「明日花見に行こう」
「ごめんねダディ。その日は主婦友とお茶会なの」
「いきなり言うな脳筋父上。明日は仕事だ」
「婚活パーティーの予定が入っていまして」
「おじいちゃん、オレまだ16だよ」
ああ、みんな冷たい。一家の大黒柱は大切にしないといけないんだぞ。ミコトなんてこっちが酒を呑む前提で話してやがるし。まあ呑むんだけど。それと妻には絶対に訊かない。答えは見えている。こうなったらうちの社員を全部集めてやるか。社長権限で
「いけません」
秘書にあっさり却下されてしまった。最近俺の発言力ねぇなぁ。元からか。それなら独りで呑むから…………やっぱりなんかやだ。今は誰かと呑みたい気分なんだ。
「…………よし」
この世界の誰も構ってくれないなら、別世界の輩でも引っ張ってきてやる。暇しているかは分からないが、こっちに引っ張ってくれば拒否なんて簡単には出来ねぇだろう。さて、世界の壁を引き裂いて…………見っけ。手を伸ばせば捕まえれるな。
「ゲッチュ! フンッ!!」
「うわぁっ!? 何が起こった!?」
無理矢理並行世界から引っ張ってきたのは、緋凰紅莉。俺と同じ転生者だ。
「よう紅莉」
「…………お前か要! いきなり何をするんだ!」
「問題あったか?」
「問題だらけだ! ちょうどなのは達に怪談話していた時に謎の手に引っ張られたんだぞ! 流石にビビるわ!」
そりゃ悪い事をした。まさにリアルホラーだな。だが紅莉、俺達転生者だぞ。存在自体がホラーな俺達がホラーにビビるのはどうなんだ?
「もういい。用事は?」
「酒呑もうぜ」
「…………はあぁぁぁ、せめて旨い酒を用意してくれよ」
「任せろ。俺は酒屋の社長だぜ」
そんじゃいいもんを見繕ってくるか。しかし少しは抵抗してくれるもんだと思っていたが、その様子は全くなかったな。久しぶりにいい運動が出来ると思ったのに残念だ。
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突然人拐いをするなんて、あいつあんな性格だっけ。そんな事より問題は以前より更に強くなっている事だ。以前会ったのは子供が生まれてすぐの頃だったが、その時より数倍、もしかしたらそれ以上になっている。あいつは成長限界がないのか?
「どこに向かうつもりなんだ? もう山登りを始めて30分だぞ」
「もうちょっとだって」
今はある次元世界の要がオススメする花見スポットまで向かっている途中だ。俺達の速度なら3000m級の山でもすぐに山頂に着くのだが、この山は相当高いらしい。しかし妙だ。今の時期は既に桜は散ってるし、ある程度の高度になると植物は背高く育たない。こんな場所に桜があるはずがないのだ。
「見えたぞ」
「! そういう事か」
山頂一面に広がっていたのはシバザクラの絨毯だった。こんな山頂に生える品種はこの世界独自のものだろうが、背も低く、開花時期も普通の桜と比べて遅いシバザクラなら、先程の疑問も全て解消される。
「よし、呑むか。ついでにもう1人ゲストを呼ぶか?」
「今からか?」
「呼ばれる前にジャジャジャジャーン!!」
「うおっ!?」
要の影から突然女性が飛び出してきた。見た目は要とよく似ている。兄妹と言われても納得しそうだ。でもこの女性によく似た存在を何か知っているような…………
「こいつは俺の女性人格の楔だ」
「よろしくね、紅莉君」
「ああ、だから似てるのか」
「何がだ?」
「紅莉君も女性人格を内包してるもんね。あ、光莉ちゃんは人格じゃなくて狂気か」
「どうしてそれを?」
「チートだからよ」
くそ、納得だ。チートって言葉で全部が済んでしまうのが悔しい。
「紅莉は何から呑む?」
「ん、オススメは?」
「なら軽く焼酎から」
軽くはないだろう。しかも瓶ごとって。まあ要だしな。仕方ないと諦めるしか、っくぅ、度数高っ! 味は最高だけど、いきなり呑むようなもんでもないだろこれ。
要も楔ってのも度数を気にせずガバガバ呑んでる。酒が呑みたいだけなら居酒屋にでも行けよ。はぁ、俺は俺で花を愛でるとしよう。
「今度はこっち呑め」
「現在進行形で気化してるんだが」
「スピリタスのアルコール割りよ」
それは酒ではない。アルコールの塊だ。俺は意識的にアルコールを分解する事が出来る。だがこんなものは口にしたくもない。そもそも人間が口にしていいものじゃない。俺はこっちのカクテルでも貰う。
む、誰かこっちに向かってくる。こんな場所に来るなんて要みたいな物好きか?
「到着って、おじいちゃん何を?」
「花見だよ。ミコトも呑みに来たのか?」
「監理局の訓練で登ってきただけだって。教官とかも置いて圧倒的トップだぜ」
今、何気にとんでも発言が飛び出したな。要はいつの間に孫が出来たんだ。要の見た目が以前と変化がないから時代に変化がないと思ったら、そこまで人間を辞めていたのか。
「俺の孫ならそれくらいはやってもらわんとな。いつかは俺を越えるんだぞ」
「孫になんて無茶な注文するんだ。お前みたいな化け物を増やそうとするな」
「おじいちゃん、この人は?」
「昔の知り合いの紅莉だよ。喧嘩売ってみてもいいぞ」
「流石に実力くらい見抜けるよ。今のオレじゃ勝ち目がない」
要の血を引いてるのに謙虚だな。これくらい大人しいと要から食らったストレスを発散してやりたくなる。目の前に要が居るから出来ないのが残念だ。
「じゃあオレは自主練してるから。紅莉さん、おじいちゃんをよろしくお願いします」
「頑張れよ。俺達はまだ呑むぞ」
「ほどほどにしてくれよ。酒で腹を膨らますのは勘弁だ」
「簡単な肴くらいなら作ってあげるわよ」
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どれだけ長く呑まされるのか。呑むだけってこんなにも疲れるものなんだな。
「むむっ、酒が切れたな。ちょっと取ってくる」
「もういいって。それより夕方だぞ。まだ帰らないのか?」
「んー、まあきりもいいし、帰るか」
やっと解放される。もう酒の席で要の相手はしたくない。腹がタプタプだ。そういえば楔の姿が見当たらないな。どうしたんだ?
「疲れたから寝るってよ。勝手だな」
「一番勝手なのはお前だよ」
はぁ、どうやって帰ったもんか。神に連絡するのが一番…………
「紅莉、すぐに穴を開けるからな」
「穴?」
「ほっ」
要が腕を振ると空間が裂けた。おいおい、次元断裂とかのレベルじゃないぞ。こうやって俺を拐ったわけか。俺はいつになったらこの領域に辿り着く? いやそもそも届くのか? 何十年も修行したからといって…………
「飛んでけ!」
「ってうぉい!?」
いきなり投げやがってこの野郎!! 次にあったら両断してやる!!
とりあえず呑むのが要です。困ったら呑ませます。
レティウス様、ありがとうございました。