好きには不祥がつきまとう   作:庭顔宅

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3/7 嘆く海の雪辱 旦那様side

「旦那様失礼します。」

 

一人のメイドが屋敷の奥にある執務室に入室しようとしていた。その大きなフェリーンの耳は中から聞こえる小さな返事を聞き逃さなかった。

 

メイドが中に入ると旦那様は視線を一瞬こちらに向け、机にすぐに戻した。

 

「旦那様。お仕事は順調でしょうか?」

 

「ああもう終わらせたよ。フィルサこれを運んでおいてくれ。」

 

旦那様と呼ばれた男は最後の紙を一枚、左にある別の机の上にある紙の束の上に重ねる。

 

「かしこまりました。お飲み物はいかがなさいますか?」

 

「今日は久しぶりに散策に行くから必要ない。妻達に遅くなると伝えておいてくれ。」

 

「かしこまりました。」

 

フィルサは一礼する。そして旦那様と言われた男は外出の準備を素早く終わらせ屋敷をたった一人で出て行った。

 

旦那様と言われた男は定期的にこの散策を行っている。その散策の主な目的は野外でライブを行っている新人達の発掘。新人。それは熟練のプロとは違い、未熟なところもある。だがそれがいい。いずれその新人がプロになったときに、その新人時代に聞いた音楽を思い出して成長を感じる事が彼が今最も楽しみにしている事だ。

 

そんな彼が今宵も新人発掘という無限の旅路にいま出かけようとしていた。

 

 

半刻ほどたった頃彼はようやく異変に気づいた。

 

ライブの音がしない……

 

彼はカレンダーを思い出し今日は何かイベントがあったのか?と思ったが特になんの変哲も無い平日だった。なのにゲリラライブが無い。街に響くのは定期的に同じ音を流す音楽だけだった。

 

珍しいこともあった物だな……

 

この経験は過去に二回だけあった。彼にとっては珍しいことが起きたその程度の認識だった。さらに小半刻歩いたがやはりライブの音は聞こえなかった。その途中すれ違う街人の顔にそんな疑問を持った顔をする人は居なかったことに、自分だけが気づいているのではいないのか?という満足感を得ていた。

 

日が暮れそうだ。もう帰ろうか。

 

そう思った時だった。不思議なリズムが今まで聞いたことの無いリズムが街の外。森の方から聞こえてきたのだった。

街から底まで遠い居場所では無いと音から距離を求めだし、最後にここだけ覗きに行こうと思い森へと歩を進めた。

 

近づく程リズムが大きくなる。その大きくなるリズムに集中していたらいつの間にか街を抜けたと思ったら森をも抜けていた。

時刻はすでに十八時を超え、一日に一度だけ姿を現すオレンジ色の日が見えていた。そんなオレンジ色の日の光は木林森に邪魔される事無く、この空間に降り注いでいた。その空間の中央には一つの黒いフードが黒いDJセットにしては大きすぎる箱の楽器を弾いていたのだった。

その幻想的な情景に合わないはずのハイテンポの音がリズムを刻み込んでいた。不思議なことにそのリズムは不快や違和感などの存在を見せもしなかった。

 

息をする。その当たり前の事実すら忘れ去り、目の前のリズムに集中していた。

 

いきなり黒いフードが顔を空に向ける。リズムはさらに速く、重くなっていく。その隙間から黒い大きな角が見えた。だがそれを思う前に顔が地面に落ちる。

落とすモーションに合わせ音がスタッカートになり、終わった。

 

余韻は無かった。それが独特なリズムだからだろうか。そのリズムが頭に残っているのに頭はしっかりと冴えていた。

 

 

パチッパチッパチッ

 

 

彼は拍手をした。頭が冴えていても声を出すことはためらった。黒いフードがこちらを見る。だが何も言わない。この空間には彼の拍手しか響いていなかった。

 

しばらく経っても何も起きないので彼は静かに後ろを向いて街に戻る。だが街に戻ってもそリズムが頭から離れることが無かった。だがそれだけしか考えられないという訳では無い。

この感覚は昔、初めてプロのライブを目の前で体験した時以来だった。

 

