森を歩いていた。月明かりも届くかどうかと言うほど森は深く、誰一人として影どころか存在すら感じさせない。
たしかこの森に来たのはセイロン様が攫われた日以来だったか。
この森はシエスタで一番草木が生い茂る森。草は定期的に刈り取っている為野性的な森では無いがそれでも木が多く、視界が確保しにくい。ここに犯罪者が逃げ込まれると逃がしてしまう可能性が出てくるので常にこの森周辺には監視されている。
一時間ほど前だったか、一人、黒いフードで低身長者がこの森に入って行った。先ほど不自然な事件が起きたばかりだ。こちら側は計画通りに行動を起こさず監視網を増やしていた。
そして今、この時までこの森から誰かが出たという報告はない。もし抜け穴などがあるなら失態だな。気づかれずに道を作られていたなど考えたくは無いな。埋めるのが大変だ。穴を掘って穴を埋めたら元通り、なんて事になったりはしないかな……
海辺の監視力をもっと街や森に活かせたりはしないのだろうか?予算が厳しいのはわかるが、それを差し置いても得られる物はあると思うのだが……頭の硬い予算部には通じないだろう。
誰かが通るのを感じてシュヴァルツは動きを止めて息を潜める。通って行ったのは背の小さい黒いフードだった。
最後まで不思議な奴だな。最初は…敵だった。次に見つけたときはひ弱な少年。そしてひ弱な少年は憑依したかのように人が変わり、敵対貴族のような雰囲気を纏っていた。だがそれ相応の態度を見せたのなら腐れ縁の旧友のような態度になる。
人物像がまったく見えてこない。
さらに重ねるなら実力も、だな。
昨日、海辺に現れた謎の人物。そして終わりが見えないほどの大きさの黒い壁。急に壁が高くなると思えばまるで雷が鳴ったような轟音を響かせた。後からそれは隕石の落下が原因だとわかった。
それから四時間ほど変化が無かった。だが四時間後、空が曇った。まるで天災の前触れのようだった。だが波は変わらずうねりも見せない。そして時間と共に空は元の姿へと戻っていった。後にはただの不気味さが残されていた。
今回の件は問題が多いようで少ない。ただ謎の人物と黒い壁の原因がわからないだけでそれ以外の被害はほぼない。
目撃証言があったことが唯一の救いとも言える。
目撃者によると、突然機材トラブルを起こしたスピーカーのようなノイズの酷い音が響いたと思えば壁が出現した。出現した壁については何一つとして情報がなかった。誰一人として気づくことなく、一瞬で現れたようだ。
出現した壁の上に人が居たと、数は少ないが証言はあった。
ある者は半裸の変態。ある者は傷の多く付いたフードを着ている。ある者は黒い眼に太陽の光すらも吸収する漆黒の髪を持つ英雄…らしい。
言い方には問題はあるが少なくとも見えたのは間違いない。視力検査も行ったので間違いない。
運が良いことに黒い髪に黒い目。その特徴を持つ人物を一人だけ知っている。
そして目の前にその人はいる。
「やはり貴様だったか。」
シュヴァルツの声が静かな森に響いた。珍しくも風は吹いておらず声は森の奥へと消えていった。
「どうしてここに?」
シュヴェルが振り返る。フードによって顔は隠されていたが、口元はくすりと口角が上がっていた。
「そう無駄に森を行き来していればな。我々の索敵網をあまり舐めないで頂こう。」
「言い方を変えようか。なぜ会いに来た?」
「ふむ?なにが用があったのでは無いか?」
「ないな。」
「ふむ……行くのか?」
用がないのであれば、別れの挨拶にでも来たのだろうか?そうだとしてもこのような手段を取るとは……こちらとしてはありがたいが。
「……」
無言は肯定と受け取るべきか。少なくとも、笑みは消えて僅かに頷いていた気がした。
「受け取れ。」
シュヴァルツは用意していた物を投げる渡す。
「これは……」
