現在登場している馬世界線は
①「クロスクロウがいない史実世界線(掲示板民が元いた世界)」
②「クロスクロウがいる世界線(現在の本編)」
そしてウマ娘世界線は
③「クロスクロウがいる世界線(現在ちょくちょくやってるウマ娘回。実質的に②の延長線上)」
❹「オルフェノ君がいた世界(前述の三つの世界線とはほぼ繋がり無し)」
の計4つがあります
で、前話では③にいたラストアンサーの精神が何かしらの要因で❹に流れ着いたという形です
ここまで把握していただければ幸いですが、馬編には関係ないので悪しからず
あとついでに、平時でオルフェノ君が常駐しバルタンと遭遇した世界❺(ウマ娘がおらず①と近似)もあったりしますが
書いてて自分でも意味わからんくなってきたなコレ
【Ep.81】原典
クロスクロウの大敗。そして著しい体調不良。
熱心なファン、ライトなファンを問わず、それは第三次競馬ブームに巻き込まれた日本を少なからず揺るがした。
「嘘だろ、そんなに芝が合わなかったのか……!?」
火付け役の一助を担ったブログ、その管理人も例外ではない。ニュースを垂れ流すテレビと書きかけの記事を前に、秋天で完全にクロスに
「なんでだ、イスパーン賞本番までずっと体調良好の報しか無かったのに。臼井厩舎の公式コメントからして不備は無かったと考えられて、だとしたら何がクロスに悪影響を及ぼしたんだ?」
当事者でないとはいえ、彼もまた競馬歴は長い。脳内にある豊富な知識、それを総動員で検索して該当しそうな情報を探す。そこで思い至ったのが、シンボリルドルフの海外戦のように馬場によって崩れた可能性……だが、ここで
(いや、それよりも心配なのは健康状態の方だ。怪我とかではなさそうだけど、もし屈腱炎とかだったら目も当てられない……彼の走りを、またこの目で見たいのに)
あのジャパンC、目が冴えるような追い込み、捲り、末脚。まるで夜明けの地平線、日の出の寸前に一直線に迸る光の如く。芦毛の白光が、彼の目を灼いた。
それが離れない、忘れられない。また目撃したいという願いが、クロスクロウへの心配を促していた。
そしてそれは、彼だけではなく。
\プルルルル/
「ん?」
電話。何だ誰だと受けてみると、聞こえてきたのは男の声。
「もしもし」
「あっ、ベンケイさんですか!お久しぶりです、下井です!」
「ああ、東京競馬場の!どうかされましたか」
伝説の日曜日、その舞台で偶然出会った同担仲間。自分のブログにも毎回コメントを残してくれる常連でもある彼が、どうしてこんな時に。
その答えは、本人からすぐさま示される。
「ええっと、大した事じゃないんです。仲間を募ってる企画があるんですけど、ベンケイさんも参加して貰えたらなと」
「企画?」
「臼井厩舎に、クロスクロウの快復を願って千羽鶴を贈ろうかなと。どうでしょうか」
それを聞いた瞬間、「是非」と彼は答えていた。
何も出来ない身故の歯痒さが、彼を突き動かしていた。
何かの応援が出来たらと、その一心だった。
良いな、良いな。
人間って良いな。
そう口ずさんで、おれの傍を子供たちが通り過ぎて行った。ピカピカのランドセル、パキパキした制服、汚れの無い黄色帽子。
「とーもーだーち、できるかなー」
気付けば、歌っていた。あの時のおれは、どんな気持ちでこの歌を知ったんだっけ。隣に座る子、良い子だったっけ?
夢?希望?あこがれ?そのどれもが、今通りすがったあの子達にはある。
おれには、無かったなぁ。
ランドセルはほつれてて、制服は汚れてて、黄色帽子に至っては無かったなぁ。
そして、その代わりに。
「なぁに、そのうた」
そうだ。コイツがいた。
きらいできらいで仕方ない、足手まとい。お前がいなきゃ、おれはもっと自由にいれたのに。母さんに好きでいてもらえたのに。
おれに無い物を全部持ってて、おれが貰えなかった物をこれから全部受け取れるお前。けっ飛ばしてやりたい。
「なんだったっけなぁ。名前は忘れちゃったけど、小学校ってところに入る時に習うお歌だよ」
「ふーん、どーでもいいやぁ」
(興味無いなら聞くなよ)
そう思ってすぐ、年下相手に、それも弟にムキになってる自分がたまらなく情けなくなる。ああ、バカだなぁおれ。
「にーちゃんにーちゃん、それよりあそこ!こーえん、いこ!」
「えっ、でももう時間が…」
「いーじゃん!!いこーよー、にーちゃんのばかー!!!」
ちょっと渋ったらすぐこれ。地面に寝転んでギャアギャア泣く、わめく、あばれる。ずかんで見たサルみたいで笑えて、でも笑えない。
ああもう、服が土だらけだ。くそっ、くそっ、くそっ!
