり】another ORIGIN 反逆の"ガルマ" 48【転生】

 

 

 

 戦場でやることがないってどういうことなの。

 新兵に指揮権がないことは当然として、普通は前線に出されるもんじゃないの?

 ブリッジのオペレーターの予備席にちょこんと座って。

 パネルに触るのもアウトだけど、モニターは見放題だから、刻一刻と変化する戦況を見続けて、分析する。

 連邦の生の戦闘データだ、とんでもなく貴重。

 艦船の装備、モビルスーツ、その他兵器もろもろ。

 さすがに火力強いよね。

 だけど、それに立ち向かえる"UNKNOWN"は称賛に値する。

 練れてんなァ。

 “UNKNOWN”が重点的にコロニーのハッチを攻撃したから、中にいる連邦軍兵士が足止め食らって出てこれないんだ。

 ついでにルナ2から駆けつけた艦隊については、サイド7を背に集中砲火を封じてる。

 下手すりゃ挟み撃ちになるってのに、良くぞこんな芸当をしてのけたもんだ。

 ジウェニア・タージル、ダロス・ティシェルガン。どっちも有能な指揮官だね。敵なのがほんとに勿体ない。

 加えてやけに命中率のいいのは、ラーンとか呼ばれてたアイツの艦か。

 攻めるにしても守るにしてもバランスが取れてる。

 畜生、どこかのアースノイドめ。ムンゾからこんな人材を奪い取りやがって、絶対に赦さないからな。

 連邦軍もMSを複数機出してきてるけど、弾幕を掻い潜れず討ち取られてる。掃射のタイミングと予測軌道を測れてないのか。

 消耗戦は好きじゃない。

 ワッケインの指揮が悪いわけじゃないのに、なんか連携悪いな連邦。

 と、センサーが味方機を拾った。MSが6機。

 ――え、旧ザク?

 積んでたのか。誰が乗ってるの…、

〈聴こえてるかガルマ!〉

 ――ロバート大佐!?

 自ら行っちゃったのか。いつものゼリービーンズカラーじゃないんだけど。規定カラーのモスグリーン。

 ザクⅡのデータを連邦に渡す気は無いってことだね。

「『聴こえてます』」

〈よーし。お前、掃射のタイミング測れ〉

「『突っ込む気ですか!?』」

〈突っ込まんでどう殺るんだ?〉

「『……民間人の避難を手伝うんじゃ?』」

〈突破口作らんことには出られんだろうが〉

 ってそんなにあっさりと――うん…まぁ、そうなんだけどね。

〈あのやたらと撃ちまくってんの墜とすぞ!〉

〈……ってことだ〉

「『ガイア中尉!?? マッシュ少尉とオルテガ少尉もですか!?』」

〈まぁな〉

〈おう、居るぞ!〉

〈あとは、俺とツァニンだな〉

 グレニス中尉とツァニン中尉も出てるのか。

「『……強火ですね』」

 うちのオールスターズじゃないのさ。全員エース級。

 おれの一言に、皆が笑った。

〈丸焦げにしてやるぜ!〉

 そりゃ頼もしいことで。

 お呼びがかかったんだから、おれも頑張るかね。

 “意識”を拡大して戦場をカバー。ミノフスキー粒子散布は隠し玉だから、今は使えない――んん、負担大。だがやらねばならん。

「『……艦の中だと“ノイズ”が多いです。“外”に出ても?』」

〈駄目だ!〉

〈“stay”!!〉

 ガイア中尉とロバート大佐の二重奏が。ちぇ。

 クッソ。仕方ないな。燃えろおれの小宇宙、かどうか知らないけど、なんかそんなの!

