東方蒼魔塞   作:因田司

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今回は現在の章の最後を飾る、赤と紫の戦いです。
そして遂に………

原作とは大きく異なる点もあるとは思いますが、
暖かい目で見て下さると、幸いです。

それでは、ゆっくりしていってね♪


虹の双極に立つ者

YUKARI

~緋なる亜空間

 

 

 

 

 

「……ようやく捕まえた」

 

 

私のものではないスキマの中、私はホバリングで停止している偽者の後ろ姿に、声をかけた。

其の着ている真っ赤に染まった白衣が噴射の勢いにはためいている。

 

敵の目の前には私がスキマから突き出した標識。行く手を阻んでいる、其は皮肉にも赤い逆

三角形の『止まれ』。実に皮肉な光景だが、更に周りからは紫色の瞳が赤を睨んでいる。

標識だけでは止まらない…そう思った私は『変容を見る眼』を配置し、動いた瞬間に狙撃する

様にしていた。が、其等もただの飾りだ。攻撃もさせない。ある程度経てば引っ込める。

 

大切なのは、此方に注意を向ける事だ。私と向き合わせる事だ。

 

 

「私の偽者……私の劣化版……そんなに急いで何処に行くの?」

 

 

其の質疑に相手は私に背を向け、黙ったままだったが、

 

 

「……本物は、やはり速いわね……」

 

 

ぼそっとそう呟いた。本物……即ち其は、自分を偽者だと認めているという決定的な証言

だった。

 

 

「己を完璧に貫き切れていた……そう思い込んでいるだろうけど……其の我の強さだけには

感服する……」

 

 

偽者は後ろを向いたまま、此方を見ようとしない。

 

 

「が……お前は所詮人間だ。妖怪になりきる事など出来ない」

 

 

そう言った瞬間、赤が此方に振り返ると同時に何かを投げてきた。私はスキマで逃げずに

畳んでいた傘を顔の前に構え、其を受け止めた。

 

其は扇子を二枚合わせて作り上げた様な、円状の投擲物だ。紅い電気で出来た地紙がカッターの役割となってモーターで唸り声を上げながら傘に深々と食い込んでいた。

 

 

「……笑わせるな……私が何時から妖怪になったと思い込んでいる?」

 

 

私が本気で憤っている。私が私をはたと睨み付けている。私は無言で投げて来た『英知の結晶』を扇子の要をつまんで傘から抜き捨てた。

 

 

「…お前の能力の能力が欲しかっただけだ……其処まで怒る必要がある?寧ろこんな偉業が

出来る人間がいる事を褒めて欲しいわよ」

 

「お前が己を人間とまだ自覚しているなら、質問する」

 

 

私は質問を投げながら、彼女の背後の配置物を見ずに全て取り除いた。赤は気付いていない。

 

 

「……同じ人間を、新たな命に変えるという所業に、恥を覚えないの?」

 

「覚えない」

 

 

即答だった。

 

 

「我を持ち始め、此処までを歩む間、私を虐げて否定した人外に値する者を、私が血筋ごと

根絶してやった……」

 

「知っている」

 

 

同様に即答で返しながら、私は心底から呆れ返る。残念ながら彼女は、人を殺めるという、

どの世界でも赦されない行為を此の幻想郷で初めてした訳ではない。其もあの飄々とした

様子から、相当な数を繰り返している。

 

 

「……知っていたんでしょ?私を、生涯を監視していたのなら…私の全てを」

 

 

していた。答えはそうであっても、私は口にしなかった。

 

 

「私は……人間の一個人として生きようとした私を否定した彼奴等が悪い……

人として天寿を全うしようとする私は、何も悪くない……」

 

 

其の様子は、最早自分に言い訳をしている様にしか見えない。もしくは発狂しているか。

そうとしか私には見えない。

 

 

「化物『赤色之他人』!!」

 

 

いきなり赤はスペルを発動し、足元辺りから出現した真紅の螺旋に飲み込まれていった。

 

私が手を出さずに其を見ていると、少しやがて赤を包んでいた渦が消えた。

 

だが、其処に私を真似た姿はなかった。

 

 

 

 

「魂魄…妖夢……」

 

 

旧友の従者の姿があった。身長、体系、服装…憤怒の表情と紅色のベストとスカート以外全て

本人そっくりに化けられている。

 

 

「よりによって妖夢に化けるなんて……未熟さが目立つ様な真似をして……」

 

 

赤色に染まっている妖夢を見ると、本物の彼女にストレスが溜まっていないか心配になって来る。

天衣無縫が付く二つ名は、伊達じゃないのよね…幽々子は。

 

 

「お前が素直に……格下だと認めないなら……!!」

 

 

