課金族様から頂いた、素晴らしき挿絵です。本作の扉絵にもさせていただきました。
王道的な漫画の表紙も斯くや! なんという画力! 感嘆の念を禁じ得ず、尽きぬ感謝の気持ちを伝えたい! ありがとうございます! あ、背景の不穏さは気にしないように()
【挿絵表示】
柔拳。日向一族が代々伝え、洗練させていった体術。これを華道シズメは完全に模倣し、宗家の当主と同等以上――はっきり言うなら完全に数段上回る技量で用いることが出来る。
八門遁甲の陣も使用可能であり、第八の死門を開く事も可能だ。
擬似的に再現した六道仙術を使用し、死門を自ら閉ざして死を回避するのも容易い。
未だ死門を公の場で開いた事はないし、疑似六道仙術をお披露目した事もないが、飛び華道の実力は広く知られていた。木ノ葉全ての忍術を極めたとされる『
そんな彼女に弟子入りしたい、あるいは一族に加え子を生んでもらいたいと企む者は多い。
しかしシズメは指南こそ惜しまなかったが弟子と言える者を取った試しがなく、体の関係はおろか誰かと恋仲になった事もない。故に最初の弟子となった波風ナルトと、うずまき香燐はかなりの有望株とされており、密かに羨望の的になっていたのだ。何せシズメは師としても優秀であり、指南を受けた者は誰もが一段と腕を上げていたからである。
故にこそ、日向一族宗家の当主、日向ヒアシは意外の念に駆られていた。
自らが才なしと見做し、後継者の資格はないと断じていた娘、ヒナタがシズメのお眼鏡に適って三人目の弟子になったのだ。
ヒナタが彼女のはじめての部下の一人という贔屓があるのかもしれないが、シズメは日向宗家の屋敷へ半ば強引に住み込み、付きっきりで修行を施す際に言った言葉は衝撃的なものだった。
『ヒナタは伸び代の塊だ。今より三年以内に並ぶ者なき柔拳使いへ育て上げてご覧に入れよう』
ヒナタより才のあるハナビではなく、日向一族始まって以来の天才のネジでもなく、ヒナタを一流以上の柔拳使いにする。シズメは臆面もなく断言した。
当主としての面目が立たない。ヒアシはシズメを叩き出したかった。だがそれは出来ない、日向宗家には彼女に大きな借りと恩があったからである。
以前。ヒナタが雲隠れの者に攫われた際、誤ってその不埒者をヒアシが殺害してしまった事がある。雲隠れの四代目雷影エーは、自らの行いを棚上げして、結んだばかりの平和条約を盾にヒアシを渡せと理不尽な要求をしたが、この際、四代目火影の大蛇丸は強硬に要求を突っぱねている。『あちらが戦争を望むなら、受けて立てばいいじゃない』と大蛇丸は宣ったが、平和的に事態を終息させられないかとの声が多く上がったのを無視せず、シズメに無理難題とも言える任務を課した。
即ち――雲隠れを黙らせろ。
任務の目標が曖昧で、何をどうしろという指示もなく、ただなんとかしろと独自裁量権を渡し命じたのだ。シズメは任務になんら不安を見せず、ヒアシの双子の弟ヒザシが影武者として生贄になると言うのを黙らせた後、木ノ葉隠れの里を出て任務に向かった。
雲隠れは国力、軍事力、いずれをとっても強大だ。火の国に匹敵する雷の国の擁する隠れ里であり、木ノ葉と一、二を争う強国である。故に戦争となれば被害は大きくなるだろう。強気な雲隠れとは対照的である木ノ葉が平和的解決を望むのは当然であり、雲隠れを引かせたシズメは喝采を浴びた。この時どのように交渉を纏めたのか、詳細を知らされたのは日向一族と、火影をはじめとする木ノ葉の上層部のみである。
シズメは自らが幼少期に世話になった大筒家の縁を頼り、事情を説明して解決のために協力を要請したのだ。シズメは自ら描いた絵図をプレゼンし、頷いた大筒家は彼女の意見を採用した。
