『うちはマダラ・ラスボス化計画』   作:飴玉鉛

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第32話

 

 

 

 

 

「最終通告だ、華道アヤメ。素直にその巻物をオレに渡すなら――見逃してやるぞ」

 

 猛き自然の具現、尾獣にも匹敵するチャクラを解き放っての威圧。気の弱いヒナタと、相手との力の差を痛感し戦意喪失した香燐、二人が腰を抜かしてぺたりと座り込んでも無理からぬ話だ。

 だが、柱間を名乗る男の出した名に、シズメは困惑を隠せなかった。いつでも動き出せるように二刀を構えながらも、傾国の美女は思わずといった反応で反駁する。

 

「……華道アヤメを知っているのか?」

 

 この反応を受けて、柱間もまた訝しむように表情を動かした。

 

「む。お前はアヤメではないのか? 幼き頃のものしか知らんが、その面貌、確かに見覚えがあるのだがな」

「……アヤメは、私の母だ」

「ほう……アヤメの娘。そうか……彼奴に娘が……ハッハッハ! こいつは傑作だ!」

 

 華道アヤメ。伝説の三忍の一人である。四代目火影・大蛇丸が当時を振り返り、穏やかに告げたという言葉を、うちはシスイもまた伝え聞いていた。

 『アヤメは三忍の中でも最強だったわ。次に自来也ね。私が一番戦闘力という点では劣っていたけど、術の多彩さや生き汚さでも私を上回っていたのはアヤメだけよ』――と彼は語ったという。

 無論、戦闘力では最も劣っていると謙遜した大蛇丸だが、こと生存能力では自来也を遥かに凌駕し忍界一と言っても過言ではない。その大蛇丸を以てすらそのように称された三忍の紅一点の武勇伝は今でも語り草だ。だが――彼女は約二十年も昔に死んでいる。

 生涯無傷。ただの一度も戦場で負傷せず、自らの遺伝情報を抹消する為に、遺体すらも火葬させたという彼女を復活させる手段は無い。穢土転生の術を禁忌として封じ込めた際、穢土転生でもアヤメを使役する事は不可能だと大蛇丸は断言していた。

 木ノ葉の信任厚き火影の言葉だ。それを誰もが信じている。あのダンゾウですら、だ。何せアヤメの遺伝情報、DNAを一片たりとも手に入れられていないのだから信じる他にないのである。

 

 愉快げに嗤う柱間に、シズメは不愉快そうに問い掛けた。

 

「貴様は母上の何を知っている」

「知りたいか。ああ、構わんとも。教えてやろうぞ」

 

 ニヤニヤと。見下すように、邪悪は告げた。

 驚愕に値する情報を、開陳する。

 

「華道アヤメは――()()()()()

「……………なに?」

「即ちお前はオレの孫娘という事になるな」

「……戯言を」

「戯言なものか!」

 

 目を見開いたシスイやシズメ達だったが、柱間はあくまで喜悦を隠さない。

 何か、絶対的なアドバンテージを握っていると確信しているかのようだ。

 

「オレは当時、うちはマダラと千手柱間を打ち倒す為に、千手一族を仇として怨む者を演じながら彼奴らの生体情報を得た。万が一オレの望みを果たせず、道半ばで倒れる羽目になった際の保険として、このオレが転生するに相応しい器の候補を用意しておく為にだ。よもや木ノ葉に拾われているとは思わなんだが、こうしてアヤメの娘と巡り合うとは奇縁という他にないな」

「……何を。何を、言って……」

「まあ聞け。今後一切知る機会などあるまい。聞いておいて損はないぞ? いいかアヤメの娘、なぜ貴様は強力な血継限界を三つも持っている? オレの研究の成果、()()()()()()()()最高傑作、アヤメの血を引いておるからだろう? 苦労したのだぞ、アヤメを造るのは。親元から連れ去り、実験体としたオレに感謝すると良い。オレがいなければ今のお前はいないのだ」

 

