制御出来ずにこの有様(前話)だよ!!
あと先に言っておきますが、エアジハードファン及びその騎手のファンの皆様、すみまそん
そして、メタンモさん(ID:210621)が拙作の三次創作を書いて下さいました!!
ディープ&プイ主人公のアニメ5期、その第一話。クオリティはスタークが保証します、是非読んで頂ければと
【Ep.71】安田!
美しい馬だな、と思った。
顔もそうだけど、身体つき。引き締まった筋肉、背から腰に至るまでの曲線、脚運びの確かさ。思わずため息をついて見惚れるほどで、あぁ~スリスリしてぇ~……。
『何ですか?ボクの体に何か付いてます?』
『ごめんごめん。良い鍛え方してるからスリスリしたいなぁと』
『……申し訳ありませんが。もしされるなら彼にされたいと、そう決めている相手がいるので』
『それは…失敬した』
うーん、ついつい正気を失って粗相を働いたらしい。いつもの悪癖だ、気を引き締め直さねば*1。いやしかし、これ程の相手と言えば思い出されるのは
で、それと同じとなると、つまり即ち相当半端ない実力の持ち主であるという可能性が高い訳で。
いよいよ以て気張らなければ二の舞だ、と僕は思い、そのレースに臨んだのだった。
え?結果?
勝ったよ。人間たちが
本当に危なかった、ジーマーで危なかった。後ろから異常な速さで飛んでくるんだもん、肝が冷えたとかそういうレベル飛び越えてたよ。
でも、
『——くっ…』
『今だぁ!!』
『!』
抜かされた瞬間、精神の綻びを見つけたから。その隙を突いてなんとか差し返す事に成功したんだ。
厳しい勝負だった……のは間違いないんだけど、同時に拍子抜けでもあって。
『何かあったの?大丈夫?』
だって、レース前はあんな見え見えの隙を晒すような相手には見えなかったから
レース後に、思わず聞きに行ってしまう程度には引っかかっていた。何かアクシデントがあったのなら、その方が納得いく。
『……いえ。言い訳のしようの無い
『そうなの?』
『そうです』
『そうかぁ……』
でもそう言われては仕方がない。実際嘘ついてる様子も無いし、僕が見誤っただけなんだろう。多分。
と考えて、その日の僕はすぐに勝利への満足感へと切り替えてルンルンで帰ったんだった。じっと僕へと注がれる、彼の視線なんかもう気にも留めてなかった。
それから、
妙に記憶の隅に引っかかっていた彼の記憶も薄くなっていた時分で、連れて行かれた大きなレース。
そこで、彼とまた出会う。
『こんにちは、エアジハードさん』
『え?……ああ、前の時の!ごめん、名前聞くの忘れてたから教えてくれない?』
『……グラスワンダーです。今日は
うーわ、早速失礼しちまった。ごめんね、言われた通りしっかり覚えるから。
『相変わらず良い体してるね。スリスリして良い?』
『またですか……ああ、そうだ』
『うん。何何?』
何か思いついたように、グラスワンダー君は少しだけ逡巡して。そして。
『スリスリ出来ると分かってたら、ジハード君はどうしますか?』
『やる気が出るけど』
『…じゃあ、ボクに勝ったらお好きなように』
『へえ?』
言ったね?言ったよね?ちゃんと聞いたぞ?
『よっしゃ―頑張るぞー!』
『勝ったら、ですからね。そこをお忘れなきよう』
『分かってるって!二連勝してやるから!!』
『……』
そうだ、前にも勝ってるんだ。同じようにすれば大丈夫、あれからさらに鍛えたんだし!
そうやってフンスフンスと息を込めて息を荒げる僕。そんな折に、新たな来訪者が。
『……聞き間違いだったら申し訳ないんだが』
『うわっ誰?』
『ああすまない、キングヘイローだ。グラス、今どんな約束をしたんだ?』
『ボクに勝ったら、ボクの身体を好きにして良いと言ったんですよ。キング君』
『!?!!?!??!?』
キングヘイローと名乗った、どうやらグラスワンダー君と知り合いらしい彼は途端に目を白黒させるや否や。意を決したように、僕の耳元へ口を近づけてこう告げる。
『エアジハードとやら……お前、相当覚悟した方が良いぞ』
『えっ何を』
『何でもだ』
それを境に、キングヘイロー君もまたダンマリ。グラス君はニッコリしたまま。
意味も分からないまま、僕達はいつも通りにゲートに入れられて──
思い知った。
『ぎゃっ───!?』
ゲートが開くまではいつも通りだったのに。直後、まるで全身を縛られたかのような窮屈さ。重圧……
というより、何だ!?本能に訴えかけるような、この、何?!?追われた事無いのに、肉食べる系の動物に袋小路へ追い込まれたような!!
『案の定だぁ……!』
あっキングヘイロー君!大丈夫か?すんごい顔になってるけど!
『お前も大概だろっ…だが、俺達は
『だろうねぇ!!』
チラリと後ろに視線、見えるのはゴチャゴチャになった他の馬達。心なしか動きが鈍くなって、そのまま団子になってしまってる。その所為で、先行策を取った筈なのに逃げみたいになっちゃった。
その、奥に。
青い、瞳が───
『ヒゥッ……!?』
『バカ見るn、って手遅れか…!』
見られてる!こっちを見てる!
彼が、僕の命を狙ってる!!怖い!!!
『ぐううううう!!!』
「ちょ、ジハード、待っ」*3
ニンゲンさん止めないでくれって!アンタと組んでまだ日は浅いけど、分かるだろ!?このままだと殺されちゃうっての!!
