『うちはマダラ・ラスボス化計画』   作:飴玉鉛

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第3話

 

 

 

 

 大筒家。うちは一族が主君と仰ぐ、火の国の大名一家。

 

 父であるうちはタジマが千手一族との戦いで戦死し、新たな当主となったマダラの下へ、その大筒家から使者が送られてきた。

 幼少の頃から大筒家への恩と感謝の気持ちを刷り込まれてきたマダラは、父タジマの葬儀にも参列してくれた使者を丁重に迎え入れた。うちは一族が長きに亘って世話になってきた相手だ、失礼があってはいけない。彼らしくなく居住まいを正したマダラだったが――使者からの伝達を受けたマダラは唖然とさせられてしまう。

 

「は……? し、使者殿……今、なんと?」

 

 使者は真面目くさった調子を崩さず、あくまで淡々と告げた。

 

「我が主、大筒シュテン様からのお達しだ。新たにうちは一族の当主となった者に、大筒家のナルハタ姫を嫁がせていただく。これは先代当主タジマ殿とも内密に話し合い決定された婚姻だ。マダラ殿におかれては、ナルハタ姫を正室として迎え入れてほしい」

「………」

「貴殿の気持ちは分かる。だが私とて遣いに過ぎん、私に何を言っても決定は覆らんぞ。マダラ殿、畏れ多いと思うが有り難くこの話を受け入れよ。……これはシュテン様からの親書だ」

 

 マダラは愕然とした。そんな話、タジマから一言も聞いていない。

 

(大筒家のナルハタ姫を、オレの妻に……? 忍界は戦国の世だぞ、貴種の姫をそんな危険なところに……しかも忍など下賤と宣うような外界の者が……そんなバカな真似をするのか……?)

 

 今のマダラの心境は混乱一色。大恩ある主が家臣の1人に、突然自家の姫を降嫁させようというのだ、彼の理解が追いつかないのも無理はない。

 マダラとてうちはの男だ、大筒家には忠誠心を懐いている。今はもう戦死してしまったが、弟たちが戦場で受けた傷を大筒家の薬で治療し、一命をとりとめたこともあった。故に感謝の気持ちを強く持っている。だからこそ解せないのだ、幾ら何代にも亘って主従関係があったとは言っても、うちはは火の国の家臣の1人に過ぎない。忍ゆえに社会的地位は決して高いとは言えないのだ。

 そんな忍の一族になぜ大事な姫を嫁がせる。まるで意味が分からない。マダラは頭の中を真っ白にしてしまいながらも、使者から渡された親書を開いた。

 

 どうしたらいいのかと焦っていたマダラだったが、読み進めていくと意外と納得させられる。親書には余分な文を省くとこう記されていたのだ。

 

 ――火の国では現在、忍界にて争いを続けるうちは一族を疎ましく思い、排斥しようとする動きがある。これを抑えるために、我が家臣であるうちはの当主に姫を降嫁させ、大筒家にうちは一族を排する気はないと内外にアピールする必要があるのだ。苦労を掛けてすまないが、うちは一族の当主は大筒家の姫を受け入れ妻としてほしい。変わらぬ忠節に期待する。

 

 マダラは一族の当主だ。大筒家への恩と感謝の気持ち、忠誠心を除いても、大筒家との関係を悪化させるような真似は出来ない。今でも手厚い支援をしてもらっているのだ、拒否権はなかった。

 それに不満もない。理由には納得したし、マダラ自身も周囲から早く嫁を迎えろと口煩く言われ続けているのだ。公私両面で言っても不都合はなく、寧ろ好都合だと言える。姫を嫁に迎えたら大筒家との繋がりはより深くなる、さらなる支援も望めるのだ、否はない。

 ないが、それでも姫を嫁にするのはかなり畏れ多い。一族に相談したかったが、即断しろと使者の目が言っている。マダラは何も言わず逝った父へ内心恨み節を溢し、やむなく頷いたのだった。