彼は帰路を急ぐ。その顔にはまるでスキップをしてしまいそうなほどの笑みだった。

 

 

屋敷に帰り夕食を食べる。そんな中で妻に「どうかしましたか?いつも以上に良い笑顔ですが?」と聞かれた。

未だにあのリズムが頭に残っていることに驚きつつ「久しぶりに最高の新人を見つけたんだ。」と笑みのまま返したのだった。娘が「またそんなことを言って本当に最高なんですか。」と言われてしまた。

「今回こそは本当に最高なんだ。今までの音楽とは全然違う。」と熱説したがまったく相手にされなかった。妻も娘もそこまで音楽に熱狂的な訳ではないのでしょうがないと思いつつ、いつかここに呼んで聞かせてあげたいと思ったのだった。

 

 

* * * * *

 

次の日。それは朝食を終えた旦那様に今日のお仕事を持って行くためにフェルサが書類を手に旦那様の部屋を訪れた時だった。

 

コンッコンッ

 

「失礼します。…失礼します。」

 

フェルサはいつも聞こえるはずの小さな返事を今日は聞くことが出来なかった。もしかしたらうたた寝をしているのでは?と思ったので確認のために少し大きな声を出しながらゆっくりと扉を開けた。

 

「旦那様!?」

 

フェルサは珍しく素っ頓狂な声を上げた。なぜならば中に居る旦那様はすでに外出の準備を終え、鞄を持っていたからだ。

フェルサは過去の自分を憎む。今日は面会や外出をする予定を覚えていないが為に何も外出の準備をしていなかったからだ。フェルサは急いで頭を下げる。

 

「申し訳ございません!!旦那様!今から外出の用意をして参ります!!」

 

フェリサは手に持つ書類をすぐ側の小机に丁寧に置き、急いで振り返りながら扉の取っ手に手をかける。そこに焦った旦那様がフェリサのもう片方の手を握る。

 

「大丈夫だ。待ってっくれ。」

 

「あっ…はい…どうかされましたか?」

 

フェリサは一度冷静になり開けた扉を閉め直し、旦那様に向き合う。

 

「まず。今日は外出の仕事はない。今日も散策に行きたいんだ。昼はいらない。夜は遅くなるのか分らないから勝手に食べるように妻達に言ってくれ。」

 

「え?はい。かしこまりました。」

 

「たのむぞ。」

 

旦那様は鞄を取りに行き、フェルサの横を通って屋敷の外を目指す。フェルサはしばらくの間、その場で放心していた。

旦那様は今散策と言った。目の前に書類が…仕事があるというのにしないと言ったのだ。それより問題なのは目的を聞いていなかった事だ。今日は誰かの誕生日では無かったはずだ…何かCDの発売日…わからない。そんな記憶はない。そして今になってどうやって説明したらいいか分からず右往左往した後、大人しく報告することを決めたのだった。

 

そしてそこで昨日夕食で良い新人を見つけた事を自慢していたのを聞き、納得したのだった。

 

 

* * * * *

 

 

「よし…」

 

つい喜びの声が漏れてしまった。

それは昼をいただいて店を出た後しばらく歩いた頃にあの聞き覚えの無い独特なリズムのライブの音が聞こえたからだ。すぐさま旦那様はそのライブの音へ向かい。ライブを堪能した。

今日はちゃんと私以外にも客がいて密かに{有名になり始めてるぞ}と喜んだのだった。

 

ちなみに夜は一人で空が見えるレストランでいただいたのだった。

 

 

次の日。

 

「旦那様??」

 

昨日に続き今日もフェルサの素っ頓狂な声が響く。それもそのはず。今日の旦那様は朝食を終えた後すぐに戻った。フェルサは昨日の仕事を素早く取り返す為だと思っていた。

 

だが旦那様はすでに外出の準備を終わっており、執務室に続く廊下で見つけたのだから。

 

「フェルサ!昨日と同じだ!それでは行ってくる。」

 

今日のフェルサは放心はしなかった。代わりに書類の枚数を一枚一枚内容を確認しながら数えてため息を吐いたのだった。

 

旦那様は探し回って四時頃にやっと目的の物を見つけたのだった。夕食は屋敷で家族と食べたのだった。

 

