『うちはマダラ・ラスボス化計画』   作:飴玉鉛

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『マダラの願いの道』前編後編で発生した矛盾を修正しました。
以下に二度目の(最終)修正点を記します。

1,マダラ〜前編で扉間は戦場で受けた傷により重症化、死亡という部分を修正。
2,主人公が木ノ葉へ潜入した時期を修正。三忍と同じ時期に。よってカカシと同年代の存在がいるため、親・子の二代連続で木ノ葉にいることに。親がアヤメ『三忍の一人』で、子がシズメで『飛び華道』となりました。
3,長門は輪廻眼をマダラから与えられていない。自来也の弟子になってない。よって『暁』は最初から生まれておらず、自来也の弟子はミナトのみ。
4,3の点から暁結成はオビト闇堕ち(マダラ堕ち)した後、インドラが創設することに。
5,計二回修正しましたが、一回目の修正時に書き足した「華道アタリ」を消去。華道アヤメ(三忍)とその子供の華道シズメ(カカシ世代)の二人に落ち着かせました。
6,カカシの父のサクモと自来也たちの年齢を全く考慮していなかった点を考慮し、年齢を踏まえて諸々を変更しました。
7,他にも修正点、加筆した点もあります。お手数をおかけしますが、前話のお読み直しを推奨させていただきます。

以上の点を修正しました。

作者の不始末で度々書き直してしまい、申し訳ありませんでした。今度こそ大丈夫なはずなので(大丈夫じゃなかったら諦める)、前話もお読み直しいただけると幸いです。修正後の話を踏まえて以後の話を進めるため、ん? と混乱する恐れがあるためです。よろしくお願いします。





第20話

 

 

 

 

 

 暗闇の中、沈痛な表情で佇む美少女がいる。

 

 簡素な木造の平屋。その居室でぼんやりと虚空を見ていた。

 

 灯りも点けずに佇む様は、さながら幽鬼の如し。

 木ノ葉の額当てを付け、少女は此処ではない何処かを眺め続ける。

 少女は何をしているのか――彼女は会話しているのだ。もう一人の自分と。

 

 

 

(クシナの出産日が割り出せたか。八尾を狙う動きは?)

 

 

 

 虚空に漂うのは、精神生命体のインドラ――ではない。これは木分身による霊化の術、即ち分身のチャクラ体だ。本来なら輪廻眼級の瞳力が無ければ視認できず、六道仙術の力がなければ感知も接触も出来ないはずの存在である。少女は前者だ。彼女は輪廻眼を有している。故に声は聞こえずとも視認することは能い、読唇術で言葉を解読しているのだ。

 光が全く無い暗闇ゆえに視認は不可能だが、もし僅かな光源でもあれば、少女の眼球が波紋のような紋様を描き、薄紫に変色しているのが分かるだろう。

 

 少女の名は華道シズメ。

 肉体の名は大筒ナルハタ――そのクローン体だ。

 

 正体は黒幕を気取る人に非ざる者。永劫を生きる故に、人を娯楽として消費する外道。暇を潰すために研鑽する、努力する化外。

 計画のためなら止まるが、必要に駆られない限り決して止まらない。彼女は未解明の技術も具え、()()()()()()()()()()()()()()()()も開発していた。感知タイプにアヤメその人と知られる恐れがないのだ。そして彼女は未だに研鑽の途上。修練の過程で彼女は自らのルーツを解き明かしている。

 インドラを自称する者。シズメを自称する者。同一であるその個体は、神樹由来生物だ。神樹――即ち十尾。彼女は本当の意味で尾のない尾獣であり、嘗て大筒木インドラを自称して柱間達と戦う時に全ての尾獣を集めている。その際に尾獣のチャクラを取り込み、チャクラの質だけなら十尾そのものと化しているのだ。つまり……()()()()()()()()()()()()()()()()

 理論上なら六道仙術も会得出来る。六道仙術は術が忍を選ぶ為、永遠にシズメが会得することは叶わないが、六道仙術を擬似的に再現したものは既に開発を完了していた。神の力だろうがお構いなしに――人の叡智が神の雷という権能を科学に貶められるように、()()()()()()()()()()()()()()()()()のがシズメという存在の最たる強みなのだ。

 