 

 

 

 ――この婚姻がまさか自身を狙った策謀であるなどと、マダラには思いもよらぬことだった。

 

 

 

「よく来たな、マダラよ」

 

 火の国の首都に招かれたマダラは、大筒家の広大な屋敷に通されていた。

 忍界には有り得ぬほどの広さは、流石は大名家の屋敷といったところ。畳の敷き詰められた広間にて、上座に坐り待ち構えていた男がいる。しかしマダラは、その男を見た瞬間動けなくなった。

 幻術を掛けられたわけではない。ただ、その男の佇まいに気圧されたのだ。忍界最強と謳われるうちは一族の当主が。端正な顔立ちの黒髪の男の姿を見た途端、思わされたのである。

 

(――()()

 

 数多くの戦場を征してきた、このうちはマダラが。ともすると今の己よりも強いと、超一流の忍としての直感で感じ取った。まさか忍界の外に、これほどの猛者がいるとは思いもよらず――しかも何故だかこの男に、初対面にもかかわらず親近感を懐いてしまっていた。

 血の繋がりを感じてしまうほどに、うちは一族の人間に似ているせいだろうか。呆然と立ちすくむマダラに、男は苦笑いを浮かべて手招きをする。それを受けて我に返ったマダラは男の傍に寄った。

 十歩前で正座し、頭を下げたマダラに声が掛けられる。よく来たな、と。本来なら歴々が集うであろう間に、いるのはその男のみ。巨大な存在感に呑まれてしまいそうだ。

 

 顔を上げろと命じた後、畏まって顔を上げたマダラの目を見つつ、男が名乗る。

 

「儂が火の国の大名シュテンの父であり、大筒家の頭領たる大筒イブキだ。久しいな、こうして会えて嬉しく思うぞ」

「は……お初にお目にかかる。拝謁の栄誉に与り恐悦至極であります。しかし……久しい、とは? オレはイブキ様にお会いした覚えがありませぬが……」

 

 畏まって言う裏で、マダラは小さくない驚きを覚えていた。

 大筒イブキ。先代の大名の名だ。それは諸外国との戦を征し、戦国の覇者となった男。本来戦場に出る身分ではない大名の身で、見ただけで実力を感じ取らせる力を身に着けているとは……。

 マダラはうちは一族の一員として大筒家に忠誠を誓っているが、どこか軽んじる思いがあった。しかしマダラはこのイブキを見て、ようやく本心から大筒家へ畏敬の念を懐く。

 

 正確には大筒家にではない。大筒イブキという個人にだ。

 

 しかしそれを差し引いてみても、イブキという男は若すぎた。マダラと比しても然程歳が変わらないように見える。久しいと言うからには昔会ったことがあるのかもしれないが、大筒家の者に会うことがあれば忘れることなどないと思うのだが。

 いや……イブキは現大名シュテンの父だと言った。まさか若く見えるだけで実年齢は壮年の域に達しているのか? そうした思いが顔に出ていたらしい、イブキは苦笑いを浮かべたまま告げた。

 

「覚えておらぬのも無理はない。儂がそなたと会ったのは、そなたがまだ3つの頃よ。当時からそなたは才気に溢れた男子(おのこ)だった。よき男になると見込んでおったが……期待した通りよ」

「は……お褒めの言葉、有り難く」

「堅いな。今少し肩から力を抜いてもよい。ここには儂とそなたしかおらんのだからな」

 

 マダラがまだ幼かった頃に会ったことがあるとは……。

 しかし堅くなるのも当然だろう。何せこれからマダラは見合いをして、略式とはいえ婚礼を結ぶのだから。しかもイブキは義父になる男であり、彼の言葉を信じるなら大筒家の頭領である。

 大名の座は息子に渡していても、実権はまだ握っているということだ。無礼を働くわけにはいかない、このような場であれば堅くなるのも道理であろう。

 

