また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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競走馬編-ただ君に報いたくて【朝日杯】
【Ep.7】再会!


新馬戦勝利!やったぜやったぜ。

 

『やりましたねクロさん!』

『おうおうやってやった!』

 

ハッハッハッ、これで敵無し!道中で()()()()苦戦したけど、まーどいつもこいつも話にならなかったわ。この調子なら2歳王者*1どころか無敗三冠も楽勝だろ!ガハハ、温泉入ってくる。

 

 

……はぁ。

 

 

『終わった……』

『急に落ち込んだ!?』

 

いやだってさぁスペよ。空元気で頑張って来たけど、先が思いやられるのよ。さっき言ってた言葉全部に(震え声)って付けたら1番分かり易いわ。

先行策が本当に大変だべや、よく皆我慢出来るな?それで頑張ってはみたものの、フレア君相手に負けかけたし。新馬戦でこのザマなのに、グラスと対面?重賞?

 

『もうダメだ…おしまいだ……』

『ま、まぁそれを言うなら僕だって同じですし。一緒に頑張りましょう!』

『うるせぇ一緒にすんなダービー馬が!!』

『理不尽ですッ!?』

 

 

 

『……で、ダービーって何ですか?』

『あっ』

 

 

 

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\__ <荼毘

<       

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「芳しくないですね、クロ」

「2、3頭程度の併せ馬やったら先行ペースをそつなくこなしてくれるんやがなぁ。8頭を超えた辺りで、馬群に入るのが苦手になるっぽいですな」

「なまじ頭がいい分、周囲の状況を把握しようとして頭がパンクしてしまうのかも知れません。それで半パニック状態になるのかも」

「それなら、先頭に立って馬群を後ろに置きたがるのも、後方に下がって前しか見たがらなくなるのも納得いくなぁ。しかし慣れさせようにも、そんな大規模な併せ馬は容易に用意出来ひん」

「そこは、クロが判断を任せてくれるように私がより信頼関係を築くしか無いですね。クロ自身も先行策に徹する意図は分かってくれているようですし、朝日3歳杯までには間に合わせます」

「頼むわ。もっと酷くなるようやったらメンコとかシャドーロールも付けるけど、後は宮崎が変な口出しをして来なければ……」

 

「……提案なんですが」

「なんですか、奥分騎手」

 

 

「過去にクロスクロウは、グラスワンダーとの併走時に良いタイムを出したんですよね?」

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

目ん玉ギラギラ出走だよ!全員集合!!

 

『ガンバルゾ』

「あぁ問題無いさ。行くよ、クロス」

『りょうかーい』

「今日は久しぶりに()()と会えるからな」

 

不安はあるけど、悔やんでる暇はないので再出走です。腐っても俺ァ1勝馬なんだ、レースなんか怖かねぇ!野郎ぶっコロs…そんな相手いないな……ぶっ生きてやる!!

……ん?友達??

 

 ざわ…

 

           ざわ…

 

っとと、そうだパドック入りだ。この馬生で2回目のパドック入りで前回は特に変な事は無かったけど、今の内にライバルの出来とか確認しとかないと。

しかし割りかし人が多いな。アイビーステークスとは聞いてたしOPらしいけど、こうなると否応なく緊張感が高まってくる。

 

えぇと、俺の枠番が……

 

 

ポコッ

 

『んにゃ?』

「おっと…?」

 

頭にちょっとした感触、そしてそのままポトリと落ちる何か。目を落とせば、そこにあったのはニンジンの玩具。

飛んできた方向に目を向ければ、手を振り抜いた幼児とそれを抱き上げて顔を真っ青にしてる親の姿が……あーなるほどね、完全に理解したわ。

 

「あちゃー、これは…ってクロス、待て!」

 

ダイジョーブ奥分さん、流石に食わんて。そう鳴き声で返しながら、ニンジン玩具を咥えて子供の方へ歩み寄った。近付いてくる巨体に親の顔が蒼白通り越して真っ白になってる。なになに、君もしかしてアグネスタキオンのモルモットだったりするの?

 

「ああああすみません、もうさせませんから…!」

「だー」

「ちょ、静かに…」

 

分かってるってば。そうら、ポイッとな。

ちゃんと持って帰りなよ?

