『うちはマダラ・ラスボス化計画』   作:飴玉鉛

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初手、オリ設定。
でも多分、原作でも血統はそうなんじゃないかと作者は勝手に思ってる。




第8話

 

 

 

 

 六道仙人に纏わる伝説は、知る者はいても全ての者がお伽噺と思っている。

 後世に於いて余りの出鱈目さから、柱間の力が誇張された伝説に過ぎないと思われていたのと同じだ。六道仙人の伝承は、柱間以上に荒唐無稽で信憑性が著しく欠けているのである。

 しかし六道仙人の伝説は、その全てが殆ど事実に基づいた実話であった。

 証拠として大筒木カグヤの屍骨脈の血継限界を受け継いだ『かぐや一族』がいるように、六道仙人たる大筒木ハゴロモの力を受け継いだ『羽衣一族』も存在した。大筒木ハムラの子孫が白眼、インドラの子孫が写輪眼、アシュラの子孫が肉体の生命力を遺伝したように、羽衣一族は大筒木ハゴロモの『仙人』の体質を受け継いだ一族だった。

 

 そう。原作に於いて自然エネルギーを取り込める体質を持っていた重吾は、羽衣一族の最後の末裔であったのだ。普段は無駄な殺生を好まない者達だが、己ですら制御できない異常な殺人衝動を持つ故に、彼らは身内同士でも不意に殺傷してしまう危険性を有していた。だから戦争に関わるのである、どうせ殺人衝動に支配されるなら敵を殺した方がまだマシだと考えたのだ。

 羽衣一族は全員が邪悪な衝動に支配された仙人、邪仙である。その脅威はうちは一族、千手一族に比肩しており、戦国時代に於いてうちはと千手に抗し得る――しかしどちらよりも危険極まる一族と目されており、順当に行けばうちはと千手から集中攻撃され滅ぶだろう。

 羽衣一族には、うちは一族にとってのマダラ、千手一族にとっての柱間がいないのが最大の敗因と言える。いやそんな無茶なと言われたらそれまでだが、このままだと無為に滅ぶだけだ。それは余りに勿体ない。勿体ないお化けの擬人化と言っても過言ではない、リサイクル精神に満ち溢れた俺は、この羽衣一族を効果的に利用しようと考えた。

 

 あれはそう……かぐや一族の女を拉致し、子供を拵えて大筒家を作った頃であった。折角だから原作にほぼ設定の出ていない奴らを調べておこうと考えたのが発端だった。

 計画を立てるに際して不確定要素を調査するのは当然だ。原作に登場してない奴でも、俺の計画には役立つ可能性がある。そうして目をつけたのが羽衣一族だったというわけである。

 

 手始めに羽衣一族の人間を拉致し、仙人化のメカニズムを研究した。

 

 俺が仙術を扱えるようになった切っ掛け、ルーツはそこである。その後、便利極まる木遁・木分身の術の分身体を派遣し、仙人の力を唯一デメリットなしで扱える者として、羽衣一族になりすまし一族の当主となった。以後は世襲制で当主の子供を作り、子供が出来る度に木遁分身から霊化の術で憑依することを延々と繰り返すことで彼らの動向をコントロールしていた。

 そうして時は経ち、待ちに待った戦国時代。うちはにマダラあり、千手に柱間ありと謳われるようになると、同様に羽衣に()()ありと恐れられるようになった。

 

 羽衣天女(ハゴロモ・アマメ)。邪仙・羽衣一族の当主である女。それが俺……もとい、木遁分身が霊化の術で乗っ取った体の名だ。赤子の頃から憑依しているので当然自我なんて無い。木遁分身が憑依を止めたら廃人みたいに物言わぬ植物人間と化すだろう。

 オレンジ髪の女、天女は柱間以上の仙人の力を有し、異形の怪物と化すことが出来る。大蛇丸が開発した呪印の状態2みたいな感じだ。重吾みたいに体の一部のみを異形化させることもできる。それによりマダラの須佐能乎に匹敵する破壊力、生きている生物の体を食うことで回復する、柱間並の回復力を発揮できる。戦場では腕を異形化させチャクラビームを放ち、敵を比喩抜きで食うことにより体力とチャクラの両方を全快させながら戦っていた。

