この幸せな世界の裏側で…   作:naomi

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第8話 裏側

「模擬戦終了。勝者!渡新」

 

演習場に響くAIの声。司令部は彼の話題で持ちきりだった。

 

「また勝ったよ。例の新入り凄いな」

 

「ここへ来てまだ1ヶ月も経たないのに既にクリエイトに参加して、しかも毎日のように訓練に参加。模擬戦では未だ負け無しだもんな」

 

「山内とのあの模擬戦は負けに入れないのか?」

 

「まぁ決着はついて無いしまだ負け無しでいいんじゃないか?」

 

「でも流石に山内には勝てないよな」

 

「いや終盤あの動きに付いて行けてたし、もしかしたらあるかもしれないぞ」

 

「どっちが強いんだろうな」

 

「作業は順調ですか?」

 

「バッ幕僚長!?ハッ。本日の各エリアの訓練結果は収集完了しております」

 

「御苦労様です。後で私の方へ報告書お願いします。」

 

「ハッ」

 

司令部を後にし自分の執務室に戻るレナ。送られてきた報告書を眺め溜め息をついた。

 

「………。もしもし私です。………はい。お願いします」

 

 

 

(ヤバい。ただでさえ所持金無いのにあれ以来クリエイトが一度も発生してない。このままじゃ俺金欠で野垂死ぬ)

 

血眼で訓練に参加する新。彼の頭は今日をどう凌ぐかでいっぱいであった。

 

そんな訓練からの帰り道。複数人に囲まれている老人を目撃した。

 

「だから言うたじゃろ信じるかはお前さん次第じゃと」

 

「なめた口聞いてんじゃねえ、テメエのせいで全てを失ったんだ。生きて帰れると思うなよ」

 

「そんな、八つ当たりじゃ」

 

すかさず仲裁に入る新。

 

「なんだテメェ………テメェは」

 

「よって集って老人虐めとか恥ずかしくないのか?」

 

「うるせー。部外者は黙ってろ」

 

「………こちとら今虫の居所が悪いんだ。やるってなら容赦はしないぞ」

 

「…………チッ。覚えておけよクソジジイ」

 

老人を囲んでいた男達はその場を立ち去った。

 

「すまないね兄ちゃん。助かったよ」

 

「気にするなジイさん………ってあんた!俺をこの世界に連れて来た」

 

「おっ、お前さんよく見たらあの時の確か……渡新だったかの。どうじゃこの世界には慣れたか?」

 

「お陰さまでな。そういえばジイさん名前は」

 

「『越知部泰彦(おちべやすひこ)』。皆からはヤスじいと呼ばれとる」

 

「あんたもここの住人だったのか。だけどなんで俺をこの世界に連れて来れた?本来ならパラテネから出た時点で死んでるんだろ?」

 

「儂は情報屋をしておって、パラテネ司令部とは特別な契約をしておるからのパラテネからの出入りを保証されておる」

 

「特別な契約?」

 

「司令部への絶対服従じゃ。司令部の命令に逆らった時点で儂の時計は作動するよう改良されておる」

 

「そんな契約もあるのか………」

 

「まぁ、オススメはせんがの」

 

「それで、なんで囲まれてたんだ?」

 

「なに。一攫千金の方法を教えてやったら嘘だったとイチャモンをつけられただけじゃ」

 

「一攫千金の方法………」

 

「そうじゃ、この世界でもごく一部の者しか知らない『ケルーレ』という方法がある」

 

「なんだそれ」

 

「場所を変えよう」

 

建物の間を通り抜けながら人気の無い場所へ歩く2人

 

「『ケルーレ』は大雑把に言ってしまえば闇の違法賭博じゃ。この世界での唯一の稼ぐ手段である『クリエイト』に参加出来ない人間の救済を名目に司令部の目を掻い潜って非合法に行われておる稼ぐ手段。それが『ケルーレ』丁度着いたわい」

 

とあるマンションの地下へ進むとそこには

 

「これは………闘技場?」

 

「そうじゃ」

 

「ってことは………」

 

「察しがよいの。お前さんの考えておることで概ね合っておる。『ケルーレ』はお互いに己の大事なモノを賭けて戦う。お前さんのイメージと違う点があるとすれば」

 

「ヤスじい。こいつは?」

 

突然、越知部の後ろから大男が話しかけてきた。

 

「うん?『ケルーレ』の参加者じゃ。推薦人は儂じゃ」

 

「おい、勝手に」

 

「ヤスじいが推薦を………。いいだろう付いてきな」

 

「俺は別に」

 

「ほんとうか?」

 

「…………」

 

「儂は情報屋と言ったろ?お前さん1人の情報くらい朝飯前じゃ」

 

渋々付いていく新。

 

「でお前参加するのか?」

 

「あぁ」

 

「何を賭けるんだ?」

 

「こいつはこの世界に入って来たばかりでの、まずは………」

 

「俺の命」

 

あまりの即答に驚愕する2人。

 

「お前さん………」

 

「今の俺に賭けられるモノなんて、それしかないからな」

 

「………ますます興味が湧いてきたぜ。お前さん名前は?」

 

「新。渡新だ」

 

「新か。よろしくな俺は大黒拓真(おおぐろたくま)。『ケルーレ』の運営に一枚噛んでる。『ケルーレ』では対戦者が揃っている時はお互いが宣言した賭けたモノで対決するんだが、今ここにはお前しかいないし、お前は『命』なんて壮大なモノをかけた今回はお前の欲しいモノに合わせて条件の合うヤツを選んでやるよ」

 

