『うちはマダラ・ラスボス化計画』   作:飴玉鉛

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なんか好評だったので続き書いてみました。
数年前の自作なので、前話よりちょい文体が違うかも…いや同じかも。

暇潰し兼、プロット(別作品)見直しの間の箸休め的な作品になるかも


第4話

 

 

 

 

 

 大筒ナルハタは、これまでマダラが見たことのない趣の女だった。

 

 スッと通った鼻梁は涼しく、透き通る白い(かんばせ)は氷華の如く冷ややかだ。絹のような濡羽色の髪は膝に届くほど長く、髪の先を綺麗に切り揃えた様は人形を想起させられた。

 庭の池を静かに眺める横顔は透明で、目を離せば消えてしまいそうで。身に纏う華やかな着物と簪に反し、華美な印象は一寸たりとも伴わない。箸より重い物を持ったこともなさそうで、マダラの知るくノ一と比べたら余りに華奢に見えた。触れたら折れてしまいそうだ。

 忍の女は逞しい。鍛えているのだから当然だ。戦場に出ることのない女も、強い子を生むために一定の鍛錬は積んでいるものである。ナルハタ姫はそうしたマダラの知る女とは掛け離れていた。

 

 気品を呼吸し、女を磨き、知性を湛え、男を立てる従順さを一目で知らせる佇まいを醸す。男好きのしそうな肢体が、体の線を隠すはずの着物越しにも見えてしまいそうだ。

 はっきり言おう。その深窓のお姫様に、マダラは一目惚れした。

 幼少より忍としての英才教育を施され、生きるか死ぬかの戦場を幾つも生き延びてきた。マダラの青春とは即ち戦争であり、身の回りの女も必然的に女としてよりも忍としての体つきに変わる。幾ら女らしくしていても頑強なのだ。故にマダラはナルハタ姫の如く、女が女として生きてきた者を知らない。若く精気に満ち満ちる青年のマダラには、美を追求した存在への耐性がないのだ。

 ましてやナルハタ姫は――マダラは与り知らぬことだが――今日この時のために容貌の優れた人間を交配した末に生まれた者だ。男を籠絡する術を、立ち姿一つで魅せる傾国の美女である。忍には本来無縁の存在であり、忍界にナルハタ姫を超える美女は現れないだろう。

 

 若くともマダラは歴戦の猛者であり、何より忍だ。例えどれほどの美女と対面しようとも、我を見失うほど呆けたりはしない。彼は身内以外が関わる事柄には常に冷徹な目を向けられる。女子供が殺害の対象であっても、心を痛めることはあれど刃を振り下ろせる。

 そんなマダラが一目でナルハタ姫に心を奪われたのは、彼女が自身の妻になる女だと知っていたことと、マダラ自身が敬意を懐いた大筒イブキの娘で、最初から身内として受け入れようと思っていたからだ。そうでなければ接し方が分からぬ故に女子供を苦手とする彼は、ナルハタ姫を妻に迎えるにしても見惚れることなく、まず頑丈な母体であるかを懸念していただろう。

 

「……あら」

「………!」

 

 池を眺めていた女がマダラの気配に気づき振り返る。幾ら呆けていようと忍であり、無意識下でも気配を断つ癖がある彼の存在を察知したのだ。驚いたマダラだったが、女の目を見て納得する。

 女の目は、万華鏡写輪眼になっていた。

 マダラの万華鏡写輪眼は直巴の文様で、同じ文様の持ち主は先ほど会ったばかりの大筒イブキだけだった。しかし()()()()()()()()()()()()()。うちは一族の中にも写輪眼を開眼しない者はいる。にもかかわらず、武芸の鍛錬を積んだことすらないだろうナルハタ姫が万華鏡写輪眼を開眼しているのは、彼女の秘めた才覚の他にも、凄絶な過去があることを理解させられる。

 写輪眼以上に、万華鏡写輪眼の開眼条件は厳しい。ナルハタ姫は最も親しい者の死に触れたことがあるのだろうと、眼で語る一族の長であるマダラは察した。

 

 ――これもマダラは知る由もないことだ。イブキと名乗った男がマダラと同じ直巴の写輪眼を持つのは、イブキがインドラ転生体の肉体を有するが故だ。インドラの転生者本人であるマダラと、写輪眼の文様が類似するのは当然であろう。そして……ナルハタ姫がこの眼を持つ理由も自明だ。永遠の万華鏡写輪眼……彼女の両目は、大筒家の始祖であるインドラのクローンから取った物だ。

 

 マダラの姿を見て、自身に近づいたのが不埒者ではないと判断したのか、黒目に戻したナルハタ姫が楚々と微笑んだ。

 

