『うちはマダラ・ラスボス化計画』   作:飴玉鉛

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うっ、うっ、皆が……皆がやれって言うからぁ()

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グロ注意。外道注意。ゲス野郎注意。およそ思いつく限りの罵倒用語該当注意。
詳細はまた後々に判明します。





第29話

 

 

 

 

 

 道端に転がる、なんてことはない木屑。

 

 世界中のどこにでもある、些細なオブジェクト。

 

 世界のどこかで、幾人かの僧が通る。

 

 僧の一人が名を呼ばれ、木屑が嗤った。

 

 ――みぃーつけた。

 

 

 

 くちゅ     チュ

 

 

 

 淡々と。

 黙々と。

 頭蓋を開き、脳を弄る。

 脳の機能、構造、悉くを解き明かした外法。それを用いての外科手術。

 物言わぬ被験体。器を補強し、電気を流し、経絡を活性化させ、経穴を閉じる。

 波紋を描く紫の眼が妖しく光った。

 木屑に変じた己の分身が、数百年も探し求めたモノを捕捉したのだ。

 ――脳を、弄る。ビクリと痙攣した被験体に、溢れる笑み。

 実験者は被験体の横たわる手術台を前にして、莫大なチャクラを練り込み、印を結んだ。

 

「穢土転生の術」

 

 行うは最後の仕上げ。

 確保していた哀れな犠牲者を生贄に、浄土より蘇りし男を即座に処理する。

 

()()術、無殻輪郭(ムカクリンカク)の術

 

 其れは、()()()()()に対する特効術として開発していたモノ。

 此度は物のついでとばかりに実験も兼ねた。

 穢土転生体を漆黒の球体に圧縮し、指先ほどの大きさに鎖す。

 輪廻眼にて観察し、術の効力を認知した実験者は満足げに頷いた。

 邪なる者は黒き球体を巻物に封じ込め、次元の異なる時空間に保管する。

 

 細工は流流。実験者は被験体に向き直った。

 

 異端の外道は再び印を結ぶ。

 現れるは、忍宗の開祖を模したる隈取。額に生える、悍しき一本角。

 其れこそは五大性質変化、陰陽遁を網羅せし血継網羅の証――

 否。違う。其れは()()()()に由来するモノの本性である。

 実験者は厳かに、しかれども軽薄に、唱えた。

 

「――神樹(六道)仙法、不屍転生の術」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「木ノ葉の機密情報を奪取した何者かが、()()()に逃亡した。我々はその追跡、および所在の調査を請け負い、場合によっては捕縛ないし殺害を目標として動く。拒否は許さん」

 

 ヒナタが一次試験を突破した翌日の事だ。突如として招集を掛けられた下忍の少年少女達は、上官であるくノ一から投げ掛けられた言葉に目を剥いた。

 前日にてヒナタが柔拳の型をマスターした祝いとして、ナルトや香燐共々焼肉店に連れて行ってもらい盛大に祝福されたばかりだ。だというのにその次の日に言い渡された任務に、しかし。

 

「はい! 頑張ります!」

 

 一番忌避感を持つかもしれない少女、ヒナタこそが剣呑な任務にやる気を燃やしていた。

 明らかにBランク以上の任務という事で、微かに緊張した仲間達が唖然とする。よく見ればヒナタの目は完全に()()()()()()()()。心神喪失状態のまま凶行に及ぶ危険人物そのものである。

 一ヶ月間も極限状態を超越した状態で修行に打ち込んだ影響だろう。確実に自分を見失っている。香燐は血相を変えてヒナタの正面から肩を掴み、ガクガクと全身を揺らした。

 

「おい! しっかりしろ日向! 頑張りますじゃねぇだろ!? 明らかに下忍のウチらが関わっていいような任務じゃねぇんだから!」

「そ、そうだってばよ! 目ぇ覚ませヒナタ――」

 

 ナルトもまた香燐に同意してヒナタに歩み寄ろうとした、刹那。ヒナタの姿が消えた。

 目にも留まらぬ速さではない。寧ろ自然体のまま香燐とナルトの意識から外れる見事な体捌きを披露したのだ。そのまま流れるように、自らの肩に触れる香燐の両手首に軽く接触し、更に懐に潜り込むや胴体へ素早く人差し指を突き込んだ。