雷の国を除く五大国――風、水、土、火の四国が仮初の連合を組んだのだ。雷の国の増長を諌めようと嘯き、軍事的に威圧したのである。風、水、土の国に出向き交渉を纏めたのもシズメであり、相応の対価を火の国は支払ったが、雷の国に匹敵する火の国にとっては痛い出費でもない。むしろ『一度は火の国が連合の盟主を務めた』という実績を得るには安い買い物だった。
更に木ノ葉へ飛雷神で帰還したシズメは、火影の認可を得て死刑囚を数名連れ出し、彼らを急遽上忍とした上で経歴を捏造。仮初の忍頭とした上で雲隠れに潜入し、七尾の人柱力ビーを襲撃し拉致してのけた。更に追撃隊に幻術で支配していた忍頭と他の隊員を全員討ち取らせてビーを奪還させると、木ノ葉に雲隠れ同様の要求をさせた。『血継限界・熔遁の使い手ドダイを寄越せ』と。木ノ葉にとって胸のすく思いがする意趣返しであると言えよう。
結果、雲隠れは雷の国より叱責され、やむなく引かざるを得なくなった。雷影エーは悔しさの余り大岩を砕き咆哮したが、引かないわけにもいかず。斯くして戦争は未然に防がれたのである。
これにより日向一族の白眼は守られ、木ノ葉の面目は保たれて、火の国も多大な利益を得た。
この件にヒアシは当主として、ヒザシの兄として礼を言って謝礼を渡したいと言ったのだが、とうのシズメはニヤリと笑い『貸し一だ』とだけ返し、礼の言葉だけしか受け取らなかった。
故にヒアシはシズメに頭が上がらない。木ノ葉有数の名門が、だ。だがそれでヒアシを憐れむ者はいない。何せ借りが出来たとはいえ、国家戦略級の忍と謳われ出したシズメと個人的な縁が出来たからである。むしろ羨む声のほうが遥かに大きかったほどだ。
人材豊富な木ノ葉隠れに於いて上忍達のリーダーとしての地位、『三忍頭』の位が火影・大蛇丸によって正式に設置されたのはこの時である。
自らの異名、三忍に擬えた位である。初代忍頭は雲隠れに討たれた生贄要員であり、二代目として波風ミナト、はたけサクモ、華道シズメが抜擢された。無論シズメ達が本当の初代である事など、木ノ葉の忍なら誰でも知っていることである。
――当時の貸しをヒナタを指導する形で返してもらうと言われては、拒否する事は不可能。ましてや日向一族の宗家の者を鍛えてもらうだなんて、逆に借りが出来る行為なのだ。これを邪険にしてはヒアシは当主失格と言われても文句は言えない。ヒアシは黙って、屋敷の庭でヒナタに課される修行を見ていることしか出来なかった。
「ひっ……ひっ、はっ……ふ、ふっ……せ、先生……! き、休憩……させてくだっ、ハッ、ううぅ……さいっ!」
息を乱し言葉も途切れ途切れで懇願する娘のヒナタ。彼女は疲労困憊の極致に達している。しかし師となったシズメは手を緩めず、弟子に
未熟なヒナタには有り得ない、ヒアシに迫る――どころか凌駕する型の流麗さ。対峙するシズメの影分身が繰り出す拳打を、ありとあらゆる柔拳の型を応用しながら捌き切っているのだ。
こんなことは有り得ない。実際、ヒナタが自分の意思で体を動かしている訳ではなかった。
原因は本体のシズメだ。彼女は影分身にチャクラ抜きの身体能力のみで、ヒナタに猛攻を仕掛けさせる傍ら、自身はヒナタの全身に傀儡の術のチャクラ糸を付け操っているのである。
半泣きで懇願する哀れな下忍に、シズメは破顔した。
「ほう、まだ泣ける余裕があるのか。ペースを一段上げ、予定より修行時間を伸ばそう」
「ひっ、ひぃ……」
「極限状態でもなお体が勝手に動くその感覚と、柔拳の型を忘れるな。いや、忘れてもいいぞ。覚えになくとも体が勝手に動くようにしてやる故な」
それそれと楽しげに指を動かすシズメに、嗚咽を溢しながら修行に励まされるヒナタ。
もはやある種の拷問だ。流石に見かねたヒアシは止めたくなっていたが、堪える。
先程も止めようとした時に言われたのだ。
『貴方の娘である前に、今は私の部下だ。部下が任務で殉職せずに済むよう、徹底的に鍛え上げる事は私の義務である。それを止める事は娘の死亡率を高めるのと同義。口出し無用だヒアシ殿』
