「今日も良かったよ!」
声のする方を向くといつも聞きに来てくれるお兄さんがいた。そしてまたお金を帽子の中に入れてくれてた。
「ありがとうございます。また聞きに来てくださいね。」
「おうよ。またな~」
お兄さんはそう言って帰っていく。私たちも帰ろうと荷物をまとめている。そんな中いきなり服の袖を引っ張られる。ゆっくりと顔を向ける。
「お姉ちゃん。あの人ずっとあそこに居るよ。」
妹のハユが自分の片付けをそっぽむけにして小声で私の服の袖を引っ張りながら道を指刺す。静かに視線だけそっちに向ける。そこには妹と同じくらいの身長の黒い鬼角を持つ黒フードがいた。顔をこっちに固定したまま立ち止まっていた。
「ハユ。いつでも動けるように大切な物からかたづけて。ただしいつも通り片づけてね。」
私も小声でハユに言う。
「うん。わかった。」
ハユは軽く頷いて片付けに戻る。私も急いで片付けをする。
そろそろ終わった頃。さらに別の声が横からしてきた。
「ホユ。まだあそこに奴がいるのだけど。どうする?」
カホだ。カホだけは血は繋がってはいない。だけどお母さんが居なくなる前から仲良しの幼なじみで居なくなってからはずっと一緒に居る。
「いざとなったら私が足止めをするから警備隊を呼んできてくれない?」
「だめ。それならバラバラに逃げた方が良い。」
「誰か捕まったらどうするつもり?貴方たちはそれを耐えきれる程の精神力を持っていないはずよ。そんな事を考える暇があるならさっさと警備隊を呼んできなさい。」
カホが声を鋭くして言う。
「わ、わかったよ。でも気をつけてね。」
カホがフンと顔を背けながら
「言われるほどじゃないわ。決まりね。走る準備はして起きなさい。」
カホはそのまま最後に周りを確認する。私はお金が入った帽子を取りに行こうと体を向ける。だが体がビクついて踏み出そうとしていた足が止る。いつの間にか少し遠くに居たはずの黒鬼角が帽子の目の前に居た。
もしかしてお金目的?それならあげるから早く帰ってよ。
そう願う。だが黒鬼角は帽子の前に居たまま動かない。後ろからカホがすり足で少しだけ近づいているのがわかった。横目で確認する。そこには鬼気迫る顔で何か言いたそうなカホがいた。
だが私は動かなかった。よくわからないけど、この人が私たちを誘拐しようとしているようには見えなかった。勇気を出して声を出す。
「あの……どうかしましたか?」
目の前の黒鬼角は体をビクッと震わせるとフードの中をガサゴソと漁りだした。そこでカホが無理矢理動き出す。ホユの首根っこを掴み、後ろに引っ張る。そしてカホが黒鬼角の前に出る。
バサッ
仰け反ったので見えなかったが何か重い音がカホの方からした。急いで視線をカホの方に向けると歩いて帰っていく黒鬼角が見えた。そしてカホがしゃがむ。
「カホちゃん!?」
ハユの驚いた声がする。
「大丈夫よ。音聞いたでしょ?爆弾じゃないわ。」
「爆弾!?」
ついオウム返しをしてしまう。カホがこちらに振り返る。その手には両手でも包み込めない程の大きさの袋を持って。だがその顔は何故かしかめっ面だった。
「大丈夫。大丈夫だわ。よし。帰りましょう。」
カホはその袋と地面にある帽子をしまい、荷物を持ち歩き出す。
「ちょっと!?待ってよ!」
