子供も生まれ、孫も生まれ、事業もそらなりに成功し、筋トレをする日々。要にとってかなり有意義な余生なのだが、彼なりに不満な事があるらしい。それは刺激。子供や孫と戦うのもいいが、それは普段からやっている。昔のように並行世界や異世界からやってきた転生者達との戦いを要は求めていた。
「神様、何とかして下さいよ」
「自力で天界まで乗り込んできて言う事がそれかい? 君と張り合える転生者なんて限られるよ」
「そしたら手加減しますから大丈夫です」
「何が大丈夫なんだか……………………この子でいいかな。じゃあ要君、行ってらっしゃい」
「よっしゃ、暇潰しだ!」
仮にも僕は最高神なんだけどなぁ、と思いつつも要に従ってしまう神なのであった。
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ここは…………かなり昔の海鳴だな。懐かしい。まだジュエルシードが転がってたりするんだろうか。ん? なんか変なのが建物の影に居るな。真っ白な人型の何かだ。しょっぱい力を振り撒いててなんか怪しいから潰しとこ。
「ちぇい」
ーーパァンッ
軽く殴ったら弾け飛んでしまった。脆すぎる。まあ肉片すら残らないって事は生き物じゃなかったんだろう。もし生き物だったら、まあそれはそれで放置だ。どうせこの世界は俺の世界じゃねぇし。
「神威、こっちだったよね」
「ああ。間違いなくホワイトのまりょ、く……………………えっ…………?」
「ん? なんだ坊主に嬢ちゃん。こんな裏道に来たら危ないぞ」
「し、しょう…………?」
「生憎と弟子を取った覚えはないんだがなぁ」
「え…………いや、でも一条要さんですよね?」
この男の娘は何故俺を知っているんだ。師匠と呼ばれる記憶もねぇのにな。
「この馬鹿弟子。俺と並行世界の俺を間違えるな」
「ぐぉっ!!?」
ーードゴォンッ
「か、神威!!?」
「じゃあな。俺は帰る」
突然やってきた並行世界の俺が男の娘をビンタで壁にめり込ませて帰っていった。いや本当に何しに来たんだ。とりあえず引っこ抜いてやるか。
「あらよ」
ーーズボッ
「ぶへっ、た、助かりました」
「なんか大変だな。酒呑むか?」
「…………やっぱり貴方も師匠、いや要さんですね」
酒で判断するのは勘弁してもらいたい。っとと、んな事より戦いにやってきたんだった。今回の相手はどこに居るのやら。
『いやその子だよ』
「あ、マジすか」
「どうしました要さん」
「バトルだ!」
「はっ?」
「神威、私もうわけわかんないよ」
「大丈夫だ亜美。俺も同じ気持ちだ」
分からないならそれでもいい。並行世界の俺の弟子なら俺がどう扱おうが構わないはずだ。まずはこの世界で喧嘩するわけにもいかないし、天界辺りに連れていくか。
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えー、皆さん初めまして。神威です。苗字は特にはありません。今は並行世界の師匠こと要さんに無理矢理別世界へと連れ込まれました。理不尽です。
「神威、どうするの?」
「どうするもこうするも、やるしかないだろ。本能的に師匠、いや要さんに逆らえないんだし」
「初手は譲るぜ。どっからでも来な」
初手は譲るって、ただのカウンター狙いだろう。だがそんな事はさせない。例え要さんでも初手で倒す。俺の相棒の両刃の剣、神滅竜剣[絶]を取り出し構える。こいつを見た要さんは不思議そうな顔をした。
「ORTの力? そいつはどうやって手に入れた」
「師匠に貰ったORTの甲殻が素材に使われてますから」
「成る程、並行世界の俺の仕業か。納得だ」
「行きます」
刹那。俺は間合いを詰め、剣を降り下ろす。要さんは目では俺の動きを追えていても行動が追い付いていない。いや目で追えるだけでもおかしいんだけど。まあどうだっていい。神滅竜剣[絶]はあらゆるものを斬る。当たればこれで終わり。
ーーザクッ
「へぇ、武装・ORTを貫通するか」
「くっ、まさかこんなに早く発動出来るなんて」
「舐めんなよ。さっさと散れ」
「遅い!」
蚊でも追い払うかのような要さんの動きだが、その一撃は必殺だ。喰らえばよくて即死。当たりどころが悪ければ肉片も残らない。でも俺のスピードなら避けるのも容易い。要さんの肩口に刺さった剣を引き抜き、一気に距離を離す。
「随分と速いな。だが逃げ足だけじゃ勝てないぞ」
「当然そんなつもりはありません!」
「いいね、そのやる気。完全武装・ORT」
くっ、全身にORTを纏ったか。でも全力でやれば神滅竜剣[絶]なら斬れる。って要さんの右腕が落ちてる。義手だったんだ。まあそれならそれで好都合。右側の守りは薄いって分かった。
「ウオォッ!!」
あの硬い甲殻を斬れるよう、おもいっきり力を込めて…………
「隙あり」
「っ!?」
「お、また避けたな」
なんとか回避したけど、俺のスピードに合わせてカウンターをしてきた!? 完全武装でいくら強化されてるからってそんな事が出来るのか!?
