明朗生活までの1歩 ─心見暁の空腹─   作:桜桃 

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こちらの作品を手に取っていただき、ありがとうございます。
こちらは、【妖・想い】をテーマにしております。楽しんでいただけると幸いです


空腹
「不快だから」


『頼む!! この子だけは助けてくれ。この子は、私にとって宝物なんだ!』

 

 袴を着た男性が腕に何かを隠し、涙を浮かべ叫んでいた。

 

『お願いだ。お願いだ。この子だけは、助けてくれ。この子に罪はない。お願いだ、お願いだ』

 

 何度も、何度も。

 地面に膝をつき、頭が着くくらい下げている。涙が零れ落ち、床を濡らす。

 その男性の頬には、血を煮つめたような赤黒い瞳が開かれており、周りをギョロギョロと見ていた。

 

『この子だけは……っ』

 

 涙を流し、祈願し続ける男性の想いは虚しくも、儚く、散ってしまった。

 男性の目の前に立っている人影が、いきなり右腕を前に突き出す。

 

『っごめんな、ごめんな。お父さんを許してくれ。許してくれ』

 

 その言葉を最後に、眩い光が男性を包み込み、消えてしまった。

 暗く、闇が広がっている室内に残されたのは、大きな泣き声をあげている、小さな赤ん坊だけだった──

 

 ☆☆☆

 

 星歌町にある公立、星歌高校。

 その学校の教室内は、毎日賑やかで、話し声や笑い声が絶えない。

 周りの人は皆笑いあっており、楽しげな雰囲気で満たされている。

幸せいっぱいに満たされている教室内で1人、女生徒が次の授業の準備をしていた。

 腰まで長い黒髪に、同じ色の瞳。目が悪いらしく、赤淵の眼鏡をかけていた。

 ツリ目で凛々しい印象を与える彼女だが、周りから嫌煙されている訳ではない。

 彼女を囲い、他の生徒が笑いながら話しかけた。

 

「ねぇ、凪絆(なずな)!! 今日の朝、隣のクラスに居る颯人(はやと)君に告白されていたでしょ?! なになに。付き合っちゃうの?!」

 

 そう話しかけている女生徒は、肩につくくらいの茶髪を1つに結び、ワイシャツにベージュのカーディガンを着ていた。

 

「付き合ってないわよ」

 

 そう答えたのは、凪絆と呼ばれた女性。フルネームは稀莉凪絆(きりなずな)

 星歌高校の会長を務めており、周りからの信頼も強い。

 成績優秀で、運動もできる。誰もが羨ましがるような完璧な人物だった。

 

「え、なんで?! あの颯人君だよ?! なんで付き合わないの?!」

「な、なんでと言われても……。私、あの人のこと知らないし。好きでもないから」

「ちょっ。そんな言い方……」

「事実よ。好きでもないから付き合うのは無理。だから私、まずは友達から始めて欲しいと言ったの。そこから知っていければいいし、相手が冷めたらそれまで。私はずっと友達として関わっていくつもりよ」

 

 優しく微笑みながら見上げ、そう言い切った。その事に、話しかけた女性は苦笑いを浮かべ、凪絆の頭を乱暴にぐしゃぐしゃとしてしまう。

 

「ちょ、何すんのよ」

「本当にあんたって。そういうところがあるよね! まぁ、だから嫌いになんてなれないんだけどさ」

「え、嫌いになりたいの?」

「キツイだけなら嫌われるけど、凪絆の場合はそれだけじゃなくて、ちゃんと相手を考えての発言もしっかりとしているし、嫌いになんてならないよ」

「それならいいんだけど……。莉津(りつ)に嫌われたら私、悲しいから」

「そういうところ、マジで可愛いんだから!!」

 

 莉津と呼ばれた女性は、彼女の言葉に頬を高揚させ、思いっきり抱きしめた。その女性の名前は、逢蒔莉津(あいまりつ)

 

「ちょっと、苦しいよ」

「あははっ。私も嫌われたら泣いちゃうから、嫌いにならないでね」

「もちろんよ」

 

 お互い笑いあっていると、莉津がそっと離れ、顎に手を当て何かを思い出しながら話し出す。

 

「それにしても……。なんか意外だなぁ」

「何が?」

「いや。颯人君って、いつも麗葉(かずは)と一緒にいたからさぁ。お互い相思相愛かと思ってたんだよ」

「へぇ」

 

 興味無さそうに凪絆はそう返し、莉津はその反応に苦笑いを浮かべていた。

 

 そんな2人に1人の女性が近づき、口角を上げながら牛乳パックの中身を思いっきり、凪絆へとぶちまけた。

 

「────え」

 

 牛乳をかけられたことにより、凪絆は目をまん丸くし、女性を見上げた。

 

「あら、ごめんなさい。力が入ってしまったみたい」

「絶対にわざとでしょ。何すんのよ麗葉!!」

 

 麗葉と呼ばれた女性は、簡単に言えばギャル系女子だ。

 明るい茶髪を内側に巻いており、ワイシャツのボタンは2つ開け、スカートは膝より上まで上げている。

 

「わざとじゃないのよ。ごめんね、稀莉さん。まぁ、今日は会長の仕事もないわけだし、そのままで居ても問題ないでしょ?」

「いえ。さすがに臭いがきついから着替えてくるよ。わざとでもわざとじゃなくても、今後は気をつけてね。さすがに不快だから」

 

 そう真顔で口にし、凪絆は席から立ち上がり教室を出ていく。

 その後ろ姿を、麗葉は舌打ちをし見届け、つまらないと言いたげに、手に持っていた空の牛乳パックを乱暴にゴミ箱へと投げ捨てる。

 

「颯人君は、私のなんだから──」

 

 歯を食いしばり、拳に力を入れ怒りの感情を何とか、押さえつけていた。

 




ここまで読んでいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです

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