「何かと思ってな。黒曜石を削って作った。」
ただ黒曜石を削っただけの物。セイロン様の研究用の黒曜石で余った物。捨てる訳にもいかずに部屋に置いていた物を一つ削って作った。
「作った?自分でか?」
「ああ。」
「なぜ作ったのだ?」
「謝礼でもあり、選別だ。もし次にここに来るのならこれを門番に見せろ。私に通すように言っておく。」
最後だと思ったから作った。
普段はこんなことはしない。いやこのような関係性が無いと言えるな。
仲良くなった傭兵や賞金稼ぎは、シエスタを拠点とするタイプと世界を放浪するタイプがある。
私はシュヴェルをどちらのタイプでは無い思った。
シュヴェルは本質的な旅人だと思う。別れを惜しみながらもしっかりと割り切り新たな地、新たな出会いを求めて旅をする。そこに過去を振り返ることなど無く進みつづける。
シュヴェルが再び通った道を後戻るようには見えなかった。だから何かつなぎ止める物がいる。それは見るたびに思い出せる物が好ましい。
黒曜石。
シエスタ以外で見ることは少ない上に手軽に手に入れる事が出来るのもシエスタだけだった。そして部屋には特に使い道がない黒曜石があった。
だから作った。今さらだが四角やひし形の方が良かったのでは?と思い始めた。丸。何か袋があるなら持ち運びしやすいがもし無いのなら滑り落としてしまいそうだ。
「…つまりこの石で私の記憶を引き出そうとでもしているのか?」
話が早いというべきか。過去にも似たような事があったのか?
「そうだ。貴様がこれから旅で見たもの聞いたものを知れたらと思っただけだ。偶然その中に有意義な情報があれば良いと思っただけだ。」
「ふふふ…」
シュヴェルは笑う。それはこれほど可笑しいことは無いと言わんばかりの笑いだった。
「そんなに可笑しいことなのか?」
「ああ。これ以上に面白いことはあまりないな。」
シュヴェルはやっと笑い辞める。だがまだ少しだけ笑みが口元に残っていた。
「そうだな……今度来る時はお茶会にご招待願おうかな?」
「了解した。セイロン様にも伝えておこう。」
お茶会……そういえばそんな事もあったな。これなら黒曜石は必要なかったか。
「綺麗だな。」
シュヴェルは葉っぱの隙間から差し込む月明かりに黒曜石をかざす。それをうっとり見つめていた。
「僕も感謝として一つ予言をしようか。」
「予言?」
そんな事も出来るのか?多才だな。これなら何処の権力者であろうと欲しがりそうだな。
「そうだ。貴様らにはとても大きな変化が来る。とても、とても大きな意思を持った変化が来る。それは常識を覆す。だがそれは僕から見たらとても良い変化だ。そしてそれは二人目にもなる者だ。」
大きな変化……とても大きな変化……考えつかない。現在の状況からの変化セイロン様の身に何かが迫るのか。意思を持った者……意思…それも常識を覆す意思。二人目?それは私にとってなのか?そうだとしたら誰が一人目だ?
「……あまり意味がわからないな……心のにとどめておこう。」
「いや忘れて貰って結構だよ。それではまた会うときまで。」
「ああ。また。」
結局わからないままシュヴェルは行ってしまう。予言か……つまりこれから何か事件が起こる。そう思っておけば良いだろうか。たしか僕から見たらとても良い変化だったか。良い変化。現状以上に良くなるのか?わからない。だがやることは変わらない。いつどんな時であろうとセイロン様のお側に……
テンションは変えません 誤字脱字、アンチ、応援、ストーリー展開考案何でもござれ
最近やっと魔女の旅々様をご閲覧いたしましたので変に影響されたかもしれません。
だが後戻りはしません。次回から次章です。
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私は選び抜かれた天才か紳士か変態だからだ