 故に山中一族の秘伝忍術も、印を盗み見るまでもなく開発、行使する事は容易い。自らの思念を目視した相手に限定して飛ばし、完全な秘匿性を確保した密談を実現するのは簡単な話だった。

 シズメは油断や慢心とは無縁だ。根が小物だからだろう。彼女は()()()()()()()()()()()()()()()()と考えている節がある。自分と同じ特性を持ち、運さえ良かったら凡人以下の者でも全く同じことが出来ると。だから天才を警戒するのだ。天才とされる人物を常に自分より上の存在だと見做している故に。――その上で危険を冒すのは、スリルが堪らないからだ。

 

 シズメはスリルジャンキーである。刺激が欲しくて堪らない。精神構造と強度が人間の域を超えているためか、どんな時でも集中力を欠く事なく、常にピリついている。暇潰しと言いながら、その暇潰しに全力投球をして、慎重に慎重を重ねて行動するのも刺激のためだ。

 封印術を警戒し、輪廻眼を警戒し、対策を練り続けるのも原作時代終了後を見据えての事。対策を練るということは、()()()()()()()()ということでもある。彼女はやがて六道仙人とも対決し、自身の存亡を懸けた火遊びをする準備すらしているのだ。

 

 謂わば物語に関係ないところでの、彼女にとってのラスボスは六道仙人なのである。目標があれば人は努力できる――シズメは人ではないが、この努力しているという実感が楽しくて仕方ない。

 

 将来を見据えてナルハタの魂が入った本来の肉体は封印し、神威空間に直接繋がりがない古丹空間に隔離してあるのも刺激の為。やがて来たる約束のラスボス戦に、景品として完璧な状態で保存しているだけである。カカシから神威を盗んだのだって、オビトを警戒してのものであり、こうした()()()行動をも楽しんでいた。

 神威を使えるオビトなら古丹空間に侵入可能だが、そのためには古丹空間の座標を知る必要がある。その手掛かりを得る術がオビトにはない以上、少なくとも今は安全だとも結論が出た。だが古丹空間の秘匿性が崩れたとなっては、重要な資源の数々を放置しているわけにもいかない。オビトですら侵入できない、否、侵入しようとも思わない例の場所に資源を移す事を考慮しよう。

 

 ――彼女は恐らく現世の人間の誰よりも、現実をエンジョイし続けている。好きこそものの上手なれとはよく言ったもので、その言葉を彼女は体現し続けているのだった。

 

 

 

『――八尾を奪取しようとする動きは無い。マダラから()()()()()()()()()()()()()オビトは、最終的に尾獣を全て集める算段を立て始めてはいる。だがオビトはオビトで、マダラが懸念していた大筒木インドラの生存を警戒して、そちらの存在を探し出そうとしているらしい。マダラの影響か、どうにもオビトからは絶望の気配がしない……()()()()()()()()()()()()()。八尾の奪取より、大筒木インドラを優先して始末しようとしてるのはそのせいだろう』

 

(結果オーライとは言えるな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。輪廻写輪眼と九尾を持ったオビトが襲ってきたら、流石にミナトも撃破されるだろうし。だが気になるな、マダラはどんな計画を話したんだ……?)

 

『分からない。暁の構成員として信頼を得ようとはしてるが、性急に動いたら仕損じる。時間を掛けてじっくりと懐に入れたら御の字、程度に構えていた方がいい。マダラの計画を知るよりも、疑われてしまわない方に注力すべきだろう。オビトの言動で計画の輪郭を推測するのに留めた方が賢明だと判断する』

 

(下手こかなきゃなんでもいい。オビトからの指示内容だけ伝えてくれ)

 

『了解だオリジナル。それと現場にいるオリジナルの感覚を聞きたい。ナルトは()()()()()()()?』

 

 

 

 クシナがナルトを出産する日が、本来なら彼女の命日になるはずだった。同時にミナトも。その日は出産日ゆえに人柱力としての封印が弱まるため、封印が外れないように儀式の支度が極秘裏になされることになっており、その極秘情報もこちらには筒抜けだった。

 シズメの計画だとクシナとミナトに死なれるわけにはいかない。クシナには引き続き八尾の人柱力のままでいて貰わないと困るし、ミナトは五代目火影候補の筆頭だ。木ノ葉の戦力は、他里に比べて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。クシナも、ミナトも、死なせない。うちははクーデターを企てない。フガクもイタチもシスイも死なない。更にシズメという戦力を加算した。