 もちろん人を食っているせいで悪名は忍界随一である。敵からは天女ではなく鬼女という蔑称で呼ばれていた。へへへ……そんな褒めんなよ、照れるぜ。羽衣天女として戦争し、大筒家の支援を受けたうちは一族を攻撃したりして、マダラの弟の一人を殺したのも今では良い思い出だった。あ、柱間の弟も殺してたぜ。マダラと柱間からのヘイトを羽衣一族に向けたかったから。

 

 そんなこんなで、羽衣一族、絶滅の危機である。

 

 そりゃそうだ。人を食うような――しかも弟を天女に踊り食いされたマダラと柱間が、こんな本物の鬼みたいな奴を見過ごすわけがない。『羽衣一族は見つけ次第殺せ』というのが千手とうちはの総意になっていたのだから。巻き込んでゴメンよ羽衣一族の諸君。

 羽衣一族全滅の危機になった戦いは、火の国が風の国に侵略しようとして、風の国がそれを察知し逆に侵攻した戦場で起こった。風の国側の依頼で千手一族が、火の国側としてうちは一族が参戦した戦いに、土の国の依頼で羽衣一族が飛び入り参加したのである。

 

 告白すると表世界の五大国――火、風、水、土、雷の国の大名は全員俺のコントロール下にあるのだ。ぶっちゃけ世界征服なんて簡単過ぎて欠伸が出る。輪廻眼の瞳力に勝てるわけないだろ! というわけだ。だからタイミングを合わせるのは簡単だった。

 多重木遁分身の術は、九尾並のチャクラを持つ俺からすれば、百人程度作って維持するぐらい負担にもならない。いや負担にはなる、なるが……特に気にならないぐらいの負担である。

 

 土の国の依頼として出した指令は、うちはと千手の両一族を少しでも多く殺せ、というものだ。

 うちは一族に関しては、本体が頑張って陰ながらナーフして、勢力が成長し過ぎないようにしていたが、千手一族に関しては羽衣一族からの干渉でしか漸減出来ていない。

 だから俺は張り切って殺すぞとやる気に満ちていたのだが――

 

「――合わせろ、柱間ァ!」

「応! ……ふ、そんなものか?」

「抜かせ!」

 

 ――マダラと柱間という夢のタッグで天女ちゃん、死のピンチである。

 

 やばーい。

 

 いや本当にヤバい。うちはと千手の確執を軽減させる目的もあって、セカンドプラン通りにやれているのだが、思ってた以上にうちはと千手は仲良しだ。敵だから殺すね、と戦場だとドライな関係ではあるが、原作よりは大分友好的である。

 和平結ぶのも時間の問題かな?

 羽衣天女がいる時だけは共闘するのに抵抗が余りないうちはと千手……そんなに天女が憎いらしい。あのイズナですら隙あらば千手一族を殺そうとはしているが、表向きは共闘している。

 喜ばしいことだ。だが流石に天女と羽衣一族は、もうちょっと生き延びて貰わないと困る。困るが……ここで逆転の発想だ。そうだ、別に死んじゃってもいいさと考えるんだ。だってどう考えても柱間とマダラが組んでるのに勝つとか無理だもん。草生えるぜ。

 

 急にメインプランをセカンドプランに切り替えるからガバる羽目になる。反省、反省。一旦クールタイムを挟んで計画の進行を練り直そう。

 なぁに……この時点で大筋の流れは定まっている。後は……いつ殺るかだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――火の国と風の国の戦。侵略準備を水面下で着々と進めていた火の国に、風の国が先んじて宣戦布告。先手を取り雪崩を打ったかのように侵攻した。

 後の世の史実に曰く、()()()()()。千手の千、うちはの火を掛け合わせた名だ。

 忍とは一族単位の武装集団でしかなかった、血で血を洗う戦国時代に於いてすら、()()()()()と謗られた羽衣一族が戦線に乱入してきたことで、うちはと千手が歴史上初めて大手を振って共闘した戦いと記されている。

 

