『うちはマダラ・ラスボス化計画』   作:飴玉鉛

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第6話

 

 

 

 

 木遁分身。

 

 この術の優れている点は、写輪眼の瞳力でも見切るのが困難で、本体との見分けを付けるのに難儀することだ。そして木遁分身と本体は、リアルタイムで情報の共有が叶うのも素晴らしい。

 まだ開発されていない影分身の術は、影分身が消滅してからやっと情報や経験値が本体へフィードバックされる。木遁分身にはそのタイムラグがない、これは非常に強い利点だと言えよう。

 まさにあらゆる点で影分身の術の上位互換である。個人的な考えだが、木遁忍術の中で最もぶっ壊れ性能なのは、木人の術でも木龍の術でもない。樹海降誕や真数千手でもない。木遁分身だ。これこそが破格の忍術である。俺ほど長期的に木遁分身を使ってる奴なんていないだろうが、俺は木遁忍術を存分に悪用している故に脅威の程を身を以て理解していた。一人だけだと途方もなく時間が掛かったであろう研究・開発・修行も、グッと短期間に短縮できたのだ。

 

 これはチートですよと恐れおののく。

 ゲームだったらナーフ待ったなしの性能をしていた。

 

 だが残念ながらこれはゲームではない。現実である。運営はいないし、木遁分身がナーフされることはなく、使い手は好き放題に便利使いするだろう。例えば俺のように。

 そんな俺は木遁分身だ。本体は今、表世界の世界征服に向けて精力的に働いている――フリをしている。本当は傀儡の大筒家に命令して、本人は屋敷で寝転んでグータラ生活を謳歌していた。

 

 畜生、ニートがよぉ……! と怒るのは流石に理不尽だ。

 

 だらけているように見えて、本体は本気で疲れている。だって本体は今――世界各地に散っている()()()()()()()から送られてくる情報を処理しているのだ。疲労度は俺の比じゃないだろう。

 勤勉さも黒幕気取りの嗜みである。サービス残業中というわけだ。俺は分身で良かった、本体ほど負担はないのだから気楽なものである。とはいえ、分身の俺も遊んでるわけじゃない。他の分身達と違って俺の仕事は責任重大だからだ。

 

(インドラ09から01へ。補給の必要性を認む、チャクラ送れ、オーバー)

(――こちらインドラ01、了解した。一旦分身を解除し、取り込んでおいた仙術チャクラを本体に還元する。01から00(本体)、09へ仙術チャクラ送れ、オーバー)

(インドラ00、了解。……お前ら本体のこと酷使し過ぎじゃない?)

(輪廻眼の燃費が最悪なんですぅ。そろそろ補給がないと俺が消えちゃうぞ)

 

 暫くして、本体からチャクラが送られてくる。オーダーメイドの木遁分身体である俺には、あの正式名称が分からない黒い棒が内蔵されている。そのお蔭で本体からチャクラを送られ続ける限り、半永久的な独立行動を可能としていた。

 俺の任務はナルハタの視界を共有しつつ、思考や感情、体調などのバイタルを把握し続け、不測の事態があれば対応する事である。任務の大事さを考慮するからこそ、俺は他の分身体と違い消えるわけにはいかない。また緊急時のために離れすぎるわけにもいかなかった。

 

 ここまで俺が任務に対して真面目なのは、ひとえに最も警戒しているものが愛だからだ。

 

 愛。愛である。冗談でもなんでもなく愛だ。

 物質こそが現実に作用する力の現象であるはずなのに、愛は度々奇跡を大安売りして現実を破壊する。黒幕の天敵は緻密な計画を破壊する愛であり、黒幕気取りの俺は『有り得ない』と思いつつも、ナルハタが裏切ってくる可能性は物語的に『有り得る』と判断していた。

 だってナルハタも頭うちはだし……。

 無論対策はしている。しているが、対策を打っているからそれで充分だ、なんて油断するほど俺の頭はおめでたくない。計画の進行に際して一本しか道を用意しておらず、それが破綻したら詰みとなるのは愚かとしか言えない。スペアプランは幾つも用意し、メインが潰れたら即座に次に繋げられるようにするべきだ。愛パワー、六道仙人のテコ入れ。何するものぞ。蹴散らしてくれる。