「どうしたの?カホ?本当に大丈夫なの?」
ハユが声を上げながら荷物を持つ。それに続き私も荷物を持つ。
「ええ。大丈夫よ。さっ帰りましょう。」
そのまま家に帰る。カホは早歩きで、今日は珍しく会話も無く帰路に着いた。
家について、荷物を片づけてリビングに集まった。
「それで本当に!本当に!大丈夫なのよね?」
「どこか痛いところあるの?」
「大丈夫よ。どこも痛くないわ。そう何度も聞かなくていいわ。むしろ冷静になれたし。」
よかった……でもどうしたんだろう?さっきのカホは本当にカホらしくなかった。
「コホンッ。」
「どうしたの?」
ハユが可愛らしい声を上げる。だけど私は畏まる。だってカホがわざとらしく咳をするときはいつも……
「それでホユ。言い分があるなら聞くわよ?」
怒るときだから。
「あッ……」
そこでようやく分かったみたいで呆気ない声をハユが上げる。
「うぅ………だ、大丈夫だと思ったから……」
「思った?そんな理由で大丈夫だと思ったの?偶然あの人がそうじゃ無かった。それだけよ。」
カホは少し椅子から立ち上がり右手でホユのおでこをツンツンしながら
「運が良かっただけよ。わかる?たまたま悪い人じゃ無かっただけなのよ?」
「……うぅ……ぅ……おっしゃるとおりです……」
「はぁ……もう良いわ。でも許した訳じゃ無いからね。そこ勘違いしないでよ!。」
カホは最後に強くホユのおでこを押すと椅子に座った。
「はぁ~~~い。」
魂が抜けそうなユルユルとした返事をする。
「それじゃあ本題に入るわよ。」
バサッ
そこでカホはさっきの両手に収まりきらない程の大きさの袋を机に落とす。
「カホちゃん…?これって何?」
「そういえばカホがおかしくなったのもこの袋を貰った頃だったっけ?」
「お金よ。」
「「!!??」」
ハユとホユは椅子から立ち上がりお互いに肩を抱き合いながら身構える。
「いいいっくら?」
震えた声で一番重要な事を聞く。
「十万。」
静かにボソッとカホが呟くように言う。
「「じゅじゅ十万!?」」
「ちょっと声が大きいわよ!辺りに家が無いからって大声を出すのはいけないわよ!」
「「ご、ごめん。」」
ここは街の外れのさらに少し遠く。街から遠いから家賃も安くてさらには周りに畑もあるので買うことを決めた家だ。最初は盗賊が出るかとそわそわして夜を過ごしたけど、この家の後ろには険しい山しか無くて逆に盗賊が全くいなかった。最近では毎回重い荷物をもって行くので腕に筋肉が付かないか心配になってきている。
「…本当に十万あったの?」
「さっきちゃんと確認したら間違いないわ。」
「これでしばらくは安泰だね!」
ハユがそんな事をいった。その通りだと思った。私たちは街で仕事が貰えなかったから農作業と練習とライブぐらいしかやることが無い。実際にはあったけど、それは嫌だったので逃げてきた。
唯一の収入はライブのお布施だけで、運が良いときは七千。悪いときは無かったり数百だった。これでしばらくは近づいてくるお客さんにドキドキしたり帽子をのぞき込んで一喜一憂することは無くなったと頬を緩ませた。
「そこで提案があるんだけど」
カホがそんなことを言った。いったいなんだろ?やっぱりこれだけお金があったら一日待ちをぶらつくとかかな?たまにはそんな日があっても良いよね!