 シスイは明かされる情報を無意識に脳内で纏めていた。華道アヤメの出生の秘密。柱間が告げた転生と器という単語。柱間の遺体を乗っ取る以前にも転生していたと告げてもいる。事実なら、恐ろしい存在だ。木ノ葉のみならず世界に仇なす化外と言われても納得できる。

 特に初代火影はあのうちはマダラと互角に渡り合える唯一の存在だった。伝説に語られる邪仙の頭目、羽衣天女も全盛期の両者には及ばなかったという。

 ――羽衣天女? 今、柱間はその名を出したではないか。

 シスイの脳裡に電流が走る。年寄の思い出話で、出た名前があった。木ノ葉隠れの里が創設されるよりも以前、忍同盟として戦った強敵がいたという。九体の尾獣を全て集め、月の眼計画なる儀式を執り行おうとしていたのを、既の所で食い止めたという与太話だ。

 

 シスイは、声を震えさせて問い掛けた。

 

「お前は……まさか、()()()()()()()なのか……?」

 

 半信半疑ながら問われた柱間――否、前時代の巨悪インドラは破顔する。

 

「オレを知っているとは感心な若者だな。左様、我が真名は大筒木インドラである。嘗て千手柱間に討たれ、その力を手に入れるべく機会を伺っておった者よ」

「――――」

「マダラのチャクラを得ている、柱間の肉体は手に入れた。今度こそ我が悲願を遂げてみせよう。追手として差し向けられた者を相手に駒とこの体の試運転を済ませようと思ったのだが、追手としてアヤメの娘が現れたのは天佑! 我が偉大なる母、カグヤの思し召しよ!」

 

 仰々しく、芝居がかった素振りで朗々と告げるインドラ。そんな彼にシスイは歯を食い縛る。

 大筒木インドラ。お伽噺じみた過去の遺物。そんなものとこんな所で遭遇してしまった。だが木ノ葉の忍としてやるべきことは分かっている、ここには木ノ葉最強の忍もいるのだ。自分一人ならまず情報を持ち帰るべく撤退を選んでいただろうが、シズメがいるのなら勝機はあるはずだと彼は考えた。故にシスイは呆然としているシズメに檄を飛ばす。

 

「――シズメさんッ! 呆けてる場合じゃありませんよッ! コイツは今ここで、絶対に倒しておくべきだ!」

「あ、ああ……」

「シズメさん、しっかりしてください!」

「――すまん」

 

 明らかに動揺している。顔を青褪めさせ覇気がなくなっていた。こんなシズメは見た事がない。それでも叱咤するように強い語調で呼び掛けると、漸く彼女の顔に生気が戻った。

 忍刀を手に、シスイは万華鏡写輪眼でインドラを睨む。シズメもまた三つの勾玉の浮かぶ赤い瞳を向けた。それに対し、対峙するインドラは余裕綽々の表情で腰に手を当てる。

 

「……ふぅむ。巻物、渡してはくれんのか?」

「お断りに決まってるだろ。お前は初代様の尊厳の為にここで死ね」

「では、交渉は決裂というわけだ。冥土の土産に面白いものを見せてやろう」

 

 言って。

 ()()()()()()()()()

 赤い瞳、写輪眼。

 

 眼を剥くシスイ達に、インドラは嘯く。

 

「うちはを最も知悉しておるのはうちはではなく、何百もの年数を費やし研究したこのオレだ。そのオレが写輪眼を有しておらんわけがあるまい? 千手柱間の体、そしてうちはの写輪眼、この二つを揃えたオレは柱間とマダラを凌駕したのだ! お前達など敵足り得ん! そしてシスイ、お前はアヤメの娘に期待しておるようだがそれすら無意味よ!」

「なんだと……?」

「オレはアヤメを造りし時、アヤメを新たな血族の祖として設計した! である以上、アヤメの血を引くそこな小娘にも()()()()が引き継がれておるのが道理! さあ我が孫娘よ、我が許に参れ!」

「ッ……!? ぐっ!? ぐぅうう――!?」

 

 インドラが腕を伸ばす。すると突如としてシズメが苦悶の声を上げ身を捻った。

 何事かと目を向けたシスイ達は見た。彼女の全身に浮かび上がる、禍々しい鎖を想起させる黒い呪印を。蛇のようにシズメに巻き付いて縛り、意のままに従わせるものだ。

 なぜこんなものがあるのに、シスイほどの瞳力の持ち主が気が付かなかったのか。いやシスイだけではない、歴戦の猛者であるシズメは多くの忍と共闘した経験がある。日向一族ともだ。それなのに彼女の体にある違和感を、どうして誰もが発見できなかった?