 

次の日。

 

「旦那様。」

 

「どうしたんだ?」

 

フェルサはいつもより朝食を早く食べた。そして沢山の書類を大きめのトレーで持って旦那様が中にいる執務室の扉を占領したのだった。

 

「今日は散策は禁止です。」

 

「なっなんでだ!いいじゃないか!早く提出しなければならない書類が無いこと位把握して居るぞ!!」

 

「仕事がたっぷりと貯まっております。今日も休めば取り返しの付かなくなります。今日は終わるまで監視させていただきます。もちろん終わらなければ私は食事を取りません。」

 

「……それは卑怯では?」

 

「別に一人の使用人が飢えるだけです。お構いなく。」

 

「はぁ……書類をくれ。」

 

旦那様は大人しく外出からラフな作業服に着替え机に向かう。その間フェルサは何やら書類を分別していた。

 

「それではこちらを。」

 

フェルサは書類の束の一つを全て旦那様の机に置いた。そしてもう一つの書類の束を談話スペースの机に持って行き腰をかける。

 

「……どういうことだ?」

 

「こちらは私がやっても問題無いものなのでお構いなく。」

 

「……なぜ手伝ってくれる?」

 

「早く終わらして貰わなければお昼ご飯が食べれないので、そんなことを聞く暇があるのなら手をサッサと動かしてください。」

 

「ふ、フハハハ、」

 

旦那様がいきなり魔王のような笑い声を上げた。それにフェルサは淡々と遇う。

 

「はいはい。いったいどうしましたか?」

 

「愛して居るぞォォフェルサァァア。」

 

旦那様は一思いの愛を叫ぶ。

 

「やめてください!!奥様に絞り取られてしまいます!!」

 

それにフェルサは怒りながら止める。その顔には恐怖が浮かんでいる。

 

「すまない……すまない……」

 

それに旦那様はただひたすら謝った。妻を怒らせることがどういうことか。それは誰よりも私たちがしっているこただった。

 

 

五時頃。

 

「終わったな………フゥ……」

 

「ええ。」

 

二人は椅子に倒れた。結局お昼を食べること無く書類に向き合ったのだった。

 

「こちらを。」

 

「それは?」

 

いつの間にかフェルサは立ち上がっていて、近づいてくる。その手には小さな小さな袋が三つと外出用の服があったのだった。

 

「今からでも間に合うのでは?と思っただけです。まぁ今日は疲れましたしその上の飴だけ取ってください。」

 

「いいや行くぞ!!」

 

旦那様は椅子から飛び上がり服を素早く着替え飴を口の中に放り込む。そして屋敷の外に出ようと執務室の扉に手をかける。

そこで突如として振り返る。そして

 

「フェルサ!最高に愛しているぞォォォォォォオ。」

 

そう叫び、走り去ってしまった。

 

フェルサはその場に立ち尽くす。そして談話スペースの椅子に倒れ込む。これから起きる出来事を考えながら次は絶対に甘やかさないと心に決めるのだった。

 

 

旦那様は奇跡的に二十分ほど聞いて帰ってきたようで大層喜んでいた。

 

………その日の夜は愛の叫びを聞かれていたようでフェルサは奥様にベットの上で飽きるまで頭を撫でられるのだった。旦那様はいくつか秘蔵のCDを奪われたようで泣きながらベットにうずくまっていた。

 

なおフェルサは先ほど決めた思いは一晩寝たら忘れていたのだった。

 

 

 

次の日…….etc

 

旦那様とフェルサは契約を交わした。

 

旦那様が飽きるまで書類を手伝う。・フェルサはその間給料倍分払う。(それは旦那様のポケットマネーから全額出る。つまり実質三倍、秘蔵のCDが奪われたから金欠なんだですって?はぁ…しょうが無いですね。二倍で許してあげます。金欠だからもっと下げるですって!!??それが許されるとでも……借金制度ならいいですよ。これが最後ですからね!これ以上配慮しませんよ!!{愛してるぞォォオフェルサァ}旦那様は自殺願望でもあるのですか!!?<ちょっとお話しましょうか。>({…はい。})

 

最終的に旦那様は持っているCDの半分が奥様に没収されフェルサは手伝った分お休みを貰ったのだった。(旦那様負担){むしろ増えたのでは?}<あら!そう思うなら早く飽きる努力をしてくださいね>{うぅ……金欠……}<そろそろ旅行にでも行きましょうか。>{もうそんな時期か…今回は何処がいいかな?シンプルにクルーザーで無人島へ行くか、ビーチを貸し切ってバーベキューか……何が良いと思う?……………

 

 

いつしかの日。

 

 

おッついにか!

