『うちはマダラ・ラスボス化計画』   作:飴玉鉛

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『うちはマダラ・ラスボス化計画』

 

 

 

 

 仙法・木遁、真数千手――頂上化仏!

 

 全てはその一撃から始まった。

 

 

 

 

 令和元年を境に、原因不明のまま生まれ変わった我が身。

 

 驚くなかれ、なんと吾輩に両親はいない。

 赤子の頃に捨てられた云々ではなく、本当に親が存在しなかったのである。

 吾輩を産み落としたのは、なんかでっかい樹。枝に成る木の実のように、吾輩は成ったのだ。

 

 ぽとりと地に落ちて自我に目覚めた吾輩は、きっと人間ではない。植物みたいなものだろう。

 

 人間のような姿をしているのは不可解だが、まあそこはいい。問題なのは吾輩が前世の記憶を持ち、前世の吾輩は現代日本にて生まれ育った人間だったということだ。

 とはいえ前世での名前も、顔も思い出せない。

 なんなら男だったのか女だったのかも覚えていない。

 お蔭様で生まれた直後は混乱したもので。なーんかこの樹、見覚えあんだよなぁと思いつつも、なんやかんやそこらへんを彷徨ったわけだ。するとどうしたことだろう、性別不明の吾輩は僅か一週間かそこらで、枯れた草花のように干からびて死んでしまったではないか。

 

 なんと儚い生涯なのか。

 荒野を独りきりで彷徨った挙げ句、誰にも会えないまま死んでしまうとは。吾輩は世を儚んだ。

 

 ――しかし吾輩は本格的に化け物だったらしく、死んだ程度で吾輩は終わらなかった。

 

 死んだ吾輩は、信じがたいことに魂だけの存在と化していたのだ。おまけに霊的存在となった吾輩はどこにでも行くことが出来て、人間に触れるとその体を乗っ取ることが出来た。

 体の元の持ち主の魂を弾き出し、結果として殺してしまったわけだが、人外になったことで吾輩の精神性も変容していたらしく、全く良心が痛まなかったのには驚いたものである。

 斯くて新しい肉体を手に入れた吾輩は普通の人間として生きた。紀元前の世界かよと言いたくなるほど文明の利器がなく、田畑に向き合うだけの娯楽に乏しい辛い人生だったが、故意ではなかったとはいえ、元の体の持ち主を殺してしまった贖罪として誠実に生きたのだ。

 

 が。

 

 肉体が滅ぶと、吾輩はまたしても霊的存在となって現れてしまった。マジかよと嘆いた吾輩だったが、どうしてか肉体を持つ人間を見ると乗っ取りたくなって仕方なくなる。どうやら吾輩に備わった新たな本能らしく、これに抗うことが吾輩には出来なかった。

 吾輩の脆弱な精神力を恨め、とか思いつつ。本能に従って生身の人間を乗っ取り、生きて死に、また乗っ取り――そんなことを何度も繰り返した。幾つもの体を差し替え続け幾星霜、精神年齢は多分500歳を超えてしまっている。もうすっかり人間の精神性は枯渇して、心の芯から化け物になっていた。恐らく長く生き過ぎて魂が腐ったのだろう。

 

 このままでいいのだろうか? こんなことを永遠に繰り返すのか?

 

 吾輩は『無限転生者』である。自殺しても老衰しても他殺されても、肉体が滅んだ瞬間に霊的存在となり、他者の肉体を奪い取ってしまう最低最悪の糞野郎だ。女郎の可能性もある。

 このまま滅ぶことなく永遠に生き続けるだなんて、そんな空虚な生涯を送っても……別に辛くもなんともないが、ひどく退屈だ。退屈は不死者を殺す。吾輩は死なんけど。なんなら退屈を持て余して精神死するような精神構造でもない。だが退屈なものは退屈なのだ、何か面白いことをしたいものである。

 

 そうして漫然と過ごしていた、あくる日のこと。吾輩は、見てしまった。

 

 遥か彼方で――山よりも大きな仏像が、数え切れないほど多くの拳を振り下ろすところを。

 

「NARUTOやんけ……」

 

 驚愕した。が、それも一瞬のこと。約500年前に吾輩を産んだ樹の正体に思い当たったから、驚きよりも納得の方が大きかったのだ。なるほど、道理であの巨樹に見覚えがあったわけである。

 あれは神樹だったのだ。あれを見るにこの世界はNARUTOだったらしい。まさか自分のいる世界が漫画の世界だったとは……もし吾輩が身も心も人外化してなかったら仰天していただろう。

 が、生憎と驚いたからって思考停止するような可愛げを、今の吾輩は持ち得ていない。

 

 確か神樹ってのは十尾だったはず。神樹に千年に一度実る禁断の実『神樹の実』をラスボスの変な女が食ったせいで、変な女はチャクラを手に入れ、神樹はチャクラを取り戻そうと十尾と化して暴れた……ような気がする。つまり、吾輩ってば実は凄い奴なのかも。