 

 答えは――呪印が現れてはじめてシスイにも分かった。

 

 血だ。彼女の体に流れる血流中に、写輪眼でも、白眼でも見分けがつかないほど細かいチャクラの粒子じみた痕跡があり、それがインドラの意を受けて一つの呪印を形成したのである。

 謂わば彼女の血統に刻まれた呪印の完成形。印を刻んだ者に隷属させる、悍しい呪いだ。

 いや、呪いというよりも遺伝性の病と言った方が的確かもしれない。恐ろしいほど緻密にして稠密な術だ。こんなもの、人に実現できるものだとは到底思えなかった。

 故にシスイは背筋を凍らせるほどの悪寒を覚える。絶対的な強者だったシズメが、敵に回るという最悪の展開を想像したのだ。その想像はシスイほどの忍をして硬直させてしまう戦慄を齎す。

 

 だが、華道シズメは易々と敵の手中に落ちるような軟な女ではなかった。

 

「ぐぅぅうぁぁぁぁ――ッ、がぁぁぁ――ッ!」

「むっ?」

 

 獣のような咆哮を上げ、シズメはポーチから巻物を抜き取ると、それをインドラ目掛けて擲つ。

 咄嗟にそれを掴み取ったインドラの隙を突き、シズメは傍らのシスイの腕を掴むや飛雷神でナルト達のすぐ傍に飛ぶと、三人の下忍を空いている腕で強引に抱き竦め、そのまま更に飛雷神で飛んだ。

 後に残されたのはインドラのみ。まんまと逃げられたインドラは、肩を竦めて称賛する。

 

「流石はアヤメの娘よ。不意の激痛にも怯まず、気力だけで取るべき行動を取れるとは……いやはや我が事ながら感心するなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(いって)ぇえええ――!!)

 

 四人を連れて時空間忍術で飛んだ私は、余りの激痛に内心悲鳴を上げた。全身に這っている鎖状の呪印の効力は本物だ。本気でインドラに隷属させる代物であり、逆らえば本気で痛い。呪印の強制力は最高峰で、抵抗するのに全霊を振り絞らねばならなかった。

 アシュラ細胞とインドラ細胞、柱間細胞も搭載している、シズメという肉体じゃなかったら、この呪印に抗う事も出来ないだろう。自我も縛られ従順な操り人形になる所だ。

 自作自演でどうしてこんなマゾな真似をしたのか。理由は一つ――呪印を解析された時の為だ。木ノ葉には強力な忍が山ほどいる。大蛇丸をはじめ、うちは一族、日向一族の誰に見抜かれるか分かったものではない故に、こんなものを仕込んでいたのである。

 戦国時代(ちょっと前)までは見せかけの呪印しか刻めなかったが、今は違う。医療忍術を嗜んだお蔭で飛躍的なレベルアップを遂げ、今や呪印を遺伝性の病に等しい域に昇華できたのだ。

 

 この呪印を解明させる事で、私は色んな事に言い訳が出来るようになる。その一つが激しい生存本能だ。狂気に等しい生存への意欲を燃やし、自らの血を残す本能を刺激されるのである。

 これによりアヤメが自来也と一夜の過ちを犯した説明がつく上に、露見させるつもりはないが、アヤメがシズメの体を乗っ取った理由としても関連付けられる。更にこの呪印の影響で短命なのだとも言える為、呪印を解除できた暁には普通の人と同じ寿命を得られるのだ。

 そういう設定を補強する為の呪印だったが、ちょっと洒落にならんレベルで痛いので、痛覚を三割ぐらいカットしておく。カット率を三割に留めたのは、演技に不自然さを出さない範囲がこれぐらいなのと、全身複雑骨折レベルの痛みまでなら思考に淀みが出ないからだ。