とっ、とにかく!とにかく前に出て、前に出て、それから……
『その調子です』
なんで。
『その調子で、走り続けて下さい』
どんなに頑張っても、離せない。
『あなたが限界を超えれば、超える程に』
その大口を、開けて。
『
うわぁぁぁぁぁっ!!!
その音は幻聴だった。
僕は食われもしなければ、肉を裂かれもしなかった。
……いや、それも正確には違う。
《グラスワンダー 、GⅠ2勝目!逆襲の牙、徹底的マークによって“聖戦”を制す!!》*4
歓声を一身に浴びて佇む、芸術のような肉体。見惚れて──恐怖した。
あの中に、怪物が。
『いい具合にハマった……の威圧を、もっと
『……』
『あの』
『グヒッ……!』
気づけば目の前に、端正な彼の顔。何も怖くない筈のそれを前に、臆した僕は変な声を漏らしてしまう。
違う。僕はこうなりたい訳じゃない。
『……感謝します。あなたのお陰で、ボクはボク自身の
『その、グラス君、僕は、』
『無理しないで。───
『何、を』
『改めて言います』
ダメだ。
それ以上言わせるな。
僕はまだ。
僕は、まだやれると言え!
『ぁ、あ…!』
………無理、だ。
『
去っていく。栗毛の背中が去っていく。追う気概すら無いまま、
『……クソッ!!!』
悔しい。悔しい悔しい悔しい!
なぜ油断した!なぜ慢心した!前の勝利一つで、なぜ彼の全てを測れたと思い上がった!?
分かってるよ、例え全力だとしても今日のグラスワンダー君には勝てなかったって!それでも、だからこそ悔いの無い走りをしたかった!負けるならその上で負けたかった!
その結果が“コレ”だ!彼は僕に対して、もう
(“また戦いたい”って、思わせられなかった……!)
あれ程の馬相手に、見限られたんだ。こんな屈辱があるか、二流の烙印があるか。
そうされるだけの態度だった自覚があるからこそ尚、腹立たしくて仕方がない。自分が憎くて仕方が無いんだ!!
『凹んでる暇は無いぞ』
『……キングヘイロー』
『ああキングだ。早く立て、後がつかえてる』
厳しいな。もうちょっとぐらい優しくしてくれないか、キツイんだよ心が。
『2着が4着に励まされてちゃ世話無いぞ。お前の下にはお前以上に悔しい思いしてる奴が山程いるんだ、俯いててもキリが無い』
『そんな事……!』
僕だって、僕こそが一番悔しいんだ!目の前で見せつけられた僕こそが!
この気持ちを上回るものなんて、あるもんか……!!
『だったら、向くのは上であるべきだろ』
『……あ』
『そうだろう、エアジハード。お前が追い付きたい背中は下にあるのか?』
……そっか。確かに、そうだ。
前を向かなきゃ、先を行く彼は見えない。上を見なきゃ、彼の登った頂は拝めない。
例えそこに、既に彼はいなくとも。立ち上がらなきゃ、その蹄跡を追う事だって出来やしない……!
『言ってみろ。お前はどうしたい』
『勝ちたい!』
今度は胸を張って言える。後悔も糧に出来る。
きっと前走で、彼もまたそうしたように。
『グラスワンダーを、見返して……
『───見てるか、クロ、エル。またグラスが追っ掛けを増やしたぞ』
うお〜っ!と気炎を上げるエアジハードを尻目に、キングは呟く。宛先は遥か彼方、海の向こうの戦友達。
『……俺も負けてられない、と言いたいけど。このままだとどうにもならないな、立ち回りをフクノベと考え直すべきか』
芯を曲げるつもりは無い、他ならないクロに讃えられたそこだけは。だが逆説的に言えば、他なら──とキングは苦慮を重ねる。その愚直さにこそ先があると信じて。
『だがしかし、だ。スペ、お前には後で伝えるけど』
そう言って見上げた掲示板。燦然と頂点に輝くグラスの番号を見て、思い出されるのは今日のレース模様。
キングは、恐怖に身震いした。もう時間は経ってるのに、未だに身体は忘れてくれなかった。
『怪物は顎門を開けて迫るぞ。お前は食われずにいられるか?』
安田記念【G1】 1999/6/13 | ||||
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着順 | 馬番 | 馬名 | タイム | 着差 |
1 | 7 | グラスワンダー | 1:32.9 | |
2 | 12 | エアジハード | 1:33.5 | 3 |
3 | 11 | シーキングザパール | 1:33.8 | 1.1/2 |
4 | 10 | キングヘイロー | 1:33.9 | クビ |
5 | 81 | ムータティール | 1:34.1 | 1 |
「マ・ド・バ!マ・ド・バ!!マ・ド・バ!!!」
《気の早いマドバコール、しかし未だに続きます!しかし凄絶なまでのマークで勝利しましたね……》
《アレをされたら堪ったモノじゃありません。しかしこれで、いよいよ》
《ええ、いよいよ次は宝塚!スペシャルウィークとの対戦が見えてきましたグラスワンダー!》
《クロスクロウとエルコンドルがいない今、日本の中距離最強馬を決する戦いとなります……目が離せませんよ!!》
『はーっくしょーい!ぶへぇ、誰か噂してるねこりゃ』
『そうなんですか?でもなんで噂とクシャミに関係が……』
『さぁ…クロの受け売りだからなぁ。それよりツルマルツヨシ君、えっと、ツル君で良い?早く走ろう、君強そうだし!』
『うん!胸を借りて、貸せるように頑張りますよ!!』
『言ったなー?よし、美味しくご飯食べる為にも頑張るぞ〜』
『そこで食い意地出すんですか!?』