そう言うと本物の妖夢と同じ様に背中から、二本の刀を取り出した。

だが、鞘に納まっている筈の刀身は其処にはなかった。

 

 

「今の私にとって……此の剣で切れない物は……」

 

 

 

 

 

「皆無なのよ!!!!」

 

筒の先端から放電と共に赤い光が、一直線に伸びた。赤い電気の剣……

『英知の結晶』ね。なら此方は、緑の光の剣でも持って対抗すれば良かったかしらね……

 

 

何はともあれ……私も、傘を剣の様に持った。

 

 

 

 

 

 

 

 

YUKARI

VS〈半人半赤の殺鬼〉八雲赤

~緋なる亜空間

 

 

「『頂門赤針』!!」

 

 

妖夢の姿に化けた偽者は楼観剣、白楼剣とサイズがそっくりの『英知の結晶』を振り、

其の軌跡から赤い針を大量に飛ばす。また、私の真似を……

 

 

「……『頂門紫針』」

 

 

私は其の基となったスペルで対抗した。傘を振った軌跡から紫色の針を殺到させる。

互いの針が私達の中間で交差し、ぶつかり、火花を散らして舞っていった。

 

 

「『開けて悔しき玉手箱』」

 

 

私は頭上から墓石を落として不意打ちをかけようとした。『赤色』の影響で効かない事は知っていた。

 

だが直ぐに其を察知した彼女は、別のスキマの中に逃げ込んで回避した。彼女は自作の機械の

特性にすら頭が回らなくなっている。完璧な我を穢した私を、排除する事しか頭に無いらしい。

 

そして容姿だけでなく、ステータスもそっくりにコピーされている様だ。あの不意打ちに

気付くところから、本物と同じ位の俊敏さを持っている。

言葉遣いもコピー出来ているかと期待はしたけど、『紫様』といつも呼んでいる彼女の言葉遣い

は、今の彼女にとっては性に合わないらしかった。

 

スキマを利用した不規則な動きで、私を翻弄している(…と思い込んでいるのだろうけど、

当然私には通用しない)。妖夢が私のスキマを使用している……本人が見るときっと複雑な

気持ちになるだろう。

 

そして不意討ちをし返したつもりか、目の前に突如開かれたスキマから赤い刀身が一直線に伸びて来た。

 

私はわざと紙一重でかわし、スキマを使って後退した。あの刀身、自由な長さに伸び縮み出来る

らしい。便利ね…妖夢にお土産として持って帰りたいわ。

 

 

「魔影『マクスウェルの魔』!!」

 

 

スキマから出て来た赤の左右に開かれたスキマの中から赤色と青色、それぞれに彩られた

彼女の分身が出現し、此方に向かってきた。本者同様、各自で二本ずつ剣を所持している。

 

私は敢えてスキマを使わず、次々と斬撃を避けていく。

此の剣の動き……単に適当に振っている訳ではなさそうね。一人ひとりが私が反撃しにくい

箇所を狙っている。剣の扱いにも慣れていると見て間違いない。

 

そして最後には、彼女自身が分身達の後ろから二本の剣を私に振り下ろしてきた。私は避けず、

再び傘で其を受け止めた。

 

 

「……こんな傘、スパッと切れると思った?妖怪を舐めないでよ」

 

 

そう皮肉は言ったけど、正直なところ彼女の剣の存在を何故か私は恐ろしく感じた。其を持つ彼女

よりも恐ろしく思える。此の双剣が放つ赫々たる光は『英知の結晶』、そして『赤色』だけで

なせる色とは思えなかった。

彼女自身の怒りを具現化したものか、其ともあの剣で巧妙に殺めた人の生血によるものか……

人の生血を錆とせず、際限無く啜る妖剣に操られている……そう私には見えた。

 

が、此の妖剣も所詮機械……なら、創造したのは彼女だ。

 

純粋に人を殺め、元来彼女と同じ様な人間になる筈だった配下をも失敗すれば殺し、

己の欠陥の露呈を免れた快感を糧とし、生きている……其はある意味で妖怪の感情に似ている。

 

殺人鬼という妖怪に、無意識に変わり果てている……と、解釈した方が良いのかしらね……?