「ごめんなさい。わたし、後ろに立たれるのが苦手で……つい身構えてしまいましたわ」

「……こちらこそ不躾でした。近寄る前にせめて一声掛けるべきだったと反省致します」

「別に責めてなどおりません。そう畏まらないで」

 

 後ろに立たれるのが苦手。この言葉にマダラは固くなっていた顔を、微かに綻ばせる。

 同様のことを苦手とするマダラは、ナルハタ姫の言葉に共感したのだ。

 しかしまだ婚儀を上げていない身である以上、彼女と自身はあくまで主君の姫と家臣である。上下関係を考慮した生真面目な彼の台詞に、ナルハタ姫はえくぼを作った。

 

「改めまして。マダラ様、ですわよね? お父様からお聞きになっておられると思いますが、わたしがナルハタですわ。何卒よしなにお頼みしますね?」

「……こちらこそ」

 

 撫子然としたナルハタ姫が会釈するのに、マダラは無愛想に返すことしか出来なかった。

 まるで初心な少年みたいな態度である。なんとなく心身が固くなっているのに自身でも気づいていたが、マダラはなぜ自らが緊張しているのか分からずにいた。恋も色も知らずに生きてきた故に仕方のないことだ。ナルハタ姫に一目惚れした自覚が彼にはないのである。未知の感情に彼自身戸惑っていて――彼女の透明な眼差しから、どうしても目を逸らすことが出来なかった。

 何か気の利いたことでも言わねばならぬ気がする。そんな事はないのだが、浮足立つ心を鎮められない彼は言葉に悩んだ。そんなマダラの様子に目をぱちくりとさせた姫は童女のように微笑む。

 

「突然わたしの降嫁が決まり、わたしの夫となる御方がどんな人なのか不安でしたが……お優しい方のようで安心しましたわ」

「……オレが、優しい?」

「はい。まだ顔を合わせたばかりなのに何を言うのかと思われるかもしれませんけど……わたくし達は眼で語ることの出来る一族。わたしはマダラ様の眼を見て、心優しい御方と感じましたの」

「………」

「ほら、照れてる。ふふふ、マダラ様は可愛いですわね」

 

 マダラは何も言えずに棒立ちしていただけだ。なのに勝手にこちらの心情、性質を見透かしたように言うナルハタ姫に戸惑ってしまう。

 うちは一族は眼で語るというが、それはあくまで写輪眼を指した比喩だ。実際には言葉を尽くさないと気持ちが伝わらないことはままある。マダラは優しいと称され、人生で初めて同年代の女に可愛いと言われた気恥ずかしさから、彼女が天然の入った姫だと思う事にした。

 

「……もう。察しの悪い人」

 

 歩み寄ってきたナルハタ姫が、マダラの前で何かを待つような顔をする。

 何がしたいのか無表情で考え始めた彼に、姫は膨れてマダラの手を取った。

 ひんやりとしているのに温かく、柔らかいのに張りがある。不思議な感触の手に、マダラは金縛りされたかのような衝撃を覚えた。

 

「少し歩きましょう? わたし達は夫婦になるとはいえ、明日の婚礼を迎えるまでは他人同士。結婚後の関係を良好にするためにも、ちょっとずつお互いのことを話しておくべきだと思いますわ」

「あ、ああ……そう、だな……」

「まずはわたしから話しましょう。その後にマダラ様のことを教えてくださいな」

 

 腕を組まれ、カチコチに固まるマダラに気づかないふりをしてくれる。

 

 一つの村のように広大な庭を歩く中、ナルハタ姫は柔和に自らの身の上を語りだした。

 姫は話上手で、聞き上手であった。自身の兄達と弟を交えたエピソードを、情景が思い浮かぶように語り、マダラが下手な相槌しか打てなくても嫌な顔一つしない。マダラの家族に話が及んでも、言葉足らずな彼からも自然と話を弾ませ、空気が重くなることがなかった。

 死んだ弟たちの事になると、微かにマダラの顔が暗くなるも。ナルハタ姫の話術で違和感なく話題が明るい方へ切り替わる。気遣われているのに気づいても、嫌な気持ちにはならなかった。

 

 次第にマダラの緊張もほどけていく。姫の人柄は、儚い氷華から麗らかな日差しのようなものへと印象を変じていった。それは姫が僅かな間でマダラの好む女のタイプを見抜き、深窓の令嬢から温和で母性のある女性へとロールを変更したのだ。

 ややあって唐突に姫は足を止めた。マダラもそれに合わせるも、なぜ止まったのかと顔を見る。姫は眼を閉じていた。――もしマダラが瞳を写輪眼にしていたら気づけただろう。姫のチャクラの変質に。彼女は閉じた目蓋の裏で()()()()()()()のだ。

 

「姫……?」

「……マダラ様」

 

 微かに変わった雰囲気に、マダラは戸惑う。静かに、彼女は言った。

 