 ――……“視えた”。

 無数の熱源体。“UNKNOWN”の艦と、連邦軍のそれ、そしてロバート大佐達の一群が。

 モニターとセンサーに“視界”を重ねて――“ノイズ”は強制的にシャットアウト――さぁ、行くかね。

 満ち欠けする潮みたいに揺らぐ熱量に集中する。

「『……掃射が来ます。3秒。次、連射で……連邦軍のMS下げられませんか? あれじゃ蝿みたいに払われます』」

〈呼びかけてみる!〉

 暫しの間のあとで、

〈ダメだ。聞かねえな!〉

 そんなアッサリと。

 そしてまた掃射が来て、ガンキャノンの一群れが消えた。いつか敵になるかも知れない連邦のそれでも、嫌な気持ちになる。なんで無駄死すんの。

 暫定として、1から13th.までナンバーを振った敵艦は、それぞれに良い腕の砲撃手が乗ってるようだった。

 大盤振る舞いで撃ちまくっているのは5艦、他4艦はかなり絞って当ててきてる。

 残りは旗艦の守りってところか。

「『……8と11の弾幕が少し薄いです』」

〈そっちは後回しだ。先に4か7を潰す〉

 ふぉう。一番ドンバン撃ってくるやつじゃないか。強気だわ。流石だけど。

「『了解しました。7…は、2秒後に弾幕きます……次、掃射まで8秒!』」

〈充分だ!〉

 予測軌道の外から6機が突っ込んでいくのを、息を呑んで見守る。

 うわ。土手っ腹にバズーカーの一斉攻撃とか。すご。

 何この連携。無敵か、無敵なのかムンゾ軍。

 爆発に艦が押されて――メガ粒子砲が一瞬、光芒を放つ…けど、叶わずに爆散した。

「『敵艦撃破!!』」

 ブリッジに歓声が。

 ガルシアが躍り上がってる。

 マジか。連邦軍があれだけ攻めあぐねてたってのに、一艦と言えど、たった8秒足らずだぞ?

 そりゃMSは高速機動だけどさ――って、いま出撃してる全機体がリミット解除してんの!? これ標準じゃないはずだろ!

 どういうことなの。“赤い彗星”モドキが6機もって、チートがワラワラ居るってことだろ。

 ヤバい。おれのアドバンテージなんてもう無いに等しい。

 そして、ごめんよキャスバル。お前の特異性も脅かされてるかも。

 とはいえ、敵もさるもの。“UNKNOWN”の方でもすかさず隊列を変えて、

「『8と9が後退、6と…4が前に出ます!』」

 大盤振る舞いと精密掃射って嫌なコンビだな…

 ――ッ!?

