波の国に向け出立したナルト達だったが、ナルトは終始むっつりと機嫌が悪そうにしていた。
原因は、ナルト以外の全員が察している。
彼が慕う姉貴分が、上忍の青年に取られてしまったからだ。
青年の名はうちはシスイ。エリート中のエリートと言える暗部出身の上忍。うちは一族でも特に名の知れた凄腕の忍者だ。『瞬身のシスイ』はビンゴブックでも高額の懸賞金を懸けられた賞金首であり、そのランクはAランクと最上位から二番目という破格さである。
熱心な教育ママであるうずまきクシナにより、下忍として常識的な教養を持たされたナルトはそれぐらい知っている。今の自分では及びもしないことなど理解していた。しかしそれでも面白くないものは面白くないのだ、ポッと出の野郎に慕っている姉貴分を取られるのは。
「あ、シズメさん知ってます? ここからちょっと南西に行った所に美味い茶菓子を出す茶屋があるんですよ。情報収集がてら寄ってみません?」
「無用だ。茶屋などで拾える情報に、見るべきものがあるとは思えん。今回は追跡が任務だ、無駄な時間を使いターゲットの痕跡を見失う訳にはいかん」
「だったら鼻の利く忍犬を口寄せしましょう。カカシさんが契約してる奴にも負けない忍犬と口寄せ契約を結んでるんです、オレに任せてください」
一事が万事、こんな調子だ。ふざけているようで真面目な意見を出したかと思えば、反対されるとすぐに求められる要項を満たし、デキる男ぶりをアピールしている。青年の全神経は完全にシズメへと集中し、ナルト達は眼中にもないかのようだ。
神経が苛立つ。無性にいけ好かない。こんな奴がいなくても、自分達第一班だけで充分だ。ナルトは担当上忍の隣を歩き、積極的に話し掛けている背中を射殺さんばかりに睨みつけた。
香燐はヒナタに耳打ちした。
「男の嫉妬ほど見苦しいもんはないな、日向」
「………」
なんとも言えず、ヒナタは困ったように眉を落とした。
アカデミー時代、サスケに巨大な矢印を向けていた香燐ほどではないと思いながら。
(――ホントに分からん)
自惚れじゃない。見れば見るほど、話せば話すほど、シスイは完全に私に惚れている。心の機微に鈍感で黒幕を気取ってなんかいられないから、その手の観察眼も大いに培ってきた。その私が言うのだから間違いない。うちはシスイは華道シズメに恋い焦がれている。
イタチに頼んだ伝言は聞いてるだろうに、いつぞやの奥手っぷりを感じさせない積極さで、私へアプローチを掛けてきているのだ。私の余命はもう長くない(大嘘)ことを知れば、シスイの性格上必ず接点を増やそうとしてくると踏んでいたし、実際その通りになったから遠慮なく観察させてもらったというのに、シスイからはなんらかの計算や負の感情を感じ取れずにいる。
私が魅力的過ぎるのは分かる。だってそういうふうに見せてるもん。でもこうまで露骨に、かつ純粋な好意を向けられると――こちらも愛してあげたくなるじゃないか。
君もラスボスになるかい? なーんて浮気性が鎌首を擡げて困ってしまう。
だが幾らなんでもシスイは無い。イケメンだし性格いいし実力もあるけど、シスイだからこそ本気で向き合い真摯に接する気になれなかった。だってシスイは別天神持ってるからね。
よりにもよってシスイが、このタイミングで、私に接近してくるのは出来すぎてる。陰謀の臭いがするのだ。具体的に言うとダンゾウの気配がする。首筋がビリッと来るから間違いない。
(……両眼の別天神、片方を自分に使ってるのか?)
