ここは名も無き世界。強いて言うならばアルハザードだった世界。ここである男が怪物と対峙していた。
「グゴオォオオオオオオッ!!!」
「次元が歪んだと思えば星喰いか。お前の好物はここにはねぇぞ」
体長数百kmはある獅子のような獣。その口は顔の半分以上あるのではないかと思えるほどに巨大だ。
男が言ったように、この怪物の名は星喰い。惑星に住む生物を惑星ごと喰らう事からその名が付けられた。何より恐ろしいのがこれでもまだ幼体という事だ。
「俺を喰いたいのか? てめぇじゃ無理だ」
「ゴアァァァアアアアッ!!!
「聞く気無しと。畜生に言葉が通じるなんて考えちゃいないが、悲しいな。小さな命を摘み取るってのは。そこの坊主もそう思わないか?」
「嘘だろ…………違う次元から視ていたのに気が付くのか」
「この程度は鍛えれば誰にでも可能だ」
「いや無理だろ」
空間の狭間から姿を現した赤髪の青年に男はそれが当然と言わんばかりに接する。その間にも星喰いはジリジリと距離を詰めてくる。圧倒的巨体の前には男などミジンコのようなものなのに、本能が男を危険と判断しているのかもしれない。
完全に間合いに入った瞬間に星喰いは2人へと喰らいかかったが、刹那の瞬間にその姿を消し去った。青年はその仮定をはっきりと目にした。男が腕を振るうと星喰いの肉体は砕け散り、更に空間が歪んで肉片を飲み込んでいったのだ。これらが全て何の術も使わないで起こした結果である。
「これが、一条要…………」
「なんだ、俺を知っていてわざわざ会いに来たのか。握手会やサイン会はしていないぞ」
「そんな事をするために来たんじゃない。手合わせしに来たんだ」
「物好きな坊主だ。名前は?」
「星嵐優斗だ」
「なら優斗。喧嘩は考えて売れ。若いもんに死に急がれると俺も胃が痛い」
「遠慮は…………」
青年の、優斗の姿が消え去る。特殊な能力ではない。ただ異常なまでに速く動いたのだ。
「いらね「はいはい」」
ーードゴォッ
だが相手が限りなく悪い。優斗は残像すら残らないほど超高速で背後に回ったというのに、それ以上に速く、されど羽虫を振り払うかのような裏拳が顔面に突き刺さり吹き飛ばされる。
「ぐっ、ちくしょう!!」
「思ったより頑丈だな。称賛に値するぞ」
「調子に乗るな! インフェルノ・サンフレア!!」
優斗の術により、要は焔に包まれる。要を中心に大地すらも一瞬蒸発させるほどの業火であったものの、焔が消えた後から要が悠々と歩いてくる。服すら焦げていないのを見るに何かしらの方法で防御をしたようだ。
「次は俺だな。シールドスライサー」
「! バリオン・レイ!!」
優斗を囲むように高速回転する円盤が出現したが、それらを優斗は指先からレーザーを出して撃ち落とす。その様子を要は眺めているだけで攻めようとはしない。
「…………おい、なんで追撃しないんだ?」
「品定めだよ。はぁ、その程度じゃ本当に弱い者イジメになるから帰ってくれないか?」
「…………ギリッ」
「悔しがるは自由だが、もっと鍛えてから」
「『神々の皇帝(ゴッドエンペラー)』」
「コフッ……!?」
完全に戦意を無くしていた要の腹に優斗の拳が突き刺さる。これまでとは比べ物にならない速度と威力の一撃に要の腹に大きな穴が空く。だが倒れる事なく一瞬にして傷を治してしまう。
「なんだ……思ったよりやるじゃねぇか 。内臓がいくつか逝ったぞ」
「これでやる気は出たか!」
「しゃーねぇな。これだけ出来るなら最初からやれよ。完全武装・ORT」
要の姿が青白い水晶のようなものに包まれる。その威圧感は先程までの比ではない。
「アトミック・ウェーブッ!!!」
先手を取ったのは優斗だ。手から衝撃波が放たれ、その衝撃波は立ち塞がるもの全てを消失させながら進む。それを要は手刀だけで掻き消した。
その隙、いや隙とは言えないような瞬間に優斗は接近し、無数の打撃を叩き込む。一発一発が要が星喰いを消失させたような攻撃だが、何でもないかのように要はそれらを受け流していく。
「時間だ」
「んなっ!?」
優斗の全身からコキャッと骨が動く音がすると優斗は動けなくなった。