――と。ヒアシとて、当主としてヒナタに見込みがないと断じているが、親としてはちょっとは情がある。そう言われては止められるわけがなかった。
まあ、ヒナタを冷遇し、身内に馬鹿にされ付き人すら自ら志願した一人しかいないとなると、ヒアシは親として三流としか言えない輩であり、シズメは遠慮なくそれを口にしている。
苦手意識。ヒアシは嘗ての大戦の折、シズメとも共に戦ったことがある戦友の間柄だが、シズメがもう苦手で苦手で仕方なかった。親として貴方は最低に近いぞとまで言われては、さもあろう。
やがてヒナタは失神した。極限状態を通り越したのだ。しかし、チャクラ糸を介して強制的に意識を覚醒させられ、更に全身の疲労を癒やされて、心肺持久力を回復させられる。
チャクラ糸を介しての医療忍術に似た何か。言うまでもなく超絶技巧だ。目を覚まさせられた少女は悲痛なうめき声を漏らすも、シズメはにこにこと見たことがないほど上機嫌だった。
「この一ヶ月で型の全てを覚えてもらう。それまで泣いても笑っても気絶しても修行は終わらんぞ。一分一秒でも早く修行を終えたくば呼吸を整えよ、一ヶ月後の試験をクリアしたくば寸分の狂いなく型を覚えるのだ。さもなくばこの修行を更に二ヶ月間延長する」
「――――」
声にならない悲鳴を上げ、ヒナタは目を血走らせた。
「貴様に足らぬ体力、筋力、忍耐力の基礎をここで固める。安心しろ、私だけは何があっても貴様を見放さん。貴様から離れていこうと地の果てまで追いかけ必ず連れ戻す。私が傍にいる限り死んでも蘇生してやろう。こう見えて私は医療忍術も修めている故な」
ヒナタに死んで楽になるという選択肢はない。
飛雷神のマーキングをされてどこにも逃げ場はない。
ヒナタに出来るのは生きて修行を終えることだけ。
そんな姉を哀れみ、同時にシズメを畏怖の目で見る妹のハナビは、父の背中に隠れていた。
少女は機械的に型をなぞり続ける。強制的に。
食事、入浴、トイレ休憩、睡眠を除き延々と、それこそ永遠に思える地獄の時を過ごした。
その先に、さらなる地獄が待っている事も知らず。
ヒナタは死に物狂いで修行に耐える。
唯一、修行という名の拷問から解放される時間。
任務の時間を渇望しながら。
「え、えぐいってばよ……」
ナルトはドン引きしていた。彼は多重影分身を利用しての経験値の積み重ね、影分身修行を断行させられているが、ヒナタの見ている地獄よりは遥かにマシと言わざるを得ない。
彼に付いているシズメは影分身である。弟子一号のナルトは日向の屋敷の庭を見て血の気を引かせていた。その様子にシズメは鼻を鳴らす。
「今の貴様らとヒナタの間にある差を埋めるには、こうする他にない。ただでさえ柔拳は絡め手や遠距離攻撃の手段に乏しいのだ、体術の一点だけでも貴様らを凌駕していなければ話にならん」
「でも流石にアレはないんじゃねぇの、シズメ姉ちゃん。一ヶ月後にはヒナタの奴、心が死んでるかもしれねえって……」
「ふふ、同情してやるとは余裕だな? 良い度胸――」
「頑張れヒナターっ! オレはお前を応援してるってばよ!」
シズメが言い切る前に大声を出して誤魔化したナルトは、自らの修行に打ち込む。
ナルトと香燐もまた日向宗家の敷地の中にいた。とはいえ屋敷の敷居を跨いではいない。屋敷の外の開けた私有地で修行しているのだ。
香燐はうずまき一族だ。チャクラ量は多い。故に彼女にも多重影分身の術を伝授し、本体を除き五体の影分身にはチャクラコントロールの修行をさせ、本体はシズメの影分身と組手をしている。
香燐の影分身達にはそれぞれ頭の上に手を置いたシズメの影分身達がいる。チャクラの流れを意識しやすいように補助しているのだ。忍術の基本にして奥義こそがチャクラコントロール技術であり、それを極めた先に手練の忍に至る道筋が見えてくる。