それなら私の目を以てすら、シスイから不穏な気配を感じ取れないのも納得できる。
普通に考えてそこまでするか? とは思う。しかしその普通の尺度を除けば可能性はあった。
その線で仮定するなら。片目を自分を騙すのに使い、特定の条件を満たした状況下で我に返るように設定し、その瞬間私にもう片目の別天神を使う。私ならそうする、というか完全な奇襲を狙うならこれしかない。あくまで状況から推測できる手法だが、案外ありそうだ。
というか人事でシスイをねじ込んできたのはダンゾウだろう。ないと思いたいが、シスイが別天神を使ってくると想定し、対策しておいた方が無難だ。史上最も無駄な別天神の使い途に、さしもの私も溜め息しか出せそうにない。私なんかに使わないでね、と何かに祈る。
どうでもいいが私が祈るべき相手はなんなのだろう? 祖に等しい大筒木に祈るべきか? それは嫌だなぁ。なら神樹にでも祈ろうか? それも大筒木ゆかりのものだけど、一応は私の親に当たる存在なので気にしない。おぉ我が母あるいは父なる神樹よ、我に加護を! ゆくゆくは大筒木一族の根絶やしを目指すから力を貸しておくれ!
私にとってのラスボスは六道仙人だけど、生憎私の人生はエンドコンテンツなのよね。目標はデカいほどいいってなもんよ。本来のラスボス、大筒木カグヤですら大筒木一族全体から見たらその他大勢の一人でしかない。いつか宇宙にも飛び立ち大筒木一族を絶滅させるのも楽しいかもしれなかった。そしたら私ってば地球の救世主ってことになるのか? ふふ、照れるぜ。
とか思いながらシスイをあしらっていると、怪電波が来た。定期報告の時間じゃない。何事だろうかと内心首を傾げる。そして、インドラくんからの報告に私は心の中で失笑した。
(――ああ、ジゲンとか名乗ってたイッシキを確保したのね)
見つけてみたら存外あっさりしているものだ。NARUTOの続編での強敵がまさかまさかのナレ死である。いや死んでないんだけどね? 捕らえて能力を封印して人体実験コースだ。純正大筒木印の構造を知りたいお年頃なのよ。今後色々と役に立つかもしれないし。
にしても、元はカグヤと同等だったらしいイッシキも呆気ないねぇ。楔とかいうのを摘出できるか不安だったけど、無事に出来たみたいだ。イッシキの楔もサンプルとして厳重に保管してある。
木片に似た種子に変化してた木分身に飛雷神マーキングしておいてからの、ジゲンとかいう器に寄生してたイッシキが近くに来た瞬間に不意打ち四肢切断達磨化攻撃して、間髪をいれず『封神術』で精神=意識のみを外部に摘出して意識と肉体を分けて封印、そして体の点穴を塞いで確保と。いやぁホントに飛雷神様々だわ。ここまで物語性の欠片もない奇襲を食らっては為す術ないよね。
あ、イッシキ確保したなら右眼ちょうだい! あの黄色い奴! 左眼の白眼は要らんけど、輪廻写輪眼クラスの名称不明の右眼は欲しい。固有瞳術の汎用性も半端ないし是非。ん……流石は私と同じ思考回路のインドラくんだ、もう古丹空間に送ってくれてる。後で口寄せして右眼に埋め込むぞ。使用感を含めてのデータが欲しいのだ、絶対今後役立つと確信しているぞ。
まあそっちはいいんだよ。マダラのラスボス化計画になんの関係もないし。
そんなことより、きっちりやる事やってんだろうね? これだけお膳立てして失敗したとか笑えないからやめてくれよ。……きっちり成功させてるか。よしよし、不測の事態は起こってないね?