「『予測軌道上です! 退避!!』」

 ロバート大佐が掃射軌道に、

〈応!〉

 際どい――けど、避けた。

 横隔膜がキュッと上がって、手の平がジンジンしてる。背中に冷たい汗が。

 部隊の“生命”を預かってるんだ。凄い緊張――プレッシャーで肺が縮んでる。

 ――拙いな。

 思考は回るのに、震えが止まらない。

 おかしい。この程度、“前”は何でもなかったのに。

 乖離しそう。“意志”のコントロールに“身体”が付いてきてないんだ。

 ――助けてキャスバル。

 腹の底で“獣”が唸ってる。喰い破って噴出しそうで怖い。怯むおれを“おれ”が嘲笑って、支配権を明け渡せと虎視眈々。

 ――……やなこった。

 自分で出撃したほうがマシ――なのかな、もうよくわからない。

 舌が縺れそう。

「そうだ! どんどん墜とせ!! その意気だガルマ・ザビ!!」

 叫んでるのはガルシアか。

 腕が伸びてきて肩を組まれる。

「『ッ、邪魔をするな!』」

「なッ!? 貴様!!」

 うるせぇ黙れ。

 “ノイズ”になるだろ。邪魔しないで。

 けっこうギリギリなんだ。ヒューヒュー喉が鳴ってるのは、うまく息を吐けてないから。

「いい気になるなよ!」

「閣下、お止めください、彼は極度の緊張状態です!」

 振り払ったらまた吠えてる。でも、カーティス大佐が引き受けてくれたみたい。

「『6、掃射! 3も来ます! 4秒!! 大佐下がって!!』」

〈応!〉

 これも回避。でもさ、次の掃射がまた。

 さっきの撃破で、“UNKNOWN”がザク達を執拗にターゲットにしやがってるんだ。

 特にロバート大佐。ツノついてるから指揮機体と判断されたんだろう。

「『連続掃射!!』」

 あぁもう、反撃の隙が“視えない”。

〈……落ち着け小僧〉

 この声はマッシュ少尉か。

〈お前がビビってどうすんだ〉

 こっちはオルテガ少尉。

〈ガルマ・ザビ、まさか俺達が何なのか忘れてるのか?〉

 ガイア中尉の声には、揶揄うみたいな余裕さえがあった。

 ――……そうだよ。

「『忘れるもんですか!』」

 詰めていた息が肺から落ちる。

 あそこにいるのは、おれの上官。ずっと追いかけてた背中。いつかの世界線でだって、ガンダムにしか止められなかった男達だ。

「『“黒い三連星”……最強のチームです!!』」

 “UNKNOWN”なんかに墜とせるもんか。

〈バカヤロウ! 最強は俺だ!!〉

 って、ロバート大佐が大人気なく怒鳴る。

 思わず吹いたのはおれだけじゃ無かった。ブリッジにも笑いが。

 なんなの、コウガを思い出す。コウガが進化したらこうなるのかな? Bボタン押したほうが良いの?