香燐にヒナタを心配する様子はない。自分も通った道だからだ。それもヒナタより幼い頃に。そもそも心配出来るだけの余裕もない。どうせ治すんだからと遠慮なく顔面パンチを食らわされるのだ、目の前の組手に集中する事は一人の女の子として当然の状況だった。
対し。
波風ナルトは螺旋丸を習得しようとしている。チャクラコントロールと、形態変化を極めて漸く会得が叶う強力な術だ。これに関してはミナトが『僕が教えたい!』と言っていたが、シズメはこれを完全に無視している。後日ナルトが自慢げに螺旋丸を披露した際、ミナトはショックの余り表情を失う事になるが、とうのシズメは全くの知らん顔をしていた。
影分身十体と本体を交えたナルト達は、
「だぁーっ! こんなん出来るかぁーっ!」
集中力が解けたのか、ナルトは大の字になって地面に倒れる。全身から汗を流し、息も乱れていた。そんなナルトの本体の傍に寄り、シズメは苦笑いを落とす。
「どうした? 今までどんな術を教えても、すぐ身に着けたじゃないか。今回もすぐに物にしてやると息巻いていたのに、もう音を上げるのか?」
「甘く見てたってばよ……父ちゃんが完成させるのに手こずるのも分かるってば……なあシズメ姉ちゃん、コイツを簡単に熟す方法、試したら駄目?」
「駄目だ。影分身に補助させ、チャクラの放出役と回転・圧縮役を分けるという案は、確かに螺旋丸の習得を楽にするだろう。それこそ他の下忍でも割と簡単に会得できるようになるはずだ。だがそれでは螺旋丸本来の
「けどよォ……一度成功させたらコツが掴める気がするんだってばよ」
唇を尖らせて不満そうに言うナルトの頭を持ち上げ、自身の膝に乗せたシズメが微笑んだ。
顔を赤らめ逃れようとする少年の頭を、両手でガッチリ掴んで捕まえたくノ一は言った。
「駄目と言ったろう? 休みながら聞け、影分身に補助をさせたらいけない理由を含め、幾つか教えておく事がある」
「な、なに……?」
「まず、補助を用いず習得させようとしている理由だ。螺旋丸はな、習得までに掛ける労力次第でチャクラコントロールの技術を向上させられる。螺旋丸がチャクラの形態変化の極みだからだ。ここでした苦労は必ず後で成果となる。よく言うだろう? 若い内の苦労は買ってでもしろ、と。これは苦労を買うのではない、苦労に見合った経験を買えという意味だ」
「……分かるような、分かんないような理屈だってばよ」
しなくていい苦労はしたくない、そんな顔をするナルトにシズメは噛んで含めるように伝える。
慈愛に満ちた、優しい姉の貌だった。ナルトは――そんな姉貴分の貌が、堪らなく好きだった。
「私を信じよ。今まで私が無駄な事を教えたか?」
「……ないけど」
「なら、気張れ。ナルトは誰よりも強くなって、火影になって皆を守りたいのだろう? 私すら守ると言った男の子は貴様だけだ……そんな貴様がこんな所で音を上げるな」
「……うん」
ナルトは――波風ナルトは、木ノ葉の全てが好きだった。
全て、と言えるほど知っている訳じゃないことは知っている。しかしナルトは自分を取り巻く全てが好きで、大事で、大切なのだ。
火影を夢として目指しているのは、父のミナトが五代目火影を誰よりも真摯に目指している影響であるのは否定できない。それでも確かに、この夢は自分の裡から溢れたものだと胸を張れる。
強くなりたい。強くなって皆を守りたい。そして――時々、ひどく辛そうな貌をするこの人に、大丈夫、オレがなんとかしてやると言ってやりたかった。
甘やかされている。――香燐やヒナタを見ると、ナルトは自分が特別扱いされている事に気づいていた。それはきっと、シズメが自分を本当の弟のように可愛がってくれているからだろう。
嬉しいし、照れくさい。だけど、なんとなく……嫌だった。
ナルトはこの人の庇護下に、いつまでもいたくない。守られたいわけじゃないのだ。上手く言えないけれど――対等の忍として見てほしい。そのために、ナルトは気合を入れる。
「うっし、休憩はここらでいいってばよ! 修行の続きだぁ!」