 

 

旦那様は珍しく、そして初めてライブ開始前から黒角を見つけることができた。さらに裏道ではなく中央地区から近い横道を選んだことを大層喜んだ。

 

黒角がライブを始める。それに伴い観客がどんどんと増え続ける。今日は初めから素早い音で構成された。そのリズムに観客が魅了さていた。声一つ出さず静かに聞いていた。そういう私も他の音楽など耳に入らないほど集中していたのだった。

 

だがその夢心地は突如として破り去られる。

 

「どけ。道を空けろ。」

 

膨よかな体型の男に二人の護衛らしきスーツ姿が観客を割り通る。辺りの人に皆いい顔をした人はいない。

 

黒角にその三人は近づくと

 

「ちょっと良いかな?」

 

驚いたことに膨よかな体型の男はライブ中でありながら黒角に声をかけたのだった。それを黒角は無視した。

膨よかな体型の男は一瞬顔をしかめる。そして

 

 

「話を聞け。」

 

ドンッ。

 

膨よかな男は黒角の頭を押す。見た感じでは強い押し方ではない。だが黒角は大げさにのけぞり演奏を止め、膨よかな男へ視線を飛ばした。

 

周りの観客からは怒りと戸惑いが聞こえた。

 

 

「なんだ?」

 

 

初めて黒角の声を聞いた。そのたたずまいと同じで静かで冷静な性格を思い浮かべるような落ち着いた声だった。声のトーンがあがっている気がした。ぶち切れているのだろうか?彼はゲリラライブをしているというのに一度もお布施を貰う姿勢を見たことが無い。それはプライド故か、魂故かわからないが少なくとも軽い者では無いと感じ取っていた。

 

 

「スカウトしに「断る。」…」

 

納得はした。彼のライブは歴代の音楽とはまったく違う形式のものだ。そしてこの一週間聞いていたが同じリズムは一度だって聞いた覚えが無い。そんな黒角がフェスに出れば、賛否両論になるかもしれないがそれ相応の結果を見せてくれるのは火を見るより明らかだった。

 

黒角は先ほどより圧の効いた有無を言わせぬ声で食い気味に断った。

膨よかな男は顔色一つ変えずに次の行動に出る。

 

「でもこちらにも考えがありますぞ。」

 

膨よかな男の後ろに控えていたスーツが黒角の左右に移動した。

 

「見たところその楽器は珍しい物ですね。これが壊れてしまうと困るのでは?」

 

こんな行為を平然とやってのけると……いったい何処だ?

よく見ると胸に自らの所属を示すバッチが無かった。あれはルールを知らない新人か、ルールを守らない企業か。何にせよ喜ばしい行為では無かった。

旦那様は一歩足を踏み出し近づこうとする。だがそれは黒角の驚愕の行動によって止められた。

 

「何度も言わせるな。断る。」

 

バッァン

 

黒角はついに怒鳴り声を上げながら拳を振り上げる。そして目にとまらないスピードで拳が振り下ろされる。

 

「えッ?」

 

呆気ない声が出た。自分でわかった。だって拳は二人の護衛のどちらに当たるのではなく、その珍しい楽器に当たった、いや攻撃したのだから。

 

拳が振り下ろされる。それだけで珍しい楽器がゴギィッとエグい音を出しながら形が変形する。そして隙を与えぬ二段構え。気がついた時には足は振り上げられていた。それも一切の変動なく珍しい楽器を直撃する。そしてその珍しい楽器はスクラップとなった。

 

「キャァァァァァ!」

 

旦那様が姦しい声をあげる。それは旦那様だけではなく辺りからも悲鳴があがる。

楽器まで詳しいわけでは無いがある程度は調べた。何処にも無く、見たこともない形。DJセットのようであり優に二mを超える大きさで。そして全身が黒よりも赤黒い。そして今まで出してきた音の数を全てその珍しい楽器一つで出してきた。その珍しい楽器がそこら辺で売られているような安物ではなく、プロが使うようなオーダーメイドのようなものだと思った。

 

な、なんてことを。いったいどれほどの価値があの楽器にあると思って……そんな楽器を容赦なく壊した…?

