また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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ウマ娘回です
例によって飛ばしても流れ的には問題無いです


【相談】親友のウマ娘を助けたい【姉達】

コポコポとフラスコが揺れる。色が変わった、ph(水素イオン指数)が適度になった合図。

すぐさま加熱停止、流れるような所作でフラスコを冷却器──とは言っても、密閉可能な箱の上部にドライアイスを投じた簡易な物だが──に納める。っと、2.5ccの炭酸水と塩12gを投じるのも忘れずに。これにて、過程条件は前例と同一となった。

後は、配合分量によってどの程度の差が出来るか。天命を待つのみといったところだ、が………

 

「……キャンディ。見てるの分かってるよ」

「えへぇ〜バレちった⭐︎」

 

テヘペロ、と研究机の向こうからヒョッコリ出て来た腐れ縁にため息を付いた。そこに、呆れ以外の色も混ぜ込んでしまっている自分にこそ呆れてしまう。

 

「マキちゃんは本当に、私の事すぐ見つけてくれるねぇ」

「もう何年の付き合いだと思ってるの」

「ん〜と……対面してから6年?」

「それと5ヶ月15日だよ」

「わぁ!そこまで数えてくれてるなんてロマンチック!!」

 

大仰に、でも本心から目をキラキラさせてそう言うスミ──オースミキャンディ。一緒に走れなかった私の同期、兼今の上司だ。

大隈製菓。それが、私達の城の名前。菓子類の製造、それもスポーツのお供となる類専門の製菓企業である。

決して大きい企業ではない、だがつい最近になって軌道に乗った。売り出したスポーツキャンディの味と効能が、URA現理事長こと秋川やよいに見染められ、URAと全国のトレセンという大口顧客を手に入れたのだ。

 

「ねぇねぇねぇ、進捗どう?どう?どう?」

「急かす上司はブラックなんだよ?」

「そんな事言わずにさぁ、分かってるでしょ」

「はいはい」

 

そんな会社の社員、もっと言うと研究員である私が取り出したフラスコ。今しがた冷却中のとは別の、その中に入っている液体をスポイトにとり、渡す。

それをキャンディは……舐めた。

 

「しょっぱい!酸っぱい!ほんのり甘い!」

 

それで出た感想が、これ。

 

「デキストリン・クエン酸・ブドウ糖などの各要素はちゃんと入ってる。それは第一候補、今作ってるのが第二候補」

「ふぅん、でもこれなら充分だと思うよ」

「でも……」

「大丈夫!ここから先は私の仕事だもの、キャンディ頑張っちゃうよ!」

 

そんな笑顔に押されては、こっちだって釣られて破顔するしか無い。本当に、狡い。

キャンディが考案したお菓子とその用途、それを受けた私が最適な栄養素構成を提言。キャンディがそれを基に、味に絶妙な調整を加えて完成させる。後は製造工程を確保して販売、そういう一連の流れ。

 

「やっぱりマキちゃんがいたら百人力だね〜」

 

そう言って試作品をペロペロ舐める彼女は、私と組んだ先の成功を最初から見据えていたみたいだ。私は当初、ここまで来れるなんて微塵も思ってなかったのに。

 

「……キャンディがいなかったら、何も始まらなかったよ」

「え?それを言ったら、マキちゃんがいないと私も無いじゃん」

「でも……!」

 

私じゃなくても良かったんじゃないかとか、車椅子が必須な私の介護で負担かけてばっかりとか。そんな言葉が口の中をクルクル回って、まろび出そうになったその時。

メッ、と。唇に人差し指が当てられた。彼女の笑顔が、目前にあった。

あの皐月賞の夜と、全く同じ構図。

 

 

かつて私とキャンディは、中央トレセンに意気揚々と入学した青臭い小娘だった。大きいレース、G1を勝つんだって。同じチームに入って仲良くなった私達は、そんな夢を語り合った。今思い返しても、輝かしい日々だった。