 これまでも小競り合いの戦争で、何度か共闘したことはある。しかし今回ほどの大戦で共闘したのは初めてだった。故にこそ、何が何でも弟の仇を討ちたいと望んでいたマダラは、憎しみの炎を燃やしながらも歓喜していた。血沸き肉踊り心までも沸騰しているのだ。

 その昂りを吐き出す。

 

「火遁・龍炎放歌の術――!」

 

 味方への誤射を避けるために飛び上がり、角度を付けた上で地上の敵へと追尾性の小型の龍を象った炎弾を複数飛ばした。狙うは一人の女。戦場に出ていながら、鎧も付けていない赤い浴衣姿だ。

 外見はオレンジ髪の幽鬼の如き美女。されどか弱い外見で侮ることはない。邪悪な自然エネルギーを纏うその女は、一度戦場に姿を見せれば悪鬼羅刹の如く暴れ回る怪物だった。

 その驚異的で凶悪な戦闘力は、マダラや柱間にすら匹敵する。特に戦闘技量に関しては僅かに上回ってすらいるのだ。五つほど齢が上のその女――羽衣天女に、少年時代のマダラと柱間は敗れた事もある。苦い敗北の記憶があるゆえに、油断などするはずがなかった。

 

 地上を這うようにして駆け、自らに追いすがる龍火の弾丸を、女は防御すらしない。全弾直撃しながらマダラ目掛けて迫り、途上で味方である羽衣の忍の背中に手刀を突き刺すと、()()()

 肉体を相手と同化させ、相手の肉を己の養分として吸収したのだ。またたく間に大火傷の重傷から全快した天女が、マダラの着地の隙を突く。紫色の岩石の如く肥大化した異形の右腕を振り抜いた。マダラはこれを一族伝来の宝、当主の証である『うちは』にて受け止めるも、柱間に匹敵する豪腕を受け切ろうとはせず自ら後方に跳んで衝撃を緩和する。

 それでも腕が痺れる。吹き飛んだマダラへ一瞬にして追いついた天女が、マダラの足首を掴んだ。そのまま豪腕に物を言わせて引き寄せ、反対の腕で異形の拳を握り、美しき顔に笑みを浮かべる。

 

「昔と比べて強くなったね。けど――」

 

 拳を振り下ろそうとする刹那、天女の真下――地中からうちはイズナが飛び出し、刀の切っ先で天女の喉を突いた。金属を打ったかのような音がする。イズナの刀で天女は傷一つ負わず、しかし刺突の衝撃で仰け反った天女の隙を見逃さず、足首の拘束を身を捻ったマダラは振りほどき、反対の脚で女の顔面を蹴り抜いた。逆に吹き飛ばされた天女を、綺麗に着地したマダラは嘲る。

 

()()――なんだ?」

「兄さん、攻め手を止めるな!」

「……ふん。無論だ!」

 

 マダラの傍らにイズナが立つ。

 両者は印を結び、写輪眼を万華鏡へと変じるや、紫の巨人・須佐能乎を形成する。地面を滑り砂塵を巻き上げながら体勢を整えた天女は、二体の巨人を見て一族に指示を飛ばした。

 

「イズナが邪魔だ。引き剥がせ、お前たち」

 

 全身を異形化させた凶悪なる邪仙たちがイズナ目掛けて踊り掛かる。殺人衝動に呑まれてなお、当主の命令には従順に従って己の命すら捨てる勢いだ。当然、簡単に思い通りにはさせないと連携を図るうちは兄弟だったが、腕を砲身に変形させた天女がチャクラ砲を連射し、マダラを牽制する。その数条のレーザーは、どれを取っても必殺の威力が有り、余波だけで地面が抉れている。

 マダラの行動を読み、射撃を()()弾幕は回避が困難。須佐能乎ですら防御に徹さねば破壊される。射撃の巧みさに舌打ちしたマダラはイズナを一瞥し、コイツはオレに任せろと念じる。イズナは頷き、須佐能乎を纏ったまま後退しつつ襲い来る邪仙達を迎撃する。

 

 チャクラ砲を須佐能乎の刀で全て撃ち落とし、マダラは万華鏡写輪眼で天女を睨んだ。

 