「まあ待て、まだ話は終わってない」
「んがっ!?」
拘束が緩んだため、勢いよく立ち上がったナルトの襟首を引っ張られ、ナルトは間抜けな声を上げてひっくり返りそうになった。
「何すんだ!?」
「まだ教えていない事がある。いいから聞け」
出鼻を挫かれたようで堪らず抗議した少年に、女は苦笑した。
苦笑して、少年の手を握る。歴戦の忍らしく、硬いはずの手は――しかし柔らかい。
暖かな感触に包まれ、再び赤面するナルトにシズメは秘密を告げた。
「ナルト。実は今の今まで、ミナトやクシナと相談し秘めていた事がある」
「な、なんだってばよ……?」
「貴様のチャクラ量だ。今ですら上忍級の四倍はあるナルトのチャクラ量だが……本来の貴様はそんなものではない」
「……ん? どゆこと?」
首を捻る。どういう事か今一理解できなかったのだ。
「うん。有り体に言うと、貴様のチャクラは封印術で抑え込まれているのさ」
「……なんで?」
「幼い頃から膨大過ぎるチャクラがあれば、平和な環境だと傲慢に育ちかねないからだ。故にミナトらと相談した上でチャクラ量を制限していた。本来の貴様のチャクラ量はこの私を凌駕する。上忍クラスの百倍だ……これがどういう事か分かるか?」
「ひゃ、百倍……? ぜ、全然分かんねぇってばよ……」
「完全な九尾を除く尾獣に匹敵するという事だ」
驚愕しているナルトに、シズメは丁寧に説いた。
「尾獣が封じられている人柱力という訳でもないのに……私のように特殊な出自でもないのに、素でそれだけの力を持っていたのは初代火影の千手柱間だけだ。ましてや貴様は木遁を使える、これだけで国家間のパワーバランスを大きく崩す要素と言えよう。誰ぞに危険視され、暗殺の危険に身を晒す事にも成りかねんし……何より貴様が原因で戦争が再開されては堪らん」
「………」
「ただでさえ木ノ葉は忍の質で他里を圧倒している。ここで更にナルトの存在が大きな脅威になると分かれば、ナルトが生まれた頃の緊張関係にあった他里は戦争を再開していただろう。故に情勢が安定してきた今まで封印を掛け続けてきた。そしてナルトはこんなに良い子に育ってくれて、情勢も落ち着いてきたから……そろそろ封印を解いてもいいだろう、と決まったわけだ」
「……ごめん、ちょっと理解が追いつかねぇってばよ」
「さもあろう。ま、いきなりチャクラ量が増えてもコントロールが難しかろうしな、段階的に解放していくのが無難か」
自分のせいで戦争が――と、唐突に明かされた秘密に思考停止した少年に、シズメは肩を竦める。
そこに罪悪感などの感情は見えない。ナルトの本来の才能を制限していたというのにだ。
無論、それに思うところがないと言えば嘘になるだろう。しかし戦争なんかの火種になりかねなかったなら、むしろ感謝したいぐらいである。不満はあるが、封印した方がいいと判断した両親と姉貴分の事は信頼している、彼らがそうするべきだと考えたなら納得できた。
「封印は五段階に分けて掛けられている。最初の一段階目の担当は私だ。私が解いてもよいと判断した時期に、独自の判断で解いていい事になっている」
「……他の四段階は?」
「二段階目がミナト、三段階目がクシナ、四段階目が父上――自来也、五段階目はまた私だ」
「面倒な掛け方をしてるのはなんで?」
「それだけ慎重に取り組もうと考えていただけの事だ。さあ、早速一段階目を解くぞ」
シズメがナルトの額に手を触れる。額当て越しに、女忍頭は片手で印を組んだ。
解、と呟かれ。瞬間、ナルトは自分の中でカチリと音がするのを聞いた。
――その一ヶ月後。
影分身のシズメの試験をクリアし、歓喜の余り咽び泣くヒナタ達の許へ、本体のシズメがやってきて告げる事になる。
Aランク任務を持ってきた。出掛けよう、と。
シズメが居たらなんとかなる、そんな上層部の甘い見立てが込められた、突然の任務だった。