でも、あの皐月賞。競技生命が終わったあの日、絶望のドン底に突き落とされた私。

そんな私の希望に、彼女がなってくれたその瞬間。

 

 

「『諦めないから見てて』……って、言ったね」

「……覚えてるよ。忘れられる訳が無い」

 

2回の新馬戦。1回目、親友が負ける姿に今度こそ私は心が折れかけて、でも泥まみれのキャンディの姿を見てそんな悲嘆を吹き飛ばされた。

爛々と輝く、希望色の瞳。それに魅せつけられて、2回目へと惹き寄せられた私は……その光が今度こそ先頭でゴール板を割った光景に、確と虜にされたのだった。あの景色が、私の原風景となった瞬間だ。

 

「あの時、私が頑張れたのはマキのお陰なんだよ。自分のやり方で、皆と違う初めてのアプローチで、必死でGⅠを目指してたマキの姿。それを見てたから、私も頑張ろうって思えたんだ」

 

私を抱きしめながら、彼女はそう言う。私もあの光の一助になれたんだと肯定してくれる。

嗚呼──嬉しい。

 

「そこまで言われちゃ……甘えずにはいられないよ」

「ドンとこい!こちとら姉歴12年ぞ〜」

「この包容力はそれじゃ説明不十分だよ。この魔性さんめ」

「褒め言葉さんきゅー」

 

はにかみ合うこの瞬間が尊く、でももどかしい。向こうもきっとそう思ってて、だから息が混ざる距離まで唇が近付いて……

 

 

……ん?

 

「なんか忘れてない?」

 

ふと目に入った壁掛け時計とテレビに、何か記憶が引っかかった。このままキャンディとお互いを貪り合いたかったけれど、なんかそれどころじゃないと記憶の片隅が叫んでる。

 

「えぇ〜、良いところだったのn……あっ」

 

そんな中、不満げながらもキャンディの方は何か思い出したらしく。

こう言った。

 

「スペぼんとセイ君が出る番組、何時だっけ」

「あっ」

 

期待の新入生世代。世間が呼ぶには“黄金世代”、その特集番組。私達の可愛い可愛い妹分達が映る筈の、そのテレビ。

脳内で番組表を検索。

結果、始まった時刻から2分超過。

 

「やっばー!?!!?」

「リモコン!リモコンどこだっけ!?」

「いやこの距離だったら本体起動した方が早い!!」

 

急いで電源オン。映ったのは、始まったばかりである事を告げるオープニング映像とお得意様であるトレセン学園、そして秋川理事長。

次いで、そこにスカイとスペちゃんの姿を認めて、私達はひとまずの安堵を得たのだった。

 

 

「んん〜良い笑顔!スペぼん良いぞーそのまま日本全国民をファンにしちまえ〜!!」

「うへへ……スカイのショタみキュンキュンくる…自制心壊れちゃう………」

「私、マキちゃんのこと大好きだけどその癖は不味いと思うなぁ」

「でもキャンディだって、スペちゃんが日本で一番可愛いと思ってるでしょ?」

「そりゃそうよ。ウチのスペぼんが日本も世界も席巻して三冠獲りますので」

「え?三冠はスカイのだよ?」

「ん?」

「あれ?」

 

「……小1時間話し合おっか」

「それが望ましそうだね」

 

 


 

 

【相談】親友のウマ娘を助けたい【Part.4】

 

1:セイちゃんでーす◆trlCK2ri4

えーっと、衝撃的過ぎて今からでも叫びたいレベルなんですが

マキノ(ねえ)とキャンディさんがどちらも事故で亡くなってるってマジですか!?