 肩から力が抜ける。

 呼吸が落ち着けば、把握できる“世界”が広がった。

 改めて“視界”に集中。

「『……連邦軍旗艦が前に出ます』」

 ワッケインが動き出したか。

 そりゃね、ムンゾにだけ手柄を立てさせるわけには行かないだろうから。

「『連邦からも掃射が来ます。予測軌道が敵艦と交差するので、一旦ラインまで下がってください』」

〈奴らに何ができる〉

「『大佐たちに触発されたみたい。ガチバトル仕掛けるつもりかも』」

〈そりゃ見ものだ〉

〈お手並み拝見といくか〉

 なんて呑気なこと大佐達は言っちゃってるんだが、サイド7側からするとやべぇわ。

 “UNKNOWN”がコロニーから離れないから、下手撃ちゃ守るはずだったサイド7に流れ弾がいく。

 力押しでいくなら被害は免れないだろうに、ほんと、どうする気なのさ。

「『なんか……嫌な感じがするので、大佐達は、念の為すぐに帰艦出来るところまで下がっててもらえますか?』」

〈アァン、獲物を譲れってか?〉

 うわ怖。不機嫌な声。

 もともと連邦軍の獲物だっては――って突っ込みは通じなさそうだから。

「『あちらの位置取りが微妙なんです』」

 懸念を真っ直ぐに伝えよう。

〈……なるほど〉

 おぉ。さすがガイア中尉、気がついたみたい。

〈向こうの“うっかり”で射程に入るかも知れないってことか〉

 そ。連邦軍の掃射の角度から行くと、ちっと勘繰りたくなるんだ。

「『ワッケイン准将のことは信じてますが』」

〈他は信じてねえってことだな〉

 せっかくオブラートに包んだのに、バリバリ剥がさないでよ大佐殿。でもまぁ、そういうこと。

〈一応下がってやるが、出番これきりなんてつまんねぇこと言うなよ〉

 バトルマニアか。

「『了解。見せ場はまたつくりますよ』」

 餌を強請る猫みたいな我儘さだよね、大佐。

「…………本艦、10時方向に」

 ガルシアが指示を出した。

 ちゃんと位置取りを読むところは無能じゃないだよな。

 動いてみたけど、連邦軍はどうでるの……んん。ほら、やっぱり狙うかよ。

 旗艦はともかく、他の艦の砲門がジリジリとズレてるし。

 MS部隊は当然、ブリッジの皆もそれに気付いた。

 連邦軍の、少なくとも2艦はワッケインの指揮とは別に動いてる様子。

 囲まれてるから逃げられないと踏んだんだろう。

 この機に乗じて撃ち取るつもり満々。ふぅん。そういうことするんだ。ヤバいね連邦軍。

 赴任して間もないから、ワッケインが掌握仕切ってないのか、別系統の一派が送り込まれてんのか。

「ガルマ・ザビ、貴様の一存でルナ2へ臨み、サイド7くんだりまで出て来たが、この有様だ! どう責任を取るつもりだ!!」

 ガルシアが喚く。

 ってさぁ。責任取るのは上の役目だろ。

 それはさておき。

「『サイド7の軍事工場を叩き、“UNKNOWN”に連邦軍をぶつけ、コロニーの民間人の避難を手伝う。これがいっぺんに出来ますが?』」

 ついでに連邦軍の戦闘データも持ち帰れるとか、大手柄じゃないか。なんの不満があるのさ。

 首を傾げて見上げる先に、少将たる男の怒りに染まった顔があった。

「木っ端微塵されたら意味などない!」

「『まさか。そんなことにはなりません。この艦の操船は、マルティン・プロホノウ操機長ですよ』」

 ほんとにこっちもオールスターズ。

「『きっと上手く行きます』」

 ニコリと微笑む。

 ガルシアはまだワナワナブルブルしてる。

 話に出たプロホノウ操機長が、複雑な顔をしてこっちに来た。

「君はまた俺を扱き使うつもりか?」

 だけど、声には少しだけ面白がる響きがあった。

「このあと、思い切り振り回していただきます」

「やれやれ。何をさせられるんだか」

〈こっちはいつまで待ってりゃ良いんだ! ……さっきの“stay”の腹いせじゃねぇだろうな?〉

 あれはだな、なんて、なぜ言い訳をはじめるの。

「『別にそんなんじゃありませんが……ロバート大佐、6を押すってできます?』」

 それほど暴れたいなら、出番を作ろうか。

〈墜とすんじゃなくてか?〉

「『4の進路を邪魔したいんです』」

〈そんなことしてどうする?〉

〈――……この性悪が〉

 含み笑う声。気付いたんなら、ガイア中尉だって性悪ってことじゃないの。

「『上手くいけば、やつらをコロニーの前から退かせられます――突破口が開けますよ』」

 道が開けば、中からも出てこれるでしょ?

 それに、ここでモタモタしてるとエルランが来ちゃいそうだし。

 おれの説明の足りないところは、ガイア中尉がバッチリ補足して大佐に伝えてる。

〈面白そうだな!〉

 ――面白がる要素がどこに?

 危険満載なんだけど。スリルでドーパミン過剰分泌されてんのか。

「『閣下、6が4に寄ったら、一気に14時方向に艦を修整してください』」

「馬鹿な! そんなことをすれば、奴らの射程圏内に入るぞ!」

「『だからです。移動先で7秒間待機、後、一気に10時方向に移動、さらにこちらもバンバン撃ちましょう!』」

「巫山戯るな!」

「なんてこった」

 ガルシアは吠えたけど、プロホノウ操機長は走って持ち場に戻ってく。

〈また碌でもない作戦を立てたな〉

 めちゃめちゃ声が笑ってますが、ツァニン中尉。

〈上手くいくか?〉

 マッシュ少尉は呆れ声だ。

「『成功させてください』」

 そこは、MS部隊の腕の見せどころ。

 もう、やりかたは任せる。だって、どう考えたって、大佐たちの方が経験豊富だし技量も勝ってるからさ。

 とことん他力本願。

 戦闘は大佐たち、操船は操機長。

 おれはただ“センサー/ナビゲーター”をやってれば良いんだ。

 掃射のタイミングと予測軌道さえ知らせれば、あとはMS部隊が何とかしてくれる。

 いまも弾幕を掻い潜って6に肉薄――ふお? 連邦のガンキャノンがそれに続いてる。

 作戦に参加ってどうなってるの?