「クリックオブファーストフェスに出てみないかしら?」
「「!?」」
クリックオブファーストフェス。それはこのシエスタで中の上のイベント。だがその知名度は上の下よりも高い。その理由の一つは参加資格の中に実績は必要ない。人数が揃っていたら誰でも参加できる。その場合選抜で落ちてしまうが。
そして他イベントと最も異なる点は参加料が必要な事だ。これはエントリー時に払うので返ってこない。そして参加料は七万。高いが払えない事も無い程度だ。
その安くない参加料を払い、数々のライバルを押しのけ最後まで残ることが出来たら大舞台でその技術を表現できる。そこには数々企業が、新人を掘り出そうと顔をだす。偶にトップックラスの企業まで出てくる新人達にとって夢の舞台だ。
「む、無理だよ。私たちじゃ。」
「そうだよ。すぐ落選して終わるだけだよ。」
「じゃあどこがダメか教えてくれないかしら?僅かな疑問点で良いわ。今日から練習していきましょう。」
「「……」」
カホのその一言で二人は静かになった。
「私は十分なレベルの技術を持っていると思うわ。これはチャンスよ。これからも明日の生活のわからない人生を送りたいの?」
「「……」」
「これは未来の自分たちへの投資よ。七万。安くはないわ。でも七万でたとえ予選で落ちてもプロからアドバイスが一、二言貰えるのよ?」
「「……」」
「三万も残るのだから一日二外食じゃなくて一日六外食もできるわよ?」
「……」
「一日…六外食…?…おいしい一杯?……」
ハユの目が輝き出す。それでも私は……
「ホユ。いったい何が心配なの?……改めて言うわ。これはチャンスよ!今日!夢への一歩を進むの!!」
「いつまでもウジウジねねっこちい生き方するんじゃないよ!嫌なの?出来ないの?しないの?私たちのリーダーがそんな物でどうすんのよ!?」
パッシン
「お姉ちゃん!?」
ホユが自分で両方の頬を叩く。
「……ありがとう。カホ。いっつも私を助けてくれて。いっつも道を考えてくれて」
ライブを始めたのも、カホからの提案だった。人が集まらなくて辞めたくなっても続けようと言い続けたのもカホだった。そして今日。夢を掴もうと提案したのもカホだった。
「やろう。今、夢のためにやりたい。お願いしますッ。一緒にイベントに参加してくださいッ!!」
ホヨが頭を下げる。その目に貯まった涙がポツポツと流れ落ちる。ハユがどうしたら良いのかわからなくて慌てふためく。そしていつしか涙を見せる。
カホが椅子から立ち上がりホヨの目の前に行く。
「あなたはリーダーよ。私たちのリーダー。それは変わることはないわ。そのリーダーがこんなヘタレでどうすんのよ。行くわよ。フェスに。この程度サクッと優勝して有名人になるわよ。」
ホヨがカホに倒れ込む。
「ちょっと?」
「ありがとう……」
「まずは泣き止みなさい。これじゃどうすることも出来ないじゃない。」
カホは優しく頭を撫でる。そこにハユも倒れ込む。
「私を仲間はずれにしないでよ………」
不貞腐れた様子でそう言った。
「はぁ……まったくしょうが無いわね。私は貴方たちの母親じゃ無いんだけど?」
「母親みたいに優しいんだもん。」
「母親みたいに厳しいし……」
「まったくねぇ……」
そう言うカホだがずっと二人の頭を優しくなで続けるのであった。
~ ~ ~ ~ ~
「さぁさぁ。ついにやってきた!今年一番と言っても過言では無いクリックオブファーストフェスッッ!!今日も夢見る少年少女達がッ!その才能を見せてくれることでしょうッッ!!」
「「「ウォォォォオォォーーーー」」」
「どうしよう!?来ちゃった!決勝戦来ちゃった!!!」
「それは昨夜手紙が来て分かったことでしょ?問題無いわ。」
「そういうカホは腕震えているよ。」
「うっさいわね。」
「私たちを支えるベースがこんな様子で大丈夫なの?」
「本番に強いタイプだから大丈夫よ!!」
そこはステージの舞台裏の控え室。三人は問題無く予選を勝ち抜き、決勝への道をつかみ取ったのだった。
「そろそろやっておこうか。」
「ええ。」
「うん!」
三人は円上に立ち三角形の頂点を作る。そして右腕を前に突き出し拳を合わせる。
「考える。」
「諦めない。」
「立ち止まらない。」
一呼吸置いて
「「「私たち最強!!!」」」
拳を上に上げそう言う。
「やっぱり安直過ぎないかしら?」