「分かった、行こう!うん、あそぼっか!」
「ほんと!?」
「ほんとほんと!いーっぱいあそぼう!」
「やったー、にーちゃんだいすき!!」
抱きつくな。うっとうしい。お前がそうやって汚したシャツが、ズボンが、おれをどんな目にあわせるか分かってんのか。なにが弟だ、なにが大好きだ。
ああ、もう。日がしずむ。地面に消えていく。空が夜になっていく。門限を過ぎることが決まっちゃった。
この時間が大っきらいなんだ。家に帰る人、家を出る人、それで町に人が増えるこの時間が。
だってだって、皆、笑顔で。玄関に入ろうとする人は安心の笑みで、玄関から出る人は楽しみな顔で。
おれは、こわいのに。今だって、家に
「にーちゃん、はやく!のろま!!」
もう頼むからだまってほしい。しゃべらないでほしい。でもおれは、お前とずっといるしかないんだ。それしか無いんだ。
とちゅう、建物の合間から家が見えた。ボロアパート、その1階。
自転車。あった。
おかえり、母さん。
今日も間に合わなかったよ。
何の事は無い。俺は弟すら邪険に思う人でなしだった、それだけ。今思えば先が思いやられる糞餓鬼だし、実際成長しても碌な奴じゃなかったな。何だったんだろ、俺。
そりゃ可愛がられる訳が無い。誰かを愛せない奴が愛してもらえる訳が無い。望むだけの奴が恵んで貰える筈が無い。もし愛されてしまったら、恵まれてしまったら、それは最早“愛してるのに愛してもらえない本物の虐待児”に対する不義理だ。道理が通らない。
少なくとも、俺には「愛されないだけの理由」はあったからなぁ。わはは。
まぁ、あれだ。
皆、誰かに望むからこそ誰かを求める。
期待があってこそ、他者を欲する。
等価交換、ってのは確か前世で読んだ漫画だっけ。まさにそれで、俺はずっと実感してた。
配当に期待して企業に投資する。
繁栄を夢見て政治家に投票する。
見返りを望んで、他者に恩を売る。
愛してもらう為に、誰かを愛する。
人として当たり前の理屈だ。因果応報ってヤツだ。返ってくる物があるからこそ、人はそれに応じて、応じる為に動くんだ。
無償の愛なんか、存在しない。
俺が、そうだったから。
——いや、違うな。存在はする。さっき思ったことと矛盾するようだけど、俺は見てきたんだった。
子の成長を、それ自体は自身に何の得も齎さないそれを素直に喜ぶ親。
親の無事、見たことも無い仕事からの帰りをじっと待つ子。
同級の子供たちが、親と共に何も求めず笑い合う光景。
どうやら、俺が知らないだけで。
無償の愛とやらは存在する、らしい。
となると、俺はどうなのか。
そう思うと、心当たりはあった。さっきも思ったように糞餓鬼だったこと、それに尽きるんだ。
無償の愛は無限じゃない。愛想を尽かすってのはつまりそういう事だろう。俺は生まれた時から愛想を尽かされてた、そういう事なんだ。まぁ、仕方ないよなぁ。
結論を言うと、だ。俺に無償の愛は、やっぱり無かった。
少なくとも、俺に対しては。
無償で受けられないなら、有償しかない。価値を示す、愛し甲斐を示す、そういう
だってのに、その仕事に邪念を持ち込んでちゃ世話も無い。弟に当たっても何の意味も無いってのに、あの頃の俺ったらホント無様で惨めで見苦しっ!いやマジでキツイわ、過去に行って蹴り殺してぇ~!!
……とまぁ、そんな欲しがり欲張りな俺がマトモに育つ訳も無く。改めて思うと神様グッジョブだよ、俺が誰かを轢く前に轢いてくれてホントありがとうな。
やり直すチャンスをくれて、本当にありがとうな。
そして、ごめんなさい。
またダメでした。
そもそも、やり直したって、前世で受けた失望を埋め合わせれる訳じゃないし。結局俺は俺の自己満足で、俺の為に欠落を埋めようとしただけで終わった。
その結果、生にしがみついてフレア君を蹴落とした。
その結果、仮初の青春にかまけてオースミキャンディたちを見殺しにした。
どっちも、どっちも防げたはずだった。とくに後者は、歴史を知ってたのに。知ってる俺が動くべきだったのに、グラスの有馬記念に気を取られてみすみす機を逃した。それで、たくさんの命が消えた。
日高大洋牧場の事、あの時確かに思い出しかけていたのに。いっぱい死にました、元人間なのに何もしなかったクロスクロウの所為です。あーあ。
……こうやって、自己批判も流石に落ち着いてできるようになってきている。日本に帰ると聞いたときは絶望したもんだが、やっぱり故郷の空気に触れるってのは重要なんだなぁ。お陰で発狂もせずに自己分析できるよ、宮崎のおっさんには感謝しないと。
さて、しかしなんで今、前世を思い出してまで考え込んでたんだっけか。どうだったっけ、厩務員さんよ?