「『……危険はありませんか?』」

 後ろから撃たれるとか。

〈今んとこ無ぇな。付いてくりゃ艦狩れると判断したんだろうよ〉

 すぐ狩られちゃうのも困るんだが。

「向こうの提督が指示を出したようだ。彼は、共闘の立場を取るようだな」

 カーティス大佐が。

 なるほど――駆け引きが微妙になってきた。

 ワッケインの意志が明確になったこの時点で、敢えてこの艦を狙えば明らかな命令違反。

 ――いいね。

 奴らにあるチャンスは一度だ――自身の地位や立場を賭けて事に及ぶなら別だけど。

 “視界”ではガイア中尉率いる“黒い三連星”が、艦首へと攻撃を加えてた。

 むずがる子供のように、6が4に向けて位置をずらして――良い位置きた!

 これで一時的に4と6の攻撃は封じた。一斉掃射したら互いを巻き込む間合いだからね。

 すぐに修整に入ろうとするのを、ツァニン中尉とグレニス中尉が牽制。ロバート大佐は――なんか連邦MS仕切ってないか?

「14時方向だ!!」

 指示を出すより先にプロホノウ操機長が操船、想定の位置取りで待機に入れば、そこからカウントダウンが始まった。

 心音が煩い。耳元で轟々なってるみたい。そりゃそうだろ、撃たれるのを待ってるんだから。

 一秒が長く感じられる――拡大された“意識”の中で、急激にレベルを上げてくエネルギーが二艦。

 ――ほんとに撃つ積もりだわ。

 主戦派は未だに少なくない。ここで“ガルマ・ザビ”を殺して、ムンゾに火をつけたいんだろうが。

「『MS部隊退避!!』」

〈もうしてるぜ!!〉

 ――さすが。

「10時方向に全速!!」

 操機長の指示で大きく艦が揺れた。シートにしがみつきながら、巨大な熱源に震える。

 艦のすぐ横を荒れ狂うエネルギーが抜けていく。

 プロホノウ操機長の卓越した手腕が、安全な位置まで運んでくれてなかったら、あれをまともに浴びるところだったんだ。

 ほんとギリギリ。

 竦んだ身体が涙腺から涙を絞って、頬が濡れた。

「……それほど怖がっているのに、こんな無謀な作戦を立ち上げたのか」

 カーティス大佐が、ポツリと呟くみたいに。

「『やるべきだと思えばやります』」

 だからって無茶したい質だとは思わないで欲しい。ただの臆病者なんだ。守りたいから、生き残りたいから無理してるだけ。

 連邦の集中砲火を浴びて、“UNKNOWN”の艦が一隻沈んだ――4は回避しやがったか。

 あの状況から逃げるって、相当な技量だ。多分、ラーンってヤツの艦。ここで墜としておきたかったんだが。

 連邦側で上がっているのは、果たして歓声なのか罵倒なのかね。

 ともあれ、サイド7 は辛うじて巻き込まずにすんだみたい。ほら、ハッチの前が開いた。

 さぁ出ておいでよ。

 缶詰にされてた連邦の面々が、この隙をついて雪崩出てくるのを援護。

 ガルシア艦が暴風雪みたいな牽制射撃を敷いて、“UNKNOWN”の再編成を邪魔しまくってる。ロバート大佐たちも大暴れしてるし。

「『彼らに寄ってください』」

 民間人を乗せてるって信号を出してる艦群にね。

 そしたらもう撃たれないから――少なくとも連邦からはね――ついでに護って貰えるし。

 “視界”に出てきた艦船たちを映しながら……え、

 ――ホワイトベース!?

 いつか画面の中で見た形の艦がいた。

「『ふぅわぁあああ!?? 木馬だ!!!』」

 そんな感じの形、でかい、迫力!

 ワクテカしてるはずだったのに。

 ――……こわい。

 唐突に湧き上がる恐怖に心臓を掴まれた。

 あれに墜とされたんだ――いつかの世界線の“オリジナル”は、親友であるはずの男に諮られて。

 ここではそんなことあるはずがないのに、悪寒に襲われてカチカチと奥歯が音を立てた。

 やべ、息が苦しい。

「どうしたね!?」

「『……問題…ありません』」

 そのはず。だって、あれはガルマ・ザビであって、“ガルマ・ザビ”の身に起こることじゃないから。

 それでも震える身体を叱咤して、強制的に呼吸を整えてたら、 隅っこの方にひっそりと身を潜めてたらしい――いま気がついた――ギュスターヴが走って来た。

「『アイタァっ!??』」

 なんでしっぺすんの!?