「このオレを相手に、本気を出さない気か?」

「アハ……私の敵は君だけじゃないんだ。依頼でね、君と柱間を殺せって言われてる。力は温存しないと、後の柱間の時に難儀してしまうだろう?」

「……このうちはマダラが、随分と舐められたものだ」

 

 敵意が一層強く燃え上がる。

 

 戦場は二極化していた。初めはうちは一族と千手一族が戦っていたが、そこに乱入してきた羽衣一族を見るや否や、両者は共通の仇を優先して狙い出し、一時的に共闘する者達が散見される。

 羽衣一族対うちは・千手の連合。戦場はそのように推移している。国からの依頼よりも、対羽衣一族の方が優先順位は高いのだ。何せ羽衣一族は戦国の世でも最悪の名を冠する災害の類い、お人好し極まる柱間ですら苦々しく族滅もやむなしと言うほどである。

 

 それとは別に、マダラのコンディションは最高潮に達していた。

 目の前に、己の眼前で幼い弟を食い殺した仇がいる。友の居る千手一族と共闘出来ている。

 何度も共闘してきたお蔭で和平の道が見えてきたのだ。憎い仇とはいえ、強大な羽衣一族に感謝してやってもいいと思える。礼として今すぐにでも死をくれてやりたい。

 ――羽衣一族の軍の数は、うちはと千手を足したほどもいる。戦況は完全に互角だ。

 故に天女さえ討てば羽衣一族を滅ぼせる。マダラはそう確信していた。

 

「……おや。君もこっちに来たのか」

 

 感知タイプでもある天女が嗤う。

 遅れてその気配を察知したマダラだったが、視線も向けずに迎え入れた。

 己の隣に立つ男。マダラ同様の黒い衣に赤い鎧、長く伸ばされた黒髪の男――千手柱間である。

 天女をこそ最優先に討つべしと考えていたのはマダラだけではない。

 彼のライバルである柱間もまた、人の世を混迷に落とす悪鬼羅刹を討ちに来た。

 

 柱間とマダラ。対面したものを絶望させ、座して死を待たせるのみとなる最強の二人。

 だが両雄を向こうに回してなお、天女は楽しげに嗤っていた。

 その凶相を見て、柱間は傍らの友に言う。

 

「マダラよ、手こずっておるようだな。今なら手を貸してやってもよいぞ?」

「――寝言を垂れるなよ、柱間。こんな女など、オレ一人で充分だ」

「はっ、昔ならいざ知らず、今のお前なら確かにそうだろう。だが――1分1秒でも早く彼奴を討った方が、味方の犠牲が減るとは思わんか?」

「ああ、確かにな……いいだろう、手を貸してやる」

「強情だな! だがそれでこそマダラよ! ……往くぞッ!」

 

 こっちには話し掛けてくれないのねと呟く天女。

 当然だった――柱間もまた、過去に自らの目の前で、()()()()()()()()()()()()の姿が目蓋に焼き付いている。天女は柱間をして本気で殺してやりたいと殺意を抱かせた唯一の存在なのだ。

 ただ戦場に散っただけならまだ耐え忍べる。

 しかし幼かった弟を――人の死を愚弄する存在に物を語る舌など持ち合わせがない。まるで()()()()()()()()()()()、わざとらしくじっくりと弟を食われてなお、和解の道を探せはしなかった。底抜けに明るくお人好しな柱間も人の子なのだから。

 

 邪仙の女頭目は、柱間とマダラを前にして本気を出す気になったらしい。天女が左腕をチャクラ砲に変形させたまま、右腕を巨大な断頭刃に変形させる。全身が隆起し、濃い紫の醜い岩石傀を纏った姿へと変じた。一瞬の出来事だ、隈取を醜くなった顔に浮かばせる。羽衣天女の仙人モード――かつて未熟だった少年期のマダラ達に、一対一の戦いで敗北を味わわせた姿。

 莫大な自然エネルギーの混じったチャクラだった。この姿こそが鬼女と恐れられ唾棄されるもの。人食いの化け物であり――天女は嗤って涎を垂らした。気の弱い者なら怖気で死ぬほどの()()と殺気を垂れ流し、忍界の禍々しき悪因が呪いを呟く。

 

「アハっ。二人とも……美味しそうに育っちゃって……どっちから食べちゃおうか」

 