 は? と間の抜けた声を漏らしたのは、果たして香燐だったか。もしかするとナルトだったかもしれない。香燐は力なく数歩後退すると、踏ん張ることが出来ずに仰向けに倒れてしまった。

 点穴を突かれたのだ。それを見たシズメが苦笑して、ヒナタの額を小突く。

 すると我に返ったヒナタが悲鳴を上げた。

 

「ぁ、ああああ! ご、ごめんなさい香燐さん! すぐ点穴を開きます!」

 

 ピクピクと陸に打ち上げられた魚のように痙攣する香燐を救護する少女。

 呆然としながらナルトは言った。

 

「……なあ、シズメ姉ちゃん」

「ん?」

「……ヒナタの奴、ヤベェ奴になってんだけど」

「んー……気にするな、返事も含めてただの条件反射に過ぎん。そのうち元に戻ろう」

「………」

 

 条件反射で体が勝手に動き、仲間の点穴を突くような状態を「気にするな」は無理だ。顔を引き攣らせたナルトは、暫くヒナタに近づくまいと心に誓う。

 だって今のヒナタの動きはとても洗練されていた。一ヶ月前とは完全に別人である。上忍の凄い人と比べても遜色ない。どんだけの地獄を見たら、下忍の身であそこまで強くなれるのか。

 戦慄するナルトだったが、シズメは不満げに呟いていた。

 

「所詮は型通り、か。実戦レベルではないな……」

 

 あれで? 女神も斯くやといえる美貌の姉貴分を見上げたナルトをよそに、香燐はなんとか自力で立ち上がるとズレていた眼鏡の位置を直す。

 何度も頭を下げて謝るヒナタに、気にすんなと男前に返す香燐。彼女もヒナタに悪気がないのは分かっていた。元凶は寧ろシズメである。だが気弱なヒナタに当たるのは情けないし、シズメに食って掛かる気にもなれなかった香燐は何事もなかったように振る舞った。

 ……プルプルと脚を震えさせる様は憐れを誘う。

 ナルトはそんな香燐の心情を汲み、気づかないふりをしながら改めてシズメに問を投げた。

 

「あのさ、あのさ、シズメ姉ちゃん」

「なんだ」

「今姉ちゃんが言った任務なんだけどさ、それって明らかに下忍のオレらが受けていいもんじゃない気がすんだけど……そこらへんどうなんだってばよ?」

「何も問題ない。表向きはCランク任務だからな」

「……裏向きは?」

「Sランク任務だ」

「………」

 

 あっけらかんと言い放つシズメに、パッカーンと大口を開けて絶句するナルトである。

 ここで『よっしゃあ! オレに相応しい任務が来たってばよ!』なんて馬鹿丸出しの気合を見せる波風ナルトではない。寧ろ普通に冷静で、今の自分が関われば死ぬと理解出来ていた。

 我に返ったことで怯えるヒナタだが、元々の性格と一ヶ月間の拷問――もとい修行のせいでシズメに逆らう気になれず黙ってしまう。香燐も香燐で、隣の少女のせいで立っているのがやっとだ。

 故にナルトが代表して意見を言うしかない。少年は果敢にも大声を出した。

 

「は、反対反対はんたーい! オレってばぜってぇ反対だかんな! 勇気と蛮勇は違うってばよ! ヒナタと香燐もそう思うよな!? Sランク任務は今のオレ達にはまだ早いって!」

「そ、そうだな」

「……わ、わたしもそう思」

「ヒナタ」

「はい! 頑張ります!」

「ヒナタぁ!? 目ぇ覚ませって!」

 

 呼び掛けられただけで反射的に応答するヒナタに、ナルトは目を見開いてツッコミを入れた。

 だが自身の頭に手を置いた人が、余りに恐ろしくて震える事も出来ず、魂の抜けたような白い顔でカクカクと頭を上下に振っていた。

 悪魔のような笑顔で、シズメは言う。

 

「拒否は許さんと言ったが、そこまで言うならやむをえまい。貴様らは置いていく。斯くなる上はヒナタと私だけの二人旅と洒落込もう。波の国につくまでの修行、楽しみであろう? ヒナタ」