 

「シズメ姉ちゃん!」

 

 飛雷神で飛んだ先は、波の国と火の国の国境近くの宿屋だ。本当なら里に逃げるつもりだったが、我を見失うほどの激痛のせいで空間跳躍の座標を誤ったという体で此処に来た。

 宿屋に連れ込まれた私は、簡素なベッドの上に横たわり、全身から汗を噴き出しながら苦悶の呻き声を上げている。そんな私にナルトが半泣きで縋りついてきていた。すぐに木ノ葉に帰ろうと言うナルトに、青い顔のヒナタや香燐も同意している。

 だがシスイと私の意見は違った。

 

「駄目だ! ここでインドラを見失うわけにはいかない! 任務は続行だ!」

「シスイの、言う通り……だ。敵を前に、大きな隙を、晒すところだった、故に……一時のみ、離脱しただけ、だ。……すぐに奴を、追う……ぞ」

「二人とも何言ってんだよ!? アイツはヤバいって! シズメさんがこんな事になっちまってんだ、応援を呼ばなきゃどうしようもねえだろ!?」

 

 香燐、君は正論を言うねぇ。でも追ってもらわなきゃ困るんだよね。

 だって応援を呼ぶとなったらミナトとサクモが来る、他にも腕利きの上忍が何人も来るし、今やサクモすら超えた自来也と、凄まじく穏健なマッドサイエンティスト大蛇丸まで来かねない。

 そうなったら流石のインドラも手加減できなくなる。誰かを殺して離脱しなければならない。それは木ノ葉にとっても私にとっても不幸な結末だ。ほら、私ってハッピーエンド主義の論者だからさ。あんまり悲しい結末は見たくないんだよね(大嘘)

 

 だから、案ずるなと言う。

 

 私はシスイに頼み、床に儀式の文字を円形になるように書き連ねてもらう。何をどのように描くのかは息も絶え絶えに指示した。ナルト達も手伝ってくれる。なんて優しい子達なんだ、感動した!

 私はそれを見届けて、完成した陣の中心に座る。必死の形相で集中し、チャクラを練って座禅の姿勢で印を結んだ。すると床に描かれていた陣を形成する文字がひとりでに動き出し、私の全身に這い上がっていく。呪印の効力を抑え込む封印術だ。

 鎖状の黒い呪印『神変鬼特酒印(シンヘンキトクシュイン)』が封印術に絡め取られ、私のうなじの位置に集束させられた。だがそこまでが三忍頭とまで謳われる私でも限界だった。呪印を消す事はできない。

 

 息を乱しながら、痛みが引くのを実感する。実に三時間も続いた、ある意味で死闘とも言える時間だった。ここまでで大量の汗を流し、体力を大幅に消耗している、私は気絶寸前の様子で、ナルト達やシスイに告げる。

 

「ハァ……ハァ、ハァ……貴様ら……ハァ、ハ……私はひとまず、大丈夫だ」

「姉ちゃん……!」

「いいか、よく聞け……私は、一度眠る。六時間後、私が起きていなくても、起こせ。任務続行だ」

 

 詳しい事は後で話す。そう言って気絶し、床に倒れ込んだ私をシスイが慌てて抱き止めた。難しい顔をして私をベッドに戻した後、シスイはナルト達に向き直る。私はそれを、幽体離脱して見ていた。

 さあて、シスイは優柔不断な男じゃない。すぐに決断してくれるだろう。

 一度退いて応援を呼ぶか、このまま任務を続行するか。頼むから前者は選ばないでほしい。そうなればインドラくんが犠牲者を出してしまう。お前に皆の命が懸かってんだからな!(責任転嫁)

 

 私は内心ワクワクしながら、シスイがナルト達に向けて口を開くのを観劇する。計画の変更を余儀なくされるか否か、このヒヤヒヤとした刺激が堪んねぇぜ!

 

 私は犠牲者ナシの方がいいけど!(本音)

 

 犠牲者を出してもいいんだよ!(本音)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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