「落ち着いたか?」

「『なんでそう思うの!?』」

 しっぺ信仰でもしてんのか? 教祖誰だよしっぺ返してやるから連れてこい!

 ギャンギャン吠えてジンジンする手の甲を抑えてれば、ワニとカーティス大佐が頷き合ってる。

 何を分かり合ってるのさ。二者限定ニュータイプ交信でもしてんのか。

 すぐそばにワニが立つから、これ以上噛まれないようにと姿勢を正す。

 ありがたいことに息も整ったし、震えも止まってた。

 改めて、モニターに映ったホワイトベースを指でなぞる。

「『……誰が乗ってるんだろ?』」

 いつかの世界線ではアムロが、ブライトさんとミライさん、それから――……。

「通信をこっちにもまわせ――相互はいらん」

 カーティス大佐が指示を出して、今まで沈黙してたシートにも連邦とのやり取りが。

 でも、一方的に相手の声を聞くだけか。

〈…掩護感謝する! だが、なぜムンゾ艦が?〉

 向こうの士官の声だ。

〈海賊襲撃の情報を得たのだ。それをうちの我儘小僧が、ワッケイン准将に知らせてやれと大騒ぎしてな〉

 やれやれと呆れ声なのはガルシアか。

〈我儘小僧?〉

〈ザビ家の末っ子だ。ガルマ・ザビ、俺の部下だな。ギレン総帥閣下に直々にお預けいただいたのだ〉

 そこ強調する必要あるの?

〈ガルマさんがそこに居るの!?〉

 ――え?

 あれ、この声、ひょっとして。

「『レディ・ヤシマ?』」

「知り合いかね?」

「『ミライ孃、ヤシマ財団のご令嬢です』」

 カーティス大佐の質問に答える。

「なるほど。サイド7の開発には、当初、ヤシマ財団も関わっていたはずだから、居てもおかしくはないか」

「『……お話できますか?』」

「良いだろう」

 カーティス大佐の計らいで、通信が相互になった。ちょっとドキドキするね。

「『……ミライ孃? あなたがその艦に?』」

〈ガルマさん、本当にあなたなの?〉

「『ええ、僕です。驚きました』」

〈こっちもよ〉

 コロコロと笑う声。この状況で笑うとか、度胸があるなぁ。思わず口角が上がるじゃないのさ。

 そして、なんかこの会話の向こうでも通信が続いてる、ガルシア達の――ってことは、こっちらサブか。

 まぁいいや。

「『お元気そうでなによりです』」

〈さっきまでは生きた心地がしなかったわ〉

「『もう大丈夫ですよ。海賊どもは連邦軍が抑えていますから。直に援軍もきますしね』」

 大遅刻だけどね、エルラン。

 だけど、おれたちとしては、遅れてくれる方が有り難い。

 ホワイトベースの護衛を装って、取りあえずは2バンチまで移動しつつ、そこからトンズラするつもりだから。

「『どうしてその艦に?』」

〈父と…視察に〉

 その間はなんだ。何かあったのか。

「『お父上は?』」

〈大丈夫、みんな一緒にいるわ〉

 ――良かったぁああ。

「『ご無事でなによりでした。レディ達になにかあれば、僕と、“ギレン兄様”も悲しむことになりますから』」

 ふふふ、と、柔らかな笑みが通信を介して届く。

〈ありがとう、ガルマさん〉

「『どういたしまして。さぁ、そろそろ戦闘域を抜けます――お父上にも良しなにお伝え下さい』」

 追いすがる海賊共は、ワッケイン准将率いる連邦軍がブロックしてくれてるし。

 ホワイトベースは、このままルナ2へと向かうんだろうか――一部は開発中も甚だしい2バンチへ進路を取ってるけど大丈夫か。おれの心配するとこじゃないけど。

「『ミライ孃、春風みたいなお声をまた聞くことができて、約得でした』」

 最後に戯けて伝えれば、「まぁ!」なんて声と一緒に、朗らかな男性の笑い声と、めちゃめちゃ咳払いする声が同時に。んん? そばに二人居るの? お父上と誰さ?