抜骨。相手の関節を外し機能停止に追いやる要が最も得意とする非殺傷武術だ。攻撃を受け流しながら優斗の関節を外していったのだ。
「スピード、パワー、共に申し分ない。だが経験が浅いな。どう引っくり返っても勝ち目のない強者との戦いをやった事が皆無とみた。大層な力を持ち合わせていても、自分以下の奴らと戦っているようじゃ強くなれんぞ」
「説教はごめんだ」
「ほう、立てるのか。全身の関節を外したから動けないはずだったんだが、治癒系統では治せないし時間操作でもしたか。まあ確かに説教は俺の分野じゃないからな。体で教えてやろう」
「こっちもその方が有難い。ハァァァァ……………………フッ!!」
「おっ、まだ速くなるか」
より速く、強くなった攻撃は要の装甲を削っていくが致命傷にはならない。だが速さに限れば今だけは優斗が優勢だ。
「アルティメット・スライサー!!」
「いい切れ味だ。だが腕が落ちる程度日常茶飯事なんでな」
三本指の手刀で要の腕が切り落とされるが、即座に再生をして要は防御に徹する。世界が崩壊を始めるほどの猛攻だが、今だ終わる気配はない。要が敗北を認めるまで続くのだろう。
「切り刻んでしてやる!」
「! ここでスタイルを変えたか」
短剣、長剣、刀、大剣、多彩な刃物を使って多彩な攻撃を繰り出していく。優斗の宣言通り要の肉体はどんどんと切り刻まれていく。だが要の前に世界が耐えるに至らなかった。
斬撃で世界が裂け、綻んで崩壊していく。最早世界が無に返るのは確定してしまった。それでもなお2人は止まらない。
「そうやって手を変え品を変えってのは実にいいぞ。相手の予想外の事をするのは隙を作るのに最も適した行動だ。こんな感じにな!!」
「ッッ…………?!」
優斗の剣が要の造り出した水晶の剣で受け止められる。肉弾戦に特化したチートという話だったのに、剣を使うという想定外の行動に一瞬だが優斗の思考が停止した。
その隙がこの戦いにおいてどれほど大きなものかは言うまでもない。要の腹から飛び出したORTの脚が優斗の胸を貫き宙吊りにした。
「終わりだな。これから努力を怠らなけりゃ」
ーーズズンッ
要が言葉を言い切る前にORTの脚が切り落とされた。優斗は胸に突き刺さったままの脚を引き抜くと再び剣を構える。呼吸も荒く、意識もはっきりとしていない。だが戦意は今だ十全。それを見た要は少し懐かしそうな顔をして構えた。
「馬鹿だよなぁ。再戦の機会なんていくらでもあるのによ。だがまあ気持ちは痛いほど分かる。今やらなきゃ意味がねぇんだよな」
「ウオォォォォオオオオオオオオッッッ!!!」
「水晶融合・ORT」
再び要が姿を変える。言うなれば人のような蜘蛛。それが人だったなどと思えないフォルム。そして居るだけで世界に異常をきたすほどの力。
しかし今の優斗にそんなものは関係ない。ただ貪欲に勝利を求めるだけ。傷を負っているとは思えないほどの動きで要を一刀両断しようとする。だが要の速さはそれ以上だった。
「じゃあな」
要は走った。優斗の横を通り過ぎるかのように。戦闘技能でもないそれだけの行動。それだけの行動がもたらした結果は…………優斗を巻き込んだ周辺世界の消失であった。
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「うぅ…………」
「起きたか? あの状態から再生したのには流石に驚いたぞ」
声をかけられても優斗が反応する気配はない。まだ頭が追い付いていないのだろう。暫くポケーッとしたのち、ハッとしたように距離を離した。
「そうビビんな」
「……負けたんだな」
「ああ、お前の完敗だ。また来いよ。間違って並行世界の俺のところに行ったらこんな戦いは出来んからな」
「分かったよ。くっそー、悔しいな。最後まで余裕が崩せなかったか」
「若いもんに負けてやれるほど俺も優しくねぇさ。次はビーストモードを使わせてくれよ。んじゃ、妻達が待ってるからもう行くぞ。アリストテレス、転移だ」
《了解しました、主》
要が姿を消し、優斗はただただ今回の戦いを思い返し続けるのであった。
久しぶりに活躍してもらいました前作要です。彼の成長はいつになっても終わりません。優斗君は彼を超える事が出来ると思いますがね。