『うちはマダラ・ラスボス化計画』   作:飴玉鉛

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日付が変わるこの時を待っていた!
導入話みたいな回。短いでござる。


第28話

 

 

 

 

「由々しき事態よ」

 

 ある日の夜。

 極秘裏に火影室に呼び出されたのは、三人の忍だった。

 三忍頭。木ノ葉の忍達のリーダー格である、三人の忍頭達だった。

 四代目火影・大蛇丸が、特に優れている忍三人に授けた称号であり位だ。

 

 一人は、波風ミナト。

 次期火影候補の筆頭であり、他者からの人望に厚い、人呼んで木ノ葉の黄色い閃光。火影直轄の暗部を率いる身であり、身寄りのない子供達を引き取る孤児院の責任者でもあった。

 一人は、はたけサクモ。

 白い牙の異名を取る、白髪の壮年男性だ。特異な術こそ持たないスタンダードな忍だが、幅広い能力と豊富な経験、確かな実力に裏打ちされた戦術眼を有し、影クラスの戦闘力を誇る者だ。木ノ葉の実質的な総司令官であり、火影に代わり戦線を差配する権限を持つ、現場からの支持も絶大な英雄である。雷遁忍術を得意とする彼は、嘗て三代目雷影エーとも互角に渡り合っていた。

 一人は、華道シズメ。

 この場では最年少ながら、国家戦略級の忍と讃えられる、木ノ葉最優にして最強の呼び声高き特記戦力である。飛び華道はこれまで直属の部下を持たず、常に単独で任務に当たっていたが、周辺国家や隠れ里を取り巻く環境が落ち着いたことでやっと部下を持ったばかりだ。

 

 他にも先代火影・猿飛ヒルゼン、大筒家の近衛である十二人のうちは一族、守護忍十二士のリーダーであるうちはカガミ、根の長である志村ダンゾウもいた。彼らはそれぞれが火影の相談役でもあり、火影を以てしても決して無視できない発言力がある。

 錚々たる顔触れだった。そんな彼らを従える火影――大蛇丸は重々しく告げたのだ。非常にマズい事が起こったのだと。それにミナトが質問した。

 

「大蛇丸様が我々を極秘で招集するなんて……只事ではなさそうですね。それで、何があったんですか?」

「………」

 

 蛇のような目を、大蛇丸はミナトに向ける。

 爬虫類じみた迫力がある大蛇丸だが、外見の印象に反して責任感が強く、面倒見もいい上に良識的で、火影の職務に真摯に取り組む彼は、先代のヒルゼンにも劣らぬ人望があった。付け加えて闇の如きダンゾウとの折り合いもよく、まるでヒルゼンとダンゾウの良い所を足して二で割ったような人物である。何かと意見が対立するヒルゼンとダンゾウも大蛇丸を信頼していた。

 無論うちはの長老格でもあるカガミも大蛇丸を認めている。四代目火影は清濁併せ呑める稀代の指導者だ。うちは一族が長と認めるに足る存在で、何を隠そう()()()()()()()婿()()()()()のだ。カガミは彼の能力や人柄、続柄まで含めて全幅の信頼を置いていた。

 

 そんな誰からも慕われる、『二代目・教授(セカンドプロフェッサー)』たる大蛇丸は、重々しく告げた。

 

「――――が、盗まれたわ」

 

 場が、水を打ったように静まり返る。それほど衝撃的な報せだった。あの忍の闇である志村ダンゾウですら……否、ダンゾウだからこそ驚愕に目を見開いていた。

 

「……何時、どのようにして。下手人の目星も含めて判明しているものは?」

 

 顔を強張らせるヒルゼンを横に。沈黙を破って質問したのはサクモだ。大蛇丸はダンゾウに一瞥をくれた後、ゆっくりと獲物を捕食する蛇のような声音で返答した。

 

「盗まれたのは昨夜ね。警備に当たっていたのは『根』の者や、私の部下、他にミナトの部下よ。全員が腕の立つ忍で、長期に亘っての警備でも気を緩ませるような不心得者はいなかったわ。どうやって、厳重な警戒網を敷いていた場所から盗み出したのかは不明ね」

「……大蛇丸よ、悠長に構えておる場合ではないぞ。ただちに下手人を探し出し、――を取り戻さねばマズい事になる!」

「落ち着いてください、猿飛先生。犬塚一族、日向一族、油女一族を含めた追忍部隊なら既に放っているわ。私がこうして貴方達を集めたのは、何も事後報告をするためじゃないのよ」

 