 愛パワーと六道仙人が絡んだ原作のラスボス女との戦いは、俺の好むものではない。なんやねん死にかけて超常存在に超パワーを恵んでもらいパワーアップって。マダラは全部自分の力で頑張ってたんやぞ。フェアプレイ精神を大事にしようぜ。なんでマダラは自力なのに、原作主人公コンビは六道仙人に力を貰ってんだよ。自分の力だけで立ち向かって勝てよ。応援するからさ。

 

 うん、そういうわけで、俺は大筒木カグヤを復活させない。断固阻止する。べ、別に世界の為なんかじゃないんだからね! 勘違いしないでよね! 全部マダラ・ラスボス化計画の為なんだから!

 大筒木カグヤ、六道仙人、どちらも蛇足とは言わないけどマダラをラスボスにするには邪魔なのだ。月に居るハムラの子孫トネリに関しては――今は無視である。だって本編終了後まで出てこない奴は管轄外だし……マダラの死後は別に世界滅んでもいいかなって。

 それに関しては本体が考えるだろう。木遁分身の俺の考えることじゃない。長きに渡る俺の暇潰しが終わったら、また別の暇潰しを考えるだろうなと思うだけだ。

 

 

 

 ――婚儀を経たマダラは新妻をうちはの拠点へと連れ帰った。

 

 

 

 うちはの者達に囲まれての生活で、普通なら萎縮するか緊張するだろう。しかし我らがDXナルハタ姫ラジコンはコミュ力お化けだ、大筒家のお姫様にどう接したらいいか悩むうちは一族に、物怖じすることなく話し掛け、恙無く挨拶回りを済ませてしまった。

 やだ……教育が行き届いてるわ。お父さん感激。姫として一定の敬意を持たれつつ、当主の妻として好意的に受け入れられるだなんて。お父さんも鼻高々だ。流石俺の子だ……。

 ナルハタはうちは宗家の屋敷にマダラと共に入っていく。マダラが帰還する際に出迎えてくれた弟のイズナが、色々と不器用なマダラに代わり甲斐甲斐しくナルハタを案内していた。

 イズナ……所詮は端役、マダラの永遠の万華鏡写輪眼の為の素材になるしかない奴と思っててゴメンよ。良い奴だね。千手が絡まないと普通に良い奴で心が痛い……でも死んでね。

 

 ナルハタにとっては義弟、イズナにとっては義姉。若きイズナ少年は……うん、実にいいな。素直で可愛く性格がいい、原作知識だけでは分からない人柄の良さが伝わってくる。

 コミュニケーション能力に難のあるマダラと、一族の間を取り持つ潤滑油みたいな子だ。千手絶対殺すマンじゃなくて、なおかつ扉間に殺されなかったら早期に千手と和平出来てただろう。そうなりそうなら退場してもらうけど。どちらにせよ退場するなら再利用したいが、特に用途が思いつかない。これは要検討だが、普通に処分しておいた方が無難かな。

 

 そうしてなんやかんやと夜になり、気を利かせたおませなイズナが夫婦の寝床をセッティングした。ナイスぅ。尻込みするマダラの手をナルハタが引き、妖艶な笑みを浮かべてマダラを押し倒した。

 おぉ、英才教育を受けた君の眼には、マダラは押し倒される側に見えたわけか。マダラはしどろもどろだ……なんだこれは、マダラが可愛いだと……? 堪んねぇな……。

 

 そうしてマダラより先に裸体を晒したナルハタは、自身の裸体に釘付けになる新郎の服を脱がせていく。おぉ、流石の肉体よ……初夜で孕む気満々なナルハタに、マダラは完全に緊張しきっていた。まさに肉食獣と草食獣。お熱い夜になりそうだぜ……! 

 

 ん……? ま、待てよ……? 俺とナルハタの五感は接続されてるんだぞ。ま、まさか……情事の感覚まで体感しろと? 嫌だ、中身は男か女か分からん吾輩だけども、心の準備がまだ……!

