カメラが写せない景色〜オレとオマエの過去の話をしよう〜   作:幽美 有明

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それぞれの事情

「先輩」

「何だ」

「呼んでみただけです」

「そうか」

 

 後輩と二人炬燵の中に入りながら向かい合っている。特に話すわけでもなく、俺はカメラを見つめている。

 冬休みだから、と。今日二人で出かけて撮った写真の整理をする必要があった。後輩が写って居る写真はSDに保存して分ける。あとはそれ以外の風景写真だ。ピントがズレているもの。ぼやけているもの。人が映り込んでいるもの。

 それらの写真を削除して、満足のいく写真だけを残す。

 

「先輩、少しくらい私のこと見てくれても良くないですか」

 

 カメラを見てばかりいることが気に食わなかったのか、後輩が文句を言ってくる。駄々をこねる子供のように頬を『ぷくぅ』っと膨らませている。わざとらしい作られた顔だ。自然ではない、大袈裟な表情。普通なら見るに堪えない光景だが。

 だが、それを後輩がしているのなら見るに堪えないということは無い。

 カメラを撮影できる状態にして、テーブルの下で構える。

 

「ちょっと私の話聞いてますか」

『カシャ』

 もう一度後輩が頬を『ぷくぅ』と膨らませた瞬間に写真を撮る。

 いい写真が撮れた。保存しないとな。

「私の家に来てまで写真を撮るとか、もっとこう恋人らしいことしようとか思わないんですか先輩。私は怒ってるんですよもう!」

 後輩は表情豊かで写真をいくらとっても飽きないな。

『カシャ』

「あっ、また撮った!」

「お前の写真を撮りたくなったんだ。お前だって俺の写真をよく撮るだろう。恋人の写真を撮る。俺たちの恋人としての行動として間違ってないだろう」

「うぅぅ、間違ってませんけどー」

 

 後輩は不貞腐れてこたつの天板の上に倒れ込んだ。

 

「もっとイチャイチャしたいとか思わないんですか先輩は」

「イチャイチャって、お前まだ高校二年生だろう」

「だからなんだって言うんですか」

「まだ俺も大学生だ。俺もお前も誕生日が来てないから、十八と十六。不純異性交友になるだろ」

「不純異性交友って、先輩硬すぎますよ。今どきの高校生カップルでもキスとか色々しちゃうんですからね。進んだ恋愛しちゃうんですよ。なのに先輩、まだキスもしてくれないし」

 

 後輩の言うことは間違ってないだろう。高校生のうちに行為に至らないカップルの方が少ないだろうからな。

 時代の流れがより簡単に楽にできる物事を、重視する方向に動いた影響か。恋や行為というものも簡単で楽なものになりつつある。俺はそうは思わないが、刹那的に生きる人間が増えてきつつあるのだろう。

 バレなければ良いのだし、一応愛し合っているのだろうからな。だが若いうちの恋は熱しやすく冷めやすい。

 行為に至ったことも、恋をしたことも。若気の至りだったと振り返ることになることも多いだろう。

 だが俺は後輩との関係を、若気の至りで済ますつもりはない。

 

「キスだなんだという行動だけが、互いの気持ちを伝える手段ではないだろう。だいたい俺は後輩以外の人間が嫌いだ」

「知ってますけど、それだけじゃ満足出来ないんですよ。複雑な乙女心なんです、先輩に求められないことが寂しいんですよ……」

「はぁ……」

 

 カメラを天板の上に置いて立ち上がる。

 後輩の家に来てわかったことがある。後輩は一人暮らしだった。一軒家にたった一人で住んでいる。今もいる所は、後輩の部屋ではなくリビングだ。

 家族で使うような大きな炬燵に二人で入ってる。

 

「ほら、端の方に寄れ」

「え?」

「いいから早くしろ」

「は、はい」

 

 後輩が炬燵の左端に寄ったおかげで、右側に俺が座れる隙間ができた。

 後輩の隣に座って、反対側にあるカメラを取りまた写真の整理を始める。

 

「今はまだこれで我慢しろ。俺もお前もまだ子供なんだからな」

「先輩が子供扱いするだけで、私だって女なんですからね。もう、今はこれで我慢してあげます」

 

 後輩が左肩に寄りかかり、左腕を抱きしめてくる。後輩と触れ合った箇所がじんわりと熱を帯びてくる。人肌の体温が心に安らぎをもたらす。だがそれも後輩だからなのだろうな。

 

「ねぇ、先輩」

「なんだ、また呼んだだけなら今すぐ離れるぞ」

「ちゃんと理由ありますよ。昔の先輩のこと教えてくれませんか?」

「俺の昔?」

「はい、恋人になったから先輩のこともっと知りたいです」

「話さなきゃダメか?」

 

 天板にカメラを置いて聞き返した声色に、嫌だという気持ちが乗ったのだろう。後輩の顔が『しゅん』とする。

 

「先輩が話したくないなら、話さなくてもいいですよ。先輩が嫌なのは私も嫌だし」

 

 俺だって後輩が嫌なものは嫌だ。だがら俺の話をしたくない。感受性の高い後輩が、恋人になった俺の話を聞いて苦しむのは見たくないからな。

 だが、

「いいよ、話してやる。その代わり、お前の昔の話も聞かせろ」

「それでいいんですか?」

「ああ、俺もお前も辛い話になるだろ。共有するなら二人でだ」

 

 俺が嫌なのは、俺の話を聞いて苦しむ後輩の姿なんだよ。だがら後輩が苦しい思いをするなら、俺だってそれを共有したい。俺だって苦しみたい。

 何より、俺だけ話して後輩が黙《だんま》りなのは嫌だからな。

 

「せん、ぱい!」

「おまっ!」

 

 左腕に抱きついてた後輩が、感極まったのかギュッと正面から抱きついてきた。それはまあ許してやる。カメラも天板の上だからな。だがな、

 

「おい、後輩」

「はい、せんぱい!」

「俺を押し倒してお前は何がしたいんだ」

「え?」

 

 こいつ、自分がしでかしたことに気がついてないな。後輩が勢いよく抱きついたせいで、俺は後輩に押し倒された。

 腕を抱きしめるので我慢しろと言った矢先のこれだ。

 

「今すぐ、俺の上から退《ど》け」

 

 怒気のこもった声に『シュバ』っと正座して俺を見下ろしている。

 起き上がった俺は、後輩の目を見る。

 

「話してやるから、早く隣に来い」

「で、でも」

 

 俺が怒ったのを気にしてるんだろう。

 

「そんなに正座したまま長い話を聞きたいならそれでいいんだぞ」

「隣がいいです!」

「じゃあ早くしろ」

「はい」

 

 隣に座った後輩は、当然のように左腕に抱きついてきた。

 はぁ、もう好きにさせよう。

 

「話すなら、最初から話さないと理解できないだろうから。長くなるぞ」

「大丈夫です」

 

 

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