 焦りを前面に押し出して声を荒げるヒルゼンを制し、大蛇丸はあくまで淡々としていた。

 冷静沈着。泰然自若。トップに立つ者は如何なる事態でも動じない。

 愛弟子のそんな姿に、ヒルゼンは固い息を吐いた。ワシも老いたなと自嘲する一方、頼もしい後継者が誇らしくもある。が、そんな感慨を抱いている場合でもない。

 一方、シズメが呆れたように混ぜっ返した。

 

「フン。事後報告ではない、だと? 私は以前から再三に渡り、早々に処分するべきだと進言していたはずだ。先生は私の進言にまるで耳を貸してくれていなかったようだが、その点に関しては?」

「シズメ、勘弁してちょうだい。処分云々は私の一存で出来ることじゃないのよ」

「どうせダンゾウ殿が絡んでおられるのだろう。追求はせぬが、以後は私の意見にも耳を貸してもらいたいものだな」

「………」

 

 責めるような。咎めるような。そんな一瞥を飛び華道に向けられたダンゾウだったが黙殺した。

 目を閉じて何かを思案している。しかし、一瞬。ほんの一瞬だけシズメを睨み付けた眼光に、この場の全員が気づいていた。何せ全員が影クラスの実力者である、些細な視線に気づかぬ訳がない。

 訝しむような目がダンゾウに集中した。長年の労苦を偲ばせる白髪の老人、ダンゾウは目を開くと各々の視線を無視して大蛇丸に言葉の続きを促す。

 

「事後報告ではない、とはどういうことだ?」

 

 なんの感情も伺わせない、能面のような貌。

 平坦な声音での問い掛けに、大蛇丸はやはり静かな語調で応じた。

 

「ダンゾウ。以前貴方から提供された()()()()、それに類似したモノの残り香を、犬塚一族の忍犬が嗅ぎ取ったそうよ」

「――――!」

「貴方なら昔の記録は忘れていないはず。つまりね、()()()()()()なのよ」

「その()()()()とは何か、僕達にも教えてもらえませんか?」

 

 二人だけ事情を知っているような遣り取りに割って入ってミナトに、火影は一つ頷いてダンゾウを見た。周知するけど、構わないわね? と。そんな意図を汲んだダンゾウも頷きを返した。

 この場で話されてしまっては、隠す意味もない。しかもこの期に及んで秘匿しているわけにはいかなくなった。故に、ダンゾウも承認するしかなかった。深い苦悩の跡が刻まれている眉間を寄せ、老人は深い熟考に移っていく。それを尻目に大蛇丸は情報を開示した。

 

 次第にミナトやサクモ、カガミやヒルゼン、そしてシズメまでも驚愕に目を見開いていく。

 

 説明を終えた大蛇丸は、ややうんざりしたように溜め息を吐いた。

 

「……疲れたわ。ミナト、そろそろ火影になる気はない? 私も体力的な限界が近いわよ」

「御冗談を。僕はまだまだ大蛇丸様から学びたいことが山ほどあるんです。こんな大事があったばかりなのに、事態の終息も見ずに退任するのは見過ごせませんね」

「ワシも同意見じゃ。ワシらより一回りも若いのに音を上げるでないぞ、婿殿」

 

 ミナトが固辞するのに、カガミが同調して却下した。

 まだ先は長そうね、と嘆息した火影は気を持ち直す。

 

「――以上の事態を受けて、ここに極秘のSランク任務を三忍頭全員に発行するわ。拒否は赦さないわよ、なんとしても……絶対に成し遂げなさい」

「了解」

 

 ミナト、サクモ、シズメは頷いた。解散を告げられると、三忍頭とカガミ、ヒルゼンは退室する。

 ダンゾウもまた立ち去った。

 熟考の末――彼は自らの居室に戻り、幻術結界の中で影分身を行う。

 そうして彼は影分身を居室に残し、ある場所に向かった。

 策謀の臭いを辿り、下手人へ牙を届かせるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――貴様らに朗報だ、我々第一班に任務が舞い込んだぞ」

 

 そして始まる、波風ナルト物語の序章。少年の運命が始まる激闘と――その裏で繰り広げられる一瞬の交錯。身命を賭し、執念を混ぜ合わせ、策を競わせる刹那の暗闘の表側を、未完の大器は行く。

 渦中のくノ一は、ニヤリと美貌を綻ばせて少年たちに告げた。

 

「木ノ葉の機密情報を奪取した何者かが、()()()に逃亡した。我々はその追跡、および所在の調査を請け負い、場合によっては捕縛ないし殺害を目標として動く。拒否は許さん、いくぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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