 

旦那様にはあの黒角がつい、怒りに身を任せながら壊したようには見えなかった。それは今まで少なからずも持ってしまった信頼によるものか。あの黒角が何を思ったのかはわからない。この場を対処するために苦肉の策か、あの膨よかな男の思い通りにしないためか。何であれ尊敬に当たる人物だと思った。

 

辺りの悲鳴を気にせず思考の海に沈みかけていたが、旦那様は見逃さなかった。

黒角が懐に手を入れて黒い容器を取り出した。その中のオレンジ色の液体をスクラップにかけた。

するとスクラップは淡黒い光を纏いながらオレンジ色の光を出す。そして消えていったのだった。

 

旦那様は今まで以上に冴えわたった。邪魔な記憶と音を消し去り、目の前のことだけに集中する。

黒角は何かオレンジ色の液体をスクラップにかけた。そして消え去った。跡形も無く。その存在を記憶だけの物にした。そのスクラップがどんな物質であのオレンジ色の液体が何処まで溶かせるのか。そしてそれの製造方法。それは今すぐにあらゆる手段を使って聞き出さなければならない事だった。

 

平常心を装い、緊急事態と屋敷に合図を送ろうとした。だが旦那様はその合図を送れなかった。

見えてしまった。あの黒角が愛おしそうに、そして哀しく楽器の骸があった場所を見つめる。それは一瞬のことで瞬きをした後にはまるで何も無かったように膨よかな男鋭い視線を差し込むのだった。

 

「キッ貴様ッッ!ギャレ!!」

 

膨よかな男の汚い声に感情は戻された。その汚い声を聞いた護衛動き出し足を踏み出し構える。

 

しまった。と旦那様が動く時にはすでに遅く、護衛はアッパーを繰り出す。その攻撃に黒角は反応すること無く受ける。そして黒角は空へ高く殴り飛ばされた。

 

高い……

 

旦那様は足を溜める。そして黒角へ飛び上がる。距離、方角、勢い。全てが合わさり見事飛び上がる黒角を掴む事が出来た。

その時見た黒角は、先ほどまでの鬼の形相を忘れてしまうほど健やかでこの世界の闇を知らなそうな赤子の寝顔だった。

できるだけ衝撃を消して着地する。

 

「大丈夫か?」

 

声をかける。だが返事はない。どうやら気を失ってしまったようだ。

 

その場に寝かせ、膨よかな男に振り返る。その前にはすでに護衛がいた。

辺りの声を無視して近づく。

 

「お前達。どこの者だ?」

 

怒りを静め、大人の対応をする。

 

「お前こそ誰だ?遊びに来たのか?老人は大人しく引きこもっていたらどうだ?」

 

「まあいい。着いてこい警備所へ行くぞ。」

 

「誰が従うと?やれ。」

 

護衛が構えを取る。だが警戒を解かない。黒角を二,三mほど殴り飛ばせる程の力を持つ護衛。侮る理由が存在しなかった。

 

護衛が同時に拳を振るう。対ショック姿勢を取る。拳が構えた腕に当たると同時に後ろにジャンプする。

 

ん?……威力が弱い。フェルサの蹴りを1/3にしてもフェルサの方が強い。

 

黒角はなぜあれほど飛び上がったのだ…?わからない……何かドーピングしているのか?使う前に終わらせるぞ。

 

旦那様は着地と同時に前に突撃する。残り1mといったところで護衛達は防御の姿勢を見せる。たかが1m。その程度で完璧な構えは出来ない。旦那様は連鎖するように交互に鳩尾、腕の関節、膝、首をへし折る。

 