 死闘が始まる。この一戦だけで地形を大きく変え、地図を書き直す羽目になる血戦が。

 同時に飛び出した須佐能乎のマダラと柱間を、チャクラ砲を構えた天女が迎え撃つ。先程マダラへ放ったレーザーがお遊びであったかの如く、攻撃範囲と速度が数倍にも跳ね上がっていた。

 そのレーザーをマダラはほぼガードしない。

 頭や心臓に当たるものだけを紫の巨人の刀で捌くが、天女のレーザーがマダラの左脇腹を大きく抉り右脚を焼滅させた。しかし瞬時にマダラの万華鏡が煌めき、()()()()()()()()()()()。一瞬で負傷を無かった事にした彼の万華鏡は健在――万華鏡写輪眼の固有瞳術だ。

 初見だったのか、目を見開いた天女の側面に、瞬身にて現れた柱間が雄叫びを上げる。

 

「雄ォォオオ――ッ!」

 

 怪力乱神。柱間の拳打を断頭刃にて受け止めるも、衝撃は殺せない。威力も死なない。断頭刃を拳打一撃にて砕き、そのまま天女の顎を殴り飛ばした。

 飛翔させられた天女をすかさず紫の巨人の刀が貫く。胴の真ん中を穿たれた天女だったが、邪仙の女頭目は怯まず()()()()()。破壊された肉を切り離し、童女の如く小柄になるとチャクラ砲を上方に撃った反動で一気に着地し、足元の新鮮な死体と同化し失った肉体を補填する。元の大人の姿になった天女は、背中から二本の腕を生やし目にも止まらぬ早さで印を結ぶ。

 

「水遁・大瀑布の術」

 

 瞬間、柱間が大きく跳躍した。彼の足元の地面が割れ、地中から凄まじい轟音と共に、桁外れの水が打ち上げられていく。打ち上げた濁流が地に落とされて、周囲を湖の如く水を溜めた。

 チャクラをコントロールし水の上に立ったマダラと柱間が、対抗してそれぞれ印を結ぶ。

 

「土遁・大地動核の術!」

「火遁・豪龍火の術――!」

 

 幾度も矛を交えたライバル故か、腹の底では信頼が残っているのか、彼らの連携は阿吽の呼吸であった。柱間の規格外の土遁が湖越しに大地を割り、溜められた水を地中に戻していく。水が減っていく中でマダラは得意の火遁にて、龍を象った巨大な火弾を湖に打った。水蒸気爆発が起きる。水蒸気が張られた視界の中、柱間は更に続けて印を組んだ。

 

「木遁・皆布袋(ほてい)の術――からの、挿し木の術!」

 

 霧の中で高速で迫りくる邪仙の気配を正確に察知し、駆ける天女の足元から巨大な樹木の腕を生やした。そうして天女を拘束するや、樹木の腕から無数の杭が生え、捕らえた天女の全身を串刺しにし、圧殺しつつ体内から破壊しようとするも。

 

「水遁・超大玉螺旋回天」

 

 地殻変動の如き地割れで湖が消える寸前、残された水を取り込み自身を中心に螺旋回転する水球を形成。天女は樹木をまたたく間に全損させた。それは後の世に開発されるはずの螺旋丸と、日向一族の八卦掌・回天、そして水遁の術を掛け合わせた絶技である。

 直撃したら柱間すらただでは済まない。だが――初見ではない。自らも回転している故に、その回転の終わりを狙って、須佐能乎を消し霧へ身を隠して背後に回っていたマダラが吠えた。

 

「――合わせろ、柱間ァ!」

「応!」

 

 マダラが現在身に着けている中で最強の火遁忍術、豪火滅却を吐き出すや、そう来ると思っていたとばかりに柱間も木遁の術を発動。再び天女の足元から樹木が生え――否。()()()()()()()

 樹木が強力な火遁で燃やし尽くされながらも樹林が天高く昇っていく。それを見ながら柱間がニヤリと笑んだ。

 

「……ふ、そんなものか?」

「抜かせ!」

 

 挑発と共に更に樹木の成長を早める柱間へ、マダラもまた笑いながら火の勢力を強める。

 