「欲しいモノは………金だ、『クリエイト』無しでも暫く生きて行けるだけの金が欲しい」

 

「成る程。今調べてやる」

 

大黒が近くにある端末で調べてると1人の男を提案してきた。

 

「こいつはどうだ?吉良裕二(きらゆうじ)北エリアに住んでる。コイツが賭けてきてるのは全財産だ申告上は100万ペルは所持してる」

 

(100万ペル。100万円かそれくらいあれば2、3ヶ月は生きていけそうか)

 

「そいつで頼む」

 

「わかった。こいつを呼び出すからお前はヤスじいから『ケルーレ』の細かいルールでも聞いておきな」

 

その場を離れる大黒。すると越知部は新にスーツを渡す。

 

「なんかこれ『イシュタル』のパイロットスーツに似てるな、左胸の丸い部分があるか無いかくらいか」

 

「元々廃棄になったパイロットスーツを改良したモノじゃからの、そう見えて当然じゃ」

 

「『イシュタル』で闘うのか?」

 

「馬鹿モン。非合法の賭博に国家機密でもある『イシュタル』を使う訳なかろう」

 

「じゃあどうやって?」

 

「ついてくるんじゃ」

 

更に下へと進む2人

 

「闘技場で闘うんじゃないのか」

 

「あの場所はカモフラージュじゃ、着いたぞ」

 

そこには機械が2台用意されていた。

 

「このシュミレーターで『イシュタル』を動かし勝負するんじゃ」

 

「結局は『イシュタル』で闘うのな」

 

「お前が今回の俺の相手か」

 

大黒と共に長髪の男が現れ新に話しかけてきた。

 

「あんたが吉良か、よろしく」

 

「なもんはどうだっていい、さっさと始めようぜ」

 

(落ち着き無いし、目の焦点が合ってないしコイツ危ないヤツじゃないか?)

 

シュミレーターに新が乗ると

 

「シュミレーターの『イシュタル』は誰であろうと全て初期モデル同士の闘いとなるが、ヤツは『クリエイト』に何回も参加し生き残っている猛者じゃ、頑張れよい」

 

そう言い残し越知部は大黒と共に上へ上がって行った。

 

大黒の合図と共にシュミレーターが起動する。

 

と同時に吉良の『イシュタル』は新めがけて突撃をしてきた。

 

「さぁはじめようぜー」

 

「こいつ、いきなり」

 

新はイシュタル標準装備拳銃『メディオレイター』で牽制しながら距離をとろうと試みる。

 

被弾しながら何事もないかのようにイシュタル標準装備短剣『メディオナイフ』を両手に突撃してくる吉良。

 

(こいつ正気か!?シュミレーターだからって初手から突っ込むのかよ)

 

やむを得ず、近接戦闘に切り替える新。

 

(これが『クリエイト』を生き残り続けたヤツの経験値ってのか。嫌な処を的確に突いてくる)

 

致命傷にはならないものの、徐々に機体へのダメージが蓄積されている。

 

(なにか、この状況を打開する手は………そうか)

 

新は越智部の言葉を思い出す。

 

(シュミレーターの『イシュタル』は全て初期モデル。『クリエイト』の経験で自己流の戦闘スタイルを築いた者と初期モデルでは機体がパイロットについていけず[ズレ]が生じているかも)

 

攻撃を受け流しながら隙を伺う新。

 

「勝負あったな」

 

モニターで『ケルーレ』を見守る越智部がそう呟くと新のカウンターの一刺しが吉良のコックピットを貫いた。

 

「なんでわかった?ヤスじい」

 

「新のヤツ経験者と初期モデルの動きのズレをあの一方的な攻撃の中見つけることに終始していた。そして吉良の動きには6連撃目に動作が行く時に5撃目で大振りする為にシュミレートでは機体がついていけず隙が生まれていた。それを新は見逃さなかった。総括するとそんなところじゃの」

 

「あいつこの世界に来てまだ1ヶ月位なんだろ?・・・・・そうか、だからか」

 

意味深に微笑む大黒。越知部は軽く肩を叩くと会場を後にした。

 

「新、お疲れ。この『ケルーレ』はお前の勝利だ。勝者であるお前の望み100万ぺルだ」

 

「確かに受け取った。・・・・・じいさんは?」

 

「ヤスじいはお前の勝利を見届けてここを出たぞ。あのじいさんは忙しい人だからな」

 

「そうか。吉良は出てこないのか?」

 

「・・・・・ここでは敗者のプライドを尊重し対戦相手同士が『ケルーレ』後に会わないルールになっている。吉良はお前がここを出た後個別に声をかける」

 

「成程。世話になったな」

 

「また来いよ。いつでも待ってるぜ新。」

 

「死ぬリスク背負ってまで決闘なんて二度とごめんだ」

 

「ハハハ!違いねーな」

 

新は軽く手を挙げ大黒に別れを伝え、いるべき世界へと戻って行った。

 




大黒は階段を降り、シュミレーターがある場所に降り立った。

「お疲れ。・・・・・正常に作動してるな」

左胸の丸い部分が赤く点灯していることを確認した大黒はソレを持ち上げると、ソレに語り掛ける。

「お前はよくやったよ。十分貢献してくれた。少なくとも俺は覚えておいてやるよ」

部屋の扉を開きソレを置き立ち去る大黒。

「あとは頼んだぞ」

一言発し階段を上がる大黒、上がったことを確認すると白衣を着た人々がソレを部屋の奥に運んだ。

その部屋には1つ1つ綺麗に並べられ培養液に浸かったソレが無数に並べられていた。
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