『うちはマダラ・ラスボス化計画』   作:飴玉鉛

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第9話

 

 

 

 

 

 千火の戦いを契機としたのか、千手とうちはが和平を結んだ。

 

 主導は言うまでもなくマダラと柱間だ。原作と比べたら数年単位で、計画よりもやや早いが誤差の範囲内と言える。これより先、ほとぼりが冷めた頃に和平は同盟へとステップアップするだろう。

 積年の恨み辛みはある。まだ蟠りは解消されていない。しかし柱間の優れたカリスマ性と、扉間の根回しの良さ、うちは一族に溶け込んだナルハタ姫の説得もあり実を結んだ和平交渉だった。

 

 うちは側の最大の障害は、千手殺すべしが信条のイズナである。天女が台頭するまでは、ずっと千手と殺し合ってきたのだ。数人の兄弟と父親は千手に殺されている、今更仲良しこよしなんて出来るわけがない。絶対に千手だけは皆殺しにしてやる。――イズナはそう言って聞かなかった。それはうちはの本音であり、千手にも少なからず似たような意見はあった。

 マダラのような和平派は数少なく、彼はどうやって和平に向けて動き出すか悩みに悩んだ。そこで名乗り出たのがマダラの妻である。

 

『マダラ様。ここはわたしに任せてくださいませ』

 

 コミュニケーション能力が壊滅的なマダラに代わり、彼の長男を出産したばかりのナルハタが、タカ派の筆頭であるイズナにこう言って説き伏せたのだ。

 

『イズナさん、此度の和議は敵の内情を調べる好機です。加えてうちはは火の国からの支援で、千手より早く勢力を拡大させられますわ。そうすると地力の差は開く一方になるでしょう。その上で考えてもご覧なさいな、うちはと千手が手を組んで、敵う者が忍界のどこにいますか? あの最悪の一族はもういない、うちはと千手の覇権は揺るぎないものとなるでしょう。となると有象無象の忍一族は世の流れに迎合せざるを得ず、うちはと千手のように各地の忍一族も手を取り合うようになり、やがては大きな共同体が幾つも出来上がるでしょう。いいですか、イズナさん? これより如何に千手より先に他の一族を味方に付けられるかが勝負となります。共同体の内、半数以上をうちは側に付けられたなら、千手をその共同体から排斥してしまえる――孤立した千手など、うちはの胸三寸でどうとでも料理できますわ。そうは考えられません?』

 

 今後の千手との戦いは外交戦がメインとなる。その最初の一歩でうちはがタカ派とハト派に分かれて意思統一できずにいれば、千手に遅れを取るのは必定である。コミュニケーション能力、つまり外交能力に難のあるマダラでは、うちはの味方を増やすのは困難だ。そこでマダラと一族内の橋渡し役をしていたイズナと、大筒家として心得のある自分とで支え、うちはを繁栄させよう。

 火の国の中に忍の共同体を生みさえすれば、大名一家である大筒家と直接の繋がりがあるうちはを長に出来る。寧ろそうした方がベストな対外政略になるのだと断言できた。

 ――理論武装して言葉巧みにイズナの反論を崩し、しかしイズナの主張も邪険にせず取り入れた論法を展開。ナルハタは見事イズナの説得に成功し、うちはを一枚岩にしてのけた。イズナの過激さを知るマダラは、ナルハタの話術にただただ目を丸くしていたという。

 

 斯くしてイズナはうちは一族の顔として、積極的に他一族との折衝役を買って出るようになった。無論千手には控えめに言っても塩対応なので、そちらはナルハタが対応することに。マダラは最終兵器なのでお留守番である。

 

 イズナがまだ生きている事もあり、マダラは永遠の万華鏡写輪眼を手に入れておらず、千手扉間への怨みもまだ有していない。ここだけ切り取って見ると理想的な展開だった。羽衣一族を利用し、天女という悪役を設置した判断はやはり正解だったと思う。

 千手とうちは共通の戦力を暫定の味方と仮定した場合。火の国と同盟関係にある小国、渦の国に拠点を置くうずまき一族と。写輪眼以上の動体視力と広い視野、透視能力とを併せ持ち、精神的な安定度が抜群の日向一族が千手と同盟関係を持っていた。このことから勘案するに、一族単位の武装集団でしかない忍の勢力図も、これより急速に塗り替えられ『里システム』が花開きそうだ。

 

 返す返すも自画自賛したくなる。メインプランからセカンドプランへ急に切り替えたガバを、この程度に押し留められたのだ。羽衣天女として戦闘経験値を蓄え、悪名を轟かせた甲斐がある。

 また思ってたより天女が強力な個体に成長していた事もあって、このまま捨てるのが勿体ないと感じ、遺体を回収したのもプラスに働いている。天女は余程恨まれていたと見えて、遺体はグチャグチャに破壊され焼却処分されそうになっていたが、全身覆面のザ・忍者の格好をさせた木分身に遺体を回収させ、逆口寄せでそのまま離脱させてやった。

 

 こうすることで、マダラが主人公化している現状に一石を投じられる。

 