 

「え……」

「…ほう」

「あぅー」

 

ニンジンを放り投げて、子供の懐にシュゥゥウウウーーッ!!超ッ!エキサイティンッッ!!!

馬はニンジン好きだけど、あげるタイミングとかには気を付けような坊主!それじゃ、また!

 

「……凄いなぁ、お前」

ブルルブフゥー(でしょでしょー)ッ」

 

心優しい俺をもっと褒めてくれたって良いんだぜ奥分さん?ほら、3!2!1!ハイ!!

 

 

『相変わらず優しいんデスね、クロ』

『そうだろー?

 

……え?』

 

 

聴き慣れていた声。その声に追いつきたくて、頑張って来た。そんな声。

前よりも遥かに流暢になった、綺麗な声。

 

『変わってないようデ安心しました。キユウ(杞憂)…でしたっけ?』

『……俺の後ろにいるお馬さん。もしやアンタは』

 

まさか。友達って、まさか。

 

堪え切れず振り向いて、見えたのは眩い栗毛。

 

『久し振りデス、クロ。いや、クロスクロウ』

『グラス…!?』

 

グラスワンダー。

最後に見た時とは桁違いの存在感を纏った親友が、そこに。

 

『とりあえず、話すのは後にしましょうか。後ろがつっかえてしまいマスので』

『お、あ、そそそそうだな』

 

やっべ、とんでもなく動揺してるわ俺。心臓バクバクですわ!レースといえばコレですわ!これだけあれば勝ちですわ!!

って何やってんだ、深呼吸深呼吸。

 

「アハハ、こりゃ不味かったかな。興奮させてごめんね、クロス」

『いやぁ、此方こそサーセン。頑張ります』

「良かった、落ち着いたみたいで何よりだ。流石だね」

 

うーん、通じているようで通じてないこのすれ違い感!こういう時、自分が馬になったんだって一番感じられますねぇ。

……そんな風にお茶らけてはみるものの。背後に控える友人からの視線は、とてもじゃないが忘れられなかった。

 

 

───

 

 

で、本馬場。

 

『改めてこんにちは、クロ』

『元気そうで何よりだよ、グラス』

 

芝の上で、改めて向かい合う。数ヶ月ぶりに対面した馬体は、やや小振りながらも雄々しく逞しい。

あぁ、強い訳だ。そんじょそこらの馬じゃ敵う訳が無い、それだけの濃密なトレーニングをモノにしてきてる。一目で分かる。

 

『何年でも待つツモリでしたが…こんなに早く来てくれるなんて。やっぱりクロはクロ、という事でしたカ』

『どういう意味だよ、そんな俺せっかちだったか?』

『ほめ言葉ですよ。……ええ、良かった』

 

そう言って微笑むグラスだけど、俺の方は内心ガクブルだ。これがマル外、これが将来のGⅠ馬の貫禄なのか…!

 

……でも、同時に。

 

『俺も、嬉しくて仕方が無ぇよ』

 

アレから、へこたれずに強くなってくれた事。

強くなって、ここまで来てくれた事。

強くなって……

 

『約束通り、俺の敵になってくれたのが…!』

『……ええ。ええ!!そしてそれは、アナタこそ…!』

 

グラスの微笑みが、獰猛な視線に切り替わる。それはきっと俺も同じだったのだろう、両者の鞍上の雰囲気が変わった。

 

「……これは。良いですね、あの大人しいグラスにスイッチが入りましたよ」

「あちゃあ、そっちの方もですか窓葉さん。あわよくばクロスだけ目覚めて欲しかったんだけど」

「奥分さん、それは都合良すぎますよ。でも今回のレース、お互いに得る物は多い筈です」

「もちろん、そうでなくては…なぁ、クロス」

『当たり前でさぁ!』

 

顔を振るって武者震い。よっしゃあ、気合入って来たァ!

 

『さぁ、始めましょうかクロ。ボク達の真剣勝負を』

『望むところ!』

 

 

 

『ところでだけど、あのクセ治った?ホラ、夜寝る時に俺の声聞いてないと…』

『クロ?』

『ハイ』

*1
この時代、基本的に馬は数え年なので、今のクロは3歳である。


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