 まあいいや。

「『では、いずれまた。どうかお気をつけて』」

〈ガルマさんも!〉

 名残は尽きないが、こっちの通信は切って。

「『ロバート大佐、そろそろ帰艦を』」

〈もうか!〉

「『もうです。そろそろエルランが来ますよ』」

〈嫌だつまらん!〉

 そんなにゴネないでよ。

〈せめて4を墜としてからだ!〉

「『だめです』」

〈駄目じゃない!〉

「『だめです』」

 散々暴れ回ったじゃないのさ。だいたい、なにゆえに一兵卒が大佐を諭さねばならぬのか。

 救いを求めてカーティス大佐に視線を投げたら、ため息をついて肩をすくめられた――って、それだけか!

 なんとかしてよ。“ギレン”、こんなバトルジャンキーどうやって飼い慣らしてたの?

 これよくデラーズと親衛隊長の座を争えたな――……争ってただけだな。

 ――しょうもないなぁ。

「『……大佐ー、18時方向、1stに一斉砲撃いれてくださーい。旗艦ですよー』」

〈任せろ!〉

「『直後に帰還を……戻らないと置いてきます。加えて予備のジェリービーンズも皆で食べ尽くします』」

〈なんだと!? 悪魔め!!〉

「『大佐の仰った“悪辣なザビ家”ですので』」

〈ガイア、どう躾けたんだ! コイツ噛み付いてくるぞ!〉

〈元からだ。18時方向だな〉

「『はい、その通りです!』」

〈俺のときと声色違うじゃねえか! もうジェリービーンズやらねぇからな!!〉

「『自分で作るから良いです』」

〈……あれって作れるのか?〉

 うん。作れるんだよ。

〈そろそろ止めてください大佐殿、操縦桿が笑いでブレます〉

〈不謹慎だぞ、ツァニン〉

 っていうグレニス中尉の声もブレてますが。

 だが、声はブレても狙いはブレないオトコたちである。

 最初に動いたのは“黒い三連星”だった――さすが!――すぐに追い抜く勢いでロバート大佐が、そしてグレニス中尉とツァニン中尉も。

 ついでに連邦軍のMSも行ったな。

 接近に気づいた“UNKNOWN”どもがフォーメーションを変えてくる。

 怒れるスズメバチみたいな容赦のない攻撃ではあるものの、んんん堅い。やっぱり墜とすまではいかないか。

 でも、ダメージは入れたからこれで良しとすべきか。

「『MS部隊は速やかに帰艦してください』」

〈もう一発だ!!〉

「『カウントダウンを始めます』」

〈おいガルマ!〉

〈帰艦する〉

〈Beerを用意しておけよ〉

 お、ガイア中尉とマッシュ少尉が。

〈Beerは人数分だ。キンキンに冷えてるやつだぞ!〉

 オルテガ少尉も。

 んんん。勤務中であるはずなんだがな。

「『了解しました』」

 すぐに注文を出しておく。

 それから、一応こっちにも連絡しとこうかな。

「『ワッケイン准将、どうかご武運を』」

 そっと回線にながす。

〈……行くのかね〉

 静かな声だった。少しの諦念を含んだ、けれども力強い声。

 引き止める言葉は続かなかった。

 自分の配下が、ガルシア艦を狙ったことには、当然気づいているだろう。これど、そのことについて謝罪はできない。彼の立場上、"無かった事"にするしかないんだ。

「『准将のことは信じています』」

 さっき剥がされたオブラートを被せ直して伝える。つまり、そういうこと。

 他の配下は信じられない。エルランなど言うに及ばず。

〈君も……気をつけて行け〉

 そんな言葉をもらえるなら、ガーディアンバンチでの、あの短い交流も無駄じゃなかったね。

 続々とMSが戻ってくる。ん、大佐もちゃんと帰ってきたね。

 さぁて、尻に帆を掛けて逃げるとするか。