 そ、そうだ、リンク! リンクを切るんだ! いや、しかし……俺の任務はナルハタの監視! 四六時中、二十四時間年中無休でリンクしてないと……! ど、どうすれば……悩んでる間にナルハタが跨ったぁ!? ま、待てどうする俺! 本体、本体!

 

(インドラ09から00! 撤退を進言する!)

(こちら00、撤退は認められない。09はそのまま戦死しろ)

(て、テメっ――本体ぃ! リンク切りやがったなテメェ!)

 

 無慈悲な通告に絶望する。

 次第にナルハタの目を通してマダラの顔が間近に来て――

 夜は、更けていった。

 

(ぁ、あっ……アーッ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢のような夜だった。

 

 女の体は綿のように甘く、柔らかかった。

 こんなものが実在するとは信じ難く、どんな幻術よりも抜け難い。

 しかし、自身の体面とプライドの為にも、初夜のことは忘れることにしたマダラである。

 一つだけ言えるのは……今後ナルハタに頭が上がる気がしないということ。

 食われると思った恐怖、食われても悪くないと感じてしまう恐怖。女は怖い……それを学んだ。

 驚いたのは、夜が明けると新婦は妖艶さを欠片も見せない、貞淑な撫子に戻っていたことだ。

 てっきりあれがナルハタ姫の本性なのかと誤解していたが、どうやらそうではなくて。

 

「マダラ様に、愛してほしいんです」

 

 微妙な目線を向けたマダラへ、ナルハタは照れくさそうにそう言った。

 

「無論、わたしもマダラ様を愛しますわ。まだ夫婦となって日が浅いのです、心から愛することはまだ難しいでしょう。でも愛し愛される努力は出来ます。わたしはマダラ様に愛されるように努力しますわ。そして愛していく努力も欠かしません。それがきっと、円満な家庭を築く秘訣なのだと思いますから」

 

 いじらしい言葉だった。殊に、ナルハタは傾国の美女である。そんな美女から嘘偽りの気配がない言葉を贈られ、マダラはぐらりときた。

 なぜならマダラは忍である。忍たる者、他者の言動の裏を読み、神経を尖らせて、頭から疑って掛かるのが常である。それゆえに忍は嘘の気配に敏感なのだ。であるからこそ――嘘のない心に触れると、どうしようもなく心が温かくなる。

 

 マダラは愛おしくなって、裸のまま横になっていたナルハタを掻き抱いた。

 無骨な手で、壊れてしまいそうな華奢な体を。

 

 そうだ、家族になるのだ。受け身のままではいけない、己から歩み寄る意思を持たずして何が夫、何が男か。マダラは奮い立った、姫を――否、己の女を絶対に守り通す。

 

 童貞は初めての相手に執着し易いというが、マダラもその例に漏れなかったようである。擽ったそうに身動ぎした新婦が、自身の腕の中から見上げてくるのに、新郎は意識して表情を動かした。

 

「幸せにする。お前がオレの妻になったことを、絶対に後悔などさせない」

 

 それはひどくぎこちない、ぶっきらぼうな貌だった。

 本人は、笑い掛けているつもりらしい。

 威圧しているようにしか見えない表情に、ナルハタはくすりと微笑んで小さく頷いた。

 

 うちはマダラは今、人生の黄金期に突入したのである。

 

 やがて訪れる逢魔時――約束された黄昏時に、彼は。

 

 心の砕け散る音を聞く事になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――その日。千手柱間は、弟の扉間と共に対面した。

 

 隠す気配すら無い邪悪なチャクラの波動。漲る覇気。

 

「儂が()()()()()()()()()()()()()である。よく来たな、千手一族の当主とその弟よ。歓迎するぞ」

 

 予感がする。

 後に忍界の頂点、忍の神と謳われる千手柱間は漠然と感じ取っていた。

 この男こそが、戦乱に潜む巨悪なのだ――と。

 まだ言語化の出来ない、輪郭のない淡い直感だったが。

 柱間はその男に、言い知れぬ怖気を覚えていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




童貞卒業を目撃する鬼畜外道の所業……!

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