 吾輩の正体を例えるなら、神樹の実・亜種とでもいったところか。にしては随分ヘボい気もするが……神樹の実に成りきれなかった奴が吾輩なのかもしれない。仮説の域は出ないけども。

 我輩の生態は多分、NARUTOのちょい役の登場人物である加藤ダン――5代目火影・綱手の最愛の人の忍術である、霊化の術みたいなものなんだろう。厳密には違うだろうが現象としては同じ。

 

 明確に違う点があるとするなら、吾輩は元の体に依存しない存在という事。

 だからどうしたという話ではあるが。

 

 いつの間にか神樹は消えている。かぐらだかカグヤだか、そいつの家族のいざこざで無くなったのだろう。そういえば昔は月がなかった……今、空にある月は、変な女が封印された奴なのだ。

 精神生命体ともいうべき吾輩は、記憶が摩耗して忘れるということがない。神樹らへんの記憶があやふやで曖昧なのは、前世の吾輩が元々うろ覚えだったからだろう。吾輩は嫌いなことはすぐ忘れる質で、NARUTOは大好きだったが、ラストでポッと出のくせにラスボス面してた女が大嫌いだった。嫌いだったから忘れたとも言う。嫌いな奴に脳のリソースを割きたくなかったのだ。

 

 ……こんなことになるなら忘れなきゃよかった。

 

 さておき、神樹が消えてたった500年そこらであの大仏様の使い手、千手柱間は生まれているのだろうか。幾らなんでも早すぎると思う。もっと後の時代のはずだろう。謎だ。

 この謎を解明するべく、吾輩はアマゾンの奥地に向かった。

 大急ぎで大仏様の下に向かっていくも、生憎今の我輩は常人だ。チャクラの練り方も知らん。忍術とか使えるわけもない。焦れた吾輩は高所から飛び降り自殺を敢行して肉の檻から解放された。

 

 ありとあらゆる障害を、霊体ゆえに貫通して一直線に急行する。すると吾輩は間に合ったらしい。2人の男がいるのを目撃した。

 

(誰やねん)

 

 そこにいたのは、千手柱間ではなかった。倒れている方の男もうちはマダラではない。

 どうやら怪獣大決戦を制したらしい木遁使いの男は、黒髪赤眼――写輪眼の男にトドメを刺さずに立ち去っていく。気絶して黒目に戻った男は瀕死で、放っておいても死ぬと思ったのだろう。

 一応トドメは刺そうとしていたのだが、情がある相手なのか躊躇った末、どうせ死ぬんだからと目を逸らしたと思われる。甘い、甘すぎる、里に仇をなすなら親友でも殺す柱間とは大違いだ。

 

 しかし、本格的に分からなくなった。

 

 木遁を使ったあの男と、写輪眼の男。普通に考えたら柱間とマダラだ。しかしあの男たちは柱間たちとは似ても似つかない。雰囲気は似ているが、顔立ちは全然違う。

 となるとうちはと千手の先祖であるアシュラとインドラなのかとも思う。アシュラは確か木遁の真数千手が使えたし、インドラも完成体・須佐能乎を使える。が、やはり時代が違った。背格好もだ。ならあの2人は一体……いや、そうか。アシュラとインドラは幾度も転生し、その度に巡り合い、争っていたんだった。ならあの2人は今代のインドラとアシュラの転生体で、歴史上何度もあったという死闘の一つを演じていたのだろう。

 

 だが千手の歴史だと、木遁使いは柱間だけと言われていた。ということは、柱間の時代には伝承が残らないぐらい昔の争いだったのか。それなら辻褄は合う……と思う。

 が、どうでもよかった。そんなことより、吾輩は笑い出しそうになってしまう。

 

(面白くなってきた……! 長年の暇潰しに持って来いだぞ、これは……!)

 

 アシュラの転生体らしき木遁使いの男は去った。霊体の吾輩には気づいていない。

 インドラの転生体らしき写輪眼の男は死にかけだ。意識はない。間もなく死ぬだろう。

 

 念の為、アシュラ転生体が立ち去って暫くインドラ転生体を見守る。今にも息絶えそうだが、吾輩の予想だと……ほら来た。何処からともなく出現したのは、全身真っ黒のヤバい奴、黒ゼツだ。

 ソイツは意識のないインドラ転生体の傍に現れ、何事か悪態を吐いて消えていく。黒ゼツは初代インドラを唆し、初代アシュラと争い合うように仕向け、以後の転生体達も対立するように暗躍していた、うちは一族と千手一族の確執の元凶だ。その狙いの一つはうちは一族に輪廻眼を開眼させることだった。それが失敗してムカついていたんだろう。役立たずめ、と吐き捨てていた。

 黒ゼツは霊体の吾輩に気づかなかった。奴が消えるのを待って、吾輩はほくそ笑む。

 

(どうせ死ぬなら……いいよな? もらうぞ、その体――!)