護衛達は対応する来なく流れに身を任せ、地面にひれ伏した。

 

「なんなのだ貴様ッ!なぜそんなに強い!!」

 

膨よかな男が叫ぶ。だが旦那様は静かに対応する。

 

「そいつらが弱すぎるだけだ。」

 

実際その通り。旦那様はお偉い人でありながらたった一人で外に出る。それはそれ相応の実力と判断能力があるから周りから許されていることだ。まぁ常に一人だけ旦那様を見守る影があるのだがそれを知っているのはその周りと本人だけだ。

 

「お前達何をやっているッ!!」

 

あっという間に警備隊が膨よかな男とその護衛、そいて旦那様を囲む。その手には武器を持っている。

 

「バルサソ様ッ!!」

 

その中の隊長らしき人物が旦那様、いやバルサソ様に敬礼をした。それにつられ辺りの警備隊も敬礼し出すが

 

「いや楽にしてくれ。」

 

「はッ。」

 

 

「……なぁバルサソ様って誰だ?」

 

小声でそんなことを隣の隊員に聞く隊員がいた。残念ながら小声でありながら少し遠くに居たが隊長にもハッキリと聞こえていた。

 

「貴様ばっかかッ!!このシエスタの法と秩序を保つバルサソ一族だぞッ!何故知らない??」

 

「すッすみませんッ…」

 

「いや構わない。今ではただの老いぼれと変わらないからな。」

 

「すみません。それでバルサソ様、これはいったいどういう状況ですか?」

 

隊長は辺りにいる観客も見渡しながら言う。

 

「そこにいる………いや何でも無い。こいつらバッチを装着せずスカウトをした。そして不当なスカウトをやったからこうなった。そこに倒れているのはそこの膨よかな男の護衛だ。全員連れて行ってくれ。証人はそこら辺の人を使ってくれ。私は探さなくてはならない。」

 

バルサソ様は最後に辺りを一望すると走り出す。

 

「ハッッ」

 

そこには隊長の無駄に大きい返事が響いていた。

 

 

バルサソ様は少しだけ走った頃だった。

 

「旦那様。」

 

「ッ……!」

 

バルサソ様はいきなり聞こえてくる聞き慣れた声に驚きながらいざという時のために構える。だがそれは杞憂で終わる。

そこにはフェルサがいた。

 

「どうしたんだフェルサ。こんなところで。」

 

「ちょっと旦那様の監視を、そんなことより探し人は…黒い角のお方は誰にもさらわれていませんよ。自分で立ち上がってどこかに行ってしまいました。」

 

「……ずっと監視していたのか?」

 

「ええ。」

 

「いつ頃から?」

 

「いつ頃でしょう。」

 

フェルサはやってやったと補足笑みを浮かべる。

 

「まあいいか。ならば帰ろうか。」

 

「お供します。」

 

「それはそうとお願いが一つあるのだが?」

 

「内容によりますね。」

 

「…………………」

 

その内容を聞いたフェルサは全くこの人は……と思いながらその願いを聞き入れたのだった。

 

 

 

次の日。

 

バルサソは走る。まだ見ぬ者を見据えて。

ただ可能性の話だ。もしかしたら彼はまた今日もライブをするかもしれない。これまでのライブへの思いとは別に今だからある思いがそこにはあった。

探し回る。だが見つからない。途中船場へ行き、もしも黒角が来たらバルサソ家に教えてくれと言い残したりもした。

 

日が傾き、沈み始めた。今日は諦めて大人しく家へ歩き始める。だが聞き逃さなかった。夕日が輝き始めたときに、その耳にあの独特なリズムが聞こた。

最後に……そう思う。だが絶対そこに居る。そう思っていた。少しだけ見慣れた街景色を見ながら進む。あの時のようにリズムに集中しながら進む。

そしていつの間にか街を抜けたと思ったら森をも抜けていた。その空間には光が灯っていた。オレンジ色の綺麗な光だ。その全てを吸い取って仕舞いそうな赤黒い楽器で演奏をしている黒角がそこにはいた。

 

 

 

 

 




テンションは変えません 誤字脱字、アンチ、応援、ストーリー展開考案何でもござれ
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