 燃え上がる業火。尽きぬ樹木。圧されながら燃やされる天女が絶叫し、しかし往生際悪く背中の二本の腕で印を結んだ。水遁により自身の肉体を液体化させたのだ。そうして樹木からの拘束から逃れ、地獄の炎から身を逃す。液体化したまま虚空に躍り出て元の形に戻るや、背中の腕を翼に変じて飛翔する。初見の術だ、目を見開いたマダラに目掛け天女は一直線に降下した。

 

「ィィィイイャァアアアアア!」

 

 奇声を発しながら迫る天女。額から角を生やした姿はまさに鬼。

 だが――相手が悪かった。一度は彼らに勝利したこともあるが、それはまだ彼らが少年だった頃の話。成長し経験を積んだマダラ達に、一人で戦いを挑んで勝てる道理はなかった。

 再び須佐能乎を形成して鬼を受け止めるや、巧みに鬼の片腕をスライスし、紫の巨人の腕で殴り飛ばす。虚空に打ち出された鬼女を、跳躍した柱間が渾身の力で蹴り飛ばした。全身の骨を粉々にされ血反吐を吐いた鬼女は、これは敵わぬと見たのか逃げ出す。無論、

 

「逃がすかッ!」

「貴様は此処で死ね、羽衣天女!」

 

 一族を見捨て逃げる天女を、後の禍根となるのが目に見えているのに逃して堪るかと、戦国最強の二人が追撃する。

 

「木遁秘術、樹海降誕――!」

 

 天女を追う柱間を中心に、辺り一帯へ樹海が生まれる。信じ難い光景に目を剥いた天女の眼前には樹木の分厚い壁が発生し、砕こうにも次から次へと無尽蔵に生えてくる樹木に押し留められてしまった。

 柱間はまだ仙人モードになっていない。あるいはまだ仙術を修めていなかったのか。にも拘わらず桁外れの術の規模である。逃げ場がない、歯噛みする凶相の天女が、追いついてきたマダラを血走った目で睨みつける。

 

「ま、マダラぁ!」

「いい断末魔だ、だがこれ以上貴様を舞わせるつもりはない――!」

 

 須佐能乎の刃が振り下ろされる。周囲を囲まれ回避の能わぬ天女は避け切れず、両腕と翼を掲げ全力で防ごうとするも、腕と翼ごと巨人の刃は両断した。

 体が縦から唐竹割りされ、左右に別れた体がべチャリと倒れ――ない。

 

「何ッ!?」

 

 万華鏡写輪眼の瞳力は見て取っていた。左右に泣き別れた体が、それぞれ別個体のように二人の天女と化し、マダラの両脇を抜けて逃げ散ったのだ。西と東に別れて逃げる二人の天女にマダラは舌打ちする。彼の眼は本体を見切っていた、だから驚愕したのである。

 

「チィッ! 柱間、それは二つとも本体だ!」

「なんだと!? ……えぇい、オレは西ぞ!」

「オレは東だな! 仕損じるなよ、柱間ァ!」

「お前こそ!」

 

 二人の天女はどちらも本体。つまり天女自身のチャクラは、ただでさえ大幅に減じていたのに更に半減している。確実に仕留められる。

 しかし天女も柱間達の領域に棲む忍だ。逃げの一手に徹されると中々致命打を入れられない。手こずってしまった結果、周辺はまさしく対称的な地獄絵図と化していった。

 マダラの追った東は炎の海と化し、柱間の追った西は樹木が無作為に生え、邪仙達を貫き串刺しにした凄惨な光景を生み出したのだ。

 だがなんとしても仕留めようとした甲斐あって、マダラと柱間はほぼ同時に天女を討ち取った。

 

 マダラは天女を巨人の脚で踏み潰し、柱間はチャクラ刀で袈裟に切り裂いたのだ。

 

 死の間際、天女は凄絶な形相で吼えた。

 

「イッ、インドラ様ぁぁぁぁ!」

 

 それは土の国でも、火の国でもなく、風の国の大名の名だった。

 

 邪仙達が掃討されていく中、その名を聞いた柱間の顔が――険しくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




マダラの固有瞳術は、ゲームの特典で柱間戦で使ってた奴です。

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