それを踏まえて、どうぞ。
『遥子さん…起きてる?』
躊躇うようなノックの音のあと、ドアの外から聞こえるか細い声。
「…はぁい、ちょっと待ってね」
ちょうど寝ようとしていた私、佐伯遥子は真夜中の訪問者を迎え入れるために自室のドアを開けました。
「雫ちゃん…どうしたの?」
『…ちょっと…眠れなくて』
目元をくしくししながら入り口にたたずむ雫ちゃん。なにかあったのかな…?
「とりあえず、中に入って?」
私は雫ちゃんを自室に迎え入れました。
「眠れない、って言ってたけど…何かあったの?」
『…私、このままで…いいのかな…?アイドルとして、やってけるのかな…?』
(雫ちゃんはアイドルが好きだものね。そんなキラキラした世界に自分がいても良いのかって不安になってるのね)
理由と心境を察して、私は声をかけました。
「ちょっとだけキッチンに行ってくるわ。そのまま待っててね?」
『うん、待ってる』
キッチンに到着。
「えーっと、まずは牛乳をマグカップにいれて…あとは…お砂糖…いや、はちみつかな…?」
牛乳をレンジで温めながら探し物を続けます。
『はちみつはたしかこの辺に…ん、あったあった』
温まった牛乳にはちみつを垂らしてゆっくりとかき混ぜます。ほんのりと甘い香りが深夜の冷えた空気に漂って、少しだけ気持ちが落ち着く感じ。
マグカップを二つ手に持ち、自室に戻ります。
「お待たせ」
『ううん、大丈夫…』
「はい、ホットミルク。まだ熱いかもだから冷ましながら飲んでね?」
『ありがと…』
ちびちびとホットミルクを飲む雫ちゃん。不安を抱えているせいか、普段より幼い感じも見えます。
「雫ちゃんはアイドルが好きってのはみんな知ってるの。雫ちゃんは…そんなアイドルになっても大丈夫なのかな…って、不安なのかな?」
『うん…』
「わかるわ…その気持ち。私もずーっと私なんかがアイドルで良いのかな…って、思いながらここまで来たもの」
『…そうなの…?』
「そうよ?でもね、今は一人じゃないから。さくらちゃんがいて、怜ちゃんがいて、千紗ちゃんがいて…雫ちゃんがいて」
ここで言葉を切ります。
「みんながいるから、私もアイドルとして頑張れてるって思ってるの」
『わたし、みんなの役にたててる、かな?』
「大丈夫よ。少なくとも私は、雫ちゃんと一緒にアイドルとしてやっていきたいって思ってる」
『…えへへ…あり、がと』
少しだけ、雫ちゃんの顔に笑みが浮かびました。
『ホットミルク、ありがとう、ございました』
「いいのいいの。…寝られそう?」
『うん…大丈夫』
「なら、よかったわ。ゆっくり、休んでね?」
『うん…おやすみ、遥子さん』
小さな来訪者を見送り、ドアを静かに閉じます。
(誰だって不安は抱えているもの…わたしがみんなを支えてあげなくちゃね。お姉さんなんだし)
そう思いながら、改めて布団に潜り込みます。
(みんなが幸せに…なれると良いな)
目が覚めたら、優しい世界であってほしい…そう願いながら、眠りについたのでした。