 

 吾輩はインドラ転生体に乗り移った。

 凄まじい質量の魂が外部に弾き出され、この体は吾輩の肉体になる。感覚的に悟った。インドラの転生体が瀕死で、かつ気絶さえしていなかったら吾輩の魂が潰されていただろう、と。

 まあ乗っ取りに成功した以上はどうでもいいことだ。瀕死のまま起き上がった吾輩は、生身の脳に記憶されているデータを余さず読み込んでいく。この体の積み上げてきた戦闘経験、知識、技術を取り込んで――吾輩は重い体を引き摺り、アシュラの転生体が流した血を回収した。地面に落ち、時間経過で凝固して、土混じりになっているそれを口に含んで嚥下する。

 

 そうしてうちはの究極瞳術『イザナギ』を発動した。

 

 イザナギとは、片目の写輪眼の失明を代償に、己にとって不都合な事象をかき消し、好都合な現象に改竄できる幻術だ。これにより己の死も回避できる。吾輩は――今代インドラに倣い俺という一人称を用いるとして――こうしてまんまと全快状態で復活した。

 イザナギは陰陽遁に類するため、うちはの他に千手のチャクラも必要とするが、アシュラの血だけでイザナギの発動に足りたのは幸運という他にない。そして今後うちは一族を定期的に襲い、写輪眼を確保していけば、理論上何度もイザナギを発動して肉体の老いを無くしてしまえる。つまりインドラの体を所持したまま長い時を生きていけるのだ。やったぜ。

 

 いや……待てよ。千手柱間の細胞を使って木遁を再現していた原作を思い返すに、マダラにも同様のことが出来るのでは……? つまりインドラ細胞だ。それを培養したら写輪眼を無限に取り放題になるのではなかろうか……我ながら天才的発想だ、必ず実現しよう。

 

「にしても……これがうちはの肉体……凄いぞこれは」

 

 今の今までチャクラも練れない一般人の体しか奪ってこなかったから、人間離れした性能を有する体に高揚してしまう。当代の忍者はまだ忍んでた時代っぽいので、一般人はみんな忍者を認知していない。そのせいで俺も知る機会がなかったわけだが、この体を知ってしまったらもう、忍者以外の体では満足できなくなったかもしれなかった。罪な男だぜ、インドラ……。

 

 インドラ転生体、うちは某の体をまんまと手に入れたわけだが、これから何をしよう。

 

 楽しめる物語の展開を、ある意味原作の真の黒幕だった黒ゼツよりも上手く広め、この俺こそが黒幕的存在になり、物語の全てをこの目で見届ける――というのはどうだ?

 ……いいな。思いつきながら、実に楽しい想像だ。やろう。そのためにもまずは――()()()()()()。大名になって立場が黒幕に相応しい存在になる。

 大名になった暁には、()()()()()()()()()()()()()のだ。ポッと出のカビの生えたババアなんざ永遠に封印されてろ。NARUTOのラスボスに相応しいのはうちはマダラなのだから……!

 どれほど先の話になるかは分からない。だがいつ滅ぶとも知れない世界を生き続ける中、これほどの娯楽はきっと無いだろう。絶対に楽しくなる、他人にとっては楽しくなくても俺だけは楽しむ。

 

 上手くやるつもりだが、別に失敗してもいい。

 トライアンドエラー、諦めずに挑戦し続けることが大事なのだから。

 

「ん……? ……えぇ?」

 

 インドラの転生体、うちは某の脳に蓄積された記憶を読み込んだ俺は、一瞬眉を顰める。

 次いで気の抜けた声を漏らした。

 うちは某の記憶を読むに――今の時代に、火の国はなかったのだ。

 

「………」

 

 木の葉隠れの里のスポンサー的組織、火の国。その大名を写輪眼でサクッと洗脳して手駒にしようと思ったのだが……肝心の火の国がまだないとは……。

 仕方ない。とりあえず今は潜伏していよう。今代のアシュラ転生体が死ぬまで好き勝手に動くのもマズイ。インドラ転生体すら敗れているのだ、インドラの体を奪っただけの俺が太刀打ちできるわけがなかった。インドラ(の体)が生きていると気づかれたら、この体を破壊されてしまう。

 故にアシュラ転生体が死ぬまで隠れ潜み、インドラ転生体の力を慣らし運転して、色んな研究をしておこうと思う。アシュラの死後から行動を開始し、火の国が建国されたらその大名を写輪眼で洗脳するなり、成り代わるなりする。インドラ細胞とアシュラ細胞も培養しよう。

 

 以後、俺はインドラと名乗る。まあ名乗る相手はいないだろうが、もし本名を明かすような場面に出くわしたら、インドラという名の響きは格好良く聞こえるはずだ。

 

 楽しい楽しい黒幕ライフの幕開けだ。

 

 

 

 

 

 

 

 


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