 最期にインドラの名を叫んだ天女の遺体を、正体不明の忍が回収して離脱したのだ。柱間からこのことを聞いた扉間が、風の国の大名に探りを入れるのは自明である。

 現に風の国に居る木分身の周辺をウロチョロする奴が現れていた。隠密性に優れた忍であり、扉間もその能力には信を置いているのだろう。試しに掴ませた計画の情報の一部で、扉間は危機意識を懐いたらしく火の国の上層部に接触してきた。やったぜ。

 

 俺のセカンドプラン――それは題して、原作前に中ボス用意したよ! だ。

 

 柱間が悪いよー柱間がー。アイツ強すぎなんだよ。天女に仙術抜きであそこまでやれるとか今後を考えると辛い。どうなってんのアイツは。マジでアイツ頭おかしい。

 よって中ボスに相応しい計画を本気で立案してある。その計画を部分的にでも知れば、あの扉間もガチになろうというものだ。そして中ボスは殺られてしまうのである。

 謂わば中ボスは噛ませ、踏み台、前座である。もちろん俺もやるからには本気でやる。変に手を抜いてたら逆に違和感を感じ取られてしまうし、中ボスのヤバさがラスボスを際立たせる。

 

 後はタイミングが命だ。

 かなりシビアなタイミングになりそうなので、マッチポンプで調整しつつ時間を稼ごう。

 そういうの……得意なんです。任せてくださいよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大筒家率いる火の国は、先手を取って侵攻してきた風の国を攻めた。風の国の大名、太刀風インドラはこれに対して専守防衛に徹し国土を守ると、他国はその動きを見て火の国一強の時代を終わらせるべく、風の国と事を構えていた火の国の後背を突く。

 

 戦乱が終息する兆しを見せる忍界とは異なり、表世界の戦乱は一層規模を増していっている。火の国は連合軍を相手に奮戦し、場所によっては優位に立っているほどで、独力で世界征服も能うと『大筒イブキ』が言っていたのは強がりではない事を証明していた。

 しかし苦戦しているのも確かだ。多方面に抱えた戦線の内一つでも打破できたなら、戦況は一気に明るくなる目算が立っているのに――それが出来ない。表世界での戦乱が長引き、規模を増していくほど、国と紐付けられている忍一族も駆り出されている。

 必然的に戦火が収まる兆しを見ていた忍界にも悪影響を及ぼし、事態を重く見たマダラは味方の有力者を集め会議するべきと提案した。この裏にはナルハタが()り、柱間が同様のことを提案する前に会議を主導するべきだと、イズナを巻き込んで進言したのだ。こういう時にリーダーシップを発揮してこそ、共同体『里』が完成した時に長になれる確率が上がるのだから。

 

 斯くしてうずまき一族から当主アシナ。日向一族当主スパナ。うちはと千手からはマダラと柱間、付き人にそれぞれナルハタと扉間。そしてうちはが引き込んだ猿飛一族からサスケ、千手が引き込んだ山中、奈良、秋道一族の当主が一堂に会した。

 会議の場は後に木の葉隠れの里が創設される土地。火の国からうちはに提供された土地だが、そこにはまだ何もない。故に柱間が木遁で会議場を作成し、各々の当主たちは参加したのだった。

 

 忍一族の長達が話し合う議題は、表世界からひっきりなしに舞い込む戦の依頼に対して。

 

 彼らも稼ぎは必要であり、戦争の依頼はデカい稼ぎになる。しかしこのままでは忍界全体が荒廃して、戦乱が再び激化していきかねない。この悪しき流れを断ち切るために合力(ごうりき)し、同志となった我々の手で解決策を練ろう、とマダラは言った。台本通りに。

 台本の作成はナルハタ。テーブルの下でマダラの左手を握り、ナルハタは慣れた様子で夫の掌に高速で指を這わせ、マダラに何を言うべきなのかを指示していた。この時のために台詞が棒読みにならないように訓練してきた甲斐があり、マダラの台詞には深い知性が滲んでいるように周囲へ感じさせていた。

 

「だが戦への参戦を断れば、稼ぎを失くした者が出るのは必定。飯の種を得るためにも、不毛と知りつつ戦に出るしかないのが実情だ」

 

 そう言ったのは猿飛サスケだ。

 血継限界を持たない一族だが、当主のサスケの実力はマダラと柱間も一目を置く域にあり、超一流の忍と言ってもいいだろう。情勢を読んでうちはからの誘いに乗った、政治的に()()()()男だ。

 彼は続けて言った。戦が嫌なら自給自足をしないといけないが、一朝一夕で自分達の食い扶持を作り出せる一族はほとんどいないだろう、と。表世界からの需要は忍の戦闘力しかなく、それ以外では機密情報の奪取がほとんどで、それだと戦争に関わっているようなものだ。

 尤もな言い分である。議論を交わす中――ナルハタを通してマダラに意見を出した。掌に指を這わせての意思疎通に、マダラは微かに目を見開くも。ナルハタの言う通りだと思ったのか、彼は発言権を求めてから言った。

 

「――では、表世界から戦を無くすしかあるまい」

 