「さて……今日こうして儂がそなたと会った理由は分かるか、マダラよ」

「それは、オレが姫を預けるに値するか見定めるためでしょう」

「違うな」

 

 問われ、答える。

 至極当然の見解を述べるも即答で否定され、若きマダラは戸惑った表情になる。

 そんな彼にイブキは悪びれる様子もなく言った。

 

「儂が遣いの者に渡した親書をそなたは読んだであろう?」

「無論、読ませていただきました」

「あれは建前だ」

「は?」

「儂がそなたに会いたいがために吐いた嘘よ」

 

 カッカッカ、と愉快げに嗤うイブキの真意が読めず、マダラは無表情の裏で思案する。

 建前、嘘。ならば姫を降嫁させるというのも? では父を亡くしたばかりで大変な時期なのに、わざわざマダラを指名して一族のもとを離れさせ、火の国まで出向かせたのは何故だ。

 

「ああ、そなたに儂の娘を嫁がせるのは真よ、心配するでない」

「……では、なにゆえにイブキ様はオレを呼び寄せたので?」

「うむ。ちと情けない話をするが、儂以外の者は忍を甘く見ておってな。そなたらのような忍を便利に使える駒程度にしか思っておらんのよ。愚かなことだ……だが愚かだからこそ警戒せねばならん。今儂からの親書をよその手の者に奪取されては困る故な、マダラに直接出向いてもらった方が確実に話を通せると判断したまでよ。ついでに娘をそなたにくれてやろうと思ったのだ」

 

 胡座をかいて座っていたイブキは前のめりになり、緩かった表情を引き締めマダラの目を見た。

 空気が重く、固く、苦しくなるほどの圧迫感。

 マダラの神経が、戦場のそれへと切り替わるほどの覇気。

 これが、うちはの主君。主と仰ぐに不足はない。

 マダラはそう思うも、イブキの言葉を聞いた彼は目を見開いた。

 

「遠からず、火の国は再び諸外国からの侵略を受ける」

「――真ですか」

「おうよ。確かな筋からの情報だ。此度の戦は以前までの比ではあるまい、差し詰め世界大戦とでも言うべき規模となろう。我らは前大戦でちぃとばかし()()()()()故な。ために、諸外国は我らへ強い恨みを持っておる。全ての国が我らの敵よ。難儀よな」

 

 それは忍界を更に荒廃させる戦乱の到来を意味する。

 眉を寄せ貌を険しくさせたマダラへ、イブキは淡々と告げた。

 

「忍は強い。チャクラを練り、多様で強力な術を操れる。故にな、マダラよ。そなたらうちは一族に儂は命じねばならん」

「なんなりと仰せを」

「うむ。諸外国との戦、火の国は単独でも勝利は能う。しかしそこに忍が加われば趨勢は読めん、だからな……そなたらは火の国に降りかかる災いを除け。忍界の者らが我らに害をなさんとするのを防ぐのだ。手段は問わん」

「……は」

「そして、そのような大任を帯びてしまえば、そなたらも一々儂らの許へ顔を出す余裕もなくなろうさ。儂らも一々そなたらへ物資の支援をしてやることは出来なくなる。だが案ずることはない、それを見越して対策は練っておった。これを受け取れ、マダラよ」

 

 支援を打ち切ると通告されたと思い、唇を噛み締めたマダラだったが、イブキが懐から取り出した巻物を投げ渡されて虚を突かれる。

 咄嗟に巻物を掴み取ったマダラは、その巻物の正体を察したのだ。

 これは……口寄せの術式を刻まれた物。中身はなんであろうか?