「お前、普段使わない筋肉を使ったな。隙だらけだったぞ」
「! それだけで見抜くなんて」
「常に筋肉は鍛えておけよ。使わない筋肉なんてないんだから、なっ!!」
流石に完全武装状態。かなりのスピードだ。でもまだ俺の方が速い。避けるのは簡単だ。しかしパワーは桁違い。その上僅かな筋肉の動きも見逃さない脳筋観察眼。俺の師匠はここまで脳筋ではなかった気がする。どっちかというと胃痛…………
「はっ?」
「す、すみません!」
「どうした?」
「えっ、げ、幻聴?」
師匠、自分でチート能力はパワーだけとか言ってた事あるけど、実は神みたいなもんになってるんじゃなかろうか。しかし全力での斬撃が見抜かれるなら連撃で蓄積ダメージを狙うか。
ヒットアンドアウェイを続けて要さんを斬りまくるけど、浅い傷は一瞬で塞がる。いくら要さんの攻撃が当たらないからってこれじゃあじり貧だ。
「しかしなんだな。神威だったよな。お前って武器の性能に頼った速いだけの存在か?」
「一応魔法もありますけど」
要さんに通用しそうな魔法はかなり限られてくる。しかも一部は太陽や月なんか空にあるものに頼る魔法だけど、この天界にそんなものはない。だからかその手の魔法が使えない。他の強力な魔法も準備が多少必要となる。その余裕があるだろうか。
「うーん、このままやるとじり貧で俺が負けるか、たまたまかすった攻撃でお前が死ぬかだよな」
「殺さないで下さいよ」
「そうですよ。要さんの脳筋」
「脳筋で何が悪い娘っ子。ただこれじゃあつまらん。手を抜いて全力でやるか」
手を抜いて、全力? 矛盾したその言葉にどんな意味があるんだ。
「出てこいORT」
要さんの胸元から凄まじい力を放つ光の球が出てきた。球が出ると同時に完全武装が解除されたが、そこに居たのは俺の知る要さんではなかった。黒い髪に黒い瞳。魔力も欠片も感じない。
「…………誰?」
「ORTって不純物の抜けた一条要。努力した筋トレは反映されてるけどな」
それってとんでもない弱体化じゃないか。いくら鍛えててもただの人間じゃあチートと戦えないのは要さん自身が一番良く知っているはず。
「流石にその剣は勘弁してくれよ。こっちはこれだけ手を抜いてるんだし、互いに素手でな」
「え、ええ」
「それでも神威と戦うなんて無謀だよ」
「おし、行くぞ」
構えた? 俺の知る師匠は武術は使っても常に自然体だった。こっちの要さんもそうだったはず。何を仕掛けてくるのか読めない。こっちから攻めるか?
「…………」
隙が…………ない…………
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要が自らを弱体化させてから3分。双方に動きはなかった。神威が何かをしようとするのはその目で分かるが、ピクリとも動かない。
「どうしちゃったんだろ」
『何が起こっているかも理解出来んとは、所詮は小娘か』
「うわぁっ!? さっきの光の球が喋った!?」
『騒ぐな小娘。我はORTだ』
「あ、そうなんだ…………それであそこでは何が起こってるの?
『要が全力で守りを固めている。それだけだ』
「…………それだけ?」
亜美は不思議でならなかった。今の要はせいぜい武術の達人レベル。並のチート以上の神威が攻め込めない理由がない。
「どうした? 俺が怖いか? 今はただの人間だぞ?」
「なら、行きますよ!」
ーーズドンッ
「!?」
「やっと当たったな」
とても目で捉えられない超スピードの神威の腹に要の拳が吸い込まれた。ダメージはほぼないが、神威も亜美も驚愕の色が隠せない。
「神威のスピードに対応した!?」
『否。あれは殴られるように仕向けられたのだ』
「何それ。神威ならそれでもスピードで避けられるよ」
『確かにな。だが生物によって変わるが、肉体の構造的に回避不可能な瞬間は如何なる生物もある』
「要さんはそれを狙ったの? ならなんで今までそれをしなかったの? それにあなた(ORT)が抜けた状態でそれが出来るなら、最初の攻撃を避けるのだって出来たはず」
『あれは傲慢な男だ。されど臆病者でもある。傲慢故に攻撃を避けず、臆病者故に殺人を恐れ、全力で殴れない。だが今は攻撃を喰らえば即死、全力で殴ろうとも相手は死なない』
「それが手を抜いて全力」
チートには程遠い今の要が超スピードの神威に攻撃が当てられるのだ。もしORTの居る状態で全力を出したらどうなるのか。
『まあ我の居る状態での攻撃の全力を出すことはないがな。技術を使った攻撃はあれの美学に反する。守りに関しては、ごくまれに全力を出すな。流石に我が居ようと死ぬことはあるのでな。おや、決着が着きそうだぞ』
「えっ、もう?」
「へぶらいっ!!?」
奇妙な叫び声を上げながら要が宙を舞っていた。どうやら神威が要の全力に対応したようだ。飛ばされた要はくるくる回ったのちに音もなく着地をした。
「おー、いてぇ。ほぼ一般人だぞこっちは」
「ハァハァ…………手加減はしましたよ。でもあの高さから落ちてほぼ無傷じゃないですか」
「必要ないが技術面も鍛えてるからな」
「いや必要ですよ」
「ORT、戻ってこい」
光の球となっていたORTが要の体内に入ると、要の姿も普段のものに戻った。
「楽しかったぞ。さあて帰るか」
「ししょ、要さん!」
「ん?」
「今度会う時には、戦いは勘弁して下さいよ」
「…………さてな。それは気分次第だ」
ニヤリと笑いながら世界に穴を開けて出ていった要の後ろ姿に、嫌なものしか感じなかった神威であった。
要はあらゆる技術を駆使すれば今よりかなり強くなります。でも本人が筋肉だけで成長しようとするんです。