 全ては強い木ノ葉を作るため。計画の次の段階を見据えての布石。ここから更にナルト世代の台頭が始まれば、いよいよ木ノ葉一強の時代が到来するだろう。

 

 

 

(――問題ない。うずまきクシナの祖母、母には()()()()()()()()()()()()()()()()()んだろう。()()()()()()()()な。クシナとミナトは二人とも水遁と土遁の才能が足されている。ナルトはアシュラの転生体だから確定で千手の血を引いてる事だし、確実に()()()()()()()。これでクシナから封印術を、ミナトから飛雷神と螺旋丸を伝授される下地は出来た)

 

『先天的な才能の後天的獲得、計画通りだな。……いや元々ナルトは天才だったか』

 

(凡人が主役を張れるほどこの世界はヌルくない。こっちは順調だ、だがオビトが大筒木インドラを探ってるのはマズイな。まさかインドラが大筒木として再び出るわけにもいかない。蛇足にも程があるし、この期に及んで顔を出しても()()()だけだろ。私は最近のオビトの動きに関しては今知ったばかりだ、このままだと計画が停滞しかねない。修正案は出来てるのか?)

 

『ぶっちゃけ出来てない。場当たり的な対症療法を連続するしかなさそうだ』

 

(……大丈夫なのか? 私の側から出来ることはある?)

 

『無いな。そっちはそっちでエンジョイしてくれてたらいい。極論、楽しかったらそれでいいだろ。オビトも馬鹿じゃない、情勢が変化したら対応するために動く。逐一オビトの動向は伝えるが、オビトは右目に神威の万華鏡、左目に輪廻写輪眼を具えて使っている。深追いはできないし、常に新鮮な情報をお届け出来るわけじゃない。そこは諒解していてくれ』

 

(ああ。なんにせよナルトの中忍試験まで大過は無さそうだな。……()()()()()()()()の動向はリアルタイムで追い続けてるんだろうな? 手抜かりなくちゃんとやれよ)

 

『了解。それじゃ、俺は戻る。オリジナルも暫くは純粋に華道シズメとして、木ノ葉第一主義を貫いてくれ――っと。オリジナル、客だぞ。定期連絡はこれで終わりだ、俺は戻るから応対してやれ』

 

 

 

 最後に来客の存在を伝え、インドラは消えた。シズメの補助員としての木分身(インドラ)は、種子状に変化して家の植木鉢にいる。そちらは最初から最後まで沈黙したままだった。

 シズメは輪廻眼を普通の黒目に戻す。すると丁度そのタイミングで玄関の扉がノックされた。灯りが点いていないにも拘らず、まだシズメが起きていることを知っているかのような遠慮のなさだ。

 音もなく立ち上がり、衣擦れの音も生じさせずに玄関に向かう。

 シズメは木ノ葉最年少で上忍になったが、木ノ葉の中忍以上の者に支給されるベストを着ていない。黒地の着物を赤い帯で締め、その上に白い羽織を纏った姿だ。木ノ葉の忍の証である額当ては帯に紐で垂らされ、この格好で任務であろうと出向いている。

 およそ荒事には向いていない装束だが、特に不都合は感じていない。長い黒髪を腰まで伸ばし、まさに大和撫子といった風情のまま任務を遂行するのだ。故にこの格好は却って目立っていた。

 

 シズメが玄関に赴き戸を開けると、そこには白髪の傾いた男がいた。

 中年に差し掛かった男だ。皺が目立ち始めた風貌に、やや緊張している強張りを乗せ男は言う。

 

「お、おぉ……久しぶりだのぉ、シズメ……」

「……夜分遅くに誰が訪ねてきたのかと思えば、父上か。私に何か用でも?」

 

 男の名は自来也。名目上、シズメの父親ということになっている男だ。

 遺伝子情報を取り込んでいるので、現在のこのシズメの体(クローン体)だけは、DNA鑑定をしたとしても父娘認定がされる。だが全く似ていない。母親のアヤメと瓜二つの風貌なのだから当然だ。