 

2:名無しの転生者

マジマジ

マキノプリテンダーは皐月賞で故障、オースミキャンディは引退後に故郷の牧場で火事にやられた

 

3:名無しの転生者

俺氏、1996の皐月賞現地目撃者

向正面での転倒は未だに記憶から消えんなぁ

 

4:名無しの転生者

オースミキャンディの件はシラオキ系の血統とそれを重視する人々にとっては大ダメージやったからな

だからこそ、馬世界の歴史をある程度なぞるウマ娘(そっち)世界で、その二人が存命である事に皆おったまげた訳だ。もちろん喜ばしい事だが

 

5:セイちゃんでーす◆trlCK2ri4

ええ……マキノ(ねえ)がそんな……キャンディさんまで、嘘だろ

確かにあの皐月賞はショックだったけどさぁ……ああでもそっか、クソッ納得いっちゃった……!

 

6:名無しの転生者

ん?事故自体はあったのか

嫌な記憶を掘り起こすようで本当に申し訳無いけど

 

7:セイちゃんでーす◆trlCK2ri4

>>6

ええありましたよ、バッチリこの目で見たぐらいですよ

でもあの時は、バ道でマキノ姉を送り出してたキャンディさんがそのまま飛び出して、応急処置してくれたんです。それでマキノ姉は後遺症を負いながらも一命を取り留めたんですが……ああそっか、彼女がいなかったんならそりゃ助かりませんよねぇ……!!

 

8:名無しの転生者

>>7

>故障した仲間にレース中にも関わらず乱入して助けに行く

これは紛れもなくスペちゃんと同じ血が通ってますわ

 

9:名無しの転生者

あの妹にしてあの姉あり、ってか

“俺たちの知るオースミキャンディ”のウマ娘で間違い無さそうやな。いやまぁ世界線がそもそも違うが

 

10:名無しの転生者

お前らそれより先にスカイの方心配せぇや

目に見えて動揺しとるぞ

 

11:名無しの転生者

スマン

 

12:セイちゃんでーす◆trlCK2ri4

嗚呼いえお気遣いなく、オレが勝手にムシャクシャしてるだけなんで!すぐ治まりますっ

 

……ふー。ハイ、いつものセイちゃんでーす

 

13:名無しの転生者

無理すんなし。二週目とはいえ学生の身なんだ、休みたい時はそう言ってくれな

 

14:名無しの転生者

けどこれは朗報だぞ。元の世界を知らないウマ娘だけでも、多少運命を変えられる実例が確認できた!

クロスクロウ救済の良い前例に出来るぞ!!

 

15:セイちゃんでーす◆trlCK2ri4

そ、そうか!なんなら探せばもっと似たようなケースもあるかも知れません

差し支えなければ、そちらの世界で不幸な運命を辿ってしまった馬を教えてくれませんか!?

 

16:名無しの転生者

ゴフッ(罪悪感で吐血)

 

17:セイちゃんでーす◆trlCK2ri4

>>16

!?!!?

 

18:名無しの転生者

ぐぐぐ……いやスマン、なんでも無し

俺達のエゴの問題ゆえ

 

19:名無しの転生者

うnまぁ……そういう事例って基本俺たち人間が無理に走らせたり閉じ込めたりした結果が主だから

だからこそ開示を躊躇いはしない。が、さて誰の件から話す?

 

20:名無しの転生者

同時期にトレセン学園に所属してそうな馬、つーかウマ娘でススズ以外の不幸筆頭といったらまぁ

 

21:名無しの転生者

ライスシャワーって先輩いる?

 

22:セイちゃんでーす◆trlCK2ri4

いますいます、いらっしゃいます!

って、え!?あのヒトもそうなんですか……?

 

23:名無しの転生者

>>22

故障状況で言えばスズカより酷い

でもそうか、彼女も生きて……!

 

24:名無しの転生者

これ、思ったより希望的観測で言っても大丈夫系なのでは

事故ってもアフターケアでなんとかなるパターン……!

 

25:名無しの転生者

水を差すようで悪いけど落ち着いた方が良いと思う。どんな風に助かって、そしてその後どうなったかがまた分かってない

 

という訳でスカイ君。さっき“後遺症”って言ってたけど、差し支えなければ具体的にどうなっちゃったのか教えてくれないか?