「はい! 頑張ります!」

「………だぁぁぁ! ズリぃってばよ! こんな状態のヒナタを連れてかれてさ、自分だけ行かねえなんてダサい真似は出来ねえ! オレも行く! それでいいんだろ!?」

「よく言った。それでこそ男だと褒めてやろう」

「……もしかしてこれ、ウチも行く感じなのか……?」

 

 釈然としない様子の香燐だったが、一人だけ行かないとも言い出し辛い。赤毛の少女は嘆息し、しっかり者らしく上官へ質問した。

 

「あのー、シズメさん? なんでウチらみたいなペーペーの下忍を、上忍が受けるようなSランク任務に連れて行く気なんです?」

「単なる見学の為だが」

「……見学」

「貴様らは私の部下だ。この私が直々に鍛えてやっている以上、いずれ上忍になる道は約束されているも同然。故に少しでも多く、貴重な経験を積ませてやりたい。安心しろ、任務は私だけで熟す。貴様らは私の後ろに隠れ、見学しているだけでよい。念の為、上忍をもう一人、貴様らの保護役として派遣してもらえるように要請しておいた。貴様らには怪我一つさせんよ」

 

 なるほど、とナルトは納得したようだったが、香燐は違った。

 違和感を覚える。何か、急いでいるような気配があるのだ。

 急ぐ? 何を? ……自分達を鍛える事をか? 何故それを急ぐ。

 漠然とした不安が脳裡を過ぎった。

 思えばヒナタへ課した修行、あれは明らかにやり過ぎである。

 確かにシズメはスパルタな鬼教官でもあるが、あそこまで行き過ぎる人ではなかった。

 まるで……()()()()()かのように。

 差し迫った制限時間に、追い立てられているかのような。

 そんな――嫌な予感が香燐の中に生まれる。

 

「その上忍ってのは誰なんだってばよ」

「さあ? 私は要請しただけだ。受理こそされたが、誰が来るかはまだ知らされていない」

 

 急ぎの任務だ、さっさと支度をしろ。一時間後に里の南門に集合だ。

 そう言ったシズメが解散を告げると、三人は慌てて旅支度を整えに自宅へ向かった。

 香燐は生じた不安から目を逸らす。そんな馬鹿な事があるか、と。

 

 うずまき香燐の家は、波風ナルトの隣にある。親戚にして幼馴染という間柄なのだ。必然的に走る道が同じになり、何を持って行くべきかナルトと相談しながら自宅に駆け込んだ。

 一時間で旅支度と南門への集合を終えないといけない。両親に暫く帰らないから! とだけ大声で伝えて大急ぎで家を出た。忍具や着替え、眼鏡の予備、白紙の巻物を数本リュックサックに詰めている。それだけで結構な荷物ではあるが、この一ヶ月間の指導でパワーアップしたお蔭で負担を感じない。

 

 南門に駆けていく最中、町中でうちはサスケの姿を見掛けて、猛烈に声を掛けたくなったが懸命に堪えて素通りする。時間がギリギリなのだ。

 どうやら香燐が一番遅かったらしい。南門に到達した香燐を、シズメとヒナタ、ナルトが待っていた。――そしてもう一人、見知らぬ青年がいる。

 

「あ? アンタ誰だよ?」

 

 たぶんシズメさんが言ってた保護役の上忍だろうな、とは想像がつく。が、基本的に口が悪い香燐は敬語を使わなかった。にも拘らず黒髪黒目の青年は気を悪くした素振りもなく笑顔であった。

 見れば、ナルトはどこか機嫌が悪い。ヒナタはおろおろしているし、シズメですら若干辟易していそうな、微妙に困っているような表情をしていた。この人を困らせるほどの人なのかと微かに警戒する香燐へ、青年はにかりと明るい笑みを湛えて自己紹介をしてくる。

 

「ははは、誰だとはご挨拶だな。君がうずまき香燐だろ? オレはうちはシスイ、シズメさんの任務に同行する事になった上忍だ。よろしく頼むよ」

 

 

 

 

 

 

 

 


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