 真実を知るのは大蛇丸のみ。シズメはアヤメである。内心では莫大な罪悪感を抱き、良心の呵責に苛まれている事を大蛇丸だけが知っている――勿論、実際には全く心は痛んでいない。大蛇丸ですらシズメを量れていないのだ。数百年も忍界の闇で生きる妖怪に、権謀術数や腹芸で上回れる者など存在せず、唯一牙を届かせられるのは極一部の特異点的な怪物のみである。

 シズメは無表情で自来也を迎えた。表面的には、乱世ゆえに互いに多忙で、特に関われていなかった父親に親愛の情を持てていない、という態度である。

 

 幼少期の友であり、情を交わした覚えはないが、自来也にとっては片思いの相手だったアヤメ。

 そのアヤメとの間に生まれたというシズメを、自来也はどんな時でも気にかけていた。アヤメが病で衰えていく様を見て、次第に狂気を帯びていたのも覚えている。故になんとか忘れ形見のシズメと仲良くなりたかったが、生憎子育ての経験などなく。父親らしさとは、娘に対する態度とは何かと悩みながら、自来也は任務で強敵と相対する時以上に緊張しながら言葉を紡いだ。

 

「用は特にないが……用がなくては会いに来てはならんのか?」

「ならん」

「す、スッパリ言うのォ……そういうとこはアヤメに似ないでほしかったぞ」

 

 あからさまに傷ついた顔をする自来也に、シズメは薄く苦笑いを浮かべる。

 母の木分身がいたとはいえ、大筒家で育った故に言葉遣いは古風であり、また子供の身で大戦で活躍し数多くの敵を殺めた経験のせいで、シズメは感情の起伏を表に出すことがない。

 趣味は修行。年頃の女らしく着飾ることは知らず、好物も特に無い。衣食に関心が薄く母が恩師にして恩人と語った猿飛ヒルゼンと、木ノ葉隠れの里を第一とする冷酷なくノ一というのがシズメ像だ。

 とはいえそれは表面的なもの。多重構造になっている人物像の深層(真相)を知る者はいないが、華道シズメの核心にある性質は『愛深き者』ということになっている。親密な人間が大蛇丸しかいないため、今現在はその性質は周知されていなかった。

 自来也もシズメの母アヤメに関しては、『愛深き者』という点は承知している。シズメに関しては手探りで探っている最中といったところだ。

 

「冗談だ。それより父上……私の言ったことを覚えていてくれたようだな」

「ん? あぁ……これか。……どォにも野暮ったい気がするんだが、似合っとるかのォ?」

「似合っている。母上が酒の勢いとはいえ、寝床に誘ったのも頷けるな」

 

 自来也は以前まで傾き者めいた格好をしていた。

 だがシズメが『顎髭を僅かばかり蓄えた方が色男だろう』と言った事を契機に、自来也は顎髭を伸ばし、自分なりに整えている。それを見たシズメは微笑んだのだ。

 照れくさそうに顎を撫でる自来也を自宅に招き入れる。蝋燭に手を翳して灯りを点すという、何気ない火遁の神業を見せながら居間の椅子まで導くと、椅子に座らせた父の後ろに娘は立った。

 

「お、おい……」

「大人しくしろ。折角だ、私がその雑な髪も整えてやる。ついでにダサい服もコーディネートしてやろう」

「だ、ダサい……!?」

 

 整髪料を持ち出した娘に戸惑うも、自慢の一張羅をさらりと酷評され自来也は落ち込んだ。

 だが自身の髪に娘の手が触れると、途端に大人しくなる。緊張しているのが丸わかりだ。

 無言で自来也の後ろ髪を、チャクラを纏った手刀で切り落とす。「おい!」と抗議されるのを無視して前髪を掻き上げオールバックにし、後ろ髪も真っ直ぐ綺麗に整えた。

 そこまで素早く仕上げると、シズメは一旦父親を放置して箪笥から装備一式を取り出す。

 

 裏地が鳶色の黒いフード付きコート。鳶色の戦闘装束。機能的でありながら無骨な印象を与える石の如き仮面。それらをテーブルの上に置いて、自来也に着替えるように促した。

 

「全て私が手ずから作った物だ。単独任務の多い父上の為に、少しでも性能のいい装備をと考え考案した。受け取ってくれると嬉しい」

「……シズメが、ワシの為に、か……?」

「なんだ。唯一の肉親に、僅かばかり気を遣っただけだ。何かおかしいか」

「いや! おかしくない……だが……ハハ、その……アレだ。なんだか面映いのォ……!」

 