「クロ、どうした?もしかしてまた体調悪くなったのか?」
いや違うよ、心配かけてスマン。ところでアンタが今手に持ってるのは———ああ、そうか、思い出したわ。
「んー……とりあえず、
そう言って、俺の馬房の出入り口の引っ掛けられたのは、千羽鶴。
「お前の敗北と体調不良が報道された時、本当にいろんなものが送られてきてさぁ。お前、応援されてるんだぜ」
ああ。分かる。だって、読める。
鶴1羽1羽、裏側に書き込まれて織り込まれたメッセージ。ところどころ見えなくとも、断片から容易に解読は出来た。
“クロスクロ―がんばって”
幼子の拙い筆跡。
“復活を信じてます!”
丸みを帯びた女性の筆運び。
“次こそ勝って欲しい”
几帳面な人が書いたのだろう、まっすぐな想い。
“エルコンドルパサーにリベンジを!!”
乱雑ながら、筆圧が物語る願い。
“次こそ開け、凱旋門!!”
ああ。ああ!ああ……!
「コレみーんな、お前をに向けて送られてるんだぜ。スゲーよなぁ」
凄い。凄く凄い、凄まじい。
余りにも巨大な感情たちが、巨岩のように俺の退路を塞いでいた。
その全部が、超弩級の期待で。
「こっちはファンレターだな。日本全国からとんでもないんだ、これなんて沖縄から来てるんだぞ」
(期待に、応えなくちゃ)
逃げ道はもう無い。最早、走りたくないだなんて駄々は捏ねられない……否、最初からそんな選択肢は無かったんだ。
競走馬である以上、求められれば走るしか無いんだ。今までもそうだった、これからも。
それでも、と考えてしまう。
(まだ、誰かを引き換えにする覚悟が無い)
俺なんかの為に、誰かを危険に晒したくない。そんな理想論を捨てられなくて、余りにも情け無い。
スぺ達に引き合わせられなくてよかったと、改めて思う。こんなおんなじ所でウジウジと、ずぅっと堂々巡りして悩み続けるクッソ情けないザマをアイツらの前で晒してたら、自分が嫌いになり過ぎてそれこそ舌噛み切ってたかもしれん。ガッカリされるのはもう腹いっぱいなんだよ、勘弁してくれ。
(「日本は任せた」だなんて大見得切っといてさ。何も出来ないまま、どのツラ下げてまた会えって言うんだ)
けど現実問題として、もう帰国してしまっているんだよなぁ。ここから巻き返す方法も分からないし、本当に八方塞がり。詰みとは認めたくないが、どうすれば良いんだか。
あー……ほんと、ゴミ。優柔不断な俺も、俺を取り巻く状況も、何もかも。
『……!』
「お?どうした、ラスト」
『この匂い…そうか、彼が来ているのか』
まだ俺は知らない。
一つの“答え”が、それを持つ存在がすぐ近くに来ている事を。
その存在が、俺が今いる地点を遥か昔に通り過ぎてきた、
『クロスクロウ……また話したいと、思っていた所だ』
今まで幾度か通り過ぎた分岐点。今回来るのが、俺が俺の意思で選べる最後の一つである事を。
まだ、知らない。
そして、その時は近い。
Cがつyにち
きょうは、ママがぱちんこだから、にーちゃんとさんぽにいった。
ママがぱちんこのひは、にーちゃんがいろんなところに、いっしょにいってくれるからすき。ママがおみやげをくれるから、もっとすき。
きょーはお
かえったら、ママもかえってた。おみやげはほしかったオモチャで、やったー!でも、かえるのがおそかったから、おにーちゃんはごはんぬきだって。
ぼくのせい?って
あとは、にーちゃんがかってきたごはんをたべて、にっき。にーちゃんがおこづかいで、
にーちゃんはばかでのろまだけど、ぼくにやさしーからすき。おっきくなったら、ぼくもにーちゃんにやさしくしたいなー。
5話に渡ってグルグル同じ所を回らせ続け、やっと天秤が傾きました
0.5°くらい(誤差)