 プロホノウ操機長の号令一下、これまた凄まじいルートで戦域を抜けていく艦に身震いが。

 スゲェな。下手うちゃ集中砲火に巻き込まれかねないってのに、絶妙なタイミングですり抜けるから、連邦軍も“UNKNOWN”も手出しできない感じ。

 加えておれの“センサー”さえ必要としてないって。

 真っ直ぐに前を向く操機長の顔には、不敵な笑みが浮かんでた――カッコいい。

 そして、このあと戻ってきたMS部隊に冷えたBeerを運んで行ったわけだが。

「この生意気な小僧めが!」

「『アイタタタァー!?』」

 すっかりヘソを曲げたロバート大佐の締め上げを喰らった。

 他のメンバーはBeerに夢中で助けてくれないし。

「テメエ、ジェリービーンズ作らねぇと赦さねぇからな!」

「『ぎゃーーー!!』」

 それ、手作りジェリービーンズ食べてみたいだけだよね⁉ そうだよね!!?

 

 

 なんて、すったもんだを経て。

 なにゆえにおれは、ぐるりとガルシア艦の幹部並びに実動隊らに囲まれておるのか。

 ――視線が痛い。

 そして、肝心のガルシアはどこだ――え、バーに居るの? 良いご身分だな、とか現実逃避。

 でも、いくら逃げても逃してくれないのが現実ってやつ。世知辛さを嘆きつつ、ガイア中尉の側に寄る。ピタッ。

「おい、ガイア、お前なんでこんなにコイツに懐かれてるんだ?」

「さてなぁ。思えば最初からこんな風だったな」

 ガイア中尉が顎を撫でながら首を傾げた。

「なんでだ?」

 見下ろしてくる二人にツンと顎を上げる。

 憧れだ文句あっか。

「……ドズル兄様のくれた資料にあったんです。だから会いに行って、そしたらやっぱり凄く格好良くて」

「その資料に俺のことは書いてなかったのか」

 ――……ごめん。覚えてない。

「その話はまたいずれにな」

 と、カーティス大佐が大きく咳払いした。

「既に少将もご承知おきだが、本艦はこれよりムンゾに帰還する」

 そりゃねえ。“UNKNOWN”なんて危険な連中がウロウロしてる宙域をふらふらしてるなんて、人喰鮫がウヨウヨいる海にシュノーケルだけで潜るみたいなもんでしょ。

「そこで、帰還後の君の預かりについてだ。まずギレン総帥閣下にはかる必要があるが、私かロバート大佐のところに…」

「俺のところに来るよな!」

 なにを当然みたいな顔してんの、ロバート大佐。

「ええぇ」

「俺ならお前を十全に使ってやれるぞ」

 自分が十全に暴れられるってことだよね、それ。

「……“ギレン総帥閣下”のお心次第ですね。カーティス大佐にしても、ロバート大佐にしても」

 そもそも、おれに対するラブコールなら以前からもあったんだよ。それこそ士官学校卒業当初から。それを全部蹴ってガルシアの下に突っ込んだの“ギレン”だし。

 ここでどう答えたって、向こうが了承しなけりゃそれまでだろ。

「できればガイア中尉の部隊が良いなぁ」

 せっかく配属されたんだ。いま暫くはここで鍛錬できんもんかね。

 ポツリとこぼしたら、ぐりぐりと頭を……これ撫でてんのかな?

 だったら嬉しいな、ふへへ。

「必殺おねだり光線とかあるだろうが、お前には」

 ロバート大佐がなおも言い募ってる、だがしかし。

「『じゃあ聞きますけど、“ギレン総帥閣下”に通用するとでも?』」

 思ってんの? ほんとに??

 ジト目で見やる先、全員揃って首を振った。横に。

「無ぇな!」

 そうだろう。

 だから、取り敢えずは帰還しよう。

 我らの故郷たるコロニーにさ。

 

 

 

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