 服装や髪型をダサいと言われても、娘からのプレゼントとなれば嬉しくないはずもなく。しかも自分が訪ねて来るのを待っていたように、用意されていたとなれば喜びも一入だった。

 自来也はいそいそ着替えだす。マナーとして退室したシズメはニヤリと笑った。娘云々、肉親云々は出任せだが、自来也を生存させるというのは目的に沿う。その為に()()()()を造ったのだ。

 あの仮面には劣化版白眼と言える機能が搭載されている。暗視と遠視、チャクラを含まぬモノの透視を可能とし、更に熱源探知やチャクラ反応を感知する機能まで実装している。時代を何十年も先取りしているオーパーツであるものの、どうやって造ったかは説明できる。

 

 大筒家だ。

 

 既に何年も前からカメラを開発して世に送り出し、以後も科学技術の研究を密かに重ねているという情報は裏社会に出回っていた。それを求めて火の国の大筒家に侵入する手合いは数知れず、そうした輩から機密情報を守るという名目もあって、アヤメは木分身を大筒家に置けたという事情もある。現在はうちは一族の者が専属で警護に就いており、それは極めて名誉な任務だった。

 シズメはその大筒家に幼少期は身を置いていた。そこで見聞きし、自分を気に入ってくれた現大名の長女が基礎知識を与えてくれた――という設定があった。

 

 木ノ葉上層部は科学技術の導入をシズメに促している。しかし、とうのシズメは科学技術は大筒家の赦しがなくては誰にも伝えられないと突っぱねた。木ノ葉にとって大筒家は軽視できない存在ゆえに、シズメのその言葉に何も言い返せていない。

 唯一、ダンゾウだけは執拗に迫って来たが。『大筒家は千手扉間より、忍同盟時代に大筒木インドラの存在を報告されている。その存在を暴くため、科学技術を研究開発したのだ。何処にインドラの耳目があるか知れぬ故、如何にダンゾウ殿といえどこの知識を授けるわけにはいかん』と告げると大人しく引き下がった。――ダンゾウは裏から大筒家に接触するだろう。

 その時に、今のダンゾウがどんな人物になっているのか見極められる。

 

「――シズメ。コイツは……」

「気に入ったか、その科学忍具を」

 

 着替え終わったのを見計らい居間に戻ると、仮面を着けたまま驚愕している自来也に声を掛ける。

 今や自来也の格好は、NARUTOの後の物語BORUTOに登場する果心居士そのものだ。果心居士は自来也のクローン、まだ自来也が若い事もあり完全に瓜二つである。

 

「噂に伝え聞く科学忍具……凄まじい代物だのォ。だがいいのか、シズメよ。これをワシに与えるのは、ちとマズイ気がするんだが……確か外部流出は大罪ではなかったかのォ」

「知識の流出はな。だが現物に関しては何も言われておらん。父上にそれを贈るのは、ギリギリで許容範囲内であろうさ。他人に聞かれたら単なる仮面だと言い張ってくれ、現物を他人にまでくれてやる羽目になる。それは面倒だ。敵に盗まれるリスクも高くなろう」

「………」

 

 仮面を外した自来也は、大事そうにそれを懐に仕舞った。なんとも嬉しそうな、後ろめたいやらと複雑な顔をしつつ顎に手をやる。その仕草でどうやら髭を触るのが癖になってるらしいと察した。

 

「何年も渡せず仕舞いだった、上忍昇格祝いを渡しに来たつもりだったんだが……これを貰ってしまっては恥ずかしくて堪らんのォ」

「何? 何が恥ずかしい、贈り物があるならさっさと寄越せ」

「……歯に衣着せないとこも母親そっくりとは」

 

 小声で呟き苦笑いした自来也は、着替える際にテーブルの上に置いていたらしい小包をシズメに手渡した。呟きを聞こえなかったフリをしつつ、シズメは小包を開く。

 するとその中にあったのはチャクラ刀だった。持ち主のチャクラ性質を吸収する特殊な金属で鍛造され、小太刀として拵えられている。チャクラ刀の使用者として代表的なのは猿飛アスマだが、千手柱間もマダラ戦で使用しているため決して弱い武器ではない。

