「汝、ノワール・T・緋凰は、健やかなる時も、病める時も、死が二人を分かつまで、共にいることを誓いますか?」
「誓います」
「汝、一条すみれは、富めるときも貧しきときも、、愛し慈しみ貞節を守ることをここに誓いますか?」
「はい、誓います」
いやぁ、いつ見ても結婚式ってのはいいもんだ。しかもそれがいつ結婚するかも分からなかった娘のものとなれば感動もより大きい。
「しかしこの短期間でうちの子とお前の子が二回も結婚式を挙げるとはな。紅莉、他の子はどうすんだ? 何なら見合いの相手を探してやってもいいが」
「それはそれで有り難いが、時間はたっぷりとある。あの子達もそのうち自分で見つけるだろう」
「はは、確かにそっちの方がいいかもな」
とは言ってももう親戚関係なんだし、世話を焼きたくなっちまうんだよな。直した方がいいかもしれないが、性分だし。
「親父殿、義父殿、楽しんでいますか?」
「ああ、楽しんでいるさ」
「おうとも。君みたいな子がすみれの旦那なんて安心だ。折角うちの子にもなったんだ。今晩はうちに泊まっていきなさい」
「分かりました。少し伺いたい事もありましたので」
「そんな堅くなるなよぉ。義父さん悲しいぞぉ」
「や、止めて下さい」
首根っこを掴んで引き寄せてから頭を撫で回してやる。抵抗しようとする意思は感じられるが、そんなもんじゃ俺から逃れるなんて無理だぞ。まあ本気で逃げる気なんてないのは分かるけどな。
おっ、親族の挨拶の時間だな。確か話すのは光だ。あいつは口は悪いが、こういう挨拶は真面目にやるから大丈夫だろう。
「あー、テステス。こほんっ。どうも、すみれの兄の光です。この度は妹の結婚式に参加して頂き感謝致します。はっきり言ってこんな日がやってくるとは思いもしませんでした。確かすみれが初めて失恋したのは4歳の頃。それから何百という失恋を………何千だっけ?」
『ハハハハハハハッ』
「もうお兄様!」
「てめぇが悪いんだろが。ともかくこんな妹を貰ってくれたノワールには感謝の気持ちしかないです。ここで人生の先輩として、結婚生活の先輩として言葉を贈りたいと思います。寛容であれ。以上。はぁー、かったる。もういいよな」
「最後までしっかりやらんか」
「うっせぇ」
ったく、信頼した結果がこれかよ。あいつらしいっちゃらしいけど。
「お父様ぁ、お兄様が虐めます。何千もの失恋なんてした事ありませんのに」
「おうおう、旦那さんが居るのに俺に泣きつくんじゃないぞ。でもそうだよな。たった898回しか失恋してないもんな」
「それフォローになりませんわ………………」
そりゃ最初からフォローするつもりなんてなかったからな。お前のフラれ癖にはどれだけ苦労させられた事か。ノワール君が居なかったらどうなっていた事か。
「うっ………」
「な、何故お父様が泣きますの!?」
無意識のうちに泣いてしまうとは、俺もまだまだガキだな。くぅっ、マジで良かった。
余談だがブーケトスは紫遠ちゃんが取っていた。あの子、光の結婚式でも取っていたな。
ーーーーーーーーーーーー
義父殿に招待され、今日は義父殿の家での夕食だ。ただ食卓を囲むのは私とすみれ、そして義父殿と義母殿だけだ。他の家族は二次会、三次会と街へ繰り出していった。
「どうかなノワール君。口に合う?」
「ええ。大変美味です。特にこのぬか漬けはご飯によく合います」
「要さんも言っていたけど、そんなに畏まらなくていいのよ。それに紅莉さんが言うには貴方は私達より年上みたいじゃない」
「確かにそうですが、人生経験などは明らかに劣っていますので」
これまで剣術にのみ捧げてきた人生だった。如何に老い遅く、長寿だからといっても人生経験豊富なわけではない。何よりこの方達は私の新しい両親だ。敬意を払わなくてはいけない。
「にしても本当に旨いぬか漬けだ。どこで買ったんだ?」
「あなたったら、私が漬けたんですよ。すみれも奥さんになるなら旦那さんに飽きられないような日々を作り出すのよ。マンネリは夫婦生活一番の敵だからね」
「はい、お母様」
「いや参ったな。ノワール君、奥さんはこうやって日々努力しているんだ。なるべく労ってやるようにな」
「なら要さん、今度温泉旅行にでも連れていってくれないかしら?」
「はは、お安いご用だ。どこがいい?」
「ブルーラグーンで」
「………………どこだよ」
どこの食卓も穏やかで、家族が笑って過ごせるようものなのだなと実感した。世の中にはそうもいかない家庭があると聞くが、それはどれだけ寂しい事なのだろう。
「そうそう、ノワール君は俺に訊きたい事があるんだっけ。何だ? 言ってみ」
「それは夜にでも」
「ん? すみれはいいのか? 念願の結婚初夜だぞ」
「旦那様の我が儘を聞くのも妻の勤めですわ。確かに初夜は今だけですが、愛し合うのはいつでも出来ますので」
「ふーん、互いに納得してるなら気にしねぇけどな。なら今晩俺の部屋に来な」