 

「向こう十年分の、そなたらうちは一族への支援物資よ。用立てるのには苦労したが……それだけあれば不足するということはあるまい」

「――ご厚情、ありがたく……!」

「頭を下げずともよい。我らの仲であろう。……とはいえ、それだけだとうちはの者にも、己らが儂に使い潰されるのではないかと不安になる者が出よう。故にこそ儂の娘を嫁に出すのだ」

 

 マダラは納得した。そして主家の頭領からの厚意に心から感謝する。

 その図抜けた覇気と、溢れ出る力の強大さに頭を下げた。

 そんな彼に、イブキは意地悪そうに語りかけるのだ。

 

「――して、そなたは不思議に思わなんだか?」

「……この口寄せの巻物に関しては、少し」

「それよ。忍術など忍でない者が知る道理もない。ではどうやってそれを用意したのか。さてはうちは一族の他に、火の国に仕える手練の忍の一族がいるのではないか……そう懸念する気持ちがあろう。その答えは是であり否である。理由は分かるか?」

「は。恐れながら……イブキ様、あるいは大筒家のお方々が、忍術を修めておられるのでは?」

「然様。頭もキレるようだな。――これからする話と見せるものは、そなたと儂だけの秘密だ。親兄弟であろうとも他言することを禁ずる。よいな?」

「承知しました」

 

 大筒家の秘密を話そうとしている、と忍としてのマダラの勘が告げている。

 恐らくその秘密は、うちは一族の当主のみが伝えられてきたのだろう。マダラだけを特別扱いして教えるとは思えないからだ。秘密の共有こそがうちはと大筒を繋ぐ絆であり、()()()()()()

 マダラはそう考える。内向的で自身の一族を至上としてきた誇り高いうちは一族が、大筒家と専属契約を交わし、家臣にまでなった理由こそがこの秘密なのだ。彼はそのように推察する。

 

 果たして、その読みは正鵠を射ていた。

 

 おもむろにチャクラを練ったイブキが、その黒目を()()()()のだ。

 

「――それは!」

「そうよ。これはそなたらもよく知る()()()だ」

 

 驚愕するマダラに、イブキはにやりと笑う。

 

「マダラは()()()()を見たか? 儂のもとにも同じか、あるいは似た物がある。それによると儂ら大筒家とうちは一族は祖を同じくする者なのだ。儂らは同族を決して見捨てん。同じ血族なのだからな」

「………」

「カッカッカ! そんな訳でな、困ったことがあればいつでも頼ってまいれ。儂からするとそなたも息子よ、遠慮は要らん! 儂は儂の戦を征する、そなたはそなたの戦を征するがよい。表と裏の世、共に我らの眼の下に平らげてやろうではないか! 天下万民が平和を享受できる泰平を、我らの手で築き上げようぞ! 異存はあるか、マダラよ!」

「…………ございません。このマダラ、身命を賭して任務を遂行致す!」

「ならばよし! 今日からそなたは儂の子よ。早速ナルハタに会ってまいれ。ナルハタめは庭にいる、母に似て容姿も性格も最高よ。きっと気に入ると思うぞ」

「は! ではこれにて一旦御免!」

 

 衝撃の事実を打ち明けられ、驚きと興奮の冷めやまぬマダラは、素直に全てを承服し立ち上がった。挙措が粗忽にならぬように注意を払いながら退室したマダラは、胸に広がる温かさに目頭を熱くする。

 大筒家がうちは一族と起源を同じくする同族だったことにも驚いたが、何よりマダラの胸に響いたのはイブキの言葉だった。幼き頃より平和を望んできたマダラにとって――泰平の世を築こうと志すイブキは、万の味方より遥かに心強い同胞になったのである。

 

 まだ見ぬ嫁に会おうと、庭に足を運ぶマダラを――イブキは()()()()()()()()で見送り。

 

 にたり……と、邪悪に嗤った。

 

 好意的でありながら、滴り落ちるような腐臭を内に閉じ込めた眼差しで。

 

 

 

 

 

 




数年前に書いて没ってたネタ作品、書き溜めここまでだった。
つまり…そういうことである。
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