 

26:名無しの転生者

あー確かに

オースミキャンディも「レースに乱入する」っていう無茶してるし、つまり彼女も巻き込まれる危険がある訳だしね

 

27:セイちゃんでーす◆trlCK2ri4

>>25

……脊椎損傷しました。半身不随で、マキノ姉は今も車椅子生活です

 

28:名無しの転生者

………

 

29:名無しの転生者

おぉぅふ……

 

30:名無しの転生者

いや普通にアカンやろこれ

楽観視は不可能や

 

31:名無しの転生者

ごめん……なんかいけるみたいな雰囲気から「死ぬ事以外かすり傷」とか思っちゃってた、ごめん

ウマ娘なのに走るどころか歩行も不可能になるのは流石になぁ

 

32:名無しの転生者

それにクロスの死因思い出せ、まだ推測の段階とは言え「心臓もしくはその近辺の重要内臓の破裂による即死」が最有力候補なんやぞ

もし同じ傷を負うとしたら、即死する相手をどうやってアフターケアで救うんや

 

33:名無しの転生者

ウマ娘になる事で運命にも多少のマイルド補正が掛かってる可能性を夢見たが

夢のまた夢だったかぁ……

 

34:セイちゃんでーす◆trlCK2ri4

ま、まぁ……マキノ姉さんは今幸せらしいですから、はい

仕事も上手くいってるそうですし、キャンディさんとの同棲も楽しいみたいですし、はい

 

35:名無しの転生者

それが何よりの救いではある、あるんだが

 

36:名無しの転生者

>>34

ん?同棲?

 

37:セイちゃんでーす◆trlCK2ri4

え?あ、はい

同棲ですが何か

 

38:名無しの転生者

百合の波動を感じる

ここで心を落ち着けよう

 

39:名無しの転生者

スゥゥゥゥゥゥゥゥウウウゥゥ

 

40:名無しの転生者

バカばっかり

 

41:セイちゃんでーす◆trlCK2ri4

たはは……あ、そうですそうです

ライス先輩の話が出たじゃないですか。彼女に関して、最近何か妙な事がありまして

 

42:名無しの転生者

何や言うてみい

俺達じゃいつも通り役立たずに終わるのが関の山やろうけど

 

43:セイちゃんでーす◆trlCK2ri4

あ、では遠慮なく

 

ラストアンサーってウマ娘、ご存じですか?

 

 

 


 

 

 

「コイツぁ……どういうこった」

 

オルフェノクとなった元トレーナーは肩を竦める。理解に難い状況を前に、他者へ共感を求めて。

 

「知るか。お前の方が詳しいだろう、こういう事には」

 

バルタンはそれを切り捨てた。その脳内に巡るのは知識、対面した現実への分析の一途。

 

「君達でもこの事案は対応しかねるのか」

 

彼らの後ろで眉を顰めたのは、かつて皇帝と呼ばれたウマ娘。現URA理事長、シンボリルドルフである。

 

ここはウマ娘世界。誤解の無いよう言っておくと、クロスクロウがいない世界の方。

オルフェノクが、人間を辞める前にトレーナーとして存在していた方の世界だ。

そんな世界で、三人がかりで囲まれるウマ娘。黒鹿毛を垂らす小柄な背中、耳に付けられた愛らしい青薔薇の髪飾り。だがこう見えて彼女も成人済み、歴とした大人である。

そんな彼女が何故、こんな状況に陥っているのか。

 

やがて、彼女は瞼を開いた。

右目を()()()紫色、左目を()()()()()焦土色に染めて。

 

 

「俺の名はラストアンサー」

 

 

彼女は、そう名乗る。

 

 

「ここは、どこだ」

 

 

ライスの身体で、そう名乗る。




マキノプリテンダーとオースミキャンディって誕生日が1日違いなんですよね。それを発見した瞬間にカプ厨脳が爆裂しました
ちなみにマキちゃんは東大出てます

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