「ありがとうございます」
食後は義父殿は仕事があるからと自室へ行ってしまったため、義母殿を交え会話していたのだが、どうにも話についていけない。科学技術的な話を私に振られても困ってしまう。こういうのはスカイの分野だ。今度スカイを連れてこよう。
「そろそろ義父殿に会ってくる」
「分かりましたわ。お母様、やはりこの部品はこちらにすべきでは………………」
義父殿の部屋はどこだろうか。なかなかに部屋数の多い家だ。間違えて違う人の部屋に入ってしまっては迷惑だろう。ここは気配を探っていくしかない。
「こっちか」
流石に分かりやすい。これだけの気配を持つのは親父殿以外には義父殿しか知らない。
ーーコンコンコン
「入りな」
「失礼します」
部屋に入っても義父殿はまだ机に向かってペンを走らせている。
「このままでいいから質問してくれ」
「分かりました。では義父殿、貴方の強さの秘訣が知りたいのです」
「こりゃまた難しい質問だ。でも大切な義息のためだ。俺から言えるのは長所を活かせって事だ」
「義父殿の筋力のように、私は剣術を伸ばせという事ですか」
「違うな」
えっ、あの脳筋を自称する義父殿が自身の筋力を否定した? とてもではないが信じられない。では義父殿の長所とはなんなのだ。
「少し運動しようか。付き合ってくれ」
「はい」
「あ、これ使うから」
手渡されたのはただの竹刀だ。義父殿も持っている。剣道でもするのか。たまに義父殿がうちにやってきては紫遠やアッシュの指導もしているので剣術が使えても不思議ではない。
義父殿に連れてこられたのはかなり広い体育館のような場所だ。所々罅など劣化があるのを見るに、普段から使われているトレーニングスペースなのだろう。
「じゃあいくぞ」
「どこからでもどうぞ」
「ふぅ………面っ!!」
正直で真っ直ぐな太刀筋だ。ただ異常なフィジカルから繰り出される面の速さは音速を超えている。それでもこの程度ならどうだって出来る。
私は軽くいなしてから喉めがけて突きを放った。まあ当然のように回避されるのだが。
「おー、本気の面だったんだけどな」
「そうでしたか。しかし基礎がしっかりと出来ている綺麗な面でしたよ」
「段位は持ってるからな。んじゃ次だ」
構えを崩した。ここからは剣道ではないと
「ッッ!!?」
なんという威力の剣撃だ! これは腕力のみで出せるほど単純なものではない。たった一合。それだけでここまで技術が上がるというのか!?
「ORTでも筋力でもない。異常なまでの成長速度。これが義父殿の長所ですか」
「そう。だが悲しいかな。これで成長する技術は戦っている相手と同じレベルまでなんだ。技術なんて関係ないORTと筋力は除いてね」
だから義父殿は技術よりも筋力を優先したのか。そしてこの人は今でも、否これからも成長期だというのか。なんと恐ろしい。
「満足かな?」
「いえ。この強さに辿り着くまでに何らかの答えを得たはずです。それを知りたい。最後にそれを見せて頂きたい」
「答えねぇ………………俺はね、ついこないだまで絶対に当たる攻撃を求めていたんだよ。自慢だけど俺の筋肉で殴れば一撃だからな」
それを否定する存在は居ないだろう。親父殿も直撃だけはごめんだと言っていた。
「んで考えた。避けられない攻撃、どんな距離でも当たる攻撃等々、でもどれもピンとくるもんじゃなかった」
「ですが何かしらの答えを得たのですね」
「そうじゃなきゃ話さねぇからな。構えなさい。全身全霊で迎撃してみるといい」
何をされるのか。恐ろしくもあり楽しみでもある。義父殿の答えを見切り、私の成長の糧にさせてもらおう!
「いい顔だ。もう終わってるけど」
「………そんな………まさか………」
一切目を離さなかった。なのに、どうして義父殿は目の前に居る!? 何が起こったというのだ!?
「これだけ驚いてもらえると嬉しいねぇ。これが俺なりの答え。絶対に当たる攻撃じゃない。絶対に攻撃を当てられる間合いに移動する事だ」
ではこれは歩法なのか? 瞬間移動であろうと見切り、移動してくる次元ごと斬る準備をしていたというのに。
「もう一度、お願いします」
「何度でもやるさ。義息のためだからな」
宣言通り義父殿は何度も見せてくれた。私に向かってくるだけでなく、私が指定した場所に移動もしてくれた。だというのに最後まで見えなかった。
「これから晩酌するけどどうだい?」
「遠慮します」
「そうかい。あんまり気にすんなよ。助言くらいしてやるから」
「助言、ですか」
「強さは自由である事だ。強い奴は常識に縛られているわけでもなきゃ、常識を破っているわけでもない。新しい常識を作っているんだよ」
んじゃな。と立ち去る義父殿。ああ、そういう事か。親父殿達は文字通り住んでいる世界が違うんだ。干渉できるわけがない。親父殿達の見ている世界はまだ遠いな。
ノワールとすみれの結婚式なのに半分以上違う話じゃないか………………レティウス様お許しください。