「わかりやすくて良いじゃん!」
「昨日!私たちで!決めたじゃん!文句があるならそのとき言ってよ。」
「文句はないわ。文句はね。」
「さぁそして本日は特別でパーフェクトな審査員を用意されたぜェッ!」
三人はそのMCの言葉を聞いて驚きの顔を見せ、モニターに視線を釘付けにされる。
「実力、才能、名声全てを兼ねそろえて居るぞ!!さぁきた我らの皇帝ダァァァ!!!」
派手な演出と共に一人のペンギンが堂々とステージに出現する。そして耳が割れそうな程の歓声が響き渡る。
「う……そ…でしょ?」
「皇帝ってあの皇帝?あのペンギン皇帝!?」
「そうね。」
「なんでカホはそんなに冷静で居られるのよ!!」
ホヨはカホの肩を掴み上下に振る。
「審査員がすごいだけでしょ?それなら問題無いわ。
「でもッ、皇帝だよ?あの皇帝だよ?」
「皇帝だ審査員だったから貴方たちはハーモニーを醸し出せないの?」
「「そんなことは無い!!」」
「「私ほど(お姉ちゃん/ハユ)のことを知っている人は居ないよ!!。」」
「なら問題無いでしょ?」
「「む?」」
二人は頭に疑問を浮かべた。だがすぐに風に流されていった。
「それで最後の練習は必要かしら?」
「私は大丈夫かな。」
「今やっても逆に崩れそうで怖いからいいや。」
「なら落ち着いて待ちましょう。」
そして本番が来るまで三人はガールズトークに花を咲かせた。
「それではッ!最後にして最年少の三人組ユニットだッ!!なんと実績が無ければ大会出場経験無しの正真正銘今日のフェスのダークホースッ!!ブラック・ディーモン・ホーンッ!!!」
「それじゃ行こっか。」
「ええ」
「うん!」
~ ~ ~ ~ ~
ライブが終わった。私たちのライブだ。歓声が上がる。目の前のこのおっきいステージで。今日、ようやく伝説の第一歩が始まったんだ………
~ ~ ~ ~ ~
「さぁクリックオブファーストフェスのフィナーレッ!!数々のグループから優勝グループを決めるぞ!!さぁ審査員の皆さん。どうぞッ!!」
「ちょっといいか?」
「はいッはいッ皇帝。何でしょうか?」
「そこのグループ。うち来ねぇか?」
皇帝が私たちの辺りを指さす。
「おっとッッ!ここで掟破りのヘッドハンティングだァ!!」
「そんな掟なんて無かっただろうが。いきなり呼ばれたんだ。これぐらい良いだろ?」
「はい問題無いですね!皇帝に勝てる者が居るなら聞いてみたいです!!それで右から何番目のグループですか?」
「一番しかないだろう?」
「キャァァァッァ聞いてしまった。番号指定。さっさっ指定された番号の人はこちらに!!」
私たちだどうしよう?どうしよう!どうs痛い!!カホが太ももをつねってきた。恨むぞぉ!!
横を見るとハユもカホのことを睨んでいた。よし一緒に復讐するぞ!!
「さぁ行くわよ。」
カホが超小声でそう言った。
そうだった……生きて帰れるかな?
三人はステージ中央に行き、皇帝と向き合う。
「で?答えは?」
「よろしくお願いします。」
「決まったぁ!ヘッドハンティングゥ!!新たな星の出現に観客も歓声がやまない!!というかさっきから止っていないぞ!!息に気をつけて歓声をしてください!」
「それで皇帝の投票は?」
「この状況見てもわからないのか?」
「よし。決まった。他の審査員はどうだぁ?…………決まったァァ満場一致!これは三年ぶりの満場一致だぁ!!今宵のフェスの優勝者にッ!さらに盛大な歓声を!!」
~ ~ ~ ~ ~
「ちなみにそれは何でなんだ?」
場所は変わってなんかごつい部屋。私は帝王と契約書を交わしていた。
「それってなんですか?」
「グループ名だよ。グループ名。」
「それはこのフェスに挑戦しようと思ったきっかけの人から取りました。」
「なぜそうなる?」
「その人が沢山お布施してくれたからですね。」
「ふーん。もういいぞ。後はこっちでやる。」
「はい。ありがとうございます。」
そう言ってホユと言われる少女は部屋を出る。
「ブラック・ディーモン・ホーン……黒い鬼角。いったい何がしたいのだか……」
皇帝は窓から見える雲に隠れた月を見てそう呟いた。
テンションは変えません 誤字脱字、アンチ、応援、ストーリー展開考案何でもござれ
この5日ぐらい執筆をするどころかサイトすら開いていなかったわ。
だから何って話ですね。すみません。