「わたしは国を離れ、マダラ様の一族の許へ嫁いでいきます。うちはの頭領の妻となるのです」

「……ああ。オレにとっても突然のことだったが……姫を奥へ迎えられることは光栄だと思う」

「ふふ、まだ堅いですわね。夫婦となればわたし達の関係は決まりますのよ? あなたが上で、わたしが下です。ですのでもっと肩から力を抜いてくださいな」

「……分かった」

「マダラ様……わたしはうちはの女になります。これより先は大筒家よりもうちは一族を第一に考え、マダラ様を支えていくべきなのでしょう。ですけどわたしが大筒家の女であることは消し去れないこと。お父様の……いいえ、大筒家伝来の理想を果たすために邁進することはやめられません。ですのでどうか……マダラ様もわたし達の理想を果たす手伝いをしてくださいませんか?」

「大筒家の理想? それは何か聞いてもいいのか?」

「もちろんです。火の国が戴く火の号は、強き意思。浄化の炎。人の世には本来、忍世界も表世界もありません。同じ星に生きる同じ命なのですから。わたし達大筒家は、長らく続くこの戦乱の世に終止符を打ち、争いのない……いいえ。争い自体はなくせずとも、戦争だけは起こらない世界を築き上げたいと考えてまいりましたの」

 

 訥々と語る姫に、たった今まで流れていた和やかなムードはない。しかし話の内容を聞いてマダラの顔にも真剣な色が浮かんでいた。

 イブキから聞いた話よりも、より詳細な話である。黙って耳を傾けるマダラへと、女は甘い毒を滴り落とす。

 

「人は平和を望むとともに、同時に争いを望む矛盾した心を持つ生き物。どうあっても争いをなくすことは叶いません。それはこの戦争の歴史が証明していますわ。どうやって、平和を齎すのか。仮初の平和などではない、真の泰平を築き上げるのか。――そこに、お父様は一つの結論を見い出しましたの」

「――イブキ様が?」

「ええ。これまで闇雲に戦い、ただただ理想に焦がれるだけだった大筒家の中で、お父様だけが辿り着いたのですわ。お父様はわたしに、そしてお兄様や弟に言いましたの。真の平和とは争いの上にある、争いの下に平和はない。如何にすれば戦にて散る命を無くせるのか? お父様の出した結論、それは()()()()()()()()()()ことでした」

 

「戦争の形態を支配……? どういうことだ」

 

 理解が及ばずに反駁する。ナルハタ姫は眼を閉じたまま首を左右に振った。

 

「詳しくは話してくださいませんでした。ですが、戦争でも人が死なないように、戦争そのものをスケールダウンさせる必要がある。そのためにはまずは一度、世界を統一して一つの連合国家にならないといけないと仰ってました」

「世界を、統一……」

「その過程でどれほどの血が流れ、どれほどの悲しみと憎しみが渦を巻こうとも、残酷な世界を変革するには、誰もが目を背けるほど凄惨な地獄を作らないといけない。戦争による世界統一国家の樹立、そこから先に戦争のスケールダウン計画があるとお父様は言いました。わたしをはじめ大筒家は一致団結し、この計画を成就させることで合意したのです」

「………」

 

 それはマダラにとって余りに途方もない話だった。

 ただ必死に戦い、家族を守るためだけに戦い続け、忍として戦場に立つことしかできなかった彼にはない視点の計画――マダラはそこに光を見た。

 少なくとも自身と同じ平和を望む主君が、自身よりも明確に真の平和へ至る道筋を立てている。計画を練っていることを知った。これだけで火の国の首都まで来た甲斐がある。

 イブキに従っていたら平和が来るのだ、少なくとも平和を実現しようとする意思の下で戦える。

 闇の深い汚泥の中で藻掻き、足掻いてきたマダラにとって、甘美で眩い誘惑だった。

 

 だから――

 

「わたしも、お父様も、マダラ様が同志となってくれる事を期待しています。この思いに同調していただけますか、マダラ様」

「………」

 

 ――マダラは姫の話に、小さく一度、頷いたのだ。

 

 唯一残った弟、イズナのため。一族皆のため。そして子供の頃、友と語り合った夢の為に。

 

 輪廻眼を解除し、目蓋を開いた姫は微笑んだ。微笑んで――より深く体を青年に預け。

 青年は意を決したように、不器用ながら優しく女の肩を抱いた。

 

 

 

 

 

 

 




なんの関係もない話なんですが、マダラの輪廻眼を持っていた長門でさえ、死体を利用して輪廻眼を持った6体の傀儡を使用してました。なら本来の輪廻眼の持ち主なら、同様のことをより高度にこなせるのではないでしょうか。いや……全く関係ない話なんですけどね(棒)
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