 寧ろチャクラ刀は科学忍具の先駆け的な存在だと言える。この特殊な金属を転用する、という発想を誰かが得たなら、飛躍的に技術力は上がっていくだろう。

 

 シズメは五大性質変化の全てと形態変化を極めている。陰陽遁も同様だ。しかし『華道シズメ』としては土遁と水遁を含めた木遁、火遁の四種を扱えることになっている。そんなシズメがチャクラ刀を用いれば――高周波ブレード、ウォーターカッター、ビームサーベルと化すだろう。近接戦に於いて極めて有用な武器となるのだ。

 

「ほう。かなりの業物だ、恥ずかしがる理由が分からん。有り難く頂戴しておくぞ、父上」

「個人的には『父ちゃん』とか『パパ』と呼んでほしいんだがのォ……」

「戯け。その方が恥ずかしいわ」

 

 用が済んだら帰れ。そう言うと、自来也は慌てた。

 

「お前には情緒が足らんのォ! 父親をさっさと帰らそうとするとは、もう少し人の心を覚えるべきだぞ!」

「情緒? そんなものがなんの役に立つ。任務や修行に差し障りがないなら、私は今のままでいい」

「いいや駄目だ、そんなだと嫁の貰い手がなくなっちまうのォ! アヤメの為にも立派な女子に育てねばならん! ワシに付いて――」

「父上に女を説けるとでも? 片腹痛いわ、酒に頼らず女の一人ぐらい垂らし込んでから出直せ」

「うッ……そ、それは言いっこなしだろう? ワシにはアヤメが……」

「母上を盾にするな。むしろ母上なら、父上が後妻を迎え私の弟か妹を拵えたら喜ぶ。私もな。早く女を見つけて子供を作れ。一人っ子は寂しいぞ」

「ぐ……口まで達者とは……」

「口で娘に敵う父親はいないらしい。これに懲りたら余計な説教は控えろ」

 

 悔しそうにホゾを噛む自来也に肩を竦め、チャクラ刀の小太刀を帯に差す。

 娘が贈り物を身に着けるのを見ると、途端に嬉しそうにするのだから単純な男だ。

 そこでふとシズメは思い出したように言う。

 

「そういえば父上に頼みたいことがあった」

「な、なんだ……?」

「仙術を教えてくれ。第三次忍界大戦は終結したが、水面下での暗闘は終わらんだろう。何が切っ掛けで次の戦が始まるかも分からん、戦力を充実させておきたい」

「お前はもうワシより強いってのに……勤勉だのォ」

「大蛇丸先生にばかり師事していたら、父上の面目が立たんだろう。せめて一つぐらい父上から教わってやろうというのだ、感謝するといい」

「……憎たらしい口を利くのォ! いいだろう、『ガマ仙人』と名高きこのワシが、木ノ葉の飛び華道に仙術のなんたるかを叩き込んでやる! 後で泣き言を言っても聞かん、後悔しても遅いのォ!」

 

 四代目火影の大蛇丸を引き合いに出されては、自来也も黙っていられない。

 鼻息荒く話に乗ってくれた自来也に、シズメは相好を崩す。

 

 ――仙術も限界まで極めている。今更他人に教わるものなどない。故にこれは、ろくに仙術修行に時間を掛けられず、多忙なまま時間に追われていた自来也の仙術を完成させるのが目的だった。

 

 縁の浅い父娘が、人知れず歩み寄る中。

 木ノ葉の何処かで、うずまきナルトは生まれた。

 

 シズメは純粋に『華道シズメ』として振る舞うなら――同世代の夕日紅あたりを、自来也にあてがうのも面白いかもなと考えていた。

 

 中身のモノを抜きにしても、シズメ(アヤメ)というキャラクター性は中々に愉快犯なのだ。

 猿飛アスマには申し訳ないが、猿飛一族ほどの名門の出なら女など幾らでも見繕える。『華道シズメ』としては、自来也には満ち足りた人生を送ってもらいたいのだ。

 

 だってその方が楽しい。

 

 安易に悲劇と惨劇を振りまくだけが、黒幕気取りの職能ではないのだから。

 

 

 

 

 

 

 




疲れた……!

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