……起こった? え、何があった。……
……無し、と。仕掛けられていたトラップは全部無効化して取り除いたか。一応念の為、隅々まで精査して不明な点がないようにしておいてくれ。
もうすぐ波の国に入る。国は国でも火の国の属国だし、ナルト大橋とかいう奴が架けられる予定はない。再不斬も白もいなければ、ガトーカンパニーもない。ナルト大橋に代わる物はとっくの昔に架けられてるし、本来の物語の原型は微塵も残っちゃいなかった。
再不斬は今も霧隠れの里に所属してるエリートだ。白も同じく。なのでナルト育成計画の波の国編では元々、用意していた敵キャラが別にいたりした。ソイツらとも絡めて進行しよう。
ちょっとマダラが強くなり過ぎだからねぇ、対抗馬の片割れであるナルトくんの育成にも手は抜けない。今はルーキーの中だとナルトが頭一つどころじゃきかないほど飛び抜けてるし、このままダントツで強くなってもらわないと話が成り立たなくなってしまう。
ナルトの他にもサスケの育成もしないといけない。ダブル主人公だからね。主人公育成計画と銘打ってるんだから片手落ちはあかんよ。
ナルトを育てなきゃいけない、サスケも育てないといけない、両方やんなくちゃなんないのが黒幕気取りの辛いところだな。――準備はいいか、私は出来てる。
「――だぁ! さっきからお前ウザいってばよ!」
頃合いだ。
大好きなシズメちゃんに絡みまくるシスイへ、いい加減我慢の限界とばかりにナルトが食って掛かったのだ。苛々が止まらないぜとシスイとシズメの間に割って入り、保護役の上忍を睨みつける。
とても目上の人物に対する態度ではないが、それを咎めるのはシスイではなくシズメちゃんのお仕事だ。担当上忍――正確には忍頭――のシズメことこの私が、行き過ぎた無礼を窘めようと口を開こうとしたタイミング。ここだ、物語の演出には力を入れたい。黒幕気取りは脚本家と監督と演出家を兼ねるものなのである。
「黙って聞いてたらさっきからずぅっとシズメ姉ちゃんに色目使いやがって! 今は任務中だろ、気の散るような真似してんじゃねえって――」
「ッ――退け、貴様ら!」
ナルトからの私への好意に気づいたらしいシスイだったが、何かを言い返す前に私からの注意で即座に飛び退く。流石の反応速度だが、ナルト達は反応が遅い。私は瞬時に小太刀『油田』を抜きながらナルトを突き飛ばした。
人の死角となる上空から飛来したのは、起爆札の括られたクナイである。私の目の前で起爆札が爆発し、爆炎を迸らせた。爆風により地面を転がったナルトが叫ぶ。
「シズメ姉ちゃぁん!」
「呆けるでない、敵襲だ! 貴様らはシスイの後ろに付け!」
「姉ちゃん!?」
惨事を予想して悲痛な顔をしていたナルトの傍らに着地する。あらかじめナルトの額当てに飛雷神のマーキングをしていたのだ。香燐とヒナタにも同じくマーキング済みである。
瞬間移動により無傷で起爆札の有効範囲から逃れた私に、安堵して胸をなでおろすナルトをよそに、私とシスイは林道の茂みを睨みつけた。
「誰だ! オレ達を木ノ葉の忍と知っての襲撃か!」
などと呑気に言葉で誰何するフリをしながら、シスイは既に印を結びチャクラを練り始めている。いつでも反撃が出来る用意だ。しかしシスイの任務はナルト達の保護、言い換えれば護衛だ。自分から仕掛ける猪ぶりは見せず、忍頭である私に視線で判断を仰いでいる。
奇襲攻撃を仕掛けてきた敵は、沈黙を保ち茂みから姿を現さない。大人しくシスイの背後に移動したナルト達は、身構えつつ私に視線を向けた。どうするのか彼らも判断を待っているのだろう。
私はそんなナルト達とシスイに言った。
「ナルト、香燐、ヒナタ。貴様らは余計な手出しをするな。シスイ、分かっているな?」
「勿論ですよ、部下達のことはオレに任せてください」
果たして何者が仕掛けてきたのか。茂みからは未だに気配がしている。誰だ――と私以外の全員が注視する中、私からの目配せを受けたヒナタが白眼を発動した。
そして、目を見開いたヒナタが警告を発する。
「せ、先生っ! 茂みにいるのは
殺気を感知し自来也から贈られた小太刀を振るう。
忍刀と小太刀が激突し火花が散った。
そして――
「なっ……!?」
私に頭上からの奇襲攻撃を見舞うも防がれた敵が、巧みに体勢を整え着地する。
その姿を目にしたシスイが瞠目した。
「
突如として襲い掛かってきたのは、
※変化の術ではない模様。
BORUTOの敵キャラは物語上に出ませんので、NARUTOは知っててもBORUTOを知らない人もご安心ください。