片思いの代償~ボクはただ君をオモイ~   作:幽美 有明

2 / 4
片思いの苦難

 片思いをしているとき起こる、一番大きな事件は何だろう?

 フラられること?

 違う。

 片思いがばれること?

 それも違う。

 一番大きな事件は、

 

「委員長は初めて会うよね。私の恋人で先輩の先輩さん!」

「おい後輩、他人に先輩って言っても通じないだろう」

「そう言う先輩だって私のこと後輩って呼んでるじゃないですか」

「慣れだ」

「じゃあ私も慣れです」

 

 片思い相手の彼氏と会うことだ。

 これほど気まずい場面もないと思う。まあ、気まずいのは僕だけだけど。涙にも、先輩さんにも、僕の片思いは知られていないから。

 

「イチャイチャするなら帰っていい?」

「わわわ、待って委員長。お願いだから帰らないで!」

 

 涙が僕の腕を掴んで、離してくれない。

 

「わかった、帰らない。でも正直なこと言うと場違いなんだけど」

 

 すると涙は先輩さんに聞こえないように、小さな声で話し始めた。

 

「(初めてのデートらしいデートで助けが欲しいの!)」

「(え?)」

 

 今涙はなんて言った?

 デートって言った?

 待て待て。涙から今まで気化された惚気話の中に、デートしたって話は何回も出てきたはず。だから、今更デートなんて慣れてるはずなんだよ。

 

「(本当に帰っていいかな?)」

「(だめ、お願い帰らないで。いつもはデートと称して写真撮ってるだけだったの。でも今日は水族館デートなの、デートらしいデートで私どうしていいかわからないの!)」

 

 ただただ、惚気話を聞かされてるだけなんだけど。涙が嬉しい話は僕も嬉しい。涙が幸せなら僕も嬉しい。

 でも、それとこれとは別だよ。なんで片思いの相手がデートするところに、ついて行かなきゃ行けないんだろう。

 一番の事件は彼氏に会うことじゃなくて。その彼氏とのデートについて行かないといけないことだとは思いもよらなかったよ。

 

「(お願い頼れるのは委員長だけなの!)」

「(はぁ)」

 

 片思い相手からのお願いを断れる人が居るだろうか。

 僕はいないと思う。だって僕は毎回、

 

「(わかった)」

「(やった!)」

 

 僕は彼女のお願いを断れた事はなかったのだから。

 

「(とりあえず、何をすればいいの)」

「(一緒に水族館を回ってくれればいいだけだから、大丈夫簡単でしょ?)」

 

 涙からの返答は、予想の斜め上だった。少し離れたところから携帯を使ってサポートして欲しいとかだと思ったのに。一緒に回って欲しいって何だろう。

 それってもうデートじゃない気がするんだけど。

 

「(少し後ろにいる感じでいい?)」

 

 さすがに真横を歩くわけにもいかないから、妥協点として後ろの方を歩くことにした。後ろなら二人の様子を眺めていられるしね。

 

「(ありがとう委員長、大好き!)」

「(ほら早く行きなよ)」

「(うん)」

 

 ほんとに君ってやつは。そう簡単に大好きとか言っちゃだめだよ。

 たったそれだけの言葉で、僕の心は荒れるんだから。その言葉が愛ではなく親愛なのを知っているから。愛の言葉は目の前の、先輩に言ってるのを知っているから。

 まあでも、ポーカーフェイスは得意なんだ。涙はよく不意打ちで大好きだって言うから。

 

「おまたせしました先輩。それでこの子が私の幼なじみの委員長です」

「委員長です」

「先輩です」

 

 何だろうね、この雰囲気は。互いの名前すら知らない。涙が付けたあだ名で呼び合う関係。勿論僕は学級委員長で、彼は先輩に間違いないんだろうけど。

 でも、それでいいのかもしれない。名前を知らない方が記憶に残りにくいだろうから。

 

「それじゃあ、行きましょう。先輩、委員長!」

 

 涙の見せるその笑顔は、どれに向けられた笑顔なのか。僕なのか、先輩なのか。それとも両方?

 答えは、涙しか知らないけど。

 できることなら、その笑顔が僕に向けられたものだと信じたいな。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。