 マダラの発言に、全員の目が彼に向いた。彼らは皆、マダラの実力を知っている。実際に戦ったことがある者もいた。故に彼の言葉を軽んじる訳もなく、どういうことか説明を求められた。

 

「オレ達うちは一族はこの土地を提供してくれた火の国と、長年に亘り主従関係を築いてきた。だが火の国は一度たりとも我らうちはを侵攻戦に駆り出していない。依頼がある時は必ず防衛戦の時のみだった。そして火の国は独力で表世界を掌握できうる大国でもある。故にオレはこう考える――まずこの場にいる者達で火の国に助力し、その覇業を手伝うべきではないか、とな」

「……それはうちは一族が、火の国の家臣として迎えられているからこその意見だろう」

「違うな、日向スパナ。オレが言っているのは信頼の置ける国か否か、表世界の統一を成せる国は何処で、何処の国が最も早く戦火を潰せるかを話しているに過ぎん。貴様らの中で誰でも良い、火の国ほど国力に富み、信頼を置けて、なおかつ戦国に終止符を打ち得る国が他にあるのか言ってみろ。そんな国があると思うのならな」

 

 ギロリと一族の長達を睥睨するマダラに、各々は真剣に検討する。しかし彼らが考えを纏めている最中にも、ナルハタはマダラを介して告げる。

 

「本懐を見失うな。何処に手を貸すかではない。何処が最も早く平和を齎せ、犠牲を抑えられるか。それだけが肝要だろう。極論、表世界よりも忍界の安定が最優先のはずだ。言葉は悪いが忍界をほぼ放置してくれる火の国ほど、担ぐ神輿として相応しい国などない」

「――うむ、オレもそう思うぞ」

 

 同意したのは柱間だった。

 匂い立つほどのカリスマ性を滲ませ、彼はマダラにニカッと笑いかけた。

 

「オレも少し前に大筒家に謁見を申し込み、直接話をしてもらった。そのオレからも言わせてもらおう、現大名の大筒シュテン様は信頼の置ける御方だったとな」

 

 柱間の言葉で、場の空気が火の国に傾く。

 政治センスが壊滅的な彼は自覚していないが、これは政治色に富んだ発言である。

 サスケやスパナを初め、全員が理解していた。千手もまた火の国の大名と知己を持ち、影響力を持ち得る存在になりつつあると。うちはだけが関係性を有しているより、余程に安心できる要素だ。

 柱間が火の国の大名に謁見を申し込んだのは扉間の仕込みだろう。政治方面にも頭が回り、未来への展望を思い描ける能力か、その展望を聞かされている者であれば歯噛みするはずだ。特にイズナがこの場にいれば、殺意も露わに扉間を睨んでいたに違いない。

 

 しかし柱間もマダラも、そんなことを気にする男ではない。今は戦国の世を脱する事しか考えていなかった。故にこそ彼らに利己の気配を感じられず、忍の面々は真摯に耳を傾けられるのだ。

 

「――マダラ殿の意見に賛成させてもらおう」

 

 サスケがまずそう言った。するとスパナも乗じる。

 

「柱間殿の意見を信じよう。日向も乗るぞ」

 

 奈良、山中、秋道もスパナに同意した。現時点の勢力図は千手が優位なのが分かる。だが火の国を神輿にする限り、うちは一族の優位は揺るぎない。そのことは誰もが了解していた。

 マダラはナルハタの知恵を借りずに、自身の言葉を口にした。

 

「火の国に我らは助力し、戦乱の世を平定する。表も裏も疲弊している、もう……戦を終わりにしてもいいだろう。終わらぬ戦を終わらせ、泰平の世を我が子達に見せてやるのが、親の役目だ」

 

 それは一児の父になったからこその、言葉の重みだった。

 マダラの台詞に、全員が深く頷いた。余りに長過ぎる戦乱に、皆が心の底では疲れていたのだ。

 大事な一族を、家族を、もう死なせたくない。殺すのも殺されるのもうんざりだ。

 故にこそ、そんな地獄のような時代を、自分達の代で終わらせる。

 その決意が共有された瞬間だった。

 

「――では、オレから一つ、重要な話をさせてもらおう」

 

 意思の統一が出来た頃を見計らい、発言したのは扉間だった。感情の色を一切表に出さない鉄面皮。その頭脳の冴えを、この場の者達は痛いほどよく知っている。

 故に何事だと思った。扉間の面貌は、ただ事ではない雰囲気を醸し出していたのである。

 果たして扉間の告げた情報に、一同は瞠目した。超一流の忍達ですら戦慄して、驚愕に値する情報が出されたのだ。

 

「風の国が、如何なる手段によってかはまだ分からんが――()()()()()()()()()()()()()事の真相を掴みたい、各方(おのおのがた)にも風の国への潜入を頼む。――更に補足すると、()()()()()()()()()の姿も風の国で確認した。これは我らにとって急を要する事態だと断定できるはずだ。我ら千手は貴殿らに速やかな決断を求める」

 

 この時代、災害として認知されていた尾獣。

 そして千火の戦いで死んだはずの邪仙の頭目。

 その名に、戦慄が走った。

 

 

 

 

 

 

 


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