 

 

「……私ばかりを見ていると、足元すくわれるわよ?敵は私だけじゃないんだから」

 

 

傘を断ち切り、私に身体に刀身を押し込もうとする彼女の両手の下にスキマを出現させ、

其処から新たな標識を真上に突き出した。

其の標識は黄色の菱形にエクスクラメーションマーク。

 

 

「…『その他の危険』に気を付けなさいよ?」

 

 

もう一度仕掛けられた不意打ちには流石に怯み、赤は思わず後ろに下がった。其の際標識に

両手を突き上げられ、大きな隙が生まれた。

 

私は其の先端を勢いよく突き出し、ガラ空きとなった……

 

 

 

 

 

 

 

 

右の眼窩に捻じ込んだ。

 

 

「!!!っ~~~………」

 

 

悲鳴は上げずに直ぐに私から離れ、右手の『英知の結晶』を手放し目を押さえる。其の指の

間から、大量の赤い血が流れ始めた。

 

 

「あぁ……血が……!!」

 

 

右目の失明や痛みよりも、自分の身体から血が出たことの方に驚いていた。

赤にしては鮮やか過ぎる其の鮮血が、妖夢と同じ白いシャツをも赤く、赤く染めていく。

 

すると赤の身体が再び『赤色』の螺旋が囲まれ、姿が見えなくなった。今度は誰に化けるの

かしらね……そう思っていると再び彼女の姿が現れる。

 

だが期待は外れ、妖夢の姿から元の私の真似をした様な姿に戻っていた。

 

 

「私の……!!あぁ……『赤色』がぁあ……!!!」

 

 

紅い白衣の下に来ている黒いロングスカートは血飛沫を隠していた。あの黒……もともとの服

の色なのか、其とも長い月日による血の変色によるものか……其すらにも不審を抱いてしまう。

 

左手にはいつの間に持ち替えたのか剣ではなく、赤色の角縁眼鏡のつるを握っていた。が、其の手が震えている。

 

 

「……此で、出来損ないの気持ちが判ったかしら?」

 

 

私は傘の先端に付着した血と、そして眼輪筋の一部を振り払い取り除いた。赤が私を見る

其の左目から怒りの色は消えなかったが、同時に別の感情が宿っている事に気が付いた。

 

直ぐに何かが判った。私に恐れをなしたのだ。

 

妖怪という超然的な存在に畏怖の念を抱かない人間はまずいない。其の人間が抱く畏怖の念こそ

妖怪なのだから。例え最新鋭の科学技術で本気で対抗しようとも、決して其の差は縮まらず、

ましては追い抜く事は不可能に近い。

 

其に挑もうとするどうしようもない輩には、其の差を思い知らさなければならない。

 

私は血塗れた傘を開き、スキマの上に座った。

かつて初めて霊夢と出会った時にしていた、あの格好だ。

 

 

「……どうせ行く場所は最上階でしょ?」

 

 

赤は何もせず只見ていた私に怯えている。顔や仕草に出なくても其が判る。そして、自分の

スキマに時間差で穴を開け、逃げる様に其処から外に出ていった。

 

私は追わなかった。去る者は追わず。其に私は、もう彼女を追う必要もなくなっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

YUKARI

~博麗神社 屋上

 

私は自分のスキマで赤のスキマから脱出し、異変の現場から遠く離れた

博麗神社の屋上に立っていた。

遠くに要塞が見える。白いサーチライトを下から浴びて夜空に其の巨躯を鮮明に曝け

出している様は森林に突如出現した、場違いな巨大建造物を彷彿とさせる。

 

所詮真似をされただけの『赤の他人』である私が、其処まで今回の異変に干渉する必要が

あるのか?よくよく考えると、比較的安易な事に私はどうしてあそこまで向きになってしまった

のだろう?其の風景を見ながら、私はそんな事を考えていた。

同時に私は、過激な手段を選択してしまった自分を今更ながら悔いていた。

 

理由は判っている。彼女の正体だ。

 

 

「……年月が経つと、此処まで思想は変わってしまうのね……」

 

 

彼女は元々此の幻想郷の住民ではない。私の能力を機械で疑似的に再現し、其を利用して

此の幻想郷に来た。キレ者という事以外は、彼女は只の人間だ。だが人間とはいっても、

私にとっては十分に関係を持てる人物だ。

 

だが、彼女は此の幻想郷が欲する存在ではない。まさに自然の中の人工物だ。

 

何が何でも私を始末しようとした彼女が、私を畏れて逃げた。彼女の危険思想を幾分か

薄める事が出来た。

其だけでも、もう十分だ…そう判断した私は、残りは霊夢達に託す事にした。今の彼女なら、

自分の正体を霊夢達に曝すだろう。凶行の理由を聞けば、説得する事が格段に容易になる。

 

 

「……悪いけど、私は抜けさせて貰うわ。霊夢。後は彼女としっかり向き合って、

馬鹿な真似を止めさせなさいよ……」

 

 

霊夢達が進行している其の要塞を最後に一瞥した私は自分のスキマを開けた。

 

 

「そして、元の世界に帰してあげなさい……」

 

 

スキマに入る瞬間、彼女の本当の名前を呟いた。

 

彼女の正体……やはり其だけは私にとっても、何処か重くのしかかって来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……博麗 白昼夢(はくれい しらむ)……貴方の…博麗の、最後の末裔を……」

 

 

 

 

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